3−1 震災対策 (4)地震に強い国土の形成



(4)地震に強い国土の形成

a 地震防災緊急事業及び地震対策緊急整備事業

(a) 地震防災緊急事業

地震防災対策特別措置法に基づいて,これまで,3次にわたる「地震防災緊急事業五箇年計画」が都道府県知事により作成され,地震防災緊急事業が実施されてきた。「地震防災緊急事業五箇年計画」は,避難地,避難路,消防用施設,共同溝,地域防災拠点施設等の地震防災上緊急に整備すべき29施設等に関して都道府県知事が作成する5か年間の計画であり,作成しようとするときは関係市町村の意見を聴いた上で,内閣総理大臣の同意を受けることとされている。また,これらの事業のうち,消防用施設の整備,木造の社会福祉施設の改築,公立小中学校等の校舎等で地震による倒壊の危険性が高いものの改築及び非木造校舎の補強等については,国庫補助率の嵩上げがされている。

第1次五箇年計画(平成8−12年度:全都道府県で作成)では,全体で約14兆1千億円(対計画比76%)の事業が実施され,第2次五箇年計画(平成13−17年度:全都道府県で作成)では,全体で約10兆円(対計画比71%)の事業が実施された。現在,平成18年度を初年度とする第3次五箇年計画(平成18−22年度:全都道府県で作成)では,全体で約12兆円の事業計画額を掲げ,地震防災緊急事業の計画的な推進を図っているところである( 附属資料16 )。

なお,国庫補助率の嵩上げについては,前述のとおり,平成18年3月の同法改正において,公立小中学校等の屋内運動場(体育館)の補強が嵩上げの対象に追加された。また,平成20年6月の同法改正においては,地震による倒壊の危険性が高い公立の小中学校,幼稚園,特別支援学校(幼稚部・小学部・中学部)等の改築・補強について,嵩上げ措置の拡充が図られている。

(b) 地震対策緊急整備事業

東海地震に係る強化地域については,昭和55年度以降,地震財特法に基づき「地震対策緊急整備事業計画」が8都県知事により作成され,地震対策緊急整備事業が実施されてきた。「地震対策緊急整備事業計画」は,避難地,避難路,消防用施設等の地震防災上緊急に整備すべき17施設等に関して都道府県知事が作成する計画であり,作成しようとするときは,関係市町村の意見を聴いた上で,内閣総理大臣の同意を受けることとされている。また,これらの事業のうち,消防用施設の整備,木造の社会福祉施設の改築,公立小中学校等の構造上危険な校舎の改築及び非木造校舎の補強については,国庫補助率の嵩上げ等が規定されている。

昭和55年度から平成21年度までの30年間の計画においては,全体で約2兆円の事業計画額が掲げられ,平成21年度末までに約1兆8千億円(対計画比91%)が実施される見込みである( 附属資料17 )。なお,平成22年3月に地震財特法の有効期限が平成27年3月31日まで5年間延長されたことに伴い,計画の変更がなされることになる。

b 建築物の耐震性の向上

阪神・淡路大震災においては犠牲者の8割以上が建築物の倒壊によるものであった( 附属資料18 )。また,中央防災会議では,特に発生の切迫性の高い東海,東南海・南海,首都直下,中部圏・近畿圏直下等の大規模地震について被害想定を実施してきたところであるが,いずれも甚大な死者数が,建築物の倒壊を直接的な原因として発生するものと想定された。更に,こうした直接被害に加え,火災延焼や救助活動の妨げ等の間接被害を招くことも一連の被害想定で判明している。こうしたことから,現在震災対策を推進する上で建築物の耐震性の向上が最重要課題の一つとなっている。

(a) 建築物の耐震化緊急対策方針

平成16年10月の新潟県中越地震,そして平成17年3月には大地震発生の可能性は低いといわれていた福岡県でも福岡県西方沖を震源とする地震が発生し,多大な被害をもたらした。我が国において,地震はいつどこで発生してもおかしくない状況にあることを改めて認識させられた。このように,「建築物の耐震化」はとりわけ人命に密接に関連することから,全国的に展開すべき対策である。また,各種施策に振り向けることができる資源が有限である中,当面緊急に取り組むべき課題を特定することが必要である。

