3−1 震災対策 (3)地震に強い国土の形成



(3)地震に強い国土の形成

a 建築物の耐震性の向上

阪神・淡路大震災においては犠牲者の8割以上が建築物の倒壊によるものであった( 附属資料12 )。また,中央防災会議では,特に発生の切迫性の高い東海,東南海・南海,首都直下,中部圏・近畿圏直下等の大規模地震について被害想定を実施してきたところであるが,いずれも甚大な死者数が,建築物の倒壊を直接的な原因として発生するものと想定された。更に,こうした直接被害に加え,火災延焼や救助活動の妨げ等の間接被害を招くことも一連の被害想定で判明している。こうしたことから,現在震災対策を推進する上で建築物の耐震性の向上が最重要課題の一つとなっている。

(a) 耐震化の現状

阪神・淡路大震災においては,建築基準法上の耐震基準が強化された昭和56年以前に建築された建築物に多くの被害がみられた。昭和56年に導入された現行の耐震基準(新耐震基準)は,中規模の地震(震度5強程度)に対しては,ほとんど損傷を生じず,極めて稀にしか発生しない大規模の地震(震度6強から震度7程度)に対しては,人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないことを目安としたものである。この基準を満たさない建築物が現在でも多数存在しており,一刻も早い改善が必要である。

<1> 住宅の耐震化

建築物の大半を占める住宅の耐震化の状況については,総数約4,700万戸の約25%に相当する約1,150万戸の耐震性が不足すると推計されている( 附属資料13 )。

<2> 学校の耐震化

学校施設は,児童生徒等が一日の大半を過ごす活動の場であるとともに,災害時には避難場所等として活用されることから,特に早急な耐震性確保が求められている。

しかし,公立小中学校の耐震化率の全国平均は62.3%にとどまっており,さらなる耐震化の促進が必要である( 附属資料14 )。

<3> 病院の耐震化

病院については,災害時において,被災者に対し,迅速かつ適切な医療を提供するという重要な役割を果たすことから,その耐震化は重要な課題である。

しかし,平成20年5月に厚生労働省が実施した調査によると,すべての建物が新耐震基準に従って建設された病院は約51%であり,さらなる耐震化の促進が必要である( 附属資料15 )。

<4> 防災拠点となる公共施設等の耐震化

公用及び公共用の施設は,不特定多数の利用者が見込まれるほか,地震災害の発生時には,応急対策の実施拠点や避難所となるなど,防災拠点として重要な役割を果たすことから,その耐震化は重要な課題である。

しかし,防災拠点となる公共施設等の約4割は耐震性が確認されておらず,さらなる耐震化の促進が必要である( 附属資料16 )。

<5> 国の庁舎の耐震化

官庁施設の多くが地域の地震防災活動の拠点としての役割を担っているが,国の一般事務庁舎の約3分の1が耐震性能の基準を満たしていない状況にあり,こうした庁舎の耐震化は緊急の課題である( 附属資料17 )。

(b) 建築物の耐震化緊急対策方針

平成16年10月の新潟県中越地震,そして平成17年3月には大地震発生の可能性は低いといわれていた福岡県でも福岡県西方沖を震源とする地震が発生し,多大な被害をもたらした。我が国において,地震はいつどこで発生してもおかしくない状況にあることを改めて認識させられた。建築物の耐震化はとりわけ人命に密接に関連することから,既に大きな柱として位置づけられている大規模地震対策のみならず,全国的に展開すべき対策であり,また,各種施策に振り向けることができる資源が有限である中,当面緊急に取り組むべき課題を特定することが必要である。

こうしたことから,平成17年9月の中央防災会議において,「社会全体の国家的な緊急課題として,関係省庁等が密接な連携の下,“建築物の耐震化”について,全国的に緊急かつ強力に実施すること」として,「建築物の耐震化緊急対策方針」が決定された(図2−3−7)。同方針では,まず建築物全般について,耐震改修に係る規制見直しや補助・税制度整備の検討等が位置づけられた。更に,建築物の大半を占める住宅について言及し,これまで東海,東南海・南海地震に係る地域に関して位置づけられていた75%の耐震化率を10年後に90%まで引き上げる目標について,全国の目標として明記された。また,学校,病院,庁舎等の公共建築物等についても,災害時の防災拠点機能確保の観点から強力に耐震化を促進することとされた。

