序章 4 災害リスクの変化に対応した「防災力」の強化



3 災害リスクの変化に対応した「防災力」の強化

自然現象の変化,都市化の進展,地域の高齢化やコミュニティの変化などにより新たな防災上の課題が発生しているが,その対応にあたっては,行政,地域,個人などの各主体が,災害をとりまく環境の変化及びそれに伴って生じている防災上の課題を正しく認識して適切な行動をとることが必要となる。例えば,豪雨の増加,海面上昇などによる水関連災害のリスク増加に対して,行政は,治水対策の着実な推進を図るとともに,地下空間からの避難体制の整備や浸水情報の収集・伝達体制の整備等を進める必要があると考えられる。一方で,個人や地域についても,行政等の情報から現在自分たちが置かれている状況について正しく認識し,避難場所や避難経路の確認,家族との連絡方法の取り決めなど,あらかじめ災害に備えておくことが必要である。また,地域の高齢化やコミュニティの変化に伴う高齢者や外国人などいわゆる災害時要援護者への対策については,行政と自主防災組織等が連携して要援護者情報の収集・共有を図り,一人ひとりの要援護者に対する支援方法を定めるとともに,曜日や時間帯,活動内容を工夫するなどにより,住民の地域の防災活動への参加を促し,地域の防災力強化を図ることが重要である。

(正しい災害リスク認識に基づき,自分の身は自分で守る「自助」の充実を)

意識調査においては,約6割の人が最近の災害リスクの高まりを認識しており,約75%の人が将来の災害リスクは高まると考えている。また,災害発生時には自分や家族を頼りにしている人が多いなど,災害への関心や「自助」についての意識が一定程度定着していることが明らかになった。しかしながら,同時に,意識はあるものの具体の行動には結びついてないという実態も明らかになった。自然環境の変化や都市化が進んでいる中では,自分が住む地域にどのような災害リスクが発生しているのか正しく認識し,それに基づいて避難行動を取ることが重要と考えられるが,「ハザードマップなどにより危険な場所を認識している」人は1割にも満たず,「近くの学校や公園など避難する場所,経路を決めている」という人も25%未満となっている。

災害発生時には防災機関などが迅速な対応をとることは当然であるが,これまでの統計や経験則を上回るような災害が発生するリスクがある中では,一人ひとりが日常から災害予防に心がけるとともに,災害発生時の状況に応じて適切な判断,行動をとることも重要である。

(地域の実情に合わせた実効性のある「共助」体制の構築を)

地域での助け合いなどの「共助」については,過去の災害の例を見ても,阪神・淡路大震災では,倒壊した家屋のがれきの下敷きになり救出された人のうち,約8割が家族や近所の方々の「共助」により救出されたという報告があるなど,災害時には欠かせないものである。また,平常時においても,過去の災害経験を共有したり,防災訓練などを通じて住民に実践的な防災時の行動方法を身につける場などとして,地域での「共助」は災害予防面でも重要な役割を果たすものである。

しかしながら,近年の災害リスクの高まりの要因の一つには,地域全体の高齢化や地域コミュニティの希薄化などにより,この「共助」が効果的に機能しにくくなってきているという状況が挙げられる。例えば,地域における「共助」の主要な担い手である消防団については,団員数は年々減少傾向にあり,また,年齢構成も高齢化が進んでいるところである。

一方,今回の意識調査では,地域の防災活動に関心があるという人が一定割合見られ,また,条件が整えば地域の防災活動に参加したいと回答した人も多く見られたところであり,活動内容や活動日時等を工夫することにより地域の防災活動は活性化できる可能性を示している。なお,意識調査では,年齢層により地域の防災活動への関心度合いは異なっており,また,地域の防災活動へ参加するに当たっての条件についても,「曜日や時間が参加しやすいものであれば参加したい」という人は30代,40代などに多く,70代以上では「活動内容や役割を選べれば参加したい」が多くなっており,地域の防災活動を活性化するためには留意しておく必要がある。

また,「共助」のあり方として防災ボランティア活動の重要性も認識されてきている。阪神・淡路大震災以降,多数の災害において防災ボランティア活動が展開されており,平成19年新潟中越沖地震の際には延べ2万8千人以上が屋内での転倒,散乱した家具等の片付け,救援物資の仕分け等の活動を行っているところである。

