4−1 震災対策



4 自然災害対策

4−1 震災対策

(1)地震の発生と被害状況
a 我が国における地震の概要
 我が国は,海洋プレート(太平洋プレート,フィリピン海プレート)及び陸側のプレートの境界部に位置し,日本周辺で,太平洋プレートが千島海溝,日本海溝及び伊豆・小笠原海溝で陸側のプレートとフィリピン海プレートの下に沈み込み,またフィリピン海プレートが南西諸島海溝,南海トラフとその延長である駿河トラフ及び相模トラフで陸側のプレートの下に沈み込んでいる(図2−4−1)。このように複雑な地殻構造の上に位置する我が国は,世界的に見ても地震の発生の多い国(図2−4−2)であり,過去より頻繁に大きな被害を生じるような地震に見舞われてきた(表2−4−1)。

我が国の主な被害地震(明治以降)

緊急時の防災情報発表のための地震及び震度観測

我が国の主な被害地震(明治以降)

 これまで大きな被害を及ぼしてきた地震を大別すると,以下のようになる。
 一つは,プレートの境界付近で発生する地震で,プレート間で発生する地震と海洋プレート内で発生する地震がある。プレート間の地震では,大きな被害をもたらした関東大地震(大正12(1923)年)や南海地震(昭和21(1946)年)等が代表とされる。このタイプの地震は沈み込みに伴うプレートの変形が限界に達し,元に戻ろうとして急激に運動する際に発生し,場所によって異なるが,数百年程度の間隔で繰り返し発生すると言われている。また海域の比較的震源が浅い地震であることから津波を伴うことが多い。近い将来に発生が予想されている東海地震や東南海・南海地震も,このタイプの地震と考えられている。海洋プレート内で発生する地震では,昭和三陸地震津波(昭和8(1933)年),平成5年(1993年)釧路沖地震や平成13年(2001年)芸予地震等はこれにあたり,このタイプの被害地震も多く経験している。
 もう一つは,陸域の浅い地震で,プレートの沈み込み等の影響を受けて内陸のプレートが歪むことなどにより歪エネルギーが蓄積され,地下の断層の破壊で解放されることにより発生するタイプの地震がある。濃尾地震(明治24(1891)年),福井地震(昭和23(1948)年),平成7年(1995年)兵庫県南部地震,平成12年(2000年)鳥取県西部地震,平成16年(2004年)新潟県中越地震,平成17年の福岡県西方沖を震源とする地震はこのタイプの地震である。断層のうち,最近の地質時代以降(約200万年前以降)に数千年から数万年程度の発生間隔で繰り返し活動していることから,将来も活動すると推定されている断層を活断層と呼んでいる。
 その他,我が国は多くの活動的な火山を有することから,火山活動に伴う地震も過去に多く発生しており,例えば平成12年(2000年)有珠山噴火においては,3月末の活動に前後して山麓で最大震度5弱となる地震が3回発生した。
b 平成17年度の主な被害地震
 平成17年度に発生した地震のうち被害が生じた主なものは次のとおりである。
(a)千葉県北東部を震源とする地震
 平成17年4月11日,千葉県北東部の深さ52kmを震源とするM6.1の地震が発生し,千葉県,茨城県の一部で震度5強を観測した。この地震により負傷者1名等の被害が発生した。
(b)福岡県西方沖を震源とする地震
 平成17年4月20日,福岡県西方沖の深さ14kmを震源とするM5.8の地震が発生し,福岡県の一部で震度5強を観測した。これは,同年3月20日に発生したM7.0の地震(本震)の余震である。この地震により負傷者58名等の被害が発生した。
(c)熊本県天草芦北地方を震源とする地震
 平成17年6月3日,熊本県天草芦北地方の深さ11kmを震源とするM4.8の地震が発生し,熊本県の一部で震度5弱を観測した。この地震により負傷者2名の被害が発生した。
(d)新潟県中越地方を震源とする地震
 平成17年6月20日,新潟県中越地方の深さ15kmを震源とするM5.0の地震が発生し,新潟県の一部で震度5弱を観測した。この地震により負傷者1名等の被害が発生した。
(e)千葉県北西部を震源とする地震
 平成17年7月23日,千葉県北西部の深さ73kmを震源とするM6.0の地震が発生し,東京都の一部で震度5強を観測した。この地震により負傷者38名,エレベータの閉じ込め78件等の被害が発生した。
(f)宮城県沖を震源とする地震
 平成17年8月16日,宮城県沖の深さ42kmを震源とするM7.2の地震が発生し,宮城県の一部で震度6弱を観測した。この地震により負傷者100名,全壊家屋1棟,住家一部破損984棟等の被害が発生した。
(g)新潟県中越地方を震源とする地震
 平成17年8月21日,新潟県中越地方の深さ17kmを震源とするM5.0の地震が発生し,新潟県の一部で震度5強を観測した。この地震により負傷者2名の被害が発生した。
(h)茨城県沖を震源とする地震
 平成17年10月19日,茨城県沖の深さ48kmを震源とするM6.3の地震が発生し,茨城県の一部で震度5弱を観測した。この地震により負傷者2名の被害が発生した。
(2)地震に関する調査研究・観測の推進
a 地震の監視・観測と地震情報
(a)地震活動の監視,観測
 気象庁は,地震発生時に速やかに震源の位置や地震の規模を推定し,地震に関する情報や津波予報を発表するため,全国に地震計を設置して,オンラインで観測データを収集し,地震活動を監視している。また,地震発生時に各地の揺れの強さを直ちに知るため,全国に震度計を設置するとともに,独立行政法人防災科学技術研究所の震度計機能を有する強震計や地方公共団体の震度計を活用することによって,高密度な震度観測網が構築されている(表2−4−2)。

緊急時の防災情報発表のための地震及び震度観測

 いつ発生してもおかしくないとされる,駿河湾付近のプレート境界を震源とする東海地震の発生直前の前兆現象を捉えるため,関係機関において東海地域及びその周辺に地震計や地殻岩石歪計,GPS等の観測網が整備され,気象庁において,関係機関と連携のもと,これらのデータについて異常がないか監視している。
 地震調査研究推進本部は,平成9年8月に「地震に関する基盤的調査観測計画」を,平成13年8月に「地震に関する基盤的調査観測計画の見直しと重点的な調査観測体制の整備について」を,平成17年8月に「今後の重点的調査観測について」を決定し,文部科学省,気象庁,国土地理院,独立行政法人防災科学技術研究所,国立大学法人等の連携のもと,この計画に基づいて地震観測の体制整備を進めている(表2−4−3)。同本部の方針の下,気象庁は,同本部が置かれている文部科学省と協力して,即時的に流通される独立行政法人防災科学研究所や国立大学法人等の保有する高感度地震計のデータと,気象庁のデータを併せて一元的に処理を行っている。これらの観測データは関係機関で共有され,地震調査研究推進本部において地震活動の評価等に活用されるとともに,気象庁において地震活動の監視に活用されている。なお,独立行政法人防災科学研究所や国立大学法人等の保有する広帯域地震計のデータについても即時的な流通がなされ地震活動の評価等に用いられている。

地震・地殻活動の詳細な把握,調査研究のための基盤的観測

(b)地震情報
 日本及びその周辺で規模の大きな地震が発生した場合,地震発生直後の防災機関の的確な初動対応や国民への情報提供のため,気象庁は地震に関係した各種の情報を発表する。これらの情報は関係省庁,関係地方公共団体等の関係機関や報道機関に直ちに伝達され,これらの機関を通じて,一般住民にも伝達されている。主な情報は次のとおりである。
 震度3以上が観測された場合には,地震発生後2分程度で震度3以上の地域の震度を 「震度速報」として発表し,5分程度で震源の位置,地震の規模及び大きな揺れを観測した市町村の震度を「震源・震度に関する情報」として発表する。津波の発生が懸念される場合には,地震発生後3分程度で,予想される津波の高さやその範囲について「津波予報」や「津波情報」を発表する(図2−4−3)。
 東海地震については,平成16年1月より新しい情報体系となった(詳細については4−1(4)「東海地震対策」を参照)。観測データが異常を示し,東海地震の前兆の可能性が高まったと認められる場合には,「東海地震注意情報」が発表される。さらに東海地震が発生するおそれがあると認められた場合には,「地震予知情報」を気象庁長官が内閣総理大臣に報告し,その内容を「東海地震予知情報」として発表することとしている。

日本列島とその周辺のプレート

b 地震情報に関する取組
(a)地震発生直後の緊急地震速報の実用化
 緊急地震速報とは,地震発生後に最も早く到達するP波(縦波:地殻の中では速さ6〜7km/s)と遅れて到達して主要な破壊現象を引き起こすS波(横波:地殻の中では速さ3.5〜4km/s)の時間差を利用して,震源に近い地点でP波を検知し直ちに震源や地震の規模の推定及びS波の到達時刻や震度の予測を行い,S波が到達するまでの間に情報提供を行うことを目指すものであり,大きな揺れが到達する前に防災対応をとることにより地震災害の防止,軽減に資するものである。気象庁において平成11年度から技術開発を行い,情報提供体制の整備を進めている。また,独立行政法人防災科学技術研究所では,気象庁と連携し,平成15年度から即時的地震情報の精度向上等のための研究開発(実証的なものを含む)を行っている。
 気象庁では,緊急地震速報に対応した地震計を平成17年度までに全国およそ200箇所に整備した。平成16年2月から鉄道事業者,建設業者,地方公共団体等約250(平成17年度末現在)の関係機関の参加のもと,試験的な情報提供を行い,本格的な運用に向けて検討を重ねてきた。緊急地震速報の性質上,その提供を受けた者の理解不足による無用な混乱や損害等が発生するおそれがあることから,平成17年11月から,本格的な運用に向けて,広く国民に対する緊急地震速報についての十分な周知と,混乱等を引き起こさないための適切な情報提供のあり方等について検討を行っている。
(b)地方公共団体等の取組
 地方公共団体等においても地震の揺れの観測結果を活用するシステムを導入しており,例えば横浜市においては,地震発生直後に市域内の地震動の状況をきめ細かく把握し,災害応急対策を支援する「高密度強震計ネットワークシステム」の運用を平成8年5月から開始している。その他,地方公共団体の中には,出火危険や延焼危険等の消防活動に必要な被害状況を事前に予測するシステムの開発を行っているところもある。この他,公共機関においても,海岸線等に配置した地震計により必要な警報や情報を列車運行システムに発信するシステムの運用を図ったり(JRの早期地震検知警報システム:ユレダス),ガス供給区域内のセンサー等からの情報やあらかじめデータベース化された地盤や導管情報などから被害推定を行い,ガスの供給停止判断の支援や供給停止制御を行う(東京ガスの地震防災システム:「超高密度リアルタイム地震防災システムSUPREME)など,様々な取組がなされている。

