表示段落: 第1部


表示段落: 第1部


第1部 災害の状況と対策

第1章 我が国の災害の状況

1 災害を受けやすい日本の国土

 我が国は,その位置,地形,地質,気象などの自然的条件から,地震,台風,豪雨,火山噴火などによる災害が発生しやすい国土となっている。

 有感地震年平均約1,300回程度,86の活火山,年平均台風上陸数2.8個など,世界の0.25%の国土面積に比して,世界全体に占める災害の発生割合は,非常に高くなっている( 図1-1-1 )。

  (図1-1-1) 世界の災害に比較する日本の災害

(1) 台風,豪雨,豪雪

 我が国は,おおむね温帯に位置し,春夏秋冬のいわゆる四季が明瞭に現れる。そして,四季の様々な気象現象として現れる台風,大雨,大雪などは,時には甚大な被害をもたらすことがある。

 春から夏への季節の変わり目には,梅雨前線が日本付近に停滞し,活動が活発となって多量の降雨をもたらす。

 また,夏から秋にかけて,南海上から北上してくる台風は,日本付近の天気に大きな影響を及ぼしており,毎年数個の台風が上陸又は接近し,暴風雨をもたらしたり,前線の活動が活発となって大雨を降らせたりする。

 冬には,シベリア大陸から吹き出す乾燥した強い寒気が日本海上で水蒸気の補給を受け,日本海側の地域に世界でもまれに見る大量の降雪・積雪をもたらし,しばしば豪雪による被害が発生している。

(2) 洪水,土砂災害

 我が国は,その急峻な地形ゆえに,河川は著しく急勾配であり,豊富な降雨が短時間に流出するため,洪水などによる災害が起こりやすくなっており,特に,洪水時の河川水位より低い沖積平野を中心に人口が集中し,高度な土地利用が行われるなど,河川の氾濫等による被害を受けやすい。

 また,我が国は,急峻な山地や谷地,崖地が多い上に,地震や火山活動も活発である等の国土条件に,台風や豪雨,豪雪に見舞われやすいという気象条件が加わり,土石流,地すべり,がけ崩れ等の土砂災害が発生しやすい条件下にある。特に,近年の林地や傾斜地又はその周辺における都市化の進展など土地利用の変化と相まって,土砂災害による犠牲者は,自然災害による犠牲者の中で大きな割合を占めている。

(3) 地震,津波,火山災害

 地震の震源と火山のほとんどは,ともに地球上の特定の限られた場所に帯状あるいは線状に細長く分布している。これらの分布と世界のプレートの分布を比較すると,地震の震源や火山の集中しているところのほとんどにはプレートとプレートの境界があることが分かる( 図1-1-2 , 図1-1-3 )。

  (図1-1-2) 世界の震源分布とプレート

  (図1-1-3) 世界のおもな火山

 我が国は,太平洋プレート境界である環太平洋地震帯に位置しているため,プレートの沈み込みにより発生するプレート境界型の巨大地震,プレートの運動に起因する内陸域の断層の運動に伴う内陸地震など,人が感じる地震だけでも全国で年間約1,300回発生している(1991年から1999年の平均。平成12年12月地震・火山月報(防災編)による。)。また,過去には,甚大な被害をもたらす大地震にたびたび見舞われている。平成12年には,有珠山,三宅島の噴火,新島・神津島近海の地震,鳥取県西部地震等があり,有感地震は約17,000回を記録した。

 さらに,四方を海に囲まれ,海岸線は入江等により長く複雑なため,地震の際の津波による大きな被害も発生しやすい。

 一方,我が国は,環太平洋火山帯に位置し,全世界の約1割にあたる86の活火山が分布しており,平成12年にも,有珠山,三宅島などで噴火現象や火山性地震等による火山災害が発生し,大きな被害をもたらした。

2 自然災害の状況

2-1 自然災害による死者・行方不明者の状況

 我が国では,毎年,自然災害により多くの尊い人命や財産が失われている( 図1-2-1 , 表1-2-1 , 表1-2-2 )。

  (図1-2-1) 自然災害による死者・行方不明者

  (表1-2-1) 昭和20年以降の我が国の主な自然災害の状況

  (表1-2-2) 最近の我が国の主な自然災害

 昭和20年代は,相次ぐ大型台風の襲来や大規模な地震の発生などにより,毎年のように大きな被害が生じた。特に,昭和20年の枕崎台風や昭和23年の福井地震は,死者・行方不明者が3,000人を超える甚大な被害をもたらした。

 昭和30年代に入っても1,000人以上の人命が失われる大災害が頻発し,昭和34年の伊勢湾台風は死者・行方不明者が5,000人を越す未曾有の被害をもたらした。

 伊勢湾台風以降の昭和30年代後半から,死者・行方不明者は著しく減少し,長期的にみれば逓減傾向にある。これは,治山・治水・海岸事業等の国土保全事業の積極的推進,災害対策基本法の制定等の防災関連制度の整備等による防災体制の充実,気象観測施設・設備の整備の充実,予報技術の向上,災害情報伝達手段の発展及び普及等によるところが大きい。

 しかしながら,近年でも,北海道南西沖地震災害,平成5年8月豪雨,阪神・淡路大震災のように,ときとして多大な人命,財産を失う災害が発生している。平成12年には,3月から有珠山,6月から三宅島で噴火があったが,事前避難等の適切な対応がとられた結果,人的被害は生じなかった。9月中旬には秋雨前線と台風第14号に伴う大雨により,東海地方を中心として多数の人命を失うなどの風水害が生じた。

 近年の自然災害による死者・行方不明者を災害別にみると( 図1-2-2 )のとおりであり,北海道南西沖地震,阪神・淡路大震災が起こった平成5,7年を除くと,土砂災害を始めとした風水害によるものが大きな割合を占めている。

  (図1-2-2) 災害原因別死者・行方不明者の状況

2-2 平成11年発生災害による施設関係等被害の状況

(1)

 昭和38年から現在までの施設関係等被害額の推移をみると,( 図1-2-3 )のとおりであり,同被害額の国民総生産に対する比率は,昭和38年から40年までは1.0%を超えていたが,国民総生産の大幅な増加等に伴い,昭和41年以降は平成6年まで概ね0.2〜0.8%程度で推移してきた。平成7年は阪神・淡路大震災により被害額が大きく増加したため,約1.2%となったが,平成11年は約0.3%となった。

  (図1-2-3) 施設関係被害額及び同被害額の国民総生産に対する比率の推移

(2)

 平成11年に発生した自然災害による被害のうちで,政府及び政府関係機関等がその施策として災害復旧等に関与している施設関係等被害額は約1兆3,000億円であり,前年とほぼ同額であった。また,その内訳は,公共土木施設関係で約5,900億円,農林水産業関係で約6,000億円,文教施設等関係で約880億円,厚生施設関係で約19億円,その他の施設関係で約210億円となっている( 表1-2-3 )。

  (表1-2-3) 平成11年発生災害による災害別施設関係等被害額

(3)

 一般資産等被害額は,通常,公共土木施設被害額とほぼ1:1程度となっており,都市部ではやや一般資産等被害額が多い傾向があるが,平成12年の東海地方の洪水では,被害額の約96%が一般資産等被害となり,特に一般資産等被害額の割合が高いという特徴が見られた(建設省(当時)試算)。

3 平成12年に発生した主要な災害とその対策

 平成12年は,有珠山噴火,三宅島噴火及び新島・神津島近海地震,鳥取県西部地震等,ここ数年みられなかった大規模な火山噴火や大きな地震が立て続けに発生した。このため,多くの住民が避難を余儀なくされるとともに,住宅をはじめ,道路,電力,電話,水道等住民生活に直結する生活関連施設等が著しく被害を受け,住民生活に大きな影響を与えた。

 また,本土への台風の上陸はなかったものの,9月には,台風とその影響を受けて発達した前線により東海地方を中心として記録的な豪雨に見舞われた。これにより愛知県及びその近県では,河川の氾濫やその恐れが生じ,延べ約61万人に避難指示や避難勧告が出されるとともに,広域にわたり住宅や店舗・工場等が多数浸水し,住民生活や経済・産業面に大きな打撃を与えた。

 有珠山や三宅島の火山噴火災害に当たり,政府は,噴火当初より迅速な初動体制をとり,非常災害対策本部を設置して,住民の安全確保を第一に優先した対応をとったこと等により,人的被害は最小限にとどめることができた。また,避難住民の生活に対してもきめ細やかに様々な分野にわたって支援を行うなど,長期にわたる災害に政府一体となって取り組んだ。しかしながら,現在もなお,仮設住宅や公的住宅等に避難を余儀なくされている住民が多数おり,引き続き各種の支援を続けている。

 鳥取県西部地震は,阪神・淡路大震災以来最大規模の地震であったが,発生直後より関係省庁が一体となって迅速な情報収集を行い,いち早く被害の概要をつかみ,自衛隊の災害派遣等の応援派遣を迅速に行えたことは,その後の被災者の救助・支援等を迅速かつ的確に行えたことにつながったと言える。なお,鳥取県は,過去の災害時における経験を踏まえ平成12年7月に実施した防災訓練や防災マニュアルの見直しが今回の災害対応に役立ち,被害を最小限にとどめることができたと評価している。

 また,東海地方を中心とした大雨が,都市における広域にわたる浸水,これに伴う都市機能の麻痺等甚大な被害をもたらしたことから,関係機関が連携及び協力し,都市部においてこのような集中豪雨による重大な被害を生じさせないための事前対策,災害発生時における危機管理対策を一層進めていくことが重要である。

3-1 有珠山噴火

(1) 災害の状況

 有珠山では,平成12年3月27日午前から火山性地震が次第に増加し,28日からは山麓で有感地震や低周波地震が増加していった。気象庁は,29日11時10分,「今後数日以内に噴火が発生する可能性が高くなっている」旨の緊急火山情報を発表した。このような中,政府は,同日11時30分に官邸において関係省庁局長等会議を開催,現地では事前に作成・公表されたハザードマップをもとにして,同日13時30分に避難勧告を発令し,同日18時30分には避難指示に切り替え,30日までには住民避難をほぼ完了した。31日には,小有珠の亀裂,洞爺湖温泉の断層群及び洞爺湖から虻田町に抜ける国道230号沿いに新たな亀裂が確認され,同日13時07分頃,有珠山は西山山麓で噴火した。4月1日には,有珠山北西側の金比羅山西側山麓から新たな噴火活動が始まり,5日,西山西麓で段差約10mの陥没地形を形成していることが確認された。

 噴火活動は5月以降次第に低下し,噴火活動は終息に向かっているが,周辺へ噴石を飛散させる爆発など,火口から500m程度の範囲に影響が及ぶ噴火が発生する可能性は当分続くと考えられている。

 この噴火災害では,最大で15,815人が避難指示・勧告の対象となったものの,噴火前に迅速な避難が行われたこと等により,人的な被害はなかった。その後火山の活動状況を見ながら順次避難指示・勧告は解除され,7月28日には,202世帯378名を除き避難指示・勧告は解除された。他方,電気,水道,電話,下水道,道路,鉄道,文教施設等は,火山噴火による地殼変動や泥流等により,大きな被害を受けた。電気・水道・電話については,延べ3,065戸が停電,延べ5,085戸が断水となったほか,商用電源の停電によりNTTビルが運用停止するなどの被害が発生した。下水道については,下水道トンネルが破壊され,洞爺湖温泉地区の下水処理ができなくなるなどの被害を受けた。道路については,道央自動車道,国道230号,国道453号等が地殼変動や噴石・泥流等による被害を受けたほか,多数の主要幹線道路が通行止めとなった。特に一般国道230号は本線上に噴火口が発生するなど,大きな被害を受けた。鉄道も火山活動の影響により,室蘭本線が線路屈曲等の被害を受けたほか,運転休止や臨時ダイヤ運行を余儀なくされた。また,小学校,中学校,高等学校等の文教施設も亀裂や泥流流入等の被害を受けた。

(2) 国等の対応(省庁名,大臣等は当時)

 噴火前の3月29日と翌30日の両日に,災害対策関係省庁連絡会議を開催し,関係省庁間の緊密な連携等を確認した。また29日に2回,官邸において関係省庁局長等会議を開催するとともに,現地には,国土庁長官官房審議官をはじめとする関係省庁の担当官を派遣し,地元自治体等と有珠山現地連絡調整会議を開催し,現地における今後の対応等について検討した。翌30日には増田国土総括政務次官を現地に派遣し,現地の体制を強化した。

 3月31日13時07分頃の最初の噴火後,直ちに,関係閣僚会議を開催し,「平成12年(2000年)有珠山噴火非常災害対策本部(本部長:中山国土庁長官,場所:国土庁)及び現地対策本部(本部長:増田国土総括政務次官,場所:伊達市)」の設置等を決定した。その後開かれた非常災害対策本部第1回本部会議では,下記の6点からなる災害応急対策に関する基本方針を決定し,これに沿って対策を実施していくこととした。

[1]

 今後の火山活動について,引き続き,観測・監視の強化,情報伝達体制の確保など,厳重な警戒態勢を執る。

[2]

 被害状況の迅速かつ的確な把握に努めるとともに,住民等の安全を最優先に,避難誘導等に万全を期す。

[3]

 災害の拡大防止を図るため,関係省庁,地元地方公共団体の緊密な連携のもと,状況に応じた適切な応急対策を講ずる。

[4]

 政府調査団(団長:中山非常災害対策本部長(国土庁長官))を直ちに現地に派遣する。

[5]

 現地に設置している有珠山現地連絡調整会議を平成12年(2000年)有珠山噴火非常災害現地対策本部にきりかえる。

[6]

 住民の避難生活が長期化する可能性にかんがみ,応急仮設住宅の供与をはじめとした適切な救済措置を講ずる。

 これを受け,本部会議終了後直ちに,中山非常災害対策本部長(国土庁長官)を団長とする政府調査団を現地に派遣した。翌4月1日に政府調査団は帰京し,直ちに非常災害対策本部長より現地の状況を小渕内閣総理大臣に報告するとともに,4月3日,非常災害対策本部第1回本部事務局幹事会会議を開催し,政府調査団報告等を行った。

 また,現地では,非常災害現地対策本部が設置されたことに伴い,有珠山現地連絡調整会議を有珠山噴火非常災害現地対策本部合同会議に切り替え,3月31日,伊達市役所において第1回有珠山噴火非常災害現地対策本部合同会議を開催し,現地における様々な課題・問題について協議を重ね,その対応に当たった。なお,非常災害対策現地本部合同会議は,当初毎日2回開催し,8月11日の現地対策本部の閉鎖までに計61回開催された。

 4月7日15時より非常災害対策本部第2回本部会議を開催し,下記の5点からなる災害対策に関する基本方針の決定等を行った。

[1]

 観測・監視の強化,情報伝達体制の充実等により,引き続き厳重な警戒態勢を執る。

[2]

 引き続き,住民等に対する安全性の確保を最優先として避難誘導等に万全を期する。

[3]

 避難者のニーズに的確に応える情報提供等を行うとともに,避難所における生活環境の改善や応急仮設住宅の供与等の適切な支援措置を講じる。

[4]

 農林漁業,商工業や観光業等生業への支援措置及び被雇用者への支援措置を講じる。

[5]

 今後とも,関係省庁や地元地方公共団体と緊密な連携を図りつつ,状況に応じた適切な応急対策を講ずる。

 また,4月15日には,森内閣総理大臣が現地を視察した。28日,官邸において青木内閣官房長官の出席の下,第3回関係省庁局長等会議を開催し,監視・観測体制の強化,大規模噴火が起こる兆候があった場合の現地対策本部の体制強化等について確認を行った。5月3日,火山の状況と監視体制,火山活動に応じた避難等について協議するため,関係閣僚会議を開催した。6月には,6日から7日にかけて,中山非常災害対策本部長(国土庁長官)が現地を視察,また,6月16日,関係閣僚会議を開催し,緊急時の住民避難,今後の復旧・復興対策等について確認した。9月14日,非常災害対策本部第2回本部事務局幹事会を開催し,有珠山噴火災害の復旧・復興等について報告等を行った。年が明けた平成13年1月22日,伊吹非常災害対策本部長(防災担当大臣)及び山崎非常災害対策副本部長(内閣府大臣政務官)が現地を視察した。

 政府は,4月28日,予備費を使用し,地震計,GPS,遠望カメラ等の観測監視体制を充実することを決定した。また,7月25日,この有珠山噴火災害に対する緊急災害復旧及び緊急防災対策として,一般国道230号をはじめ,有珠山周辺の迂回路・避難路の改修,防災・雪寒対策,道路情報装置の整備などの道路整備関係約129億を含む約196億円の公共事業等予備費の使用について閣議決定した。9月19日には,7月25日の閣議決定で災害対策分として使用留保していた公共事業等予備費のうち,1億4,800万円を有珠山対策として使用することを閣議決定した。

 避難指示地域内への住民一時帰宅については,一時帰宅する住民の安全が確保されるよう,非常災害現地対策本部が地元地方公共団体と自衛隊,消防,警察,道路管理者,気象庁等関係支援機関の調整を綿密に行い,実施日ごとに計画を策定した上で実施した。

 また,今回の災害について局地激甚災害の指定を行った( 表1-3-2 )。

  (表1-3-2) 平成12年局地激甚災害適用措置及び対象区域

 被災地域の復興のため,北海道が平成12年12月に「復興方針」をとりまとめ,平成13年3月には「復興計画基本方針」を策定した。政府としては,「復興計画基本方針」に基づき地元1市2町が策定する「復興計画」の実現に向けて,政府一体となって支援を行っていくこととしている。

 関係機関においては,以下の措置を講じた。

 内閣官房は,3月29日に官邸連絡室を設置し,更に同日官邸連絡室を官邸対策室に改組し,関係省庁の情報共有化を図るとともに,政府の初動対処方針を決定した。また,4月3日及び9日には危機管理監を現地に派遣したほか,3月29日以降現地に職員を派遣し,関係機関と協力し現地における対応に当たった。

 国土庁は,3月29日に情報先遣チーム,翌30日には増田国土総括政務次官を現地に派遣し,現地との連絡調整を強化した。31日に非常災害現地対策本部が設置され,増田国土総括政務次官は,非常災害現地対策本部長として引き続き現地にとどまり,指揮をとった。また国土庁長官官房審議官を非常災害現地対策本部長代行として現地に常駐させるとともに,多数の職員を派遣し,現地における対応にあたった。4月19日には自衛隊等の航空機から撮影した被災地域の映像を元に,明らかに全壊と認められる住宅を確認し,3月31日付で虻田町に「被災者生活再建支援法」を適用した。また,7月28日には,今後も避難が長期化することが見込まれる202世帯を同法に基づく「長期避難世帯」として認定した。

 警察庁では,非常災害現地対策本部に警察庁幹部を派遣して,現地での連絡体制の強化を図った。また,噴火前に東北管区広域緊急援助隊の派遣を指示するとともに,噴火後には,管区機動隊等の派遣を指示した。北海道警察では,現地に派遣された機動隊と協力して,避難誘導,避難拒否者の説得活動,交通規制,立入規制,避難住民の短時間・一時帰宅の支援,避難所における「困りごと相談」等に当たった(ヘリコプター派遣:最大時4機,延べ約160機)。また,4月23日,保利国家公安委員会委員長が現地視察を行った。

 総務庁は,5月16日,17日,被災者等からの各種相談,問い合わせ等に応じるための総合的な相談窓口として,伊達市及び豊浦町において関係機関の協力を得て特別総合行政相談所を開設した。

 北海道開発庁は,建設省と一体となって,高感度監視カメラやヘリコプター等による火山活動や泥流の監視を行うとともに,現地画像を関係機関や避難所に配信した。また,公共事業等予備費により,新たに無人災害調査車等を整備するとともに,泥流対策として,緊急的に無人化施工等を実施した。さらに,北海道産業,経済全般への影響を軽減するため,「北海道活性化懇談会」や北海道産品の購入促進キャンペーン等を実施した。3月31日,4月8日,5月1日及び6月30日に二階北海道開発庁長官が現地を視察した。7月8日には森田北海道開発庁長官が現地を視察した。12月14日,扇北海道開発庁長官が現地を視察した。米田北海道開発総括政務次官を3月30日から31日,4月4日及び6月6日に現地に派遣するとともに,7月14日,橋本北海道開発総括政務次官を現地に派遣した。

 防衛庁は,航空機による航空偵察,関係地方公共団体への連絡要員の派遣等を行うとともに,3月29日に北海道知事より自衛隊の災害派遣要請を受け,3月29日から7月24日までに,住民避難,給食・給水,避難住民の短時間・一時帰宅,火山観測監視等の支援を実施した(人員派遣:最大時約4,300人,延べ約100,000人,航空機派遣:最大時約20機,延べ約1,000機,艦船派遣:最大時4隻,延べ約100隻)。また,4月9日,瓦防衛庁長官が現地視察を行った。

 科学技術庁では,航空機による山体表面温度観測,地球観測衛星による観測を実施するとともに,高サンプリング地震観測を整備強化した。

 大蔵省では,多大な被害を受けた伊達市及び壮瞥町の指定する地域並びに虻田町の納税者について,国税庁告示をもって,平成12年10月31日まで,申告,納付等の期限を延長した。

 文部省では,幼児・児童生徒の所在・状況の把握,転入学の弾力措置等適切な対応をとるよう指示した。また,北海道大学医学部附属病院の医師団,北海道大学歯学部附属病院の歯科保健班を派遣した。4月17日には中曽根文部大臣が現地を視察した。

 厚生省は,3月29日,伊達市,虻田町,壮瞥町に対し災害救助法を適用し,避難所・応急仮設住宅の設置等を支援した。避難住民に対する救護活動,心のケア,健康相談等の実施のため,地元地方公共団体等は,救護班や精神保健班,保健婦を避難所等に派遣した。また生活福祉資金の貸し付けの対象を低所得者に限定しない特例措置を実施した。

 日本赤十字社は,各赤十字病院から救護班を派遣し,避難所等で巡回医療等を実施するとともに,毛布,日用品セット,お見舞い品セットを避難住民に配布した。また,赤十字防災ボランティアを伊達市,長万部町に派遣した。

 農林水産省では,避難指示地域内の家畜の移動先を確保し,家畜改良センター等から避難農家に粗飼料を提供した。また,漁船等の安全確保,ホタテ管理作業の支援,水産生物や海洋環境への影響調査のため,水産庁の漁業取締船及び調査船を現地海域に派遣した。さらに,被害の著しい農林漁業者に対する農林漁業金融公庫融資について,地元地方公共団体と協力して,貸付利率の無利子化を実施した。4月6日,玉沢農林水産大臣が現地を視察するとともに,5月1日,金田農林水産政務次官を現地に派遣した。

 通商産業省は,緊急時に備えた対応の準備等について,北海道電力や簡易ガス事業者に指示等を行った。また,北海道電力及び簡易ガス事業者から申請のあった料金の支払い期限の延長等の災害特別措置を認可した。また,政府系中小企業金融機関による災害復旧貸付を適用するとともに,著しい被害を受けた中小企業者等に対しては,閣議決定により,貸付利率を財投金利と同水準まで引き下げる措置を実施した。さらに,特に著しい被害を受けた中小企業者については,地元地方公共団体と協力して利子補給を行い,結果的に無利子となる措置を実施した。4月9日,深谷通商産業大臣が現地を視察した。

 運輸省は,鉄道事業者,航空関係者,観光関係団体に対し必要な注意喚起を行い,安全確保に努めるとともに,自動車検査証の有効期間の延長等の避難者への生活支援を実施した。また,観光振興対策として,北海道が行う観光キャンペーンへの支援など,運輸関係事業者や旅行業者等に対し必要な協力要請等を行った。3月31日,4月8日,5月1日及び6月30日に二階運輸大臣が現地を視察した。また,7月8日,森田運輸大臣が現地を視察した。3月30日及び4月10日,鈴木運輸政務次官を現地に派遣した。

 海上保安庁は,周辺漁協等に対する注意喚起や周辺海域の航行自粛要請を行い,これらを航行警報にて周知するとともに,有珠山噴火災害対策参考図を作成し,防災関係機関に最新情報を提供した。また,巡視船艇,航空機,救難チーム等を派遣し,住民や物資の輸送,ホタテ管理作業時の警戒等の支援を行った(人員派遣:最大時約500人,延べ約47,500人,ヘリコプター派遣数:最大時10機,延べ184機,巡視船艇派遣:最大時11隻,延べ397隻)。

 気象庁は,緊急火山情報や臨時火山情報を適宜・適切に発表するとともに,火山噴火予知連絡会有珠山部会を随時開催し,火山活動を総合的に評価し情報提供を行った。また,火山機動観測班を急派し,大学,北海道開発局等と連携を図りながら監視体制等を強化した。さらに,警報を含む気象情報を適時に発表し,大雨や融雪に伴う土砂災害等に十分に警戒するよう呼びかけた。

 郵政省では,電気通信事業者等に対し重要通信の確保等について要請した。また,4月1日から5月28日まで衛星通信設備によりオンラインサービスが可能な移動郵便局(スペースポスト号)を避難所へ派遣した。さらに,郵便物の料金免除等を行うとともに,為替貯金・簡易保険の非常取扱いを実施した。4月16日,八代郵政大臣が現地を視察した。5月8日,虻田町に対し,臨時災害対策用FM放送局を免許した。

 NTTは,災害用伝言ダイヤルを運用するとともに,避難所等に特設公衆電話を設置した。また電話料金の支払い期限の延長や電話が使用できない期間の基本料金等を免除した。

 NHKは,被害が甚大な放送受信契約者に対し,放送受信料を免除した。

 労働省は,雇用・労働問題に適切に対処するため,雇用・労働に関する相談窓口を設置したほか,一時的な離職を余儀なくされている被災者に対して雇用保険の基本手当を支給する措置を行った。また,緊急地域雇用特別交付金事業を活用して,雇用の創出を図るとともに,休業等を実施する事業主を雇用調整助成金の支給対象とし,雇用の維持を図った。さらに,災害により離職を余儀なくされた方(45歳以上)を特定求職者雇用開発助成金の支給対象労働者とした。

 建設省は,観測・監視機器等の増設や災害対策用ヘリコプターの派遣等により観測監視体制を強化したほか,配置した衛星通信車及びマイクロ回線を利用し,現地画像を本省,国土庁及び官邸まで配信した。再避難の円滑化のため,道央自動車道に緊急避難路等を設置するとともに,住民の生活機能の確保の観点から,国道230号の機能を代替している道道を国道230号に編入し,整備を行った。インターネットの道路局ホームページにおいて,道路管理者の対応状況,道路の被害状況,道路法等に基づく道路の規制状況や迂回路情報,現地の写真等災害に関する道路の情報を迅速に提供した。また,有珠山の噴火後ただちに土砂災害対策専門家チームを派遣したほか,建設省等で構成する土砂災害対策検討委員会を開催し,泥流警戒基準雨量及び警戒区域等を設定した。泥流対策,避難路確保等早急な対策が必要な箇所については,各種災害復旧事業及び災害関連緊急砂防事業を無人化施工も取り入れながら緊急に対策を実施した。さらに住宅金融公庫融資を返済中の被災者に対し,返済金の払込みの据え置き,返済期間の延長等の措置を実施した。3月31日から4月1日及び6月6日から7日にかけて,中山建設大臣が現地を視察した。

 自治省では,被災納税者の地方税の減免措置等について地方公共団体に対し通知したほか,伊達市,虻田町,壮瞥町に対して6月に定例交付すべき普通交付税の一部1,030百万円を4月18日に繰り上げて交付し,4月28日には多数の避難住民の受け入れ等を行った被災地周辺4市町村に対しても,6月に定例交付すべき普通交付税の一部1,227百万円を繰り上げて交付した。さらに,虻田町については多数の住民が避難生活を余儀なくされている状況等に鑑み,9月に定例交付すべき普通交付税の一部221百万円を6月28日に繰り上げて交付した。また,4月23日には保利自治大臣が被災地を視察した。

 消防庁は,消防・防災ヘリ,緊急消防援助隊等の派遣を行った。地元消防機関ではこれらの応援を受けながら,救急隊の避難所への配置や巡回,避難住民の短時間・一時帰宅支援等を実施した(人員派遣:最大時58人,延べ2,284人,ヘリコプター派遣:最大時2機,延べ14機)。

 ボランティア活動については,北海道の各社会福祉協議会,日本赤十字社,ボランティア団体等により設置された「北海道有珠山福祉救援ボランティア活動対策本部」及び「北海道有珠山福祉救援ボランティア活動現地対策本部」が,全国から参加するボランティアの受け入れ,役割の付与等を行い,ボランティア活動全体をコーディネートする形で進められた。延べ約1万人が参加し,避難所運営のサポート,物資搬送・引越しの手伝い,リクリエーション活動等様々な活動に携わり,被災者を支援した。

3-2 三宅島噴火及び新島・神津島地震

(1) 災害の状況

 三宅島では,平成12年6月26日から地震が多発し始め,気象庁は,6月26日19時33分に「噴火のおそれがある」旨の緊急火山情報第1号を発表し,住民に警戒を呼びかけた。27日には三宅島西方約1km沖で海底噴火が確認された。その後活動は低下したが,7月4日頃から山頂で地震が増え始め,8日に山頂で噴火するとともに,大きな陥没火口が形成された。以後,山頂で噴火が繰り返され,8月18日の噴火では山麓に噴石が落下し,29日の噴火では,低温で勢いのない火砕流が発生した。10月以降は火山灰の噴出はほぼなくなったが,9月以降,二酸化硫黄等の火山ガスを大量に放出する状態が続いている。なお,12月下旬から13年1月中旬にかけて山頂部で弱い火映現象が観測された。

 また,12年7月から8月までに三宅島近海から新島・神津島近海にかけて活発な地震活動があり,2か月間で震度6弱6回を含む震度5弱以上が30回観測された。

 これら一連の火山・地震活動により様々な被害が発生した。

 7月から続いた地震では,7月1日の震度6弱を観測した地震で神津島村の住民1人が亡くなるとともに,新島村で最大413名,神津島村で最大918名に対し避難指示や避難勧告が出された。また,三宅島の噴火活動の活発化から,三宅村では,9月2日に三宅村の全住民に対し島外への避難指示が出され,4日までに全住民が島外に避難するに至り,現在(13年4月末)も続いている。

 また,住宅や電気・水道・電話・放送に加え,道路・河川・港湾・空港等の公共施設等が被害を受け,住民生活に大きな影響を与えた。新島村では,全壊2棟,半壊15棟,停電1,976戸,断水152戸,NTTドコモ基地局1局が停波となった。また,都道,林道で土砂崩落,路面亀裂等の被害が発生し,計約20kmで通行止め(12年9月25日現在)となったほか,がけ崩れ8か所等の被害が発生した。農林水産業関係では,農業用水施設2か所,林地荒廃・治山施設39か所,漁港施設3か所等の被害となった。神津島村では,全壊2棟,停電1,690戸,断水20戸のほか,ケーブルテレビ受信施設の損壊により放送が停止した。また,都道,林道で土砂崩落,路面亀裂等の被害が発生し,計約41kmで通行止め(12年9月25日現在)となった。さらに,がけ崩れをはじめとした土砂災害34か所等の被害が発生したほか,空港の滑走路に段差が発生した。農林水産業関係では,ビニールハウスの損壊,農業用施設9か所,林道4か所,林地荒廃・治山施設41か所,漁港施設1か所の被害が発生した。三宅村については,火山活動の影響で,降灰,泥流,地殼変動等が発生し,多くの施設等に被害が生じているが,多量の火山ガスの噴出が続き,被害の詳細については把握できない状態である。

(2) 国等の対応(省庁名,大臣等は当時)

 三宅島の火山活動が活発化したことから,6月26日22時より第1回災害対策関係省庁連絡会議を,また6月27日10時より第2回災害対策関係省庁連絡会議を開催し,[1]関係機関は今後とも迅速かつ的確に情報の収集・伝達を行い,関係地方公共団体を含め,緊密な連携を図り,警戒などに万全を期すること,[2]事態の推移に応じ必要があれば,災害関係省庁連絡会議を開催する等関係省庁の連携を密にしていくこと,等を確認した。

 震度6弱の地震が発生した7月1日,9日,15日,30日及び8月18日には,地震発生後,直ちに官邸対策室を設置するとともに,関係省庁の局長級職員が速やかに官邸に参集し,緊急参集チーム会議を開催した。緊急参集チーム会議には,森内閣総理大臣,中川内閣官房長官,扇国土庁長官も度々参加して陣頭指揮をとった。また,国土庁においては,災害対策関係省庁連絡会議を開催した。

 7月21日,官邸において中川内閣官房長官の出席の下,第1回関係省庁局長等会議を開催し,下記の4点について確認した。

[1]

 火山活動及び地震活動について引き続き厳重な監視・観測を行い,被害の発生・拡大防止に努める。

[2]

 住民の生命・身体の安全確保を最優先としつつ,被災住民の生活面での支援に遺漏なきを期する。

[3]

 緊急時の住民避難等に万全を期するため,関係機関においては,引き続き必要な体制を維持する。

[4]

 今後とも状況に応じて適宜関係閣僚及び局長等による会議を開催する。

 また,8月29日12時15分,政府は「平成12年(2000年)三宅島噴火及び新島・神津島近海地震非常災害対策本部(本部長:扇国土庁長官,場所:国土庁)」を設置した。同日14時から官邸において,中川内閣官房長官及び扇非常災害対策本部長(国土庁長官)の出席の下,第1回非常災害対策本部会議と第2回関係局長等級会議をあわせて開催し,下記の5点について確認した。

[1]

 三宅島火山の活動状況及び三宅島,神津島,新島,式根島近海における地震の発生状況にかんがみ,引き続き厳重な監視・観測体制を維持するとともに,可能な限り監視・観測体制の強化を図る。

[2]

 島内の住民が生活を維持する上で欠かすことのできない電力,水道,交通網,通信網等のライフラインの確保に努めるとともに,ライフラインに被害が生じた場合は可能な限り速やかに応急復旧できる体制を整えることとする。

[3]

 島外に避難した住民を含め,住民の生活環境の改善を図るとともに,今回の災害による被害を受けた農林水産業,観光業等の産業を支援すべく,所要の施策を実施することとする。

[4]

 島内に残った住民の安全確保に万全を期すとともに,万一の場合も想定し,緊急時の避難支援体制を構築しておくこととする。

[5]

 関係省庁間及び東京都,地元自治体との緊密な連携を維持し,これらの対策を適切かつ迅速に行うこととする。そのため,現地において各種施策を迅速に具体化するため関係省庁で構成する「政府現地対策チーム」をできるだけ早い時期に派遣するとともに,今後とも状況に応じて関係局長等会議を開催することとする。

 8月30日より,政府現地対策チームの先遣チームを派遣し,9月1日から2日にかけて,関係10省庁23名からなる政府現地対策チーム(先遣チームの合流を含む)を三宅島に派遣した。9月6日から8日にかけて,関係17省庁33名からなる政府現地対策チームを神津島及び新島に派遣した。

 9月5日,扇非常災害対策本部長(国土庁長官)は,避難住民の一時避難先となった国立オリンピック記念青少年総合センター(代々木)を訪問した。9月14日には,森内閣総理大臣及び扇非常災害対策本部長(国土庁長官)が,三宅島,神津島及び新島を視察した。9月15日,内閣総理大臣は三宅村の児童・生徒が避難している秋川高校を訪問した。11月23日,蓮実非常災害対策副本部長(国土総括政務次官)が三宅島及び東京都現地災害対策本部(神津島村内に設置)に派遣した。11月30日,国土庁にて第2回非常災害対策本部会議を開催した。12月18日,高橋非常災害対策副本部長(国土総括政務次官)を三宅島,神津島及び新島に派遣した。13年1月15日,伊吹非常災害対策本部長(防災担当大臣)が三宅島,神津島及び新島を視察した。25日,坂井非常災害対策副本部長(内閣府副大臣)を三宅島,神津島に派遣した。また,2月27日,伊吹非常災害対策本部長(防災担当大臣)は,三宅村住民が避難している都営桐ヶ丘団地等を訪問した。3月3日,森内閣総理大臣が三宅島の被災状況等を視察した。

