表示段落: 第1部/第2章/5


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5 風水害対策

5-1 近年の風水害の特徴

(1) 豪雨,台風等の状況

 我が国では,毎年,6月下旬から7月中旬にかけての梅雨前線の活動や台風の接近・上陸等により,各地で豪雨が毎年発生している。

 昭和41年〜平成12年の35年間で我が国に影響のあった台風についてみると,年間平均27.1個の台風が発生し,うち2.7個が北海道・本州・四国・九州のいずれかに上陸している( 図2-5-1 )。

  (図2-5-1) 台風の本土への接近数(上陸数を含む)の推移

 平成12年は,発生数23個と平均を下回り,また上陸数は昭和61年以来14年ぶりに0個であったものの( 表2-5-1 ),9月に相次いで接近した台風の影響を受けて前線の活動が活発化し,名古屋地方気象台で観測した最大日降水量がこれまでの記録を上回った。東海地方を中心に記録的な豪雨を記録することとなり,堤防の決壊や堤防を越えてあふれる溢水などによる大きな被害をもたらした。

  (表2-5-1) 1951(昭和26年)以降の台風に関する記録

(2) 水害の状況

 我が国における,治山・治水事業の推進等により,水害による浸水面積(水害面積)は,昭和55年〜59年の平均が114,909haであるのに対し,平成7年〜11年の平均は32,008haと大幅に減少している( 図2-5-2 )。しかしながら,河川氾濫区域内への資産の集中・増大に伴って,近年,浸水面積当たりの一般資産被害額(水害密度)は急増している( 図2-5-3 )。昨年の東海地方を中心とした豪雨では,名古屋市など都市部を中心として1,300ha余が浸水し,家屋や鉄道・道路などのライフラインなどに大きな被害をもたらした。

  (図2-5-2) 水害面積の推移(年平均)

  (図2-5-3) 水害被害額及び水害密度の推移

 原因別に見ると,河川流域内の開発の進展による流域の保水・遊水機能の低下に伴い,洪水や土砂流出が増大するとともに,河川氾濫区域への都市化の進展により被害対象が増加している。一方,都市河川,中小河川や下水道(雨水対策施設)等の整備水準は未だ低いこともあり,全体の水害被害額(一般資産等被害額)に占める内水の割合が大きい。

 特に三大都市圏では,内水による被害が全体の50%を越える年が昭和55年〜平成11年の20年間で18年に及んでいる。

(3) 土砂災害の状況

 地すべり,土石流,がけ崩れといった土砂災害は,その原因となる土砂の移動が強大なエネルギーを持つとともに,突発的に発生することから,人的被害につながりやすく,また,家屋等にも壊滅的な被害を与える場合が多い。

 自然災害による犠牲者のうち,土砂災害による犠牲者の占める割合は,昭和59年に約80%に達したのをはじめとし,概ね50%前後の割合で推移しており,非常に大きな割合を占めている( 図2-5-4 )。近年の状況は( 表2-5-2 )の通りである。平成12年には,東海豪雨災害による土砂災害で3人の死者・行方不明者が発生している。

  (図2-5-4) 自然災害による死者・行方不明者の原因別状況の割合

  (表2-5-2) 近年の主な土砂災害による死者・行方不明者の状況

 一般に土砂災害は,土砂移動の発生形態により,大きく地すべり,土石流,がけ崩れに分類される。火砕流を除外すると昭和56年〜平成12年の20年間の平均で毎年約890件の土砂災害が発生している( 図2-5-5 )。

  (図2-5-5) 土砂災害の発生状況の推移(昭和55年〜平成12年)

 発生件数の内訳は,がけ崩れが全体の67%を占め,死者・行方不明者もがけ崩れによるものが最も多い。一方で地すべり・土石流は,がけ崩れに比べ発生件数は少ないが,阪神・淡路大震災に伴う西宮市での地すべり(34名),蒲原沢土石流災害(14名),出水市の土石流災害(21名)など1件の発生に対して多数の死者・行方不明者が発生する場合がある。