コラム

c 地震に関する調査研究の推進
(a)地震調査研究推進本部
 地震調査研究推進本部(http://www.jishin.go.jp/main/index.html別ウインドウで開きます)は,阪神・淡路大震災を契機に成立した地震防災対策特別措置法に基づいて総理府に設置され(現在は文部科学省に設置),また,本部の下には政策委員会及び地震調査委員会が設けられている。
 政策委員会においては,①総合的かつ基本的な施策の立案,②関係行政機関の予算等の事務の調整,③地震に関する調査観測計画の策定,④地震に関する総合的な評価に基づく広報,に当たっての検討を実施している。
 地震調査委員会においては,関係行政機関,大学等の調査結果等の収集,整理,分析及び総合的な評価を行うこととしており,地域の地震活動について分析・評価を毎月実施しているほか,被害地震が発生した場合等にも臨時に会合を開催している。また,地震防災対策に役立てるため,地震発生の可能性の長期的な評価と強震動の予測を組み合わせ,全国を概観した地震動予測地図を平成17年3月に作成・公表した。その一環として,我が国で約2,000あるといわれている活断層のうちの主要な98断層帯で発生する地震及び7の海域で発生する海溝型地震についての規模や確率を予測する長期評価を実施した。また,このうち11の断層帯で発生する地震及び3の海溝型地震を取り上げ,地震発生時の揺れの予測手法の高度化について検討を行うとともに,その手法を用いた評価結果を公表した。
(b)科学技術・学術審議会(測地学分科会)
 我が国における地震予知に関する計画的研究は,昭和39年の「地震予知研究計画の実施について」以来,文部省測地学審議会(現在の文部科学省科学技術・学術審議会(測地学分科会))が建議する計画に基づき推進されてきた。
 測地学審議会は,兵庫県南部地震を契機として,第7次地震予知計画(平成6年度から平成10年度)の見直しを行った。平成9年6月には,第1次計画以来の地震予知計画を総点検し,総括的な計画の見直しを行い,「地震予知計画の実施状況等のレビューについて」を報告した。このレビュー等を踏まえ,第7次計画までの成果を引き継ぎ,さらに発展させて,新たな考え方の導入を図るため,平成11年度からの第8次計画からは「地震予知のための新たな観測研究計画」とし,平成15年7月には,平成16年度から平成20年度までの計画である「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の推進について」が建議された。
(c)地震予知連絡会
 地震予知連絡会(http://cais.gsi.go.jp/YOCHIREN/ccephome.html別ウインドウで開きます)は,測地学審議会建議「地震予知の推進に関する計画の実施について」(第2次地震予知計画)に基づき,昭和44年4月に発足した(事務局:国土地理院)。同連絡会は,関係行政機関及び大学等と連携し,地震予知に関する調査・観測・研究結果等の情報を交換し,これらに基づき学術的な検討を行っている。
(d)その他
 文部科学省は,地震調査研究推進本部の方針を踏まえ,平成16年度まで都道府県及び政令指定都市に地震関係基礎調査交付金を交付し,主要98断層帯等を対象として,活断層調査を実施した。平成17年度からは,強い揺れに見舞われる可能性が相対的に高いと判定された地域の特定の地震を対象とした重点的調査観測や,基盤的調査観測の対象となる基準(長さ,活動度等)を満たすことが新たに判明した活断層に対する追加調査及びこれまでに行った長期評価の信頼度を高めるための補完調査を実施している。
 また,独立行政法人産業技術総合研究所では,今後100年間に地震が発生する可能性をできるだけ正確に見積もることを目的に,全国の主要な断層帯等について,必要に応じ他機関との連携の下,活動履歴調査を実施するとともに,活断層及び古地震による地震発生予測の研究を行っている。
 国土地理院においては,平成7年度から,空中写真の判読等による地形学的手法により,都市域及び都市周辺地域の活断層の位置を詳細に記した1/25,000「都市圏活断層図」を作成しており,平成17年度末までに124面の地図を公表した。
d 地震被害想定
 大規模地震が発生した際に効果的な対応を図るためには,想定される被害に対して国や地方公共団体などがあらかじめ共通の認識を持って,予防・応急対策に備えることが重要である。
 こうしたことから,具体的な防災対策を検討し,防災対策の強化を図るため,中央防災会議の地震対策関係の各専門調査会において,人的・物的・経済に関し定量的な被害想定を実施してきた。発生の切迫性が高い東海地震の被害想定を平成15年3月に,今世紀前半にも発生のおそれがあり,発生した場合に甚大な被害が予想される東南海・南海地震について平成15年9月に結果を公表した。ある程度の切迫性が指摘され,首都に高度に集積する各種中枢機能に大きな被害を及ぼすおそれがある首都直下地震については,平成16年12月と平成17年2月に公表した。繰り返しM7〜8クラスが発生している日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震については,平成18年1月に結果を公表した。現在,「東南海,南海地震等に関する専門調査会」において検討が進められている,中部圏,近畿圏の直下で発生する地震についても,被害想定を行うこととしている。
 この他,内閣府では,関係地方公共団体における地震被害想定の作成を支援するため,平成9年8月に震源の位置や規模から地震動分布,建物被害,火災被害,人的被害,交通被害,上水道被害等を推計するための「地震被害想定支援マニュアル」を策定するとともに,これらのうち地震動分布,建物被害,人的被害についてパソコン上で自動的に推計することができる「地震被害想定支援ツール」を開発し,平成11年1月よりインターネット上で公開している(http://www.bousai.go.jp/)。このツールは,地方公共団体の地域防災計画作成のための被害想定にも参考にされるなど,有効に活用されているところである。
 地震被害早期評価システム(EES)(4−1(9)「総合防災情報システムの整備」参照)は,気象庁から配信される各地の震度を自動的に入力することにより建築物倒壊棟数,人的被害数を推計するものであるのに対し,本ツールは震源断層パラメータとマグニチュードを入力することにより上記被害量を推計するものである。
 また,消防庁においても,パソコンを用いて地震被害想定を行うことができる「簡易型地震被害想定システム」を開発し,都道府県等に配布した。このシステムでは,活断層データ,地震データ等を用いて,家屋倒壊数,出火件数,人的被害数の推計を行うことができる。
 これらのシステムは,平常時においては防災に関する各種計画の見直しや住民の防災意識の啓発等に役立てることが可能であり,地震直後においては,地震被害の規模や被害の大きい地域を推定する際の参考資料として活用することができるものである。
e 長周期地震動対策
 海溝型地震のような巨大地震では,震源域が大きいこと等から,周期2〜20秒程度のやや長周期の地震動(以下「長周期地震動」という。)がより多く含まれる傾向がある。このような長周期地震動は,厚い堆積盆地内で表面波として成長する等,地盤構造によっては振幅がさらに大きくなり,継続時間も長くなることがある。
 このため,長周期地震動の構造物に及ぼす影響について調査研究を進め,新たな対策の必要性を検討する必要がある。
 平成16年3月17日には,長周期地震動に関する関係行政機関相互の密接な連携と協力の下に地震被害の軽減を図るため,「長周期地震動対策関係省庁連絡会議」(内閣府,防衛施設庁,消防庁,文部科学省,経済産業省,農林水産省及び国土交通省により構成)が設置され,現在進行中の土木学会,日本建築学会の活動と十分に連携し,長周期地震動が構造物に及ぼす影響について調査研究を進めるよう具体的に検討している。
 また,中央防災会議「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」では,厚い堆積層で覆われている北海道の平野部での長周期地震動の特徴についてとりまとめ,平成18年1月,報告書として公表した。
(3)地震に強い国土の形成
 従来,我が国の震災対策は災害対策基本法に基づく防災基本計画等を中心として推進してきたが, 平成7年1月に発生し,死者6,400余名,負傷者43,700余名に上る戦後最大の惨事となった阪神・淡路大震災は,我が国の震災対策を推進していく上で大きな課題を残した。
 阪神・淡路大震災において大量の犠牲者を出す最大の要因となったのは,全死者数の8割以上を占める,昭和56年以前に建築されたいわゆる既存不適格住宅の倒壊による圧死等であり,さらに,住宅密集市街地等において建物の倒壊に加えて発生した火災によって,より多くの犠牲者を出すこととなった(図2−4−4)。

阪神・淡路大震災における犠牲者(神戸市内)の死因

 また,地震発生直後における情報集約が不十分で,死者数や建物倒壊数等の被害規模の把握に時間を要したために初動対応が遅れたこと,交通施設の損壊や道路交通の集中が原因となって発生した極度の渋滞により,避難・救急救命・消火・緊急輸送等の応急活動に著しい支障をきたしたことのほか,物資提供,医療活動,ボランティア活動,高齢者等の災害時要援護者に係る生活再建等多くの面で課題が明らかになった。
 これらを教訓として,阪神・淡路大震災以降様々な対策が講じられてきており,災害対策基本法の改正や防災基本計画の抜本的な見直しが行われたのをはじめ,地震防災対策特別措置法,建築物の耐震改修の促進に関する法律,密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律等の制定,公共施設の耐震基準の見直し等による建築物等の耐震性の強化や都市の不燃化の推進,内閣情報集約センターの設立や地震防災情報システム(DIS)の整備による初動体制の強化等,さまざまな施策の推進が図られている。
 さらに,中央防災会議の「今後の地震対策のあり方に関する専門調査会」において,我が国の地震対策の現状を詳細かつ体系的に把握・分析するとともに,実効性のある地震防災体制や地震防災施設の整備のあり方など,今後の地震対策の基本的な方向について検討を行い,提言「今後の地震対策のあり方」がまとめられた。同提言は,平成14年7月の中央防災会議に報告され,政府として提言を踏まえた地震防災対策を講じていくことが了承された。
 なお,同調査会における検討の一環として,我が国の地震対策の現状を把握・分析するため,平成13年度末時点における地震防災施設等の整備の現状に関する調査を内閣府において全国で初めて一斉に実施し,平成15年1月に最終報告としてとりまとめた(表2−4−4)。
 調査結果によると,発災後に必要となる対策に比べ,建築物の耐震化や避難地・避難路の整備など人命に関わる事前の対策が進んでいないこと,都道府県ごとにばらつきが見られることなどが分かった。

地震防災施設の現状に関する全国調査/総括表

a 地震防災緊急事業五箇年計画の推進
 阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,地震による災害から国民の生命,身体及び財産を保護するため,平成7年7月に「地震防災対策特別措置法」が施行された。この法律により,都道府県知事は人口,産業の集積等の社会的条件や地勢等の自然的条件等を総合的に勘案して,地震により著しい被害が生じるおそれがある地域について,「地震防災緊急事業五箇年計画」を作成することができることとなった。
 また,平成18年3月に同法が改正され,公立小中学校等の非木造校舎の補強等に関する国の負担割合の嵩上げ措置が5年間延長されるとともに,公立小中学校等の非木造屋内運動場(体育館)の補強に対する国の負担割合の嵩上げ措置が創設された。併せて,都道府県防災会議が都道府県地域防災計画において,被害想定の実施とその被害軽減のための対策の実施に関する目標の設定を推進するとともに,関係地方公共団体は地震・津波に関するハザードマップの作成及び地域住民への周知を推進することとした。
「地震防災緊急事業五箇年計画」は,避難地,避難路,消防用施設,共同溝,地域防災拠点施設等の地震防災上緊急に整備すべき施設等に関する5か年間の計画であり,第1次五箇年計画(平成8−12年度:全都道府県で作成)では,全体で約14兆1千億円(対計画比76%)の事業が実施されたほか,第2次五箇年計画(平成13−17年度:全都道府県で作成)についても平成17年度(第2次五箇年計画終了時)までに約9兆8千億円(対計画比69%)の事業が実施される見込みである。(表2−4−5)。
 今後,平成18年度を初年度とする第3次五箇年計画により,地震防災緊急事業の計画的な推進が図られることとなる。

地震防災緊急事業五箇年計画について

b 構造物の耐震診断・改修の推進
 阪神・淡路大震災においては,道路,鉄道,港湾,住宅・建築物,ライフライン施設等の構造物の損壊が発生し,我が国の安全神話の崩壊が指摘された。そこで,それぞれの構造物により設計概念が異なっていた耐震基準について,共通の設計概念の下で新しい耐震基準へと見直し,安全な国土の形成,生命の安全確保を図ることとした。
 このため,防災基本計画において,[1]構造物の使用期間中に1〜2回発生することが見込まれる一般的な地震に対してはそのまま使用が可能であること,[2]使用期間中に発生するか否か不確実ではあるが,ひとたび発生すれば甚大な災害となる大地震(関東大地震や兵庫県南部地震等)に対しては人命に重大な影響を与えないこと,を共通の設計概念とすることを明記し,この考え方に基づいて施設ごとに耐震基準の見直しが行われるとともに,既存施設のうち耐震性の十分でないものについては耐震改修が進められている(表2−4−6)。

主な施設・構造物についての耐震基準と耐震改修の現状

c 建築物の耐震性の向上
 阪神・淡路大震災においては犠牲者の8割以上が建築物の倒壊によるものであった。また,中央防災会議では,特に発生の切迫性の高い東海,東南海・南海,首都直下等の大規模地震について被害想定を実施してきたところであるが,いずれも甚大な死者数が,建築物の倒壊を直接的な原因として発生するものと想定された。さらに,こうした直接被害に加え,火災延焼や救助活動の妨げ等の間接被害を招くことも一連の被害想定で判明している。こうしたことから,現在震災対策を推進する上で建築物の耐震性の向上が最重要課題の一つとなっている。
(a)耐震化の現状
 阪神・淡路大震災においては,建築基準法上の耐震基準が強化された昭和56年以前に建築された建築物に多くの被害がみられた。昭和56年に導入された現行の耐震基準(新耐震基準)は,中規模の地震(震度5強程度)に対しては,ほとんど損傷を生じず,極めて稀にしか発生しない大規模の地震(震度6強から震度7程度)に対しては,人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないことを目安としたものである。この基準を満たさない建築物が現在でも多数存在しており,一刻も早い改善が必要である。
①住宅の耐震化
 建築物の大半を占める住宅の耐震化の状況については,総数約4,700万戸の約25%に相当する約1,150万戸の耐震性が不足すると推計されている(図2−4−5)。

住宅の耐震化の状況

②学校の耐震化
 学校施設は,児童生徒等が一日の大半を過ごす活動の場であるとともに,災害時には避難場所等として活用されることから,特に早急な耐震性確保が求められている。
 しかし,全国の公立小中学校において約半数の建物は耐震性が確認されておらず,また,耐震診断さえ実施されていない建物も多く,耐震化の取組は遅れている(図2−4−6)。

公立小中学校施設の耐震化の状況

病院の耐震化の状況

③病院の耐震化
 病院については,災害時において,被災者に対し,迅速かつ適切な医療を提供するという重要な役割を果たすことから,その耐震化は重要な課題である。
 しかし,平成17年2月に厚生労働省が実施した調査によると,すべての建物が新耐震基準に従って建設された病院は約36%であり,さらなる耐震化の促進が必要である(図2−4−7)。

防災拠点となる公共施設等の耐震化の状況

④防災拠点となる公共施設等の耐震化
 公用及び公共用の施設は,不特定多数の利用者が見込まれるほか,地震災害の発生時には,応急対策の実施拠点や避難所となるなど,防災拠点として重要な役割を果たすことから,その耐震化は重要な課題である。
 しかし,防災拠点となる公共施設等の約4割は耐震性が確認されておらず,さらなる耐震化の促進が必要である(図2−4−8)。
(b)建築物の耐震化緊急対策方針
 平成16年10月の新潟県中越地震,そして平成17年3月には大地震発生の可能性は低いといわれていた福岡県でも福岡県西方沖を震源とする地震が発生し,多大な被害をもたらした。我が国において,地震はいつどこで発生してもおかしくない状況にあることを改めて認識させられた。建築物の耐震化はとりわけ人命に密接に関連することから,既に大きな柱として位置づけられている大規模地震対策のみならず,全国的に展開すべき対策であり,また,各種施策に振り向けることができる資源が有限である中,当面緊急に取り組むべき課題を特定することが必要である。
 こうしたことから,平成17年9月の中央防災会議において,「社会全体の国家的な緊急課題として,関係省庁等が密接な連携の下,“建築物の耐震化”について,全国的に緊急かつ強力に実施すること」として,「建築物の耐震化緊急対策方針」が決定された(図2−4−9)。同方針では,まず建築物全般について,耐震改修に係る規制見直しや補助・税制度整備の検討等が位置づけられた。さらに,建築物の大半を占める住宅について言及し,これまで東海,東南海・南海地震に係る地域に関して位置づけられていた75%の耐震化率を10年後に90%まで引き上げる目標について,全国の目標として明記された。また,学校,病院,庁舎等の公共建築物等についても,災害時の防災拠点機能確保の観点から強力に耐震化を促進することとされた。
 こうした対策については,建築物の耐震改修の促進に関する法律の改正をはじめとして実現が進められているところであり,今後も政府一丸となった建築物の耐震化促進策の充実が期待される。