こうしたことから,平成17年9月の中央防災会議において,「社会全体の国家的な緊急課題として,関係省庁等が密接な連携の下,“建築物の耐震化”について,全国的に緊急かつ強力に実施すること」として,「建築物の耐震化緊急対策方針」が決定された(図2−3−8)。同方針では,まず建築物全般について,耐震改修に係る規制見直しや補助・税制度整備の検討等が位置づけられた。更に,建築物の大半を占める住宅について言及し,これまで東海,東南海・南海地震に係る地域に関して位置づけられていた75%の耐震化率を10年後に90%まで引き上げる目標について,全国の目標として明記された。また,学校,病院,庁舎等の公共建築物等についても,災害時の防災拠点機能確保の観点から強力に耐震化を促進することとされた。

こうした対策については,建築物の耐震改修の促進に関する法律の改正をはじめとして実現が進められているところであり,今後も政府一丸となった建築物の耐震化促進策の充実が期待される。

図2−3−8 建築物の耐震化緊急対策方針 図2−3−8 建築物の耐震化緊急対策方針の図

(b) 建築物の耐震改修の促進に関する法律の改正

建築物の耐震改修の促進については,多数の者が利用する特定建築物に対する指導・指示等を定めた「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が阪神・淡路大震災を受けて平成7年に制定されている。平成17年11月に同法が改正され,国が基本方針を定め,地方公共団体が耐震改修促進計画を策定し,計画的に耐震改修に取り組む仕組みが導入された。また,所管行政庁による指導・助言や指示等の対象となる建築物の範囲を見直し,指導・助言の対象に道路閉塞させる住宅等を追加するとともに,従来指導・助言対象までにとどめていた学校(幼稚園,小中学校等)や老人ホームで一定規模のものを指示の対象とし,これらを含めて指示対象となる建築物について,指示に従わない場合にこれを公表できることとした。更に,国土交通大臣が法人を「耐震改修支援センター」として指定し,認定建築物の耐震改修に必要な資金の貸付けに係る債務保証等の業務を行うものとする等,建築物の耐震改修を促進するための様々な措置を講じた。

平成18年1月の改正法施行に合わせて,基本方針を国土交通大臣が決定し,多数の者が利用する建築物(特定建築物)についても現状75%の耐震化率を10年後に90%とする全国目標が示された。今後,基本方針を踏まえて地方公共団体が耐震改修促進計画を速やかに作成することとされており,建築物の用途ごととするなど,より詳細で地域の状況等を踏まえた目標が定められ,着実に建築物の耐震化が促進されることが期待される。

(c) 住宅・建築物の耐震化

阪神・淡路大震災においては,建築基準法上の耐震基準が強化された昭和56年以前に建築された建築物に多くの被害がみられた。昭和56年に導入された現行の耐震基準(新耐震基準)は,中規模の地震(震度5強程度)に対しては,ほとんど損傷を生じず,極めて稀にしか発生しない大規模の地震(震度6強から震度7に達する程度)に対しては,人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないことを目安としたものである。この基準を満たさない建築物が現在でも多数存在しており,一刻も早い改善が必要である。

建築物の大半を占める住宅の耐震化の状況については,総数約4,900万戸の約21%に相当する約1,050万戸の耐震性が不足すると推計されている( 附属資料19 )。

さらなる耐震化を促進するため,「新成長戦略(基本方針)」(平成21年12月30日閣議決定)において,住宅等の耐震化を徹底することにより,2020年までに耐震性が不十分な住宅の割合を5%に下げ,安全・安心な住宅ストックの形成を図ることとしている。

(d) 学校の耐震化

学校施設は,児童生徒等が一日の大半を過ごす活動の場であるとともに,災害時には避難場所等として活用されることから,特に早急な耐震性確保が求められている。

しかし,公立小中学校の耐震化率の全国平均は平成21年4月1日現在で,67%にとどまっており,さらなる耐震化の促進が必要である( 附属資料20 )。

学校の耐震化の現状や,中国四川省の大地震により多数の学校施設が倒壊し,大惨事が発生したことなどを踏まえ,平成20年6月に議員立法により地震防災対策特別措置法が改正された。本改正により地震による倒壊の危険性が高い公立小中学校等施設の耐震化事業について,国庫補助率が引き上げられるとともに,地方財政措置の拡充が行われた。文部科学省では各地方公共団体が耐震化を適切に進められるよう,平成21年度第一次補正予算まで,地方公共団体の耐震化事業の要望に応えられるだけの予算額を切れ目なく確保し,危険性が高いIs値0.3未満の施設に加え,Is値0.3以上の施設の耐震化についても,国庫補助を行い,耐震化を積極的に推進している。 