(4) 風害の状況

 風害は,飛来物による被害,建物・施設の損壊,高波,樹木の倒壊,フェーン現象による火災延焼などの形態がある。

 平成11年には,9月24日に愛知県の豊橋市,豊川市内を襲った龍巻により,負傷者365名が発生し,また,10月28日には青森県で,強風により入れ替え作業中の列車が横転するなどの被害も発生している。

5-2 風水害対策の概要

 風水害による被害を未然に防止し,又は被害を軽減するために,次の通り,各種の対策が進められている。

(1) 気象観測の充実と予警報等の発表

 風水害の発生を未然に防止し,被害を軽減するため,各種気象観測施設等多種多様な観測手段により,気象観測を実施している。

 これらの観測データ及び解析結果をもとに,大雨や強風によって災害の起こる恐れのある場合には注意報を,さらに重大な災害が起こるおそれがある場合には警報を発表する。注意報・警報は,地域の実情にあわせて発表する必要があるため,全国を約200の地域に細分し,それぞれの地域ごとに発表されている。

 また,土壤雨量指数(土砂災害の発生を左右する土壤の水分量を予測する指標)を活用し,警報が発表されているような状況下で,「過去数年で最も土砂災害の発生の危険性が高い」などのわかりやすい表現を用いて一層の警戒を呼びかけている。

(2) 治山・治水対策の推進

 洪水被害の防止や土石流,地すべり,がけ崩れ等の土砂災害の防止など,安全な国土基盤を形成するために,平成9年度を初年度とする治山事業七箇年計画,治水事業七箇年計画,急傾斜地崩壊対策事業五箇年計画が策定され,これに基づいて,治山・治水対策が計画的に推進されてきている。

(3) 海岸保全施設の計画的整備

 高潮,風浪等による災害や海岸侵食を防止するため,平成8年度を初年度とする第6次海岸事業七箇年計画に基づき海岸保全施設及び海岸環境の整備を計画的に推進している。

(4) 土砂災害対策の推進

a 土砂災害対策の概要

 我が国は土砂災害の起こりやすい国土条件の下にあり,毎年,犠牲者を伴った土砂災害が発生している。このため,国においては,昭和63年3月,中央防災会議において「土砂災害対策推進要綱」を決定し,総合的,効率的な土砂災害対策を,関係省庁,地方自治体が一体となって推進している。

 また,平成5年8月豪雨災害等の教訓を踏まえ,平成6年4月,土砂災害対策推進連絡会議において,特に重点的に推進すべき事項について申し合わせを行い,ハード面の施策と併せソフト面の施策についても重点的に推進することとした。

 さらに,平成11年6月末から7月初めにかけて,広島県を中心に土砂災害により大きな被害が発生したことにかんがみ,中央防災会議局員会議において,[1]豪雨災害を軽減するための土地利用のあり方,[2]土砂災害等に対する地域の防災性向上,[3]効果的な事前周知方法,[4]情報収集伝達体制の強化について検討を行った。平成12年4月には中央防災会議において「豪雨災害対策のための情報提供の推進について」をとりまとめ,[1]気象情報等の収集体制の強化,[2]連絡手段の確保と情報の整理,[3]住民等との連携の強化,[4]早期避難実現のための措置の推進に係る提言をとりまとめた。

b 国土保全事業の推進

 土砂災害の危険箇所は,その数が膨大であることに加え土地利用の変化に伴って増加する傾向にあることから,各種の国土保全事業により整備に努めているものの,整備等の状況は低い水準にとどまっている( 表2-5-3 )。

  (表2-5-3) 土砂災害危険箇所の整備状況

c 土砂災害防止に配慮した安全な土地利用の誘導

 土砂災害危険箇所については,各種の法律により区域指定が行われ,崩壊等防止工事の他,土砂災害のおそれのある区域における各種行為の規制や宅地の改良,危険住宅の移転等の措置がとられているが,これらの区域指定は,私権の制限を伴うことなどから,必ずしも十分には進んでいない状況にある。