建築物の耐震化緊急対策方針

(c)建築物の耐震改修の促進に関する法律の改正
 建築物の耐震改修の促進については,多数の者が利用する特定建築物に対する指導・指示等を定めた建築物の耐震改修の促進に関する法律が阪神・淡路大震災を受けて平成7年に制定されている。平成17年11月に同法が改正され,国が基本方針を定め,地方公共団体が耐震改修促進計画を策定し,計画的に耐震改修に取り組む仕組みが導入された。また,所管行政庁による指導・助言や指示等の対象となる建築物の範囲を見直し,指導・助言の対象に道路閉塞させる住宅等を追加するとともに,従来指導・助言対象までにとどめていた学校(幼稚園,小中学校等)や老人ホームを指示の対象とし,これらを含めて指示対象となる建築物について,指示に従わない場合にこれを公表できることとした。さらに,国土交通大臣が法人を「耐震改修支援センター」として指定し,認定建築物の耐震改修に必要な資金の貸付けに係る債務保証等の業務を行うものとする等,建築物の耐震改修を促進するための様々な措置を講じた。
 平成18年1月の改正法施行に合わせて,基本方針を国土交通大臣が決定し,多数の者が利用する建築物(特定建築物)についても現状75%の耐震化率を10年後に90%とする全国目標が示された。今後,基本方針を踏まえて地方公共団体が耐震改修促進計画を速やかに作成することとされており,建築物の用途ごととするなど,より詳細で地域の状況等を踏まえた目標が定められ,着実に建築物の耐震化が促進されることが期待される。

耐震改修促進法の改正

(d)耐震診断,耐震改修補助制度の拡充
 耐震改修には所有者等にとって決して小さくない費用負担(序章参照)が必要となるが,建築物の大半を占める民間建築物の耐震化を促進するためには,所有者等の費用負担軽減を図ることが重要である。このため,国土交通省においては,耐震改修及び耐震診断について,住宅・建築物耐震改修等事業により補助するとともに,地域住宅交付金やまちづくり交付金を活用して地域の自主的な取組を支援してきたところである。
 平成17年度補正予算において,住宅・建築物耐震改修等事業については,耐震改修に関して従来大規模地震等の地域に限定されていた地域要件を撤廃するとともに,緊急輸送道路沿道の建築物について補助率を1/3(通常は7.6%)とする制度拡充を行い,平成18年度予算は130億円(H17は20億円)と大幅に増額された。
(e)耐震改修促進税制の創設
 耐震改修を促進するためには,所有者等の費用負担を軽減する税制面での支援措置も極めて有効である。このため,平成18年度より住宅については所得税,固定資産税について,事業用建築物については所得税及び法人税について特例措置を講じる耐震改修促進税制が創設された(表2−4−7)。本税制の活用により,補助制度と相まって,所有者等の費用負担が軽減され,建築物の耐震化が促進されることが期待される。
 この他,耐震改修をした場合の住宅ローン減税を引き続き講じることで建築物所有者のインセンティブを高めるとともに,住宅ローン減税の適用対象となる既存住宅の範囲に,新耐震基準に適合する一定の既存住宅を追加する措置を講じるなど建築物の耐震強化を強力に促進している。

耐震改修促進税制

(f)その他の耐震化促進策
 上記の耐震化促進策のほか,耐震改修工事については,住宅は住宅金融公庫等,建築物は日本政策投資銀行の融資を活用することが可能となっている。また,平成12年からスタートした住宅性能表示制度により,地震に対する強さを第三者機関が評価し,等級表示をうけることが可能で,この等級に応じて地震保険の保険料率について最大で30%の割引適用を受けることができるため,所有者等に耐震補強実施のインセンティブを与え,建築物の耐震化が促進されることが期待される。
(g)学校の耐震化の促進
 学校の耐震化の現状を踏まえ,文部科学省では有識者等による「学校施設整備指針策定に関する調査研究協力者会議」を設置して耐震化の推進など今後の学校施設整備の在り方について検討を行い,平成17年3月に報告書が取りまとめられた。
 本報告書では,基本的な考え方として,膨大な学校施設について早急かつ効率的に耐震性を確保していくためには,全面建替え方式から,工事費が安価で工期の短い改修方式による再生整備への転換を図る必要があるとし,学校の耐震化は全国的に一刻も早く進められるべきであるが,その進捗度については地域間の格差が大きい現状があり,地域間の財政力格差がそのまま学校の安全性の格差につながらないよう必要な措置を講ずるよう提言されている。
 文部科学省では,このような提言等を踏まえ,平成18年度から公立文教施設整備費について,耐震関連事業を中心に一部を交付金化(「安全・安心な学校づくり交付金」の創設)したところである。
 また,建築物の耐震改修の促進に関する法律の改正等を踏まえ,地方公共団体に対し,国土交通省所管の補助制度を活用しつつ平成18年内に公立学校施設の耐震診断を終えるよう強く要請しているところである。
(h)表層地盤のゆれやすさ全国マップ
 「建築物の耐震化緊急対策方針」でも対策として掲げられたとおり,個々の建築物の立地がどの程度の揺れに見合う場所であるかの情報をマップ化してわかりやすく周知することは,建築物の所有者等の意識を啓発し,建築物の耐震化を促進させることが期待される対策である。このため,平成18年3月の地震防災対策特別措置法の改正においても,マップの整備について,地方公共団体に対して努力義務とする規定が新たに設けられた。
 内閣府では,全国を1km四方に区切って,どの地域が相対的にゆれやすいか(計測震度がどれだけ増幅されるか)を概括的に表したマップを都道府県別に作成し,「表層地盤のゆれやすさ全国マップ」として,平成17年10月に公表した(図2−4−11)。このマップから,関東平野,大阪平野,濃尾平野など,多くの人が住み活発な経済活動が営まれている平野部が,ゆれやすい地盤で覆われている傾向があることを読み取ることができる。内閣府では,このマップをホームページ(http://www.bousai.go.jp//kohou/oshirase/h17/yureyasusa/index.html)に掲載するとともに,特にゆれやすい地域の住民の方々に対して,家具の固定,住宅の耐震診断や耐震補強などの対策を優先的に行うこと等の呼びかけを行っている。
 さらに,個々の建築物の所在地が認識可能となる程度に詳細なマップを作成・周知させることが建築物の耐震化促進に有効であることから,内閣府において50mメッシュによる市区町村レベルでのマップ策定を想定した地震防災マップの作成手法等を示したパンフレット及び技術解説資料をとりまとめ,地方公共団体に配布するとともに,ホームページ(http://www.bousai.go.jp//kohou/oshirase/h17/050513zisinmap.html)に掲載し,同マップの普及を図っている。

表層地盤のゆれやすさ

d 震災に強いまちづくり
 阪神・淡路大震災においては,高速道路や鉄道の高架の倒壊,コンテナ埠頭の崩壊など交通基盤に被害が相次ぐとともに,密集市街地における火災延焼,電気・ガス・水道・通信等ライフラインの被害,公園や緑地などのオープンスペースの不足等,現代の都市が地震に対し脆弱であることが露呈した。
 このような脆弱な都市を震災に強い都市へと再生することが急務であり,被災時においてもその機能を維持できるようにするための構造物の耐震化や環状道路・バイパス道路の整備等による避難・緊急輸送活動の支援及び代替経路の選択が可能な交通ネットワークのリダンダンシーの確保,市街地火災の際延焼遮断帯となるとともに避難地や応急活動拠点にも活用可能な公園や広場などのオープンスペースの確保など,地震災害に対し強いまちづくりを推進することが重要である。
 このような震災に強いまちは,交通基盤が整い,利便性が高く,空間的なゆとりのある緑豊かで快適なまちでもある。
 特に,我が国においては,戦後,都市基盤の整備を伴わないまま人口や産業等の集中による都市化が急速に進展したため,防災上危険な密集市街地が形成されており,20世紀の負の遺産とも言われている。
 このため,「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」(平成9年制定,平成15年改正)に基づく防災再開発促進地区の指定や,土地区画整理事業,市街地再開発事業,住宅市街地総合整備事業等による面的整備によって,密集市街地の解消に努めているところである。この他,平成9年に都市防災推進事業を(平成14年度から都市防災総合推進事業へと制度移行),平成15年に特定防災街区整備地区制度・防災街区整備事業を創設し,避難地・避難路周辺等の建築物の不燃化等により都市の防災対策を総合的に推進している。
 また,都市公園事業等により都市公園・緑地等の整備を推進しオープンスペースの確保に努めるとともに,被災時の応急対策活動の迅速化・円滑化を図るため,広域防災拠点や地域防災拠点となる都市公園の整備を推進している。
e 防災拠点施設の整備の推進
 大規模災害時において,広域的に連携し,応急対策,復旧・復興活動を迅速・円滑に進めるためには,情報収集や指揮,物資の集配機能等を備えた広域的・中核的施設の整備と地域防災拠点や輸送拠点等とのネットワークの形成が必要である。
 こうした背景を踏まえ,稠密な市街地が連たんする大都市圏における防災安全性の向上を図るため,都市再生プロジェクト第一次決定(平成13年6月)に基づき,東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点の整備及び京阪神都市圏における広域防災拠点の適正配置等に関する検討が進められており,また名古屋圏においても広域防災ネットワークの整備・連携に関する検討が進められている(詳細については,4−1(7)「首都直下地震対策」(8)「近畿圏,中部圏における地震対策」参照)。
 一方,地域における災害対策活動の拠点となる防災拠点の質的・量的向上を図るため,内閣府において,地方公共団体による優良な防災拠点施設の整備を地域防災拠点施設整備モデル事業により支援し,こうした施設整備の普及を推進している。平成8年度の事業創設以来,平成17年度までに東京都目黒区など29か所において施設が完成し,現在,和歌山県広川町等において事業を実施している(表2−4−8)。

地域防災拠点施設整備モデル事業実施状況

 また,総務省及び消防庁では,地震等の大規模な災害が発生した場合においても災害対策の拠点となる施設等の安全性を確保し,被害の軽減及び住民の安全を確保できるよう防災機能の向上を図るため,公共施設等耐震化事業において地方債及び地方交付税による措置を講じることにより,公共施設等の耐震化の推進を図るとともに,防災基盤整備事業等により防災拠点施設の整備を促進している。
 このほか,阪神・淡路大震災において,港湾が緊急物資の海上輸送や仮設住宅用地など,市民生活の復興に大きな役割を果たしたことにかんがみ,国土交通省においては,港湾において多目的な利用が可能なオープンスペース等に防災拠点を新たに整備することとしている。
 また,災害復旧活動の後方支援拠点等となる都市公園の積極的な整備推進を図ることとしているほか,内陸部において河川舟運等を活用した広域避難地,救援活動,資材運搬拠点等のため,道の駅等を活用し,地方公共団体,関係機関等の事業と連携し,総合的に実施することとしている。
 さらに,消防庁では,産・学・官の三者連携の下,地方公共団体が防災拠点施設の耐震化を進めるうえでの参考として,「防災拠点の耐震化促進資料」を作成し,地方公共団体に配布するとともに,ホームページ(http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/taishin/index-j.html別ウインドウで開きます)に掲載し,防災拠点施設の耐震化を促進している。
f 都市型震災対策
 平成17年7月23日に発生した千葉県北西部を震源とする地震に対しての政府の対応状況にかんがみ,都市型震災に対する対策を一層推進するため,政府は,都市型震災対策関係省庁局長会議の開催を決定し,震度情報,鉄道運行,エレベーター,建築物の地震対策(天井及び窓ガラスの落下防止対策)等,検討すべき課題及びその対策について検討状況を取りまとめ,関係省庁間で情報共有・連携推進を図ることとした。
 同年7月28日に第1回会議を開催し,同年9月2日開催の第2回会議を経て,平成18年4月14日開催の第3回会議において,それぞれの課題に対する具体的な対策に係る検討結果及び引き続き検討すべき課題について取りまとめた。
 なお,第2回会議より平成17年3月の福岡県西方沖を震源とする地震及び同年8月の宮城県沖を震源とする地震において明らかになった課題についても検討課題として加えている。
 各課題に対して,以下に掲げる対策が取りまとめられた。
(a)震度情報に関して
 震度情報に関する課題のうち,自治体震度情報ネットワークの迅速な送信を確保する課題については,消防庁と気象庁とが連携して取り組んでいる「次世代震度情報ネットワークのあり方検討会」において,震度計を適正に配置すること,都道府県単位での迅速・確実な取りまとめを行うこと,国等の防災機関へ迅速・確実な伝達を行うこと,住民等へきめ細やかな情報伝達をすること等を内容とする整備方針を取りまとめた。さらに,気象庁において,自治体震度計データの入電状況の把握体制を強化すること等の措置を行った。震度観測未入電や未設置地域の震度を補完する課題については,気象庁において震度観測点のない島・沿岸部に近い海域で発生した浅い地震に対する震度推計精度向上のための関連ソフトを開発しており,平成18年度に導入を予定している。
(b)鉄道運行に関して
 鉄道運行に関する課題のうち,運行再開までの時間を短縮する課題については,地震計の増設を推進し,鉄道事業者が,当該地震計のうち基準に達したエリアのみ線路巡回等を行うことによって,早期の運転再開を図ることとした。輸送障害発生時の乗客等への情報提供に関する課題については,関東地区の鉄道事業者で構成する「輸送障害発生時の対応検討会」での検討結果(駅間に停車した列車又は駅に停車している列車の乗客等への情報提供等)を管内の鉄道事業者へ通知し,自主的な取組を促すとともに,他の地方運輸局に対し,関東運輸局での取組を踏まえ,各地域の実情等に応じた取組を指示することにより課題の解決を図ることとした。
(c)エレベーターに関して
 エレベーターに関する課題のうち,閉じ込め防止,早期復旧及び混乱防止に係る対策については,平成18年4月7日に社会資本整備審議会建築分科会第4回建築物等事故・災害対策部会を開催し,地震動を感知し最寄階にかごを停止させドアを開放する機能を義務化すること,講習を受けた建物管理者や他の保守会社により閉じ込めから早期救出を図ること,地震時のエレベーター運行方法等について利用者に対し周知を図ること,エレベーターシャフト内の状況の自動診断により仮復旧させるシステムの開発をすること等を内容とする「エレベーターの地震防災対策の推進について」を取りまとめた。緊急地震速報をエレベーター制御へ活用することについては,基本的な情報の利用方法や留意点などを取りまとめた,「利用の手引き」を作成することとした。エレベーターの開錠手段の確保については,消防機関のエレベーター保守会社への協力体制の強化として,全国の救助隊にエレベーター開錠キーを配置すること等を実施することとした。
(d)その他の課題について
 その他の課題に対する対策の概要は(図2−4−12)のとおり。
 これまでの検討で得た結論を着実に推進することや,引き続き検討を要する課題については,早急に結論を得て対策を強力に推進していくことが確認された。

