第3章 国民の防災活動の促進
1 災害被害を軽減する国民運動の推進
(1)国民運動の推進に関する基本方針
阪神・淡路大震災では6,000人を超える人が犠牲となったが,倒壊した家屋などから救助された35,000人のうち約8割の27,000人が家族や近所の人たちに救助されたといわれている。
災害に対する安全・安心を確保するためには,行政による災害対策を強化し「公助」を充実させていくことはもとより,国民一人一人や企業等が自ら取り組む「自助」や地域の人々や企業,団体が力を合わせて助け合う「共助」の果たす役割は極めて大きい。また,これらの連携が不可欠である。
このように,災害被害を軽減する国民運動の展開においては,国民一人一人の防災意識の向上,家庭や職場における備えの実践,更には地域コミュニティ等の防災力の向上という視点に着目して行うことが必要である。そして,家具や備品の固定,食料や水の備蓄といった災害対策のみならず,住宅・建築物の耐震化,ハザードマップの確認,企業の事業継続計画(BCP)の策定,防災ボランティアの活動環境の整備,商店街やNPO等の活動による防災に強いまちづくり等の具体的な行動の実践を,社会の各界各層に向け,これまで以上に広く呼びかけるとともに,新たな手法を開発していく必要がある。
政府においては,新たに国民運動の基本方針を立案し,当該方針の下で各界各層の防災に関する取組みを連携させて展開していくために,平成17年7月,中央防災会議に「災害被害を軽減する国民運動の推進に関する専門調査会」を設置し,各地域における先進的な取組みを参考にしながら議論を進め,平成18年4月21日第17回中央防災会議において「災害被害を軽減する国民運動の推進に関する基本方針」として決定された。この基本方針は,「安全・安心に価値を見いだし行動へ」をキャッチフレーズに序章及び5つの柱から成っている。
今後の展開としては,個人や家庭,地域,企業,団体等において,家具や備品の固定,ガラスの飛散防止,建物の耐震診断と必要な補強,ハザードマップの確認,家族の安否の確認方法の共有といった災害による被害を減らすための具体的な行動に着手し,さらにそのような行動が日常的に行われるよう,この基本方針を基に,幅広い層が連携・参加し,また自らの身の回りの安全について考える機会となる取組みを推進する必要がある。
当該専門調査会終了後約2年を経過した平成21年,国民運動の現状を把握し,それを踏まえて今後における国民運動のあり方・具体的な方策について検討するため,有識者を中心とした「災害被害を軽減する国民運動に関する懇談会」を開催し,「災害被害を軽減する国民運動の今後の方向性について」をとりまとめた。内閣府では以後それに基づき,枠組みの活性化やコンテンツの充実など,国民運動の個別の課題について推進を図っている。
(2)防災の日,防災とボランティアの日
a 防災の日,防災週間
昭和35年6月17日の閣議了解により,政府,地方公共団体等防災関係諸機関をはじめ,広く国民が,台風,高潮,津波,地震等の災害についての認識を深めるとともに,これに対する心備えを準備するため,毎年9月1日を「防災の日」とした。また,昭和57年5月11日の閣議了解により,政府,地方公共団体等防災関係諸機関をはじめ,広く国民が,台風,豪雨,洪水,高潮,地震,津波等の災害についての認識を深めるとともに,これに対する備えを充実強化することにより,災害の未然防止と被害の軽減に資するため,改めてこの日を毎年「防災の日」とし,この日を含む1週間を「防災週間」として定めた。更に,昭和58年5月24日の中央防災会議で,「防災週間」の期間を毎年,8月30日から9月5日までとすることが決定された。
そして,毎年この期間を中心に,防災知識の普及のための講演会,展示会の開催,防災訓練の実施,防災功労者の表彰等の各種行事や広報活動等を実施している。
b 防災とボランティアの日,防災とボランティア週間
阪神・淡路大震災において,ボランティア活動が果たす役割の重要性があらためて認識されたことを踏まえ,平成7年12月15日の閣議了解で「防災とボランティアの日」(1月17日)及び「防災とボランティア週間」(1月15日〜21日)が創設され,この週間において,災害時におけるボランティア活動及び自主的な防災活動の普及のための講演会,講習会,展示会等の行事が,国,地方公共団体,関係団体等の緊密な協力のもと全国的に実施されている。
(3)防災功労者表彰
「防災の日」及び「防災週間」に合わせ,災害時における人命救助や被害の拡大防止等の防災活動の実施,平時における防災思想の普及又は防災体制の整備の面で貢献し,特にその功績が顕著であると認められる個人又は団体を対象として,内閣総理大臣表彰及び防災担当大臣表彰を行っている。
内閣総理大臣表彰は9月2日に4個人13団体を,防災担当大臣表彰は9月3日に7個人8団体を,それぞれ表彰した。
(4)国民運動の普及・啓発の取組み
a 一日前プロジェクト
内閣府では平成18年度より,被災から一定期間を経過した被災者や災害対応経験者の方々から「もし,災害の一日前にもどることができたら,あなたは何をしますか」をテーマに,〈1〉被災直後の行動,〈2〉体験を通じて上手くいったと思うこと,失敗したと思うこと,〈3〉もう一度災害が発生したならば,次はどのように行動したいか,〈4〉そのために日頃から何を準備しておけばよかったか,といった本音の話を聞き取り,これらの話から導き出されるさまざまな教訓や身につまされる体験をショートストーリー(エピソード)に取りまとめている。