 政府は,9月12日,三宅島火山活動等に対する緊急観測監視体制の強化のため予備費約14億円を使用することを閣議決定した。また,19日には,7月25日の閣議決定で災害対策分として使用留保していた公共事業等予備費約200億円のうち,96億円を三宅島噴火及び神津島・新島近海地震による被害に対する災害復旧事業に使用することを閣議決定した。さらに,新島・神津島近海地震災害について,局地激甚災害の指定を行った( 表1-3-2 )。

 現在,三宅島においては,これまで設置を進めてきた監視・観測機器のデータ等から火山ガス放出が収まること等が確実となり,帰島できる見通しが立った後,出来るだけ速やかに帰島できるよう,関係省庁,地方公共団体,関係機関が連携して,道路や電力等の維持保全や被害の拡大防止等のための作業を進めている。

 関係機関においては,以下の措置を講じた。

 国土庁は,震度6弱の地震が発生した際には,地震被害早期評価システムによる被害推計結果を直ちに関係省庁へ配信した。7月5日,蓮実国土総括政務次官を神津島村に派遣し,19日には,扇国土庁長官が三宅島村,神津島村及び新島村の現地視察を実施した。8月30日以降国土庁職員を現地に派遣し,東京都現地対策本部等との連絡・調整等を実施している。また,11月29日,三宅村内で住宅全壊世帯が10世帯以上確認されたことから6月26日付で被災者生活再建支援法を適用した。さらに,11月30日には,今後も避難が長期化することが見込まれる約1,970世帯を同法に基づく「長期避難世帯」として認定した。

 警察庁では,関係機関との連絡調整等に当たるとともに,警視庁では,警視庁ヘリコプターや自衛隊の航空機及び艦船により,迅速に機動隊を三宅島等に派遣し,被害情報の収集,避難誘導,交通規制,避難住民への「困りごと相談」等に当たった(ヘリコプター派遣:最大時6機,延べ約210機(いずれも13年3月31日現在))。

 総務庁は,11月1日,被災者等からの各種相談,問い合わせ等に応じるための総合的な相談窓口として,東京都竹芝棧橋において関係機関の協力を得て特別総合行政相談所を開設した。

 防衛庁は,関係地方公共団体への連絡要員の派遣,震度5弱以上の地震が発生した場合の航空偵察等を行ったほか,東京都知事より,三宅村については6月27日,8月20日及び29日,神津島村に対しては,7月1日に自衛隊の災害派遣要請を受け,物資輸送,土のう積み,降灰除去,艦船の待機,火山観測,防災関係機関の人員輸送等の支援を実施した(人員派遣:最大時約470人,延べ約39,500人,航空機派遣:最大時約30機,延べ約370機,艦船派遣:最大時約10隻,延べ約290隻(いずれも13年3月31日現在))。

 科学技術庁では,地震調査研究推進本部定例会及び臨時会を開催し,地震活動の現状に関して評価を行った。また科学技術振興調整費を用いた「神津島東方海域の海底下構造等に関する緊急研究」を関係機関の協力の下実施した。

 大蔵省では,多大な被害を受けた三宅村,神津島村及び新島村の納税者について,国税庁告示をもって,別途告示で定める期日まで,申告,納付等の期限を延長した。

 文部省は,幼児・児童生徒の所在・状況の把握,転入学の弾力措置,また状況に応じ,臨時休校や授業短縮,夏季休業の前倒し等適切な対応をとるよう指示した。被災地域における学校については,教育委員会を通じ,学校施設等の安全確認のうえ,授業を再開するよう指示した。なお,三宅村の児童生徒については,都立秋川高校等に受け入れ,授業等が円滑に実施されるよう措置した。9月1日,大島文部大臣が都立秋川高校を視察した。

 厚生省は,三宅村,神津島村,新島村に対し,それぞれ6月26日,7月1日,15日に災害救助法を適用し,避難所・応急仮設住宅の設置等を支援した。避難住民に対する救護活動,健康相談等を実施するため,地方公共団体等は救護班,医療班を派遣した。また生活福祉資金の貸し付けの対象を低所得者に限定しない特例措置を実施した。

 日本赤十字社は,救護班計6班35名を自衛隊機により三宅島へ派遣したほか,緊急の事態に備えて救護班の待機を実施した。

 農林水産省は,被害調査を行うとともに,緊急を要する林道等について応急工事を実施した。また,水産生物や海洋環境への影響調査を行った。さらに,被害の著しい農林漁業者に対する農林漁業金融公庫融資について,地元地方公共団体と協力して,貸付利率の無利子化を実施した。9月15日,谷農林水産大臣が三宅村,新島村及び神津島村の被害状況等を視察した。

 通商産業省は,電気事業者及びガス事業者から申請のあった料金の支払い期限の延長等の災害特別措置を認可した。また政府系中小企業金融機関による災害復旧貸付を適用するとともに,著しい被害を受けた中小企業者等に対しては,閣議決定により貸付利率を財投金利と同水準まで引き下げる措置を実施した。さらに特に著しい被害を受けた中小企業者については,地元地方公共団体と協力して利子補給を行い,結果的に無利子となる措置を実施した。

 運輸省は,航空関係者,観光関係団体に対し必要な注意喚起を行い,安全確保に努めた。また,避難者に対する支援として,自動車検査証の有効期間の延長,雇用確保に関する運輸関係事業者への協力要請を実施するとともに,離島航路運航事業者への財政支援等を実施した。この他,伊豆諸島の観光振興対策として旅行業者等に対し必要な協力要請等を行った。

 海上保安庁は,周辺海域を危険海域として設定し,航行警報を発し,付近航行船舶に対し注意喚起を行った。また,巡視船艇,航空機,特殊救難隊を派遣し,緊急時の避難支援,火山観測支援等を行った(人員派遣:最大時約970人,延べ約17,500人,航空機派遣:最大時7機,延べ253機,巡視船艇派遣:最大時17隻,延べ370隻(いずれも13年3月31日現在))。このほか,測量船による変色水調査及び海底地形の調査の結果,変色水の湧出点付近に3か所の火口列を発見した。

 気象庁は,緊急火山情報,臨時火山情報及び地震情報等を適宜・適切に発表するとともに,火山噴火予知連絡会や地震防災対策強化地域判定会を開催し,地震・火山活動を総合的に評価して情報提供を行った。また,地震・火山機動観測班を急派し,大学,関係省庁等と連携を図りながら,震度計等を増設し,観測・監視体制等を強化した。さらに,警報を含む気象情報を適時に発表し,大雨に伴う土砂災害等に十分に警戒するよう呼びかけた。

 郵政省では,電気通信事業者に対し重要通信の確保等について要請した。また,9月7日と8日,衛星通信設備によりオンラインサービスが可能な移動郵便局(スペースポスト号)を,避難者の一時滞在場所である国立オリンピック記念青少年総合センター(代々木)に派遣した。さらに,郵便物の料金免除等を行うとともに,為替貯金・簡易保険の非常取扱いを実施した。8月4日,損壊・停波した三宅島の放送中継局の代替施設として,御蔵島に三宅島向けの中継局を設置するための許可をした。

 NTTは,災害用伝言ダイヤルを運用するとともに,避難所等に特設公衆電話を設置した。また電話料金の支払い期限の延長等を実施した。

 NHKは,被害が甚大な放送受信契約者に対し,放送受信料を免除した。

 労働省は,雇用・労働に関する相談窓口を設置したほか,一時的な離職を余儀なくされている被災者に対し,雇用保険の基本手当を支給する措置を行った。また,緊急地域雇用特別交付金事業を活用して,雇用の創出を図るとともに,休業等を実施する事業主を雇用調整助成金の支給対象とし,雇用の維持を図った。

 建設省は,情報収集の強化のため,災害対策用ヘリコプターの派遣を行い,迅速な現地調査を実施した。また,観測・監視機器等を設置し,観測監視体制を強化した。さらに,現地に災害査定官を派遣し,道路の応急復旧工事等の技術指導を実施するとともに,泥流や土砂による被害発生を防止するため,砂防関係緊急対策事業の実施を支援した。東京都の土砂災害対策検討委員会にも担当官を派遣し,土砂災害に対する警戒避難体制等について技術的支援を実施した。住宅金融公庫融資を返済中の被災者に対しては,返済金の払込みの据え置き,返済期間の延長等の措置を実施するとともに,被災者等のための公営住宅の建設を支援した。

 自治省では,被災納税者の地方税の減免措置等について地方公共団体に対し通知したほか,9月に定例交付すべき普通交付税の一部について7月18日に神津島村に対して140百万円,8月8日に三宅村,新島村,利島村に対して233百万円,さらに被害が継続している状況等にかんがみ三宅村に対して9月5日に90百万円を,それぞれ繰り上げて交付した。

 消防庁は,情報収集及び関係機関との連絡調整等にあたるとともに,地元消防機関は,東京消防庁と連携を図り,ヘリコプター等による被害状況調査や警戒活動,地震発生時における住民の避難誘導,崖崩れ等の応急措置作業及び避難指示・勧告区域の警戒活動等を実施した(人員派遣:延べ約1,700人,ヘリコプター派遣:最大時2機,延べ59機(いずれも13年3月31日現在))。

3-3 平成12年秋雨前線と台風第14号に伴う大雨

(1) 災害の状況

 9月11日から12日にかけて,本州上に停滞していた前線に向かってゆっくりと沖繩方面に進んでいた台風第14号から暖かく湿った空気が入って,前線の活動が非常に活発となった。これにより西日本から東日本にかけての太平洋側で長時間にわたり,活発な雨雲が発生・発達を繰り返し大雨をもたらした。特に,東海地方では,名古屋地方気象台において明治29年に記録した最大日降水量の2倍近い日降水量428mmを観測するなど,各地でこれまでの観測値を更新する記録的な豪雨となった。

 この豪雨により,名古屋市で新川が約100mにわたって破堤したほか,庄内川や天白川でも越水するなど,愛知県及びその近県で,溢水,浸水,冠水が発生し,伊勢湾台風以来の浸水害となった。死者10名,負傷者115名,住家の全壊31棟,半壊172棟,一部損壊305棟,床上浸水22,894棟,床下浸水46,943棟の被害が発生したほか,愛知県を中心として延べ約61万人に避難指示・勧告が出された。

 電気・ガス・水道・電話・下水道関係では,延べ約32,500戸が停電となったほか,約5,700戸にガスの供給支障が生じた。また,100局の携帯電話基地局や岐阜県,三重県,長野県内4局の放送中継局が停波した。上水道は,愛知県で967戸,長野県で840戸,岐阜県で731戸が断水したのをはじめ,全国で3,386戸が断水となった。下水道も愛知県で41か所が被災した。

 また,土砂災害も,土石流,地すべり,がけ崩れ等合わせて全国で123件発生し,県道以上の道路では,法面崩壊により124か所,冠水により95か所が通行止め(12年9月12日10時現在)となった。

 鉄道関係では,東海道新幹線で降雨規制等により約18時間にわたり運行抑止となったほか,JR東海,各私鉄で計22路線が運休となった。

 農林水産業関係では,農地4,465か所,農業用施設3,207か所,林地荒廃1,058か所,林道4,468か所,治山施設48か所,漁港施設11か所,漁業用施設1か所に被害が発生した。また,冠水等により農作物等にも被害が及んだ。

 建設省の試算によると,被害額は約8,500億円となり,公共施設に比べて一般資産の被害額が多かったのが特徴である。

(2) 国の対応状況(省庁名,大臣等は当時)

 9月12日13時より,災害対策関係省庁連絡会議を開催し,[1]行方不明者の捜索救助に全力をあげること,[2]これまでに生じた被害に対し適切に対応を続け,復旧が速やかに進められるよう対応すること,[3]関係機関は今後とも迅速かつ的確な情報収集・伝達を行い,関係地方公共団体も含め緊密な連携を図り,警戒体制に万全を期すること,[4]事態の推移に応じ必要があれば災害対策関係省庁連絡会議を開催する等,関係省庁の連携を密にしていくこと,等を確認した。

 政府は,この豪雨災害による中小企業者等の被害が過去の激甚災害と比べても非常に大きいこと等を考慮し,中小企業関係の激甚災害指定基準を緩和した上で,「平成12年9月8日から同月17日までの間の豪雨及び暴風雨による災害」を激甚災害に指定( 表1-3-1 )し,中小企業者等に関する特別の助成措置を講じた。この激甚災害指定の際には,農地等の災害復旧事業に係る補助の特別措置等も適用した。また,「平成12年9月8日から同月18日までの間の豪雨及び暴風雨による災害」を局地激甚災害に指定( 表1-3-2 )し,公共土木施設等の災害復旧事業に係る補助の特別措置等を行った。さらに,10月17日には,7月25日の閣議決定で災害対策分として使用留保していた公共事業等予備費約200億円のうち,約21億円を豪雨災害による河川等災害復旧事業等に使用することを閣議決定した。

  (表1-3-1) 平成12年激甚災害適用措置及び主な被災地

 関係機関においては,以下の措置を講じた。

 内閣官房では,9月12日午前5時30分に官邸連絡室を設置し,被災情報等を集約して内閣総理大臣,内閣官房長官等に適宜報告等を行った。

 国土庁では,9月13日に扇国土庁長官が,10月2日には蓮実国土総括政務次官が被災地を視察した。さらに,被災者生活再建支援法に基づく被災者生活再建支援金支給制度を愛知県,岐阜県の9市13町に適用することとした。

 警察庁及び関係管区警察局では,関係機関との連絡調整等に当たるとともに,愛知県警察等関係都府県警察では,被害情報の収集,救出救助,行方不明者の捜索,交通規制,被災地警戒等に当たった(ヘリコプター派遣:最大時6機,延べ約30機)。

 防衛庁は,関係地方公共団体への連絡要員の派遣,航空偵察等を行ったほか,9月11日に愛知県知事より,12日に岐阜県及び長野県知事より自衛隊の災害派遣要請を受け,11日から26日までに,物資輸送,住民避難,給水・給食,塵埃輸送,防疫活動,道路啓開等の支援を実施した(人員派遣:最大時約1,800名,延べ約9,900名,航空機派遣:最大時約10機,延べ約140機)。

 大蔵省では,多大な被害を受けた名古屋市及び西春日井郡の指定する地域の納税者について,国税庁告示をもって,平成12年11月15日まで,申告,納付等の期限を延長した。

 文部省では,教育委員会等の関係機関から被害情報を収集するとともに,適切な対応をとるよう指示した。また,臨時休校,授業の打ち切り等の措置を講じた。

 厚生省では,9月11日,愛知県,岐阜県の9市13町に災害救助法を適用し,避難所の設置,食品の給与等を支援した。

 日本赤十字社は,愛知県等5県の被災者に毛布,日用品セット等を配布した。また,西枇杷島診療所に開設された臨時救護所に救護班を派遣した。

 農林水産省では,農業共済金の早期支払いについて,農業共済団体等を指導した。

 通商産業省では,電気及びガス料金の支払期限の延長等の災害特別措置を認可した。また,政府系中小企業金融機関による「災害復旧貸付」を適用するとともに,中小企業者の返済猶予等既往責務の条件変更等につき,実状に応じて対応するよう政府系中小企業金融機関等を指示した。さらに,著しい被害を受けた中小企業者等に対しては,閣議決定により,貸付利率を財投金利と同水準まで引き下げ,その中でも特に著しい被害を受けた中小企業者については,地方公共団体と協力して利子補給を行い,結果的に無利子となる措置を実施した。

 運輸省では,鉄道及び海運等関連事業者団体への注意喚起及び安全運転の確保について指示した。また,海上保安庁が行う救難活動のための臨時ヘリポート拠点として使用可能とするため,伊勢湾浮体式防災基地(ミニフロート)を出動させた。

 海上保安庁では,延べ471名を派遣し,巡視船艇,航空機による被害状況調査,孤立者救助等の救助活動,応急物資の輸送等を実施した(人員派遣:最大時114人,延べ471人,巡視船艇派遣:最大時22隻,延べ26隻,航空機派遣:最大時2機,延べ6機)。

 気象庁は,警報を含む気象情報を適時に発表し,大雨,洪水等の気象災害に十分に警戒するよう呼びかけた。

 郵政省では,電気通信・放送事業者に対し被災設備等の早期復旧等を指示するとともに,臨時郵便局の設置及び衛星通信設備によりオンラインサービスが可能な移動郵便局(スペースポスト号)を東浦郵便局(9月13日〜14日),枇杷島郵便局(9月15日〜18日)に派遣した。また,郵便物の料金免除等を行うとともに,為替貯金・簡易保険の非常取扱いを実施した。さらに,通信確保のため(財)日本移動通信システム,(財)東海移動無線センターの協力を得て,愛知県内の市町村へ無線機を貸与した。

 NTTは,災害用伝言ダイヤルを運用するとともに,避難所等に特設公衆電話を設置した。

 NHKは,被害が甚大な放送受信契約者に対し,放送受信料を免除した。

 建設省では,排水ポンプ車20台を全国から集結し,排水対策等を実施した。また,災害査定官,土木研究所等の職員を現地に派遣し,現地調査及び応急復旧工法指導等を行うほか,崩壊地の拡大等による土砂災害の発生防止のため,災害関連緊急砂防等事業の採択及び実施を支援した。9月18日,住宅金融公庫の災害復興住宅融資の受付を開始した。9月13日には扇建設大臣が被災地を視察した。また,河川激甚災害対策特別緊急事業を実施した。

 自治省では,被災納税者の地方税の減免措置等について地方公共団体に対し通知したほか,10月17日に愛知県下16団体,岐阜県下2団体,長野県下8団体の計26団体に対し,11月に定例交付すべき普通交付税の一部6,466百万円を繰り上げて交付した。

 消防庁では,関係都道府県に適切な対応をとるよう指示した。また,各消防機関は,危険箇所等の警戒巡視,要救助者の救助,避難の誘導,土のう積みなどの水防活動等を実施した。

3-4 鳥取県西部地震

(1) 災害の状況

 平成12年10月6日13時30分,鳥取県西部でマグニチュード7.3の地震が発生し,鳥取県境港市,日野町で震度6強,西伯町,会見町,岸本町,日吉津村,淀江町,溝口町で震度6弱,鳥取県米子市,岡山県新見市,哲多町,香川県の土庄町などで震度5強を観測したほか,中国・近畿・四国地方を中心に震度5弱〜1を観測した。この地震の震源は,米子市の南約20kmに位置し,震源の深さは11kmで,陸域の浅い地震である。

 余震の震源は,北北西-南南東方向に約30kmにわたって分布している。また地震波の解析などから,この地震は左横ずれの断層運動(相手の地盤が左方向にずれること)によるものと推定されている。気象庁は,この地震を「平成12年(2000年)鳥取県西部地震」と命名した。

 この地震により,鳥取県を中心として,負傷者182名,家屋全壊430棟,家屋半壊3,065棟,家屋一部損壊17,155棟の被害が発生し,44世帯116名に避難勧告が出されたほか,多数の住民が自主避難を行った(13年5月2日現在)。

 また,この地震では地盤の液状化現象が発生し,港湾施設,工場,住宅,道路,水道,農地等に被害をもたらした。

 電力は,中国電力管内で延べ17,402戸が停電となったのをはじめ,上水道は,鳥取県で5,744戸,島根県で1,337戸,岡山県で1,167戸が断水したほか,広島県,山口県,香川県でも断水したところがあった。下水道も鳥取県で41か所が被災した。電話,携帯電話はケーブル損傷,携帯電話基地局等の停波により一部不通となった。

 道路については,米子自動車道で段差等が発生し,一部が通行止めとなったほか,国道,県道でも土砂崩落,路面亀裂等により16区間(12年10月22日22時現在)において通行止めとなった。河川でも,堤防沈下,クラック等により81か所が被災した。また,地震に起因した土砂災害ががけ崩れをはじめとして27か所で発生し,家屋等の被害が発生した。米子空港では液状化現象が発生し,滑走路に亀裂が発生したほか,鉄道,バス等の公共交通機関も地震の影響で落石,土砂崩壊等から運転の見合わせや迂回運行を余儀なくされた。港湾においても,岸壁エプロンの亀裂や臨港道路の液状化等により,5港74か所が被災した。

 農林水産業関係では,農地695か所,農業用施設642か所,林地荒廃136か所,林道165か所,漁港施設10か所,卸売市場,水産加工場等に被害が発生した。また,損傷,倒伏,落果等により野菜,果樹等の農作物に大きな影響を与えた。

(2) 国等の対応状況(省庁名,大臣等は当時)

 10月6日13時35分に官邸対策室を設置するとともに,関係省庁の局長級職員が速やかに官邸に参集し,13時55分より,森内閣総理大臣の出席の下,緊急参集チーム会議を開催した。また,会議の席上,14時30分頃には,国と地方公共団体が連携をとって迅速な対応を進めるため,森内閣総理大臣は直接鳥取県知事に電話し,今後の対応等について協議した。同日15時30分より国土庁において災害対策関係省庁連絡会議を開催し,[1]関係機関は今後とも迅速かつ的確に情報の収集・伝達を行い,関係地方公共団体を含め,緊密な連携を図り,警戒などに万全を期すること,[2]事態の推移に応じ必要があれば,災害関係省庁連絡会議を開催する等,関係省庁の連携を密にしていくこと,等を確認した。また同日19時より,国土庁において第2回災害対策関係省庁連絡会議を開催し,各省庁において情報の共有化を図るとともに,政府調査団を現地に派遣することを決定し,7日,扇国土庁長官を団長とする16省庁31名からなる政府調査団を鳥取県に派遣した。

 政府は,鳥取県西部地震災害について局地激甚災害の指定を行った( 表1-3-2 )。

 関係機関においては,以下の措置を講じた。

 国土庁は,地震被害早期評価システムによる被害推計結果を直ちに関係省庁へ配信した。10月6日,蓮実国土総括政務次官を鳥取県に派遣した(7日に派遣された政府調査団に現地にて合流)。さらに,10月6日,被災者生活再建支援法に基づく被災者生活再建支援金支給制度を鳥取県県内全域,島根県安来市,伯太町に適用した。

 警察庁及び関係管区警察局では,中国管区警察局内の広域緊急援助隊及び航空隊に,鳥取県での情報収集活動及び警戒活動を指示した。鳥取県警察等関係府県警察では,被害情報の収集,避難誘導,交通規制,避難住民への「困りごと相談」等に当たった(ヘリコプター派遣:最大時10機,延べ約30機)。

 防衛庁は,関係地方公共団体への連絡要員の派遣,航空偵察等を行ったほか,10月6日に鳥取県知事より,7日には島根県知事より自衛隊の災害派遣要請を受け,6日から18日までに,給水・給食,入浴,独居老人宅の屋根のシート張り等の支援を実施した(人員派遣:最大時約340名,延べ約1,300名,航空機派遣:最大時約30機,延べ約40機)。

 科学技術庁では,地震調査研究推進本部臨時会及び定例会を開催し,地震活動の現状に関して評価し,その結果を公表した。

 文部省では,児童生徒の安全確保を最優先にするとともに,市町村を支援するよう関係の県教育委員会に指示した。

 厚生省は,10月6日,鳥取県米子市,境港市,西伯町,会見町,日野町,溝口町,島根県安来市,伯太町に対し,災害救助法を適用し,避難所・応急仮設住宅の設置等を支援した。避難住民に対する救護活動,健康相談等を実施するため,地方公共団体は医師,精神科医,保健婦を避難所等に派遣した。

 日本赤十字社は,鳥取県境港市,米子市,島根県伯太町に救護班を派遣するとともに,状況に応じて直ちに対応がとれるよう近畿,中国,四国地方の各赤十字病院で救護班の待機を行った。

 農林水産省は,鳥取県及び島根県の被災地に,10月14日から15日まで石破農林水産総括政務次官を派遣し,15日から16日にかけて谷農林水産大臣が視察した。

 通商産業省は,電気事業者及びガス事業者から申請のあった料金の支払い期限の延長等の災害特別措置を認可した。また政府系中小企業金融機関による災害復旧貸付けを適用するとともに,中小企業者の返済猶予等既往債務の条件変更等につき,実状に応じて対応するよう政府系中小企業金融機関等を指導した。

 運輸省は,航空関係者に対し必要な注意喚起を行い,安全確保に努めた。また境港等の被害調査のため,港湾技術研究所現地調査チームを現地に派遣した。

 海上保安庁は,周辺海域に航行警報を発し,付近航行船舶に対し注意喚起を行うとともに,港内及び航路の水深等の調査を行い,航行の安全を確保した。また,情報収集や緊急時の支援のため,人員,巡視船艇,航空機を派遣した(人員派遣:最大時約490人,延べ約590人,航空機派遣:最大時11機,延べ13機,巡視船艇派遣:最大時50隻,延べ57隻)。

 気象庁は,地震発生直後から震度速報や地震情報を発表するとともに,余震確率を発表し,余震等への注意を呼びかけた。また,現地調査を行った。

 郵政省では,電気通信事業者等の協力を得て,被災地方公共団体に対し,携帯電話機等を貸し出すとともに,臨時の携帯電話基地局の開設申請について即日免許した。また,郵便物の料金免除等を行うとともに,為替貯金・簡易保険の非常取扱いを実施した。

 NTTは,災害用伝言ダイヤルを運用するとともに,避難所に特設公衆電話を設置した。

 NHKは,被害が甚大な放送受信契約者に対し,放送受信料を免除した。

 建設省は,情報収集の強化のため,災害対策用ヘリコプターの派遣を行ったほか,災害査定官,土木研究所,建築研究所等の職員を現地に派遣し,現地調査及び早期復旧を図るため技術支援を行った。また,余震活動の監視強化のため,GPS臨時観測点を設置したほか,崩壊地の拡大等による土砂災害の発生防止のため,災害関連緊急砂防等事業の採択及び実施を支援した。また,給水車や清掃車等を出動させ,給水活動や液状化流出土砂の除去作業を支援した。住宅金融公庫は,災害復興住宅融資を行うとともに,住宅金融公庫融資を返済中の被災者に対し,返済金の払込みの据え置き,返済期間の延長等の措置を実施した。

 自治省では,10月24日に鳥取県下9団体,島根県下2団体,岡山県下1団体の計12団体に対し,11月に定例交付すべき普通交付税の一部2,343百万円を繰り上げて交付した。

 消防庁は,情報収集を強化するため,緊急消防援助隊の指揮支援部隊に対しヘリコプターによる出動を要請し,さらに近畿,中国,九州の緊急消防援助隊が待機した(指揮支援部隊:2隊7名,ヘリコプター派遣:6機)。

3-5 大雪被害

(1) 災害の状況

 平成12年度の冬は,しばしば強い寒気が日本付近に流れ込み,このため,北日本の冬の気温(12〜2月)は昭和61年以来の低さとなった。

 北陸地方や東北地方などの日本海側では降雪及び積雪の量が多くなり,金沢,青森などでは,ほぼ15年ぶりの大雪となった。

 このため,屋根の雪降ろし中の転落等により死傷者が出たほか,道路の通行止めや空港の閉鎖,また,鉄道,航空機,バスなどの公共交通機関の運休等が多くみられた。このほか,農作物や森林への被害も顕著であり,一部では,電気・ガスなどにも影響を与えた。

 人的被害は,死者55名,負傷者702名,家屋被害は,住家の全壊3棟,半壊2棟,一部損壊102棟,床上浸水18棟,床下浸水84棟となった(13年2月28日現在)。

 道路では,一般国道1路線を含む県道以上の道路(冬期閉鎖区間を除く)で,雪に伴い86か所(1月29日9時現在)が通行止めとなったほか,滑走路が閉鎖となった空港は14を数えた。鉄道関係では,JR東日本やJR西日本などで,18路線が断続的に運休となった。海上交通では,降雪による視界不良のための運休や,積雪のため荷役の遅延等が発生した。バス関係では,一般路線で,全面運休が21系統,一部運休が56系統,迂回運行が22系統となるとともに,主に北陸地方を経由する高速バス路線において,全面運休が23系統,一部運休が1系統,迂回運行が9系統となった。

 農林水産業関係では,東北,関東,北陸地方を中心に,ハウス,農作物,樹体,森林等に被害が発生した。

 電力関係では,栃木県及び千葉県において,送電線系統事故及び配電線被害により,断続的に供給支障が発生し,最大供給支障戸数は,124,500戸に及んだ。また,ガス関係では,長野県において,ガス発生設備の一部凍結によりガスが発生できず174戸で供給支障となったほか,東北・北陸地方において,落雪や除雪作業による配管等の損傷,積雪により調整器等が破損し,ガスの漏えいや漏えい爆発等が発生した。電話関係では,雪の影響により携帯電話基地局等への送電断等のため,基地局が停波し,サービスエリア内での発着信ができなくなるなどの被害が発生した。

(2) 国の対応状況(省庁名,大臣等は当時)

 平成12年12月4日,降積雪期における防災態勢の強化について,人命の保護を第一義として雪害に対する防災態勢の一層の強化を図るよう,森中央防災会議会長(内閣総理大臣)から関係各省庁及び都道府県等に通知した。平成13年2月22日,伊吹防災担当大臣及び山崎内閣府大臣政務官出席のもと,今冬の豪雪の被害と対策について中央防災会議主事会議を開催し,各関係省庁間で情報及び意見の交換を実施するとともに以下のことを確認した。

[1]

 今後とも関係省庁において積雪の多い地域の状況について情報を共有し,密接な連携を図ること。

[2]

 地元地方公共団体より要望の強い除雪費について関係省庁の役割に応じて出来る限りの支援を行うなど,状況に応じて必要な対応を迅速かつ的確に行うこと。

[3]

 雪崩等に対する警戒態勢に万全を期すこと。

 また,3月16日,融雪出水期における防災態勢の強化について,森中央防災会議会長(内閣総理大臣)より関係各省庁及び関係都道府県等に通知した。

 関係機関においては,以下の措置を講じた。

 内閣府は,関係省庁から大雪による被害状況及びその対策について情報収集を行い,これを集約し,官邸及び関係省庁に伝達した。

 警察庁では,関係機関と連携してパトロール,広報啓発活動を推進した。

 総務省は,大雪等により除排雪経費が著しく多額にのぼった地方公共団体について,所要経費,普通交付税措置額及び降雪量等を勘案の上,所要経費の一部を特別交付税で措置した。

 消防庁は,被害状況及び災害対策本部の設置状況等の情報収集を行った。

 文部科学省は,教育委員会等の関係機関に適切な対応をとるよう指導した。

 農林水産省は,被害状況の早期把握に努め,共済金の支払いが円滑に行われるよう関係団体等を指導した。

 国土交通省は,1月19日,今村大臣政務官,吉田大臣政務官及び岩井大臣政務官をそれぞれ福井県,新潟県及び山形県に派遣した。2月17日には,岩井大臣政務官を青森県に派遣した。また,積雪寒冷特別地域の道路の除雪費について,国県道の除雪費を116億円増額し,幹線市町村道の除雪費について臨時特例措置として63億円を配分し,安全で円滑な冬期道路交通の確保に努めた。

 気象庁は,警報を含む気象情報を適時に発表し,大雪等に伴う気象災害に十分に警戒するよう呼びかけた。

3-6 芸予地震

(1) 災害の状況

 平成13年3月24日15時27分,安芸灘の深さ51kmでM6.7の地震が発生し,広島県河内町,大崎町,熊野町で震度6弱を観測したほか,広島,愛媛,山口県の一部で震度5強を観測した。今回の地震は,中国・四国地方に沈み込むフィリピン海プレート内部の破壊による地震であった。余震活動は,26日に発生したM5.0の最大余震(最大震度5強)を含み,3月末までにM4.0以上の余震が6回発生したが,徐々に減衰しつつある。気象庁は,この地震を「平成13年(2001年)芸予地震」と命名した。

 この地震により,広島県呉市で1名,愛媛県北条市で1名が亡くなったほか,中国・四国各県に被害が発生し,負傷者計288名,全壊計58棟,半壊計405棟,住家一部破損40,266棟となった(13年5月8日現在)。学校等の文教施設にも被害が発生し,壁や窓ガラス等の破損が多くみられたほか,内装材の落下や校舎の柱等に大きな亀裂が入ったところもあった。また,237世帯568名に避難勧告が出されるとともに,多数の住民が自主避難を行った。臨海部では地盤の液状化現象がみられ,広島港をはじめ3県28港において被害をもたらした。

 電力については,広島県を中心に中国電力管内で約48,000戸,愛媛県を中心に四国電力管内で約8,000戸が停電となった。上水道は,広島県内で,離島も含め47,767戸が断水したほか,山口県で160戸,島根県で130戸,愛媛県で379戸が断水した。下水道も広島県等で11か所が被災した。携帯電話は,携帯電話基地局8局の停波により一部不通となった。

 道路については,中国縦貫自動車道や本州四国連絡道路等で点検のため一時通行止めとなり,中国縦貫自動車道では段差等の発生がみられたほか,国道,県道でも落石,土砂崩落等により各地で通行止めとなった。また,広島県を中心に山口県,愛媛県等でがけ崩れをはじめとした土砂災害が53件発生した。このうち,広島県呉市においては,住宅密集地域の傾斜地で多くの住宅の石積み等の法面が被害を受け,降雨等による二次災害の危険性が生じており,今回の被害の特徴の一つとなっている。港湾に関しては,広島県,山口県及び愛媛県の計28港に被害が発生した。なお,灯台等の航路標識施設についても33か所で被害が発生した。鉄道については,山陽新幹線の三原-新岩国間で軌道等の異常が発生したため,山陽新幹線が翌25日8時36分に運転再開するまで運休となったのをはじめ,中国,四国地方の各線で点検のため運休となった。

 農林水産業関係では,農地,農業用施設,林地,林道,漁港施設,水産関係施設等に被害が発生した。

(2) 国等の対応状況(省庁名,大臣等は当時)

 地震発生後,直ちに官邸対策室を設置するとともに,内閣総理大臣臨時代理の福田内閣官房長官をはじめ,関係省庁の局長級職員が官邸に集まり,3月24日16時40分及び17時40分に緊急参集チーム会議を開催した。このほか,福田内閣官房長官が広島県及び愛媛県両県の知事と電話で連絡し,情報の把握を行う一方,ロシア訪問中の森内閣総理大臣にも連絡をとり,適切な指示を受けるなど,政府は迅速かつ的確な初動対応に努めた。

 3月24日18時00分より,内閣府において災害対策関係省庁連絡会議を開催し,[1]関係機関は今後とも迅速かつ的確に情報の収集・伝達を行い,関係地方公共団体を含め,緊密な連携を図り,警戒などに万全を期すること,[2]事態の推移に応じ必要があれば,災害対策関係省庁連絡会議を開催する等,関係省庁の連携を密にしていくこと,等を確認した。また,同日に内閣府情報先遣チームを広島県に派遣するとともに,翌25日,内閣府坂井副大臣を被害状況の調査のため広島県に派遣した。さらに,29日には,内閣府山崎大臣政務官を団長とし,ほか15省庁37名からなる政府調査団を広島県及び愛媛県に派遣した。

 内閣府は,3月24日,被災者生活再建支援法に基づく被災者生活再建支援金支給制度を広島県呉市に適用した。

 警察庁及び関係管区警察局では,関係機関との連絡調整に当たるとともに,警視庁等の広域緊急援助隊を待機(鳥取・島根・岡山県警察にあっては広島県への出動を指示した後,待機に切替)させたほか,兵庫県警察等のヘリコプターを広島県の被災情報収集のため広域派遣した。広島県警察等関係府県警察では,被害情報の収集,警戒活動,交通規制,行方不明者の捜索等に当たった(ヘリコプター派遣:最大時5機,延べ約10機)。

 防衛庁は,航空機による航空偵察,関係地方公共団体への連絡要員の派遣等を行うとともに,3月24日に広島県知事より,25日には山口県知事より自衛隊の災害派遣要請を受け,24日から27日までに給水支援,救援物資(雨漏り防止のためのシート)の貸与等を実施した(人員派遣:延べ約530名,船舶派遣:延べ10隻,航空機派遣:延べ約40機)。

