表示段落: 第1部/第2章/8


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8 事故災害対策

 平成11年の鉄道,宇宙開発,原子力災害等の事故災害の多発に対応し,同年10月に内閣官房副長官を議長とし,関係省庁の局長等を構成員として「事故災害防止安全対策会議」が設置された。同会議は,事故の背景に共通して存在する組織管理,検査点検,従事者の教育訓練等の問題点を洗い出し,それらに対する今後の共通的対応方策を検討し,同年12月に報告書をとりまとめた。同報告書に基づき,関係省庁は所管事業に係る個別的,具体的な安全対策についての取組みを行い,同会議は12年6月,その実施状況を取りまとめて公表した。

8-1 海上災害対策

(1) 海上災害の現況

 我が国の周辺海域では,原油や液化ガス等が専用船により大量に海上輸送され,さらには貨物船,漁船等様々な船舶がふくそうしている状況にある。このため,船舶の衝突,沈没等による災害が発生する危険性が増大してきており,また,ひとたび災害が発生した場合には,海洋汚染等重大な被害を及ぼすおそれが大きくなっている。

 このような状況の中,平成9年1月のナホトカ号海難・流出油災害(重油約6,240kl流出),同年7月のダイヤモンドグレース号流出油事故(原油約1,550kl流出)といった大規模な油流出事故が発生している。

(2) 海上災害対策

 危険物積載船舶の海上交通及び荷役時の安全確保並びに石油貯蔵施設の安全確保を図るべく,港則法,海上交通安全法,船舶安全法,海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律,消防法,石油コンビナート等災害防止法等により,危険物積載船の航行や荷役の規制,防災資機材の配備の義務づけ等の諸規制を行っている。また,海上災害が発生した場合に迅速・的確な防災措置を講じるため,巡視船艇・航空機の出動体制の確保,防災資機材の配備の強化,油の拡散・漂流予測結果等を電子画面上に表示できる沿岸海域環境保全情報の整備等,海上防災体制の整備充実を図っている。

 さらに,民間における海上防災のための中核機関として海上災害防止センターが設立され,民間側でも自主防災体制が強化されている。

 海上における捜索救助については,「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)に基づき関係機関が連携協力することによって,迅速かつ的確な海難救助体制の整備を推進している。

 また,海上における油の大量流出事故については,「1990年の油による汚染に係る準備,対応及び協力に関する国際条約」(OPRC条約)に基づき,所要の法律改正を行うとともに,平成7年12月に「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」を定めた。その後,ナホトカ号海難・流出油事故災害の教訓等を踏まえ,平成9年12月に同計画を改定し,対応の明確化を図った。さらに,海上保安庁では,気象庁との連携等により漂流予測の一層の高度化を図ることとしている。また,漂流予測の精度向上を図るため,現場の巡視船からリアルタイムに海象・風等のデータ収得ができる「船舶観測データ集積・伝送システム」の巡視船への整備を開始した。

8-2 航空災害対策

(1) 航空災害の現況

 旅客機の大型化に伴い,航空機事故はいったん発生すれば大惨事を招来するおそれが大きくなっている。近年の主な航空機事故としては,平成6年4月の中華航空機墜落事故(死者264人,負傷者7人)や平成8年6月のガルーダ・インドネシア航空機炎上事故(死者3人,負傷者170人)が挙げられる。

(2) 航空災害対策

a 航空気象施設の整備による航空交通安全のための情報の充実

 気象庁は,航空機の安全運航の確保等に寄与するために,空港での気象観測を行うとともに,航空の安全のための予報,警報等を適時適切に行っている。また,離着陸時の航空機の運航に重大な影響を及ぼす地上付近の風の急変を監視する機能を有する空港気象ドップラーレーダー等の航空気象施設の整備を推進している。

b 航空機の安全な運航の確保

 国土交通省は,独立行政法人航空大学校において,航空従事者を養成し,その安定的確保を図るとともに,航空運送事業者の行う乗員の養成についても所要の指導を行っている。さらに,航空運送事業者等に対し,航空関係諸規則の遵守の徹底を指導している。

