3−4 風水害対策



3−4 風水害対策

(1)近年の風水害の特徴

a 豪雨,台風等の状況

我が国では,毎年,5月上旬から7月中旬にかけての梅雨前線の活動や台風の影響により,各地で豪雨が発生している。年間では平均26.7個(1971〜2000年の統計)の台風が発生し,うち2.6個が北海道・本州・四国・九州のいずれかに上陸している。平成21年の台風発生数は22個,接近数は8個,上陸した台風は1個といずれも平年を下回った(図2−3−55)。

図2−3−55 台風の日本への接近数と上陸数の推移 図2−3−55 台風の日本への接近数と上陸数の推移の図
図2−3−56 平成21年の台風の発生箇所とコース 図2−3−56 平成21年の台風の発生箇所とコースの図

平成21年7月中国・九州北部豪雨では,7月19日から26日にかけ,西日本で梅雨前線の活動が活発になり,中国地方および九州北部を中心に記録的な大雨となった。この期間の総雨量は九州北部の多いところで700ミリを超え,7月の月間降水量平年値の2倍近くに達した。この大雨により,広島県,山口県,福岡県,佐賀県,長崎県において死者が35名となり,特に,山口県防府市では土石流や山崩れなどにより死者が19名にのぼった。また,山口県,福岡県を中心に住家の浸水が10,000棟を超えるなど各地で浸水害や土砂災害が発生した。その他,停電,断水が発生し,交通機関にも影響が出た。

平成21年台風第9号による8月8日から11日にかけての大雨では,8月8日9時に日本の南海上で発生した熱帯低気圧は北西に進み,8月9日15時に同海域で台風第9号となり,北に進み,10日に四国,紀伊半島の南海上を通り,11日には東海地方,関東の南海上を通って,日本の東海上へ進んだ。その後,13日9時に日本の東海上で熱帯低気圧に変わり,14日21時に温帯低気圧となった。熱帯低気圧およびそれから変わった台風第9号周辺の湿った空気の影響で,8日から11日にかけて西日本および東日本の太平洋側と東北地方の一部で大雨となった。この期間の総雨量が四国ではところにより700ミリを超えたほか,徳島県,香川県,岡山県,兵庫県の一部では,8月の月降水量平年値の2倍を超える記録的な大雨となった。この大雨により,徳島県,岡山県,兵庫県,長野県で死者25名,行方不明者2名となり,特に,兵庫県佐用郡佐用町では死者18名,行方不明者(状況不明も含む)2名となっている。また,岡山県,兵庫県,埼玉県など西日本から東日本の広い範囲で住家の浸水が約5,600棟を超えるなど各地で浸水害や土砂災害が発生した。さらに,農業・林業・水産業被害や鉄道の運休,航空機・フェリーの欠航等による交通障害が発生した。

b 水害の状況

我が国においては治山・治水事業の推進等により,水害区域面積は,平成元年〜平成5年の平均が54,356haであるのに対し,平成16年〜20年の平均は26,381haと大幅に減少している(図2−3−57)。しかしながら,河川氾濫区域内の都市化の進展等により,近年,浸水面積当たりの一般資産被害額(水害密度)が急増している(図2−3−58)。

 

図2−3−57 水害区域面積の推移 図2−3−57 水害区域面積の推移の図
図2−3−58 一般資産水害被害及び水害密度の推移 図2−3−58 一般資産水害被害及び水害密度の推移の図

c 土砂災害の状況

地すべり,土石流,がけ崩れといった土砂災害は,その原因となる土砂の移動が強大なエネルギーを持つとともに,突発的に発生することから,人的被害につながりやすく,また家屋等にも壊滅的な被害を与える場合が多い。

一般に土砂災害は,土砂移動の発生形態により大きく,地すべり,土石流,がけ崩れに分類される。火砕流を除外すると,過去10年(平成12年〜21年)の10年間の平均で毎年約1,000件以上の土砂災害が発生している(図2−3−59)。

発生件数の内訳は,がけ崩れが火砕流を除く全体の約65%を占め,死者・行方不明者もがけ崩れによるものが最も多い。一方で地すべり・土石流は,がけ崩れに比べ発生件数は少ないが,阪神・淡路大震災に伴う西宮市での地すべり(34名),蒲原沢土石流災害(14名),出水市の土石流災害(21名),水俣市の土石流災害(15名)など,多数の死者・行方不明者が発生する災害があった。平成21年は,7月中国・九州北部豪雨などにより,全国で1,058件の土砂災害が発生し,人的被害として22名の死者・行方不明者が発生した。