 総務省では,4月12日に広島県下13団体,愛媛県下1団体に対し,6月に定例交付すべき普通交付税の一部6,893百万円を繰り上げて交付した。

 郵政事業庁は,郵便物の料金免除等を行うとともに,為替貯金・簡易保険の非常取扱いを実施した。

 NTTは,災害用伝言ダイヤルの運用を行った。

 消防庁は,3月24日,緊急消防援助隊に出動を要請し,緊急消防援助隊航空部隊を含む11機の消防防災ヘリコプターが出動して情報収集を行ったほか,緊急消防援助隊中国ブロック地上部隊が待機した。翌25日,消防庁先遣チームを現地に派遣した。

 文部科学省は,児童生徒の安全確保を最優先にするとともに,市町村を支援するよう関係の県教育委員会に指示した。地震調査研究推進本部地震調査委員会の臨時会を開催し,地震活動の現状に関して評価し,その結果を公表した。

 厚生労働省は,3月24日,広島県広島市,呉市,三原市,下蒲刈町,蒲刈町,宮島町,河内町,川尻町,豊浜町,豊町,大崎町,東野町,木江町,愛媛県今治市に対し,災害救助法を適用し,避難所の設置,食糧,飲料水の支給,災害にかかった住宅の応急修理等を支援した。

 また広島労働局に緊急労働相談窓口を設置するとともに,呉労働基準監督署及び呉公共職業安定所に現地相談窓口を設置した。

 経済産業省は,電気事業者及びガス事業者から申請のあった料金の支払い期限の延長等の災害特別措置を認可した。また政府系中小企業金融機関による災害復旧貸付を適用するとともに,中小企業者の返済猶予等既往債務の条件変更等につき,実状に応じて対応するよう政府系中小企業金融機関等を指導した。

 国土交通省は,3月24日,災害用ヘリコプターを現地に派遣するとともに,今村大臣政務官を25日広島県へ,国土交通省調査団等を地震発生後ただちに現地へ派遣し,現地調査や被害状況等の把握を実施した。また電子基準点40点による24時間解析を6時間に短縮して実施した。

 海上保安庁は,周辺海域に航行警報を発し,付近航行船舶に対し注意喚起を行った。また,情報収集や緊急時の支援のため,巡視船艇を延べ68隻,航空機を延べ11機現地に派遣した。

 気象庁は,地震発生直後から震度速報や地震情報を適宜発表して,余震等への注意を呼びかけた。また震度に対応した被害状況の確認等のため,現地調査を実施した。

4 21世紀の災害の態様

 20世紀の主な自然災害によって,世界全体で約5,550万人が犠牲になったと推計されている(ベルギー・ルーバン・カトリック大学疫学研究所推計)。この間,世界人口は1900年の約18億人から2000年の約60億人に増加したが,21世紀中も世界人口はさらに増加を続け,2050年に約94億人,2100年に約104億人になるとされている(United Nations World Population Projections:1998年)。

 一方,21世紀中には,地球の温暖化など人間活動により自然環境が影響を受け,災害がより多発し,または甚大化することが予想される。また継続的な地殼変動等に伴う災害等も発生する。高齢化やネットワーク化など経済社会の変化に伴う新たな形態の被害発生も懸念されるところである。21世紀中に世界人口が自然災害の脅威にさらされる確率はさらに高まると想定される。

(1) 人間活動により影響を受ける自然環境

[1] 地球の温暖化に伴う災害

 人類の諸活動に伴い大気中に排出される二酸化炭素等の温室効果ガスにより,地球規模での気候変動が生じつつある。いわゆる地球の温暖化現象である。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3次評価報告書(2001年4月)によれば,21世紀中に全地球平均表面気温は1.4〜5.8℃上昇するものと見込まれている。その結果として,大気の対流活動が活発化し,豪雨の頻度の増加による洪水,地滑り,泥流の発生,台風等の最大風力,最大降水強度の増加,エルニーニョに関連した干ばつや洪水といった自然災害が増加するとしている。また,同時に海水の熱膨張や氷河,氷原の消失により,9〜88cm程度海面が上昇し,モルジブやマーシャル諸島等の沿岸低地居住者は移転を余儀なくされると予測されている(参考:http://www.ipcc.ch)。

 平成13年2月,国連環境計画(UNEP)は,このような予測に基づき,直ちに対策が講じられない場合には,台風等の頻度の増加,土地の水没,漁業・農業等への影響により,世界で年間約3,000億ドルの被害が出るとの試算を公表した。

 我が国においても,海抜1m以下の地域に居住する人口は大都市圏を中心に475万人に上っており,集中豪雨による洪水や海面上昇の影響を受ける可能性が高い。将来的な変化の動向の的確な把握とその対応について今後十分に検討する必要がある。

[2] ヒートアイランド現象の進行

 大都市においては,緑地の減少による水分蒸発量の減少,建築物の高層化・高密化に伴う廃熱量の集中と増加等により,中心部の気温が周辺部より高くなる「ヒートアイランド」現象が現出している。地球の温暖化により,このような現象がさらに顕著になるものと考えられる。上述のIPCC報告書は,ヒートアイランド現象により人口1,000万人以上の巨大都市では,雷,集中豪雨,雹を伴う巨大都市特有の気象パターンが出現するとしており,現在の都市構造では十分対応できないような局地的集中豪雨の発生の可能性もある。我が国の場合,すでに東京等の大都市で時間雨量100mm前後の集中豪雨が多くなっており,今後,十分な観測・原因分析と対策の検討が必要となろう。

(2) 地震・火山活動の長期的動向

 20世紀中は,イタリア,中国,日本,イラン,トルコ,インド等で大規模な地震が発生し,多くの犠牲と被害を被ることとなったが,21世紀中も幾つかの地域が地震活動期に入り,大規模地震が発生する事は否めない。

 我が国で発生する地震の場合,プレートのもぐり込みにより発生する海溝型巨大地震(発生間隔:数百年程度),海洋プレートの内部で発生する地震,内陸の活断層を震源とする地震(発生間隔:数千年から数万年程度)に大きく分類されている。特に駿河トラフ沿いで発生する大規模な海溝型地震(東海地震)は発生が懸念されており,海洋プレート内及び境界付近で発生するとされる南関東地域直下は,ある程度の切迫性を有しているとされている。

 さらに,( 表1-4-1 )に示すとおり大規模地震はある程度周期的に発生するとの研究があり,この報告に基づけば,平均繰返時間間隔から考えて21世紀中の発災が懸念される大規模地震が幾つか存在していることになる。また,南海トラフ沿いの巨大地震の前後に,内陸の大地震が集中して発生していることなどから,阪神・淡路大震災以降,西日本が地震の活動期に入ったという学説もある。

  (表1-4-1) 地震域別の平均繰返時間間隔

 このような地震発生の長期的動向に的確に対応するためにも,耐震化の促進や避難地・避難路の確保など全国的に地震防災対策に取り組むことが肝要である。

 一方,火山活動については,20世紀中にインドネシア,フィリピン等で繰り返し噴火災害が発生している。我が国の場合も,桜島,十勝岳,浅間山,阿蘇山,有珠山,三宅島,伊豆大島,雲仙岳等が噴火して犠牲者が出ており,特に昨年は有珠山,三宅島で大きな災害を伴う噴火が発生したほか,北海道駒ヶ岳,岩手山,磐梯山,浅間山,桜島で噴火または火山活動の異常が観測され臨時火山情報が発表された。

 重点的に観測研究が進められている13火山の噴火履歴を見ると,全国的に活発な火山活動が続いていることが分かる( 表1-4-2 )。有珠山や三宅島のように噴火の周期性が明らかとなっており,噴火の短期的な予測が可能なものもあるが,実際は噴火の周期性が明らかになっていない火山が多い。過去の噴火実績の定量的把握,マグマ供給システムと噴火との関連等を調べることにより火山噴火を長期的に予測することが期待される。21世紀中にも幾つかの火山が噴火するものと想定されることから,今後も観測研究体制や災害に強いまちづくりなど火山対策の充実に努める必要がある。

  (表1-4-2) 13火山の噴火履歴

 なお,富士山については,2000年10月以降,低周波地震のやや多い状況が続いていたが,2001年1月に入って減少しており,地殼変動等にも変化は見られず,直ちに大きな噴火に結びつくとは考えられていない。富士山は過去2000年間に10回程度の噴火が確認されているが(いずれも山腹噴火),ここ300年間は静穏期が続いている。政府としては,[1]火山噴火予知連における富士山を専門に検討する部会の設置の検討,[2]観測・監視体制の強化,[3]地域と協力した火山ハザードマップの整備等を行い,今後の火山活動を注視するとともに,富士山に係る防災体制を強化することとしている。

(3) 経済社会の変化に伴う災害

[1] 都市化と災害

 世界全域の都市人口割合は1950年の29.7%から2000年には47.4%へと増加し,2030年には61.1%になると推計されている(United Nations World Population Prospects:1996年)。都市化した人口は,発展途上国を中心として災害に脆弱な大都市のスラム地域へ集中する傾向にあり,21世紀中には地球の温暖化と相まった大規模な水害やその他の災害の発生が懸念される。

 我が国の場合には,20世紀を通じて人口はほぼ3倍に増加し,それらの人口の多くは都市部において増加した。2000年(平成12年)時点において,全国人口の約3/4が市部に居住するに至っている。都市に集中する人口の圧力が極めて大きかったことから,十分な都市基盤が整備されていない地域や河川氾濫区域及び山地に近接した地域等,災害に対し脆弱な地域においても市街地が形成された。また20世紀後半,農地の宅地化が急速に進み( 図1-4-1 ),降雨の河川への流出速度がかなり速まり,都市河川への負担が大きく水害を発生させやすい状況にもなっている。

  (図1-4-1) 名古屋市の宅地・農地の変化(昭和27年〜平成10年)

 しかしながら,21世紀初頭に日本の人口はピークを打って減少し始めるものと予測されており,都市部においても,今世紀半ばまでには人口減少が始まるものと考えられる。従って,前世紀と異なり,量的な都市化圧力に対応して都市を拡大していくことよりも,コンパクトな都市への要請が高まるものと想定される(OECD対日都市政策勧告:2000年11月)。災害に対して脆弱な土地における市街地の再編成等により,災害に強い都市づくりの可能性も広がるものと期待される。

[2] 過疎化と災害

 20世紀は,上述したように都市化が進行する一方で,山林地域や農業地域から人口が流出し,耕作放棄地や無人化した地域が拡大した。ラテンアメリカ,北部アメリカ,ヨーロッパ等で顕著である。拡大した耕作放棄地や無人化地域においては,適切に自然を管理していくことが難しい面もあり,所によっては土砂流出の発生など災害につながっている。

 我が国においても,前世紀には,極めて急激な都市化と同時に,都市の利便性を享受しづらい地域を中心に人口減少が生じ,特に国土の多くを占める中山間地域等において過疎化が進行した。この傾向は21世紀中も継続し,国土の49%を占める過疎地域の人口は,1995年の797万人から2015年には602万人へ減少すると予測されている。現在,国土の60%が無人化しているが,このような地域はさらに拡大していくこととなろう。この結果,国土管理上重要な農地や森林等の管理が行き届かないことから,国土構造の脆弱性が拡大し災害の発生に結びつく可能性がある。

[3] 高齢化と災害

 世界人口の高齢化は急速に進んでおり,高齢者比率(65歳以上人口/世界の総人口)は2000年の6.9%から2050年には16.4%へ上昇する。先進国の高齢化はさらに速く,高齢者比率は2000年の14.4%から2050年の25.9%へと増加する(United Nations, The Sex and Age Distribution of the World Population:1998)。高齢者は一般的に災害弱者である場合が多く,社会の高齢化が進むと災害時の弱者対策の重要性が増すものと考えられる。

 我が国の場合も,21世紀中に人口構成が急速に高齢化し,高齢者比率は2000年の17.2%から2025年の27.4%へ,さらに2050年には32.3%へと急増すると予測されている。1995年の阪神淡路大震災の場合,犠牲者の約44.5%が65歳以上の高齢者であったと報告されており(阪神・淡路大震災調査報告:土木学会等;1999年6月),災害時における高齢者対策の重要性を強く示唆している。特に今後,高齢者のみの世帯(高齢者単身世帯及び世帯主が65歳以上である夫婦のみの世帯)が1995年から2020年までに600万世帯増加し,2020年には1,120万世帯に達することから,高齢者の所在を把握するとともに,災害時における家族,コミュニティの支援体制等を整備しておくことが重要である。

 一方,年齢が高い人ほど,大地震に備えて消火器や三角バケツ等の防災用品の準備等を行っており,総じて高齢者は災害に対する意識が高いものと考えられる( 表1-4-3 )。コミュニティの互助精神の強化など防災意識の高揚に対する高齢者の貢献が期待される。

  (表1-4-3) 大地震に備えてとっている対策(複数回答,単位%)

[4] ネットワーク化と災害

 高度情報システム等によって,世界的に経済社会の人,物,金等の諸要素が分かちがたくネットワーク化されるにつれ,個々の独立性が低下し,災害等によってネットワークの一部が破壊されただけで,ネットワーク全体の機能が停止するといった脆弱性が増加する傾向にある。

 我が国においては,例えば,1984年の世田谷ケーブル火災において,管内の加入電話,公衆電話が不通になったばかりでなく,区役所,警察,消防など公共機関,さらには金融機関などのオンラインが停止し,広域的に多大な影響を及ぼした(参考:http://xing.mri.co.jp/research/reseach/bousai)。さらに,1998年の大阪における専用回線事故でも同様の混乱が発生し,この場合には航空管制業務にまで影響し,大きな事故災害につながる可能性もあった。

 また,経済的な観点から見ると,一部の地域の災害が国境を越えて多方面に影響を及ぼす可能性が高まりつつある。例えば,G7諸国の国際資本移動の規模(直接投資及び証券投資の合計値の対名目GDP比率)は,最近では10%を越える水準にまで上昇している。大規模な災害等によりこれらの資金の流通が停止するような事態になれば,被災国のみならず世界経済に大きな影響を与えると考えられる。

  

 以上述べてきたように,21世紀中にも人類が新たな災害の脅威にさらされることは明らかであり,犠牲者と被害の軽減を図るため十分に備える必要があることは言うまでもない。

 世界的には,国連が1990年代を「国際防災の10年」と定め,国際防災の10年事務局を中心として,特に途上国における自然災害による人的損失,物的損害及び社会的・経済的混乱を,国際協調活動を通じて軽減するための活動を行ってきた。本活動を終了するに当たり,コフィ・アナン事務総長は,1999年9月に開催された第54回国連総会の事務総長報告の中で,現在,国際社会が自然災害の人的,資金的コストの急増に直面しており,犠牲者に対する救援能力を強化しつつ,その発生を防止するための効果的な戦略を考えなければならない旨指摘した。まさに「Prevention is better than cure(予防は治癒に勝る)」の思想である。

 同総会において「国際防災の10年」期間中に実施された先駆的な取組みを今後とも継続するために,2000年より「国際防災戦略(International Strategy for Disaster Reduction:ISDR)」活動を開始することを決議し,現在,国連・国際機関と連携しつつ災害対応力の強いコミュニティの形成と災害リスクの管理を目指して,防災に関する意識啓発活動等に努めている。21世紀の新たな災害の態様に的確に対応していくためにも,このような国連を中心とした防災活動に積極的に参加していく必要がある( 第4章2 参照)。

第2章 我が国の災害対策の推進状況

1 災害対策の推進体制

1-1 災害対策関係法律

 災害対策は,災害予防,災害応急対策及び災害復旧・復興までの各段階に応じ,災害対策基本法を一般法とする各種災害関係法律に基づき行われている( 表2-1-1 )。

  (表2-1-1) 災害対策関係法律等の概要(平成13年4月現在)

 まず,基本法については,我が国の災害対策の根幹をなす「災害対策基本法」は,[1]防災に関する責務や組織,防災計画,[2]災害の予防,応急対策,復旧・復興の各段階において,それぞれの主体の果たすべき役割や権限,[3]財政金融措置と災害緊急事態等の災害対策の基本となる事項を定めている。同法については,阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,平成7年,二度にわたり大幅な改正を行った。

 また,大規模な地震の予知情報が出され,内閣総理大臣が警戒宣言を発した場合の防災体制の整備強化を主な内容とする「大規模地震対策特別措置法」や平成11年9月の茨城県東海村におけるウラン加工施設における臨界事故を踏まえ,原子力防災体制の抜本的強化を図ることを目的として制定された「原子力災害対策特別措置法」などの法律がある。

 次に,災害予防に関する法律としては,「河川法」,「砂防法」,「地すべり等防止法」等があるが,特別なものとして,火山現象による被害防止のための施設整備等に関し特別の措置を定めた「活動火山対策特別措置法」などがあり,また,阪神・淡路大震災後には,地震防災緊急事業五箇年計画に基づく事業に係る国の財政上の特別措置等を定めた「地震防災対策特別措置法」,地震による建築物の倒壊等から国民を守るために,耐震改修に関して国が必要な指示及び助言を行うことを定めた「建築物の耐震改修の促進に関する法律」,「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」が制定された。

 さらに,住宅等の新規立地抑制等を含めた総合的な土砂災害対策を推進するため,「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」が平成13年4月より施行された。

 災害応急対策に関する法律としては,「消防法」,洪水予報河川の拡充や浸水想定区域の指定,及び浸水想定区域における円滑かつ迅速な避難を確保するための措置を定めた「水防法」,避難所や応急仮設住宅の設置について定める「災害救助法」などがある。

 災害復旧・復興のための法律には,各種施設の災害復旧事業費を国が負担又は補助するための法律として,「公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法」,「農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置に関する法律」などがあり,国民経済に著しい影響を及ぼし,かつ,当該災害による地方財政の負担を緩和し,又は被災者に対する特別の助成を行うことが特に必要と認められるような災害が発生した場合には,「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」により特別の財政援助が講じられる。また,阪神・淡路大震災後には,被災市街地の計画的な整備改善及びその復興に必要な住宅の供給についての特別の措置を定める「被災市街地復興特別措置法」,「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」,「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」が制定された。平成10年5月には,「被災者生活再建支援法」が公布され,同年11月に施行された。「被災者生活再建支援法」は,自然災害によりその居住する住宅が全壊した世帯等に対して自立した生活の開始を支援するものである。

 一方,財政金融関係では,農林水産業関係として「天災による被害農林漁業者等に対する資金の融通に関する暫定措置法」,「農林漁業金融公庫法」,中小企業関係として「中小企業信用保険法」,「小規模企業者等設備導入資金助成法」,住宅関係として「住宅金融公庫法」,「地震保険に関する法律」,その他「災害弔慰金の支給等に関する法律」などがある。

 以上のような法律のほか,自衛隊の災害派遣を定める自衛隊法等,組織関係の法律に災害対策が盛り込まれているものもある。

1-2 防災に関する組織

 災害対策は,国,地方公共団体,公共機関,住民等の協力の下に,総合的,統一的に実施される必要がある。

 平成13年に行われた中央省庁再編により,内閣府に防災部門を置き,内閣総理大臣を長とし,行政各部の施策の統一を図るための企画及び立案,並びに総合調整を行うこととした。内閣府は,内閣官房と一体となって,事故災害を含む様々な具体の災害対策について,迅速かつ実効ある対応ができるよう,関係省庁との総合調整にあたることとなっている。

 また,内閣総理大臣を会長とする中央防災会議については,省庁再編を機に,全閣僚及び指定公共機関の代表者に,新たに学識経験者4名を委員に加え,また,防災に関する重要事項に関して,内閣総理大臣及び防災担当大臣に意見を述べることができるよう規定を整備したところである( 図2-1-1 )。

  (図2-1-1) 中央防災会議組織図

 都道府県,市町村においては,地方公共団体,指定地方行政機関,警察・消防機関,指定公共機関等の長又はその指名する職員からなる都道府県防災会議,市町村防災会議が設けられ,これが定める地域防災計画等に基づき,各種の災害対策が実施されている。また,石油コンビナート所在都道府県には,「石油コンビナート等災害防止法」に基づき,石油コンビナート等防災本部が置かれている。

 さらに,災害が発生したときは,災害の状況に応じ,市町村,都道府県,国において,災害対策本部を設置して,災害応急対策の迅速かつ的確な推進を図ることとしている。

 なお,「大規模地震対策特別措置法」に基づく地震災害に関する警戒宣言が発せられた場合には,国及び関係地方公共団体は,それぞれ地震災害警戒本部を設置し,地震防災応急対策を実施することとしている。また,「原子力災害対策特別措置法」に基づく原子力緊急事態宣言が発せられた場合には,国は原子力災害対策本部及び原子力災害現地対策本部を,また,地方公共団体は災害対策本部を設置し,原子力事業者とともに,緊急事態応急対策を実施することとしている。

 なお,先進諸国における防災体制は( 表2-1-2 )のようになっている。

  (表2-1-2) 先進諸国の防災体制

1-3 防災計画

(1) 防災計画の体系

 防災基本計画は,我が国の災害対策の根幹をなすものであり,災害対策基本法第34条に基づき中央防災会議が作成する防災分野の最上位計画である。この計画に基づき,指定行政機関及び指定公共機関は防災業務計画を,地方公共団体は地域防災計画を作成している。

(2) 防災基本計画

 防災基本計画は,阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,平成7年及び9年に次のように全面的な改訂が行われ,災害対策の基本についての具体的かつ実践的な計画とされた。

[1]

 災害種類別に体系構成

[2]

 対応の時間的順序を考慮して各編を構成

[3]

 国,地方公共団体,住民等各主体の責務の明確化

[4]

 自主防災,ボランティアなど国民の防災活動を明示

[5]

 近年の社会・経済構造の変化を踏まえた対応

[6]

 事故災害対策の強化

 また,平成12年5月には,11年9月に発生したウラン加工施設臨界事故や原子力災害対策特別措置法の制定等に対応し,原子力災害対策の一層の充実・強化を図るため,防災基本計画原子力災害対策編が修正され,12年12月には,中央省庁再編に対応し,新省庁間の適切かつ円滑な連携のあり方を明らかにするための修正が行われた。

(3) 防災業務計画及び地域防災計画

 防災業務計画は,防災基本計画に基づき,各指定行政機関の長及び指定公共機関が所掌事務又は業務に関し作成する計画である。また,平成13年4月現在,省庁再編後の指定行政機関24府省庁のうち16機関で防災業務計画が制定・改訂された。

 地域防災計画は,防災基本計画に基づき,地方公共団体が当該地域の防災に関して作成する計画であり,平成12年度は25都道府県において改訂が行われた。国においては,特に,東海村ウラン加工施設臨界事故や中央省庁再編等をうけて,地域防災計画の見直しを求めてきている。

1-4 情報・通信体制の整備

 大規模な地震が発生した時には,迅速な災害対策を円滑に実施するために,気象庁からの地震情報,関係省庁等が行うヘリコプターによる被災映像情報,また,地元の市町村,都道府県等,日本放送協会をはじめとする指定公共機関,その他の防災関係機関からの被害状況・規模など,災害に関する第一次情報を的確に収集し,全体的な被害規模や程度を把握するとともに,総理大臣官邸,指定行政機関等に伝達する情報・通信体制の整備を推進することが重要である。そうした災害に関する情報を収集・伝達システムの整備概況は,以下のとおりである。

(1) 情報収集・伝達システム

 地震・津波情報については,気象庁において平成7年度末までに全国約600地点に震度計を設置するとともに,地震活動等総合監視システム(EPOS),地震津波監視システム(ETOS)を整備し,地震や津波の観測データの処理・解析を行っている。また,消防庁においては,全国約3,400地点に設置された地震計から観測された震度情報を消防庁へ即時送信する「震度情報ネットワークシステム」を整備している。

 文部科学省においては,全国約1,000か所に設置された強震計によるネットワークの整備が図られており,地震発生時の初動対応等に活用されている。

 雨量・積雪等の情報については,気象庁において,局地的な気象情報の収集を行う地域気象観測システム(AMeDAS)や,気象衛星により雲の分布・高さなどの情報を収集する静止気象衛星システム(GMSS)等が整備され,観測されている。また,国土交通省においては,一級河川等を対象として,雨量・水位テレメータ及びレーダ雨量計並びに情報処理設備からなる河川情報システムを整備している。

 これらの地震・津波,雨量・積雪等の情報のうち,気象庁からの情報については,地震・津波等の情報は地震活動等総合監視システム及び地震津波監視システム,雨量・積雪等の情報は,気象資料総合処理システム(COSMETS)により解析,予測等が行われ,気象庁本庁に設置された全国中枢気象資料自動編集中継装置(C-ADESS)を介して内閣府,消防庁,防衛庁,海上保安庁等の中央府省庁に,各管区気象台等に整備されている気象資料伝送網(L-ADESS)からは国土交通省地方整備局及び地方公共団体に直接伝達されているほか,(財)気象業務支援センターから報道機関等を通じ,一般に提供されている。また,国土交通省からの情報は(財)河川情報センターを通じて防災関係機関,地方公共団体等に提供されている。

(2) 災害対策用の無線通信ネットワーク

 防災関係機関においては,災害時において有効な通信手段となる無線通信施設の整備を進めている。専ら災害対策に用いられる無線通信ネットワークとしては,中央防災無線網,消防防災無線網,都道府県防災行政無線網,市町村防災行政無線網,防災相互通信用無線等があり,その概要は次のとおりである( 図2-1-2 )。

  (図2-1-2) 防災関係通信網の概念図

a 中央防災無線網

 中央防災無線網は,大規模な災害が発生した場合において電気通信事業者回線が途絶したり,電話の殺到により通信回線が輻輳したりして,その利用が著しく困難な事態に陥った場合においても,非常災害対策本部,総理大臣官邸,指定行政機関,指定公共機関等との間で災害情報の収集・伝達を行うことを目的として整備している。この中央防災無線網は,固定通信回線(画像伝送回線を含む。),衛星通信回線,移動通信回線から構成されている( 図2-1-3 )。

  (図2-1-3) 中央防災無線網通信系統図(平成13年3月現在)

(a)

 固定通信回線

 固定通信回線は内閣府からの一斉指令通信をはじめ,ファクシミリ,災害映像,各種のデータを中継・伝送する中央防災無線網の基幹回線であり,指定行政機関22機関,総理大臣官邸等の関係機関5機関,指定公共機関17機関及び立川広域防災基地内の関係機関10機関を結んでいる。

 また,中央防災無線網と国土交通省専用回線を接続し,被災した都道府県の災害対策本部と総理大臣官邸及び国の災害対策本部を含む防災関係省庁との間で直接連絡がとれる体制を確立している。

(b)

 衛星通信回線

 高層建築物による電波の遮蔽障害があることにより,又は東京から遠隔地にあるために固定通信回線を結ぶことが困難な指定公共機関26機関との間に衛星通信回線を整備している。また,国の災害対策本部と現地災害対策本部との間に映像,電話,ファクシミリの通信手段を迅速・機動的に設定するために,全国9拠点に可搬型の衛星通信装置の整備を図っている。

 その他,大規模な首都直下型の地震によって中央防災無線網を支える庁舎等が損壊し,中央防災無線網そのものが使用不能になった場合のバックアップ回線として,総理大臣官邸をはじめ内閣府等の指定行政機関,都下の指定公共機関等の42機関との間に首都直下型地震対応衛星通信回線を整備している。

(c)

 移動通信回線

 移動通信回線は,休日夜間において閣僚,災害対策要員等との連絡を確保しようとするもので,都内3か所に基地局を整備するとともに,閣僚,災害対策要員等の自宅のほか,関係省庁に可搬型の無線電話装置を配備している。

b 消防防災無線網

 消防庁と都道府県との間を結ぶ無線網で,地上系及び衛星系で構成されている( 図2-1-4 )。

  (図2-1-4) 消防防災無線網概念図

(a)

 地上系

 全都道府県に対する電話,ファクシミリによる一斉通報が行われているほか,災害情報の収集・伝達に活用されている。

(b)

 衛星系(地域衛星通信ネットワーク)

 消防庁及び全国約4,200の地方公共団体等(県庁等:830,市町村:2,626,消防:500,ライフライン等:245)を相互に結ぶ地域衛星通信ネットワークにより,都道府県及び消防本部への電話,ファクシミリによる一斉通報,個別通信による災害情報(画像情報を含む。)の収集・伝達が可能で,地上系を補完するものとして防災通信体制の充実を図るよう推進している。

c 都道府県防災行政無線網

 都道府県と市町村,防災関係機関等との間を結ぶ無線通信網であり,地域防災計画に基づき,災害情報の収集・伝達を行うために,地上系,地域衛星通信ネットワークによる衛星系又は両方式により構成されている( 図2-1-5 )。

  (図2-1-5) 都道府県防災行政無線網概念図

d 市町村防災行政無線網

 市町村が災害情報を収集し,また,地域住民に対し災害情報を周知するために整備している無線網であり,市町村庁舎と屋外拡声器や家庭内の戸別受信機を結ぶ同報系,市町村庁舎(基地局)と車載型・可搬型の無線電話装置又は無線電話装置相互間で運用される移動系及び市町村庁舎,学校,病院等の防災関係機関・生活関連機関をネットワークする地域防災系から構成されている( 図2-1-6 )。

  (図2-1-6) 市町村防災行政無線網概念図

 有珠山噴火災害及び三宅島噴火災害において,同報無線によって地域の住民に的確な避難情報等を提供し,人的被害の発生を防いでいる。

e 防災相互通信用無線

 地震災害,コンビナート災害等の大規模災害に備え,災害現場において警察庁,海上保安庁,国土交通省,消防庁等の各防災関係機関との間で,被害情報等を迅速に交換し,防災活動を円滑に進めることを目的とした無線通信であり,国,地方公共団体,電力会社,鉄道会社等に導入されている。

f その他

 総務省においては,地方公共団体等における被害情報の収集や災害応急対策の実施に必要な通信手段の不足に備え,全国の総合通信局等に衛星携帯電話,携帯電話,簡易無線等の無線設備を配備し,要請に応じ貸与できる体制を整備している。

(3) 画像情報の活用

 ヘリコプター等による災害現地の画像情報は,災害の全容を的確に把握する上で極めて有効であることから,内閣官房,消防庁,警察庁,防衛庁,海上保安庁及び国土交通省の協力を得て,ヘリコプター映像受信設備等の整備を進め,ヘリコプター災害映像を全国のどこからでも内閣府に伝送できる画像伝送システムの充実・強化を図っていくことにしている。

 また,内閣府においてはこれら省庁から送られてきた現地災害画像情報を総理大臣官邸をはじめとする防災関係機関に配信する中央防災無線網画像伝送回線の整備を進めている。

 有珠山噴火災害においては,ヘリコプターによる有珠山の噴火状況,民家の被害状況,有珠山噴火非常災害現地対策本部合同会議の映像を官邸・関係省庁等に配信し,災害対策活動に大きく寄与している。

(4) 放送による情報伝達

 災害情報を住民に周知するためには,防災無線網のほか放送の活用が有効であることから,日本放送協会及び一般放送事業者に対して災害発生時の情報伝達について協力を求めることとしている。また,市町村の区域で放送を行うコミュニティ放送事業者の多くは,市町村との間に協定を結び,災害対応に関する協力体制を築いている。

(5) 情報・通信体制の整備に係る今後の課題等

 阪神・淡路大震災の教訓を考慮し,各防災関係機関においては,大地震に耐え得るよう通信施設の耐震・免震対策,商用電源の停電等に備えた非常用電源の確保及び画像伝送等の機能拡充などの整備を一層推進するとともに,通信回線の多ルート化,衛星通信の導入等による通信網のバックアップ体制の強化,各防災関係機関の通信網相互の連携及び運用方法の確立等の課題にも取り組む必要がある。

 また,各防災関係機関においては,施設面における整備を進めるとともに,運用面においてのマニュアルの作成,周知徹底及びこれに基づく訓練の実施が重要であると考えられる。

2 災害対策に関する施策

2-1 防災に関する科学技術の研究の推進

(1)

 防災対策を効果的に講ずるためには,災害の未然防止,被害の拡大防止,災害復旧という一連の過程において,科学技術上の知見を十分活用することが重要である。

 このような観点から,長期的な視点に立って,我が国全体として取り組むべき研究開発の目標を明らかにした「防災に関する研究開発基本計画」が決定された。(昭和56年7月決定,平成5年12月改訂)

(2)

 関係機関においては,「防災に関する研究開発基本計画」に基づき,「防災科学技術関係省庁連絡会」(平成9年10月設置)の開催等を通じ連携協力を行いつつ,研究等を実施している。なお,地震に関する調査研究については,阪神・淡路大震災を契機として制定された「地震防災対策特別措置法」に基づき設置された「地震調査研究推進本部」(平成7年7月設置)の方針の下,関係機関が密接な連携協力を行いつつ推進している。

(3)

 インターネット等情報技術(IT)の飛躍的発展が,人と人との関係,人と組織との関係,人と社会との関係を一変させていくものと考えられている。防災に関しても,IT及びそれを基盤としたGIS等は,地震被害早期評価システム(EES)等地震等の災害予知,被害予測手法の開発において重要な役割を果たすとともに,ITを活用して災害に関する情報を収集,伝達,提供することによる迅速かつ適切な災害予防,応急対策のための技術開発が行われ,一部は実用化されつつある。それらの事例として以下のようなものがある。

[1]

 微少な地殼の変化を把握し,地震発生,火山噴火等の予知精度の向上を図るため,人工衛星からの電波を利用して地球上の位置を正確に測定するGPSを活用した地殼等の観測網の整備が進みつつある。

[2]

 防災関係の各機関において,よりリアルタイムに被災状況を把握し,迅速な対応を図るため,ヘリコプターにより撮影した被災現場の映像を地上局に電送するシステムの整備や,通信ルートの複数化等による,災害に強い,高度な情報ネットワークの構築が進みつつある。

[3]

 多くの地方公共団体において,インターネットを通じ,災害対応マニュアル,防災マップ等の災害予防に関する情報の提供が行われている。

[4]

 一部の地方公共団体においては,蓄積した情報の随時読み出しや,双方向の情報のやりとりが可能なインターネットの特性を生かし,

 大規模災害時において,インターネットを通じて避難施設,救援物資,生活関連の情報を提供するシステムの整備

 生存者の情報をインターネットで収集,提供するシステム整備の実験

 市民から寄せられる生活,安否確認等の情報提供を行うインターネット上の伝言板設置

 等が行われている。

[5]

 有珠山及び三宅島噴火等の被災者支援においては,地方公共団体によるインターネットを通じた情報提供が行われる一方,ボランティア団体においても,メーリングリストやホームページの相互リンクによる,インターネットを活用した情報交換が行われた。また,直接救援活動等を行うのではなく,情報収集及び発信の側面で他のボランティア団体を支援する新しいタイプのボランティアも登場した。

[6]

 GISによって整備された地盤,建物等の基盤情報を蓄積するとともに,被災時には各所からの災害情報を総合的に集約することにより,災害予防時における災害対応方針の検討支援から非常時の情報収集,提供までを一貫してインターネットを介して行うシステムの開発も行われている。

[7]

 場所を問わないインターネット接続を可能とする,携帯電話のインターネット接続サービスを活用した防災情報の提供・収集システムの検討が行われている。

2-2 災害予防の強化

 災害の発生を未然に防止し,被害を軽減するため,防災に関連する施設設備の整備,国民一人ひとりの防災意識の高揚のための施策の実施,防災訓練の実施等,次のような災害予防の強化を図っている。

(1) 災害に強い国づくり,まちづくり

 地域の特性に配慮しつつ,災害に強い国土とまちづくりを目指して国土保全事業,市街地開発事業や主要交通・通信機能の強化,構造物・施設及びライフライン機能の安全性の確保に関する施策等を実施している。

 また,災害発生時に災害応急対策活動を円滑かつ効果的に実施するための施設・設備の整備等各般の施策を実施している。

a 災害に強いまちづくり

 災害に強いまちづくりをより効果的に推進するため,「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」(平成9年5月制定)に基づき,耐火建築物等への建替えの促進や新たな地区計画制度の創設等により,防災上危険な状況にある密集市街地の整備の促進を図っている。