 このため,区域指定をさらに進めるとともに,土地利用計画の作成や土地利用規制等に関する制度の運用などにおける土砂災害への配慮の徹底,民間事業者に対する指導の徹底等により,土砂災害に対して安全な土地利用への誘導を図っていくことが重要である。

 土地利用規制に関し,河川審議会は,平成12年2月,土砂災害のおそれのある区域について,新規立地抑制や既存住宅の移転促進等を図る必要があるとした答申を行っている。また,これを受けて,「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」が平成13年4月より施行された。

d 住民に対する危険箇所の周知

 住民への土砂災害危険箇所の周知を図るため,地域防災計画へ明示( 表2-5-4 )するとともに,土砂災害の危険区域,避難地,避難路等の位置を表示した土砂災害危険区域図(ハザードマップ),防災アセスメントの結果や避難地等の情報を地図に整理した地区別防災カルテの作成・公表,ダイレクトメールの送付,掲示板,広報紙等を活用した住民への周知を進めている。

  (表2-5-4) 市町村における土砂災害危険箇所等の周知状況

e 観測・予報・警報体制の整備

 土砂災害による被害を未然に防止するためには,土砂災害の危険性を早期に把握し,予報・警報の発表や住民への避難指示等を迅速,的確に行うなど,今後さらに必要な情報の充実,活用を図っていく必要がある。

 土砂災害危険箇所を有する地方公共団体においては,地域の特性を考慮した警戒・避難を行うための基準の設定などに努めることが求められる。

f 情報収集・伝達体制の整備

 国,都道府県,市町村においては,関係機関相互の情報伝達のため,防災行政無線等の整備やオンラインによる情報交換等が進められている。

 また,防災モニター制度など,専門家のみならず一般市民等からも災害情報を収集するための体制整備や,平常時から災害時を通じて土砂災害関連情報を住民と行政機関が相互通報するシステムの整備なども行われている。

 さらに,郵便局と自治体との間で協定を結び,地域住民や地域を巡回している郵便職員等が異常現象等を通報する体制を整備するなどの取り組みも実施されている。

 一方,緊急時における住民等への情報伝達に関しては同報系無線の整備などが行われているが,屋外拡声装置のみでは聞き取りにくい地域については,戸別受信機の設置等できるだけ戸別に情報を伝達する体制を確保するとともに,マスコミ等とも連携した多様な手段による情報提供がなされることが期待される。

(5) 都市型水害対策に関する緊急提言

 平成12年9月の名古屋市及びその周辺地域は記録的な集中豪雨(以下,「東海豪雨」という)に見舞われ,広域な市街地の浸水,地下鉄等の地下空間の浸水,停電,電話等の通信不調等ライフラインの機能低下,鉄道の不通,道路交通規制等交通機能の混乱により,都市機能が麻痺する甚大な被害が生じた。東海豪雨は河川,下水道整備の進捗,都市化の進展等に伴い水害に対する危機意識が薄らいでいる中で,その脅威を改めて認識させるものであった。

 これに対し,建設省(当時)においては,9月21日に「都市型水害緊急検討委員会」を発足させ,今回の水害で改めて明らかになったことを点検,検証した。同委員会では,11月9日に[1]水災対策の基礎調査,影響予測,[2]水災危機管理,被害軽減,[3]水災時の情報提供等,[4]河川,下水道等の整備,[5]治水システムの新たな展開,ステップアップを柱とする「都市型水害対策に関する緊急提言」をとりまとめた。

(6) 高潮災害対策

 我が国では,海岸保全施設の整備や気象情報の精度の向上等に積極的に取り組んできた結果,高潮による被害は減少する傾向にあり,近年においては大きな被害は発生していなかった( 表2-5-5 )。