都市型震災対策関係省庁局長会議の検討結果

g 中山間地等の集落散在地域における地震防災対策
 平成16年の新潟県中越地震では,震源付近の強い揺れに伴い主に山間部において土砂災害が多発し,交通の寸断や情報通信の途絶により,旧山古志村をはじめとして,61地区(新潟県調べ)の集落が孤立した。地震発生が夜間であったこともあり,孤立した集落の被害状況の把握に時間がかかるなど,中山間地の集落散在地域における地震災害に特有の問題が顕在化した。
 内閣府では,学識経験者等からなる「中山間地等の集落散在地域における地震防災対策に関する検討会」を設置し,中山間地特有の課題(多数の孤立集落の発生,高齢者の避難生活に係る課題等)を整理するための検討を行い,平成17年8月に地震防災対策の提言をとりまとめた。提言においては,孤立対策として,孤立集落と外部との通信の確保,物資供給・救助活動,孤立に強い集落づくり,道路・ライフライン等寸断への対応,津波に伴う孤立対策について,また,避難生活に関する対策として,災害時要援護者の避難対策,防犯対策についてとりまとめた。今後は,地方公共団体において孤立のおそれのある集落の実態についてさらに把握するとともに,備蓄の推進等の具体的対策を地域防災計画に明記することを通じ,孤立集落対策を推進すべきであるとしている。
 また,総務省では,新潟県中越地震において通信途絶となり,初動期における情報収集ができなかった状況にかんがみ,「初動時における被災地情報収集のあり方に関する検討会」を設置し,平成17年7月,大規模災害発生の際の初動時における被災地情報収集のあり方,災害時の情報通信技術の活用について提言をとりまとめた。提言においては,迅速な被災地情報収集のため,衛星携帯電話やヘリコプター衛星通信等の技術を推進し,具体化のための方策を充実させていくこととしている。
h 液状化対策
 我が国における大規模地震では,たびたび地盤の液状化が発生しており,平成15年の十勝沖地震や平成16年の新潟県中越地震においても,各種施設において液状化の被害が見られた。
 液状化に対しては,港湾施設において港湾施設の液状化防止対策の実施要綱を基本的な枠組みとして対策を積極的に推進するなど,民間・公共の建築物のほか,道路や港湾,電気・ガス・上下水道・通信網等について,施設の種類ごとにそれぞれ設計・施工指針が定められるなどして,対策の推進が図られている。
 また,内閣府(旧国土庁)では,平成10年度に地方公共団体等が液状化マップを作成するための方法について解説した「液状化地域ゾーニングマニュアル」を作成し,都道府県等に配布することにより,液状化対策を推進しているところである。
 国土交通省では,新潟県中越地震の下水道管渠被害を踏まえ下水道地震対策技術検討委員会を設置し,管路施設の本復旧にあたっての技術的緊急提言をとりまとめ,管路の埋め戻しにあたっては原則として,埋め戻し部の締固め,砕石による埋め戻し,埋め戻し部の固化のいずれかの対策を行うことが望ましいとした。
i 橋梁の耐震補強
 国土交通省では,平成16年の新潟県中越地震の発生や東海地震,東南海・南海地震,首都直下地震等の大規模地震の逼迫性が指摘されていることを踏まえ,道路橋の耐震補強を推進するため,「緊急輸送道路の橋梁耐震補強3箇年プログラム」(平成17年度〜19年度)並びに「新幹線や高速道路をまたぐ橋梁の耐震補強3箇年プログラム」(平成17年度〜平成19年度)を策定し,これに基づき,平成19年度までの3箇年で重点的に耐震補強等を実施する。
 また,新幹線の高架橋柱については,平成19年度末の完了を目標に耐震補強を実施している。
j 新幹線脱線対策
 国土交通省は,平成16年の新潟県中越地震により上越新幹線が営業中に脱線したことを受け,新幹線を運行しているJR各社等からなる新幹線脱線対策協議会を設置し,脱線防止対策,被害軽減対策,鉄道構造物の耐震対策等について検討を行い,平成17年3月に協議会において,次のとおり中間的なとりまとめを行った。
①活断層と交差する山岳トンネルや高架橋柱の構造物耐震対策の実施
②地震検知・警報装置の検知点の増設及び更新による脱線防止対策の実施
③仮に列車が脱線した場合においても線路から大きく逸脱することを防止するための施設,車両の両面からの逸脱防止対策の検討及び実施計画の策定
④レール締結装置やレール継目部の損傷防止策,脱線防止ガードの構造・設置方法,非常ブレーキの停止距離短縮化,早期地震検知システムの充実についての研究等の実施
 このとりまとめを踏まえ,引き続き必要な対策や検討を進めることとしている。
(4)東海地震対策
a 東海地震発生の姿
(a)発生の可能性
 駿河トラフ沿いで発生する地震に関して,1854年に発生した安政東海地震の際には,南海トラフ沿いと駿河トラフ沿いの破壊が同時に起こった。しかし,1944年の東南海地震では駿河トラフ沿いが未破壊のままとり残されている。安政東海地震から,150年余が経過していることや,駿河湾周辺の明治以降の地殻歪の蓄積状況を考え合わせると,駿河トラフ沿いに近い将来大規模な地震が発生する可能性が高いと考えられる。この予想される地震が「東海地震」である(地震発生のメカニズムについては,4−1−(1)「地震の発生と被害状況」参照)。
 東海地震については,予知体制の整備が図られている。
 現在までの観測結果によると,長期的前兆の重要な指標となると考えられる駿河湾西岸の沈降速度の変化に関しては,内陸部を基準とした御前崎の沈降が近年も依然として続いており,東海地震発生の可能性の高さを引き続き裏付けたものとなっている。
(b)予知と警戒宣言前の情報に基づく防災対応
 気象庁では,東海地震の直前予知に有効と考えられる観測データを,地震活動等総合監視システム(EPOS)によりリアルタイムで処理し,総合的に監視を行っている(図2−4−13)。

東海地域等における地震常時監視網

 東海地震に係る異常現象を観測した場合,気象庁は「東海地震観測情報」,「東海地震注意情報」,「東海地震予知情報」を発表する。
 東海地震観測情報は東海地震の前兆現象の可能性について直ちに評価できない場合に,東海地震注意情報は東海地震の前兆現象の可能性が高まったと認められた場合に,東海地震予知情報は東海地震が発生するおそれがあると認められた場合に,それぞれ発表される(図2−4−14)。

東海地震に関する情報体系

 東海地震観測情報が発表された場合は,この情報が東海地震の観測データの変化やその評価を伝える情報であることから,平常時の活動を継続しつつ,情報の内容に応じて連絡要員の確保など必要な対応をとるものとする。
 東海地震注意情報が発表された場合は,この情報が東海地震の前兆現象の可能性が高まったと認められた場合に発表される情報であることにかんがみ,防災関係機関は必要な職員の参集や情報連絡体制の確保を行う。政府においては,準備行動等を行う必要があると認める場合,その旨を公表するとともに,官邸対策室の設置や情報先遣チームの派遣,救助・救急・消火部隊や救護班の派遣準備,物資の点検や交通規制に備えた準備等を行う。
 さらに現象が進展した場合,気象庁においては,この異常な観測データが東海地震の前兆であるかどうかを判定するために,気象庁長官の私的諮問機関として地震防災対策強化地域判定会(以下「判定会」という。)を開催する。
 判定会の検討を経て東海地震の発生のおそれがある場合は,気象庁長官は内閣総理大臣に地震予知情報を報告する。それに基づき,内閣総理大臣から警戒宣言が発せられた場合には,地震災害警戒本部や現地警戒本部を迅速に設置し,各機関の地震防災応急対策等の実施に係る必要な調整を行う。また,救助・救急・消火部隊のうち必要な部隊の地震防災対策強化地域(大規模な地震によって著しい被害を受けるおそれがあり,地震防災対策を強化する必要がある地域。以下「強化地域」という。)周辺への派遣や,救護班をすぐに派遣できる体制の整備,物資の車両への積み込みや,広域的な交通ルート確保のための必要な交通規制等を行う。
(c)被害想定
①検討の経緯
 大規模地震対策特別措置法(以下「大震法」という。)の成立以来4半世紀が経過し,その間に様々な観測データが蓄積され,新たな学術的知見等が得られてきていることから,平成13年3月の中央防災会議において「東海地震に関する専門調査会」を設置し,東海地震に係る想定震源域の見直しの検討を行い,同年12月の中央防災会議に新たな想定震源域に基づく地震のゆれの大きさや津波の高さの分布を報告した。
 これを受けて,平成13年12月の中央防災会議において,「東海地震対策専門調査会」を設置し,東海地震に係る強化地域の見直しを検討し,被害想定を実施した上で,東海地震対策のあり方について審議を行った。
②被害想定結果
 東海地震対策専門調査会においては,東海地震対策の検討の基礎とするため,東海地震に係る新たな想定震源域に基づく被害について検討を行い,平成15年3月18日にその結果を中央防災会議に報告した(表2−4−9)。これによると,阪神・淡路大震災を超える大被害が広域に発生することが想定され(図2−4−15図2−4−16図2−4−17),広域の防災体制の確立等の対策を早急に講じる必要があるとした。

東海地震に係る被害想定結果

東海地震による想定震度分布

東海地震による海岸における津波高の分布

東海地震による建物被害の分布

b 大震法の実施状況
(a)法律の目的
 昭和53年6月に成立した(同年12月施行)大震法では,事前予知の可能性のある大規模地震について,あらかじめ強化地域の指定を行ったうえで,同地域に係る地震観測体制の強化を図るとともに,大規模な地震の予知情報が出された場合の地震防災体制を整備しておき,地震による被害の軽減を図ることを目的としている(図2−4−18)。

大規模地震対策特別措置法による主な措置

(b)強化地域における防災対策
①強化地域の指定
 東海地震発生については事前予知の可能性があることから,大震法第3条の規定に基づき,昭和54年8月に静岡県を中心とする東海地方の6県が強化地域として指定され,さらに,東海地震の想定震源域の見直しにより,平成14年4月に新たに東京都,三重県を含む8都県263市町村が再指定された。その後,市町村合併の進展により,平成18年4月1日現在においては,8都県174市町村の区域が強化地域として指定されている(図2−4−19表2−4−11)。
 東海地震が発生した場合,強化地域では震度6弱以上の地震動を受ける,あるいは地震に伴い高さ3m以上の津波が地震発生後約20分以内で来襲するおそれがあるなど,著しい被害をもたらす現象が起こると考えられている。

東海地震に係る地震防災対策強化地域

東海地震に係る地震防災対策強化地域市町村一覧

②地震防災計画の作成
 強化地域の指定が行われると,地震予知がなされた場合に備えて,事前に地震災害及び二次災害の発生を防止し,災害の拡大を防ぐための具体的な行動計画(以下「地震防災計画」という。)として,国においては地震防災基本計画を,地方公共団体や指定公共機関においては地震防災強化計画を,民間事業所においては地震防災応急計画をそれぞれ作成している。
③警戒宣言等の伝達
 強化地域の観測データに異常が発見され,気象庁長官が大規模な地震が発生するおそれがあると認めるときは,気象業務法の規定により地震予知情報を内閣総理大臣に報告し,内閣総理大臣は,地震防災応急対策を実施する緊急の必要があると認めるときは,閣議にかけて,警戒宣言を発することとされている(図2−4−20)。

