表示段落: 第1部/第2章/2


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2 災害対策に関する施策

2-1 防災に関する科学技術の研究の推進

(1)

 防災対策を効果的に講ずるためには,災害の未然防止,被害の拡大防止,災害復旧という一連の過程において,科学技術上の知見を十分活用することが重要である。

 このような観点から,長期的な視点に立って,我が国全体として取り組むべき研究開発の目標を明らかにした「防災に関する研究開発基本計画」が決定された。(昭和56年7月決定,平成5年12月改訂)

(2)

 関係機関においては,「防災に関する研究開発基本計画」に基づき,「防災科学技術関係省庁連絡会」(平成9年10月設置)の開催等を通じ連携協力を行いつつ,研究等を実施している。なお,地震に関する調査研究については,阪神・淡路大震災を契機として制定された「地震防災対策特別措置法」に基づき設置された「地震調査研究推進本部」(平成7年7月設置)の方針の下,関係機関が密接な連携協力を行いつつ推進している。

(3)

 インターネット等情報技術(IT)の飛躍的発展が,人と人との関係,人と組織との関係,人と社会との関係を一変させていくものと考えられている。防災に関しても,IT及びそれを基盤としたGIS等は,地震被害早期評価システム(EES)等地震等の災害予知,被害予測手法の開発において重要な役割を果たすとともに,ITを活用して災害に関する情報を収集,伝達,提供することによる迅速かつ適切な災害予防,応急対策のための技術開発が行われ,一部は実用化されつつある。それらの事例として以下のようなものがある。

[1]

 微少な地殼の変化を把握し,地震発生,火山噴火等の予知精度の向上を図るため,人工衛星からの電波を利用して地球上の位置を正確に測定するGPSを活用した地殼等の観測網の整備が進みつつある。

[2]

 防災関係の各機関において,よりリアルタイムに被災状況を把握し,迅速な対応を図るため,ヘリコプターにより撮影した被災現場の映像を地上局に電送するシステムの整備や,通信ルートの複数化等による,災害に強い,高度な情報ネットワークの構築が進みつつある。

[3]

 多くの地方公共団体において,インターネットを通じ,災害対応マニュアル,防災マップ等の災害予防に関する情報の提供が行われている。

[4]

 一部の地方公共団体においては,蓄積した情報の随時読み出しや,双方向の情報のやりとりが可能なインターネットの特性を生かし,

 大規模災害時において,インターネットを通じて避難施設,救援物資,生活関連の情報を提供するシステムの整備

 生存者の情報をインターネットで収集,提供するシステム整備の実験

 市民から寄せられる生活,安否確認等の情報提供を行うインターネット上の伝言板設置

 等が行われている。

[5]

 有珠山及び三宅島噴火等の被災者支援においては,地方公共団体によるインターネットを通じた情報提供が行われる一方,ボランティア団体においても,メーリングリストやホームページの相互リンクによる,インターネットを活用した情報交換が行われた。また,直接救援活動等を行うのではなく,情報収集及び発信の側面で他のボランティア団体を支援する新しいタイプのボランティアも登場した。

[6]

 GISによって整備された地盤,建物等の基盤情報を蓄積するとともに,被災時には各所からの災害情報を総合的に集約することにより,災害予防時における災害対応方針の検討支援から非常時の情報収集,提供までを一貫してインターネットを介して行うシステムの開発も行われている。

[7]

 場所を問わないインターネット接続を可能とする,携帯電話のインターネット接続サービスを活用した防災情報の提供・収集システムの検討が行われている。

2-2 災害予防の強化

 災害の発生を未然に防止し,被害を軽減するため,防災に関連する施設設備の整備,国民一人ひとりの防災意識の高揚のための施策の実施,防災訓練の実施等,次のような災害予防の強化を図っている。

(1) 災害に強い国づくり,まちづくり

 地域の特性に配慮しつつ,災害に強い国土とまちづくりを目指して国土保全事業,市街地開発事業や主要交通・通信機能の強化,構造物・施設及びライフライン機能の安全性の確保に関する施策等を実施している。

 また,災害発生時に災害応急対策活動を円滑かつ効果的に実施するための施設・設備の整備等各般の施策を実施している。

a 災害に強いまちづくり

 災害に強いまちづくりをより効果的に推進するため,「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」(平成9年5月制定)に基づき,耐火建築物等への建替えの促進や新たな地区計画制度の創設等により,防災上危険な状況にある密集市街地の整備の促進を図っている。