  (表2-5-5) 昭和以降の主な高潮災害

 しかしながら,平成11年9月24日,熊本県不知火町松合地区で台風第18号による高潮で12名の死者が発生するという事態が生じた。

 これに対し,農林水産省,運輸省,建設省(当時)においては,被災地となった松合地区と類似する地形条件をもつ海岸等について緊急点検を実施した。また,国土庁(当時),農林水産省,水産庁,運輸省(当時),気象庁,建設省(当時),消防庁の高潮に関係する各省庁が連携し,平成11年10月に「高潮災害対策の強化に関する連絡会議」を,平成12年2月に「高潮防災情報等のあり方研究会」を開催し,高潮災害対策については従来のハード面の整備の一層の推進と併せてソフト面の対策の強化を推進することが重要であるとして,高潮広報パンフレットや「地域防災計画における高潮対策の強化マニュアル」等を作成・配布した。

5-3 地方自治体における風水害対策の推進状況について

 国土庁(現内閣府)は,平成12年12月,今後の風水害対策の推進を講じていく上での基礎的資料とすることを目的として,全国の市区町村における豪雨時の洪水・土砂災害等に対する予防対策の実態に関するアンケート調査を実施した(対象市区町村数:3,252,実施方法:郵送配布郵送回収,回収率:70.5%)。

(1) 市区町村の被災経験

 ( 図2-5-6 )は,過去20年間で洪水・土砂災害に伴う避難者(住民の自主避難も含む)が発生している市区町村を表している。全国の市区町村の内,約6割で避難者が発生していることがわかる。このことから,風水害に対する防災対策は全国的に重要な課題であることが分かる。

  (図2-5-6) 過去20年間の洪水・土砂災害に伴う避難者の発生状況

(2) 市区町村におけるハザードマップ作成状況

 住民はそれぞれの居住地域において,災害の危険個所・地域をあらかじめ十分把握しておくことが重要であり,そのために,地域の地図に災害の危険個所や避難場所・避難ルートを表したハザードマップが利用される。ハザードマップを利用し,迅速に避難を行った例も数多くある。( 図2-5-7 )はハザードマップの作成状況,( 図2-5-8 )はハザードマップの配布状況を表している。ハザードマップの作成済みの市区町村は,洪水・冠水で2割弱,土砂災害で3割弱,さらにハザードマップ配布済みの市区町村は,洪水・冠水で1割強,土砂災害で2割弱である。地方自治体では,予算制約や住民に混乱を与えないため等として,ハザードマップを配布していないところが多く,全国の6割の市区町村が被災していることからすると,住民への危険個所の事前周知が不十分であることが言える。

  (図2-5-7) 危険箇所を示したハザードマップ作成状況

  (図2-5-8) ハザードマップ配布状況

(3) 警戒避難に関する客観的基準

 一昨年7月の広島における土砂災害の教訓から,行政の住民に対する避難勧告の出し遅れを防ぐために,警戒避難を行うかどうかを判断する客観的基準(時間雨量などの数値的基準)の設定を進めるよう中央防災会議の提言の中で求めている( 第2章5-2 参照)。

 ( 図2-5-9 )は,避難勧告の定量的な発令基準の有無を表している。洪水・冠水に関しては約3割,土砂災害では約2割5分の市区町村で設定されている。避難勧告に関する客観的基準に関しても,ハザードマップと同様に導入が不十分であることが分かる。

  (図2-5-9) 避難勧告の定量的な発令基準の有無

(4) 避難所の安全確認状況

 昨年9月の東海地方の豪雨災害では,避難所として使用される地域のコミュニティセンターなどが浸水し,避難所としての機能を十分に果たさなかった。

 ( 図2-5-10 )では避難所の安全性の確認状況を表している。洪水・冠水,土砂災害ともに6割弱程度の市区町村でしか避難所の安全確認が行われていない。

  (図2-5-10) 避難場所の安全性の確認

 以上のように,ハザードマップの整備,時間雨量などの客観的な避難勧告基準の設定,さらに避難所の安全性確認などソフト面における風水害対策が進んでいない現状を伺うことができる。河川堤防,砂防えん堤などの国土保全施設の整備が財政的な理由や用地買収の困難性などの理由により,その整備がなかなか進まない現状において,住民の生命・財産を守るためにはソフト面での災害対策を推進することが重要である。今後,危険箇所の周知徹底や避難誘導体制の整備等の対策が望まれるところである。

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