近年の状況は,(表2−3−16)のとおりである。

図2−3−59 土砂災害の発生状況の推移 図2−3−59 土砂災害の発生状況の推移の図
表2−3−16 近年の主な土砂災害による死者・行方不明者の状況 表2−3−16 近年の主な土砂災害による死者・行方不明者の状況の表

d 風害の状況

風害は,飛来物による被害,建物・施設の損壊,高波,樹林の倒壊,フェーン現象による火災延焼などの形態がある。

竜巻は,日本全国どこにおいても季節を問わず台風,寒冷前線,低気圧に伴って発生している(図2−3−60)。近年では年間平均約13個(1991〜2006年の統計)の竜巻の発生を確認している。

平成21年7月19日19時頃,岡山県美作市の岩見田,安蘇,下山,上尾原,尾原,尾谷の各地区において,竜巻による被害が発生した。窓ガラスの飛散等による軽傷者が出たほか,住家や非住家の損壊や屋根飛散,さらに自動車の損壊及び電柱,樹木の折損等の被害が発生した。竜巻の被害範囲は,長さ約6km,幅約200mの帯状の中に分布しており,竜巻の強さは藤田スケールでF2と推定された。

また,同年7月27日14時過ぎ,群馬県館林市大谷町付近から細内町付近にかけて竜巻が発生し,負傷者21人のほか住家損壊・自動車が横転するなどの被害が発生した。竜巻の被害範囲は,長さ約6.5km,幅約50mの帯状に分布しており,竜巻の強さは藤田スケールでF1またはF2と推定された。

(参考:藤田スケール)

被害の状況から見積もる竜巻の強さ(風速)の指標の一つ。竜巻研究の第一人者,シカゴ大学故藤田哲也教授が提唱したもの。スケールはF0からF5まであり,F1は風速33〜49m/s(約10秒間の平均),F2は風速50〜69m/s(約7秒間の平均),F3は風速70〜92m/s(約5秒間の平均)である。

図2−3−60 竜巻の発生位置の分布図(1961〜2008年) 図2−3−60 竜巻の発生位置の分布図(1961〜2008年)の図

e 高潮災害の状況

高潮災害に対しては,海岸保全施設の整備や気象情報の精度向上等,積極的対策がなされてきたため,近年においては大きな被害は発生していなかった。

しかしながら,平成11年9月に台風第18号により八代海で大きな高潮が発生し,熊本県で12名の死者が出たほか,平成16年8月の台風第16号により瀬戸内地域の岡山県宇野港,香川県高松港などで記録的な潮位を観測し,この高潮により岡山県で1名,香川県で2名の死者が出ている。昭和以降の主な高潮災害は(表2−3−17)のとおりである。

表2−3−17 昭和以降の主な高潮災害 表2−3−17 昭和以降の主な高潮災害の表
(2)風水害対策の概要

a 大規模水害対策

平成17年8月末にアメリカ合衆国南東部を襲った大型のハリケーン,カトリーナによる災害では,ニューオーリンズ市域の約8割が浸水し,浸水期間は約1か月半に及んだ。被災建物は約30万棟に及び,約1,800名の方が亡くなるとともに,通信,電力をはじめとするライフライン,教育施設,医療機関など社会基盤の多くが被害を受けた。また,平成20年のサイクロン・ナルギスやハリケーン・グスタフ,平成21年の台風8号(莫克(モラク)台風)による台湾での水害など,近年世界的に大規模な水害が多発している。

我が国においても,短時間強雨の発生頻度が増加傾向にあり,更に,地球温暖化による大雨の頻度の増加や海面水位の上昇,極めて強い台風の発生など,防災面から懸念される予測が出されている。

これまでに洪水を安全に流下させるための河道の拡幅,堤防,放水路等の整備や,洪水を一時的に貯留するダムや遊水地の整備等の治水対策を進めてきたことにより,治水安全度は着実に向上してきているが,依然として,目標とする安全度や施設等の整備率は低い状況にある。

更に,首都地域は,利根川や荒川など大河川の洪水はん濫や高潮はん濫が発生した場合の浸水区域に存在し,東京湾周辺にはゼロメートル地帯が広がっており,それらの地域には政治,行政,経済機能が集積している。そのため,大河川の洪水はん濫や高潮はん濫が発生した場合には,甚大かつ広域的な被害の発生が想定される。

このような状況を踏まえ,首都地域において甚大な被害の発生が予想される利根川,荒川の洪水及び東京湾の高潮によるはん濫を対象とし,大規模な水害が発生しても被害を最小限にとどめる対策を検討するため,平成18年6月2日,中央防災会議に「大規模水害対策に関する専門調査会」を設置し,第1回専門調査会を平成18年8月29日に開催した。