 さらに,公共・公用施設の耐震化及び防災基盤の整備を行う緊急防災基盤整備事業,計画的に公共施設の整備を行う防災まちづくり事業の推進や,住民の防災活動の活性化,情報通信体制の強化等に要する経費に対する地方財政措置により地方公共団体を支援し,防災対策の強化を図っている。

b 災害に強い農山漁村づくり

 災害に強く安心して暮らせる村づくりを推進するため,緊急車両の通行や避難路の確保等のための農道・林道,緊急物資輸送に資する漁港の耐震強化岸壁,災害情報の伝達を行うための施設等の整備を行うなど,災害対策上必要な施設の整備を緊急に実施している。

c 地域の防災拠点の整備

 災害対応活動や地域住民等の応急避難場所として機能する防災拠点の整備としては,平常時は普及啓発活動にも利用される防災センターや,水防資材の備蓄庫や水防活動の指揮所となる河川防災ステーション等の施設の建設が全国各地で進められている。

 公共性の高い施設として,学校,公民館は災害時に避難場所となることから,改築,耐震補強や備蓄倉庫,耐震性貯水槽等の整備が図られている。官庁施設についても耐震安全性の向上や備蓄機能の強化等を実施している。

 病院については,災害時に患者を受入るためのヘリポート,水,医薬品,医療材料の備蓄機能等を持ち耐震性能が強化された災害拠点病院の整備が推進されている。

 さらに,災害時には応急対策活動の拠点として機能し,平常時には防災に関するPR,教育,訓練等の活動の場として機能する地域防災拠点施設の整備を推進している。

 また,災害に強いまちづくりの一環として,避難地・避難路の機能と延焼遮断帯の機能を併せ持つ公園の整備として耐震性貯水槽,備蓄倉庫,ヘリポート等の災害応急対応施設等の整備が進められている。道路,公園等の都市基盤と建築物の不燃化等を面的に行い,街区自体の防災拠点化を図っているケースもある。さらに,現行の建築基準を上回る高度な防災性能を有し,災害対応活動や地域の円滑な復興活動の拠点となる建築物の整備も進められている。

 この他,港湾においては,緊急物資輸送用の耐震強化岸壁の整備とともに,避難緑地帯と一体となった臨海部の防災拠点の整備が推進されている。また,空港においても,液状化対策を実施している。

d 広域防災基地整備

(a)

 立川広域防災基地

 広域的な災害が発生した場合において情報の収集・伝達,救難・救助等の災害応急対策の拠点とするとともに,平常時においては地域の行政サービスの充実と国民に対する防災知識の普及等を図るため,東京都立川市に立川広域防災基地が整備されている。

 ここには,災害対策本部予備施設( 第2章4 , 4-6(2) 参照)のほか,警察防災関係,海上防災関係,消防防災関係,自衛隊航空関係及び医療関係等の施設を有している。

(b)

 横浜海上防災基地

 東京湾及び関東一円の防災拠点として,平成7年4月から横浜市の「みなとみらい21」の新港地区に,横浜海上防災基地の運用が開始され,原油,LPG,LNGなどの危険物を積載する船舶が衝突等の事故や南関東地域直下の地震等により沿岸部の住民や諸施設が大きな被害を受けた場合に,指揮中核として巡視船艇,航空機等を迅速かつ効率的に運用するなど応急対策の拠点として,速やかに被災者の救援活動を実施することしている。

(2) 防災に関する普及,啓発

 災害から自らの身を守るためには,平常時から,一人ひとりが防災に関する意識を高め,防災に関する正しい知識や技術を身につけることが重要である。

a 「防災週間」等各種行事を通じての普及・啓発への取組み

 昭和57年5月11日の閣議了解で,「防災の日」(9月1日),「防災週間」(8月30日から9月5日まで)を定め,毎年度においてこの期間を中心に,各種行事や広報活動等を実施している。

 この一環として,平成12年度においては,神戸市で「防災フェア2000」(国土庁・神戸市・防災週間推進協議会共催)を実施し,各種展示,実演,模擬体験等に加え,地震災害と風水害を想定しての徒歩避難及び避難所での支援・生活体験等を取り入れた「防災体験学校」等の行事を展開した。