こうした対策については,建築物の耐震改修の促進に関する法律の改正をはじめとして実現が進められているところであり,今後も政府一丸となった建築物の耐震化促進策の充実が期待される。

図2−3−7 建築物の耐震化緊急対策方針 建築物の耐震化緊急対策方針の図

(c) 建築物の耐震改修の促進に関する法律の改正

建築物の耐震改修の促進については,多数の者が利用する特定建築物に対する指導・指示等を定めた「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が阪神・淡路大震災を受けて平成7年に制定されている。平成17年11月に同法が改正され,国が基本方針を定め,地方公共団体が耐震改修促進計画を策定し,計画的に耐震改修に取り組む仕組みが導入された。また,所管行政庁による指導・助言や指示等の対象となる建築物の範囲を見直し,指導・助言の対象に道路閉塞させる住宅等を追加するとともに,従来指導・助言対象までにとどめていた学校(幼稚園,小中学校等)や老人ホームで一定規模のものを指示の対象とし,これらを含めて指示対象となる建築物について,指示に従わない場合にこれを公表できることとした。更に,国土交通大臣が法人を「耐震改修支援センター」として指定し,認定建築物の耐震改修に必要な資金の貸付けに係る債務保証等の業務を行うものとする等,建築物の耐震改修を促進するための様々な措置を講じた。

平成18年1月の改正法施行に合わせて,基本方針を国土交通大臣が決定し,多数の者が利用する建築物(特定建築物)についても現状75%の耐震化率を10年後に90%とする全国目標が示された。今後,基本方針を踏まえて地方公共団体が耐震改修促進計画を速やかに作成することとされており,建築物の用途ごととするなど,より詳細で地域の状況等を踏まえた目標が定められ,着実に建築物の耐震化が促進されることが期待される。

図2−3−8 耐震改修促進法の改正 耐震改修促進法の改正の図

(d) 耐震診断,耐震改修補助制度の拡充

耐震改修には所有者等にとって決して小さくない費用負担が必要となるが,建築物の大半を占める民間建築物の耐震化を促進するためには,所有者等の費用負担軽減を図ることが重要である。このため,国土交通省においては,耐震改修及び耐震診断について,住宅・建築物耐震改修等事業により補助するとともに,地域住宅交付金やまちづくり交付金を活用して地域の自主的な取組みを支援してきたところである。

平成20年度第二次補正予算において,住宅・建築物耐震改修等事業については,緊急輸送道路沿道の住宅・建築物に係る地域要件(DID地区等内)を撤廃するとともに,地域住宅交付金の基幹事業に位置付ける等の制度拡充を行った。

更に,平成21年4月には,住宅・建築物安全ストック形成事業として事業を再編し,制度拡充を行った。

(e) 耐震改修促進税制の創設

所有者等の負担を軽減し,耐震改修を促進する施策の一環として,税制面では,平成18年度税制改正において耐震改修促進税制が創設され,住宅に関しては所得税及び固定資産税について,事業用建築物に関しては所得税及び法人税について特例措置が講じられている( 附属資料18 )。特に所得税における住宅の耐震改修促進税制については,平成21年度税制改正において適用要件が緩和されている( 附属資料18 )。本税制の活用により,補助制度と相まって,所有者等の費用負担が軽減され,建築物の耐震化が促進されることが期待される。

この他,耐震改修をした場合の住宅ローン減税を引き続き講じることで建築物所有者のインセンティブを高めるとともに,住宅ローン減税等の適用対象となる既存住宅の範囲に,新耐震基準に適合する一定の既存住宅を追加する措置を講じるなど建築物の耐震化を強力に促進している。

(f) その他の耐震化促進策

上記の耐震化促進策のほか,耐震改修工事については,住宅は住宅金融支援機構等,建築物は日本政策投資銀行の融資を活用することが可能となっている。また,平成12年からスタートした住宅性能表示制度により,地震に対する強さを第三者機関が評価し,等級表示をうけることが可能で,この等級に応じて地震保険の保険料について最大で30%の割引適用を受けることができるため,所有者等に耐震補強実施のインセンティブを与え,建築物の耐震化が促進されることが期待される。