本専門調査会は,平成22年3月までに20回開催され,これまでにレーザープロファイラーを活用した利根川・荒川流域のはん濫地形の把握やはん濫形態の類型区分,詳細な排水計算モデルの構築を行い,洪水はん濫時の浸水想定を公表するとともに,国内では初めて,洪水はん濫による死者数及び孤立者数等の人的被害の想定や,超過洪水(約1000年に1度の発生確率の洪水)時の被害想定等を行い,また,平成21年1月には,荒川堤防決壊時における地下鉄等の浸水想定について結果をとりまとめ,公表した(図2−3−61〜図2−3−68)。

図2−3−61 利根川の各類型の浸水想定 図2−3−61 利根川の各類型の浸水想定の図
図2−3−62 荒川の各類型の浸水想定 図2−3−62 荒川の各類型の浸水想定の図
図2−3−63 利根川の各類型区分別の死者数 図2−3−63 利根川の各類型区分別の死者数の図
図2−3−64 救助活動後の孤立者数の推移(避難率0%:首都圏広域氾濫) 図2−3−64 救助活動後の孤立者数の推移(避難率0%:首都圏広域氾濫)の図
図2−3−65 排水施設の稼動による浸水継続時間別の浸水区域内人口の変化(首都圏広域氾濫,1/200年) 図2−3−65 排水施設の稼動による浸水継続時間別の浸水区域内人口の変化(首都圏広域氾濫,1/200年)の図
図2−3−66 排水施設の稼動状況別の死者数(首都圏広域氾濫,1/200年) 図2−3−66 排水施設の稼動状況別の死者数(首都圏広域氾濫,1/200年)の図
図2−3−67 1/200年の発生確率の洪水により堤防が決壊した場合の死者数と約1/1000年の発生確率の洪水により堤防が決壊した場合の死者数の比較(首都圏広域氾濫) 図2−3−67 1/200年の発生確率の洪水により堤防が決壊した場合の死者数と約1/1000年の発生確率の洪水により堤防が決壊した場合の死者数の比較(首都圏広域氾濫)の図
図2−3−68 止水板等の高さの違いによる地下鉄等の浸水状況の比較 図2−3−68 止水板等の高さの違いによる地下鉄等の浸水状況の比較の図

国土交通省においては,平成21年4月に,東京湾沿岸の現時点での高潮防護能力の検証及び長期的な気候変化に対するリスクの把握を目的とした高潮浸水想定を公表し,その後,被害想定の検討を実施した。

これらの被害想定結果や過去の大規模水害時の状況等を踏まえて,避難率の向上,広域避難体制等の整備,逃げ遅れ者の被災回避,孤立者の救助・救援,災害時要援護者の被害軽減,地下空間等における被害軽減,病院等における被害軽減,公的機関等の業務継続性の確保,ライフライン・インフラの浸水被害による影響の軽減と早期復旧,はん濫拡大の抑制と排水対策の強化等の対策についての検討が進められた結果,平成22年4月,専門調査会はこれまでの調査結果を報告書にとりまとめ,中央防災会議への報告を行ったところである。

b 洪水・内水ハザードマップの公表状況

災害時の被害軽減を図る有効な方法の一つとして,防災に関する情報の見える化や時宜,手段等についての適切な情報提供があげられる。水害については,住民が適切な避難行動がとれるよう,避難場所,避難経路等を地図上に整理するハザードマップの作成が,被害の未然防止や被害の軽減に有効であることから,現在,ハザードマップの作成・普及を進めている。

平成16年の水害の際に洪水予報の難しい中小河川で被害が多発したことを受けて,平成17年に水防法が改正され,洪水予報を行う大河川以外の主要な中小河川について,避難勧告発令の目安となる特別警戒水位への到達情報の周知等を行う河川(水位周知河川)が指定され,平成22年3月末現在で,洪水予報河川は368河川,水位周知河川は1,488河川が指定されている。両河川とも浸水想定区域の指定・公表が義務づけられており,現在はそのうち,1,768河川の浸水想定区域が指定・公表されている。また,洪水ハザードマップについては,1,137市町村で作成されている。

一方,内水による浸水に関する内水ハザードマップについては,平成21年9月末現在で104市町村で完了している。さらなる作成推進を図るため,洪水ハザードマップなど他のハザードマップとの連携や効果的な公表・活用方法等について内容を充実した「内水ハザードマップ作成の手引き(案)」を平成21年3月に改定・公表している。