 このほか,関係各機関や地方公共団体においては[1]防災フェアや各種展示会,[2]テレビ,ラジオ,新聞及び広報誌等による広報,[3]標語,図画等の募集などを展開している。

 また,この期間以外においても「全国火災予防運動」(3月1日〜及び11月9日〜),「水防月間」(5月又は6月),「山地災害防止キャンペーン」(5月20日〜),「土砂災害防止月間」(6月),「がけ崩れ防災週間」(6月1日〜),「危険物安全週間」(6月第2週),「道路防災週間」(8月25日〜),「建築物防災週間」(8月30日〜),「救急医療週間」(9月5日〜),「雪崩防災週間」(12月1日〜)等においてシンポジウム,講演会,講習会等を実施し,防災知識の普及と防災意識の高揚を図っている。

b 「防災とボランティア週間」における取組み

 阪神・淡路大震災においては,ボランティア活動が果たす役割の重要性があらためて認識されたところである。

 こうしたことから,政府は平成7年12月15日の閣議了解で「防災とボランティアの日」(1月17日),「防災とボランティア週間」(1月15日から21日まで)を創設し,災害時におけるボランティア活動及び自主的な防災活動の普及のため講演会等の行事を実施することとしている。

 平成12年度において,内閣府は東京災害ボランティアネットワーク等との共催で「防災とボランティアを考えるつどい」(平成13年1月20日〜21日東京都豊島区)を開催し,ボランティア活動に関する問題点の洗い出しを目的とした「シンポジウム」や「負傷者対応訓練」及び「ボランティア本部訓練」等の行事を実施した。

 また,地方公共団体等においても研修会,講演会,セミナー等の様々な行事が実施された。

c 学校における防災教育

 災害時に自ら適切な行動をとれるようにするためには,学校における防災教育をより一層充実し,子どもの時期から正しい防災知識をかん養していくことが重要である。

 文部省(現文部科学省)においては,防災教育の充実を図るため,平成7年度以降,阪神・淡路大震災の経験等を踏まえた「学校等の防災体制の充実に関する調査研究協力者会議」の報告書を各都道府県教育委員会等に指針として示すとともに,これをもとに学校における防災教育及び防災管理の重点等を明記した「『生きる力』をはぐくむ防災教育の展開」と題する参考資料を作成し,全国各都道府県の教育委員会等に配布した。

 また,さらに効果的な防災教育の実践への取り組みとして防災教育教材の作成・配布を行っており,平成12年度は「考えよう! わたしたちのいのちと安全」という小学校1・2・3年生用の教材を作成し,各学校に配布している。

(3) 自主的防災意識の育成

 大規模な災害が発生した場合には,地域住民が防災関係機関と一体となって初期消火,避難誘導,被災者の救出・救護等の自主的な防災活動を行うことが,被害の拡大を防ぎ円滑な災害応急対策を実施する上で極めて重要である。このような観点から,地域住民の連帯意識に基づく自主防災組織が結成されている。

 自主防災組織は,平成12年4月1日現在,全国3,252市区町村のうち2,472市区町村で9万6,875結成されており,組織率(全国世帯数に対する組織されている地域の世帯の割合)は56.1%である。(自主防災組織については, 第3章 を参照)

(4) 防災訓練

 大規模地震の発災時等には,政府,地方公共団体をはじめとする防災関係機関,地域住民等が緊密な連携のもと,各種の防災活動を迅速かつ適切に実施する必要がある。特に,災害対策本部等の設置など迅速な初動体制の確立と情報の収集,的確な災害応急対応が人命救助と被害の軽減,その後の復旧の鍵を握っている。このため,各防災関係機関において職員の非常参集,災害情報の収集連絡等の体制が整備されているが,災害は多くの場合,その発生を予測できず,しかも防災に係わる関係機関は多岐にわたっているので,防災体制を実効性のあるものとするためには,常日頃から実践的な防災訓練が不可欠である。

 例えば,鳥取県においては,平成12年10月に発生した鳥取県西部地震の2か月ほど前に,米子に駐屯する自衛隊の参加を得て防災訓練を実施し,その結果電話番号が記入されていなかったというマニュアルの不備な点を改めるなど,訓練での課題を直ちに改善していたことが地震発生時における初動対応に十分活かされたものと訓練の意義を高く評価している。