私立学校についても,地震による倒壊の危険性が高い幼稚園,小学校,中学校及び高等学校等の耐震改修事業について,平成20年度補正予算より補助率の引き上げを行っている。

(e) 病院の耐震化

病院については,災害時において,被災者に対し,迅速かつ適切な医療を提供するという重要な役割を果たすことから,その耐震化は重要な課題である。

しかし,平成21年8月までに厚生労働省が実施した調査によると,すべての建物が新耐震基準に従って建設された病院は約56%であり,さらなる耐震化の促進が必要である( 附属資料21 )。

病院の耐震化については,平成20年4月にまとめられた「自然災害の『犠牲者ゼロ』を目指すための総合プラン」において災害時の医療の拠点となる災害拠点病院及び救命救急センターのうち非耐震化施設の約5割を耐震化する目標を設定している。民間病院については,平成20年度補正予算により災害拠点病院の耐震改修工事に対する国庫補助率の引き上げ,平成21年度予算からは災害拠点病院に加え,救命救急センター,病院郡輪番制病院,小児救急医療拠点病院等災害拠点病院以外の病院についても補助率の引き上げを行った。公立病院については地方財政措置の拡充をおこない,病院の耐震化の加速のために,取り組みの一層の促進を図っている。

(f) 防災拠点となる公共施設等の耐震化

公用及び公共用の施設は,不特定多数の利用者が見込まれるほか,地震災害の発生時には,応急対策の実施拠点や避難所となるなど,防災拠点として重要な役割を果たすことから,その耐震化は重要な課題である。

しかし,防災拠点となる公共施設等の耐震化の状況は,約66%となっており,さらなる耐震化の促進が必要である( 附属資料22 )。

(g) 国の庁舎の耐震化

官庁施設の多くが地域の地震防災活動の拠点としての役割を担っているが,国の一般事務庁舎の耐震化の状況は,75%にとどまっており,こうした庁舎の耐震化は緊急の課題である( 附属資料23 )。

建築物の耐震化緊急対策方針(平成17年9月中央防災会議決定)においても,強力に国の庁舎等公共建築物の耐震化の促進に取り組むとの方針が決定されている。

(h) その他の耐震化促進策

耐震改修には所有者等にとって決して小さくない費用負担が必要となるが,建築物の大半を占める民間建築物の耐震化を促進するためには,所有者等の費用負担軽減を図ることが重要である。このため,国土交通省においては,耐震改修及び耐震診断について,住宅・建築物安全ストック形成事業により補助するとともに,地域住宅交付金やまちづくり交付金を活用して地域の自主的な取組みを支援してきたところである。

また,住宅・建築物安全ストック形成事業については,平成21年度第一次補正予算において,住宅・建築物の耐震改修に係る補助率の引き上げ等の制度拡充を行うとともに,地方公共団体の持続的取組みに向け体制整備に寄与する事業を実施する等,取組みの一層の強化を図った。

なお,平成22年度より,住宅・建築物安全ストック形成事業,地域住宅交付金及びまちづくり交付金については,社会資本整備総合交付金により実施する。

また,所有者等の負担を軽減し,耐震改修を促進する施策の一環として,税制面では,平成18年度税制改正において耐震改修促進税制が創設され,住宅に関して所得税及び固定資産税の特例措置が講じられている(事業用建築物については平成21年度まで)。特に所得税における住宅の耐震改修促進税制については,平成21年度税制改正において適用要件が緩和されている( 附属資料24 )。本税制の活用により,補助制度と相まって,所有者等の費用負担が軽減され,住宅の耐震化が促進されることが期待される。

この他,耐震改修をした場合の住宅ローン減税を引き続き講じることで建築物所有者のインセンティブを高めるとともに,住宅ローン減税等の適用対象となる既存住宅の範囲に,新耐震基準に適合する一定の既存住宅を追加する措置を講じるなど住宅の耐震化を強力に促進している。