各地方公共団体において,行政窓口での閲覧・配布,各戸への配布,公民館・病院等での閲覧,広報誌・ホームページ・電話帳への掲載,ハザードマップを使った避難訓練,ハザードマップの住民説明会の実施等により,洪水ハザードマップの普及の取組を行っている。

また,河川はんらん時の浸水深や洪水時の避難所といった“地域の洪水に関する情報の普及”を目的として,これらの情報を洪水関連標識として町の中に掲示する「まるごとまちごとハザードマップ」の取組を平成18年より実施してきている。なお,この取組において作成した「洪水」「堤防」「避難所(建物)」の3種類の図記号は,平成19年1月,日本工業規格(JIS)の案内用図記号として新たに定められた(日本工業規格JIS Z8210:2007(案内用図記号(追補1))。

c 局地的大雨等対策

近年,局地的な大雨が多発しており,各地で水害や水難事故が発生している。兵庫県神戸市の都賀川では,平成20年7月28日に発生した局地的な大雨により,雨の降り始めから10数分程度という極めて短時間に水位が1m以上も上昇し,児童を含む5名が亡くなった。国土交通省では,平成20年8月に,中小河川の管理のあり方と水難事故防止について検討することを目的として,「中小河川における局地的豪雨対策WG」及び「中小河川における水難事故防止策検討WG」を設置した。平成21年1月には「中小河川における局地的豪雨対策WG報告書」及び「中小河川における水難事故防止策検討WG報告書」を公表した。

また,東京都豊島区雑司が谷の下水道工事現場において,平成20年8月5日に発生した局地的な大雨に伴う下水道管きょ内の急激な増水により,工事中の作業員5名が流されて亡くなった。国土交通省では,局地的な大雨に対し,雨水が流入する下水道管きょ内における工事等を安全に実施するために必要な対応策について検討することを目的として,「局地的な大雨に対する下水道管渠内工事等安全対策検討委員会」を設置した。平成20年10月には「局地的な大雨に関する下水道管渠内工事等安全対策の手引き(案)」を公表した。

また,気象庁では,平成21年2月に,局地的大雨という現象に対する国民の理解を深め,局地的大雨から身を守るための手引きとして,「局地的大雨から身を守るために−防災気象情報の活用の手引き−」を公表した。7月には,局地的大雨等をもたらす積乱雲の急激な発達をいち早く捉え,従来よりも早めの対策を講じるなどの被害の防止・軽減につなげるために,全国20箇所の気象レーダーの観測間隔を従来の10分間隔から5分間隔に短縮した。

さらに,平成21年7月中国・九州北部豪雨や平成21年台風第9号をはじめとする大雨災害や土砂災害が発生し,適切な避難について課題が指摘されたことから,内閣府では平成21年度に「大雨災害における避難のあり方等検討会」を設置した。検討会では,局地的大雨も含め,短時間の大雨による災害から「いのちを守る」という観点で,避難のあり方全般について検討を行い,「大雨災害における避難のあり方等検討会報告書」を取りまとめた。なお,本検討会において今後引き続き検討していくべきとされた事項については,「災害時の避難に関する専門調査会」を設置(平成22年4月21日中央防災会議決定)して,さらに検討を進めることとしている。

また,気象庁では,大雨災害に対して効果的な防災につなげるため,平成22年5月からは市町村ごとの気象警報・注意報の発表を開始している。

d 竜巻等突風災害対策

竜巻等の突風災害については,平成18年9月の宮崎県延岡市や同年11月の北海道佐呂間町でも見られたとおり,突発的な破壊力が大きく,人命のみならず,住家,交通,ライフラインなどに甚大な被害をもたらす。こうした局地的な突風災害は,予測が困難であり,事前の避難等の対策が取りづらいものと考えられている。政府では平成18年11月に関係省庁による「竜巻等突風対策検討会」を設置し,平成19年6月に検討の結果を公表しており,過去の突風災害のデータ収集や分析を行いつつ,竜巻等突風対策の取組状況を整理するとともに,竜巻対策が進んでいる米国における予警報体制,情報伝達・避難誘導体制,教育・意識啓発等の取組の現状を調査し,その結果を共有した。また,検討会では,突風災害の特徴や竜巻に遭遇した場合の身の守り方をまとめたパンフレットを作成するとともに関係省庁の今後の取組を取りまとめている。気象庁は,平成20年3月から新たな府県気象情報として「竜巻注意情報」の提供を開始しており,さらに平成22年5月からは竜巻等の激しい突風が発生する可能性を推定する「竜巻発生確度ナウキャスト」の提供を開始している。


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