 政府が行っている総合防災訓練は,訓練の反復を通じて,閣僚をはじめ,国,地方公共団体,指定公共機関等の多くの関係職員に防災業務を習得させ,政府,関係機関全体の災害対応力を高める目的で行われている。

 各地域で行われる防災訓練については,災害の教訓を踏まえつつ,災害事象・社会構造の変化,技術革新等の新たな状況に対応できるよう訓練内容の充実に努める必要がある。有珠山周辺3市町(伊達市,壮瞥町,虻田町)においては,活発な火山活動が続いている有珠山の再噴火に備え,平成12年5月18日,避難訓練が,国の現地対策本部の支援のもと実施され,また,これと合わせ関係省庁の増強要員派遣等の情報伝達訓練が実施された。

 防災訓練の実施に当たっては,テレビ,広報誌等を通じた事前広報を行い,地域住民,自主防災組織,ボランティア等の参加を積極的に進め,それぞれの役割を確認しつつ,地域全体の災害対応力を高めることが重要である。

a 政府における総合防災訓練

 毎年9月1日の「防災の日」に,「総合防災訓練大綱」(中央防災会議決定)に基づき,南関東地域直下の地震及び東海地震に係る大規模な総合防災訓練を内閣,関係省庁はじめ関係地方公共団体などが連携を図りつつ実施することとしている。

 平成12年度の訓練は,国土庁をはじめ,33の指定行政機関等と20の指定公共機関等並びに13の地方公共団体が連携し,訓練参加機関関係者及び地域住民等は概ね374万人(平成12年9月15日現在消防庁調べ)が参加した。

(a)

 東海地震対応訓練

 予知対応型訓練としては,東海地震を想定して,地震防災対策強化地域判定会の開催,緊急参集チーム会議の開催,地震予知情報の報告,関係閣僚会議の開催,警戒宣言の発表,内閣総理大臣を本部長とし,全閣僚を本部員とする地震災害警戒本部の設置・運営訓練等を行った上で,内閣総理大臣(代理:自治総括政務次官)を団長とし,関係省庁からなる政府調査団を現地訓練会場(静岡県湖西市及び新居町)に派遣した。

(b)

 南関東地域直下の地震対応訓練

 発災対応型訓練としては,南関東地域直下の地震を想定して,緊急事態の布告,緊急災害対策本部の設置・運営訓練,ヘリコプター映像伝送システムや中央防災無線網を活用したテレビ会議等を通じての情報収集・伝達訓練が行われ,災害応急対策に関する基本方針等が決定された。

 また,内閣総理大臣を団長とする政府調査団を現地訓練会場(神奈川県平塚市)に派遣したほか,国土総括政務次官を長とする緊急災害現地対策本部を設置し,現地対策会議を開催するなどの訓練を行った。

(c)

 原子力防災訓練

 平成11年9月の東海村ウラン加工施設における臨界事故を教訓に制定された原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)が6月に施行されたことに伴い,法施行後初の原子力防災訓練が,平成12年10月28日,中国電力島根原子力発電所(島根県鹿島町)を対象施設として実施された。本訓練では,内閣総理大臣をはじめとする関係閣僚が参加し,国の原子力災害対策本部(本部長:内閣総理大臣)及び現地対策本部を設置する等の訓練が行われた。

b 地方公共団体等における防災訓練

 大規模地震に係る訓練をはじめ,台風等風水害,原子力災害,火山災害など地域の実情に即して各種の災害を想定した防災訓練が実施されており,平成12年度においては,47都道府県,2,138市町村,約5万1,000団体,495万人の参加が見込まれた(平成12年9月15日現在消防庁調べ(実施予定を含む。))。

 また,都道府県の区域を越えたブロック単位の広域防災訓練にも積極的に取り組まれており,広域的な応援体制や防災関係機関相互の連携協力体制の強化を図るとともに,地域住民の防災意識の高揚,連帯意識を醸成することができた。

(a)

 七都県市総合防災訓練

 首都圏にあって政治・経済などの中枢機能が集積し,各般において広域に関わり合う七都県市(埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,横浜市,川崎市,千葉市)の地域が,国,防災関係機関等と連携し,一体となった訓練を実施している。