上記の耐震化促進策のほか,住宅の耐震改修工事については,住宅金融支援機構の融資を活用することが可能となっている。また,平成12年からスタートした住宅性能表示制度により,地震に対する強さを第三者機関が評価し,等級表示をうけることが可能で,この等級に応じて地震保険の保険料について最大で30%の割引適用を受けることができるため,所有者等に耐震補強実施のインセンティブを与え,住宅の耐震化が促進されることが期待される。

また,地震保険への加入を促し,地震災害による被害への備えに係る自助努力を支援するため,平成18年度に所得税及び住民税の地震保険料控除が創設された。

c 構造物の耐震診断・改修の推進

阪神・淡路大震災においては,道路,鉄道,港湾,住宅・建築物,ライフライン施設等の構造物の損壊が発生し,我が国の安全神話の崩壊が指摘された。そこで,それぞれの構造物により設計概念が異なっていた耐震基準について,共通の設計概念の下で新しい耐震基準へと見直し,安全な国土の形成,生命の安全確保を図ることとした。

このため,防災基本計画において,[1]構造物の使用期間中に1〜2回発生することが見込まれる一般的な地震に対してはそのまま使用が可能であること,[2]使用期間中に発生するか否か不確実ではあるが,ひとたび発生すれば甚大な災害となる大地震(関東地震や平成7年兵庫県南部地震等)に対しては人命に重大な影響を与えないこと,を共通の設計概念とすることを明記した。この考え方に基づいて施設ごとに耐震基準の見直しが行われるとともに,既存施設のうち耐震性の十分でないものについては耐震改修が進められている(表2−3−4)。

表2−3−4 主な施設・構造物についての耐震基準と耐震改修の現状 表2−3−4 主な施設・構造物についての耐震基準と耐震改修の現状の表

(a) 液状化対策

我が国における大規模地震では,たびたび地盤の液状化が発生しており,平成15年の十勝沖地震,平成16年の新潟県中越地震や平成19年の能登半島地震,新潟県中越沖地震においても,各種施設において液状化の被害が見られた。

液状化に対しては,港湾施設において港湾施設の液状化防止対策の実施要綱を基本的な枠組みとして対策を積極的に推進するなど,民間・公共の建築物のほか,道路や港湾,電気・ガス・上下水道・通信網等について,施設の種類ごとにそれぞれ設計・施工指針が定められるなどして,対策の推進が図られている。

また,内閣府では,平成10年度に地方公共団体等が液状化マップを作成するための方法について解説した「液状化地域ゾーニングマニュアル」を作成し,都道府県等に配布することにより,液状化対策を推進しているところである。

国土交通省では,新潟県中越地震において液状化により下水道管きょの破損やマンホール浮上による交通障害を生じたことを踏まえ,下水道地震対策技術検討委員会を設置し,管路施設の本復旧にあたっての技術的緊急提言をとりまとめ,原則として,管路布設後に埋め戻す際,締固めや固化等を行い,液状化対策を講じることとした。

(b) 橋梁の耐震補強

国土交通省では,災害直後から緊急車両の通行を確保すべき緊急輸送道路にある橋梁約5万橋のうち,これまで落橋・倒壊の恐れのある橋梁を中心に耐震補強を進めてきた。しかしながら,依然として阪神淡路大震災クラスの地震が発生した場合,落橋・倒壊の恐れのある橋梁が約2千橋(約4%),損傷の恐れのある橋梁が約1万3千橋(約26%)存在することから(平成19年度末見込み),引き続きこれらの橋梁の耐震補強を重点的に進めていくこととしている。

また,新幹線の高架橋柱については,平成19年度末までに耐震補強を概ね完了した。

(c) 海岸堤防の耐震対策

農林水産省及び国土交通省では,大規模地震の逼迫性を踏まえゼロメートル地帯等で地域中枢機能集積地区を有する海岸を対象とした「海岸耐震対策緊急事業」を平成19年度に創設し,堤防等の耐震対策を推進している。

(d) 耐震強化岸壁の整備

国土交通省では,大規模地震の逼迫性が指摘されていることを踏まえ,「耐震強化岸壁緊急整備プログラム」(平成18年度〜平成22年度)を策定し,耐震強化岸壁の整備を推進している。