今後,さらなる高齢化が進み,また,地域コミュニティも変化していく中では,従来の家族や地縁的な結びつきを主とした「共助」の充実・強化を図るだけでなく,各地域の実情に即して,行政とそれ以外の多様な主体とも連携した「共助」の体制を構築し,災害リスクの高まりに対応していくことも重要である。

(各種変化に対応した「公助」の充実により,「自助」「共助」の後押しを)

災害から住民の生命,財産を守ることは行政の最も基本的な役割の一つであり,災害に負けない安全・安心な社会をつくることは行政に課せられた使命である。災害被害軽減のために「自助」「共助」が果たす役割が大きいとはいえ,行政による「公助」の対応が基本となるものであり,十分な「公助」の取組みの上に「自助」「共助」の効果が発揮されるものである。例えば,行政による正確な災害リスク情報の提供がなければ住民は実効的な避難計画を立てることはできず,また,要援護者対策を進めるにあたっても行政において,避難等に際して支援を要する者に関する情報収集・共有を積極的に行わなければその推進は困難である。

意識調査においては,全体として60%近くの人が行政の防災活動に関心を持ち,また,年齢層が高くなるほどその関心は高まっており,具体的な対策として,水・食料などの備蓄,地域の防災体制の情報提供,災害救助体制の充実,災害の危険度や避難場所等を示した情報の整備など様々な対策を期待している。災害発生時に実際に役に立つものとして行政を挙げる人は25%にとどまるものの,7割以上の人が災害発生時には行政に役に立ってほしいと考えており,さらなる行政の防災対策の充実が求められている。自然現象や社会の変化に伴って新たな防災上の課題が顕在化してきている中,高まりを見せる災害リスクから国民を守るために必要な防災対策を行政自らが進めるとともに,自然現象や社会の変化についての的確な分析に基づく情報提供などにより,「自助」「共助」が効果的に実践されるよう支援していくことが必要である。


1 国土交通省,第3回「中小河川における水難事故防止検討WG」資料2,2008

./pdf/06_%EF%BC%88%E8%B3%87%E6%96%99%EF%BC%92%EF%BC%89%E5%8F%82%E8%80%83%E8%B3%87%E6%96%99.pdf 別ウインドウで開きます

2 国土交通省HP「水害対策を考える」

http://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/bousai/saigai/kiroku/suigai/suigai_3-4-2.html別ウインドウで開きます

3 内閣府,国土交通省による関係機関ヒアリング調査,2008年11月

4 国土交通省「国土形成計画策定のための集落の状況に関する現況把握調査」〜最終報告〜,2006

./pdf/01.pdf (PDF形式:251.2KB)別ウインドウで開きます

5 内閣府「孤立集落アンケート(中山間地等の集落散在地域における地震防災対策に関する検討会)」,2005

http://www.bousai.go.jp./pdf/koritsushuraku.pdf (PDF形式:294.5KB)別ウインドウで開きます

6 (社)地盤工学会・阪神大震災調査委員会「阪神・淡路大震災調査報告書(解説編)」1996年,第6章

../../../../../../tolink/out1035.html

7 東京都中央区「中央区高層住宅防災対策検討委員会報告書」,2006

http://www.city.chuo.lg.jp/kurasi/saigai/bosai/kousoujutakuhoukoku/index.html別ウインドウで開きます

8 国土交通省「大都市圏におけるコミュニティの再生・創出に関する調査結果」,2005

./pdf/01.pdf (PDF形式:251.2KB)別ウインドウで開きます

9 (独)防災科学技術研究所『主要災害調査』第38号「都市型水害としての東海豪雨災害:意識調査報告」,163—176,2002

./pdf/3805.pdf 別ウインドウで開きます

10 我が国に住む外国人登録者数は平成19年時点において約215万人となり過去10年間で1.5倍に増加(総務省「外国人台帳制度に関する懇談会報告書」2008年)

./pdf/081218_1_dai1.pdf 別ウインドウで開きます

11 意識調査では「災害リスク」を「台風,豪雪,地震等の自然現象が発生したときに被害を受けるリスク」と定義し,「災害を引き起こす自然現象そのものの大きさと自然災害を受ける社会の脆弱性の程度によりリスクは増減すると考えられる。」との補足を行った。


所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.