c 航空機の安全性の確保

 国土交通省において,航空機及び装備品等の安全性に関する技術基準等の見直しと,航空機検査体制・整備審査体制の充実を図ることとしている。

 また,航空災害が発生した場合,空港管理者や消防機関をはじめとする防災関係機関は,相互に連携をとりつつ消火救難活動,医療活動等の災害応急対策を行う。捜索救難活動が必要な場合は,国土交通省東京空港事務所(羽田空港内)におかれた東京救難調整本部を通じて,密接な連絡調整を行うこととしている。

8-3 鉄道災害対策

(1) 鉄道災害の現況

 我が国の鉄道災害は,安全対策を着実に実施してきた結果,列車の高速化・高密度化が進む中でも,長期的には減少する傾向にあるが,列車の高速化等に伴い一度事故が発生すると多数の死傷者を生じるおそれがある。

 平成12年3月に発生した帝都高速度交通営団日比谷線の列車脱線・衝突事故では,死者5人,負傷者63人となる等,甚大な被害が発生した。運輸省は,事故当日,事故調査検討会を直ちに立ち上げ,専門家を現地に派遣して調査を行うとともに,同営団に対して,再発防止対策の確立等に万全を期すよう厳重に警告した。また,全鉄道事業者に対して,軌道及び車両の点検等を確実に行うよう指示するとともに,当面の緊急措置として急曲線部における脱線防止ガード等の設置について通達した。事故調査検討会は,10月に最終報告を取りまとめ,脱線防止ガードの追加設置など5項目の対策を提言するとともに,新たな評価指標として「推定脱線係数比」を提案した。

(2) 鉄道災害対策

a 鉄軌道交通環境の整備

 国土交通省が,施設の保守について鉄軌道事業者を指導している。

b 鉄軌道交通の安全のための情報の充実

 気象庁は,鉄軌道交通の安全に係わる気象現象,予・警報等の情報を適時・的確に発表している。

c 鉄軌道の安全な運行の確保

 国土交通省において,迅速かつ的確な運行指令体制づくり,乗務員等に対する科学的な適正検査の定期的な実施について,鉄軌道事業者を指導している。

d 鉄軌道車両の安全性の確保

 国土交通省において,車両の技術上の基準への適合性を確認するとともに,事故事例に応じた対策を鉄軌道事業者に指導している。

e 踏切道における交通の安全の確保

 踏切道における自動車との衝突,置き石等による列車脱線等を防止するために,事故防止に関する知識を広く一般に普及するとともに,踏切道の立体交差化,踏切保安設備の整備等を計画的に推進している。

 また,鉄道災害が発生した場合,鉄軌道事業者や消防機関等は,相互に連携をとりつつ災害応急対策を行うこととしている。

8-4 道路災害対策

(1) 道路災害の現況

 近年においても,平成8年2月の一般国道229号豊浜トンネル岩盤崩落,平成9年8月の一般国道229号第2白糸トンネル岩盤崩落等の道路災害が発生している。

(2) 道路災害対策

 道路管理者は,道路における災害を予防するために必要な施設及び体制の整備を図るとともに,道路防災対策事業等を通じ,安全性・信頼性の高い道路ネットワークの整備を計画的かつ総合的に推進している。

 また,気象庁では,道路交通の安全に係る気象情報等を的確に観測し,これらに関する実況あるいは予・警報等の情報を適時・的確に発表している。道路管理者は,気象庁と協力して情報を活用できる体制の整備を図っている。また,道路管理者及び都道府県警察は,速やかな応急対策を図るための,情報収集・連絡体制の整備を図るとともに,災害が発生するおそれがある場合には,速やかに道路利用者にその情報を提供するための体制整備を図っている。

