2 国際防災戦略の推進



2 国際防災戦略の推進

(1)「国際防災の10年」の総括

 1990年より国連を中心として進められた「国際防災の10年」の活動は,140を超える各国国内委員会等の積極的な支援の下,1999年末をもって終了した。我が国は,平成元(1989)年に,内閣総理大臣を本部長とする国際防災の10年推進本部を設置し,同活動を推進するとともに,中間年である平成6(1994)年に,防災分野では世界で初めての世界防災会議となる国連の「国際防災の10年世界会議」(横浜)を招聘した。同会議では,持続可能な経済成長は,災害に強い社会の構築と事前の準備による被害軽減なくしては達成できないことや,人命,財産を守り自然災害による被害を軽減するために地球規模の防災体制確立に向けた事業に着手する等の基本認識を示し,その後の世界の災害対策の指針となった「横浜戦略とその行動計画」を採択した。また,アジア地域の多国間防災協力を推進するため,平成10(1998)年7月,神戸市にアジア防災センターを創設した。
 コフィー・アナン国連事務総長は,1999年9月に開催された第54回国連総会の事務総長報告において,本活動が極めて有効かつ先駆的であったと称賛する一方,自然災害による犠牲者は減少しておらず,1998年1年間で約5万人が犠牲になったと報告した。このような状況を踏まえ,「国際防災の10年」中に実施された先駆的作業の継続が不可欠であること,また,災害予防戦略,災害予防の文化が重要であることを強調した。

(2)国際防災戦略(ISDR)活動の実施

 1999年11月1日,国連総会において,国連事務総長から国際防災の10年を継承する新しい「国際防災戦略(ISDR)」活動を実施すること,同活動を進める国連の組織・体制を整備すること,国際防災の10年を契機に設立された各国の国内委員会の維持強化を図ることなどが提示された。
 ISDRの目的としては,1)現代社会における災害対応力の強いコミュニティの形成,2)災害後の対応中心から災害の予防・管理への進化の2点があげられている。また,活動の骨格として,1)現代社会における災害リスクについての普及・啓発,2)災害防止に対する公的機関の主体的参画の促進,3)災害に強いコミュニティの形成に向けた地域住民の参画の促進,4)社会経済的損失の減少に向けた取り組みの強化等の4つの柱が報告された。
 1999年12月,本活動案を支持する決議が国連総会において採択され,活動を進める国連の組織・体制として,国連人道問題担当事務次長の下にISDR事務局が2000年1月に設置された。事務局は,国連による国際防災協力活動の窓口,別途設置された評議委員会の作業の支援,防災に関する意識啓発活動,防災に関する情報や知識の所在源情報の提供,各国国内委員会の活動の支援等を担当している。
 同活動の評議委員会は,国連人道問題担当事務次長を議長,ISDR事務局長を書記とし,国連機関の14名,学識経験者の8名,地域代表の8名から構成され,国連における防災戦略及び政策の提案,施策の効果の把握,他機関が実施する施策の調整,事務局に対する政策面での指導,防災に関する専門家会合の開催等を行うこととされた。なお,アジアからは,アジア防災センターが地域代表として評議委員会のメンバーとなっている。
 同評議委員会の下には,エルニーニョ及び気候変動と災害等4つのワーキンググループが創設され,国際防災戦略活動の骨格である上述の4つの柱を中心として活動していくこととしている。