また,地震保険への加入を促し,地震災害による被害への備えに係る自助努力を支援するため,平成18年度に所得税及び住民税の地震保険料控除が創設された。

(g) 学校の耐震化の促進

学校の耐震化の現状や,中国四川省の大地震により多数の学校施設が倒壊し,大惨事が発生したことなどを踏まえ,平成20年6月に議員立法により地震防災対策特別措置法が改正された。本改正により地震による倒壊の危険性が高い公立小中学校等施設の耐震化事業について,国庫補助率が引き上げられるとともに,地方財政措置の拡充が行われた。また,平成20年度補正予算による耐震関連予算の確保に伴い,平成20年4月にまとめられた「自然災害の『犠牲者ゼロ』を目指すための総合プラン」等において設定された目標を1年前倒しし,平成23年度までの4年間で危険性が高い公立小中学校施設の耐震化を目指している。また,あわせて,それら以外の地震による倒壊の危険性がある施設についても,市町村の要望に応じて耐震化を推進しており,取組みの一層の促進を行っている。

私立学校についても,地震による倒壊の危険性が高い幼稚園,小学校,中学校及び高等学校等の耐震改修事業について,平成20年度補正予算より補助率の引き上げを行っている。

(h) 病院の耐震化の促進

病院の耐震化については,平成20年4月にまとめられた「自然災害の『犠牲者ゼロ』を目指すための総合プラン」において災害時の医療の拠点となる災害拠点病院及び救命救急センターのうち非耐震化施設の約5割を耐震化する目標を設定している。民間病院については,平成20年度補正予算により災害拠点病院の耐震改修工事に対する国庫補助率の引き上げ,平成21年度予算からは災害拠点病院に加え,救命救急センター,病院郡輪番制病院,小児救急医療拠点病院等災害拠点病院以外の病院についても補助率の引き上げを行った。公立病院については地方財政措置の拡充をおこない,病院の耐震化の加速のために,取り組みの一層の促進を図っている。

(i) 国の庁舎の耐震化の促進

建築物の耐震化緊急対策方針(平成17年9月中央防災会議決定)においても,強力に国の庁舎等公共建築物の耐震化の促進に取り組むとの方針が決定されている。

これを受けて,平成18年4月「国の庁舎等の使用調整等に関する特別措置法」を改正し,不要となる施設の処分収入を活用し地震防災機能を発揮するために必要な庁舎を整備する制度を導入した。

(j) 表層地盤のゆれやすさ全国マップ

「建築物の耐震化緊急対策方針」でも対策として掲げられたとおり,個々の建築物の立地がどの程度の揺れに見合う場所であるかの情報をマップ化してわかりやすく周知することは,建築物の所有者等の意識を啓発し,建築物の耐震化を促進させることが期待される対策である。このため,平成18年3月の地震防災対策特別措置法の改正においても,マップの整備について,地方公共団体に対して努力義務とする規定が新たに設けられた。

内閣府では,全国を1km四方に区切って,どの地域が相対的にゆれやすいか(計測震度が工学物基盤面から地表に伝わる間にどれだけ増幅されるか)を概括的に表したマップを都道府県別に作成し,「表層地盤のゆれやすさ全国マップ」として,平成17年10月に公表した(図2−3−9)。このマップから,関東平野,大阪平野,濃尾平野など,多くの人が住み活発な経済活動が営まれている平野部が,ゆれやすい地盤で覆われている傾向があることを読み取ることができる。内閣府では,このマップをホームページ( http://www.bousai.go.jp//kohou/oshirase/h17/yureyasusa/index.html )に掲載するとともに,特にゆれやすい地域の住民の方々に対して,家具の固定,住宅の耐震診断や耐震補強などの対策を優先的に行うこと等の呼びかけを行っている。

更に,個々の建築物の所在地が認識可能となる程度に詳細なマップを作成・周知させることが建築物の耐震化促進に有効であることから,内閣府において50mメッシュによる市区町村レベルでのマップ策定を想定した地震防災マップの作成手法等を示したパンフレット及び技術解説資料をとりまとめ,地方公共団体に配布するとともに,ホームページ( http://www.bousai.go.jp//kohou/oshirase/h17/050513zisinmap.html )に掲載し,同マップの普及を図っている。