 平成12年9月1日,神奈川県において,連携・強化が推進されている防災関係機関等の,より実践的な応急対策訓練や「七都県市災害時相互応援に関する協定」等に基づく広域的な協力応援体制を生かした訓練を,住民等による地域防災活動の積極的推進と遊漁船を使った帰宅困難者のための帰路確保訓練などを実施した。

(b)

 東京区部直下での大規模地震に係る訓練

 平成12年9月3日,東京都は東京区部直下での大規模地震を想定した東京都総合防災訓練を実施した。これに対し政府は,内閣総理大臣をはじめとする関係閣僚が参加し,防衛庁(中央指揮所)で緊急災害対策本部設置等を行った。

 区部の市街地を中心に都内10箇所の会場で,警察,消防,海上保安庁に加え,陸・海・空の統合運用の自衛隊を含めた大規模かつ総合的な広域支援訓練が行われた。

(c)

 近畿府県合同防災訓練

 阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,平成7年度から実施されている近畿府県合同防災訓練が,平成12年11月10日,「近畿2府7県(大阪府,京都府,兵庫県,奈良県,和歌山県,福井県,三重県,徳島県及び滋賀県)震災時等の相互応援に関する協定」等に基づき,奈良県天理市会場を中心に実施された。

2-3 国土保全の推進

 水害,土砂災害,震災,火山災害等の自然災害から国土並びに国民の生命,身体及び財産を保護するためには各種の国土保全事業を長期間にわたり計画的に推進する必要がある。このため,治山事業七箇年計画,治水事業七箇年計画,海岸事業七箇年計画,急傾斜地崩壊対策事業五箇年計画,下水道整備七箇年計画,土地改良長期計画等の長期計画を策定し,各種事業を計画的に推進している。国土保全事業に係る予算の推移をみると( 図2-2-1 )のとおりである。平成11年度では,国土保全事業の国費は2兆4,507億円(下水道事業関係の国費1,768億円を含む)で,事業費は4兆1,315億円(下水道事業関係の事業費3,530億円を含む)となっている。

  (図2-2-1) 国土保全事業予算の推移

 また,国土保全事業予算額が一般公共事業予算額に占める割合は,平成11年度は約19パーセントとなっている。

 一方,関係省庁において,公共事業の再評価が行われており,その結果中止となった地区は,平成11年度においては,治山事業3箇所,治水事業1箇所,海岸事業3箇所となっている。平成12年度においても,引き続き公共事業の再評価を実施しているところである。

 長期計画に基づく国土保全事業の実施状況は( 表2-2-1 )のとおりである。

  (表2-2-1) 国土保全事業に係る各種計画の実施状況

2-4 災害応急対策の実施

(1) 災害発生時の措置,応急対策

 大規模な地震等による災害が発生した際には,災害応急対策を迅速かつ円滑に実施するために,被害状況や応急対策に関する情報を的確に収集し,迅速に伝達する必要がある。特に,災害の初期の段階において,その被害規模や程度を全体的に把握することが重要である。

 官邸への迅速な報告連絡を行うため平成7年2月21日の閣議決定において,内閣情報調査室を情報伝達の窓口とした。また,平成8年5月11日には,内閣情報集約センターが設立され,24時間体制で対応に当たっている。さらに,社会的影響の大きい突発的災害が発生した場合,内閣としての初動措置を迅速に始動するため,関係省庁の局長等の幹部が官邸に緊急参集し,情報集約を行うこととした。このほか首都直下型等大規模地震発生時の内閣の初動体制についての閣議了解により,各閣僚の参集場所の順位を,[1]官邸(危機管理センター),[2]内閣府(中央合同庁舎第5号館災害対策本部長室),[3]防衛庁(中央指揮所),[4]立川広域防災基地(災害対策本部予備施設)とすること等が取り決められた。

 加えて,内閣官房における危機管理機能を強化するため,平成10年4月に内閣危機管理監が設置されるとともに,内閣安全保障室が内閣安全保障・危機管理室に改組され,危機管理関係省庁連絡会議が設置された。

