表示段落: 第1部/第3章/4


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4 企業防災活動

4-1 企業防災の役割

 災害に見舞われた企業は必ず経済的影響を受け,その影響は一企業のみならず,政府やコミュニティ,一般住民までもが長期的に影響を受ける。しかしながら,景気の低迷,業績低迷による管理コストの削減に伴い,目に見える収益性の伴わない「企業防災」に対して,企業としては積極的に取り組めないのが現状である。企業ではコンピュータ化が進み業務も効率化されるなどのビジネス環境の変化に伴い,防災対策及び災害時の対応策では,従来の考え方では対応できない段階に来ている。特にいわゆるIT革命による取引時間の短縮や電子決済の普及により,非常時の通信回線の確保や電子情報のバックアップ等の防災対策が必要である。

 平成7年7月に改訂された防災基本計画に位置付けられている企業の防災活動には,[1]従業員,顧客の安全確保,[2]事業活動の維持と社会経済の安定,[3]地域防災活動の貢献,の3つの重要な役割を位置づけているが,具体的に実践されている企業はどの程度あるか精査し,不備な点は改善する努力が必要である。

(1) 従業員,顧客の安全確保

 従業員,顧客の安全対策は,施設の耐震化,備品・機器の転倒・落下防止対策,避難路の確保などハード面と従業員の防災教育,マニュアルの周知徹底,防災訓練などのソフト面の二つに分けられる。

 特に,ソフト対策に関しては整備が遅れているのが現状であり,今後は,計画書及びマニュアル,チェックリストなど必要なものを整備していく必要がある。

 それ以外にも,従業員の家族や,取引業者に対する安全対策や安否確認なども盛り込む必要がある。

(2) 事業活動の維持と社会経済の安定

 事業活動を維持する事が,雇用の確保や取引企業の混乱(事業活動維持・倒産等)を防止し,長期的には被災地内外の社会経済の安定や早期復旧・復興につながる。[1]事業活動を維持するための具体的な取り組み,[2]事業活動の中断を最小限にとどめるための対策,[3]取引先,顧客に対する影響を最小限にとどめるための対策等を事前に準備しておくことが重要である。

(3) 地域防災活動の貢献

 企業は,自社の災害対策だけでなく,コミュニティの一員としての役割を果たすことも大切である。企業の持っている資源や特性(業種・業態)を生かし,[1]災害時の物資の支援,[2]行政,住民,ボランティアとの連携,[3]平常時からの災害をテーマにした地域住民との交流などが,これからの企業の課題である。

4-2 企業防災の現状

 平成13年1月,内閣府は委託調査により,企業防災に対する社員の意識の現状と防災計画,マニュアルの現状を把握するために上場(一部・二部・店頭公開)企業全業種3,482社に対して,アンケートを実施した。しかしながら,回収率は6.3%にとどまり,企業の防災意識の低さを露呈する結果となった。以下は,回収分について結果をとりまとめたものである。

 企業防災計画,マニュアルの存在,内容,保管場所等について質問した( 図3-4-1 , 図3-4-2 , 図3-4-3 )。

  (図3-4-1) 企業防災計画,マニュアルの存在を知っているか

  (図3-4-2) 企業防災計画,マニュアルの内容を理解しているか

  (図3-4-3) 企業防災計画,マニュアルの保管場所がわかるか

 企業防災計画,マニュアルの存在については,一般社員にも浸透しているが(74%),内容については,一般社員(41%),経営者(60%)の理解及び浸透度が低い。また,保管場所についても同様の傾向が見られ,管理者がいない場合は防災計画,マニュアルが機能しない可能性がある。

 企業防災計画,マニュアルに記載されている目次の項目については,従業員,顧客の安全確保はほぼ網羅しているが,事業活動の維持と社会経済の安定については,半数程度が記載されておらず,地域防災活動の貢献に至っては4分の1程度しか記載されていない( 図3-4-4 )。

  (図3-4-4) 企業防災計画,マニュアルに記載されている目次の項目

 企業防災計画,マニュアルの想定している災害規模については,阪神・淡路大震災後,各企業が見直しを行ったにもかかわらず,3分の1程度の企業が震度5程度しか想定していない。長期的なライフラインの寸断など大規模災害を想定していないことが伺える( 図3-4-5 )。

  (図3-4-5) 企業防災計画,マニュアルの想定している災害規模

 特に,8割の企業は本社が使用可能という前提での防災計画,マニュアルになっており,自社の建物が倒壊した場合,別の場所で業務を継続するといった体制が整っていない。

 企業防災計画,マニュアルの想定している災害対応の時間については,発災直後(数分後)及び応急対応(72時間後)の従業員,顧客の安全確保を中心とした内容にとどまり,事業活動の維持と社会経済の安定を図るための復旧(数ヶ月),復興対応(数年)に関する記載が少ない( 図3-4-6 )。

  (図3-4-6) 企業防災計画,マニュアルの想定している時間

 特に,壊滅的に被災した場合の企業の方向性を示す復興計画が,ほとんどの企業で想定されていない。

4-3 企業防災の課題

 今までの企業防災の考え方は,災害を防止し被害を少なくするための予防対策と,発生直後に対応するための応急対応が中心に行われてきた。しかしながら,これからは事業を復旧,再開するための計画も防災計画,マニュアルとして準備することが重要である。今後,ますます「グローバル化」「情報化」「ネットワーク化」「IT化」が進んでいくと考えられる。その結果,ほんの数分間のビジネスの中断が自社の金銭的な損失だけではなく,周りの企業や地域社会全体に大きな影響を与える可能性が高いのである。神戸の事例をみても,地震災害による経済的影響は長期的に企業,行政,住民に爪あとを残している。

 また,企業には営利活動組織としての位置付けだけではなく,地域社会に貢献するという企業使命に基づき,災害時に企業の持つ資源(人・物・金・情報)を提供したり,支援したりする体制を整える必要があり,コミュニティの一員としての役割を果たすことが期待される。地域防災活動は一行政・一企業・一個人の取組みだけではなく,企業が行政との相互協力により,積極的にコミュニティを支援することにより災害に強いコミュニティが出来上がる。この為にも企業は災害に見舞われても社員の安全を確保し,事業を継続し,組織として存続し続ける対策をとる必要がある。

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