 さらに,公共・公用施設の耐震化及び防災基盤の整備を行う緊急防災基盤整備事業,計画的に公共施設の整備を行う防災まちづくり事業の推進や,住民の防災活動の活性化,情報通信体制の強化等に要する経費に対する地方財政措置により地方公共団体を支援し,防災対策の強化を図っている。

b 災害に強い農山漁村づくり

 災害に強く安心して暮らせる村づくりを推進するため,緊急車両の通行や避難路の確保等のための農道・林道,緊急物資輸送に資する漁港の耐震強化岸壁,災害情報の伝達を行うための施設等の整備を行うなど,災害対策上必要な施設の整備を緊急に実施している。

c 地域の防災拠点の整備

 災害対応活動や地域住民等の応急避難場所として機能する防災拠点の整備としては,平常時は普及啓発活動にも利用される防災センターや,水防資材の備蓄庫や水防活動の指揮所となる河川防災ステーション等の施設の建設が全国各地で進められている。

 公共性の高い施設として,学校,公民館は災害時に避難場所となることから,改築,耐震補強や備蓄倉庫,耐震性貯水槽等の整備が図られている。官庁施設についても耐震安全性の向上や備蓄機能の強化等を実施している。

 病院については,災害時に患者を受入るためのヘリポート,水,医薬品,医療材料の備蓄機能等を持ち耐震性能が強化された災害拠点病院の整備が推進されている。

 さらに,災害時には応急対策活動の拠点として機能し,平常時には防災に関するPR,教育,訓練等の活動の場として機能する地域防災拠点施設の整備を推進している。

 また,災害に強いまちづくりの一環として,避難地・避難路の機能と延焼遮断帯の機能を併せ持つ公園の整備として耐震性貯水槽,備蓄倉庫,ヘリポート等の災害応急対応施設等の整備が進められている。道路,公園等の都市基盤と建築物の不燃化等を面的に行い,街区自体の防災拠点化を図っているケースもある。さらに,現行の建築基準を上回る高度な防災性能を有し,災害対応活動や地域の円滑な復興活動の拠点となる建築物の整備も進められている。

 この他,港湾においては,緊急物資輸送用の耐震強化岸壁の整備とともに,避難緑地帯と一体となった臨海部の防災拠点の整備が推進されている。また,空港においても,液状化対策を実施している。

d 広域防災基地整備

(a)

 立川広域防災基地

 広域的な災害が発生した場合において情報の収集・伝達,救難・救助等の災害応急対策の拠点とするとともに,平常時においては地域の行政サービスの充実と国民に対する防災知識の普及等を図るため,東京都立川市に立川広域防災基地が整備されている。

 ここには,災害対策本部予備施設( 第2章4 , 4-6(2) 参照)のほか,警察防災関係,海上防災関係,消防防災関係,自衛隊航空関係及び医療関係等の施設を有している。

(b)

 横浜海上防災基地

 東京湾及び関東一円の防災拠点として,平成7年4月から横浜市の「みなとみらい21」の新港地区に,横浜海上防災基地の運用が開始され,原油,LPG,LNGなどの危険物を積載する船舶が衝突等の事故や南関東地域直下の地震等により沿岸部の住民や諸施設が大きな被害を受けた場合に,指揮中核として巡視船艇,航空機等を迅速かつ効率的に運用するなど応急対策の拠点として,速やかに被災者の救援活動を実施することしている。

(2) 防災に関する普及,啓発

 災害から自らの身を守るためには,平常時から,一人ひとりが防災に関する意識を高め,防災に関する正しい知識や技術を身につけることが重要である。

a 「防災週間」等各種行事を通じての普及・啓発への取組み

 昭和57年5月11日の閣議了解で,「防災の日」(9月1日),「防災週間」(8月30日から9月5日まで)を定め,毎年度においてこの期間を中心に,各種行事や広報活動等を実施している。

 この一環として,平成12年度においては,神戸市で「防災フェア2000」(国土庁・神戸市・防災週間推進協議会共催)を実施し,各種展示,実演,模擬体験等に加え,地震災害と風水害を想定しての徒歩避難及び避難所での支援・生活体験等を取り入れた「防災体験学校」等の行事を展開した。

 このほか,関係各機関や地方公共団体においては[1]防災フェアや各種展示会,[2]テレビ,ラジオ,新聞及び広報誌等による広報,[3]標語,図画等の募集などを展開している。

 また,この期間以外においても「全国火災予防運動」(3月1日〜及び11月9日〜),「水防月間」(5月又は6月),「山地災害防止キャンペーン」(5月20日〜),「土砂災害防止月間」(6月),「がけ崩れ防災週間」(6月1日〜),「危険物安全週間」(6月第2週),「道路防災週間」(8月25日〜),「建築物防災週間」(8月30日〜),「救急医療週間」(9月5日〜),「雪崩防災週間」(12月1日〜)等においてシンポジウム,講演会,講習会等を実施し,防災知識の普及と防災意識の高揚を図っている。

b 「防災とボランティア週間」における取組み

 阪神・淡路大震災においては,ボランティア活動が果たす役割の重要性があらためて認識されたところである。

 こうしたことから,政府は平成7年12月15日の閣議了解で「防災とボランティアの日」(1月17日),「防災とボランティア週間」(1月15日から21日まで)を創設し,災害時におけるボランティア活動及び自主的な防災活動の普及のため講演会等の行事を実施することとしている。

 平成12年度において,内閣府は東京災害ボランティアネットワーク等との共催で「防災とボランティアを考えるつどい」(平成13年1月20日〜21日東京都豊島区)を開催し,ボランティア活動に関する問題点の洗い出しを目的とした「シンポジウム」や「負傷者対応訓練」及び「ボランティア本部訓練」等の行事を実施した。

 また,地方公共団体等においても研修会,講演会,セミナー等の様々な行事が実施された。

c 学校における防災教育

 災害時に自ら適切な行動をとれるようにするためには,学校における防災教育をより一層充実し,子どもの時期から正しい防災知識をかん養していくことが重要である。

 文部省(現文部科学省)においては,防災教育の充実を図るため,平成7年度以降,阪神・淡路大震災の経験等を踏まえた「学校等の防災体制の充実に関する調査研究協力者会議」の報告書を各都道府県教育委員会等に指針として示すとともに,これをもとに学校における防災教育及び防災管理の重点等を明記した「『生きる力』をはぐくむ防災教育の展開」と題する参考資料を作成し,全国各都道府県の教育委員会等に配布した。

 また,さらに効果的な防災教育の実践への取り組みとして防災教育教材の作成・配布を行っており,平成12年度は「考えよう! わたしたちのいのちと安全」という小学校1・2・3年生用の教材を作成し,各学校に配布している。

(3) 自主的防災意識の育成

 大規模な災害が発生した場合には,地域住民が防災関係機関と一体となって初期消火,避難誘導,被災者の救出・救護等の自主的な防災活動を行うことが,被害の拡大を防ぎ円滑な災害応急対策を実施する上で極めて重要である。このような観点から,地域住民の連帯意識に基づく自主防災組織が結成されている。

 自主防災組織は,平成12年4月1日現在,全国3,252市区町村のうち2,472市区町村で9万6,875結成されており,組織率(全国世帯数に対する組織されている地域の世帯の割合)は56.1%である。(自主防災組織については, 第3章 を参照)

(4) 防災訓練

 大規模地震の発災時等には,政府,地方公共団体をはじめとする防災関係機関,地域住民等が緊密な連携のもと,各種の防災活動を迅速かつ適切に実施する必要がある。特に,災害対策本部等の設置など迅速な初動体制の確立と情報の収集,的確な災害応急対応が人命救助と被害の軽減,その後の復旧の鍵を握っている。このため,各防災関係機関において職員の非常参集,災害情報の収集連絡等の体制が整備されているが,災害は多くの場合,その発生を予測できず,しかも防災に係わる関係機関は多岐にわたっているので,防災体制を実効性のあるものとするためには,常日頃から実践的な防災訓練が不可欠である。

 例えば,鳥取県においては,平成12年10月に発生した鳥取県西部地震の2か月ほど前に,米子に駐屯する自衛隊の参加を得て防災訓練を実施し,その結果電話番号が記入されていなかったというマニュアルの不備な点を改めるなど,訓練での課題を直ちに改善していたことが地震発生時における初動対応に十分活かされたものと訓練の意義を高く評価している。

 政府が行っている総合防災訓練は,訓練の反復を通じて,閣僚をはじめ,国,地方公共団体,指定公共機関等の多くの関係職員に防災業務を習得させ,政府,関係機関全体の災害対応力を高める目的で行われている。

 各地域で行われる防災訓練については,災害の教訓を踏まえつつ,災害事象・社会構造の変化,技術革新等の新たな状況に対応できるよう訓練内容の充実に努める必要がある。有珠山周辺3市町(伊達市,壮瞥町,虻田町)においては,活発な火山活動が続いている有珠山の再噴火に備え,平成12年5月18日,避難訓練が,国の現地対策本部の支援のもと実施され,また,これと合わせ関係省庁の増強要員派遣等の情報伝達訓練が実施された。

 防災訓練の実施に当たっては,テレビ,広報誌等を通じた事前広報を行い,地域住民,自主防災組織,ボランティア等の参加を積極的に進め,それぞれの役割を確認しつつ,地域全体の災害対応力を高めることが重要である。

a 政府における総合防災訓練

 毎年9月1日の「防災の日」に,「総合防災訓練大綱」(中央防災会議決定)に基づき,南関東地域直下の地震及び東海地震に係る大規模な総合防災訓練を内閣,関係省庁はじめ関係地方公共団体などが連携を図りつつ実施することとしている。

 平成12年度の訓練は,国土庁をはじめ,33の指定行政機関等と20の指定公共機関等並びに13の地方公共団体が連携し,訓練参加機関関係者及び地域住民等は概ね374万人(平成12年9月15日現在消防庁調べ)が参加した。

(a)

 東海地震対応訓練

 予知対応型訓練としては,東海地震を想定して,地震防災対策強化地域判定会の開催,緊急参集チーム会議の開催,地震予知情報の報告,関係閣僚会議の開催,警戒宣言の発表,内閣総理大臣を本部長とし,全閣僚を本部員とする地震災害警戒本部の設置・運営訓練等を行った上で,内閣総理大臣(代理:自治総括政務次官)を団長とし,関係省庁からなる政府調査団を現地訓練会場(静岡県湖西市及び新居町)に派遣した。

(b)

 南関東地域直下の地震対応訓練

 発災対応型訓練としては,南関東地域直下の地震を想定して,緊急事態の布告,緊急災害対策本部の設置・運営訓練,ヘリコプター映像伝送システムや中央防災無線網を活用したテレビ会議等を通じての情報収集・伝達訓練が行われ,災害応急対策に関する基本方針等が決定された。

 また,内閣総理大臣を団長とする政府調査団を現地訓練会場(神奈川県平塚市)に派遣したほか,国土総括政務次官を長とする緊急災害現地対策本部を設置し,現地対策会議を開催するなどの訓練を行った。

(c)

 原子力防災訓練

 平成11年9月の東海村ウラン加工施設における臨界事故を教訓に制定された原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)が6月に施行されたことに伴い,法施行後初の原子力防災訓練が,平成12年10月28日,中国電力島根原子力発電所(島根県鹿島町)を対象施設として実施された。本訓練では,内閣総理大臣をはじめとする関係閣僚が参加し,国の原子力災害対策本部(本部長:内閣総理大臣)及び現地対策本部を設置する等の訓練が行われた。

b 地方公共団体等における防災訓練

 大規模地震に係る訓練をはじめ,台風等風水害,原子力災害,火山災害など地域の実情に即して各種の災害を想定した防災訓練が実施されており,平成12年度においては,47都道府県,2,138市町村,約5万1,000団体,495万人の参加が見込まれた(平成12年9月15日現在消防庁調べ(実施予定を含む。))。

 また,都道府県の区域を越えたブロック単位の広域防災訓練にも積極的に取り組まれており,広域的な応援体制や防災関係機関相互の連携協力体制の強化を図るとともに,地域住民の防災意識の高揚,連帯意識を醸成することができた。

(a)

 七都県市総合防災訓練

 首都圏にあって政治・経済などの中枢機能が集積し,各般において広域に関わり合う七都県市(埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,横浜市,川崎市,千葉市)の地域が,国,防災関係機関等と連携し,一体となった訓練を実施している。

 平成12年9月1日,神奈川県において,連携・強化が推進されている防災関係機関等の,より実践的な応急対策訓練や「七都県市災害時相互応援に関する協定」等に基づく広域的な協力応援体制を生かした訓練を,住民等による地域防災活動の積極的推進と遊漁船を使った帰宅困難者のための帰路確保訓練などを実施した。

(b)

 東京区部直下での大規模地震に係る訓練

 平成12年9月3日,東京都は東京区部直下での大規模地震を想定した東京都総合防災訓練を実施した。これに対し政府は,内閣総理大臣をはじめとする関係閣僚が参加し,防衛庁(中央指揮所)で緊急災害対策本部設置等を行った。

 区部の市街地を中心に都内10箇所の会場で,警察,消防,海上保安庁に加え,陸・海・空の統合運用の自衛隊を含めた大規模かつ総合的な広域支援訓練が行われた。

(c)

 近畿府県合同防災訓練

 阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,平成7年度から実施されている近畿府県合同防災訓練が,平成12年11月10日,「近畿2府7県(大阪府,京都府,兵庫県,奈良県,和歌山県,福井県,三重県,徳島県及び滋賀県)震災時等の相互応援に関する協定」等に基づき,奈良県天理市会場を中心に実施された。

2-3 国土保全の推進

 水害,土砂災害,震災,火山災害等の自然災害から国土並びに国民の生命,身体及び財産を保護するためには各種の国土保全事業を長期間にわたり計画的に推進する必要がある。このため,治山事業七箇年計画,治水事業七箇年計画,海岸事業七箇年計画,急傾斜地崩壊対策事業五箇年計画,下水道整備七箇年計画,土地改良長期計画等の長期計画を策定し,各種事業を計画的に推進している。国土保全事業に係る予算の推移をみると( 図2-2-1 )のとおりである。平成11年度では,国土保全事業の国費は2兆4,507億円(下水道事業関係の国費1,768億円を含む)で,事業費は4兆1,315億円(下水道事業関係の事業費3,530億円を含む)となっている。

  (図2-2-1) 国土保全事業予算の推移

 また,国土保全事業予算額が一般公共事業予算額に占める割合は,平成11年度は約19パーセントとなっている。

 一方,関係省庁において,公共事業の再評価が行われており,その結果中止となった地区は,平成11年度においては,治山事業3箇所,治水事業1箇所,海岸事業3箇所となっている。平成12年度においても,引き続き公共事業の再評価を実施しているところである。

 長期計画に基づく国土保全事業の実施状況は( 表2-2-1 )のとおりである。

  (表2-2-1) 国土保全事業に係る各種計画の実施状況

2-4 災害応急対策の実施

(1) 災害発生時の措置,応急対策

 大規模な地震等による災害が発生した際には,災害応急対策を迅速かつ円滑に実施するために,被害状況や応急対策に関する情報を的確に収集し,迅速に伝達する必要がある。特に,災害の初期の段階において,その被害規模や程度を全体的に把握することが重要である。

 官邸への迅速な報告連絡を行うため平成7年2月21日の閣議決定において,内閣情報調査室を情報伝達の窓口とした。また,平成8年5月11日には,内閣情報集約センターが設立され,24時間体制で対応に当たっている。さらに,社会的影響の大きい突発的災害が発生した場合,内閣としての初動措置を迅速に始動するため,関係省庁の局長等の幹部が官邸に緊急参集し,情報集約を行うこととした。このほか首都直下型等大規模地震発生時の内閣の初動体制についての閣議了解により,各閣僚の参集場所の順位を,[1]官邸(危機管理センター),[2]内閣府(中央合同庁舎第5号館災害対策本部長室),[3]防衛庁(中央指揮所),[4]立川広域防災基地(災害対策本部予備施設)とすること等が取り決められた。

 加えて,内閣官房における危機管理機能を強化するため,平成10年4月に内閣危機管理監が設置されるとともに,内閣安全保障室が内閣安全保障・危機管理室に改組され,危機管理関係省庁連絡会議が設置された。

 このほか,平成7年度以降関係機関における迅速な初動体制の整備に関して,警察庁及び都道府県警察においては広域緊急援助隊の設置,消防庁及び地方公共団体においては緊急消防援助隊の整備を行った。消防庁においては状況により,消防庁長官が他の都道府県知事に応援要請ができるなど消防組織法の一部改正を行った。防衛庁においては防衛庁防災業務計画に,いわゆる自主派遣に係る判断基準を明記するとともに,都道府県知事等の派遣要請を簡素化する自衛隊法施行令の一部改正を行った。また,平成12年11月には,災害対処マニュアル及び都道府県別災害派遣連絡窓口一覧表を作成し,都道府県等に周知した。

 被害規模の早期把握のため,各省庁はそれぞれの立場において現地の関係者からの情報を集約するほか,警察庁,消防庁,防衛庁,海上保安庁においては,一定規模以上の地震の場合,航空機,船舶等を活用した情報収集体制の整備を行った。また,内閣府(旧国土庁)においては,被害規模の早期把握に関して,地震発生直後,概ね30分以内に被害の大まかな規模を把握するための「地震被害早期評価システム(EES)」( 第2章4-7 参照)を整備し,平成8年4月から稼働させている。

 中央防災会議主事会議においては,中央省庁再編(平成13年1月6日)に伴い所要の各種申し合わせを行い,また,内閣府においては,非常災害対策要員を指定し,職員による宿日直体制をとるとともに,ポケットベルによる一斉情報連絡装置により,関係者への地震情報の連絡を行っている。

 なお,海外からの支援受入については,防災基本計画に規定を設けた上で,平成10年1月20日に,海外からの支援受入れ可能性のある分野毎の対応省庁及び対応方針,支援受入れ手続き等を定めた関係省庁間の申し合わせを行った。

(2) 非常災害対策本部等

 都道府県又は市町村の地域について災害が発生し,又は災害が発生するおそれがある場合において,都道府県知事又は市町村長は,災害対策本部を設置することができ,地方防災会議と緊密な連絡のもとに,当該地域に係る災害予防及び災害応急対策を実施する。

 一方,国においては,非常災害が発生し,災害の規模その他の状況により,災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときは,災害対策基本法第24条第1項の規定に基づき,防災担当大臣を本部長とする「非常災害対策本部」を内閣府に設置することができる。過去10年間における国の非常災害対策本部等の設置状況は( 表2-2-2 )のとおりである。

  (表2-2-2) 非常災害対策本部等の設置状況(過去10年間)

 直近では,平成12年3月31日に,「平成12年(2000年)有珠山噴火非常災害対策本部」及び平成12年8月29日に「平成12年(2000年)三宅島噴火及び新島・神津島近海地震非常災害対策本部」を設置した。

 さらに,著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合において,同法第28条の2第1項の規定に基づき,内閣総理大臣を本部長とし,全閣僚等を本部員とする「緊急災害対策本部」を内閣府に設置することができる。

 また,現地における被災地方公共団体に対する国の支援や相互の連絡調整を行うため,非常(緊急)災害対策本部の事務の一部を行う組織として,現地対策本部を設置できる。平成12年3月31日から同年8月11日までの間,「平成12年(2000年)有珠山噴火非常災害現地対策本部」を伊達市に設置した。

(3) 応急対策活動

 発災直後の情報の収集・連絡,活動体制の確立と並行して,人命の救助・救急活動,医療活動,消火活動等の応急対策活動が開始される。応急対策活動の実施については第一次的には市町村が当たり,都道府県は広域にわたり総合的な処理を必要とするものに当たる。また,地方公共団体の対応能力を超えるような大規模災害の場合には,国が積極的に応急対策を支援することとなっている。

 これらの活動には消防機関約110万人(消防署員約15万人,消防団員約95万人)をはじめとして,警察機関(都道府県警察の警察官の定員は約23万人),海上保安庁(地方勤務の海上・航空,陸上職員の定員は約1万人)の職員が従事する体制が整備されるとともに,都道府県知事等から派遣要請があった場合には,自衛隊(陸上,海上,航空の各自衛官の定員合計は約27万人)が災害応急対策活動に従事する体制がとられている。

 平成11年には,延べ約40万人の消防職団員と警察官,海上保安官が応急対策活動に従事したほか,平成11年度の都道府県知事等から自衛隊への災害派遣要請は815件に上り(救急患者の搬送件数も含む。),延べ26,367人の人員が派遣された。

2-5 災害復旧対策等の実施

 災害からの復旧・復興においては,災害復旧事業等による公共的施設の復旧整備等による単なる原状回復にとどまらず,より安全性に配慮した地域振興のための基礎的な条件づくりとともに,被災地復興の計画的実施,復旧・復興に不可欠である地域経済の復興対策,被災者の自立した生活再建の対策等について,法律・税制・予算措置等による様々な措置を講じることとしている。

(1) 災害復旧事業

a 主な災害復旧事業

 道路・港湾等の公共的施設等が被災した場合においては,公共の福祉の確保を図る観点等から,その迅速な復旧が望まれる。国が実施する主な災害復旧事業は,( 表2-2-3 )のとおりであるが,できる限り速やかに実施されることが必要であり,原則として直轄事業については2か年,補助事業については3か年で事業を完了させることとしている。

  (表2-2-3) 主な災害復旧事業

 また,国は災害復旧事業を実施するために大きな財政負担を負う被災地方公共団体に対して,災害関係地方債の許可及びこれに対する資金運用部資金の貸付,普通交付税の繰上げ交付,特別交付税における災害に伴う特別の財政需要の算定等の措置を講じ,財政負担の軽減を図っている。

b 激甚災害制度

 前述の措置に加えて,国民経済に著しい影響を及ぼし,かつ,当該災害による地方財政の負担を緩和し,又は被災者に対する特別の助成を行うことが特に必要と認められる災害が発生した場合には,中央防災会議が定める基準に基づき,当該災害を政令で「激甚災害」に指定し,災害復旧事業に対する国の補助率の引上げ等,特別な助成措置を講じ,地方公共団体や被災者の負担軽減を図っている。

 ところが,平成12年9月8日から17日にかけての愛知県を中心とした豪雨災害は,中小企業関係の被害額が激甚災害に指定された過去の災害を大きく上回る規模となったにもかかわらず,愛知県の中小企業所得の総額が高かったため,昭和37年に制定された基準では激甚災害に指定できないことが判明した。

 このため,現行基準に絶対額基準を加えることにより,中小企業所得の総額が高い都道府県においても激甚災害を指定できるよう,指定基準を以下のとおり改正した(下線部分を追加)。

  

 激甚災害指定基準(昭和37年12月7日中央防災会議決定)6のB

 「当該災害に係る中小企業関係被害額が当該年度の全国の中小企業所得推定額のおおむね0.06%をこえる災害であり,かつ,一の都道府県の区域内の当該災害に係る中小企業関係被害額が当該年度の当該都道府県の中小企業所得推定額の2%を超える都道府県又はその中小企業関係被害額が1,400億円を超える都道府県が一以上あるもの」

  

 なお,この中小企業関係の激甚災害指定基準の改正は,昭和37年の制定以来,38年ぶり初めてのものである。

(2) 復興対策

a 復興計画の作成

 大規模な災害により甚大な被害が発生した場合には,被災者の生活再建や地域の復興を迅速かつ円滑に推進するため,被災地方公共団体は早期に的確に対応する必要があるが,そのためには事前にその備えをしておくことが重要である。

 このため,国においては,地方公共団体が災害の態様や地域の特性に合わせて復興対策を迅速かつ的確に検討できるようマニュアル作りを進めてきており,今後はこれらを更に発展させた総合復興手引書の作成を行う。また,発生の切迫性が指摘されている東海地震等については,事前復興計画策定のための調査検討を行ったところである。

b 被災者支援対策

 災害により被害を受けた場合に,災害により死亡した者の遺族に対する災害弔慰金,災害により著しい障害を受けた者に対する災害障害見舞金が支給される他,「被災者生活再建支援法」(平成10年法律第66号)に基づき,自然災害により生活基盤に著しい被害を受け,経済的理由等により自立して生活を再建することが困難な被災者に対しては,最高100万円の被災者生活再建支援金が支給される。このうち,被災者生活再建支援法は,平成12年度においては,有珠山噴火災害,三宅島における噴火災害や平成12年秋雨前線と台風14号に伴う大雨による災害などに適用している。

 更に,被災者の生活再建に資する災害援護資金や生活福祉資金の貸付等を実施するとともに,住宅や家財に被害を受けた人々に対しては,国税及び地方税について,軽減,免除,納税の猶予を行う等,きめ細かい支援措置を講じている。

c 災害の被害認定基準の見直し

 現行の災害の被害認定基準は,昭和43年6月に統一されてから,既に30数年が経過していること,また近年の住宅構造の変化等により,浸水被害における断熱材等の被害や地震による住宅の傾斜など物理的損害の程度と基本的な居住のための機能の損害の程度とが必ずしも一致していないことから,最近の災害における住宅などの被害認定については,現状と合わなくなってきているなどの指摘がなされている。

 このため,昨年11月に関係省庁や学識経験者の協力の下,当該被害認定基準について点検・見直しを行う「災害における住宅等の被害認定基準検討委員会」(委員長:高寄昇三甲南大学教授)を開催し,検討を行った。

 委員会では,統一基準は,これまで災害状況の把握などを目的として使われてきたが,各種被災者支援策の対象要件に関連して,認定基準及び適用方法についてより一層明確化を図ること,住家の全壊・半壊の概念については,居住のための基本的機能が確保されているかどうかを要件とすることなどの見直しの基本方針に基づいて被害認定基準が見直された。

 また,委員会の下に設けられたワーキンググループにおいて,被害認定基準運用指針(マニュアル)を検討・作成した。

d 住宅対策

 災害により住宅を失った被災者が,一日でも早く恒久住宅に入居できるよう,国においては公的恒久住宅の量的確保に加え,持ち家に関しては住宅金融公庫等による融資による措置を講じることとしている。

(1)

 被災者の住宅再建支援の在り方に関する検討委員会

 「被災者生活再建支援法」の附則第2条の規定を踏まえ,国土庁において「被災者の住宅再建支援の在り方に関する検討委員会」(委員長:廣井脩東大教授,学識経験者など10人で構成)が平成11年1月以降,計17回にわたり開催された。委員会は,平成12年12月,合計17回に及ぶ検討結果をとりまとめ,報告書を国土庁に提出した。

 委員会は,平時,避難生活の段階,仮住まいの段階及び恒久的住居を確保する段階の各段階にわたって検討した結果,次のような具体策を提示した。

a

 避難所,仮設住宅のタイプの多様化

b

 既存の空き住宅ストックの活用

c

 地震保険の保険料率体系の見直し

d

 住宅の耐震補強の促進,他

 全住宅所有者の加入を義務付ける住宅再建のための相互支援制度については,強制加入に対する国民の理解,徴収事務等の負担等の課題が指摘されたところであり,今後検討することが必要であるとされた。

e 市街地・都市基盤施設の復興

 災害後の地域の経済活動の継続や復興,また被災者の生活確保及び生活再建のためには,これらの活動を支える市街地・都市基盤施設の復旧が不可欠となる。

 市街地の復興のため,土地区画整理事業,市街地再開発事業,「被災市街地復興特別措置法」による建築制限の実施等がなされ,更に防災上の理由から住宅を集団で移転する場合には,防災集団移転促進事業等が行われることとなるが,国においてはこれらに対し助成措置を講じている。

 また,被災者の生活と密接に関連するライフライン,道路等の都市基盤施設については,迅速な復旧を行うことが基本であるが,災害によって脆弱性が明らかにされた施設については,単なる現状復旧ではなく耐震性の強化等を含むより安全性に配慮した都市基盤施設の復興を実施していくことが必要となる。

f 地域経済の復興

 地域の経済状況は,その地域の住民の雇用,収入その他の生活基盤の安定の面で,非常に大きく係わってくるものであり,また地方公共団体の復興財源の確保にも大きな影響を与える。

 地域経済の復興においては,前提となる都市基盤施設の早期復旧,防災まちづくり等を計画的に推進するとともに,産業復興については,被災した中小企業に対する政府系中小企業金融三機関の災害復旧資金の貸付や,被災した中小企業が,設備や技術の高度化資金の貸付など,被災した中小企業の再建や高度化の支援を行うため,各種の制度が設けられている他,農林漁業者に対してはその経営の安定を図るため各種の支援制度がある。( 表2-2-4 )

  (表2-2-4) 主な被災者支援措置

 その他,総合相談体制の整備,金融面での支援といった個々の事業者を対象とした施策や,イベントやプロジェクトの企画・誘致,観光・地場産業の振興等の地域全体に波及効果を及ぼすような措置を講じていくことになる。

3 防災関係予算

(1)

 平成11年における防災に関する科学技術の研究,災害予防,国土保全,災害復旧等の施策の実施に要した国の予算(国費,補正後,以下「防災関係予算」という。)は,総計約4兆5,600億円となっており,その内訳としては,科学技術の研究に合計約780億円,災害予防に合計約1兆1,400億円,国土保全に合計約2兆4,000億円,災害復旧等に合計約9,400億円である。

 また,防災関係予算全体に占める割合を見ると,科学技術の研究が1.7%,災害予防が24.6%,国土保全が51.6%,災害復旧等が20.2%となっている( 表2-3-1 )。

  (表2-3-1) 年度別防災関係予算額

(2)

 この防災関係予算の推移は,( 図2-3-1 )( 図2-3-2 )のとおりであり,一般的に増加傾向にあるが,平成7年度は阪神・淡路大震災の災害復旧等のために大幅に増加している。

  (図2-3-1) 防災関係予算内訳割合の推移

  (図2-3-2) 防災関係予算額の推移

 さらに,その年の一般会計予算に対する割合を見ると,平成7年度は阪神・淡路大震災の災害復旧等のため9.2%となったが,平成11年度は5.1%となっている。

 なお,平成12年度当初予算における防災に関して実施すべき計画における予算は,( 表2-3-2 )のとおりである。

  (表2-3-2) 平成12年度における防災関係予算額(当初予算)

4 震災対策

4-1 地震の発生と被害状況

(1) 我が国における地震の概要

 我が国は,海洋プレート(太平洋プレート,フィリピン海プレート)及び陸側のプレート(ユーラシアプレート・北米プレート)の境界部に位置し,日本周辺では,太平洋プレートが日本海溝及び小笠原海溝で陸側のプレートとフィリピン海プレートの各々の下に沈み込み,またフィリピン海プレートが南西諸島海溝,南海トラフとその延長である駿河トラフ及び相模トラフで陸側のプレートの下に沈み込んでいる( 図2-4-1 )。このような複雑な地殼構造の上に位置する我が国は,世界でも地震の発生の多い国であり,過去より頻繁に,大きな被害を生じるような地震に見舞われてきた( 表2-4-1 )。

  (図2-4-1) 日本列島とその周辺のプレート

  (表2-4-1) わが国の主な被害地震(明治以降)

 これまで大きな被害を及ぼしてきた地震を大別すると,以下のようになる。

 一つは,マグニチュード8クラスの海溝型巨大地震であり,大きな被害をもたらした関東大地震(大正12年(1923年))や南海地震(昭和21年(1946年))等が代表とされる。海溝型地震は,沈み込みに伴うプレートの変形として蓄積された巨大な歪エネルギーが,変形が限界に達した時に元の形に戻ろうとして急激に運動する際に発生する。このタイプの地震は,断層面が2つのプレートの境界面上にあるのが特徴であり,発生間隔は場所によっても異なるが,数百年程度と言われている。近い将来に発生が予想されている東海地震も,このタイプの地震と考えられている。

 次に,平成5年(1993年)釧路沖地震等のように,海洋プレートの内部で発生するタイプの地震があり,平成13年(2001年)芸予地震は,沈み込むフィリピン海プレートのプレート内部が破壊して起こったものと考えられている。南関東地域においては,陸側のプレートの下にフィリピン海プレートが沈み込み,さらにその下に太平洋プレートが沈み込むという非常に複雑な地殼構造となっている。また,相模トラフ沿いの巨大地震の発生に先立ちマグニチュード7程度の地震が数回発生すると考えられており,安政江戸地震(1855年)など過去にこのタイプの被害地震を多く経験している。

 さらに,プレートの沈み込みに伴って内陸のプレートに蓄積された歪エネルギーが解放されることにより発生するタイプの地震がある。濃尾地震(明治24年(1891年)),福井地震(昭和23年(1948年)),平成7年(1995年)兵庫県南部地震,平成12年(2000年)鳥取県西部地震等はこのタイプの地震である。このタイプの地震では,新たに断層を伴うものや,既存の断層が活動するものがある。最近の地質時代以降(約200万年前以降)に数千年から数万年程度の発生間隔で繰り返し活動していることから,将来も活動すると推定されている断層を活断層と呼んでいる。

 その他,我が国は多くの活動的な火山を有することから,火山活動に伴う地震も過去多く発生している。昨年3月31日の有珠山噴火に前後して山麓で最大震度5弱となる地震が3回発生した。また,昨年6月下旬から始まった三宅島から新島・神津島近海の地震活動も,地下のマグマ活動に関連していると推測されている。

(2) 津波の発生と災害の状況

 地震により海底に急激な上下変動や地形変化が発生し,海面上に波動を生ずるのが津波である。津波の規模は,通常,地震の規模(マグニチュード)に比例するが,震源の深さ,地震の起こり方にも影響される。

 津波は発生した場所から時速数百kmもの速さで伝播し,海岸に到達するまでに,地形による増幅効果等により何倍もの高さとなる。特に,津波が湾内に入る場合,湾奥では更に高くなる。また,第1波よりも後続の波の方が高くなることがある。

 津波により大きな被害を生じたものとして,三陸沖の地震(昭和8年,昭和三陸地震津波),東南海地震(昭和19年),南海地震(昭和21年),チリ地震(昭和35年),十勝沖地震(昭和43年),昭和58年(1983年)日本海中部地震,平成5年(1993年)北海道南西沖地震が挙げられる。昭和三陸地震津波では死者約3,000人,チリ地震津波では死者・行方不明者139人,日本海中部地震の津波では100人以上の死者が出るなど大きな被害が発生し,平成5年7月12日に発生した北海道南西沖地震では,死者・行方不明者230名の多くが津波によるものであるとされている。

(3) 平成12年度の主な被害地震

 平成12年度に発生した地震のうち被害が生じた主なものは次のとおりである。

a 千葉県北東部の地震

 平成12年6月3日,千葉県北東部の深さ48kmを震源とするM6.0の地震が発生し,千葉県多古町で震度5弱を観測した。この地震により負傷者1名,住家一部損壊35棟等の被害が発生した。

b 石川県西方沖の地震

 平成12年6月7日,石川県西方沖の深さ22kmを震源とするM6.1の地震が発生し,石川県小松市で震度5弱を観測した。この地震により負傷者3名,住家一部損壊1棟等の被害が発生した。

c 熊本県熊本地方の地震

 平成12年6月8日,熊本県熊本地方の深さ10kmを震源とするM4.8の地震が発生し,熊本県嘉島町,富合町で震度5弱を観測した。この地震により負傷者1名,住家一部損壊5棟等の被害が発生した。

d 三宅島から新島・神津島近海の地震

 平成12年6月26日から三宅島島内西部で地震が多発し,活動域はその後新島・神津島近海まで拡大した。震度5弱を超える地震は9月まで頻発し,最大震度6弱を6回,震度5強を7回,5弱を17回観測した。一連の地震活動により,死者1名(7月1日神津島でがけ崩れによる),負傷者15名,住家全壊15棟,土砂崩れ138カ所等の被害が発生した。

e 鳥取県西部地震

 平成12年10月6日,鳥取県西部の深さ11kmを震源とするM7.3の地震が発生し,鳥取県境港市,日野町で震度6強,西伯町,会見町,岸本町,日吉津村,淀江町,溝口町で震度6弱を観測したほか,中国・近畿・四国地方の広い範囲で有感となった。この地震により鳥取県西部を中心に負傷者182名,住家全壊430棟,住家半壊3,065棟,住家一部破損17,155棟,がけ崩れ等の地震に関連した土砂災害27か所等の被害が発生した(H13.5.2現在)。

f 三重県中部の地震

 平成12年10月31日,三重県中部の深さ44kmを震源とするM5.5の地震が発生し,三重県紀伊長島町と愛知県碧南町で震度5弱を観測した。この地震により負傷者5名,住家一部損壊2棟等の被害が発生した。

g 芸予地震

 平成13年3月24日,安芸灘の深さ51kmを震源とするM6.7の地震が発生し,広島県の河内町,大崎町,熊野町で最大震度6弱を観測した。この地震により,広島県で1名(ビルの外壁崩壊による),愛媛県で1名(住家一部崩壊による)の死者が出たほか,広島県,愛媛県,山口県,島根県,岡山県,高知県,福岡県と広い範囲で負傷者が出て総数は288名となった。また,がけ崩れ等の土砂災害が53か所発生した。(H13.5.8現在)。