東海地震に係る警戒宣言発令までの流れ

(c)地震対策緊急整備事業の推進
 昭和55年5月に制定された「地震防災対策強化地域における地震対策緊急整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(以下「地震財特法」という。)」では,関係地方公共団体等が実施する地震対策緊急整備事業(地震防災強化計画に基づく地震防災上緊急に整備すべき施設等の整備事業)の一部について国庫補助(負担)率の嵩上げ及び地方財政措置等の国の財政上の特別措置が講じられることとされている。
 同法では,強化地域の指定があったときは,関係都道府県知事は関係市町村長の意見を聴いたうえで,避難地,避難路,消防用施設等の17施設等の整備に関する地震対策緊急整備事業計画を作成し,内閣総理大臣の同意を受けることとされている。このうち消防用施設の整備,木造の社会福祉施設の改築,公立の小・中学校の構造上危険な校舎の改築及び非木造校舎の補強については国庫補助率等の嵩上げを規定している。
 地震対策緊急整備事業計画については,平成17年3月に地震財特法の有効期限が平成22年3月31日まで5年間延長されたことに伴い,「昭和55年度から平成16年度までの計画」から「昭和55年度から平成21年度までの計画」へ変更が行われた。(計画変更後の計画総事業費約2兆円,表2−4−11)。

地震対策緊急整備事業計画について

(d)地震防災訓練の実施
 防災週間の主たる行事として,毎年9月1日の「防災の日」を中心に,東海地震を想定し,大震法及び同法に基づく地震防災基本計画に規定する一連の手続,措置等を重点とした総合防災訓練が実施されている。
c 東海地震対策の概要
(a)東海地震対策大綱
 「東海地震対策専門調査会」における実践的,実効的な東海地震対策のあり方の審議をもとに,平成15年5月の中央防災会議で,東海地震に係る予防段階,警戒宣言時,地震発生時の応急対応まで含めた対策の全般にわたるマスタープランとして「東海地震対策大綱(以下「大綱」という。)」を決定した。
 その主な内容は,大きく分類して以下のとおりである(図2−4−21)。
 (主な項目)
 ①被害軽減のための緊急耐震化対策等の実施
 ②地域における災害対応力の強化
 ③警戒宣言発令時等の的確な防災体制の確立
 ④災害発生時における広域的,効果的な防災体制の確立

東海地震対策大綱の内容等

(b)東海地震緊急対策方針
 大綱に規定された対策のうち,特に,人命に密接に関連する耐震化等の対策を進めるため,平成15年7月に「東海地震緊急対策方針(以下「緊急対策方針」という。)」を閣議決定した。これによると,例えば,「災害時の拠点となる学校,病院,市役所等の公共建築物の耐震診断を平成17年度を目途に実施する」など,東海地震対策の中で特に緊急に実施すべき内容について,実施主体と期限を明確化して,取組を強化することとした。
(c)東海地震の地震防災対策強化地域に係る地震防災基本計画
 大綱が決定されたことに伴い,大綱における防災対策を,地震防災基本計画をはじめとする各種防災計画等に反映する必要から,平成15年7月の中央防災会議において「東海地震の地震防災対策強化地域に係る地震防災基本計画」を修正した。この見直しでは,警戒宣言前の異常データ時の情報について整理し,この情報に対する防災対応を明確化した。また,警戒宣言時の防災対応については,震度分布や津波の高さを踏まえたきめ細かな対応を可能とすることや,帰宅困難者への対応を定めるなど,より実践的な対応へと見直しを行った。
 この地震防災基本計画の修正を踏まえ,国,地方公共団体,指定公共機関及び民間事業者の地震防災計画についても順次修正が行われた。
(d)東海地震応急対策活動要領
 東海地震対策大綱や東海地震緊急対策方針を踏まえ,平成15年12月の中央防災会議において「東海地震応急対策活動要領」が策定された。これは,東海地震に対し,防災関係機関が効果的な連携をとって迅速かつ的確な応急対策活動を実施するため,東海地震注意情報時,警戒宣言時,災害発生時のそれぞれの段階で,各機関が行うべき行動内容を定めるものである(図2−4−22)。
 なお,本要領は,平成18年4月の中央防災会議において,情報集約体制について図上訓練(同年1月)の成果を踏まえた指定行政機関等からの情報集約体制が追加されたほか,医療活動について災害派遣医療チーム(DMAT)の体制整備に伴う所要の修正等が行われた。

東海地震応急対策活動要領

(主な内容)
①東海地震注意情報が発表された際の対処
・防災関係機関においては,速やかに防災担当職員が参集し,必要な情報収集・連絡等が行える体制を確保する。
・関係省庁幹部による緊急参集チーム協議,関係閣僚協議等により準備行動の開始の必要性を確認する。
・情報の集約,関係省庁との連絡調整,初動措置の総合調整を行うため,官邸対策室を設置する。
・情報先遣チームを静岡県に派遣する。
・救助・救急・消火部隊及び医療チームは,直ちに出発できるよう派遣準備を開始する。
・被災地への物資供給活動について,自治体の備蓄量の把握や民間からの調達可能量等の調査を行う。
②警戒宣言発令時の対処
・官邸内に地震災害警戒本部を設置するとともに,静岡県に現地警戒本部を設置する。現地警戒本部の管轄区域は,強化地域の存する都県の区域とする。
・救助・救急・消火部隊のうち必要な部隊は,強化地域周辺部へ前進する。
・非被災都道府県に対し,必要物資の車両への積み込みなど搬送準備を始めるよう依頼する。
③災害発生時の対処
・官邸内に緊急災害対策本部を設置するとともに,静岡県に緊急災害現地対策本部を設置する。緊急災害現地対策本部の管轄区域は,強化地域の存する都県の区域とする。
・予め被害想定に基づいて,東海地震発生時に,救助・救急・消火部隊,医療チームや物資等が各地でどれだけ必要かを,被害想定から算出し,政府の応急体制を事前に計画する。

コラム

(e)「東海地震応急対策活動要領」に基づく具体的な活動内容に係る計画
 『「東海地震応急対策活動要領」に基づく具体的な活動内容に係る計画』は,平成15年12月の中央防災会議で決定した「東海地震応急対策活動要領」において別に定めるとされた,救助活動,消火活動,医療活動,物資調達,輸送活動に従事する各部隊について,被害想定に基づく具体的な活動内容を計画したものである。
 平成16年6月の中央防災会議幹事会において,警戒宣言が発せられ,地震発生までに準備行動が完了していることを前提とする予知型の計画を申し合わせ,平成18年4月の中央防災会議幹事会において,警戒宣言が発せられず,突発的に地震が発生した場合の突発型の計画を追加する等の見直しを行った。

東海地震応急対策活動要領に基づく具体的な活動内容に係る計画(概要)

 なお,地震発生後に被害状況が判明した場合には,それに応じて適切に活動内容を変更することとしている。
①救助活動,消火活動等に係る計画
 警察庁,防衛庁,消防庁及び海上保安庁が派遣する各部隊は,救助活動,消火活動,医療活動,交通規制,避難生活支援等多岐にわたる活動に従事する。
②医療活動に係る計画
 ・広域医療搬送活動計画(固定翼輸送機や大型回転翼機を使用した広域医療搬送活動の計画)
 ・非被災都道府県からの救護班派遣(広域医療搬送に必要な医師等以外の救護班派遣)
③物資調達に係る計画
 非被災地域から調達する物資の応援必要量については,以下を原則としている。
 ・消防庁が非被災地方公共団体の備蓄物資の調達を調整する。
 ・消防庁による調整によっても物資が不足する場合に,物資関係省庁(厚生労働省,農林水産 省及び経済産業省)が関係業界団体等を通じて物資の調達等を行う。
 ・非被災地域から被災地域へ物資を輸送する拠点(「広域物資拠点」)を,主要な道路等との近 接性,地理的配置の状況等を勘案し,各都県ごとに2〜9箇所を定める。
 ・広域物資拠点から避難所等への輸送については,被災地方公共団体が実施する。
④輸送活動に係る計画
 ・緊急輸送ルート計画
 部隊の進出予定路線,広域物資拠点の位置等を勘案して,緊急輸送ルートを定める。
・緊急輸送活動に係る計画
 物資の輸送については,物資調達の依頼先で輸送手段が確保できる場合にはそれによることとし,物資調達の依頼先で輸送手段が確保できない場合には国土交通省が輸送の調整を行うことを原則としている。
 部隊の輸送については,被災地への進出経路については陸路を原則とするが,道路の被災状況等を勘案して,必要に応じて航空機又は船舶を使用する。
(f)東海地震の地震防災戦略
①経緯
 大規模地震対策については,これまで各般の取組を進めてきたが,想定される被害が甚大かつ深刻であるのに対して,地震防災対策の推進状況は必ずしも十分ではなく,事前対策を中心として対策を一層加速させ,被害の軽減を図ることが重要である。
 大規模地震対策は,社会全体で取り組まなければならない緊急課題であり,各種施策に振り向けることができる資源が有限である中,当面緊急に取り組むべき事項と目標を特定し,これを関係機関,社会全体で共有することが必要である。
 このため,平成16年7月28日に中央防災会議において「地震防災戦略の策定について」が報告され,承認された(図2−4−24)。これにより大規模地震について被害想定をもとに人的被害,経済被害の軽減について達成時期を含めた具体的目標(減災目標)を平成16年度中に定め,これを国,地方公共団体,関係機関,住民等と共有するとともに,各種投資と減災効果の把握に関する手法の確立を図り,達成状況をモニタリングすることとされた。
 地震防災戦略は,平成16年度の防災白書において打ち出した,成果重視の行政運営の考え方を防災分野により明確かつ積極的に取り入れる「新たな防災行政の視点」から,特に喫緊の課題である迫りくる巨大地震対策において取り組んだ最初の試みである。
②地震防災戦略の策定
 平成17年3月30日の中央防災会議において,既に被害想定を実施し,対策に関する大綱を定めている東海地震を対象とする地震防災戦略が決定された(図2−4−25)。
 地震防災戦略は,「減災目標」と「具体目標」から構成され,減災目標とは,人的被害,経済被害の軽減に関する具体的な目標で,対象とする地震,達成時期,減災効果を明示するものである。具体目標とは,減災目標の達成に必要となる事項ごとの達成すべき数値目標,達成時期,対策の内容等を具体的に定めるものである。
 東海地震の地震防災戦略においては,減災目標として,「今後10年で死者数及び経済被害額を半減させる」ことを掲げ,死者数約9,200人を約4,500人に,経済被害額約37兆円を約19兆円にすることとした。
 死者数の減少のうち,特に効果が大きい具体目標は,「住宅の耐震化」であり,今後10年間で住宅の耐震化率90%を目指すこととした。住宅の耐震化率90%を達成するために,「地域住宅交付金制度」や税制の活用等を図っていくこととした。
 このような減災目標は,国だけでなく,地方公共団体,関係機関,住民等の社会全体で共有する目標となるものである。その達成に向けて,各主体に対して積極的に働きかけを行い,対策を着実に推進することが必要である。
 減災目標を達成するためには,地方公共団体の参画と連携が不可欠であることから,国は,関係地方公共団体に対して,地震防災戦略を踏まえて「地域目標」を策定することを要請した。
 また,今回策定した,地震防災戦略の対象期間は10年とし,進捗状況については3年ごとにフォローアップすることとしている。

地震防災戦略について

東海地震の地震防災戦略

(5)東南海・南海地震対策
a 東南海・南海地震の地震像
(a)発生の可能性
 東南海・南海地震とは,南海トラフ沿いの遠州灘西部から紀伊半島沖を経て土佐湾までの地域で,フィリピン海プレートが陸側のプレートに潜り込み,陸側のプレートの変形が限界に達したとき,元に戻ろうとして発生する海溝型地震である。歴史的に見て100〜150年間隔でマグニチュード8程度の地震が発生し,最近では昭和19年及び21年にそれぞれ発生していることから,今世紀前半にも発生するおそれがあるとされている。
(b)東南海,南海地震等に関する専門調査会における検討
 中部圏,近畿圏における大都市震災対策を含め,東南海・南海地震対策の速やかな確立等を図るため,平成13年6月28日に開催された中央防災会議において「東南海,南海地震等に関する専門調査会」の設置が決定された。
 同調査会は平成13年10月3日に第1回が開催されて以降,平成15年12月までに16回審議が行われ,学術的知見を踏まえて東南海・南海地震の震源域等について検討を進め,東南海・南海地震が発生した場合の地震の揺れの強さ(図2−4−26),津波の高さ分布(図2−4−27)等から,地震による揺れや津波,火災等による人的被害や建物被害,経済被害等の被害想定をとりまとめ公表した(平成15年9月17日)(図2−4−28表2−4−12)。これにより東海から九州の震源域に近い太平洋沿岸を中心に,地震の揺れや津波により広域かつ甚大な被害になると予想されることがわかった。さらに,これらを踏まえた東南海・南海地震防災対策について検討を行い,平成15年12月16日に東南海・南海地震の検討に係る報告「東南海,南海地震に関する報告」をとりまとめた。

東南海・南海地震の強震動波形計算による震度分布

東南海・南海地震による海岸の津波の高さ(満潮時)

東南海・南海地震による建物被害の分布(揺れ,液状化,津波,火災,斜面)

東南海・南海地震(同時に発生した場合)に係る被害想定結果

b 東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法
(a)法律の目的
 東南海・南海地震では,地震による強い揺れや津波により,極めて広域で甚大な被害が予想されることから,今のうちから計画的かつ着実に事前の防災対策を進める必要があるとして,議員立法により平成14年7月に「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」が制定され,平成15年7月25日に施行された。
 同法においては,東南海・南海地震で著しい被害が予想される地域を「東南海・南海地震防災対策推進地域」として指定し,津波からの避難対策も含め必要な防災対策に関する計画を策定するとともに,観測施設等を含めた地震防災上緊急に整備すべき施設の整備等について規定している。また,観測施設等の整備や科学技術水準が向上することにより,東南海・南海地震の予知体制が確立された場合には,東海地震と同様に大規模地震対策特別措置法を適用することとされている(図2−4−29)。