図2−3−9 表層地盤のゆれやすさ 表層地盤のゆれやすさの図

(k) 長周期地震動対策

海溝型地震のような巨大地震では,震源域が大きいこと等から,周期2〜20秒程度のやや長周期の地震動(以下「長周期地震動」という。)がより多く含まれる傾向がある。

このような長周期地震動は,厚い堆積盆地内で表面波として成長する等,地盤構造によっては振幅が更に大きくなり,継続時間も長くなることがある。

このため,超高層建築物や石油タンク内容物等の固有周期が長周期地震動の周期と近い場合,共振による被害の発生が懸念されており,長周期地震動が構造物に及ぼす影響等について調査研究を進め,新たな対策の必要性について検討を進めている。

平成16年3月17日には,長周期地震動に関する関係行政機関相互の密接な連携と協力の下に地震被害の軽減を図るため,「長周期地震動対策関係省庁連絡会議」(内閣府,防衛施設庁(当時),消防庁,文部科学省,経済産業省,農林水産省及び国土交通省により構成)が開催された。その後,定期的に同会議を開催して,長周期地震動が構造物に及ぼす影響等についての調査研究結果,各省庁の取り組み等について情報共有を行っており,平成20年11月20日には,第5回の会議を開催している。

2003年9月の十勝沖地震において,石油タンクの貯蔵物が長周期地震動と共振するスロッシング(液面揺動)が起こり,タンクの浮き屋根の破損と貯蔵物への引火による火災が起こった。この対策として,平成17年には特定屋外貯蔵タンクの浮き屋根の基準の策定,平成19年には浮き屋根の改修等に係る指針の取りまとめ等が行われている。

また,港湾構造物では,コンテナクレーンにおいて長周期地震動の影響が無視できないことから,設計で時刻歴応答解析による岸壁とクレーンの相互作用を考慮した耐震設計法により長周期地震動の影響を考慮している。長大橋においては,当初設計からの検討,あるいは,別途,長周期地震動を踏まえた耐震性照査の検討等を,建築物においては,長周期地震動を考慮した設計用地震入力波の作成やエレベーターにおける対策等の検討を,空港構造物においては,長周期成分を含む地震波を使用した対策の検討を行っている。

b 構造物の耐震診断・改修の推進

阪神・淡路大震災においては,道路,鉄道,港湾,住宅・建築物,ライフライン施設等の構造物の損壊が発生し,我が国の安全神話の崩壊が指摘された。そこで,それぞれの構造物により設計概念が異なっていた耐震基準について,共通の設計概念の下で新しい耐震基準へと見直し,安全な国土の形成,生命の安全確保を図ることとした。

このため,防災基本計画において,[1]構造物の使用期間中に1〜2回発生することが見込まれる一般的な地震に対してはそのまま使用が可能であること,[2]使用期間中に発生するか否か不確実ではあるが,ひとたび発生すれば甚大な災害となる大地震(関東地震や平成7年兵庫県南部地震等)に対しては人命に重大な影響を与えないこと,を共通の設計概念とすることを明記した。この考え方に基づいて施設ごとに耐震基準の見直しが行われるとともに,既存施設のうち耐震性の十分でないものについては耐震改修が進められている(表2−3−4)。

表2−3−4 主な施設・構造物についての耐震基準と耐震改修の現状 主な施設・構造物についての耐震基準と耐震改修の現状の表

(a) 液状化対策

我が国における大規模地震では,たびたび地盤の液状化が発生しており,平成15年の十勝沖地震,平成16年の新潟県中越地震や平成19年の能登半島地震,新潟県中越沖地震においても,各種施設において液状化の被害が見られた。

液状化に対しては,港湾施設において港湾施設の液状化防止対策の実施要綱を基本的な枠組みとして対策を積極的に推進するなど,民間・公共の建築物のほか,道路や港湾,電気・ガス・上下水道・通信網等について,施設の種類ごとにそれぞれ設計・施工指針が定められるなどして,対策の推進が図られている。

また,内閣府では,平成10年度に地方公共団体等が液状化マップを作成するための方法について解説した「液状化地域ゾーニングマニュアル」を作成し,都道府県等に配布することにより,液状化対策を推進しているところである。

国土交通省では,新潟県中越地震において液状化により下水道管きょの破損やマンホール浮上による交通障害を生じたことを踏まえ,下水道地震対策技術検討委員会を設置し,管路施設の本復旧にあたっての技術的緊急提言をとりまとめ,原則として,管路布設後に埋め戻す際,締固めや固化等を行い,液状化対策を講じることとした。