4-2 地震に関する調査研究・観測の推進

(1) 地震に関する調査研究の推進体制

a 地震調査研究推進本部

 地震調査研究推進本部(http://www.jishin.go.jp/main/welcome.htm)は,阪神・淡路大震災を契機に成立した地震防災対策特別措置法に基づいて文部科学省に設置され,地震に関する調査研究に関し,総合的かつ基本的な施策の立案,調整等を行っており,本部に政策委員会及び地震調査委員会が設置されている。

 地震調査委員会においては,各地域の地震活動について分析・評価を毎月実施しているほか,被害地震が発生した場合等には臨時に会合を開催し,分析・評価を行っている。また,長期的な観点から地震発生可能性の評価手法の検討及び評価を実施するとともに,活断層に関する活動の評価を順次実施しており,平成12年度には,鈴鹿東縁断層帯,元荒川断層帯,東京湾北縁断層,岐阜-一宮断層帯の評価結果のほか,宮城県沖地震の長期評価結果を公表した。( 表2-4-2 )にこれまでの評価結果の概要を示す。

  (表2-4-2) 地震調査研究推進本部地震調査委員会によるこれまでの長期評価結果の概要

b 地震予知連絡会

 地震予知連絡会(http://cais.gsi.go.jp/YOCHIREN/ccephome.html)は,測地学審議会建議「地震予知の推進に関する計画の実施について」(第2次地震予知計画)に基づき,昭和44年4月に発足した(事務局:国土地理院)。同連絡会は,関係機関等が提供する情報の交換や,これらの情報に基づく地震予知に関する学術的な総合判断を行うため開催されている。

c 科学技術学術審議会測地学分科会

 我が国における地震予知に関する計画的研究は,昭和39年の地震予知計画以来,測地学審議会(現在の文部科学省科学技術学術審議会測地学分科会)が建議する計画に基づき推進されてきた。

 平成10年8月には,第7次計画までの成果を引き継ぎさらに発展させるとともに,新たな考え方の導入を図るため,「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」を建議した。これには平成11年度から15年度までの5年間にわたる計画として,到達度の評価が可能な具体的目標を設定し,それに向かって段階的に計画を推進することとされている。

(2) 地震・地殼活動に関する観測体制等の整備

 地震・地殼活動に関する観測は,防災情報として緊急に情報を発表するために,また地震・地殼活動を詳細に把握,調査研究や活動評価等に資するために,各機関が目的に合わせて整備し,さらに関係機関とのデータ共有化,ネットワーク化等を図っている。

a 地震観測・監視体制

 気象庁(http://www.kishou.go.jp/)では,地震に関する情報や津波予報を迅速に発表するため,全国約180か所に地震計を配置した津波地震早期検知網を整備しているほか,全国約600地点に震度計を設置している。震度観測データについては,震度5弱以上を観測した場合や地上の通信系に障害が起きた場合には静止気象衛星による伝送ルートをバックアップとして運用するなどして,データの収集に万全を期している。

b 震度観測

 震度計は,気象庁が全国に設置しているもののほか,都道府県においても,平成8年度以降消防庁の補助事業等によりおよそ市区町村ごとに約3,800地点,平均して約10kmメッシュに1点震度計を設置しており,高密度な震度観測網が整備されている。

 気象庁では,平成9年10月以降これら地方公共団体の震度データの提供を受け,気象庁が発表する震度情報に含めて発表しており,平成13年4月現在,37都府県2政令指定都市の約2,100地点の震度データが活用されている。

c 地震に関する基盤的調査観測体制の整備

 地震調査研究推進本部は,平成9年6月に「地震に関する基盤的調査観測網等の計画」を決定し,関係省庁はこの計画に基づいて地震観測の体制整備を進めている。

(a)

 高感度地震計による地震観測

 微小な地震動を観測できる高感度地震計は,高密度な観測網とすることにより,地震の震源と発震機構(震源において,地震を引き起こした断層運動の様子)の決定精度を高めるとともに,破壊した断層の把握等に資する。文部科学省は,関係機関と調整しながら,当面水平距離で15〜20kmメッシュで全国に配置されるよう整備を進めており,平成12年度末現在520観測点の観測網が整備されている。

(b)

 広帯域地震計による地震観測

 広い範囲の周波数の地震波を検知する広帯域地震計は,大きな地震時に発生する周期の長い震動も捉えることができ,地震の規模と断層の破壊方向を高い精度で把握できる。文部科学省は,当面水平距離で100kmメッシュで全国に配置されるよう整備を進めており,平成12年度末現在45観測点の観測網が整備されている。

(c)

 強震動観測

 構造物に被害をもたらすような強い震動を観測する強震計による観測網は,地震動の強さ,周期及び継続時間を把握でき,被害の大きな地域を特定し,防災活動を有効に展開するための情報を与える。強震計は文部科学省防災科学技術研究所,国土交通省,気象庁,地方公共団体等により,全国に数千箇所設置されている。

(d)

 地殼変動観測(GPS連続観測)

 GPS連続観測網は,地殼歪みの時間的・空間的変化を広範囲で把握でき,地震発生に至るまでの過程の解明に資するものである。

 国土地理院は,平成5年度から全国の広域地殼変動を監視するため,全国に947点の電子基準点を整備しているほか,東海地域のプレート運動の3次元的な把握のため,当該地域に25の観測点を整備している。また,国土地理院,文部科学省は,活断層の地殼変動を捉える目的で,GPS地殼変動観測施設を全国の主な活断層周辺にそれぞれ19及び41箇所整備している。

d 活断層調査等

 文部科学省は,地震関係基礎調査交付金を交付し,都道府県及び政令指定都市において,全国の主要な98断層帯のうち,平成12年度末現在21断層帯について調査を実施しているところである。また,都市平野部を対象として地下構造調査を実施している。

 経済産業省産業技術総合研究所地質調査所では,今後百年間に地震が発生する可能性をできるだけ正確に見積もることを目的に,平成7年度から10箇年計画で,全国の主要な98断層帯について,必要に応じ他機関との連携の下調査するとともに,活断層及び古地震による地震発生予測の研究を行っている。

 国土地理院においては,平成7年度から,空中写真の判読等による地形学的手法により,都市周辺地域の活断層の位置を詳細に記した1/25,000「都市圏活断層図」を作成しており,平成12年度末までに89面の地図を作成した。

(3) 地震に関する情報の活用

a 気象庁が発表する地震情報

 気象庁の発表する震度の情報は,地震発生直後の防災関係機関における初動対応のきっかけとしての役割を果たし,震度3以上が観測された場合には,地震発生後2分程度でその観測地点を含む地域の名称を「震度速報」として発表している。

 震度計で震度1以上の地震が観測されると,気象庁は地震情報を発表する。地震情報には震源の位置と深さ,震央地名,地震の規模(マグニチュード),各地の震度が含まれる( 図2-4-2 )。

  (図2-4-2) 地震発生直後の震度情報の活用

b 地震発生直後のナウキャスト地震情報(地震発生直後の即時的情報)の実用化調査

 気象庁,消防庁及び国土庁は,平成9〜10年度に地震発生後に地中を伝播する比較的早く到達するP波(縦波:地殼の中では6〜7km/s)と遅れて到達して主要な破壊現象を引き起こすS波(横波:地殼の中では3.5〜4km/s)の時間差を利用して,地震発生のみならず規模や予想される揺れの大きさをS波が到達するよりも早く把握し,地震災害の軽減に活用するための方策や伝達のあり方について検討した。平成11年度に引き続き,気象庁は平成12年度にこの情報の実用化に向けて,情報発信の手法の確立,利用のための課題検討等の調査を行った。

c 地方公共団体,指定公共機関の取組み

 地方公共団体等においても地震に関する観測情報を活用するシステムを導入しており,例えば横浜市においては,地震発生直後に市域内の地震動の状況をきめ細かく把握し,災害応急対策を支援する「高密度強震計ネットワークシステム」の運用を平成8年5月から開始している。その他,地方公共団体の中には,出火危険や延焼危険等の消防活動に必要な被害状況を事前に予測するシステムの開発を行っているところもある。指定公共機関においても,海岸線等に配置した地震計により必要な警報や情報を列車運行システムに発信するシステムの運用を図ったり(JRの早期地震検知警報システム:ユレダス),ガス供給区域内のセンサー等からの情報とあらかじめデータベース化された地盤や導管情報などから被害推定を行い,インターネットのホームページを通じて一般公開する(東京ガスの地震時警報・遮断システム:シグナル)など,様々な取組みがなされている。

(4) 地震被害想定

 大規模地震が発生した際に効果的な対応を図るためには,想定される被害に対して国や地方公共団体などがあらかじめ共通の認識を持って,予防・応急対策に備えることが重要である。

 国土庁(現内閣府)では,関係地方公共団体における地震被害想定の作成を支援するため,「南関東地域直下の地震被害想定手法検討委員会」を開催し,地震被害想定の手法についての調査を行ってきた。その成果は,平成8年4月より運用を開始した「地震被害早期評価システム(EES)」にいかされ,地震直後の被害を推定するための手法として利用されている。この手法を全国の地方公共団体などが利用できるようにするため,平成9年8月に公開した「地震被害想定支援マニュアル」について引き続き検討を重ね,震源の位置や規模から地震動分布,建物被害,死傷者等をパソコン上で自動的に推計することができる「地震被害想定支援ツール」を開発し,平成11年1月にインターネットで公開した(https://www.bousai.go.jp/)。このツールは,地方公共団体の地域防災計画作成のための被害想定にも利用されるなど,有効に活用されているところである。

 また,消防庁においても,パソコンを用いて地震被害想定を行うことができる「簡易型地震被害想定システム」を開発し,都道府県等に配布した。このシステムでは,活断層データ,地震データ等を用いて,木造家屋被害,出火件数,死者数の推計を行うことができる。

 これらのシステムは,平常時においては防災に関する各種計画の見直しや住民の防災意識の啓発等に役立てることが可能であり,地震直後においては,地震被害の規模や被害の大きい地域を推定する際の参考資料として活用することができるものである。

4-3 震災対策の推進

 阪神・淡路大震災においては,昭和55年以前に建築された,いわゆる既存不適格住宅の倒壊等による人的被害が甚大となったことをはじめ,建築物,施設の倒壊により多くの被害が生じたほか,倒壊した建物が道路を遮断し,避難,救急救命,消火,緊急輸送等の活動に著しい支障をきたすことになった。また,老朽木造住宅密集市街地においては,建物の倒壊に加え延焼による大規模な火災が発生し被害が大きくなった。

 このため,防災基本計画において,国及び地方公共団体は,避難路,避難地,延焼遮断帯,防災活動拠点ともなる幹線道路,都市公園,河川,港湾など骨格的な都市基盤施設及び安全な市街地の整備,老朽木造住宅密集市街地の解消等を図るための土地区画整理事業,市街地再開発事業等による市街地の面的な整備,建築物や公共施設の耐震・不燃化,水面・緑地帯の計画的確保,防災に配慮した土地利用への誘導等により,地震に強い国土の形成を図ることとし,これに沿った施策を推進している。

 また,地方公共団体は,地震防災対策特別措置法に基づく地震防災緊急事業五箇年計画等を積極的に作成し,それに基づく事業の推進を図っている。

 このように地震に強い国土を形成するためには,国及び地方公共団体の取組みのみならず,個人住宅をはじめ住民や企業等が所有・管理する建築物の耐震性・安全性の確保や,防災上危険な老朽木造住宅密集市街地の解消など,住民や企業等が主体的かつ積極的に対策に取り組むことが必要であり,国や地方公共団体等においては,その促進のための各種支援を講じているが,今後さらなる取組みが必要である。

(1) 耐震基準の見直しと既存施設の改修

 構造物・施設等の耐震性の確保については,供用期間中に1〜2度程度発生する確率をもつ一般的な地震動(いわゆる「レベル1地震動」)及び発生確率は低いが直下型地震又は海溝型巨大地震に起因するさらに高レベルの地震動(いわゆる「レベル2地震動」)をともに考慮し,前者に対しては機能に重大な支障が生じず,かつ後者に対しても人命に重大な影響を与えないことを基本的な目標とすること等の考え方が防災基本計画に定められている。これに基づいて施設ごとに耐震基準の見直しが行われ,既存施設のうち耐震性の十分でないものについては耐震改修が進められている( 表2-4-3 )。

  (表2-4-3) 主な施設・構造物についての耐震基準と耐震改修の現状

(2) 地震防災緊急事業五箇年計画の推進

 地震による災害から国民の生命,身体及び財産を保護するため,平成7年7月に「地震防災対策特別措置法」が施行された。この法律により都道府県知事は人口,産業の集積等の社会的条件や地勢等の自然的条件等を総合的に勘案して,地震により著しい被害が生じるおそれがある地域について,「地震防災緊急事業五箇年計画」を作成することができることとなり,全都道府県において平成8年度から12年度の計画が策定され,総合的な地震防災対策の推進が図られた( 表2-4-4 )。

  (表2-4-4) 第1次地震防災緊急事業五箇年計画の概要

 「地震防災緊急事業五箇年計画」は,避難地,避難路,消防用施設,地域防災拠点施設等の地震防災上緊急に整備すべき施設等に関する五箇年間の計画で,平成12年度(第1次五箇年計画終了時)までに74%の事業費が全国で執行される見込みである( 表2-4-5 )。

  (表2-4-5) 第1次地震防災緊急事業五箇年計画の推進状況

a 地震防災対策特別措置法の改正

 五箇年計画により実施される事業のうち,特に住民の生命・身体の保護,災害応急対策の充実,被災者の生活の早期安定化に資する事業のうち,補助率が比較的低いものについては,同法に基づいて第一次計画についてのみ財政上の特別措置が設けられていたが,現状の整備状況や対策の重要性から,これらの事業をさらに強力に推進する必要があるために,平成17年度末まで特別措置を継続するよう同法が改正された。

b 第2次五箇年計画の作成

 同法の改正により,全都道府県においては,平成13年度を初年度とする第2次五箇年計画を早急に作成し,さらなる地震防災対策の積極的な推進を図ることとしている。

(3) 都市の不燃化等の推進

 人口の集中する市街地において大規模な火災を防止するためには,建築物の不燃化や防火帯の創設,適切なオープンスペースの確保等による延焼防止対策の推進が必要である。

 阪神・淡路大震災以降,密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律を施行するとともに,都市防災推進事業を創設するなど施策の充実を図っている。

(4) 防災拠点施設の整備の推進

a 広域防災拠点の整備

 大規模災害時において,広域的に連携し,応急対策,復旧・復興活動を迅速・円滑に進めるためには,情報収集や指揮,物資の集配機能等を備えた中核的施設の整備と,緊急輸送ネットワークの形成が必要である。

 内閣府では,立川広域防災基地内に災害対策本部予備施設を有しており,首都直下地震等の発生で首相官邸,内閣府,防衛庁(中央指揮所)が被災により使用不能である場合等の緊急時において,速やかに政府の緊急災害対策本部の設置・運営ができ,約500人に及ぶ参集要員が1週間執務できる体制に整備している。さらに,災害対策本部が設置される場合に直ちに準備を行えるよう,休日を含め24時間体制で要員を配置している。なお,平常時においては,職員の研修・訓練等のほか,展示,情報提供等を通じて防災知識の普及等を図る場として活用している。

 阪神・淡路大震災において,港湾が緊急物資の海上輸送や仮設住宅用地など,市民生活の復興に大きな役割を果たしたことにかんがみ,国土交通省においては,港湾において多目的な利用が可能なオープンスペース等に防災拠点を新たに整備することとしている。また,災害復旧活動の後方支援拠点等となる都市公園の積極的な整備推進を図ることとしているほか,内陸部において河川舟運等を活用した広域避難地,救援活動,資材運搬拠点等のため,道の駅等を活用し,地方公共団体,関係機関等の事業と連携し,総合的に実施することとしている。

b 地域防災拠点の整備

 平成11年度に国土庁(当時)・消防庁で行った調査によると,全国に防災センターは428施設設置されているが,地域的な偏りや各施設間の連携不足等が指摘されているところである。

 国土庁(現内閣府)では,平成8年度に地域防災拠点施設整備モデル事業を創設し,優良な防災拠点施設整備の例を示すことにより,広域的な災害にも対応できる施設の整備を質的量的に推進しているところである。平成12年度までに東京都目黒区など18箇所において施設が完成し,このほか神奈川県横須賀市等において事業を実施しているところである( 表2-4-6 )。

  (表2-4-6) 地域防災拠点施設整備モデル事業実施状況

 なお,昭和53年から平成7年度まで,主に大都市圏において防災基地建設モデル事業を実施し,大阪市など10か所の施設整備を行ってきた。

 今後,地域の中核的な市町村ごとに整備された広域的な防災センターと地域に密着したコミュニティー防災センター等との連携によって,より効果的な防災対策を講ずることができるよう研究していくこととしている。

c 防災まちづくり事業及び緊急防災基盤整備事業による防災施設等の整備

 総務省及び消防庁においては,防災まちづくり事業及び緊急防災基盤整備事業により,地方公共団体の行う防災センター,大型拠点避難施設,コミュニティ防災拠点,ヘリポート,備蓄倉庫,物資搬送拠点施設等の整備の推進を図っている。

(5) 電気・ガス・上下水道・通信網等の機能の確保

 阪神・淡路大震災においては,電気・ガス・上下水道・通信網等の施設が大きな被害を受け,その後の被災者の生活等に大きな影響を与えた。

 そこで,共同収容施設として共同溝等の整備を進めるとともに,代替性を確保するための系統多重化,拠点の分散,代替施設等の整備を図っており,さらに,被害が発生した場合に,これを最小限にするとともに迅速な復旧を可能とする体制の整備,資機材の備蓄を行っている。

(6) 液状化対策

 我が国における大規模地震では,たびたび地盤の液状化が発生しており,平成12年に発生した鳥取県西部地震においても,港湾施設等において大きな液状化の被害が見られた。液状化に対しては,民間・公共の建築物のほか,道路や電気・ガス・上下水道・通信網等について,施設の種類ごとにそれぞれ設計・施工指針の策定などが進められている。

 国土庁では,平成10年度に地方公共団体等が液状化マップを作成するための方法について解説した「液状化地域ゾーニングマニュアル」を作成し,都道府県等に配布することにより,液状化対策を推進しているところである。

(7) 津波対策の推進

 津波は,地域特性によって津波の高さや津波到達時間,被害の形態等が異なるため,地域防災計画等に基づき,地域の特性に応じて,海岸堤防や避難路等の施設整備,津波警報伝達の迅速化による避難の的確な実施等の対策が必要である。

a 津波予報の発表・伝達の迅速化

 地震を観測した場合,気象庁は震源や規模等から津波の有無及びその規模を判定して,津波の発生が予想される場合には津波予報を地震観測後3分程度で発表することとしている。津波予測に際しては,津波の数値シミュレーション技術を利用した予測技術に基づき,府県単位程度の66の予報区( 図2-4-3 )に対して,津波の高さ・到達予想時刻を具体的な数値で発表することとしている。

  (図2-4-3) 津波予報区

 発表された津波予報は,予警報一斉伝達装置やオンラインのほか,緊急防災情報ネットワークや静止気象衛星(ひまわり)を活用して,ただちに地方気象台,測候所等へ伝えられるとともに,受信端末を設置している防災関係機関や報道機関にも提供されている。また,それぞれの機関から住民,船舶などに伝達される( 図2-4-4 )。

  (図2-4-4) 気象業務法に基づく津波予報の法定伝達ルート

 海外で発生した大きな津波が日本沿岸まで伝搬し,大きな被害を及ぼすことがある。日本から遠く離れた太平洋沿岸で発生した大地震に伴う津波に対しては,気象庁は米国海洋大気庁の太平洋津波警報センターと密接な連携を取りながら,我が国沿岸に対する津波の影響を予測し,その情報を発表している。

b 総合的な津波対策の推進

 平成11年の津波対策関係省庁連絡会議(国土庁・内閣官房・警察庁・防衛庁・農林水産省・運輸省・海上保安庁・気象庁・郵政省・建設省・消防庁)において,国民の防災意識を向上させ,津波災害を軽減させるための重要課題として,

[1]

 地域に応じた津波防災対策の推進(津波浸水予測図の活用推進)

[2]

 津波予報伝達の迅速化・確実化の推進

[3]

 被害情報の早期評価・把握と防災機関の連携強化

 を確認し,申し合わせを行った。

 このため,平成10年3月に国土庁,農林水産省,水産庁,運輸省,気象庁,建設省及び消防庁が共同して,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」を取りまとめ,津波対策強化の基本的考え方,津波に対する防災計画の基本方針及びその策定手順等を示した。

 さらに,平成11年度以降の新しい津波予報を効果的に活用し,事前に地域の津波による危険性を把握するためには,津波により浸水すると予測される区域を事前に地図上に表示することが有効であるため,同手引きの別冊として,国土庁,気象庁及び消防庁が共同して,津波浸水予測図( 図2-4-5 )の作成方法等を示す「津波災害予測マニュアル」を平成10年3月に取りまとめた。

  (図2-4-5) 津波浸水予測図の例

 国土庁(内閣府)では,当マニュアルに基づいた「津波防災マップ」の作成・普及を促進するため,津波浸水予測図の提供を行うとともに,気象庁,消防庁及び都道府県と協力して,防災担当者に対して津波対策に関する講習会を開催した。

 また,国土庁(現内閣府)では,平成11年度から運用された新しい津波予報に対応して,個々の海岸における津波浸水域を予測するためのデータベースの整備を行い,地震被害早期評価システム(EES)により個々の海岸における津波被害を早期に把握するための推計システムを開発し,平成11年度から運用している。

c 海岸堤防等の整備

 沿岸地域の住家等を津波から守るための海岸堤防(防潮堤),防潮水門,湾口防波堤等の施設が海岸保全施設整備事業として整備されており,これらを所管する農林水産省,国土交通省により「海岸保全行政事務中央連絡協議会」が設けられ,事業実施等の調整が図られている。

 また,平成9年度より,津波等による壊滅的な被害を防止するため,これら水門等の一元的な遠隔操作や地震・津波高等の情報の収集監視を行う施設やシステムの整備を行っている。

4-4 東海地震対策の実施状況

(1) 東海地震発生の可能性と予知

a 発生の可能性

(a)

 発生のメカニズム

 日本列島の太平洋側沖合では,陸側のプレートの下に海側の太平洋プレート及びフィリピン海プレートがもぐり込んでおり,その境界に当たる日本海溝,南海トラフ等の地域では,プレートのもぐり込みに伴って地殼の歪が蓄積され,これが急激に解放される際に海溝型の大地震が発生する。

 駿河トラフ沿いについてみると,1854年に南海トラフ沿いに発生した安政東海地震の際,駿河トラフ沿いの破壊も同時に起こったと考えられているが,1944年の東南海地震では未破壊のままとり残されており,安政東海地震以来既に140年以上経過していることや,駿河湾周辺の明治以降の地殼歪の蓄積状況を考え合せると,駿河トラフ沿いに大規模な地震が発生する可能性が高いと考えられる。この予想される地震が「東海地震」である。

 なお,平成13年1月26日に開催された中央防災会議で,過去23年間における観測体制の高密度化・高精度化や観測データの蓄積,新たな学術的見地等を踏まえて,東海地震対策の強化について検討するよう会長(内閣総理大臣)から指示されたことを踏まえ,「東海地震に関する専門調査会」を設置した。第1回の専門調査会が同年3月14日に開催され,東海地震対策に関する今後の方針等について検討された。

(b)

 発生の可能性

 東海地震については,予知体制の整備が図られている。

 現在までの観測結果によると,長期的前兆の重要な指標となると考えられる駿河湾西岸の沈降速度の変化に関しては,内陸部を基準とした御前崎の沈降が近年も依然として続いており,東海地震発生の可能性の高さを引き続き裏付けたものとなっている。

b 東海地震の予知

 気象庁では,東海地震の直前予知に有効と考えられる観測データを,地震活動等総合監視システム(EPOS)によりリアルタイムで処理し,総合的に監視を行っている( 図2-4-6 )。

  (図2-4-6) 東海地域等における地震常時監視網(2001年4月現在)

 観測データに異常が認められ,大規模な地震が発生するおそれがあると認めるときは,気象庁長官は,気象業務法の規定により,地震予知情報を内閣総理大臣に報告することになっている。また,その異常な観測データが東海地震の前兆であるかどうかを判定するために,昭和54年8月から気象庁長官の私的諮問機関として地震防災対策強化地域判定会(以下,「判定会」という。)が開催されることとなっている。

 判定会は,地殼変動の観測データにある基準以上の異常な変化が現われたとき,気象庁長官からの要請等に基づいて招集されることになっている。また,平常時の地震活動及び地殼変動等を把握しておくことが重要であることから,判定会委員打合会を定期的に開催し,観測データ等の検討を行っている。

 なお,気象庁では,判定会招集には至らないが,東海地域の監視を通じて地震活動や観測データにあるレベル以上の変化を観測した場合に,その原因等の評価を行い,結果を発表することとしているが,その際,発生した現象の状況に応じて,「解説情報」(東海地震の前兆現象とは直接関係ないと判断した現象及び長期的な視点等から評価・解析した地震・地殼活動等に関する解説)と「観測情報」(判定会招集には至っていないが,観測データの推移を見守らなければその原因等の評価が行えない現象が発生した場合の情報であり,原因等の評価が行えるまで継続して発表する。)に区分することとしている。

 なお,これまで観測情報が発表されたことはないが,解説情報は平成13年3月までに2回発表されている。

(2) 大規模地震対策特別措置法の実施状況

a 法律の目的

 昭和53年6月に成立した(同年12月施行)大規模地震対策特別措置法(以下「大震法」という。)では,地震防災対策強化地域(大規模な地震によって著しい被害を受けるおそれがあり,地震防災対策を強化する必要がある地域。以下「強化地域」という。)の指定を行ったうえで,同地域に係る地震観測体制の強化を図るとともに,大規模な地震の予知情報が出された場合の地震防災体制を整備しておき,地震による被害の軽減を図ることを目的としている( 図2-4-7 )。

  (図2-4-7) 大規模地震対策特別措置法による主な措置

b 地震防災対策強化地域における防災対策

(a)

 地震防災対策強化地域の指定

 東海地震発生の事前予知が可能であることを前提として,大震法第3条の規定に基づき,現在,神奈川県,山梨県,長野県,岐阜県,静岡県及び愛知県の6県167市町村の区域が地震防災対策強化地域として指定されている( 図2-4-8 )。

  (図2-4-8) 地震防災対策強化地域(6県167市町村)

 東海地震が発生した場合,強化地域では震度6弱以上の地震動を受け,伊豆半島南部から駿河湾内部に大津波が発生するおそれがあると考えられている。

(b)

 警戒宣言等の伝達

 強化地域の観測データに異常が発見され,気象庁長官が大規模な地震が発生するおそれがあると認めるときは,気象業務法の規定により地震予知情報を内閣総理大臣に報告し,内閣総理大臣は,地震防災応急対策を実施する緊急の必要があると認めるときは,閣議にかけて,警戒宣言を発することになっている( 図2-4-9 )。

  (図2-4-9) 東海地震の警戒宣言まで

(c)

 地震防災計画の作成

 強化地域の指定が行われると,地震予知がなされた場合に備えて,事前に地震災害及び二次災害の発生を防止し,災害の拡大を防ぐための具体的な行動計画(地震防災計画)として,国においては地震防災基本計画を,地方公共団体や指定公共機関においては地震防災強化計画を,民間事業所においては地震防災応急計画をそれぞれ作成している。

(d)

 地震防災基本計画の修正

 平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災の教訓等を踏まえ,平成11年7月に地震防災基本計画を修正した。これにより,警戒宣言時の迅速かつ的確な初動対応や東海地震に係る情報を活用した準備的対応などを実施し,また,災害弱者に配慮するなど避難対策等を充実することとされた。

 また,今回の修正を踏まえ,地方公共団体においては,地域ごとの実情に応じた車両避難の適否の検討や屋内避難のための対応等の具体化を進めている。

c 地震対策緊急整備事業の推進

 昭和55年5月に制定された「地震防災対策強化地域における地震対策緊急整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(地震財特法)では,関係地方公共団体等が実施する地震対策緊急整備事業(地震防災強化計画に基づく地震防災上緊急に整備すべき施設等の整備事業)の一部について国の財政上の特別措置が講じられることとなっている。

 同法では,強化地域の指定があったときは,関係都道府県知事は関係市町村長の意見を聴いたうえで,避難地,避難路,消防用施設等の17施設等の整備に関する地震対策緊急整備事業計画を作成し,内閣総理大臣の同意を受けることとなっている。このうち消防用施設の整備,木造の社会福祉施設の改築,公立の小・中学校の危険校舎の改築・非木造校舎の補強については国庫補助率等の嵩上げが行われている。

 地震対策緊急整備事業計画については,平成12年3月に地震財特法の有効期限が平成17年3月31日まで5年間延長されたことに伴い,平成13年3月に計画の変更がなされた(計画総事業費約1兆3,361億円)。

d 地震防災訓練の実施

 防災週間の主たる行事として,9月1日の「防災の日」を中心に,東海地震を想定し,大震法及び同法に基づく地震防災基本計画に規定する一連の手続,措置等を重点とした総合防災訓練が実施されている。

4-5 大都市震災対策の推進

(1) 大都市震災対策の必要性

 我が国の大都市地域は,地震による揺れが大きい沖積平野に人口や諸機能が集積しているため,その直下又は周辺で大規模な地震が発生した場合には,極めて大きな被害が発生しやすい状況にある。

 このため,大都市における大規模震災の特有の課題に対応した震災対策を推進し,特に,我が国の大都市直下を襲った戦後初めての大規模震災である阪神・淡路大震災の様々な教訓を活かしていく必要がある。

(2) 大都市震災対策専門委員会提言

 大都市地域において震災対策を推進するにあたっては,発生した際の被害の甚大性・広範性を踏まえ,複数の関係機関が高度な連携をとった実践的・実効的対策を講ずることが重要である。このため,平成10年1月に中央防災会議に学識経験者で構成される「大都市震災対策専門委員会」を開催,同年6月に大都市における震災対策についての政府全体の取組みの前提となる基本的な考え方や検討の方向を示した提言が取りまとめられた。これを受けて,「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」等についても見直しが行われた(詳細は 本章4-6 参照)。

 なお,平成13年1月26日に開催された中央防災会議で,これまで行われてきた震災対策について再点検を行い,地方公共団体や関係機関等との連携を一層密にして実効性のある広域的防災体制を確立するよう,会長(内閣総理大臣)より指示を受けた。この再点検の結果を踏まえ,今後必要に応じて防災施設整備等の一層の促進を図るとともに,広域連携をさらに強化するよう対策を講じていくこととしている。

(3) 阪神・淡路地域の防災関係情報の活用

 内閣府では,阪神・淡路大震災に関して作成された行政機関及び学会の調査報告書,マスコミ情報等を収集した結果や,行政機関の担当者,現場対策の当事者からのヒアリング結果を体系的に整理・分析し,今後の防災対策の検討に活用するため「阪神・淡路地域の防災関係情報の分析・活用事業」に取り組んでいる。その成果である「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」は,インターネットを活用して幅広く情報発信を行っているほか,本教訓情報資料集の英訳作業にも取り組んでおり,海外へも阪神・淡路大震災より得られた貴重な教訓情報を発信することとしている。

4-6 南関東地域の地震対策

(1) 南関東地域直下の地震の切迫性

 昭和63年6月,中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会で,1923年の関東大地震タイプの海溝型巨大地震が相模トラフ沿いで発生する可能性は100年か200年先とされる一方で,南関東地域直下における地震の発生についてはある程度の切迫性を有していることを報告している。さらに,平成4年8月の同専門委員会報告においては,特に重点的に地震防災対策を講じる必要のある震度6相当以上になる可能性のある地域の範囲( 図2-4-10 )は1都6県にわたることが明らかにされている。

  (図2-4-10) 南関東直下の地震により著しい被害を生じるおそれのある震度VI相当以上になると推定される地域の範囲(大網の対象地域)

 また,この2つの報告により,直下の地震は,現状ではその予知は非常に難しいこと,想定される震源域を一つに特定することができないことなどの特徴を有していることが明らかにされている( 表2-4-7 )。

  (表2-4-7) 南関東地域における地震発生の切迫性について

(2) これまでの取組みの経緯

 南関東地域においては,地震の規模や震源地によっては,震災時に多数の人命,財産の損失を招く危険が大きく,さらに,都市機能の阻害等による二次的な影響が国民生活や経済の混乱となって被災地域を越えて著しく広域に波及するおそれがあるなど,都市型の地震災害が発生・拡大するおそれがある。

 このため,南関東地域における地震対策としては,防災基本計画(震災対策編)や防災業務計画,地域防災計画(震災対策編)等に基づき各般の対策を講じているほか,中央防災会議において,国,関係地方公共団体,関係指定行政機関等が一体となって緊密な連携のもとに講じるべき対策を決定し,その具体化及び推進を図っており,応急対策については,昭和63年12月に「南関東地域震災応急対策活動要領」を,応急対策以外の施策も含む広範な震災対策について,平成4年8月に「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」をそれぞれ決定した。

(3) 「南関東地域震災応急対策活動要領」及び「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」の改訂

 阪神・淡路大震災の教訓とその後の新たな施策の進展や,大都市震災対策専門委員会提言で指摘された関係機関の実践的連携の一層の推進を図るため,平成10年6月に「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」及び「南関東地域震災応急対策活動要領」の改訂を行った( 図2-4-11 )。

  (図2-4-11) 南関東地域の地震対策の体系

 この改訂においては,情報の共有化について内容を充実するとともに,密集市街地や地下街対策,行政・経済機能の被災対策,帰宅困難者対策など,南関東地域特有の課題に対する対策のほか,二次災害の防止,自発的支援の受入れなど新たな分野が追加された。また,関係機関が多岐にわたる応急対策活動について,平常時から実践的な備え(アクションプラン)を講じておくことが位置付けられた。

 なお,本年1月の中央防災会議における,これまでの対策の再点検及び広域体制の確立を行う旨の会長(内閣総理大臣)指示に基づき,今後他の大都市圏も含め一層の地震対策の強化を図ることとしている。

(4) アクションプランの作成

 応急対策の具体化を推進するために,大規模震災時の医療と搬送について検討を行い,平成10年8月に中央防災会議主事会議において,「南関東地域の大規模震災時における広域医療搬送活動アクションプラン第1次申し合わせ」を行った。

 また,広域輸送活動,帰宅困難者対策についても,アクションプランの策定に向けた検討を進めている。

4-7 地震防災情報システムの整備

(1) システムの概要

 阪神・淡路大震災に際しては,発災時における応急対策活動を円滑に行うための課題として,特に被災地の状況を迅速に把握するとともに,事前対策,応急対策及び復旧・復興対策の各段階における情報を統合化し,総合的な意思決定を行うことの重要性が改めて指摘された。