東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法について

(b)東南海・南海地震防災対策推進地域
 同法が施行されたことを受けて,同法の規定に基づき,平成15年7月28日に内閣総理大臣は東南海・南海地震防災対策推進地域(以下「推進地域」という。)の指定について中央防災会議に諮問した。これを受け,専門調査会では推進地域指定の基準について検討が行われ,地震の揺れについては建物の全壊が生じるとされる「震度6弱以上」,津波についても同様に「陸上での浸水深2メートル以上(海岸での津波高3メートル以上)」で「堤防で防げる地域を除く」地域とし,この他,市町村が連携して防災体制をとる必要がある地域についても,防災体制の観点から基準に含めることとした。
 この基準に1都2府18県497市町村(平成15年9月17日現在)が該当したことから,内閣総理大臣はこれを踏まえ,関係21都府県に(関係都府県は関係市町村に)意見照会を行った。この結果,過去の東南海・南海地震での被害が残る地域や,潜在的に地震の揺れや津波により被害を受けるおそれのある地域,広域消防など連携して防災対策を実施している地域,159市町村について追加の要望があり,埋め立てや護岸工事の完了により浸水の危険性が低下した1市について基準外であることが判明した。最終的に1都2府18県652市町村を推進地域とする案がとりまとめられ,平成15年12月16日に中央防災会議から内閣総理大臣に答申された。翌17日に内閣総理大臣は答申どおりの範囲からなる地域を推進地域として指定した。
 指定後,相次いだ市町村合併により,推進地域と未指定地域が混在する市町村が生じはじめた。推進地域の指定にあたり,中央防災会議及び専門調査会の検討において,「推進地域は防災対策の基礎単位である市町村単位で指定する」としたところであり,こうした事態に対応するため,適宜,推進地域の再指定を行っている。(平成18年4月1日現在,1都2府18県403市町村)(図2−4−30表2−4−13)。

東南海・南海地震防災対策推進地域

東南海・南海地震防災対策推進地域市町村一覧

c 東南海・南海地震対策の概要
(a)東南海・南海地震対策大綱
 同専門調査会の「東南海,南海地震に関する報告」を受けて,中央防災会議は,推進地域外も含め全国的な視野から総合的な東南海・南海地震対策を実施するための「予防対策から発災時の応急対策,復旧・復興対策までを視野に入れたマスタープラン」としての「東南海・南海地震対策大綱」を平成15年12月に決定した。
 専門調査会での検討に加えて東南海・南海地震の特徴を踏まえ,大綱では,①津波防災体制の確立,②広域防災体制の確立,③計画的かつ早急な予防対策の推進,④東南海,南海地震の時間差発生による災害拡大の防止等のポイントから対策をとりまとめた。各ポイントの概要は以下のとおりである。
①津波防災体制の確立
 東南海・南海地震では,東海から九州にかけての太平洋沿岸を中心に大きな津波が来襲し,広域かつ甚大な被害が予想されるが,海岸堤防や河川堤防などが整備され,住民が津波から適切に避難することで被害は大幅に軽減される。このため,早急に既存の津波防災施設の耐震点検や補強を行うとともに,必要な施設の整備を今のうちから計画的かつ着実に進める。水門などについては閉鎖の作業を迅速かつ確実に行うため,自動化や遠隔操作化を進める。地震発生数分後に大きな津波が到達する地区や就寝中に津波が来襲した場合等における迅速な避難に資するため,緊急地震速報の実用化を進め,津波警報等の発表の迅速化を図る。また,住民の津波避難に関する正確な知識を普及し,津波避難地や避難路を整備することで,住民の的確な津波避難を図る。この他,高台までの避難に時間を要する平野部等津波避難困難地域における津波避難ビルの活用を進める。
②広域防災体制の確立
 東南海・南海地震では東海から九州にかけての太平洋沿岸を中心に強い揺れや津波によって広域かつ甚大な被害が想定されることから,孤立や応急要員の不足により災害発生直後の被災地域外からの救援活動が期待出来ないことも想定して,自助・共助による地域の防災力を向上しておくことが不可欠である。このため,地震に関する知識を身につけ,日頃から食料や水の備蓄,家具の固定,防災訓練の実施などにより備えておくことが重要である。また,防災リーダーや防災ボランティアの育成を図る。この他,企業の災害対応能力の向上を図り,地域が一体となって防災体制を構築する。
 また,被害想定結果などをもとに,事前に広域災害を想定した体制づくりについて検討を実施する。これにより,地震発生後,被災地からの詳細な情報が入る前に,被害推計結果や専門調査会での被害想定をもとに,迅速に応急要員や物資,資機材の配置計画などを応急対策活動要領として作成する。
③計画的かつ早急な予防対策の推進
 住宅や建築物の耐震化,公共施設や主要施設の耐震化を早急に進めることで被害の軽減を図る。また,石油タンクや長大構造物,高層建築物の被害の軽減を目指し,ゆっくりした揺れ(長周期地震動)対策を進めるため,構造物に与える影響などについて調査研究を推進する。この他,地域の孤立防止や円滑な応急活動を実施するため,地震に強い交通ネットワークの整備,崖崩れ対策や液状化対策などを計画的かつ早急に進める。
④東南海,南海地震の時間差発生による災害の拡大防止
 東南海,南海地震が時間差発生する場合に,後発地震により甚大な被害を受ける可能性のある地域では,数日間に限って避難を実施するなどの具体的な対策を検討する。強い揺れに2度襲われる可能性や,時間差によっては両方の地震による高い津波が重なって到達するおそれもあることから,先発の地震後早急に建築物の応急危険度判定を実施するなどして,後発の地震による被害を最小限に抑える。また,このような時間差発生に関する調査研究を進めることでより被害の軽減を図る。
 この他にも,復旧・復興対策や,対策を確実に推進するための進捗状況の把握,フォローアップの必要性について規定している。
(b)東南海・南海地震防災基本計画
 推進地域が指定されたことを受けて,同法の規定に基づき,東南海・南海地震対策大綱を踏まえて,中央防災会議は東南海・南海地震対策の基本的方針等を規定した東南海・南海地震防災対策推進基本計画(以下「基本計画」という。)を平成16年3月31日に決定した。
(c)東南海・南海地震応急対策活動要領
 東南海・南海地震対策大綱を踏まえ,東南海・南海地震発災後の広域の応急対策活動を的確に実施するため,防災関係機関がとるべき行動内容について規定した「東南海・南海地震応急対策活動要領」が,平成18年4月の中央防災会議で決定された。
 (主な内容)
 ・現地対策本部の設置(設置場所は,原則として愛知県,大坂府,香川県。)
 ・東南海・南海地震発生時の救助・救急・医療活動及び消火活動の基本方針
 ・東南海・南海地震発生時の交通の確保・緊急輸送活動の基本方針
 ・物資の調達,供給等に関する活動の基本方針
(d)東南海・南海地震の地震防災戦略
 東海地震と同様に,平成17年3月30日の中央防災会議において,既に被害想定を実施し,対策に関する大綱を定めている東南海・南海地震を対象とする地震防災戦略が決定された(図2−4−31)。
 東南海・南海地震の地震防災戦略においては,減災目標として,死者数約17,800人を約9,100人に,経済被害額約57兆円を約31兆円にすることとした。
 特に,東南海・南海地震の場合,津波による死者数が多いことが特徴であり,住宅の耐震化と並んで,「住民の津波避難意識の向上」による減災効果が大きい。津波避難意識を向上し,保持していくために,津波ハザードマップの作成・周知,津波防災訓練の実施のほか,防災計画の充実,防災教育等を推進することとした。

東南海・南海地震の地震防災戦略

(6)日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震対策
a 日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震の地震像
(a)発生の可能性
 千葉県東方沖から三陸沖にかけての日本海溝,三陸沖から十勝沖を経て択捉島沖にかけての千島海溝周辺では,太平洋プレートが陸側のプレートの下に沈み込むことに伴って,マグニチュード7や8クラスの大規模地震が数多く発生している。1896年(明治29年)の明治三陸地震津波では死者約2万2千人,1933年(昭和8年)昭和三陸地震津波では死者・行方不明者約3千人など,津波により甚大な被害となっている。また,平成15年9月26日には十勝沖地震が発生し,津波は4メートルの高さにまで達した。この地震では,死者・行方不明者2名となっている。
 地震のタイプはさまざまで,プレート境界で発生するものやプレート内部で発生するもの,地震の揺れのわりに大きな津波が発生するいわゆる「津波地震」などの地震がある。宮城県沖地震は約40年間隔で発生しており,この他の地震も含めて発生の切迫性が指摘されている。
(b)日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会における検討
 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策を検討するため,平成15年7月28日に開催された中央防災会議において「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」の設置が決定された。
 専門調査会においては,平成15年(2003年)十勝沖地震の発生等を踏まえ,十勝沖をはじめとした北海道周辺の千島海溝・日本海溝で発生する海溝型地震に関して地震動の強さや津波の高さ等必要な事項について特に検討するため,「北海道ワーキンググループ」が設置された。専門調査会は平成18年1月までに17回開催され,地震学の最新の知見に基づいて,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の地震像について検討を進め,防災対策の検討対象とする地震について整理するとともに(表2−4−14),地震の揺れの強さ(図2−4−32),津波の高さ分布(図2−4−33)等から,地震による揺れや津波,火災等による人的被害や建物被害,経済被害等の被害想定を行った(表2−4−15)。さらに,これらを踏まえた日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策について検討を行い,平成18年1月25日に「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告」をとりまとめ,公表した。

防災対策の検討対象とする8地震表2−4− 14

日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の震度分布(震度の最大の重ね合わせ)

日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震による海岸での津波の高さ(満潮時)

日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る被害想定

 b 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法
(a)法律の目的
 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関し,その地震災害,特に津波災害については,広い地域において甚大な被害が予想されることから,一層の防災対策を進める必要があるとして,議員立法により平成16年4月に「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」が公布され,平成17年9月に施行された。
 同法においては,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震による地震災害を防ぐため,著しい被害が生ずるおそれのある地域を「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域」として指定し,津波からの避難対策も含め必要な防災対策に関する計画を策定するとともに,観測施設等の整備や科学技術水準が向上することにより,当該地域における海溝型地震の予知体制が確立した場合には,東海地震と同様に大規模地震対策特別措置法を適用することとされている。また,積雪寒冷地域において地震防災施設等の整備等を行うに当たっては,積雪寒冷地域における地震防災上必要な機能が確保されるよう配慮されなければならないこととされている(図2−4−34)。

日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法について

(b)日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域
 同法が施行されたことを受けて,同法の規定に基づき,平成17年9月27日に内閣総理大臣は日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域(以下,「推進地域」という。)の指定について中央防災会議に諮問した。これを受け,専門調査会では推進地域の指定基準について検討が行われ,地震の揺れについては建物の全壊が生じるとされる「震度6弱以上」,津波についても同様に「陸上での浸水深2メートル以上(但し,津波に伴う漂流物による被害の拡大を考慮し,漂流物が多いと想定される人口集中地区や重要港湾等においては,浸水深1.2メートル以上)または海岸での津波高3メートル以上」で「堤防で防げる地域を除く」地域とし,この他,市町村が連携して防災体制をとる必要がある地域についても,防災体制の観点から基準に含めることとした。
 この基準に1道4県107市町村(平成17年11月16日現在)が該当したことから,内閣総理大臣はこれを踏まえ,関係5道県に(関係道県は関係市町村に)意見照会を行った。この結果,最終的に1道4県130市町村を推進地域とする案がとりまとめられ,平成18年2月17日に中央防災会議から内閣総理大臣に答申された。2月20日に内閣総理大臣は答申どおりの範囲からなる地域を推進地域として指定した。その後の市町村合併を踏まえ,平成18年4月1日に再指定を行った(同日現在,1道4県119市町村)(図2−4−35表2−4−16)。

日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域

日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域市町村一覧

c 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策の概要
(a)日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策大綱
 同専門調査会の報告を受けて,中央防災会議は,推進地域外も含め全国的な視点から総合的な地震防災対策を推進するための「予防対策から発災時の応急対策,復旧・復興対策までを視野に入れたマスタープラン」としての「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策大綱」を平成18年2月に決定した。
 大綱では,①津波防災対策の推進,②揺れに強いまちづくりの推進,③積雪・寒冷地域特有の問題への対応等のポイントから,対策をとりまとめた。各ポイントの概要は以下のとおりである。
 ① 津波防災対策の推進
 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震が発生した場合,特に津波により大きな被害の発生が想定される。津波による被害軽減のためには,迅速かつ的確な避難が最も重要である。このために,津波警報のより一層迅速な発表や提供された津波警報の確実な伝達を図る。また,避難地や避難路の整備,海岸堤防や河川堤防等津波防災施設の耐震点検や補強等を計画的かつ着実に進める。さらに,「津波地震」への対策,津波による沿岸地域集落の孤立への対策,漂流物による災害等の二次災害の防止のための対策,広域的な津波防災対策等を進める。
 ② 揺れに強いまちづくりの推進
 建築物の被害は,死者発生の大きな要因であり,出火,火災延焼,避難者の発生,救助活動の妨げ,がれきの発生等の被害拡大の要因でもある。これら被害軽減のため,建築物の耐震化に取り組む。また,北海道・東北地方は寒冷地であるため,他の地域に比べてエネルギー使用量が多く,特に冬期はその傾向が顕著であるため,出火しやすい環境になっており,火災対策を進める。
 ③ 積雪・寒冷地域特有の問題への対応
 冬期に地震が発生した場合は,他の地域と比べ,雪や凍結による被害の拡大や,避難及び応急活動等への支障が出るおそれがある。このため,除雪体制の確保による冬期道路交通の確保,暖房設備の整備や燃料の備蓄等による避難生活環境の確保等の対策に取り組む。
(b)日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策基本計画
 推進地域が指定されたことを受けて,同法の規定に基づき,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策大綱を踏まえて,中央防災会議は日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策の基本的方針等を規定した日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進基本計画を平成18年3月31日に決定した。