 このほか,平成7年度以降関係機関における迅速な初動体制の整備に関して,警察庁及び都道府県警察においては広域緊急援助隊の設置,消防庁及び地方公共団体においては緊急消防援助隊の整備を行った。消防庁においては状況により,消防庁長官が他の都道府県知事に応援要請ができるなど消防組織法の一部改正を行った。防衛庁においては防衛庁防災業務計画に,いわゆる自主派遣に係る判断基準を明記するとともに,都道府県知事等の派遣要請を簡素化する自衛隊法施行令の一部改正を行った。また,平成12年11月には,災害対処マニュアル及び都道府県別災害派遣連絡窓口一覧表を作成し,都道府県等に周知した。

 被害規模の早期把握のため,各省庁はそれぞれの立場において現地の関係者からの情報を集約するほか,警察庁,消防庁,防衛庁,海上保安庁においては,一定規模以上の地震の場合,航空機,船舶等を活用した情報収集体制の整備を行った。また,内閣府(旧国土庁)においては,被害規模の早期把握に関して,地震発生直後,概ね30分以内に被害の大まかな規模を把握するための「地震被害早期評価システム(EES)」( 第2章4-7 参照)を整備し,平成8年4月から稼働させている。

 中央防災会議主事会議においては,中央省庁再編(平成13年1月6日)に伴い所要の各種申し合わせを行い,また,内閣府においては,非常災害対策要員を指定し,職員による宿日直体制をとるとともに,ポケットベルによる一斉情報連絡装置により,関係者への地震情報の連絡を行っている。

 なお,海外からの支援受入については,防災基本計画に規定を設けた上で,平成10年1月20日に,海外からの支援受入れ可能性のある分野毎の対応省庁及び対応方針,支援受入れ手続き等を定めた関係省庁間の申し合わせを行った。

(2) 非常災害対策本部等

 都道府県又は市町村の地域について災害が発生し,又は災害が発生するおそれがある場合において,都道府県知事又は市町村長は,災害対策本部を設置することができ,地方防災会議と緊密な連絡のもとに,当該地域に係る災害予防及び災害応急対策を実施する。

 一方,国においては,非常災害が発生し,災害の規模その他の状況により,災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときは,災害対策基本法第24条第1項の規定に基づき,防災担当大臣を本部長とする「非常災害対策本部」を内閣府に設置することができる。過去10年間における国の非常災害対策本部等の設置状況は( 表2-2-2 )のとおりである。

  (表2-2-2) 非常災害対策本部等の設置状況(過去10年間)

 直近では,平成12年3月31日に,「平成12年(2000年)有珠山噴火非常災害対策本部」及び平成12年8月29日に「平成12年(2000年)三宅島噴火及び新島・神津島近海地震非常災害対策本部」を設置した。

 さらに,著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合において,同法第28条の2第1項の規定に基づき,内閣総理大臣を本部長とし,全閣僚等を本部員とする「緊急災害対策本部」を内閣府に設置することができる。

 また,現地における被災地方公共団体に対する国の支援や相互の連絡調整を行うため,非常(緊急)災害対策本部の事務の一部を行う組織として,現地対策本部を設置できる。平成12年3月31日から同年8月11日までの間,「平成12年(2000年)有珠山噴火非常災害現地対策本部」を伊達市に設置した。

(3) 応急対策活動

 発災直後の情報の収集・連絡,活動体制の確立と並行して,人命の救助・救急活動,医療活動,消火活動等の応急対策活動が開始される。応急対策活動の実施については第一次的には市町村が当たり,都道府県は広域にわたり総合的な処理を必要とするものに当たる。また,地方公共団体の対応能力を超えるような大規模災害の場合には,国が積極的に応急対策を支援することとなっている。

 これらの活動には消防機関約110万人(消防署員約15万人,消防団員約95万人)をはじめとして,警察機関(都道府県警察の警察官の定員は約23万人),海上保安庁(地方勤務の海上・航空,陸上職員の定員は約1万人)の職員が従事する体制が整備されるとともに,都道府県知事等から派遣要請があった場合には,自衛隊(陸上,海上,航空の各自衛官の定員合計は約27万人)が災害応急対策活動に従事する体制がとられている。

 平成11年には,延べ約40万人の消防職団員と警察官,海上保安官が応急対策活動に従事したほか,平成11年度の都道府県知事等から自衛隊への災害派遣要請は815件に上り(救急患者の搬送件数も含む。),延べ26,367人の人員が派遣された。