 内閣府(旧国土庁)ではこうした経験にかんがみ,地形,地盤状況,人口,建築物,防災施設などの情報をコンピュータ上の数値地図と関連づけて管理する,地理情報システム(GIS)を活用した「地震防災情報システム(DIS:Disaster Information Systems)」の整備を進めている( 図2-4-12 )。

  (図2-4-12) 地震防災情報システム(DIS)の概要

 DISは,地盤・地形,道路,行政機関,防災施設などに関する情報を必要に応じあらかじめデータベースとして登録し,この防災情報データベースを基礎として,震災対策に求められる各種の分析や発災後の被害情報の管理を行うものである。DISにあらかじめ登録する防災情報の例としては,次に掲げるようなものがある。

 基本地図 1/25,000地形図,1/2,500詳細地図

 自然条件 地質,活断層

 社会条件 人口・世帯数,高層建築物,地下街

 公共土木施設 道路,鉄道・駅,港湾,空港,ヘリポート

 防災施設 行政機関,病院,避難施設,備蓄施設

 また,防災情報データベースをもとに,GISの機能を活用することにより,事前対策,応急対策,復旧・復興の各段階に応じて,[1]地震発生時の被害の想定の実施や被害想定に基づいた地震に強いまちづくり計画の作成等の支援,[2]地震発生後に送られてくる震度情報に基づく被害推計による被害規模のおおまかな把握や被災地の被害情報に基づいた緊急輸送,救助・医療,避難,ライフライン,ボランティアなどの各種応急対策計画の策定の支援,[3]公共施設や輸送機関などの復旧・復興に有用な情報の提供や復旧・復興計画の進捗状況の適切な管理等が可能となり,情報の統合的な活用による各種震災対策の充実が可能となる。

(2) 地震被害早期評価システム

a システムの概要

 DISを構成するシステムのうち,地震発生直後に被害のおおまかな規模を把握するための「地震被害早期評価システム(EES:Early Estimation System)」については,平成8年4月から稼動している( 図2-4-13 )。

  (図2-4-13) 地震被害早期評価システム(EES)

 このシステムは,地震災害の規模が大きいほど緊急の対応が必要となるにもかかわらず,地震発生直後にはその判断に必要な情報が極めて限られたものとなることに対応して,地震による被害規模の概要を地震発生から概ね30分以内に推計し,国の迅速かつ的確な初動対応のための判断に活用するものである。

 具体的には,地震発生直後に気象庁から送られてくる震度情報と,あらかじめ全国の各市区町村ごとに整備された地盤,建築物(築年・構造別),人口(時間帯別)等のデータベースに基づいて,震度4以上の地震が発生した直後に建築物倒壊棟数と建築物の倒壊に伴う人的被害の状況の概要を推計するものである。

 また,平成11年度から気象庁が津波の高さを数値化した新しい津波予報を発表したことに対応して,個々の海岸における津波浸水域を予測するシステムを整備し,運用している。

b 地震被害に関する検討委員会

 震度6弱を観測した新島・神津島近海地震や,震度6強を観測した鳥取県西部地震では,観測された震度やEESの被害推計に比べて実際の被害は小さく,特に阪神・淡路大震災後初めて震度6強を観測した鳥取県西部地震においては,EESの被害推計の建物倒壊約8,000戸,死者約200人に対し,実際の被害は全壊戸数約400戸,死者0人と大きな誤差が生じた。被害が小さいことは幸いであったが,これらの情報が政府の非常参集や応急対策等の防災行政上の判断等に活用されていることを踏まえ,地震挙動と被害との関係について再度検証し,必要な見直し等を行うこととし,学識経験者や防災行政関係者で構成される地震被害に関する検討委員会を開催し,検討を行った。

(3) 応急対策支援システム

 DISを構成するシステムとしては,先述のEESのほかGISを活用して各種応急対策活動を支援する「応急対策支援システム(EMS:Emergency Measures Support System)」の整備を行っている。このシステムは,あらかじめ整備しておく防災関連施設等のデータベースと,実際の被害情報や応急対策の状況等について関係省庁から提供される情報を集約・整理し,関係省庁間で共有することにより,各種応急対策活動を支援するものである。このうち,広域医療搬送活動については,「南関東地域の大規模震災時における広域医療搬送活動アクションプラン」に対応した機能の整備を行い,平成11年度から稼動している。

(4) 地図・防災情報データベースの整備

 平成7年度からこれまで,DISの基礎となる数値地図や防災情報のデータベースとして,1/25,000の数値地図を全国的に整備するとともに,各種都市機能が集中し,かつ,直下の地震の発生がある程度の切迫性を有していると指摘されている南関東地域については,1/2,500の数値地図を整備しており,引き続き全国にわたる詳細な防災情報の整備を進めている。

(5) ネットワーク化の推進

 防災情報の共有化等を図るため,関係省庁にDISの端末を設置するなどネットワーク化を推進しており,平成13年3月現在,総理官邸をはじめとする関係7省庁とネットワークを構築している。

5 風水害対策

5-1 近年の風水害の特徴

(1) 豪雨,台風等の状況

 我が国では,毎年,6月下旬から7月中旬にかけての梅雨前線の活動や台風の接近・上陸等により,各地で豪雨が毎年発生している。

 昭和41年〜平成12年の35年間で我が国に影響のあった台風についてみると,年間平均27.1個の台風が発生し,うち2.7個が北海道・本州・四国・九州のいずれかに上陸している( 図2-5-1 )。

  (図2-5-1) 台風の本土への接近数(上陸数を含む)の推移

 平成12年は,発生数23個と平均を下回り,また上陸数は昭和61年以来14年ぶりに0個であったものの( 表2-5-1 ),9月に相次いで接近した台風の影響を受けて前線の活動が活発化し,名古屋地方気象台で観測した最大日降水量がこれまでの記録を上回った。東海地方を中心に記録的な豪雨を記録することとなり,堤防の決壊や堤防を越えてあふれる溢水などによる大きな被害をもたらした。

  (表2-5-1) 1951(昭和26年)以降の台風に関する記録

(2) 水害の状況

 我が国における,治山・治水事業の推進等により,水害による浸水面積(水害面積)は,昭和55年〜59年の平均が114,909haであるのに対し,平成7年〜11年の平均は32,008haと大幅に減少している( 図2-5-2 )。しかしながら,河川氾濫区域内への資産の集中・増大に伴って,近年,浸水面積当たりの一般資産被害額(水害密度)は急増している( 図2-5-3 )。昨年の東海地方を中心とした豪雨では,名古屋市など都市部を中心として1,300ha余が浸水し,家屋や鉄道・道路などのライフラインなどに大きな被害をもたらした。

  (図2-5-2) 水害面積の推移(年平均)

  (図2-5-3) 水害被害額及び水害密度の推移

 原因別に見ると,河川流域内の開発の進展による流域の保水・遊水機能の低下に伴い,洪水や土砂流出が増大するとともに,河川氾濫区域への都市化の進展により被害対象が増加している。一方,都市河川,中小河川や下水道(雨水対策施設)等の整備水準は未だ低いこともあり,全体の水害被害額(一般資産等被害額)に占める内水の割合が大きい。

 特に三大都市圏では,内水による被害が全体の50%を越える年が昭和55年〜平成11年の20年間で18年に及んでいる。

(3) 土砂災害の状況

 地すべり,土石流,がけ崩れといった土砂災害は,その原因となる土砂の移動が強大なエネルギーを持つとともに,突発的に発生することから,人的被害につながりやすく,また,家屋等にも壊滅的な被害を与える場合が多い。

 自然災害による犠牲者のうち,土砂災害による犠牲者の占める割合は,昭和59年に約80%に達したのをはじめとし,概ね50%前後の割合で推移しており,非常に大きな割合を占めている( 図2-5-4 )。近年の状況は( 表2-5-2 )の通りである。平成12年には,東海豪雨災害による土砂災害で3人の死者・行方不明者が発生している。

  (図2-5-4) 自然災害による死者・行方不明者の原因別状況の割合

  (表2-5-2) 近年の主な土砂災害による死者・行方不明者の状況

 一般に土砂災害は,土砂移動の発生形態により,大きく地すべり,土石流,がけ崩れに分類される。火砕流を除外すると昭和56年〜平成12年の20年間の平均で毎年約890件の土砂災害が発生している( 図2-5-5 )。

  (図2-5-5) 土砂災害の発生状況の推移(昭和55年〜平成12年)

 発生件数の内訳は,がけ崩れが全体の67%を占め,死者・行方不明者もがけ崩れによるものが最も多い。一方で地すべり・土石流は,がけ崩れに比べ発生件数は少ないが,阪神・淡路大震災に伴う西宮市での地すべり(34名),蒲原沢土石流災害(14名),出水市の土石流災害(21名)など1件の発生に対して多数の死者・行方不明者が発生する場合がある。

(4) 風害の状況

 風害は,飛来物による被害,建物・施設の損壊,高波,樹木の倒壊,フェーン現象による火災延焼などの形態がある。

 平成11年には,9月24日に愛知県の豊橋市,豊川市内を襲った龍巻により,負傷者365名が発生し,また,10月28日には青森県で,強風により入れ替え作業中の列車が横転するなどの被害も発生している。

5-2 風水害対策の概要

 風水害による被害を未然に防止し,又は被害を軽減するために,次の通り,各種の対策が進められている。

(1) 気象観測の充実と予警報等の発表

 風水害の発生を未然に防止し,被害を軽減するため,各種気象観測施設等多種多様な観測手段により,気象観測を実施している。

 これらの観測データ及び解析結果をもとに,大雨や強風によって災害の起こる恐れのある場合には注意報を,さらに重大な災害が起こるおそれがある場合には警報を発表する。注意報・警報は,地域の実情にあわせて発表する必要があるため,全国を約200の地域に細分し,それぞれの地域ごとに発表されている。

 また,土壤雨量指数(土砂災害の発生を左右する土壤の水分量を予測する指標)を活用し,警報が発表されているような状況下で,「過去数年で最も土砂災害の発生の危険性が高い」などのわかりやすい表現を用いて一層の警戒を呼びかけている。

(2) 治山・治水対策の推進

 洪水被害の防止や土石流,地すべり,がけ崩れ等の土砂災害の防止など,安全な国土基盤を形成するために,平成9年度を初年度とする治山事業七箇年計画,治水事業七箇年計画,急傾斜地崩壊対策事業五箇年計画が策定され,これに基づいて,治山・治水対策が計画的に推進されてきている。

(3) 海岸保全施設の計画的整備

 高潮,風浪等による災害や海岸侵食を防止するため,平成8年度を初年度とする第6次海岸事業七箇年計画に基づき海岸保全施設及び海岸環境の整備を計画的に推進している。

(4) 土砂災害対策の推進

a 土砂災害対策の概要

 我が国は土砂災害の起こりやすい国土条件の下にあり,毎年,犠牲者を伴った土砂災害が発生している。このため,国においては,昭和63年3月,中央防災会議において「土砂災害対策推進要綱」を決定し,総合的,効率的な土砂災害対策を,関係省庁,地方自治体が一体となって推進している。

 また,平成5年8月豪雨災害等の教訓を踏まえ,平成6年4月,土砂災害対策推進連絡会議において,特に重点的に推進すべき事項について申し合わせを行い,ハード面の施策と併せソフト面の施策についても重点的に推進することとした。

 さらに,平成11年6月末から7月初めにかけて,広島県を中心に土砂災害により大きな被害が発生したことにかんがみ,中央防災会議局員会議において,[1]豪雨災害を軽減するための土地利用のあり方,[2]土砂災害等に対する地域の防災性向上,[3]効果的な事前周知方法,[4]情報収集伝達体制の強化について検討を行った。平成12年4月には中央防災会議において「豪雨災害対策のための情報提供の推進について」をとりまとめ,[1]気象情報等の収集体制の強化,[2]連絡手段の確保と情報の整理,[3]住民等との連携の強化,[4]早期避難実現のための措置の推進に係る提言をとりまとめた。

b 国土保全事業の推進

 土砂災害の危険箇所は,その数が膨大であることに加え土地利用の変化に伴って増加する傾向にあることから,各種の国土保全事業により整備に努めているものの,整備等の状況は低い水準にとどまっている( 表2-5-3 )。

  (表2-5-3) 土砂災害危険箇所の整備状況

c 土砂災害防止に配慮した安全な土地利用の誘導

 土砂災害危険箇所については,各種の法律により区域指定が行われ,崩壊等防止工事の他,土砂災害のおそれのある区域における各種行為の規制や宅地の改良,危険住宅の移転等の措置がとられているが,これらの区域指定は,私権の制限を伴うことなどから,必ずしも十分には進んでいない状況にある。

 このため,区域指定をさらに進めるとともに,土地利用計画の作成や土地利用規制等に関する制度の運用などにおける土砂災害への配慮の徹底,民間事業者に対する指導の徹底等により,土砂災害に対して安全な土地利用への誘導を図っていくことが重要である。

 土地利用規制に関し,河川審議会は,平成12年2月,土砂災害のおそれのある区域について,新規立地抑制や既存住宅の移転促進等を図る必要があるとした答申を行っている。また,これを受けて,「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」が平成13年4月より施行された。

d 住民に対する危険箇所の周知

 住民への土砂災害危険箇所の周知を図るため,地域防災計画へ明示( 表2-5-4 )するとともに,土砂災害の危険区域,避難地,避難路等の位置を表示した土砂災害危険区域図(ハザードマップ),防災アセスメントの結果や避難地等の情報を地図に整理した地区別防災カルテの作成・公表,ダイレクトメールの送付,掲示板,広報紙等を活用した住民への周知を進めている。

  (表2-5-4) 市町村における土砂災害危険箇所等の周知状況

e 観測・予報・警報体制の整備

 土砂災害による被害を未然に防止するためには,土砂災害の危険性を早期に把握し,予報・警報の発表や住民への避難指示等を迅速,的確に行うなど,今後さらに必要な情報の充実,活用を図っていく必要がある。

 土砂災害危険箇所を有する地方公共団体においては,地域の特性を考慮した警戒・避難を行うための基準の設定などに努めることが求められる。

f 情報収集・伝達体制の整備

 国,都道府県,市町村においては,関係機関相互の情報伝達のため,防災行政無線等の整備やオンラインによる情報交換等が進められている。

 また,防災モニター制度など,専門家のみならず一般市民等からも災害情報を収集するための体制整備や,平常時から災害時を通じて土砂災害関連情報を住民と行政機関が相互通報するシステムの整備なども行われている。

 さらに,郵便局と自治体との間で協定を結び,地域住民や地域を巡回している郵便職員等が異常現象等を通報する体制を整備するなどの取り組みも実施されている。

 一方,緊急時における住民等への情報伝達に関しては同報系無線の整備などが行われているが,屋外拡声装置のみでは聞き取りにくい地域については,戸別受信機の設置等できるだけ戸別に情報を伝達する体制を確保するとともに,マスコミ等とも連携した多様な手段による情報提供がなされることが期待される。

(5) 都市型水害対策に関する緊急提言

 平成12年9月の名古屋市及びその周辺地域は記録的な集中豪雨(以下,「東海豪雨」という)に見舞われ,広域な市街地の浸水,地下鉄等の地下空間の浸水,停電,電話等の通信不調等ライフラインの機能低下,鉄道の不通,道路交通規制等交通機能の混乱により,都市機能が麻痺する甚大な被害が生じた。東海豪雨は河川,下水道整備の進捗,都市化の進展等に伴い水害に対する危機意識が薄らいでいる中で,その脅威を改めて認識させるものであった。

 これに対し,建設省(当時)においては,9月21日に「都市型水害緊急検討委員会」を発足させ,今回の水害で改めて明らかになったことを点検,検証した。同委員会では,11月9日に[1]水災対策の基礎調査,影響予測,[2]水災危機管理,被害軽減,[3]水災時の情報提供等,[4]河川,下水道等の整備,[5]治水システムの新たな展開,ステップアップを柱とする「都市型水害対策に関する緊急提言」をとりまとめた。

(6) 高潮災害対策

 我が国では,海岸保全施設の整備や気象情報の精度の向上等に積極的に取り組んできた結果,高潮による被害は減少する傾向にあり,近年においては大きな被害は発生していなかった( 表2-5-5 )。

  (表2-5-5) 昭和以降の主な高潮災害

 しかしながら,平成11年9月24日,熊本県不知火町松合地区で台風第18号による高潮で12名の死者が発生するという事態が生じた。

 これに対し,農林水産省,運輸省,建設省(当時)においては,被災地となった松合地区と類似する地形条件をもつ海岸等について緊急点検を実施した。また,国土庁(当時),農林水産省,水産庁,運輸省(当時),気象庁,建設省(当時),消防庁の高潮に関係する各省庁が連携し,平成11年10月に「高潮災害対策の強化に関する連絡会議」を,平成12年2月に「高潮防災情報等のあり方研究会」を開催し,高潮災害対策については従来のハード面の整備の一層の推進と併せてソフト面の対策の強化を推進することが重要であるとして,高潮広報パンフレットや「地域防災計画における高潮対策の強化マニュアル」等を作成・配布した。

5-3 地方自治体における風水害対策の推進状況について

 国土庁(現内閣府)は,平成12年12月,今後の風水害対策の推進を講じていく上での基礎的資料とすることを目的として,全国の市区町村における豪雨時の洪水・土砂災害等に対する予防対策の実態に関するアンケート調査を実施した(対象市区町村数:3,252,実施方法:郵送配布郵送回収,回収率:70.5%)。

(1) 市区町村の被災経験

 ( 図2-5-6 )は,過去20年間で洪水・土砂災害に伴う避難者(住民の自主避難も含む)が発生している市区町村を表している。全国の市区町村の内,約6割で避難者が発生していることがわかる。このことから,風水害に対する防災対策は全国的に重要な課題であることが分かる。

  (図2-5-6) 過去20年間の洪水・土砂災害に伴う避難者の発生状況

(2) 市区町村におけるハザードマップ作成状況

 住民はそれぞれの居住地域において,災害の危険個所・地域をあらかじめ十分把握しておくことが重要であり,そのために,地域の地図に災害の危険個所や避難場所・避難ルートを表したハザードマップが利用される。ハザードマップを利用し,迅速に避難を行った例も数多くある。( 図2-5-7 )はハザードマップの作成状況,( 図2-5-8 )はハザードマップの配布状況を表している。ハザードマップの作成済みの市区町村は,洪水・冠水で2割弱,土砂災害で3割弱,さらにハザードマップ配布済みの市区町村は,洪水・冠水で1割強,土砂災害で2割弱である。地方自治体では,予算制約や住民に混乱を与えないため等として,ハザードマップを配布していないところが多く,全国の6割の市区町村が被災していることからすると,住民への危険個所の事前周知が不十分であることが言える。

  (図2-5-7) 危険箇所を示したハザードマップ作成状況

  (図2-5-8) ハザードマップ配布状況

(3) 警戒避難に関する客観的基準

 一昨年7月の広島における土砂災害の教訓から,行政の住民に対する避難勧告の出し遅れを防ぐために,警戒避難を行うかどうかを判断する客観的基準(時間雨量などの数値的基準)の設定を進めるよう中央防災会議の提言の中で求めている( 第2章5-2 参照)。

 ( 図2-5-9 )は,避難勧告の定量的な発令基準の有無を表している。洪水・冠水に関しては約3割,土砂災害では約2割5分の市区町村で設定されている。避難勧告に関する客観的基準に関しても,ハザードマップと同様に導入が不十分であることが分かる。

  (図2-5-9) 避難勧告の定量的な発令基準の有無

(4) 避難所の安全確認状況

 昨年9月の東海地方の豪雨災害では,避難所として使用される地域のコミュニティセンターなどが浸水し,避難所としての機能を十分に果たさなかった。

 ( 図2-5-10 )では避難所の安全性の確認状況を表している。洪水・冠水,土砂災害ともに6割弱程度の市区町村でしか避難所の安全確認が行われていない。

  (図2-5-10) 避難場所の安全性の確認

 以上のように,ハザードマップの整備,時間雨量などの客観的な避難勧告基準の設定,さらに避難所の安全性確認などソフト面における風水害対策が進んでいない現状を伺うことができる。河川堤防,砂防えん堤などの国土保全施設の整備が財政的な理由や用地買収の困難性などの理由により,その整備がなかなか進まない現状において,住民の生命・財産を守るためにはソフト面での災害対策を推進することが重要である。今後,危険箇所の周知徹底や避難誘導体制の整備等の対策が望まれるところである。

6 火山災害対策

6-1 火山活動と火山災害

 我が国は環太平洋火山帯の一部に位置しているため,多数の火山を有している。いわゆる活火山とは「過去およそ2,000年以内に噴火した火山,又は噴気活動が活発な火山」を言い,日本では86火山にのぼる。活火山の活動による災害要因としては,噴火現象による直接の噴出物(溶岩,火山ガス,火山砕屑物等)によるものから,噴火に伴う現象(火山泥流,山体崩壊,津波等)によるもの,さらに火山性地震,火山性地殼変動と非常に多岐にわたっていることが特徴であるが,代表的な災害要因とその事例( 表2-6-1 )は次のとおりである。

  (表2-6-1) 我が国の火山災害事例

(1) 溶岩流

 火口より噴出した溶岩が地形に沿って流下する現象で,通過域には,破壊・焼失・埋没等の被害を与える。流下速度は,溶岩の性質によって大きく異なり,非常に遅い(時速1km以下)ものから,速いもので時速数十kmになる。

(2) 火砕流

 高温の火山砕屑物(火山灰,軽石等)が,ガスと一体となり高速で流下する現象で,その運動エネルギー及び熱エネルギーにより,通過域に壊滅的な被害を与える。流下速度は時速100kmを超える場合もあり,発生後に避難することは困難である。

(3) 火山泥流

 噴火による火口湖の決壊や融雪等により発生した泥水が岩石や木を巻き込みながら流下する現象で,地形にもよるが,時速30km〜60kmで破壊力が大きい。我が国では冬期冠雪する活火山が北海道を中心に多く,噴火による融雪が泥流発生の引き金として懸念される。

(4) 降下火砕物

 火山灰や噴石等の降下による被害は,多くの火山に共通した災害の一つである。人的被害に結びつくことはまれであるが,火山活動が長期化すると周辺住民の生活に多大な影響を与える。

(5) 火山ガス

 火山の活動に伴い火口や噴気口から大気中に放出される火山ガスの大半は水蒸気であるが,その他に硫化水素,亜硫酸ガス,塩化水素等のような有毒なものを含むことがある。

6-2 火山災害対策の概要

(1) 火山観測研究体制の整備等

a 火山噴火予知計画

 我が国における総合的な火山観測研究体制の整備は,昭和49年からの第1次火山噴火予知計画(昭和48年文部省測地学審議会(現在の文部科学省科学技術会議測地学分科会)建議)以来,数次にわたる計画に基づき進められており,第3次噴火予知計画以降,全国の火山を「活動的で特に重点的に観測研究を行うべき火山」,「活動的火山及び潜在的爆発活力を有する火山」( 図2-6-1 )に分類している。

  (図2-6-1) 第6次火山噴火予知計画による対象火山の分類

 平成10年8月には,平成11年度から15年度までの5年間にわたる計画として「第6次噴火予知計画」を関係大臣に建議した。

b 火山噴火予知連絡会

 火山噴火予知連絡会は,第1次火山噴火予知計画に基づき昭和49年6月から開催され,気象庁に事務局が置かれている。その主な任務は,関係諸機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換,火山噴火に際して,当該火山の噴火現象について総合判断を行い,火山情報の質の向上を図ることにより防災活動に資すること,である。

 平成12年度においては,有珠山・三宅島等の活動的な火山についての総合判断のため,定例会3回のほか,臨時会を2回開催した。さらに,学識者,関係機関の連携のもと,予知連絡会の下で開催された部会において随時火山活動を検討し,結果を気象庁が火山情報として公表した。これらの情報は,地元自治体が行う避難指示の設定・解除,危険区域内の防災作業者の安全確保等,防災対応の判断に必要な情報を与えた。

 特に有珠山噴火の2日前にあたる3月29日には,「今後数日以内に噴火が発生する可能性が高い」旨の予知連絡会見解が気象庁から緊急火山情報として発表された。これを受けて,後述の火山ハザードマップで示された火山災害危険区域内の住民に関係市町長から避難勧告・指示が発令され,噴火前に避難を行った。学識者らの火山活動評価情報に,行政,住民が連携,的確に行動したことで大きな減災効果を発揮し,人的被害を全く出すことはなかった。

c 火山情報の種類と伝達

 前述の有珠山における事例が示すとおり,火山災害の軽減を図るには,火山噴火予知の確立とともに,火山現象の状況を正確かつ迅速に関係行政機関及び付近住民に伝達することが重要である。このため,気象庁では,火山の観測の成果等に基づき,4種類の火山情報を発表している( 表2-6-2 )。これらの火山情報は,速やかに関係省庁,関係地方公共団体等の関係機関や報道機関に伝達され,これらの機関を通じて,一般住民にも伝達されている( 図2-6-2 )。

  (表2-6-2) 火山情報

  (図2-6-2) 火山情報の流れ

(2) 活動火山対策特別措置法等に基づく対策

a 対策の概要

 昭和47年以降,桜島の火山活動が活発になり,周辺地域の農作物等に大きな被害が生じたこと,また,昭和48年に浅間山が11年ぶりに噴火したことなどを契機として,昭和48年7月,住民等の生命及び身体の安全並びに農林漁業の経営の安定を図ることを目的とする「活動火山周辺地域における避難施設等の整備等に関する法律」が制定された。その後同法は,昭和52年の有珠山噴火等を契機として全面的な見直しがなされ,翌年4月,現行の「活動火山対策特別措置法」に改められた。同法に基づき,これまで桜島,阿蘇山,有珠山,伊豆大島,十勝岳及び雲仙岳周辺地域において,避難施設,防災営農施設,降灰防除施設の整備,降灰除去等の事業が実施されており,その概要は( 図2-6-3 )のとおりである。

  (図2-6-3) 活動火山対策特別措置法の体系

b 桜島火山対策

 桜島は昭和30年以降噴火活動が恒常化しており,平成12年においては爆発回数169回,鹿児島地方気象台における年間降灰量は337g/m 2 を記録した。

 桜島及びその周辺地域は活動火山対策特別措置法に基づく避難施設緊急整備地域,降灰防除地域に指定されており,同法に基づき,これまでに避難施設緊急整備事業(昭和48〜57年度),防災営農施設整備事業等(昭和48年度〜),降灰除去事業(昭和53年度〜),降灰防除施設整備事業(昭和53年度〜)等の事業が実施されてきた。

(3) 火山噴火災害危険区域予測図の整備

 火山周辺住民等の防災意識の高揚,地元自治体による適切な防災計画の樹立,適正な土地利用の誘導等のためには,各火山の活動様式や特徴的な災害要因を考慮した,いわゆるハザードマップ(火山噴火災害危険区域予測図)の整備を推進することが必要である。

 国土庁では平成4年に火山噴火災害危険区域予測図作成指針を作成するとともに,平成5〜7年度には火山噴火災害危険区域予測図緊急整備事業を行い,これに基づいて有珠山,三宅島等の10火山においてそれぞれの地方公共団体においてハザードマップが整備された。

 平成12年3月末からの有珠山噴火に際しては,周辺の地方公共団体がハザードマップを参考に事前に適切な範囲の住民避難を指示することで,噴火による人的被害を防ぐことが可能となり,その効果が示された。

 平成13年3月現在,(1)aの13の「活動的で特に重点的に観測研究を行うべき火山」のうち,海底火山である伊豆東部火山群を除く12火山全てのほか,雌阿寒岳,秋田焼山,岩手山の合わせて15火山についてハザードマップが作成・公表されている。

(4) 火山噴火災害危険区域予測図のGIS化

 ハザードマップの有効性は有珠山でも実証されたところであるが,紙地図の状態では記載できる情報量に限界があるとともに,限られた噴火シナリオを想定した火山活動を表現した図となっているため,実際に起こりうるさまざまな活動様態に応じて活用できない場合がある。そこで内閣府においては,ハザードマップを電子情報化してGIS(地理情報システム)上で取り扱い,実際の火山活動に即応したハザードマップを表示できるようにするとともに,必要に応じて防災関連施設の情報や発災後の状況等を付加し,迅速かつ的確な応急対策活動の支援をできるようにするためのシステムを開発している。

6-3 地方公共団体の火山災害対策

 有珠山及び三宅島において大規模な火山災害が発生したこと等に伴い,火山災害対策への関心が高まりつつある。これらの状況にかんがみ,火山周辺の市町村に,防災対策の現況と認識についてのアンケートを実施した。以下,その概要を示す。

(1) 火山対策に対する認識と対策〜危機意識は高まっているが対応は不十分

 「以前と比べて火山災害への危機意識が高まっているか」との問いに対し,「高まっている」(「かなり高まっている」及び「多少高まっている」の回答の合計)とした市町村は65.3%に達し,半数を越えるアンケート対象市町村において,火山災害への危機意識が高まっている。その一方,各市町村の火山災害対策の充足度については67.0%が「不十分」(「やや不十分である」及び「全く不十分である」の回答の合計)と回答している( 図2-6-4及び5 )。

  (図2-6-4) 以前と比べた火山災害への危機意識の高まり(N=124) (図2-6-5) 火山災害への危機意識と比べた対策の充足度(N=124)

 火山周辺の市町村の多くが火山対策についての危機意識を高めているが,火山対策の水準に対しては市町村自身が必ずしも満足している状況にはないことが分かる。

(2) 火山災害対策の状況〜避難場所指定等は進捗しているが,市民への啓発,訓練,ハザードマップの作成は実施率が低い

 多くの市町村において「避難場所の指定」「情報伝達機器の整備」を実施しているとともに「避難時用の食料,飲料水や毛布等の備蓄」等の施策についても3割程度の市町村が実施している( 図2-6-6 )。

  (図2-6-6) 実施済又は実施中の火山災害対策(複数回答可)

 しかしながら,火山災害に対して住民の関心を高めるために実施した施策,及び火山防災訓練については,いずれも「特に実施していない」と回答した市町村が最も多かった( 図2-6-7 , 図2-6-8 )。

  (図2-6-7) 住民の関心を高めるために実施した施策(複数回答可)

  (図2-6-8) 実施した火山防災訓練(複数回答可)

 また,ハザードマップを作成している市町村も過半数に満たず( 図2-6-9 ),作成していても,「有効な火山噴火災害対策が検討されていない」「火山の危険性によるイメージダウンが心配」等の理由でマップを公開していない市町村が作成済市町村中15.4%あった。さらに,ハザードマップを作成しない理由としては,「火山噴火災害の危険性がない,又は切迫していない」とする回答が過半を占めた。

  (図2-6-9) 火山ハザードマップの作成状況(複数回答可)

(3) 火山周辺地域の状況〜火山周辺の居住人口や観光客は多いが,対策は進んでいない

 今回アンケートの対象とした火山周辺市町村の人口の合計は約400万人である。また,火山は観光資源となっている場合が多いことから,火山噴火により危険となる地域を訪れる観光客も年間合計延べ約1000万人(観光客が来訪する1火山あたり50万人)に達している。これに対して,火山災害時に住民や観光客等に対して避難指示・勧告等を行う基準を予め決めている市町村は28.2%にとどまっている( 図2-6-10 )。また,実際に避難指示・勧告を行うこととなった場合の問題点については,「避難指示・勧告を出すタイミングが分からない」とともに,「一旦避難指示・勧告を出した後それを解除する時期が難しい」との回答が多く見られた( 図2-6-11 )。

  (図2-6-10) 住民や観光客等に避難命令・勧告等を出す基準について(N=124)

  (図2-6-11) 避難指示・勧告を出す上での問題点(複数回答可)

(4) 火山との共生 〜噴火の場合の対応もなるべく市町村内で

 火山が噴火した場合に避難が必要と各市町村が想定している区域の人口の合計は,今回のアンケートの結果においては延べ45万人となったが,それらの人々に対しても,半数を超える市町村が市町村外への避難の可能性はない(「あまり可能性はない」と「全く可能性はない」の合計62.1%)と回答している( 図2-6-12 )。火山周辺の市町村は,できる限り地元にとどまれるような火山対策を行いたいと考えている。

  (図2-6-12) 居住者の市町村への避難の可能性(N=124)

 火山に対する危機意識の高まりに応じ,火山周辺の市町村においては,避難場所の指定及び整備等の対策を講じているところである。しかしながら,アンケート調査によると,住民への啓発,訓練,ハザードマップの作成及び公表,観光客への避難勧告基準等の施策については未だ不十分であり,対策全体的にも市町村自らが満足する水準には達していない。また,噴火時の避難においても,できる限り住民が市町村内にとどまれるような対策を意向している。これらを踏まえ,今後とも,住民と火山とが共生できるような,火山対策の充実が重要である。

7 雪害対策

7-1 雪害の現況

 我が国は,急峻な山脈からなる弧状列島であり,冬季には,北からシベリア寒気団による季節風が,南から暖流が押し寄せるという国土条件のため,日本海側で多量の降雪・積雪がもたらされる。

 そのため,屋根の雪下ろし中の転落,雪崩災害のほか,降積雪による都市機能の阻害,交通の障害といった雪害が毎年発生している。特に,平成12年末から平成13年にかけての冬は,強い寒気の影響により全国的に厳しい寒さとなり,北陸地方や東北地方の日本海側を中心として大雪の被害が多かった。雪害は,雪崩によるものと,屋根の雪下ろし中の転落によるものが多いが,このうち雪崩によるものは,昭和59年〜61年豪雪の年に多くあったが,昭和62年以降は,平成8年を除いて雪崩による死者は発生していない。

 しかしながら,平成12年から13年の豪雪では,雪下ろし等により55名の人命が失われ,また交通にも支障を来たし,地域の社会経済等に大きな影響を与えた。

7-2 雪害対策の概要

 雪崩は,その速度が極めて速く(概ね,表層雪崩で100〜200km/h,全層雪崩で40〜80km/h),衝撃力は場合によっては100t/m 2 (鉄筋コンクリートの建物を倒壊する力)に相当することもあり,一度集落を襲うと被害が甚大なものとなる。このため,集落を保全対象とした雪崩対策事業を推進するとともに,危険箇所の住民への周知徹底,警戒避難体制の強化,適正な土地利用への誘導等の総合的な雪崩対策を実施している。

 住家,公共的建物などを含む集落を襲う雪崩が発生する可能性のある箇所(雪崩危険箇所)は,建設省の調査によれば約15,000か所であり,このほか,林野庁が林地を対象として行った調査によれば約7,200か所が報告されている。

 なお,豪雪時には,雪降ろし中の転落事故や屋根雪の落下等による人身事故の防止,雪崩警戒体制の強化に取り組むこととしているほか,積雪寒冷特別地域における道路交通安全確保に関する特別措置法に基づき幹線道路の交通確保のため除雪事業を推進している。また,排除雪経費が著しく多額にのぼる地方公共団体については,所要経費,普通交付税措置額及び降雪量等を勘案の上,所要経費の一部を特別交付税で措置することとしている。

7-3 豪雪地帯対策の概要

 降積雪の多い地域で産業の振興及び民生の安定向上のために総合的な対策を必要とする地域は,豪雪地帯対策特別措置法に基づき,豪雪地帯に指定されている。現在,豪雪地帯では,全域指定が10道県,一部地域の指定が14府県であり,961市町村が指定されている。その面積は全国土面積の約51%にあたる約19万km 2 で,全国の人口の約18%にあたる約2,300万人が生活している。また,特に積雪量が多く,積雪により住民の生活に著しい支障が生ずるおそれのある地域は特別豪雪地帯に指定されている。現在,特別豪雪地帯は15道県の280市町村が指定されている( 図2-7-1 )。豪雪地帯では,豪雪地帯対策特別措置法に基づき豪雪地帯対策基本計画を策定し,各種の雪害対策を含む豪雪地帯対策が講じられている。

  (図2-7-1) 豪雪地帯及び特別豪雪地帯指定地域

(1) 交通,通信の確保

 交通基盤整備を推進し,除排雪,防雪対策及び消融雪を実施するほか,防雪施設等の維持・保全及び交通安全施設整備の充実を図る。

 また,情報通信の高度化へ向けた基盤整備を推進する。

(2) 農林業等における対策

 雪面黒化法等による消雪促進や,耐雪性の育苗等農業用施設,除雪機械,消融雪施設等の整備・拡充,ローカルエネルギー利用による消融雪の促進に努める。また,雪に強い品種の開発・導入や,栽培管理技術の向上・普及に努める。