コラム

(7)首都直下地震対策
a 首都直下地震の姿
(a)発生の可能性
 首都地域においては,大正12年(1923年)に関東大地震(関東大震災)が発生し,未曾有の大災害を引き起こした。この関東大地震は,いわゆる「海溝型」の地震で,地震の規模はマグニチュード8クラスという巨大地震である。首都地域では,このような海溝型の巨大地震は200〜300年間隔で発生するものと考えられている。現在は,1923年の関東大地震から80年余りが経過したところであり,次のマグニチュード8クラスの地震が発生するのは,まだ100年以上先と考えられている。
 一方,次の海溝型の地震に先立って,プレートの沈み込みによって蓄積された歪みの一部が,いくつかのマグニチュード7クラスの地震として放出される可能性が高く,次の海溝型の地震が発生するまでの間に,マグニチュード7クラスの「首都直下地震」が数回発生することが予想されており,その切迫性が指摘されている(図2−4−36)。

首都直下地震の切迫性

(b)被害想定
 中央防災会議では,平成15年5月に「首都直下地震対策専門調査会(以下「専門調査会」という。)」の設置を決定し,近年,関東地域の地殻変動に関する定点観測網の充実により蓄積されてきた観測データやそれに伴い増大してきた知見を生かして首都直下で発生するマグニチュード7クラスの地震像を明確化するとともに,政治中枢,行政中枢,経済中枢といった首都中枢機能が極めて高度に集積し,かつ人口や建物が密集している首都地域の特性を踏まえて被害想定を実施した。
①対象地震
 首都地域の地殻構造をみると,一番上に北米プレートがあり,その下にフィリピン海プレートが沈み込み,さらにその下に太平洋プレートが沈み込むという3層構造となっている。このため,首都地域で発生する地震のタイプは,図2−4−37に示すように,5つのタイプの地震が考えられる。しかしながら,震源の深い地震については,地表面での揺れが小さくなることから検討対象から除外することとし,専門調査会では,地殻内の浅い地震と,フィリピン海プレートと北米プレートとの境界の地震を対象とした。地殻内の浅い地震は,活断層で発生する地震と,活断層が地表に認められない場所でも発生するその他の地震がある。活断層で発生する地震についてはマグニチュード7.0以上の地震規模となる5つの断層による地震を(図2−4−38),その他の地震については,地震の規模をマグニチュード6.9として,どこでも地震が発生する可能性があることから,都心部や県庁所在都市等の直下で発生する10の地震を想定した(図2−4−39)。
 北米プレートとフィリピン海プレートとの境界の地震については,プレート境界の領域のうち,近年の地震学の調査研究から発生の可能性の低い領域を除いて3つの地震を想定した(図2−4−40)。地震の規模は,これまでのマグニチュード7クラスの地震の中で最大であったマグニチュード7.3とした。

首都直下で発生する地震のタイプ

活断層の地震

地殻内の浅いマグニチュード6.9 の地震

北米プレートとフィリピン海プレートの境界の地震

 以上,専門調査会では,合計18の地震について,地震の揺れ,人的・物的被害等について被害想定を行った。このうち,北米プレートとフィリピン海プレートとの境界で発生する「東京湾北部地震」が,ある程度の切迫性が高い地震であると考えられること,都心部の揺れが強いこと,震度6弱以上の強い揺れの分布が広域的に広がっていることから,この地震を中心として被害想定及び対策の検討を行った(図2−4−41)。

東京湾北部地震(マグニチュード7.3)の震度分布

②被害想定の結果
 東京湾北部地震では,建物倒壊及び火災延焼による死者が膨大で,死者数は,18時・風速15m/sのケースで約11,000人,風速3m/sのケースで約7,300人を想定した(表2−4−17)。建物の全壊及び焼失については,揺れ及び火災によるものが膨大で,建物全壊棟数は,18時・風速15m/sのケースで約85万棟,風速3m/sのケースで約48万棟を想定した(表2−4−18)。風速15m/sのケースにおける都心部の揺れによる全壊棟数及び火災による焼失棟数の分布を概観すると,都心東側の荒川沿いの震度の大きい地域で揺れによる全壊が多く発生し,都心西側の環状6号〜環状7号沿いの木造家屋が密集し,不燃領域率が低い地域で火災による焼失が多く発生している(図2−4−42)。

人的被害の概要(東京湾北部地震,M7.3)

建物被害等の概要(東京湾北部地震,M7.3)

全壊棟数分布と焼失棟数分布

 さらに,これに伴う経済被害は,建物・構造物の物理的な損失額である直接被害と,建物被害及び労働力の喪失等によって生じる経済活動の低下や交通寸断の影響による機会損失・時間損失による間接被害を併せて18時・風速15m/sのケースで約112兆円(直接被害約66.6兆円,生産額の低下による間接被害約39.0兆円,機会損失・時間損失による間接被害約6.2兆円),風速3m/sのケースで約94兆円(直接被害約50.1兆円,生産額の低下による間接被害約37.5兆円,機会損失・時間損失による間接被害約6.2兆円)と膨大な被害額を想定した(図2−4−43)。

経済被害の概要

 ライフライン被害については,18時・風速15m/sのケースでは,発災後一日目で,断水人口約1,100万人(約450万軒),停電軒数約160万軒,ガス供給停止軒数約120万軒を想定した。
 避難者数については,一日後の避難者数を最大で約700万人,このうち親戚,知人宅に避難する人を除いて実際に避難所で生活する人は,最大で約460万人と想定した。阪神・淡路大震災のピークで約30万人,新潟県中越地震で約10万人だったことと比較すると,桁違いに多い避難者が発生する。
 昼間に発災した場合,交通機関がストップすることにより,多くの人が自宅に帰れなくなり,帰宅困難者となる。特に首都地域では,遠方から来ている昼間滞留者の数が膨大であり,昼12時に地震発生の場合,帰宅困難者の数は約650万人にも上るものと想定した。
b 首都直下地震対策の概要
(a)取組の経緯
 首都地域の地震対策については,これまで中央防災会議において,昭和63年に関東大地震と同じタイプのマグニチュード8クラスの地震について被害想定を行い,その成果を踏まえた「南関東地域震災応急対策活動要領」を,平成4年には,南関東地域直下で発生するマグニチュード7クラスの地震を対象とした「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」を策定するなど,各般に亘る南関東地域の地震対策を推進してきた。しかしながら,マグニチュード7クラスの直下の地震が発生した場合の被害想定は行っておらず,具体の被害像に基づく対策が明確でなかったこと,首都機能維持や企業防災対策といった観点からの対策強化が必要であること等から,中央防災会議では,平成15年9月から中央防災会議「首都直下地震対策専門調査会」を開催し,首都直下で発生するマグニチュード7クラスの地震像を明確化するとともに,被害想定を実施し,我が国の政治,行政,経済の中枢機能が集積するエリアとしての首都地域の特性を踏まえた新たな視点から首都直下地震対策を検討してきた。そして,平成17年7月に報告書をとりまとめた。
(b)首都直下地震対策大綱
 専門調査会報告を受けて,平成17年9月の中央防災会議において,対策のマスタープランとなる「首都直下地震対策大綱」を決定した。首都直下地震対策大綱では,「首都中枢機能の継続性確保」と「膨大な被害への対応」を対策の柱としている(図2−4−44)。

首都直下地震対策大綱の柱

①首都中枢機能の継続性確保
 「首都中枢機能の継続性確保」にあたっては,首都中枢機能を構成する首都中枢施設だけでなく,それらの機能を支えるヒト・モノ・金・情報とライフライン・インフラについても継続性の確保が求められる。発災直後(特に3日間程度の応急対策活動期)においても,首都中枢機能の継続性を確保できるよう,発災時間経過ごとに最低限維持すべき目標を設定し,同目標を達成すべき対策を実施することが必要である(図2−4−45)。

首都中枢機能継続性確保

 例えば,中央省庁においては,発災直後から被害状況の把握や被災地への救援のための調整,広域的な応急対策活動のオペレーションを行う必要がある。このため,庁舎の耐震化や災害時にも途絶しない通信連絡基盤を確保し,万が一施設が被災した場合でも対応可能となるよう,ライフライン系統の多重化やバックアップ機能の充実を図ることや,交通機関が途絶する中でも職員が緊急に参集できるよう徒歩圏内に居住することなどが必要である。さらに,発災時にも業務が継続されるよう,あらかじめ計画(中央省庁版BCP(Business Continuity Plan事業継続計画))を策定し,BCPに基づいて定められた活動が的確に実施できるよう定期的に訓練を行うことや,各施設に係わる電力・通信が被災した場合には優先的に復旧するなどの応急対策を行うことが必要である。
 ② 膨大な被害への対応
 「膨大な被害への対応」については,発災後の応急対策には自ずから限界があるため,今のうちから出来る限り地震時の被害量を軽減するためのミティゲーション策(減災対策)に計画的に取り組むことが重要である。
 建築物の被害は,倒壊により直接的に多数の死傷者を発生させるばかりでなく,その後の火災被害拡大の原因にもなり,また住宅の全壊等により避難者の多数発生につながり,さらには,膨大な量の震災廃棄物も発生するなど,被害の拡大要因ともなる。このため,建築物の耐震化は,重点的に取り組むべき最重要課題である。
 建築物の多くは,民間が所有するものであり,耐震化の必要性については広く周知を図ることが必要である。そのため,個々の居住地が認識可能となる程度に詳細な地震防災マップの作成・公表し,耐震化の必要性について広く周知を図る。
 また,補助制度,税制度の活用促進により,住宅などの建築物の耐震診断,耐震補強,建て替えを促進する。特に,密集市街地や緊急輸送道路沿いの住宅などについては,倒壊すると応急対策活動等に支障が生じるおそれがあることから,耐震化を緊急に推進する。
 さらに耐震化を促進するための環境整備として,住みながら耐震改修できる手法やローコストの耐震改修手法などの開発,建築物の取引時における耐震診断の有無等に関する情報提供等に取り組む。この他,首都直下地震対策大綱では,耐震化に向けた定量的な目標の設定,建築物への耐震改修の指示に従わない場合の公表等について制度を整備することとされ,平成17年11月にこれらを内容とする建築物の耐震改修の促進に関する法律の改正が行われた(図2−4−46)。

建築物の耐震化

 首都地域には,密集市街地が多く存在するため,火災による被害は,全体の被害の中でも非常に大きな割合を占めるものとなる。特に,同時に火災が多発した場合,消防機関による消火が極めて困難となり,市街地の延焼が拡大する危険性が高い状況となる。
 このため,建築物の不燃化,火気器具の安全対策等による出火防止対策を講じるほか,市街地の面的整備,道路・公園などによる延焼遮断帯の整備等の延焼被害軽減策が必要である。
 また,密集市街地では消防車が入れない狭い路地が多いことから,被害を拡大させないようにするためには,炎上に至るまでの地域住民による初期消火が重要になる。このため,平常時からの地域コミュニティの再構築や自主防災組織の育成・充実等が必要である(図2−4−47)。

火災対策

 阪神・淡路大震災や新潟県中越地震と比較しても桁違いに多い膨大な避難者への対策としては,通常の災害時に開設される避難所の確保のほか,避難所への避難者の数そのものを減らす工夫が必要である。このため,一時期の間,被災地の外に避難する疎開・帰省の奨励や,ホテル・空き家等の既存ストックを有効に活用して避難所生活者の収容能力を増強するなどの多様なメニューを提示し,対策を講じていく必要がある(図2−4−48)。

避難者対策

 発災直後に,多数の帰宅困難者が一斉に徒歩で郊外に向かって帰宅しようとすると,周辺地域から被害の大きな地域に進入しようとする救助部隊との間で混乱が生じる等のおそれがある。さらに,帰宅困難者が正確な被害情報や交通情報を把握していなければ,その行動がさらに混乱することも予想される。このような混乱を避けるためには,すぐには徒歩帰宅行動に移らず,しばらく都心にとどまって冷静に行動することも必要であり,行動ルール(「むやみに移動を開始しない」)の徹底が求められる。平日昼間の帰宅困難者の内訳を見てみると,多くは,企業,学校という組織に属している人であり,このような人たちは,一定の期間,企業や学校に留まっておくことが被害の拡大を防ぐことになると考えられる。さらに,帰宅困難者の中には負傷していない人も多くいると考えられる。このような人々は被災地域での救援活動の担い手として,帰宅困難者を被災者とはとらえず,貴重な地域の防災力として捉えていくことも必要と考える。
 このように帰宅困難者に都心に留まってもらうために最も重要なことは,郊外の自宅にいる家族の安否確認である。災害用伝言ダイヤル「171」や災害用伝言板サービスなどを利用し,すぐに家族の安否が確認できる体制の充実が求められる。
 企業や学校に属さず,買い物等で都心に来ている人などに対しては,徒歩帰宅行動の支援を行う必要があるため,交通情報の提供,飲食やトイレ,仮眠等の休憩場所の提供なども必要である(図2−4−49)。