 なお,一般国道229号豊浜トンネル岩盤崩落を契機として,緊急点検を行い,対策が必要とされている949か所について法面防災工事を実施している。また,一般国道229号第2白糸トンネル岩盤崩落を踏まえ,全国で岩盤斜面等の緊急調査結果を実施し,甚大な被害をもたらす可能性の高いか所について,必要な対策を推進している。

 また,道路災害が発生した場合,道路管理者や消防機関等は,相互に連携をとりつつ災害応急対策を行うこととしている。

8-5 原子力災害対策

(1) 災害の現況

 平成11年9月30日,茨城県東海村の株式会社ジェー・シー・オー(JCO)のウラン加工施設において,我が国初の臨界事故が発生し,3名が重篤な被ばくを受け,そのうち2名が死亡したほか,作業員,防災業務関係者,周辺住民など319人(うち周辺住民130人)が,一般人の年間実行線当量限度である1ミリシーベルトを超える放射線を浴びたと推定され,また,周辺住民の避難や屋内退避を招くという重大な原子力災害が発生した。

(2) 原子力災害対策

 今回の事故では,原子力安全規制の抜本的強化の必要性や,国・自治体の連携や緊急時対応体制の強化の必要性などの課題が顕在化した。

 これを受け,平成11年12月,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」の一部改正により,原子力事業者に関して,保安規定の遵守状況定期検査制度の創設等がなされた。また,「原子力災害対策特別措置法」が制定され,以下のような事項が定められた。

[1]

 事業者に対する主務大臣及び関係する都道府県知事,市町村長への通報義務や,国の原子力災害対策本部,同現地対策本部の設置手続き等が定められた。

[2]

 文部科学省及び経済産業省に原子力防災専門官を置き,原子力事業所の所在する地域に配置すること等が定められた。

[3]

 原子力事業者には,通報を行うために必要となる放射線測定設備の敷地内への設置及び記録の公表の義務づけ等が定められた。

 これらを受けて,中央防災会議は,平成12年5月,防災基本計画原子力災害対策編の修正を行った。

 その中で,原子力艦船がわが国に寄港した際の万が一の事故に備えるため,原子力艦の原子力災害に関して,関係自治体が防災計画を策定するための根拠を明記した。これを受けて,神奈川県横須賀市は,平成12年6月に「原子力艦船事故防災マニュアル」を,長崎県佐世保市は同年12月に「原子力軍艦防災マニュアル」を策定している。

 さらに,中央省庁再編に伴い,経済産業省に原子力安全・保安院が設置され,原子力等に関する安全規制等を担当することとなった。

8-6 危険物災害対策

(1) 危険物災害の現況

 危険物災害には,消防法の危険物,高圧ガス,毒物・劇物の漏洩・流出等による多数の死傷者の発生や石油コンビナート等特別防災区域における危険物の流出,火災,爆発による多数の死傷者の発生等多様な被害が含まれる。平成12年6月に群馬県尾島町の日進化工(株)群馬工場で爆発火災事故が発生し,死者4名,負傷者58名を出すなど,危険物,毒物・劇物の漏洩等の事故は毎年発生している。

(2) 危険物災害対策

a 危険物

 消防法では,火災発生の危険性が高い,火災が発生した場合に火災を拡大する危険性が高い,火災の際の消火の困難性が高いなどの性状を有する物品を危険物として指定し,火災予防上の観点からその貯蔵・取扱い及び運搬について規制を行っている。

 なお,上記爆発火災事故を踏まえ,ヒドロキシルアミン及びヒドロキシルアミン塩類を新たに危険物として指定する「消防法」改正案を第151回国会に提出している。

b 毒物・劇物

 毒物・劇物については,毒物及び劇物取締法により,製造,輸入,販売,運搬,陳列等の取扱い全般について規制が行われている。

c 高圧ガス等

 原燃料として産業界の利用する高圧ガスについては高圧ガス保安法により,一般家庭の消費する液化石油ガス(LPG)については液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律,火薬類については火薬類取締法により,それぞれ,製造,輸入,販売,貯蔵,運搬,消費等の取扱い全般について規制が行われている。