 また,工場等の施設の耐雪耐寒構造化及び工場内消融雪施設の整備を推進する。

(3) 生活環境施設等の整備

 教育,保健衛生,医療,介護・福祉サービス,消防防災等の各分野における施設等の整備と克雪住宅の普及・促進,克雪用水の確保,安定的な電力供給の確保やエネルギーの有効利用等に努める。

(4) 国土保全施設の整備及び環境保全

 治山,治水,農地保全事業等を総合的に推進し,環境保全に配慮した施策の推進を図る。また,雪崩等の災害発生の予測・連絡・避難体制の確立・整備を図り,災害復旧体制の整備・強化に努める。

(5) 雪に関する調査研究の総合的な推進及び気象業務の整備・強化

 総合的な調査研究体制の充実を図り,除雪機械,冬期道路交通の確保,克雪住宅や屋根雪処理等に関する理工学的,技術的な調査研究の推進に努める。

 また,観測,解析,予報・警報等の業務体制の充実・強化を図る。

8 事故災害対策

 平成11年の鉄道,宇宙開発,原子力災害等の事故災害の多発に対応し,同年10月に内閣官房副長官を議長とし,関係省庁の局長等を構成員として「事故災害防止安全対策会議」が設置された。同会議は,事故の背景に共通して存在する組織管理,検査点検,従事者の教育訓練等の問題点を洗い出し,それらに対する今後の共通的対応方策を検討し,同年12月に報告書をとりまとめた。同報告書に基づき,関係省庁は所管事業に係る個別的,具体的な安全対策についての取組みを行い,同会議は12年6月,その実施状況を取りまとめて公表した。

8-1 海上災害対策

(1) 海上災害の現況

 我が国の周辺海域では,原油や液化ガス等が専用船により大量に海上輸送され,さらには貨物船,漁船等様々な船舶がふくそうしている状況にある。このため,船舶の衝突,沈没等による災害が発生する危険性が増大してきており,また,ひとたび災害が発生した場合には,海洋汚染等重大な被害を及ぼすおそれが大きくなっている。

 このような状況の中,平成9年1月のナホトカ号海難・流出油災害(重油約6,240kl流出),同年7月のダイヤモンドグレース号流出油事故(原油約1,550kl流出)といった大規模な油流出事故が発生している。

(2) 海上災害対策

 危険物積載船舶の海上交通及び荷役時の安全確保並びに石油貯蔵施設の安全確保を図るべく,港則法,海上交通安全法,船舶安全法,海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律,消防法,石油コンビナート等災害防止法等により,危険物積載船の航行や荷役の規制,防災資機材の配備の義務づけ等の諸規制を行っている。また,海上災害が発生した場合に迅速・的確な防災措置を講じるため,巡視船艇・航空機の出動体制の確保,防災資機材の配備の強化,油の拡散・漂流予測結果等を電子画面上に表示できる沿岸海域環境保全情報の整備等,海上防災体制の整備充実を図っている。

 さらに,民間における海上防災のための中核機関として海上災害防止センターが設立され,民間側でも自主防災体制が強化されている。

 海上における捜索救助については,「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)に基づき関係機関が連携協力することによって,迅速かつ的確な海難救助体制の整備を推進している。

 また,海上における油の大量流出事故については,「1990年の油による汚染に係る準備,対応及び協力に関する国際条約」(OPRC条約)に基づき,所要の法律改正を行うとともに,平成7年12月に「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」を定めた。その後,ナホトカ号海難・流出油事故災害の教訓等を踏まえ,平成9年12月に同計画を改定し,対応の明確化を図った。さらに,海上保安庁では,気象庁との連携等により漂流予測の一層の高度化を図ることとしている。また,漂流予測の精度向上を図るため,現場の巡視船からリアルタイムに海象・風等のデータ収得ができる「船舶観測データ集積・伝送システム」の巡視船への整備を開始した。

8-2 航空災害対策

(1) 航空災害の現況

 旅客機の大型化に伴い,航空機事故はいったん発生すれば大惨事を招来するおそれが大きくなっている。近年の主な航空機事故としては,平成6年4月の中華航空機墜落事故(死者264人,負傷者7人)や平成8年6月のガルーダ・インドネシア航空機炎上事故(死者3人,負傷者170人)が挙げられる。

(2) 航空災害対策

a 航空気象施設の整備による航空交通安全のための情報の充実

 気象庁は,航空機の安全運航の確保等に寄与するために,空港での気象観測を行うとともに,航空の安全のための予報,警報等を適時適切に行っている。また,離着陸時の航空機の運航に重大な影響を及ぼす地上付近の風の急変を監視する機能を有する空港気象ドップラーレーダー等の航空気象施設の整備を推進している。

b 航空機の安全な運航の確保

 国土交通省は,独立行政法人航空大学校において,航空従事者を養成し,その安定的確保を図るとともに,航空運送事業者の行う乗員の養成についても所要の指導を行っている。さらに,航空運送事業者等に対し,航空関係諸規則の遵守の徹底を指導している。

c 航空機の安全性の確保

 国土交通省において,航空機及び装備品等の安全性に関する技術基準等の見直しと,航空機検査体制・整備審査体制の充実を図ることとしている。

 また,航空災害が発生した場合,空港管理者や消防機関をはじめとする防災関係機関は,相互に連携をとりつつ消火救難活動,医療活動等の災害応急対策を行う。捜索救難活動が必要な場合は,国土交通省東京空港事務所(羽田空港内)におかれた東京救難調整本部を通じて,密接な連絡調整を行うこととしている。

8-3 鉄道災害対策

(1) 鉄道災害の現況

 我が国の鉄道災害は,安全対策を着実に実施してきた結果,列車の高速化・高密度化が進む中でも,長期的には減少する傾向にあるが,列車の高速化等に伴い一度事故が発生すると多数の死傷者を生じるおそれがある。

 平成12年3月に発生した帝都高速度交通営団日比谷線の列車脱線・衝突事故では,死者5人,負傷者63人となる等,甚大な被害が発生した。運輸省は,事故当日,事故調査検討会を直ちに立ち上げ,専門家を現地に派遣して調査を行うとともに,同営団に対して,再発防止対策の確立等に万全を期すよう厳重に警告した。また,全鉄道事業者に対して,軌道及び車両の点検等を確実に行うよう指示するとともに,当面の緊急措置として急曲線部における脱線防止ガード等の設置について通達した。事故調査検討会は,10月に最終報告を取りまとめ,脱線防止ガードの追加設置など5項目の対策を提言するとともに,新たな評価指標として「推定脱線係数比」を提案した。

(2) 鉄道災害対策

a 鉄軌道交通環境の整備

 国土交通省が,施設の保守について鉄軌道事業者を指導している。

b 鉄軌道交通の安全のための情報の充実

 気象庁は,鉄軌道交通の安全に係わる気象現象,予・警報等の情報を適時・的確に発表している。

c 鉄軌道の安全な運行の確保

 国土交通省において,迅速かつ的確な運行指令体制づくり,乗務員等に対する科学的な適正検査の定期的な実施について,鉄軌道事業者を指導している。

d 鉄軌道車両の安全性の確保

 国土交通省において,車両の技術上の基準への適合性を確認するとともに,事故事例に応じた対策を鉄軌道事業者に指導している。

e 踏切道における交通の安全の確保

 踏切道における自動車との衝突,置き石等による列車脱線等を防止するために,事故防止に関する知識を広く一般に普及するとともに,踏切道の立体交差化,踏切保安設備の整備等を計画的に推進している。

 また,鉄道災害が発生した場合,鉄軌道事業者や消防機関等は,相互に連携をとりつつ災害応急対策を行うこととしている。

8-4 道路災害対策

(1) 道路災害の現況

 近年においても,平成8年2月の一般国道229号豊浜トンネル岩盤崩落,平成9年8月の一般国道229号第2白糸トンネル岩盤崩落等の道路災害が発生している。

(2) 道路災害対策

 道路管理者は,道路における災害を予防するために必要な施設及び体制の整備を図るとともに,道路防災対策事業等を通じ,安全性・信頼性の高い道路ネットワークの整備を計画的かつ総合的に推進している。

 また,気象庁では,道路交通の安全に係る気象情報等を的確に観測し,これらに関する実況あるいは予・警報等の情報を適時・的確に発表している。道路管理者は,気象庁と協力して情報を活用できる体制の整備を図っている。また,道路管理者及び都道府県警察は,速やかな応急対策を図るための,情報収集・連絡体制の整備を図るとともに,災害が発生するおそれがある場合には,速やかに道路利用者にその情報を提供するための体制整備を図っている。

 なお,一般国道229号豊浜トンネル岩盤崩落を契機として,緊急点検を行い,対策が必要とされている949か所について法面防災工事を実施している。また,一般国道229号第2白糸トンネル岩盤崩落を踏まえ,全国で岩盤斜面等の緊急調査結果を実施し,甚大な被害をもたらす可能性の高いか所について,必要な対策を推進している。

 また,道路災害が発生した場合,道路管理者や消防機関等は,相互に連携をとりつつ災害応急対策を行うこととしている。

8-5 原子力災害対策

(1) 災害の現況

 平成11年9月30日,茨城県東海村の株式会社ジェー・シー・オー(JCO)のウラン加工施設において,我が国初の臨界事故が発生し,3名が重篤な被ばくを受け,そのうち2名が死亡したほか,作業員,防災業務関係者,周辺住民など319人(うち周辺住民130人)が,一般人の年間実行線当量限度である1ミリシーベルトを超える放射線を浴びたと推定され,また,周辺住民の避難や屋内退避を招くという重大な原子力災害が発生した。

(2) 原子力災害対策

 今回の事故では,原子力安全規制の抜本的強化の必要性や,国・自治体の連携や緊急時対応体制の強化の必要性などの課題が顕在化した。

 これを受け,平成11年12月,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」の一部改正により,原子力事業者に関して,保安規定の遵守状況定期検査制度の創設等がなされた。また,「原子力災害対策特別措置法」が制定され,以下のような事項が定められた。

[1]

 事業者に対する主務大臣及び関係する都道府県知事,市町村長への通報義務や,国の原子力災害対策本部,同現地対策本部の設置手続き等が定められた。

[2]

 文部科学省及び経済産業省に原子力防災専門官を置き,原子力事業所の所在する地域に配置すること等が定められた。

[3]

 原子力事業者には,通報を行うために必要となる放射線測定設備の敷地内への設置及び記録の公表の義務づけ等が定められた。

 これらを受けて,中央防災会議は,平成12年5月,防災基本計画原子力災害対策編の修正を行った。

 その中で,原子力艦船がわが国に寄港した際の万が一の事故に備えるため,原子力艦の原子力災害に関して,関係自治体が防災計画を策定するための根拠を明記した。これを受けて,神奈川県横須賀市は,平成12年6月に「原子力艦船事故防災マニュアル」を,長崎県佐世保市は同年12月に「原子力軍艦防災マニュアル」を策定している。

 さらに,中央省庁再編に伴い,経済産業省に原子力安全・保安院が設置され,原子力等に関する安全規制等を担当することとなった。

8-6 危険物災害対策

(1) 危険物災害の現況

 危険物災害には,消防法の危険物,高圧ガス,毒物・劇物の漏洩・流出等による多数の死傷者の発生や石油コンビナート等特別防災区域における危険物の流出,火災,爆発による多数の死傷者の発生等多様な被害が含まれる。平成12年6月に群馬県尾島町の日進化工(株)群馬工場で爆発火災事故が発生し,死者4名,負傷者58名を出すなど,危険物,毒物・劇物の漏洩等の事故は毎年発生している。

(2) 危険物災害対策

a 危険物

 消防法では,火災発生の危険性が高い,火災が発生した場合に火災を拡大する危険性が高い,火災の際の消火の困難性が高いなどの性状を有する物品を危険物として指定し,火災予防上の観点からその貯蔵・取扱い及び運搬について規制を行っている。

 なお,上記爆発火災事故を踏まえ,ヒドロキシルアミン及びヒドロキシルアミン塩類を新たに危険物として指定する「消防法」改正案を第151回国会に提出している。

b 毒物・劇物

 毒物・劇物については,毒物及び劇物取締法により,製造,輸入,販売,運搬,陳列等の取扱い全般について規制が行われている。

c 高圧ガス等

 原燃料として産業界の利用する高圧ガスについては高圧ガス保安法により,一般家庭の消費する液化石油ガス(LPG)については液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律,火薬類については火薬類取締法により,それぞれ,製造,輸入,販売,貯蔵,運搬,消費等の取扱い全般について規制が行われている。

 また,特に法令上,施設・設備に係る,定期点検検査,危害予防規程の作成,保安資格取得者の定期講習など,事業者の適切な防災対策を促進している。

d 石油コンビナート等

 危険物等が大量に集積している石油コンビナート等については,石油コンビナート等災害防止法を中心に,消防法,高圧ガス保安法,労働安全衛生法,海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律等により総合的防災体制の確立が図られている。このうち,石油コンビナート等災害防止法に基づき,石油コンビナート等特別防災区域として33道府県にわたり85地区(平成12年4月1日現在)が指定され,当該区域について石油コンビナート等防災本部の設置,石油コンビナート等防災計画の作成,特定事業所における自衛防災組織の設置など,必要な措置が講じられている。

e 都市ガス

 都市ガスの供給量は,約2,507万戸,226兆キロカロリー(平成10年ガス事業年報)に達している。都市ガス事業者に対しては,ガス事業法により,ガスの製造から供給,消費段階に至るまで,保安確保のため,検査等規制が行われている。

8-7 火災対策

(1) 災害の現況

 近年の都市化の急速な進展に伴う人口の密集化,建築物の高層化・大規模化等の進展,地下街の発達や,本格的な高齢化社会の到来などにより,火災による被害発生の危険性が増大している。近年の主な火事災害の例としては,平成6年12月の飯坂温泉若喜旅館火災(死者5人,負傷者3人)等がある。

(2) 火災対策

a 防火安全の確保

 国及び地方公共団体では,火災の発生を予防し,被害を最小限に抑えるため,火災予防運動や民間防火組織の活動を通じ,防火思想の普及に努めている。また,人の出入りが多い旅館,病院,地下街等の防火対象物においては,消防法により,消防用設備等の設置,防火管理者の選任,防火管理業務の実施等が義務づけられている。

 しかし,消防用設備等の整備や防火管理者の選任等がいまだ十分でない防火対象物も一部には見受けられる。防火安全に関し不備のある対象物については,法令に基づく措置命令等の厳正な措置をとる必要がある。

b 消防力の強化

 国及び地方公共団体は,より一層の消防力の強化を図るため,はしご付消防ポンプ自動車,化学消防ポンプ自動車,救助工作車,消防・防災ヘリコプター等の重点的な整備を図るとともに,消防水利の多元化,消防団の充実強化を推進している。

c 建築物の不燃化の推進

 我が国の都市は,延焼火災による市街地大火に対して十分な安全性を有していないため,都市の不燃化を促進するとともに,道路や河川等を軸とした延焼遮断帯の整備により,都市全体を火災に強い構造にする必要がある。このため,従来より防火地域の指定等による建築物の構造規制,市街地再開発事業,住宅地区改良事業,密集住宅市街地整備促進事業,住宅金融公庫融資等による耐火建築物への建替えの促進,公営住宅等公共住宅の不燃化,都市防災推進事業による避難地・避難路周辺等の不燃化等各種の対策を進めてきている。

d 林野火災対策

 林野火災の出火原因には,たき火,煙草及び火入れによるものが圧倒的に多いこと,林野火災の消火には多くの困難を伴うこと等から,林野火災対策においては,出火防止対策が特に重要である。このため,出火多発期である春先を中心とした行楽期等の週末・休日の前に徹底した広報を実施し,林野周辺住民・入山者等に対する防火意識の普及啓発を図るとともに,火災警報発令中における火の使用制限の徹底・監視パトロールの強化や,火入れを行う者に対する適切な指導等の実施,林野所有者に対する林野火災予防措置の指導の強化を重点的に実施している。

 また,林野火災の危険度の高い地域においては,林野火災特別地域対策事業を推進するため,関係市町村が共同で林野火災対策に係る総合的な事業計画を作成し,その推進を図ることとしており,平成11年度までに38都道府県の945市町村にわたる227地域において実施されている。

9 阪神・淡路大震災の復興対策

(1) 復興推進体制の整備

 阪神・淡路大震災は,死者6,432名(いわゆる関連死912名を含む),住宅全壊が約10万5,000棟,半壊が約14万4,000棟にものぼる被害をもたらすとともに,我が国全体に甚大な影響を及ぼしたことから,政府は,阪神・淡路地域の復興のための施策を早急に,かつ強力に進めるため,震災約1か月後の平成7年2月,「阪神・淡路大震災復興の基本方針及び組織に関する法律」等により「阪神・淡路復興対策本部」及び「阪神・淡路復興委員会」を設置し,これらの組織によって関係行政機関の施策を総合的に調整することとした。

 また,同法により,阪神・淡路地域の復興に当たっての基本理念として,

[1]

 国と地方公共団体とが適切に役割分担し,協同して,地域住民の意向を尊重しながら,(a)生活の再建,(b)経済の復興,(c)安全な地域づくりを緊急に推進すること

[2]

 これらの活動を通じて活力ある関西圏の再生を実現すること

 が定められた。

 なお,阪神・淡路復興委員会は,平成8年2月14日に,1年間の設置期間を終えて活動を終了した。また,阪神・淡路復興対策本部についても,平成12年2月23日に5年間の設置期間が満了し,その活動を終えた。

 阪神・淡路復興対策本部の設置期間満了に伴い,引き続き阪神・淡路地域についての関係地方公共団体が行う復興事業への国の支援を推進し,関係省庁間の円滑な連携を図るため,「阪神・淡路大震災復興関係省庁連絡会議」(議長:内閣官房副長官補)を設置した。

(2) 対策の現状

 震災により被害を受けた市街地の復興を図るため,被災地方公共団体においては,「被災市街地復興特別措置法」に基づき,16地域の被災市街地復興推進地域を指定し,土地区画整理事業及び市街地再開発事業等における補助事業の特例措置により,市街地整備を進めている( 表2-9-1 )。

  (表2-9-1) 被災市街地の整備状況(平成13年2月1日現在)

 被災市街地復興推進地域内で行う土地区画整理事業は13地区(20事業地区)であるが,既にそのすべてで事業計画を決定しており,平成12年5月31日には森南第三地区において仮換地指定が開始された。この結果,13地区(20事業地区)の全地区において仮換地指定が開始されたこととなった。また,全体として概ね7割の仮換地が指定されている。このうち,神前町2丁目北地区においては平成12年12月11日に,全事業地区で初めて換地処分が完了する等,2事業区において換地処分が完了している。

 同じく,市街地再開発事業は6地区(14事業地区)で実施されているが,全体地区面積の概ね6割について管理処分計画が決定されている。各地区とも既に建築工事が進捗しており,宝塚市売布神社駅前地区及び宝塚駅前地区において再開発ビルが順次完成している。

 被災地域の住宅対策としては,兵庫県及び大阪府においては,阪神・淡路大震災により住宅を失った多数の被災者に対し,震災直後から合計49,681戸に及ぶ応急仮設住宅を建設し,被災者に提供してきた。

 こうした中,平成8年6月には,自力で住宅を確保できない高齢・低所得者が極めて多い状況にかんがみ,「被災者住宅対策等について」が総理報告,了承され,公営住宅の確保,公営住宅家賃の負担軽減等の対策が行われた。

 その結果,最大時には約4万8,000世帯が入居していた応急仮設住宅が,平成12年1月14日に解消されている。

 なお,上記「被災者住宅対策等について」に基づく公営住宅家賃の負担軽減策が平成13年7月から順次期限切れを迎えることにかんがみ,現行制度に引き続き,激変緩和としての5年間の移行措置を講じることとし,国はその減額分の一定割合を補助することとしている。

 また,自力で住宅を再建する被災者を支援するため,住宅金融公庫では通常より低利の災害復興貸付制度を設けるなどの対応を行っている。

 被災者の生活再建支援については,既に社会保障や社会福祉の分野では,極めて広範なきめ細かな制度が整備されており,被災地においては特別養護老人ホーム等の整備やこころのケアセンターの設置,生活支援アドバイザーの派遣など様々な措置が講じられている。

 さらに,復旧・復興に向けた各般の行政施策を補完し,きめ細かな施策を講じるために設置された(財)阪神・淡路大震災復興基金(以下「復興基金」という。)においても,被災者の生活再建を支援する事業が実施されており,国はこのために必要な地方財政措置を講じている。

 一方,震災後,被災者の生活再建に対する支援の要請が高まったことから,平成8年12月に,応急仮設住宅から恒久住宅への移転に伴って,新しい生活を再建しようとする世帯のうち,自力では対応が難しいと考えられる高齢者や要援護者のいる低所得世帯に対して,月額15,000円〜25,000円の現金を5年間支給する「生活再建支援金」制度の創設を決定し,平成9年より支給を開始した。また,兵庫県が実施している生活復興のために必要な資金の貸付制度(別途,復興基金が全額利子補給を実施)について,その貸付限度額を100万円から300万円に引き上げることが決定され,平成12年3月末まで新規融資の受付を行い,合計27,582件が貸付され,貸付額は累計で51,614百万円に上った。

 この他,被災者の生活再建支援に資する施策として,復興基金において,恒久住宅への円滑な移行促進を目的に「被災中高年恒久住宅自立支援金」が平成9年10月に創設され,翌10年5月から支給が始まった。

 さらに,平成10年5月の「被災者生活再建支援法」の制定の際なされた附帯決議により,地元の兵庫県・神戸市等は,従来から実施中の生活再建支援金,被災中高年恒久住宅自立支援金を拡充し,高齢世帯や低所得世帯のうち,住家を全壊又は半壊で解体した世帯で,恒久住宅に入居した世帯に対して,50〜120万円の現金を支給する「被災者自立支援金」制度を創設し,同年11月から支給を開始している。

 また,恒久住宅に移行した被災者の新たな不安や孤立感を緩和するとともに,新しいコミュニティに親しめるよう,ホームヘルパーによる介護,保健婦・保健士等の訪問指導,生活援助員・高齢世帯支援員による支援,生活復興相談員による訪問活動など様々な施策を展開している。

 経済の復興対策の現状としては,被災地の本格的な復興を図るために,安定した雇用の確保や地域活性化をもたらす前提となる,産業の復興が極めて重要であり,これまでにも,被災企業に対する低利融資など金融上の支援措置,民活法等の活用による産業基盤整備の支援,工場等制限法の運用緩和をはじめとする各種規制緩和措置など,種々の支援策を実施してきている。

 このうち,被災中小企業者を対象として整備された神戸市仮設工場については,平成12年6月27日,5年間の供用が満了した。しかし,平成9年3月より整備を進めてきた神戸市復興支援工場が平成12年4月に全棟完成し,この復興支援工場が仮設工場に入居していた企業の受け皿となり,仮設工場以外からの入居企業も含めて平成13年1月1日現在で104社が入居している。

 また,仮設工場から復興支援工場への移転等を促進するため,復興支援工場への優先入居を認めるとともに,移転費の融資及び復興基金による利子補給等の措置も講じた。

 さらに,中長期的に被災地経済の活性化を図るため,神戸港の国際競争力の強化が必要であるとの観点から,高規格コンテナターミナル(-15m岸壁)の整備や,各種の港湾使用料の引下げ,港湾EDIシステムによる入出港手続きの簡素化といったソフト,ハード両面での施策を推進している。

 神戸市の重要な産業の1つである観光産業は震災後の平成7年には観光入込客数は半減したが,その後の神戸ルミナリエの浸透効果もあり,平成10年には平成6年の水準を上回った。

 平成11年度は明石海峡大橋開通2年目の反動により観光入込客数は前年を若干下回ったが,震災前の入込数と比べると6.4%上回っており,震災後に減少した入込客数は順調に回復している。

(3) 復興特定事業の状況

 阪神・淡路復興委員会から,復興のための戦略的プロジェクトとして提言された主な「復興特定事業」の状況は,次のとおりである。

[1] 上海長江交易促進プロジェクト

 平成12年10月26日に上海市に「神戸館(上海KOBE PLAZA)」が開設された。同館には,中国側の企業とのビジネスマッチングや情報収集・提供への効果が期待されている。

[2] ヘルスケアパークプロジェクト

 平成10年度に事業主体である「ひょうごヒューマンケア(株)」が設立され,実施設計が行われてきたが,平成12年度に企画内容の見直しを行い,現在「ヘルスケアパークのミュージアム部分」について基本設計の作成作業を行っている。

[3] 新産業構造形成プロジェクト

 「神戸ルミナリエ」は,平成12年度は12月12日〜25日の14日間開催され,約473万人が来場した。

 また,「神戸医療産業都市構想の中核的施設整備等事業」では,その中核的施設となる「先端医療センター」の第1期工事となる医療機器棟が平成12年7月10日に着工し,平成14年3月の全施設完成を目指し,整備を行っている。

 一方,地場産業の一つであるケミカルシューズ業界においては,情報発信機能や起業支援機能を備えた「くつのまちながた」核施設を整備しており,平成12年7月19日には中核拠点となる「シューズプラザ」が完成した。

[4] 阪神・淡路大震災記念プロジェクト

 平成12年2月22日に復興特定事業に位置付けられた阪神・淡路大震災メモリアルセンター(仮称)の整備事業は,平成12年に実施設計が完成し,平成13年1月6日には安全祈願祭が執り行われ,施設工事に本格着工した。

10 近年に発生した主な災害の復興対策

10-1 雲仙普賢岳噴火災害の復興対策

 政府は,平成3年6月3日に大火砕流が発生し多数の死傷者が生じたことから,同月4日に国土庁長官を本部長とする「平成3年(1991年)雲仙岳噴火非常災害対策本部」を設置し,10回に及ぶ対策本部会議等における決定事項に基づき,21分野100項目に及ぶ被災者等救済対策を実施してきている。

 その後,雲仙岳の噴火活動が停止状態にあり,平穏な状態が続いていること等から,平成8年6月3日に長崎県及び関係5市町村の災害対策本部,同月4日に政府の非常災害対策本部は廃止された。しかし,引き続いて実施中の復興事業があること,また土石流の二次的災害が今後も発生する可能性があること等を踏まえ,関係省庁は,同日に雲仙岳災害復興関係省庁連絡会を設置し,密接な連携の下に地域の安全を確保しつつ復興対策を推進している。

 また,平成12年11月17日には,平成2年の雲仙・普賢岳の噴火から丸10年を迎えるに当たり,「雲仙・普賢岳噴火10年復興記念式典」が執り行われた。

 なお,現在も行われている復興事業等の状況は以下のとおりである。

(1) 砂防・治山対策

 河川流域ごとにまとめた砂防計画基本構想及び治山計画基本構想に基づき,国及び長崎県は,地域の防災,振興,活性化に不可欠な砂防・治山ダム等の整備事業を実施してきている。平成12年度においては,水無川流域における導流提30基(5.2km)の完成等の砂防設備の整備を行うとともに,治山ダム9基等治山施設の整備を推進する。なお,警戒区域のため立ち入りができない地域において実施されてきたヘリコプターによる航空緑化工によって,緑の再生がかなり認められるようになってきている。

 また,中尾川流域においては,平成12年度に千本木2号砂防えん提等の砂防えん提群及び治山ダム1基の建設を,湯江川流域においては,平成12年度に治山ダム1基の建設を進めている。

(2) その他の復興状況

 被災農家は667戸であったが,営農再開を希望していた374戸のうち既に373戸が営農再開済であり,残る1戸も平成12年度に営農を再開し,全ての営農再開希望者が営農の再開を果たした。

(3) 災害対策基金による支援

 長崎県は,平成3年9月26日に,「財団法人雲仙岳災害対策基金」を県の出捐及び貸付により設立した。その後,基金は県からの貸付が平成13年度までに延長され,貸付額も1,000億円に増額されるなどして,平成11年度末までに1,066億円(県の出捐30億円,県の貸付1,000億円,義援金36億円)の規模となった。資金のうち県の貸付分については,地方財政措置が講じられている。

 基金では住民等の自立復興支援,農林水産業の災害対策,商工業の振興及び観光の復興等各般の事業を行っている。

(4) 新たな復興計画の策定及びその推進

 長崎県の島原地域再生行動計画策定委員会は,噴火活動の沈静化と雲仙岳災害対策基金の増額,延長が実現したことを機に,平成8年5月より,官民一体となって島原半島全体を視野に入れた地域の再生対策について検討を行い,平成9年3月31日に島原地域再生行動計画(計画期間:平成9年度から13年度の5か年間,愛称:がまだす計画)を策定した。同計画は,国,県,市・町,民間が連携して取り組んでいく総合的な行動計画で,雲仙岳災害記念館(仮称)の建設等,27の重点プロジェクトを柱とした335の事業を展開しており,平成12年には島原復興アリーナが完成するなど,計画が進展している。

第3章 国民の防災活動

 災害から国民の生命,身体及び財産を保護することは行政の重要な責務の一つであるが,一人ひとりの国民が「自らの身の安全は自らが守る」という自覚を持ち,平常時より災害に対する備えを心がけるとともに,災害発生時には自発的な防災活動に参加する等防災に寄与するよう努めることが重要である。

 災害発生時の応急対策は,迅速かつ的確な対応が要求されるため,行政機関による活動だけでなく,消防団・水防団,自主防災組織,ボランティア,さらには企業などによる防災活動が重要な役割を担っている。

1 消防団,水防団

1-1 消防団

(1) 消防団の組織

 消防団は,消防組織法の規定により設置された市町村の消防機関で,ほとんどすべての市町村に設置されており,平成12年4月1日現在,全国で3,639団となっている。

 消防団活動を担う消防団員は,通常は各自の職業に従事しながら火災等の災害が発生したときは「自らの地域を自ら守る」という郷土愛護の精神をもって活動している特別職の地方公務員(非常勤)で,平成12年4月1日現在,全国で95万1,069人となっている( 図3-1-1 )。

  (図3-1-1) 消防団員数の推移

 消防の常備化が進展している今日においても,消防団が地域の消防防災において果たす役割はきわめて重要であり,消防本部・消防署(常備消防)が置かれていない非常備町村にあっては,消防団が消防活動を全面的に担っている。

(2) 消防団の活動

 消防団は,常備消防と連携しながら消火・救助等の活動を行うとともに,大規模災害時等には多くの消防団員が出動し,住民生活を守るために重要な役割を果たしている。

 平成12年においても,有珠山噴火災害では避難誘導や避難後の火元確認や出火防止対策などに奔走するとともに,女性消防団員が避難所を回ってお年寄りに声をかけるなど避難した方々の心のケアに一役買い,精神的な支えとなった。また,三宅島等伊豆諸島においては,地震で崩れやすくなったブロック塀等による二次災害防止のため,崩れかけた瓦礫の整理などの活動に従事した。

 日常においても,各家庭の防火指導や防火訓練,巡回広報等住民生活に密着したきめ細かな活動を行っており,地域の消防防災の要となっている。

(3) 消防団の充実強化

 消防団については,都市化による住民の連帯意識の希薄化等近年の社会経済情勢の変化の影響を受けて,団員数の減少,団員の高齢化,サラリーマン団員の増加等が進み,10年前の平成2年と比べて団員数は4.6%減少,団員の平均年齢は1.7歳上昇して36.7歳,また,40歳以上の団員の占める割合は9.8ポイント増の35.1%となっている。

 こうした中で女性団員が着実に増加しており,平成12年4月1日現在,1万176人が活躍し,地域の防災活動において重要な役割を担っている。このような状況に対応し,地域における消防団活動の一層の充実を図るため,[1]施設・設備の充実強化,[2]各種媒体を通じたPRの実施,[3]消防団と地域の自主防災組織等との連係及び[4]消防団員の処遇の改善を図る措置等を講じている。

 なお,消防施設及び人員の配備の指針となる「消防力の基準」(消防庁資料)が平成12年1月に全面改正され,消防団に関しては,これまでの活動実態を踏まえ,消火や火災の予防等に加え,地震・風水害等の災害の防除や地域住民に対する啓発等の活動が消防団の業務として明記された。

1-2 水防団

(1) 水防団の組織

 水防は古くから村落等を中心とする自治組織により運営され発展してきた歴史的経緯等から,第一次的水防責任は市町村(あるいは水防事務組合,水害予防組合)が有している。

 水防法ではこれらの団体を水防管理団体として定め,水防事務を処理させることができることとしており,平成12年4月1日現在,全国で3,256の水防管理団体が組織されている。

 水防団員は,消防職団員とともに水防管理団体(水防管理者)の所轄のもとに水防活動を行うこととなっており,平常時は各自の職業に従事しながら,非常時には水防管理者の指示により参集し水防活動に従事している。平成12年4月1日現在,専ら水防活動を行う水防団員は17,730人となっている( 図3-1-2 )。

  (図3-1-2) 水防団員の推移

(2) 水防団の活動

 洪水,高潮等による災害を防止するための水防活動は的確かつ迅速な行動が最大限に求められることから,事前の綿密な計画と十分な準備が必要である。

 このため,都道府県は,[1]水防上必要な監視,警戒,通信,連絡,輸送,[2]水防管理団体相互間の協力応援,[3]水防に必要な資機材・設備の整備及び運用などについて定めた水防計画を策定している。

 水防団は,災害発生時の洪水や高潮等の被害を最小限にくい止めるための活動のほか,水防月間や水防訓練その他の機会を通じて広く地域住民等に対し水防の重要性の周知や水防思想の高揚のための啓発,訓練及び危険箇所の巡回・点検等の活動を行っている。

(3) 水防団の充実強化

 水防団員数は,最近の水防そのものに対する認識の低下と相まって減少傾向にあることに加え,大都市周辺における地域外勤務による昼間不在あるいは季節的地域外勤務による長期不在のため,現実に出動できない団員の増加等が進んでいる。

 このような状況に対処するため,水防管理団体は,毎年,情報伝達訓練,水防技術の習得,水防意識の高揚等を目的とした水防団員等に対する水防演習を実施している。

 また,水防団の活動に関する住民へのPRと水防団への参加を呼びかけるとともに,水防団員の処遇等の改善措置が図られている。

2 住民による自主防災活動の推進

2-1 自主防災組織の設置状況

 自主防災組織は,地域住民が「自分たちの地域は自分たちで守ろう」という連帯感に基づき自主的に結成する組織で,平成12年4月1日現在,全国3,252市区町村のうち2,472市区町村で設置され,その数は9万6,875で,組織率(全国世帯数に対する組織されている地域の世帯数の割合)は56.1%となっている。この組織毎の都道府県毎の値を示すと 表3-2-1 のとおりである。

  (表3-2-1) 都道府県別自主防災組織の組織率(単位:%)

 このほか,「婦人防火クラブ」,「幼年消防クラブ」や「少年消防クラブ」が設置され,全国で様々な活動を行っている。

2-2 自主防災組織の活動

 自主防災組織は,平常時においては防災訓練の実施,防災知識の啓発,防災巡視,資機材等の共同購入等を行い,災害時においては,初期消火,住民等の避難誘導,負傷者等の救出・救護,情報の収集・伝達,給食・給水,災害危険箇所等の巡視等を行うこととしている。

  

 平常時の自主的な防災活動

 神奈川県横浜市港南区の「ひぎり自主防災懇談会」は,小学校・中学校の通学区を範囲にした防災拠点の住民を対象に,毎年,「防災フェアの開催」,「新聞紙を燃料にした炊き出し等の訓練」,「防災ウオーク」,「救急救命等の講習会」,「広報誌の発行」等,地域の防災力の向上に向けた自発的な取り組みを行っている。

  

2-3 自主防災組織の充実強化

 自主的な防災活動が効果的かつ組織的に行われるためには,自主防災組織の整備,災害時における情報伝達・警戒体制の整備,防災用資機材の備蓄,大規模な災害を想定しての防災訓練などの積み重ねなどが必要である。