帰宅困難者対策

(c)東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点の整備等
 都市再生本部による都市再生プロジェクト第一次決定(平成13年6月)において,「東京圏において大規模かつ広域的な災害が発生した際,広域的な救助活動や全国や世界からの物資等の支援の受け入れといった災害対策活動の核となる現地対策本部機能を確保するため,水上輸送等と連携した基幹的広域防災拠点を東京湾臨海部に整備する」こととされた。
 これを受け,平成13年7月に関係省庁及び関係都県市による「首都圏広域防災拠点整備協議会」を設置し,協議が進められている。
 平成14年7月には,協議会において具体的な整備箇所や整備手法等を決定し,有明の丘地区(東京都江東区)及び東扇島地区(神奈川県川崎市川崎区)において,平成14年度より整備に着手した。
 また,平成17年11月の協議会において,「東京湾臨海部基幹的広域防災拠点整備基本計画」(平成16年1月決定,同年8月変更)に基づいた本部棟(有明の丘地区)及び施設棟(東扇島地区)の基本的な設計を発表した(図2−4−50図2−4−51)。
 今後,早期供用開始に向けた具体的な調整を行うとともに,基幹的広域防災拠点の運用に関する整理,当該拠点を中核とした広域防災ネットワークの整備・連携等について具体的な検討・調整を図り,被災時の首都圏全体の運用体制等を整備して首都圏の広域防災体制を確立することとしている。

コラム

有明の丘地区・東扇島地区の概要

本部棟(有明の丘地区)オペレーションルームのイメージ

(d)首都直下地震応急対策活動要領
 首都直下地震対策大綱を踏まえ,平成18年4月の中央防災会議において,「首都直下地震応急対策活動要領」が決定された。これは,首都直下地震に対し,防災関係機関や首都中枢機能を有する機関が効果的な連携をとって迅速かつ的確な応急対策活動を実施するため,災害発生時に,各機関が行うべき行動内容を定めるものである。
 (主な内容)
①政府の活動体制
・緊急災害対策本部を設置する(設置場所の優先順位は,①官邸,②中央合同庁舎5号館,③防衛庁,④立川広域防災基地とする。)。
・緊急災害現地対策本部を設置する(設置場所は,現在有明の丘地区に建設中の東京湾臨海部基幹的広域防災拠点施設とする(図2−4−52)。「有明の丘」の供用前や供用後でも被災により使用不能である場合の設置場所は,早急に検討することとする。)。緊急災害現地対策本部の管轄区域は,埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県の区域とする。
②首都中枢機能継続性確保のための活動
・首都中枢機関は,地震発生後,職員及びその家族の安否確認を行った上で,直ちに要員が参集し,必要に応じてバックアップシステムに切り替えるなど首都中枢機能の継続のための体制を整え,BCPに基づき活動を的確に開始する。
・緊急災害対策本部及び緊急災害現地対策本部は,首都中枢機関の機能継続のため,情報を収集・分析して支援策を検討の上,必要な措置を実施する。
③救助・救急・医療・消火活動
・関係都県に対する広域的応援として,救助・救急活動及び消火活動の実施及び要員の派遣を行うとともに,災害派遣医療チーム(DMAT)・救護班の派遣,広域医療搬送を行う。
④食料,飲料水等の調達
・主要な物資を中心とした調整体制の整備を行うとともに,緊急度,重要度に応じた調達活動などを行う。
⑤ 緊急輸送のための交通の確保・緊急輸送活動
・交通の確保のため,道路交通規制,道路の応急復旧,航路障害物の除去などを行う。
・緊急輸送活動として,自動車運送事業者に対する緊急輸送の要請を行うとともに,船舶,航空機を用いた緊急輸送を行うほか,東京湾臨海部基幹的広域防災拠点(東扇島地区)における緊急輸送活動の支援を行う。

有明の丘地区の場所

(e)首都直下地震の地震防災戦略
①地震防災戦略の策定
 首都直下地震対策大綱を踏まえ,平成18年4月の中央防災会議において,首都直下地震の地震防災戦略が決定された(図2−4−53)。
 首都直下地震の地震防災戦略においては,減災目標として,「今後10年間で死者数を半減,経済被害額を4割減させる」ことを掲げ,最大被害をもたらす風速15m/sの場合で死者数約11,000人を約5,600人に,経済被害額約112兆円を約70兆円に,風速3m/sの場合で死者数約7,300人を約4,300人に(約4割減),経済被害額約94兆円を約60兆円にすることとした。
 死者数の減少においては,特に火災による死者数の減災効果が大きい。その具体目標としては,
 ・住宅・建築物の耐震化:耐震化率 75%→90%
 ・密集市街地の整備:不燃領域率 40%以上
 ・初期消火率の向上:自主防災組織率 72.5%→96%
 を掲げ,その減災効果は,風速15m/sの場合で約4,000人減,風速3m/sの場合で約1,500人減が見込めるとした。
 経済被害額の減少においては,特に復旧費用軽減額の減災効果が大きい。その具体目標としては,
 ・住宅・建築物の耐震化:耐震化率 75%→90%
 ・緊急輸送道路の橋梁の耐震補強を概ね完了
 ・耐震強化岸壁の整備率 約55%→約70%
 を掲げ,その減災効果は,風速15m/sの場合で約26兆円減,風速3m/sの場合で約19兆円減が見込めるとした。
 さらに首都直下地震においては間接被害が大きいことから,その具体目標として,
 ・BCP策定企業の割合 大企業 ほぼ全て
 等を掲げ,生産活動停止による被害に対する減災効果を,風速15m/s,3m/sの場合いずれも約4兆円減が見込めるとした。
②今後の課題
 首都直下地震では,膨大な避難所生活者及び帰宅困難者が発生する。これらの生活支障については,今後,軽減方策を具体的に検討する必要があり,その検討の場として,平成18年4月の中央防災会議において,「首都直下地震避難対策等専門調査会」の設置が決定された。
 また,首都中枢機能に障害が発生すると,我が国全体の国民生活,経済活動に支障が生じるほか,海外への被害の波及が想定される。首都中枢機能の継続性確保のために,関係機関による目標の具体化を図ることとされた。

首都直下地震の地震防災戦略

(8)近畿圏,中部圏における地震対策
(a)「東南海,南海地震等に関する専門調査会」における検討
 平成10年に中央防災会議「大都市震災対策専門委員会」よりなされた提言を受けて,中部圏,近畿圏における,東南海・南海地震や大都市直下で発生する地震への防災対策を検討するため,平成13年6月28日に開催された中央防災会議において「東南海,南海地震等に関する専門調査会」の設置が決定された。
 現在,同調査会において,中部圏及び近畿圏の検討対象範囲,予防対策,応急対策の両面から地震防災の対象とすべき地震について,その地震像を明確化し,それにより想定される被害,地震防災対策のあり方について検討した上で,これらの地域における抜本的な防災対策計画を確立することとしている。なお,東南海・南海地震については,平成15年12月に同調査会から報告された検討結果を踏まえて,中央防災会議において東南海・南海地震対策大綱が決定された。
(b)京阪神都市圏における広域防災拠点の整備等に関する検討
 都市再生本部による都市再生プロジェクト第一次決定において,京阪神都市圏においても基幹的広域防災拠点の必要性も含め,広域防災拠点の適正配置を検討することとされた。
 これを受け,有識者,関係省庁と関係府県市による「京阪神都市圏広域防災拠点整備検討委員会」を設置し,基幹的広域防災拠点の必要性,広域防災拠点の適正配置等を含めた広域防災ネットワークの形成について検討を進め,平成15年6月,「京阪神都市圏広域防災拠点整備基本構想」を策定した。
 基本構想の概要は以下のとおりである。
 ○大規模災害に対して府県境を越えた広域的な災害対策活動の核となる機能を併せ持つ基 幹的広域防災拠点の整備が不可欠。
 ○広域防災拠点及び基幹的広域防災拠点の配置ゾーンを提示(図2−4−54図2−4−55)。
 平成16年3月から,国土交通省近畿地方整備局が事務局となり,関係省庁及び関係府県市等による「京阪神都市圏広域防災拠点整備協議会」を立ち上げ,基幹的広域防災拠点の具体的な整備に向けての検討を行っている。
(c)名古屋圏における広域防災ネットワーク整備・連携方策の検討
 稠密な市街地が連たんしている名古屋圏において,広域あるいは甚大な災害が発生した場合,国・地方公共団体等が連携・協力して広域的な災害対策活動を行う必要がある。
 このため,有識者,関係省庁と関係県市等による「名古屋圏広域防災ネットワーク整備・連携方策検討委員会」を設置し,中核的な広域防災拠点の必要性・広域防災拠点の適正配置等を含む広域防災ネットワークの整備・連携に向けた検討を行い,平成16年7月,「名古屋圏広域防災ネットワーク整備基本構想」を策定した。
 基本構想の概要は以下のとおりである。
 ○大規模災害に対して,県境を越えた広域的な災害対策活動を行うための広域防災拠点及び 中核的広域防災拠点が必要。
 ○広域防災拠点及び中核的広域防災拠点の配置ゾーンを提示(図2−4−56図2−4−57)。
 今後,中核的広域防災拠点の整備については,整備の実現可能性の観点から基本構想における配置ゾーン周辺の土地利用,面整備事業等の動向等を見据えつつ,具体的整備に向けての検討,関係機関との調整を行うこととしている。

京阪神都市圏の広域防災拠点配置ゾーン図

京阪神都市圏の基幹的広域防災拠点配置ゾーン図

名古屋圏の広域防災拠点配置ゾーン図

名古屋圏の中核的広域防災拠点配置ゾーン図

(9)総合防災情報システムの整備
a 地震防災情報システムの整備
(a)システムの概要
 阪神・淡路大震災に際しては,発災時における応急対策活動を円滑に行うための課題として,特に被災地の状況を迅速に把握するとともに,情報を統合化し,総合的な意志決定を行うことの重要性が改めて指摘された。
 内閣府ではこうした経験にかんがみ,様々な防災情報を地理情報システム(GIS)を活用してコンピュータ上の数値地図と関連づけて管理し,事前対策,応急対策及び復旧・復興対策の各段階における防災活動を支援する「地震防災情報システム(DIS:Disaster Information Systems)」の整備を進めている(図2−4−58)。
 DISは主に地震被害早期評価システム(EES),応急対策支援システム(EMS)等から構成されている。

地震防災情報システム(DIS)の概要

(b)地震被害早期評価システム
 DISを構成するシステムのうち,地震発生直後に被害のおおまかな規模を把握するための「地震被害早期評価システム(EES:Early Estimation System)」を,平成8年4月から稼動している(図2−4−59)。

地震被害早期評価システム(EES)

 このシステムは,地震災害の規模が大きいほど緊急かつ大規模な対応が必要となる一方で,その判断に必要な情報が時間的にも量的にも極めて限られたものとなるという問題を解消するため,地震による被害規模の概要を発生から30分以内に推計し,国の迅速かつ的確な初動対応のための判断材料として提供するものである。
 本システムは震度4以上の地震が発生した際に起動し,地震発生直後に気象庁から送られてくる震度情報と,あらかじめデータベースに登録された,全国の各市区町村ごとの地盤,建築物(築年・構造別),人口(時間帯別)等のデータに基づいて,建築物全壊棟数と建築物の全壊に伴う死傷者数という人的被害の概要を推計するものである。
 また,平成11年度から気象庁が津波の高さを数値化した新しい津波予報を発表したことに対応して,個々の海岸における津波浸水域を予測するシステムを整備している。
 なお,「地震被害に関する検討委員会」を設置し,地震発生後の結果を踏まえ,推計の精度向上を行っている。
(c)応急対策支援システム
 「応急対策支援システム(EMS:Emergency Measures Support System)」は,あらかじめ防災情報データベースに蓄積された情報と,発災後に防災関係機関から提供される実際の被害情報や応急対策の状況等に関する情報を,GISを用いて集約・整理し,関係省庁間で共有することにより,各種応急対策活動を支援するものであり,平成11年度から稼動している。
 また,平成14年度には,東京電力や東京ガスといったライフライン業者より停電情報,ガス供給停止情報といった被害情報をオンラインで受信する機能を追加している。
b 人工衛星等を活用した被害早期把握システムの整備
 大規模災害発生時に,広範囲の撮影が可能な人工衛星等の画像を活用することにより,交通・通信網の途絶等により被災状況等の把握が極めて困難な場合においても,実被害情報を早期に把握し,迅速かつ的確な初動体制の確立を図る(図2−4−60)。
 現在,既に多数の人工衛星が地上を撮影しているが,それぞれの衛星が被災地を撮影する機会は数日に一度であること,衛星によって分解能等の性能がまちまちであること,光学センサーでは夜間や悪天候の場合は撮影出来ないこと,等の制約条件がある。そのため,発災後に出来るだけ早く画像を得て被害状況を把握するためには,多くの人工衛星に対して速やかに撮影要求を行うことや,得られた画像から速やかに被災状況を抽出することが求められることから,以下の機能を持つシステムを整備している。
 ・観測対象域決定機能:DISからの被害推計情報を元に,撮影すべき対象地域を特定する。
 ・被災地域抽出機能:入手した被災後の画像データと予め蓄積しておいた被災前データを比較し,その差分が激しい地域を甚大な被害の可能性ありとして抽出する。

衛星による被災地撮影の例(平成16 年(2004 年)新潟県中越地震)

コラム


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