2-5 災害復旧対策等の実施

 災害からの復旧・復興においては,災害復旧事業等による公共的施設の復旧整備等による単なる原状回復にとどまらず,より安全性に配慮した地域振興のための基礎的な条件づくりとともに,被災地復興の計画的実施,復旧・復興に不可欠である地域経済の復興対策,被災者の自立した生活再建の対策等について,法律・税制・予算措置等による様々な措置を講じることとしている。

(1) 災害復旧事業

a 主な災害復旧事業

 道路・港湾等の公共的施設等が被災した場合においては,公共の福祉の確保を図る観点等から,その迅速な復旧が望まれる。国が実施する主な災害復旧事業は,( 表2-2-3 )のとおりであるが,できる限り速やかに実施されることが必要であり,原則として直轄事業については2か年,補助事業については3か年で事業を完了させることとしている。

  (表2-2-3) 主な災害復旧事業

 また,国は災害復旧事業を実施するために大きな財政負担を負う被災地方公共団体に対して,災害関係地方債の許可及びこれに対する資金運用部資金の貸付,普通交付税の繰上げ交付,特別交付税における災害に伴う特別の財政需要の算定等の措置を講じ,財政負担の軽減を図っている。

b 激甚災害制度

 前述の措置に加えて,国民経済に著しい影響を及ぼし,かつ,当該災害による地方財政の負担を緩和し,又は被災者に対する特別の助成を行うことが特に必要と認められる災害が発生した場合には,中央防災会議が定める基準に基づき,当該災害を政令で「激甚災害」に指定し,災害復旧事業に対する国の補助率の引上げ等,特別な助成措置を講じ,地方公共団体や被災者の負担軽減を図っている。

 ところが,平成12年9月8日から17日にかけての愛知県を中心とした豪雨災害は,中小企業関係の被害額が激甚災害に指定された過去の災害を大きく上回る規模となったにもかかわらず,愛知県の中小企業所得の総額が高かったため,昭和37年に制定された基準では激甚災害に指定できないことが判明した。

 このため,現行基準に絶対額基準を加えることにより,中小企業所得の総額が高い都道府県においても激甚災害を指定できるよう,指定基準を以下のとおり改正した(下線部分を追加)。

  

 激甚災害指定基準(昭和37年12月7日中央防災会議決定)6のB

 「当該災害に係る中小企業関係被害額が当該年度の全国の中小企業所得推定額のおおむね0.06%をこえる災害であり,かつ,一の都道府県の区域内の当該災害に係る中小企業関係被害額が当該年度の当該都道府県の中小企業所得推定額の2%を超える都道府県又はその中小企業関係被害額が1,400億円を超える都道府県が一以上あるもの」

  

 なお,この中小企業関係の激甚災害指定基準の改正は,昭和37年の制定以来,38年ぶり初めてのものである。

(2) 復興対策

a 復興計画の作成

 大規模な災害により甚大な被害が発生した場合には,被災者の生活再建や地域の復興を迅速かつ円滑に推進するため,被災地方公共団体は早期に的確に対応する必要があるが,そのためには事前にその備えをしておくことが重要である。

 このため,国においては,地方公共団体が災害の態様や地域の特性に合わせて復興対策を迅速かつ的確に検討できるようマニュアル作りを進めてきており,今後はこれらを更に発展させた総合復興手引書の作成を行う。また,発生の切迫性が指摘されている東海地震等については,事前復興計画策定のための調査検討を行ったところである。

b 被災者支援対策

 災害により被害を受けた場合に,災害により死亡した者の遺族に対する災害弔慰金,災害により著しい障害を受けた者に対する災害障害見舞金が支給される他,「被災者生活再建支援法」(平成10年法律第66号)に基づき,自然災害により生活基盤に著しい被害を受け,経済的理由等により自立して生活を再建することが困難な被災者に対しては,最高100万円の被災者生活再建支援金が支給される。このうち,被災者生活再建支援法は,平成12年度においては,有珠山噴火災害,三宅島における噴火災害や平成12年秋雨前線と台風14号に伴う大雨による災害などに適用している。