このプロジェクトは,町や学校の回覧板や会社の社内報等にコラムとして活用してもらい,多くの方に読んでいただき防災について考えてもらうことを第1の目的としているが,報告書には「一日前プロジェクト」を実施するための手引きを掲載している。今後「読み手」から「作り手」へと変化し,全国各地に「一日前プロジェクト」が広がり,根付いていくことを期待している。これらのエピソードは,「災害被害を軽減する国民運動のホームページ」から見ることができる。
b みんなで減災
内閣府では,PTA,公民館,図書館等における社会人向け防災教育教材として「みんなで減災」を作成した。「あなたにもできる減災!」をテーマに災害による被害を少なくするための取組〜今すぐできる7つの備え〜を紹介している。(「7つの備え」は以下のとおり。)
1.地震への備え
2.津波への備え
3.風水害への備え
4.火山災害への備え
5.雪害への備え
6.自宅で備える
7.地域で備える
都道府県や市町村の防災部局や全国公民館連合会等の協力を受け,配付した。「みんなで減災」は,「災害被害を軽減する国民運動のホームページ」からも見ることができる。
c 「防災隣組」育成促進モデル事業の実施
「街」が直面する様々なリスクに対し,商店街などの地域における企業や地域コミュニティが,「共助」という理念の下に有志が集まり,知見を出し合い実践的な活動を展開する「防災隣組」活動を全国の駅前や商店街,業務街区に広げるためにモデル地区を選定し,ワークショップなどを実施するモデル事業を実施した。その事例は,「災害被害を軽減する国民運動のホームページ」から見ることができる。
d 防災フェアの開催
内閣府では,防災週間における行事の一環として,昭和57年以来,全国各地において,自治体や防災推進協議会の協力を得て,「防災フェア」を実施している。平成21年度においては浜松市で「防災フェア2009 inはままつ」(内閣府・浜松市・防災推進協議会共催)を実施し,屋内外において,防災に関する各種展示や活動の紹介,実演に加え,地震体験車,自然災害体験車等,市民が体験しながら自らの身の回りの安全について考える機会となる行事を開催した。28年目となる平成21年度は,「今こそ,災害への関心を自助・共助の行動へとつなげよう!〜あなたの行動と地域のつながりで高める防災力〜」をテーマとし,国民一人ひとりが災害への備えを日々の生活の中で実践することを促すため,特に市民参加型・体験型のイベントを充実した。
e 防災ポスターコンクールの実施
防災に関するポスターデザインを広く一般から公募することにより,防災意識のより一層の高揚を図ることを目的として,第25回防災ポスターコンクール(内閣府・防災推進協議会共催)を実施し,全国から6,546点の応募があり,防災担当大臣賞,防災推進協議会会長賞を選出し表彰した。
f その他
関係各機関や地方公共団体においては,[1]各種催物,展示会の開催,[2]テレビ,ラジオ,新聞及び広報誌等による広報,[3]標語,図画の募集等を展開し,防災知識の普及と防災意識の高揚を図っている。
これ以外にも,「全国火災予防運動」(3月1日〜及び11月9日〜),「全国山火事予防運動」,「水防月間」(5月又は6月),「山地災害防止キャンペーン」(5月20日〜6月30日),「土砂災害防止月間」(6月),「がけ崩れ防災週間」(6月1日〜),「危険物安全週間」(6月第2週),「道路防災週間」(8月25日〜),「建築物防災週間」(3月1日〜及び8月30日〜),「救急医療週間」(9月9日を含む一週間),「雪崩防災週間」(12月1日〜),等においてシンポジウム,講演会,講習会等を実施し,防災知識の普及と防災意識の高揚を図っている。
(5)防災教育の推進
災害時に自ら適切な行動をとれるようにするためには,学校や地域における防災教育をより一層充実し,正しい防災知識をかん養していくことが重要である。
a 学校教育における取り組み
文部科学省においては,学校における防災教育の充実を図るため,安全学習や避難訓練の進め方に関する教師用参考資料や,児童生徒が地震等による自然災害に対して備え,適切な行動がとれるようにするための防災教育教材の作成・配布,教職員を対象とした防災教育の研修会の開催(独立行政法人教員研修センターで実施),また,大学,地方公共団体,学校などが連携した防災教育に関する取組みを推進・高度化するための防災教育支援事業や国と地方公共団体の共催による教育関係者,行政関係者,地域の防災リーダー等を対象とした防災教育推進フォーラムの開催(岩手県と静岡県で実施)などの施策を講じている。
b 防災教育チャレンジプランなどの取り組み
内閣府では,全国の地域や学校で防災教育を充実するため,全国各地の防災教育への意欲をもつ団体・学校・個人等に対し,より充実した防災教育のプランを募集し,「防災教育チャレンジプラン」として選出した上で,その実践への支援を行っている。学校内外での防災教育のコンテンツを収集し,取組成果(教育手法,教材,留意事項,問い合わせ先など)を取りまとめ,ホームページに公開し,広く学校などの利用に供することにより,各地域で自立的に防災教育に取り組む環境づくりを行っている。
消防庁では,地域の防災力を高めて災害被害の軽減を図ることを目的として,地域住民,消防職員・消防団員,地方公務員等に,インターネット上で防災・危機管理に関する学びの場を提供する「防災・危機管理e−カレッジ」を開講している。また,小中学生などが防災に関する知識や実践的な技術を身につけることができるよう,広く防災教育において活用できる指導者用防災教材「チャレンジ!防災48」を作成し,全国の都道府県,市町村,消防本部等に配布したほか,「防災・危機管理e−カレッジ」で公開している。
東京消防庁では,「地域の防火・防災功労賞」等を実施している。