 「自主防災組織の充実を図ることは市町村の責務」としている災害対策基本法の趣旨を踏まえ,特に市町村においては,今後とも[1]テレビ等による啓発及びリーダー研修会による指導,[2]防災活動用の資機材整備のための助成,[3]防災に関する情報の積極的な提供などの施策の促進と,住民が参加しやすい環境づくりに努め,防災組織の育成と活動の一層の推進を図っていく必要がある。

  

 自主防災組織への支援

 総務省消防庁では,コミュニティ防災資機材等整備事業などにより,市町村の行う自主防災組織活動を支援している。

 静岡市においては,市内のすべての町内会に組織されている自主防災組織を対象に,「避難路や危険個所の確認」,「防災資機材の取扱訓練」,「防災指導員制度の導入」,「防災技能者の育成」,「防災座談会」,「防災委員研修」,「啓発パンフレット配布」及び「防災マップ配布」等を通じて災害時の対応能力の強化を図っている。

  

3 防災とボランティア

3-1 災害時におけるボランティア活動の環境整備

(1) 災害時におけるボランティアの位置付け

 我が国において,災害時におけるボランティア活動の重要性については,雲仙岳噴火災害や阪神・淡路大震災等で多くのボランティアが自主的な救助活動を展開し,災害対策を迅速かつ的確に展開する上でボランティア活動の果たす役割の重要性があらためて認識された。

 このような状況を背景として,国においては,ボランティアの活動環境の整備等のため,次の施策を講じている。

 平成7年7月改訂の「防災基本計画」で,「防災ボランティア活動の環境整備」及び「ボランティアの受入れ」に関する項目が設けられた。

 平成7年12月改正の「災害対策基本法」で,国及び地方公共団体が「ボランティアによる防災活動の環境の整備に関する事項」の実施に努めなければならないことが法律上明確に規定された。

 平成9年2月の閣議決定で,国内において災害時の社会奉仕活動に従事している者が不慮の死を遂げた場合,一定の条件を満たすときは内閣総理大臣が褒賞を行うこととした。

 平成10年12月施行の「特定非営利活動促進法」において,ボランティア団体等のNPO(民間非営利組織)が法人格(特定非営利活動法人)を取得する途が開かれることとなった。

(2) 各機関における取組みの例

 国や地方公共団体においては,ボランティアの活動環境のより一層の整備を図るため,次の取組みを行っている。

[1] 国における取組み

 大規模災害時の公共土木施設の被害情報の迅速な収集と施設管理者への連絡等をボランティアとして行う「防災エキスパート制度」

 土砂災害に関して行政への連絡等を行う「砂防ボランティア制度」と,土砂災害に関する危険箇所の点検,調査等を行う「斜面判定士制度」

 地震発生後,建築技術者による被災建築物の応急危険度判定を行う「被災建築物応急危険度判定制度」

 山地災害に関する情報収集活動等を行う「山地防災ヘルパー制度」

 郵便振替口座の預り金をボランティア団体等へ寄附することを総務大臣に委託する「災害ボランティア口座制度」

 全国の災害ボランティア団体の活動内容等と地方公共団体における災害ボランティアとの連携施策の内容に関する情報をデータベース化する「災害ボランティアデータバンク」

[2] 地方公共団体における取り組み

 各地方公共団体においては,ボランティア活動に関する「地域防災計画での位置づけの明確化」,「受入れ窓口の整備」,「事前登録制度の整備」,「講習会の実施」等の措置を講じている。

(3) 今後の課題に向けた取り組み

 内閣府が平成13年1月に東京都豊島区で開催した「防災とボランティアを考えるつどい」(ボランティア団体等との共催)において,「活動の問題点を洗い出す」目的で行ったシンポジウムで,全国から参加いただいた約30名のボランティア等からは,[1]法令や規約等に基づいて行動しなければならない行政機関や団体等の立場への理解が不足していた,[2]ボランティア活動について被災地住民に説明しないまま行動しようとして反感を受けた,[3]それぞれのボランティアが自分たちの看板や独自性にこだわると連携がうまくいかない,等の問題点が提起された。

 ボランティア活動の一層の推進を図っていくためには,前述のボランティアからの問題提起等を踏まえ,[1]ボランティア活動本部等の迅速な立ち上げと円滑な運営のための行政等とボランティアの連携,[2]ボランティア相互間の調整等の能力を有するコーディネーターの確保,[3]企業・団体等の支援活動との連携,[4]健康管理,などの課題に関しボランティア活動に関わる関係者間での意見交換等を重ねながら,活動環境の整備に取り組むことが重要である。

3-2 防災とボランティアの日・防災とボランティア週間

 阪神・淡路大震災において,ボランティア活動が果たす役割の重要性があらためて認識されたことを踏まえ,平成7年12月15日の閣議了解で「防災とボランティアの日」(1月17日)及び「防災とボランティア週間」(1月15日〜21日)が創設され,この週間において,国及び地方公共団体その他関係団体の綿密な協力のもと,講演会,講習会,展示会等の行事が全国的に実施されている。

 平成13年1月に実施された行事を例示すると,次のとおりである。

[1]

 兵庫県は,阪神・淡路大震災の6周年行事として,1月17日に神戸市で「1.17ひょうごメモリアルウオーク」を開催し,一般市民が参加しての「山手ふれあいウオーク・防災訓練」等を行った。

[2]

 福岡県は,1月17日に,講演とボランティア関係写真展等を内容とする「防災安全講習会」,1月19日に,災害対策の検証と実効性の確保を図るための「災害図上訓練」を行った。

[3]

 内閣府は,1月20日〜21日に東京災害ボランティアネットワーク等との共催で,東京都豊島区(池袋)において「防災とボランティアを考えるつどい」を開催し,「シンポジウム」,「負傷者対応訓練」などの行事を行った。

3-3 平成12年度における災害時のボランティア活動事例

(1) 北海道有珠山噴火災害(平成12年3月)

 この災害におけるボランティア活動は,3月31日に設置された「北海道有珠山福祉救援ボランティア活動対策本部」(北海道庁)及び伊達,豊浦,長万部の各現地対策本部を中心に展開された。

 7月31日までのボランティア等は延べ8,500名余で,避難所の世話・警備・管理,被災者の心のケア,情報発信,広報誌配布,物資輸送・配布,引越し手伝い,除灰作業等の活動を行った。

 なお,その後においても,ボランティアによる「湯たんぽ配り」や激励訪問等が繰り返されている。

(2) 東京都三宅島等での火山及び地震活動(平成12年6月)

 三宅島の場合は,7月22日〜23日に,東京災害ボランティアネットワークを中心に136名のボランティアが現地で,各家屋の火山灰の除去作業等の活動を行った。また,住民の島外避難後は,東京災害ボランティアネットワーク及び避難先となっている各地域の福祉ボランティア等が中心となって,避難している方々の電話帳の作成,広報誌の発行,地域でのふれあい集会の開催等の活動を行っている。

(3) 東海地方での大雨による被害(平成12年9月)

 洪水発生直後の9月12日には「愛知・名古屋水害ボランティア本部」(愛知県庁)が設置されるとともに,14日に名古屋市,大府市及び新川町等に「ボランティアセンター」が設置された。延べ19千人余のボランティアが駆けつけて,家具の移動,がれきや土砂の撤去,清掃,避難所の世話,子供のケア,高齢者の介護等の活動を行った。

(4) 鳥取県西部地震(平成12年10月)

 鳥取県においては,災害直後から鳥取県社会福祉協議会及び関係市町村の社会福祉協議会を中心にボランティアセンターが開設され,延べ5,200名を越えるボランティアが駆けつけた。託児所の支援,高齢者・障害者の介護,避難所の世話,家具・部屋・ブロック塀などの片づけ,屋根のシート張り,泥の撤去,家屋周辺の清掃等の活動を行った。

 また,鳥取県及び島根県の「砂防ボランティア」(延べ40名)が,地震発生の翌日から二次的な土砂災害を防止するための活動を行った。

(5) 芸予地震(平成13年3月)

 広島県呉市等においては,災害直後からボランティアセンターが開設され,延べ1,200名のボランティアが駆けつけ,がれきの除去,屋根のシート張り,家屋周辺の清掃等の活動を行った。

 また,愛媛県,広島県,山口県及び高知県の「砂防ボランティア」(延べ82名)が,地震発生の翌日から二次的な土砂災害を防止するための活動を行った。

4 企業防災活動

4-1 企業防災の役割

 災害に見舞われた企業は必ず経済的影響を受け,その影響は一企業のみならず,政府やコミュニティ,一般住民までもが長期的に影響を受ける。しかしながら,景気の低迷,業績低迷による管理コストの削減に伴い,目に見える収益性の伴わない「企業防災」に対して,企業としては積極的に取り組めないのが現状である。企業ではコンピュータ化が進み業務も効率化されるなどのビジネス環境の変化に伴い,防災対策及び災害時の対応策では,従来の考え方では対応できない段階に来ている。特にいわゆるIT革命による取引時間の短縮や電子決済の普及により,非常時の通信回線の確保や電子情報のバックアップ等の防災対策が必要である。

 平成7年7月に改訂された防災基本計画に位置付けられている企業の防災活動には,[1]従業員,顧客の安全確保,[2]事業活動の維持と社会経済の安定,[3]地域防災活動の貢献,の3つの重要な役割を位置づけているが,具体的に実践されている企業はどの程度あるか精査し,不備な点は改善する努力が必要である。

(1) 従業員,顧客の安全確保

 従業員,顧客の安全対策は,施設の耐震化,備品・機器の転倒・落下防止対策,避難路の確保などハード面と従業員の防災教育,マニュアルの周知徹底,防災訓練などのソフト面の二つに分けられる。

 特に,ソフト対策に関しては整備が遅れているのが現状であり,今後は,計画書及びマニュアル,チェックリストなど必要なものを整備していく必要がある。

 それ以外にも,従業員の家族や,取引業者に対する安全対策や安否確認なども盛り込む必要がある。

(2) 事業活動の維持と社会経済の安定

 事業活動を維持する事が,雇用の確保や取引企業の混乱(事業活動維持・倒産等)を防止し,長期的には被災地内外の社会経済の安定や早期復旧・復興につながる。[1]事業活動を維持するための具体的な取り組み,[2]事業活動の中断を最小限にとどめるための対策,[3]取引先,顧客に対する影響を最小限にとどめるための対策等を事前に準備しておくことが重要である。

(3) 地域防災活動の貢献

 企業は,自社の災害対策だけでなく,コミュニティの一員としての役割を果たすことも大切である。企業の持っている資源や特性(業種・業態)を生かし,[1]災害時の物資の支援,[2]行政,住民,ボランティアとの連携,[3]平常時からの災害をテーマにした地域住民との交流などが,これからの企業の課題である。

4-2 企業防災の現状

 平成13年1月,内閣府は委託調査により,企業防災に対する社員の意識の現状と防災計画,マニュアルの現状を把握するために上場(一部・二部・店頭公開)企業全業種3,482社に対して,アンケートを実施した。しかしながら,回収率は6.3%にとどまり,企業の防災意識の低さを露呈する結果となった。以下は,回収分について結果をとりまとめたものである。

 企業防災計画,マニュアルの存在,内容,保管場所等について質問した( 図3-4-1 , 図3-4-2 , 図3-4-3 )。

  (図3-4-1) 企業防災計画,マニュアルの存在を知っているか

  (図3-4-2) 企業防災計画,マニュアルの内容を理解しているか

  (図3-4-3) 企業防災計画,マニュアルの保管場所がわかるか

 企業防災計画,マニュアルの存在については,一般社員にも浸透しているが(74%),内容については,一般社員(41%),経営者(60%)の理解及び浸透度が低い。また,保管場所についても同様の傾向が見られ,管理者がいない場合は防災計画,マニュアルが機能しない可能性がある。

 企業防災計画,マニュアルに記載されている目次の項目については,従業員,顧客の安全確保はほぼ網羅しているが,事業活動の維持と社会経済の安定については,半数程度が記載されておらず,地域防災活動の貢献に至っては4分の1程度しか記載されていない( 図3-4-4 )。

  (図3-4-4) 企業防災計画,マニュアルに記載されている目次の項目

 企業防災計画,マニュアルの想定している災害規模については,阪神・淡路大震災後,各企業が見直しを行ったにもかかわらず,3分の1程度の企業が震度5程度しか想定していない。長期的なライフラインの寸断など大規模災害を想定していないことが伺える( 図3-4-5 )。

  (図3-4-5) 企業防災計画,マニュアルの想定している災害規模

 特に,8割の企業は本社が使用可能という前提での防災計画,マニュアルになっており,自社の建物が倒壊した場合,別の場所で業務を継続するといった体制が整っていない。

 企業防災計画,マニュアルの想定している災害対応の時間については,発災直後(数分後)及び応急対応(72時間後)の従業員,顧客の安全確保を中心とした内容にとどまり,事業活動の維持と社会経済の安定を図るための復旧(数ヶ月),復興対応(数年)に関する記載が少ない( 図3-4-6 )。

  (図3-4-6) 企業防災計画,マニュアルの想定している時間

 特に,壊滅的に被災した場合の企業の方向性を示す復興計画が,ほとんどの企業で想定されていない。

4-3 企業防災の課題

 今までの企業防災の考え方は,災害を防止し被害を少なくするための予防対策と,発生直後に対応するための応急対応が中心に行われてきた。しかしながら,これからは事業を復旧,再開するための計画も防災計画,マニュアルとして準備することが重要である。今後,ますます「グローバル化」「情報化」「ネットワーク化」「IT化」が進んでいくと考えられる。その結果,ほんの数分間のビジネスの中断が自社の金銭的な損失だけではなく,周りの企業や地域社会全体に大きな影響を与える可能性が高いのである。神戸の事例をみても,地震災害による経済的影響は長期的に企業,行政,住民に爪あとを残している。

 また,企業には営利活動組織としての位置付けだけではなく,地域社会に貢献するという企業使命に基づき,災害時に企業の持つ資源(人・物・金・情報)を提供したり,支援したりする体制を整える必要があり,コミュニティの一員としての役割を果たすことが期待される。地域防災活動は一行政・一企業・一個人の取組みだけではなく,企業が行政との相互協力により,積極的にコミュニティを支援することにより災害に強いコミュニティが出来上がる。この為にも企業は災害に見舞われても社員の安全を確保し,事業を継続し,組織として存続し続ける対策をとる必要がある。

第4章 世界の自然災害と国際防災協力

1 世界の自然災害の状況

1-1 長期的な自然災害の状況

 自然災害が世界各地で発生し,多くの人命と財産が失われている。特に開発途上地域では,都市化が進む一方で,遅れた基盤整備が災害への脆弱性を高めている。

 ベルギーのルーバン・カトリック大学疫学研究所(CRED http://www.cred.be/emdat/intro.html)の自然災害に関する統計では,1975年から1999年までの25年間に,全世界で少なくとも延べ約37億人が被災し,約150万人の生命が奪われた。特に1990年代に入り,1999年の中米諸国及び米国南部を襲ったハリケーン・フロイド等,先進国を大きな災害が見舞ったため,直接被害額は,約9,520億ドルに上っている( 図4-1-1 )。

  (図4-1-1) 世界の自然災害発生頻度及び被害状況の推移

 近年の自然災害は,台風・サイクロン・洪水といった風水害によるものが多く,特にアジア地域で大きな被害をもたらしている( 表4-1-1 )。

  (表4-1-1) 近年に発生した主な自然災害の状況

 アジア地域では,各国政府の災害防止,予防及び軽減のための多大な努力にもかかわらず,近年においても毎年,数か国で死者・行方不明者が数千人を超える被害が続いており,この30年間の世界全体に占めるアジア地域の災害の発生状況をみると,災害発生件数で世界の約4割,被災者数で同約9割,直接被害額で同約5割と,大きな割合を占めている( 図4-1-2 )。

  (図4-1-2) 1995-1999世界の自然災害の地域別比較

 開発途上国における大規模な自然災害の発生によって,特に多数の人命を失うだけではなく,これまで実施してきた経済開発等に障害をもたらすことが認識されるようになり,この被害を軽減することが,地球環境の保全や持続可能な開発の推進という観点からも国際的に大きな課題となっている。

1-2 最近起こった主な災害

 2000年以降に発生した主な自然災害は( 表4-1-2 )のとおりであり,そのうち被害の大きなものは次のとおりである。

  (表4-1-2) 2000年以降に起こった主な自然災害(2001年2月現在)

(1) 中央アジア・南アジアの干ばつ

 中央及び南アジアを,7月から,厳しい干ばつが襲った。アフガニスタン,インド,イラン,パキスタン,タジキスタンが強い影響を受け,モンゴルやシリア等にまで影響が及んだ。

 特に被害の大きかったタジキスタンでは,620万人の人口のうち300万人が食糧不足に陥ったほか,2000年の穀物生産は対前年46%減少し,国民の3か月分の食糧消費量にしか満たない23万6000トンにとどまった。

(2) インドの洪水

 6月中旬から8月にかけ,南アジア諸国を季節風による豪雨が引き起こす大規模な洪水と地すべりが襲った。ベキ川(アッサム地方)では1978年以来の洪水レベルを記録したほか,各地で危険水位となった。また,8月末にはインド南部のアンダラ・プラデシュ地方で47年ぶりの大雨を記録した。これにより,最も被害の大きかった西ベンガル地方だけで,520名が死亡,207名が行方不明,被災者は1,780万人に及び,家屋140万戸に被害が出たほか,家畜や穀物にも甚大な影響を与えた。被害額の合計は約6億8,000万ドルとなっている。

(3) 東南アジアの洪水

 平成12年は,東南アジアに例年より早くモンスーンのシーズンが到来したため,多くの国で豪雨による洪水被害が発生した。ベトナムでは,9月にはメコン川が洪水危険水位へと急上昇し,ベトナム政府は地方自治体と協力し,住民避難や緊急時対応等の被害軽減措置をとったが,その後も水位は上がりつづけ,70年ぶりの長期かつ厳しい水害を引き起こした。洪水は10月末まで続き,その後,水位が下がるまでには2ヶ月を要した。政府は地方自治体に対して約530万ドルの緊急援助を出して対策に当たったが,この洪水により,453人が死亡,500万人以上が被災し,被害額は2億7,140万ドルに及んだ。カンボジアでも,70年ぶりの洪水となった。政府は地方自治体との協力の下,被災地への食料支援などを行ったが,死者347名,被災者は全国民の30%を超える約345万人以上となった。

(4) エルサルバドルの地震

 中米エルサルバドルの首都サンサルバドルの南西約100kmの沖合いで,平成13年1月13日,マグニチュード7.6の地震が発生した。この地震による死者は844人,132万人以上が被災した。フランシスコ・フローレス大統領は国家非常時代を宣言,住民救出のための国際協力を呼びかけ,これに応じてアメリカ,スペイン等多数の国から合計約1700万ドル(専門家の派遣などの金銭換算できないものを除く。)相当の援助が行われた。さらに,2月13日にもマグニチュード6.1の地震が発生し,死者315人,負傷者2,937人等の被害が出たほか,一部地域では家屋倒壊や崖崩れが発生しており,救助活動が難航した。

(5) インドの地震

 2001年1月26日現地時間午前9時頃,マグニチュード6.9の地震がインドの西部,パキスタン国境沿いにあるクジャラート州を襲った(米国地質学研究所によればマグニチュード7.9)。人口15万人のブジ市,バチュウ市で最も被害が大きく,ほとんど全ての建物,インフラが破壊された。死者は2万0,005人,負傷者約16万6,000人,総被災者数は約1,590万人で,全壊家屋約37万戸,一部損壊家屋約92万戸などの被害が生じた(2001年3月20日付インド政府発表に基づく)。

 インド政府は,ヴァジパイ首相が主宰する「国家災害対策委員会」を開催するなど,国をあげての対応を行い,インド軍を中心に救援活動・各種資材,食糧,燃料,医薬品等の輸送を行った。

 これに対し,インド政府によれば,51か国及び様々な国際機関が人的又は物的支援を実施した。

2 国際防災戦略の推進

(1) 「国際防災の10年」の総括

 1990年より国連を中心として進められた「国際防災の10年」の活動は,140を超える各国国内委員会等の積極的な支援の下,1999年末をもって終了した。わが国は,平成元(1989)年に,内閣総理大臣を本部長とする国際防災の10年推進本部を設置し,同活動を推進した。具体的には,中間年である平成6(1994)年に国連の「国際防災の10年世界会議」(横浜)を招聘したほか,平成11(1999)年の「国際防災の10年記念シンポジウム」等9つの国際会議を開催した。また,防災分野における国際協力のための調査,各種広報活動等を実施した。特に,アジア地域の多国間防災協力を推進するため,1998年7月,神戸市にアジア防災センターを創設した。

 コフィー・アナン国連事務総長は,1999年9月に開催された第54回国連総会の事務総長報告において,本活動が極めて有効かつ先駆的であったと称賛する一方,自然災害による犠牲者は減少しておらず,1998年1年間で約5万人が犠牲になったと報告した。このような状況を踏まえ,「国際防災の10年」中に実施された先駆的作業の継続が不可欠であること,また,災害予防戦略,災害予防の文化が重要であることを強調した。

(2) 国際防災戦略の実施

 平成11年11月1日,国連総会において,国連事務総長から国際防災の10年を継承する新しい「国際防災戦略(ISDR)」活動を実施すること,同活動を進める国連の組織・体制を整備すること,国際防災の10年を契機に設立された各国の国内委員会の維持強化を図ることなどが提示された。

 国際防災戦略の目的としては,1)現代社会における災害対応力の強いコミュニティの形成,2)災害後の対応中心から災害の予防・管理への進化の2点があげられている。また,活動の骨格として,1)現代社会における災害リスクについての普及・啓発,2)災害防止に対する公的機関の主体的参画の促進,3)災害に強いコミュニティの形成に向けた地域住民の参画の促進,4)社会経済的損失の減少に向けた取り組みの強化等の4つの柱が報告された。

 平成11年12月,本活動案を支持する決議が国連総会において採択され,活動を進める国連の組織・体制として,国連人道問題担当事務次長の下に国際防災戦略事務局が12年1月に設置された。事務局は,国連による国際防災協力活動の窓口,別途設置された評議委員会(タスク・フォース)の作業の支援,防災に関する意識啓発活動,防災に関する情報や知識の所在源情報の提供,各国国内委員会の活動の支援等を担当している。

 同活動の評議委員会は,国連人道問題担当事務次長を議長,国際防災戦略事務局長を書記とし,国連機関の8名,学識経験者の8名,地域代表の6名から構成され,国連における防災戦略及び政策の提案,施策の効果の把握,他機関が実施する施策の調整,事務局に対する政策面での指導,防災に関する専門家会合の開催等を行うこととされた。

 同評議委員会は,2000年の4月と10月に開催され,エルニーニョ及び気候変動と災害等3つのワーキンググループを創設したほか,国際防災戦略活動の骨格を上述の4つの柱を中心として推進していくことを明確にした。

(3) 我が国の対応

 我が国においては,平成11年12月に「国際防災の10年」記念シンポジウムを東京で開催し,本10年活動の総括的な討論を行った。同シンポジウムではブレ国連国際防災の10年事務局長から今後の活動についての紹介があるとともに,引き続き我が国が国際防災戦略活動の先導的役割を果たすことを強く期待する旨の発言があった。

 その後,国連における体制整備がなされるのを受けて,平成12年5月,内閣府政策統括官(防災担当)(国土庁防災局長(当時))を議長とし,関係省庁の課長クラスをメンバーとする「国際防災連絡会議」を設置し,積極的に同活動を推進している。具体的には,同年12月に「国際防災連絡会議拡大アジア会合」を東京で開催し,アジア地域20か国の防災担当者等と同活動の推進等について意見交換を行った。

 また,平成13年2月には,「世界防災会議2001」を兵庫県で開催し,阪神・淡路大震災を含む災害の教訓について,特に復興問題に着目しつつ意見交換を行った。会議では,世界的な防災に関する取組みを行っている「国連」,「OECD」,「世界銀行」の担当者が一堂に会し,今後の連携,協力について意見交換を行い,今後も継続的に議論を進めていくこととなった。本会議には,大島人道問題担当国連事務次長からメッセージが寄せられ,神戸が国際的な防災,人道援助の拠点として成長していくことを期待するとの展望が示された。

3 アジア地域における多国間防災協力の推進

3-1 アジア防災センター設立の経緯

 平成6年,国連の「国際防災の10年世界会議」において,災害脆弱性に多くの共通的側面を有する地域においては関係各国の協力の下,災害情報の収集・提供等を行う地域センターを創設することが提唱された(横浜戦略)。

 特に,我が国は,阪神・淡路大震災以前から,アジア諸国に対して防災分野における様々な国際協力,支援を行っていたが,この大震災で得た多くの教訓についても広く各国に紹介していくことが防災分野における重要な国際貢献の一つと認識された。

 このような状況を背景として,平成7年12月,「アジア防災政策会議」を開催してアジア地域における多国間防災協力の推進方策等を討議した。さらに平成8年10月及び平成9年6月,防災センター機能を有するシステムの創設及びその活動内容について協議するため,局長級の専門家会合(それぞれ「アジア防災専門家会議」,「アジア防災協力推進会合」)を開催し,アジア防災センターを設け,( 表4-3-1 )に掲げた活動を行うことが決定された。

  (表4-3-1) アジア防災センターの活動内容(要約)

 アジア防災センターは,平成10年7月30日,兵庫県神戸市において開所し,活動を開始したが,同センターは,横浜戦略を契機として設立されたものであり,国際防災の10年の期間中における我が国の多国間防災協力に関する大きな成果の一つとして位置づけられる。

(注)

 メンバー国は,現在以下のとおりとなっている。

メンバー国:

 バングラデシュ,カンボジア,中国,インド,インドネシア,日本,カザフスタン,ラオス,マレーシア,モンゴル,ミャンマー,ネパール,パプアニューギニア,フィリピン,大韓民国,ロシア,シンガポール,スリランカ,タジキスタン,タイ,ウズベキスタン,ベトナム,アルメニア

オブザーバー:

 ADPC(アジア災害防止センター)

アドバイザー国:

 オーストラリア,フランス,ニュージーランド,スイス

3-2 アジア防災センターの活動内容と今後の取組

(1) アジア防災センターの活動

 アジア防災センターは,アジア地域の被害軽減に資するため,防災関連情報を共有する情報センターとして活動しており,設立以来ほぼ3年余を経過し,23カ国に及ぶメンバー国とのネットワークを構築して,多国間防災協力を推進している。

 インターネット上のホームページ(http://www.adrc.or.jp/)等を活用して,防災情報ネットワークを構築し,最新災害情報,災害対策事例,各国の防災体制,防災専門家や行政官等の人材情報等を体系的に集積,データベース化するとともに,各国へ発信している。また,世界中で20世紀に発生した自然災害の概況,アジア地域と他地域との比較,アジア地域で発生したすべての自然災害のリスト等を網羅したデータブックを発刊し,情報提供に努めている。

 ネットワーク形成の基本的要素であるヒューマンネットワークの形成として,現地調査,アジア防災センター専門家会議等の開催を通じた防災行政の人的ネットワークの構築,防災に関する国際会議等への参加等を通じた関係機関との協力関係の樹立等,ネットワークの拡大を推進している。同センターは平成11年2月,12月,平成12年12月に,各国防災担当者及び関係機関等の専門家を招聘した専門家会議を開催し,参加者間の信頼関係の醸成と協力関係の強化を図るとともに,各国の防災情報並びにニーズとシーズに関する情報の共有化を推進している。また,同センターは世界災害情報ネットワーク(GDIN)会合をはじめ国際防災協力推進のための国際会議にも積極的に参加している。

(2) 第3回アジア防災センター専門家会議

 平成12年12月,第3回アジア防災センター専門家会議が開催され(参加26カ国,6機関),「アジア地域における防災協力の推進」,「最近の災害に学ぶ国際緊急援助」及び「防災情報共有化の推進」をテーマに意見交換が行われた。その結果,各国の実状に応じた一層の防災協力の推進,災害時の各国の対応と国際緊急援助の一層の連携を図ること,さらにこれらの活動を支援するため,インターネット等を駆使してその基礎となる災害情報・防災情報の共有化を推進していくこと等で意見の一致をみた。

 今後も引き続き,同センターを中心に,参加国・機関が持てる資力と能力を駆使して防災国際協力を推進し,21世紀のアジア地域における自然災害被害の軽減防止を実現していくことが期待される。

4 国際防災協力の現状

4-1 国際防災協力の体制と現況

(1) 世界的な国際防災協力の体制

 国際的な防災協力は,国連機関,各国政府,国際赤十字・赤新月運動,非政府機関(NGO)等によって進められている。

 防災に関する国連の活動は,[1]緊急援助,[2]災害予防,[3]研究開発の3つの分野に分けられる。国際協力を必要とするような災害が発生した場合の緊急援助は,国連人道問題調整事務所ジュネーブオフィス(OCHA-GENEVA http://www.reliefweb.int/w/rwb.nsf)が行っている( 図4-4-1 )。

  (図4-4-1) 災害時における救済活動の体制

 また,先進諸国における国際防災協力,特に災害時の緊急援助の体制としては,アメリカ合衆国の海外災害援助室(OFDA),ドイツにおける技術救援活動隊(THW),スイスの災害救助隊(SDR),フランスの緊急援助・警戒室等がある。国際赤十字・赤新月運動の中では,世界176か国に存する赤十字社及び赤新月社からなる国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)が,防災協力,災害時の緊急援助等を行っている。

(2) 我が国の国際防災協力の体制

 我が国の国際防災協力は,政府機関を中心に多くの機関が連携をとりながら実施している。政府部門においては,国際協力事業団(JICA),国際協力銀行(JBIC)及び外務省が,防災分野の技術協力,資金協力の実施に当たり大きな役割を担っている。また,災害発生時には,国際緊急援助隊(JDR)の派遣,緊急援助物資の供与及び無償資金協力による緊急無償資金援助が行われている。また,日本赤十字社をはじめとする民間団体が災害時の緊急援助を行っている。

(3) 我が国の国際防災協力の現況

 我が国政府の国際防災協力は,a.技術協力,b.無償資金協力,c.有償資金協力,d.国連機関等を通じての協力に大別される。

a 技術協力

(a)

 研修

 開発途上国の技術者や行政官等を研修員として我が国に受け入れ,防災分野の専門的知識・技術の移転を行うことを目的として,様々な研修を行っている( 表4-4-1 )。

  (表4-4-1) 平成12年度集団研修実績における防災関係の主な事例

 また,国際協力事業団(JICA)は,開発途上国において当該国及びその周辺国の技術者等を対象とした第三国研修を実施している( 表4-4-2 )。

  (表4-4-2) 平成12年度第三国研修における防災関係の事例

(b)

 専門家派遣

 国際協力事業団(JICA)は,開発途上国に専門家を派遣し,現地での防災に関する技術移転を行っている。

(c)

 プロジェクト方式技術協力

 国際協力事業団(JICA)は,専門家の派遣研修員の受入れ及び機材の供与という3つの協力形態を組み合わせて一つの事業として実施するプロジェクト方式技術協力を実施している( 表4-4-3 )。

  (表4-4-3) プロジェクト方式技術協力事業における最近の防災関係の事例

(d)

 開発調査事業

 開発途上国における開発計画の推進に寄与するため,我が国は開発調査事業として,様々な防災事業に関連する可能性調査あるいは基本計画の策定等について協力を実施している。

(e)

 国際緊急援助

 開発途上国を中心とした海外で大規模な災害が発生した場合に,国際緊急援助隊(JDR)の派遣や緊急援助物資の供与など緊急援助活動を行うものを国際緊急援助という。

 国際緊急援助隊(JDR)は救助チーム,医療チーム,専門家チーム及び自衛隊の部隊等からなり,被災国の要請,災害の種類・規模等に応じて単独または適宜組み合わせて派遣されている( 表4-4-4 )( 表4-4-5 )。

  (表4-4-4) 国際緊急援助隊の派遣及び救援物資供与の実績(1)

  (表4-4-5) 国際緊急援助隊の派遣及び救援物資供与の実績(2)

 また,被災者の救援のために,毛布,テント,浄水器,簡易水槽,発電機,医薬品,医療機材などの緊急援助物資を供与している。これらの物資を迅速かつ確実に供与するため,物資の備蓄倉庫を成田,シンガポール,メキシコシティ,ロンドン(英国),ワシントン(米国)に設置している。

 平成13年1月に発生したエルサルバドル地震においては,国際緊急援助隊として,医療チームが発災後直ちに派遣されたほか,テント,毛布,簡易水槽,発電機等の物資供与,緊急無償援助等が行われた。

 また,同月に発生したインド西部地震の場合は,国際緊急援助隊として医療チーム,自衛隊部隊等が派遣されたほか,緊急援助物資の供与,緊急無償援助等がなされた。

b 無償資金協力

 無償資金協力とは,被援助国(開発途上国)に返済義務を課さないで資金を供与するものである。この無償資金協力の中で,海外での災害発生時において被害状況を迅速に把握し,物資の購入等のため必要な資金を供与する緊急無償資金援助を実施している。さらに,防災及び災害復旧関連の施設や機材の整備等に対しても無償資金協力により援助が行われている。

c 有償資金協力

 有償資金協力(円借款)は,被援助国(開発途上国)に対し長期低利の緩やかな条件で,開発資金を貸し付けるものである。防災関係の有償資金協力としては,治水(洪水対策)事業に対するもの等がある。

d 国連機関等を通じての協力

 我が国は,国連国際防災戦略事務局や国際赤十字・赤新月社連盟などの国連機関・国際機関等への出資,拠出を通じても,国際防災協力に寄与している。

4-2 日米地震防災政策会議

 地球的規模の課題に対処するための日米協力のための枠組みである「コモン・アジェンダ」の一環として,阪神・淡路大震災とノースリッジ地震の経験と教訓を専門家レベルの交流を通じて日米両国で共有し,地震防災問題への取組みに役立てるため,日米地震シンポジウムが平成8年にワシントン,平成9年に神戸市で開催された。

 日米地震防災政策会議(ハイレベル・フォーラム)は,日米地震シンポジウムの成果を踏まえ,日米の地震防災政策分野におけるより緊密な協力関係を築くことを目的として第2回シンポジウムにおいて設置が決定され,第1回会議は平成10年10月にシアトル,第2回会議は平成11年11月に横浜市において開催された。

 第3回日米地震防災政策会議は平成12年11月2〜4日にサンフランシスコにおいて開催され,これまでの成果のとりまとめ,事前・予防対策の具体化を図るための方策,津波災害に関する情報及び経験,近年世界各地で起きた大規模地震災害から得られた知見や今後の協力のあり方などをテーマとして討論された。

 また共同発表では,今後,二国間での情報交換の多様化等を通じてより一層緊密に地震防災政策分野における協力を行っていくことなどが示された。( 写真 )

  (写真) 第3回日米地震防災政策会議

4-3 日韓防災会議

(1) 日韓防災会議の経緯

 1998年10月8日の日韓首脳会談の際に,小渕総理大臣(当時)と金大中大統領が「日韓共同宣言」及びその付属書「21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップのための行動計画」を取り交わし,そのうち行動計画の中で,「両国は,両国の災害への対応に関連する制度,防災体制及び施設についての情報・意見交換を通じ,協力を推進する」こととされた。

 このこと等を踏まえ,平成11年12月4日,東京において,国土庁防災局と韓国行政自治部防災局との間で第1回会議を開催し,両国の防災体制,過去の災害の教訓などについて意見交換を行った。

(2) 第2回会議の開催

 平成13年1月,ソウルにおいて第2回会議が開催された。同会議では,両国の水害予防施策,発生後の復旧・復興対策等について意見交換を行うとともに,今後の課題として以下の点について合意した。

 今後,[1]防災に対する相互情報交換及び支援策,[2]防災担当公務員の相互派遣制度導入案,[3]国際防災協力への貢献等について事務レベルで協議していく。

 2001年は日本で第3回会合を開催する。

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.