(3)ISDRの活動

 2002年8月,ISDRは,防災に関する初めての総合的な報告書である「世界防災白書−Living with Risk」( http://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/1207/ )を発行し,大島国連人道問題担当事務次長が来日し,東京で公表した。同白書は,日本政府の支援により,以下の3点を目的として作成された。
[1] 各国の防災活動の成功事例を紹介するとともにその要因を分析し,政策決定者が今後,災害対策を実施するうえで,ガイドラインとして活用できる具体的情報を提供する。
[2] 国連組織として,初めて世界各地の防災への取り組みを総合的に評価する試みを行い,各国の担当者がこれまでの業績を評価する指針を提供する。
[3] 最近の自然災害による人的,物的被害に関する情報とその傾向の分析など,防災に関する基礎的資料を提供し,一般の人々に対する防災活動への理解を促進する。また,2002年10月にジュネーブで開催された第6回評議委員会では,ISDR事務局より,最近の活動状況として,世界防災白書の刊行等が紹介されたほか,2001年に国連総会で「横浜戦略とその行動計画」のレビューを開始することが決定されたことを受けて,本評議委員会はこれを推進していくことになること,また,このレビューの締めくくりの場として会議の開催を検討している旨,発言があった。これに対して,我が国は,世界防災白書の発刊を評価するとともに,横浜戦略のレビューについては,横浜会議の成果と課題を踏まえ,今後の防災戦略の検討に関し積極的に貢献していくことを明確にした。
 これを踏まえ,2003年4月にジュネーブで開催された第7回評議委員会において,日本政府として,2005年1月を目途に兵庫県神戸市に国連防災会議を誘致することを検討中である旨を表明した。

(4)ISDRに対する我が国の対応

 我が国においては,平成11(1999)年12月に「国際防災の10年」記念シンポジウムを東京で開催し,本10年活動の総括的な討論を行った。同シンポジウムではブレ国連国際防災の10年事務局長から今後の活動についての紹介があるとともに,引き続き我が国がISDR活動の先導的役割を果たすことを強く期待する旨の発言があった。
 その後,国連における体制整備がなされるのを受けて,平成12(2000)年5月,内閣府政策統括官(防災担当)(国土庁防災局長(当時))を議長とし,関係省庁の課長クラスをメンバーとする「国際防災連絡会議」を設置し,積極的に同活動を推進している。具体的には,同年12月に「国際防災連絡会議拡大アジア会合」を東京で開催し,アジア地域20か国の防災担当者等と同活動の推進等について意見交換を行った。
 平成13(2001)年2月には,「世界防災会議2001」を兵庫県で開催し,阪神・淡路大震災を含む災害の教訓について,特に復興問題に着目しつつ意見交換を行った。会議では,世界的な防災に関する取組みを行っている国連,OECD,世界銀行の担当者が一堂に会し,今後の連携,協力について意見交換を行い,今後も継続的に議論を進めていくこととなった。本会議には,大島国連人道問題担当事務次長からメッセージが寄せられ,神戸が国際的な防災,人道援助の拠点として成長していくことを期待するとの展望が示された。
 さらに,平成14(2002)年1月には,インドニューデリーにおいて,ISDR事務局及びインド政府との共催で,アジアを中心とする各国,ISDR事務局のほか,WHO,HABITAT,OCHAなど多数の国際機関の参加を得て,国際防災戦略アジア会合を開催した。同会合では,アジア地域における国際防災活動の方針について幅広い討議が行われ,本会合議長のインド農業省特別事務次官アショク・プラダン氏より,地球温暖化などの環境問題に深く関わる災害の発生に対して,その軽減・予防に係る各般の取り組みを推進するため,国家間の効率的かつ効果的な相互協力を一層強化する必要がある旨の議長サマリーが発表された。
 平成15(2003)年1月には,兵庫県の神戸国際会議場において,ISDR事務局,日本政府,兵庫県等との共催により,「アジア防災会議2003」を開催した。会議では,アジアを中心とした24カ国及び国連をはじめとする26の国際組織等の参加のもと,(1)災害による被害の軽減に向けた教育,メディア,環境,開発等の様々な分野との連携(2)異常気象に対する早期警戒態勢の構築に向けた国際的な協力体制の構築(3)国家レベルでの協力に加えて,自治体,NGO,民間企業等の様々な主体との重層的な連携等の必要性が強調されるなど,活発な議論が交わされた。本会議の成果は,アジア地域のこれまでの災害対策の成果と残された課題の総括として,現在,ISDR事務局において,2004年を目途に進めている「横浜戦略とその行動計画」のレビュー作業に反映されることとなっている。


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