(b) 橋梁の耐震補強

国土交通省では,災害直後から緊急車両の通行を確保すべき緊急輸送道路にある橋梁約5万橋のうち,これまで落橋・倒壊の恐れのある橋梁を中心に耐震補強を進めてきた。しかしながら,依然として阪神淡路大震災クラスの地震が発生した場合,落橋・倒壊の恐れのある橋梁が約2千橋(約4%),損傷の恐れのある橋梁が約1万3千橋(約26%)存在することから(平成19年度末見込み),引き続きこれらの橋梁の耐震補強を重点的に進めていくこととしている。

また,新幹線の高架橋柱については,平成19年度末までに耐震補強を概ね完了した。

(c) 海岸堤防の耐震対策

農林水産省及び国土交通省では,大規模地震の逼迫性を踏まえゼロメートル地帯等で地域中枢機能集積地区を有する海岸を対象とした「海岸耐震対策緊急事業」を平成19年度に創設し,堤防等の耐震対策を推進している。

(d) 耐震強化岸壁の整備

国土交通省では,大規模地震の逼迫性が指摘されていることを踏まえ,「耐震強化岸壁緊急整備プログラム」(平成18年度〜平成22年度)を策定し,耐震強化岸壁の整備を推進している。

(e) 新幹線脱線対策

国土交通省は,平成16年の新潟県中越地震により上越新幹線が営業中に脱線したことを受け,新幹線を運行しているJR各社等からなる新幹線脱線対策協議会を開催し,脱線防止対策,被害軽減対策,鉄道構造物の耐震対策等について検討を行い,平成17年3月に協議会において,次のとおり中間的なとりまとめを行った。

<1> 活断層と交差する山岳トンネルや高架橋柱の構造物耐震対策の実施

<2> 地震検知・警報装置の検知点の増設及び更新による脱線防止対策の実施

<3> 仮に列車が脱線した場合においても線路から大きく逸脱することを防止するための施設,車両の両面からの逸脱防止対策の検討及び実施計画の策定

<4> レール締結装置やレール継目部の損傷防止策,脱線防止ガードの構造・設置方法,非常ブレーキの停止距離短縮化,早期地震検知システムの充実についての研究等の実施

このとりまとめを踏まえ,引き続き必要な対策や検討を進めることとしている。

(f) 水産物流通拠点となる漁港の耐震対策

農林水産省では,平成19年6月に策定された漁港漁場整備長期計画に基づき,地震発生後においても水産物供給の維持を図るとともに地震発生時に漁港で作業する人々の人命や資産の防護を図るため,水産物流通拠点となる漁港において,産地市場前面の陸揚げ用の岸壁の耐震化を促進している。

c 地震防災緊急事業五箇年計画の推進

阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,地震による災害から国民の生命,身体及び財産を保護するため,平成7年7月に「地震防災対策特別措置法」が施行された。この法律により,都道府県知事は人口,産業の集積等の社会的条件や地勢等の自然的条件等を総合的に勘案して,地震により著しい被害が生じるおそれがある地域について,「地震防災緊急事業五箇年計画」を作成することができることとなった。

また,平成18年3月に同法が改正され,国の負担割合の嵩上げ措置が5年間延長されるとともに,公立小中学校等の屋内運動場(体育館)の補強についてもその対象に追加された。併せて,都道府県防災会議が都道府県地域防災計画において,被害想定の実施とその被害軽減のための対策の実施に関する目標の設定を推進するとともに,関係地方公共団体は地震・津波に関するハザードマップの作成及び地域住民への周知を推進することとした。

更に,平成20年6月の同法改正では,公立小中学校等の学校施設について,耐震診断の実施及び耐震診断を行った建物(棟)毎の結果の公表を義務付けるとともに,倒壊の危険性が高いものについては,国の国庫補助率の更なる拡充が図られた。

「地震防災緊急事業五箇年計画」は,避難地,避難路,消防用施設,共同溝,地域防災拠点施設等の地震防災上緊急に整備すべき施設等に関する5か年間の計画であり,第1次五箇年計画(平成8−12年度:全都道府県で作成)では,全体で約14兆1千億円(対計画比76%)の事業が実施され,第2次五箇年計画(平成13−17年度:全都道府県で作成)では,全体で約10兆円(対計画比71%)の事業が実施された( 附属資料19 )。