 また,特に法令上,施設・設備に係る,定期点検検査,危害予防規程の作成,保安資格取得者の定期講習など,事業者の適切な防災対策を促進している。

d 石油コンビナート等

 危険物等が大量に集積している石油コンビナート等については,石油コンビナート等災害防止法を中心に,消防法,高圧ガス保安法,労働安全衛生法,海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律等により総合的防災体制の確立が図られている。このうち,石油コンビナート等災害防止法に基づき,石油コンビナート等特別防災区域として33道府県にわたり85地区(平成12年4月1日現在)が指定され,当該区域について石油コンビナート等防災本部の設置,石油コンビナート等防災計画の作成,特定事業所における自衛防災組織の設置など,必要な措置が講じられている。

e 都市ガス

 都市ガスの供給量は,約2,507万戸,226兆キロカロリー(平成10年ガス事業年報)に達している。都市ガス事業者に対しては,ガス事業法により,ガスの製造から供給,消費段階に至るまで,保安確保のため,検査等規制が行われている。

8-7 火災対策

(1) 災害の現況

 近年の都市化の急速な進展に伴う人口の密集化,建築物の高層化・大規模化等の進展,地下街の発達や,本格的な高齢化社会の到来などにより,火災による被害発生の危険性が増大している。近年の主な火事災害の例としては,平成6年12月の飯坂温泉若喜旅館火災(死者5人,負傷者3人)等がある。

(2) 火災対策

a 防火安全の確保

 国及び地方公共団体では,火災の発生を予防し,被害を最小限に抑えるため,火災予防運動や民間防火組織の活動を通じ,防火思想の普及に努めている。また,人の出入りが多い旅館,病院,地下街等の防火対象物においては,消防法により,消防用設備等の設置,防火管理者の選任,防火管理業務の実施等が義務づけられている。

 しかし,消防用設備等の整備や防火管理者の選任等がいまだ十分でない防火対象物も一部には見受けられる。防火安全に関し不備のある対象物については,法令に基づく措置命令等の厳正な措置をとる必要がある。

b 消防力の強化

 国及び地方公共団体は,より一層の消防力の強化を図るため,はしご付消防ポンプ自動車,化学消防ポンプ自動車,救助工作車,消防・防災ヘリコプター等の重点的な整備を図るとともに,消防水利の多元化,消防団の充実強化を推進している。

c 建築物の不燃化の推進

 我が国の都市は,延焼火災による市街地大火に対して十分な安全性を有していないため,都市の不燃化を促進するとともに,道路や河川等を軸とした延焼遮断帯の整備により,都市全体を火災に強い構造にする必要がある。このため,従来より防火地域の指定等による建築物の構造規制,市街地再開発事業,住宅地区改良事業,密集住宅市街地整備促進事業,住宅金融公庫融資等による耐火建築物への建替えの促進,公営住宅等公共住宅の不燃化,都市防災推進事業による避難地・避難路周辺等の不燃化等各種の対策を進めてきている。

d 林野火災対策

 林野火災の出火原因には,たき火,煙草及び火入れによるものが圧倒的に多いこと,林野火災の消火には多くの困難を伴うこと等から,林野火災対策においては,出火防止対策が特に重要である。このため,出火多発期である春先を中心とした行楽期等の週末・休日の前に徹底した広報を実施し,林野周辺住民・入山者等に対する防火意識の普及啓発を図るとともに,火災警報発令中における火の使用制限の徹底・監視パトロールの強化や,火入れを行う者に対する適切な指導等の実施,林野所有者に対する林野火災予防措置の指導の強化を重点的に実施している。

 また,林野火災の危険度の高い地域においては,林野火災特別地域対策事業を推進するため,関係市町村が共同で林野火災対策に係る総合的な事業計画を作成し,その推進を図ることとしており,平成11年度までに38都道府県の945市町村にわたる227地域において実施されている。

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