(e) 新幹線脱線対策

国土交通省は,平成16年の新潟県中越地震により上越新幹線が営業中に脱線したことを受け,新幹線を運行しているJR各社等からなる新幹線脱線対策協議会を開催し,脱線防止対策,被害軽減対策,鉄道構造物の耐震対策等について検討を行い,平成17年3月に協議会において,次のとおり中間的なとりまとめを行った。

<1> 活断層と交差する山岳トンネルや高架橋柱の構造物耐震対策の実施

<2> 地震検知・警報装置の検知点の増設及び更新による脱線防止対策の実施

<3> 仮に列車が脱線した場合においても線路から大きく逸脱することを防止するための施設,車両の両面からの逸脱防止対策の検討及び実施計画の策定

<4> レール締結装置やレール継目部の損傷防止策,脱線防止ガードの構造・設置方法,非常ブレーキの停止距離短縮化,早期地震検知システムの充実についての研究等の実施

このとりまとめを踏まえ,引き続き必要な対策や検討を進めることとしている。

(f) 水産物流通拠点となる漁港の耐震対策

農林水産省では,平成19年6月に策定された漁港漁場整備長期計画に基づき,地震発生後においても水産物供給の維持を図るとともに地震発生時に漁港で作業する人々の人命や資産の防護を図るため,水産物流通拠点となる漁港において,産地市場前面の陸揚げ用の岸壁の耐震化を促進している。

d 長周期地震動対策

海溝型地震のような巨大地震では,震源域が大きいこと等から,周期2〜20秒程度のやや長周期の地震動(以下「長周期地震動」という。)がより多く含まれる傾向がある。

このような長周期地震動は,厚い堆積盆地内で表面波として成長する等,地盤構造によっては振幅が更に大きくなり,継続時間も長くなることがある。

このため,超高層建築物や石油タンク内容物等の固有周期が長周期地震動の周期と近い場合,共振による被害の発生が懸念されており,長周期地震動が構造物に及ぼす影響等について調査研究を進め,新たな対策の必要性について検討を進めている。

平成16年3月17日には,長周期地震動に関する関係行政機関相互の密接な連携と協力の下に地震被害の軽減を図るため,「長周期地震動対策関係省庁連絡会議」(内閣府,防衛施設庁(当時),消防庁,文部科学省,経済産業省,農林水産省及び国土交通省により構成)が開催された。その後,定期的に同会議を開催して,長周期地震動が構造物に及ぼす影響等についての調査研究結果,各省庁の取り組み等について情報共有を行っており,平成20年11月20日には,第5回の会議を開催している。

2003年9月の十勝沖地震において,石油タンクの貯蔵物が長周期地震動と共振するスロッシング(液面揺動)が起こり,タンクの浮き屋根の破損と貯蔵物への引火による火災が起こった。この対策として,平成17年には特定屋外貯蔵タンクの浮き屋根の基準の策定,平成19年には浮き屋根の改修等に係る指針の取りまとめ等が行われている。

また,港湾構造物では,コンテナクレーンにおいて長周期地震動の影響が無視できないことから,設計で時刻歴応答解析による岸壁とクレーンの相互作用を考慮した耐震設計法により長周期地震動の影響を考慮している。長大橋においては,当初設計からの検討,あるいは,別途,長周期地震動を踏まえた耐震性照査の検討等を,建築物においては,長周期地震動を考慮した設計用地震入力波の検討を,空港構造物においては,長周期成分を含む地震波を使用した対策の検討を行っている。

e 都市型震災対策

平成17年7月23日に発生した千葉県北西部を震源とする地震に対しての政府の対応状況にかんがみ,都市型震災に対する対策を一層推進するため,政府は,都市型震災対策関係省庁局長会議を開催し,震度情報,鉄道運行・道路,エレベーター,建築物の地震対策(天井及び窓ガラスの落下防止対策)等,検討すべき課題及びその対策について検討状況を取りまとめ,関係省庁間で情報共有・連携推進を図った。