現在,平成18年度を初年度とする第3次五箇年計画(平成18−22年度:全都道府県で作成)では,全体で約10兆9千億円の事業計画額を掲げ,地震防災緊急事業の計画的な推進を図っているところである。

d 震災に強いまちづくり

阪神・淡路大震災においては,高速道路や鉄道の高架の倒壊,コンテナ埠頭の崩壊など交通基盤に被害が相次ぐとともに,密集市街地における火災延焼,電気・ガス・上下水道・通信等ライフラインの被害,公園や緑地などのオープンスペースの不足等,現代の都市が地震に対し脆弱であることが露呈した。

このような脆弱な都市を震災に強い都市へと再生することが急務であり,被災時においてもその機能を維持できるようにするための構造物の耐震化や環状道路・バイパス道路の整備等による避難・緊急輸送活動の支援及び代替経路の選択が可能な交通ネットワークのリダンダンシーの確保,市街地火災の際延焼遮断帯となるとともに避難地や応急活動拠点にも活用可能な公園や広場などのオープンスペースの確保など,地震災害に対し強いまちづくりを推進することが重要である。

このような震災に強いまちは,交通基盤が整い,利便性が高く,空間的なゆとりのある緑豊かで快適なまちでもある。

特に,我が国においては,戦後,都市基盤の整備を伴わないまま人口や産業等の集中による都市化が急速に進展したため,防災上危険な密集市街地が形成されており,20世紀の負の遺産とも言われている。

このため,「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」(平成9年制定,平成15年,19年改正)に基づく防災再開発促進地区の指定や,土地区画整理事業,市街地再開発事業,住宅市街地総合整備事業等による面的整備によって,密集市街地の解消に努めているところである。この他,平成9年に都市防災推進事業を(平成14年度から都市防災総合推進事業へと制度移行),平成15年に特定防災街区整備地区制度・防災街区整備事業を創設し,避難地・避難路周辺等の建築物の不燃化等により都市の防災対策を総合的に推進している。

また,都市公園事業等により都市公園・緑地等の整備を推進しオープンスペースの確保に努めるとともに,被災時の応急対策活動の迅速化・円滑化を図るため,広域防災拠点や地域防災拠点となる都市公園の整備を推進している。

e 防災拠点施設の整備の推進

大規模災害時において,広域的に連携し,応急対策,復旧・復興活動を迅速・円滑に進めるためには,情報収集や指揮,物資の集配機能等を備えた広域的・中核的施設の整備と地域防災拠点や輸送拠点等とのネットワークの形成が必要である。

こうした背景を踏まえ,稠密な市街地が連たんする大都市圏における防災安全性の向上を図るため,都市再生プロジェクト第一次決定(平成13年6月)に基づき,東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点の整備及び京阪神都市圏における広域防災拠点の適正配置等に関する検討が進められており,また名古屋圏においても広域防災ネットワークの整備・連携に関する検討が進められている(詳細については, 3−1(7)「首都直下地震対策 」, (8)「中部圏・近畿圏直下地震対策」参照 )。

一方,地域における災害対策活動の拠点となる防災拠点の質的・量的向上を図るため,内閣府において,地方公共団体による優良な防災拠点施設の整備を地域防災拠点施設整備モデル事業により支援し,こうした施設整備の普及を推進している。平成8年度の事業創設以来,平成20年度までに東京都目黒区など40か所において施設が完成し,現在,徳島県等において事業を実施している( 附属資料20 )。

f 都市型震災対策

平成17年7月23日に発生した千葉県北西部を震源とする地震に対しての政府の対応状況にかんがみ,都市型震災に対する対策を一層推進するため,政府は,都市型震災対策関係省庁局長会議を開催し,震度情報,鉄道運行・道路,エレベーター,建築物の地震対策(天井及び窓ガラスの落下防止対策)等,検討すべき課題及びその対策について検討状況を取りまとめ,関係省庁間で情報共有・連携推進を図った。