 更に,被災者の生活再建に資する災害援護資金や生活福祉資金の貸付等を実施するとともに,住宅や家財に被害を受けた人々に対しては,国税及び地方税について,軽減,免除,納税の猶予を行う等,きめ細かい支援措置を講じている。

c 災害の被害認定基準の見直し

 現行の災害の被害認定基準は,昭和43年6月に統一されてから,既に30数年が経過していること,また近年の住宅構造の変化等により,浸水被害における断熱材等の被害や地震による住宅の傾斜など物理的損害の程度と基本的な居住のための機能の損害の程度とが必ずしも一致していないことから,最近の災害における住宅などの被害認定については,現状と合わなくなってきているなどの指摘がなされている。

 このため,昨年11月に関係省庁や学識経験者の協力の下,当該被害認定基準について点検・見直しを行う「災害における住宅等の被害認定基準検討委員会」(委員長:高寄昇三甲南大学教授)を開催し,検討を行った。

 委員会では,統一基準は,これまで災害状況の把握などを目的として使われてきたが,各種被災者支援策の対象要件に関連して,認定基準及び適用方法についてより一層明確化を図ること,住家の全壊・半壊の概念については,居住のための基本的機能が確保されているかどうかを要件とすることなどの見直しの基本方針に基づいて被害認定基準が見直された。

 また,委員会の下に設けられたワーキンググループにおいて,被害認定基準運用指針(マニュアル)を検討・作成した。

d 住宅対策

 災害により住宅を失った被災者が,一日でも早く恒久住宅に入居できるよう,国においては公的恒久住宅の量的確保に加え,持ち家に関しては住宅金融公庫等による融資による措置を講じることとしている。

(1)

 被災者の住宅再建支援の在り方に関する検討委員会

 「被災者生活再建支援法」の附則第2条の規定を踏まえ,国土庁において「被災者の住宅再建支援の在り方に関する検討委員会」(委員長:廣井脩東大教授,学識経験者など10人で構成)が平成11年1月以降,計17回にわたり開催された。委員会は,平成12年12月,合計17回に及ぶ検討結果をとりまとめ,報告書を国土庁に提出した。

 委員会は,平時,避難生活の段階,仮住まいの段階及び恒久的住居を確保する段階の各段階にわたって検討した結果,次のような具体策を提示した。

a

 避難所,仮設住宅のタイプの多様化

b

 既存の空き住宅ストックの活用

c

 地震保険の保険料率体系の見直し

d

 住宅の耐震補強の促進,他

 全住宅所有者の加入を義務付ける住宅再建のための相互支援制度については,強制加入に対する国民の理解,徴収事務等の負担等の課題が指摘されたところであり,今後検討することが必要であるとされた。

e 市街地・都市基盤施設の復興

 災害後の地域の経済活動の継続や復興,また被災者の生活確保及び生活再建のためには,これらの活動を支える市街地・都市基盤施設の復旧が不可欠となる。

 市街地の復興のため,土地区画整理事業,市街地再開発事業,「被災市街地復興特別措置法」による建築制限の実施等がなされ,更に防災上の理由から住宅を集団で移転する場合には,防災集団移転促進事業等が行われることとなるが,国においてはこれらに対し助成措置を講じている。

 また,被災者の生活と密接に関連するライフライン,道路等の都市基盤施設については,迅速な復旧を行うことが基本であるが,災害によって脆弱性が明らかにされた施設については,単なる現状復旧ではなく耐震性の強化等を含むより安全性に配慮した都市基盤施設の復興を実施していくことが必要となる。

f 地域経済の復興

 地域の経済状況は,その地域の住民の雇用,収入その他の生活基盤の安定の面で,非常に大きく係わってくるものであり,また地方公共団体の復興財源の確保にも大きな影響を与える。

 地域経済の復興においては,前提となる都市基盤施設の早期復旧,防災まちづくり等を計画的に推進するとともに,産業復興については,被災した中小企業に対する政府系中小企業金融三機関の災害復旧資金の貸付や,被災した中小企業が,設備や技術の高度化資金の貸付など,被災した中小企業の再建や高度化の支援を行うため,各種の制度が設けられている他,農林漁業者に対してはその経営の安定を図るため各種の支援制度がある。( 表2-2-4 )

  (表2-2-4) 主な被災者支援措置

 その他,総合相談体制の整備,金融面での支援といった個々の事業者を対象とした施策や,イベントやプロジェクトの企画・誘致,観光・地場産業の振興等の地域全体に波及効果を及ぼすような措置を講じていくことになる。

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