第1回会議(同年7月),第2回会議(同年9月。なお,平成17年3月の福岡県西方沖を震源とする地震及び同年8月の宮城県沖を震源とする地震において明らかになった課題も検討課題として追加。)を経て,平成18年4月の第3回会議において,それぞれの課題に対する具体的な対策に係る検討結果等について取りまとめた。

f 地方都市等における地震防災対策

平成16年の新潟県中越地震をはじめ,平成19年の能登半島地震や中越沖地震,平成20年の岩手・宮城内陸地震など,近年地方都市を中心として比較的大きな規模の地震が複数発生している。被災した自治体では,これら地震への対応を通じ,孤立集落対策や避難生活対策などについての様々な教訓や課題が得られている。今後も同様の規模の地震が全国で発生する可能性があることから,これら地震への対応経験を近年被災経験のない自治体へ行かす必要がある。このため,平成22年1月15日の中央防災会議で「地方都市等における地震防災対策のあり方に関する専門調査会」の設置が決定された。今後この専門調査会において,近年の地震で得られた教訓や課題を調査検討し,充実すべき対策や支援方策について取りまとめていく予定である。

g 中山間地等の集落散在地域における地震防災対策

平成16年の新潟県中越地震では,震源付近の強い揺れに伴い主に山間部において土砂災害が多発し,交通の寸断や情報通信の途絶により,旧山古志村をはじめとした61地区(新潟県調べ)の集落が孤立した。地震発生が夜間であったこともあり,孤立した集落の被害状況の把握に時間がかかるなど,中山間地の集落散在地域における地震災害に特有の問題が顕在化した。

内閣府では,学識経験者等からなる「中山間地等の集落散在地域における地震防災対策に関する検討会」を開催し,中山間地特有の課題(多数の孤立集落の発生,高齢者の避難生活に係る課題等)への対策について検討を行い,平成17年8月に地震防災対策の提言をとりまとめた。本提言においては,孤立対策として,集落と外部間の多様な通信手段の確保,物資供給・救助活動を適切に実施するための準備,備蓄の整備・拡充等による孤立に強い集落づくり,道路・ライフライン等の寸断への対応,津波に伴う孤立対策等の実施を求めている。また,避難生活に関する対策として,災害時要援護者の避難支援や防犯対策等が必要とされている。今後の課題として,地方公共団体において孤立可能性のある集落の実態のさらなる把握に努めるとともに,本提言を基に,中山間地等の地震防災対策について,具体的な対策を地域防災計画に明記し,推進すべきであるとしている。

平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震においても,がけ崩れ等土砂災害により道路が寸断され,孤立集落が発生した。一時外部との連絡が取れない集落もあり,孤立するおそれがある集落における地震防災対策の必要性が改めて認識された。このため,内閣府は,地震及び津波により孤立するおそれがある全国の中山間地等における孤立集落対策の実施状況を把握し,これを基に効果的な孤立可能性のある集落の地震防災対策の検討を更に行うこととしている。

h 重要文化財及びその周辺地域の総合的な防災対策

平成20年2月に開催された中央防災会議において,中部圏・近畿圏の直下地震による文化遺産の被災の可能性について,「東南海,南海地震等に関する専門調査会」から報告された。この報告では,地震の揺れ及び重要文化財建造物等の周辺で地震に続いて発生する可能性のある同時多発性の市街地大火からの延焼により,多数の重要文化財建造物の被災の可能性が指摘された。

様々な災害が想定される中で,特に,地震時に想定される災害から重要文化財建造物を守ることが喫緊の課題となっていることから,様々な分野からなる学識経験者や文化財所有者等から構成される「重要文化財建造物の総合防災対策検討会」において平成20年7月より総合的に検討が行われ,平成21年4月の中央防災会議に「重要文化財建造物及びその周辺地域の総合防災対策のあり方」として報告された。本あり方では,重要文化財建造物が所在する地域の防災対策のあり方,文化財に求められる防災設備のあり方及びそれらの実現方策等について提言がなされ,特に,重要文化財建造物とその周辺地域を一体的に捉え,地域全体の防災力を高めることの重要性が示されており,地震時にも使用可能な耐震性を備えた水利・管路の確保や消火施設の整備等のハード対策及び文化財所有者と地域住民による共助体制の構築等のソフト対策が必要とされている。

i 事業所等における自衛消防力の確保

切迫する大地震の危険に対応するため,平成19年6月の消防法改正により,大規模・高層建築物等の管理権原者は,防災管理者を定めるとともに,地震災害等に対応した防災管理に係る消防計画を作成し,地震発生時に特有な被害事象に関する応急対応や避難の訓練の実施その他防災管理上必要な業務を行うこととされ,また,地震災害等による被害を軽減するために必要な業務を行うための自衛消防組織を設置することが義務付けられた(平成21年6月1日施行)。


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