第1回会議(同年7月),第2回会議(同年9月。なお,平成17年3月の福岡県西方沖を震源とする地震及び同年8月の宮城県沖を震源とする地震において明らかになった課題も検討課題として追加。)を経て,平成18年4月の第3回会議において,それぞれの課題に対する具体的な対策に係る検討結果等について取りまとめた(図2−3−10)。

図2−3−10 都市型震災対策関係省庁局長会議の検討結果 都市型震災対策関係省庁局長会議の検討結果の図

g 中山間地等の集落散在地域における地震防災対策

平成16年の新潟県中越地震では,震源付近の強い揺れに伴い主に山間部において土砂災害が多発し,交通の寸断や情報通信の途絶により,旧山古志村をはじめとした61地区(新潟県調べ)の集落が孤立した。地震発生が夜間であったこともあり,孤立した集落の被害状況の把握に時間がかかるなど,中山間地の集落散在地域における地震災害に特有の問題が顕在化した。

内閣府では,学識経験者等からなる「中山間地等の集落散在地域における地震防災対策に関する検討会」を開催し,中山間地特有の課題(多数の孤立集落の発生,高齢者の避難生活に係る課題等)への対策について検討を行い,平成17年8月に地震防災対策の提言をとりまとめた。本提言においては,孤立対策として,集落と外部間の多様な通信手段の確保,物資供給・救助活動を適切に実施するための準備,備蓄の整備・拡充等による孤立に強い集落づくり,道路・ライフライン等の寸断への対応,津波に伴う孤立対策等の実施を求めている。また,避難生活に関する対策として,災害時要援護者の避難支援や防犯対策等が必要とされている。今後の課題として,地方公共団体において孤立可能性のある集落の実態のさらなる把握に努めるとともに,本提言を基に,中山間地等の地震防災対策について,具体的な対策を地域防災計画に明記し,推進すべきであるとしている。

平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震においても,がけ崩れ等土砂災害により道路が寸断され,孤立集落が発生した。一時外部との連絡が取れない集落もあり,孤立するおそれがある集落における地震防災対策の必要性が改めて認識された。このため,内閣府は,地震及び津波により孤立するおそれがある全国の中山間地等における孤立対策の実施状況を把握して現在の課題を抽出するとともに,学識経験者から意見の聴取等も行い,効果的な孤立集落の地震防災対策の検討を更に行うこととしている。

h 重要文化財及びその周辺地域の総合的な防災対策

平成20年2月に開催された中央防災会議において,中部圏・近畿圏の直下地震による文化遺産の被災の可能性について,「東南海,南海地震等に関する専門調査会」から報告された。この報告では,地震の揺れ及び重要文化財建造物等の周辺で地震に続いて発生する可能性のある同時多発性の市街地大火からの延焼により,多数の重要文化財建造物の被災の可能性が指摘された。

様々な災害が想定される中で,特に,地震時に想定される災害から重要文化財建造物を守ることが喫緊の課題となっていることから,様々な分野からなる学識経験者や文化財所有者等から構成される「重要文化財建造物の総合防災対策検討会」において平成20年7月より総合的に検討が行われ,平成21年4月の中央防災会議に「重要文化財建造物及びその周辺地域の総合防災対策のあり方」として報告された。本あり方では,重要文化財建造物が所在する地域の防災対策のあり方,文化財に求められる防災設備のあり方及びそれらの実現方策等について提言がなされ,特に,重要文化財建造物とその周辺地域を一体的に捉え,地域全体の防災力を高めることの重要性が示されており,地震時にも使用可能な耐震性を備えた水利・管路の確保や消火施設の整備等のハード対策及び文化財所有者と地域住民による共助体制の構築等のソフト対策が必要とされている。

i 事業所等における自衛消防力の確保

切迫する大地震の危険に対応するため,平成19年6月の消防法改正により,大規模・高層建築物等の管理権原者は,防災管理者を定め,地震災害等に対応した消防計画を作成し,地震発生時に特有な被害事象に関する応急対応や避難の訓練の実施その他防災管理上必要な業務を行うこととされ,また,地震災害等による被害を軽減するために必要な業務を行う自衛消防組織を設置することが義務付けられた。

改正消防法の施行は,平成21年6月1日とされており,事業所においては,改正消防法に基づき,実践的な訓練の実施やその検証結果を踏まえた計画・体制の見直し等,継続的な取組みが必要となっている。


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