表示段落: 第1部/第1章/4


表示段落: 第1部/第1章/4


4 21世紀の災害の態様

 20世紀の主な自然災害によって,世界全体で約5,550万人が犠牲になったと推計されている(ベルギー・ルーバン・カトリック大学疫学研究所推計)。この間,世界人口は1900年の約18億人から2000年の約60億人に増加したが,21世紀中も世界人口はさらに増加を続け,2050年に約94億人,2100年に約104億人になるとされている(United Nations World Population Projections:1998年)。

 一方,21世紀中には,地球の温暖化など人間活動により自然環境が影響を受け,災害がより多発し,または甚大化することが予想される。また継続的な地殼変動等に伴う災害等も発生する。高齢化やネットワーク化など経済社会の変化に伴う新たな形態の被害発生も懸念されるところである。21世紀中に世界人口が自然災害の脅威にさらされる確率はさらに高まると想定される。

(1) 人間活動により影響を受ける自然環境

[1] 地球の温暖化に伴う災害

 人類の諸活動に伴い大気中に排出される二酸化炭素等の温室効果ガスにより,地球規模での気候変動が生じつつある。いわゆる地球の温暖化現象である。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3次評価報告書(2001年4月)によれば,21世紀中に全地球平均表面気温は1.4〜5.8℃上昇するものと見込まれている。その結果として,大気の対流活動が活発化し,豪雨の頻度の増加による洪水,地滑り,泥流の発生,台風等の最大風力,最大降水強度の増加,エルニーニョに関連した干ばつや洪水といった自然災害が増加するとしている。また,同時に海水の熱膨張や氷河,氷原の消失により,9〜88cm程度海面が上昇し,モルジブやマーシャル諸島等の沿岸低地居住者は移転を余儀なくされると予測されている(参考:http://www.ipcc.ch)。

 平成13年2月,国連環境計画(UNEP)は,このような予測に基づき,直ちに対策が講じられない場合には,台風等の頻度の増加,土地の水没,漁業・農業等への影響により,世界で年間約3,000億ドルの被害が出るとの試算を公表した。

 我が国においても,海抜1m以下の地域に居住する人口は大都市圏を中心に475万人に上っており,集中豪雨による洪水や海面上昇の影響を受ける可能性が高い。将来的な変化の動向の的確な把握とその対応について今後十分に検討する必要がある。

[2] ヒートアイランド現象の進行

 大都市においては,緑地の減少による水分蒸発量の減少,建築物の高層化・高密化に伴う廃熱量の集中と増加等により,中心部の気温が周辺部より高くなる「ヒートアイランド」現象が現出している。地球の温暖化により,このような現象がさらに顕著になるものと考えられる。上述のIPCC報告書は,ヒートアイランド現象により人口1,000万人以上の巨大都市では,雷,集中豪雨,雹を伴う巨大都市特有の気象パターンが出現するとしており,現在の都市構造では十分対応できないような局地的集中豪雨の発生の可能性もある。我が国の場合,すでに東京等の大都市で時間雨量100mm前後の集中豪雨が多くなっており,今後,十分な観測・原因分析と対策の検討が必要となろう。

(2) 地震・火山活動の長期的動向

 20世紀中は,イタリア,中国,日本,イラン,トルコ,インド等で大規模な地震が発生し,多くの犠牲と被害を被ることとなったが,21世紀中も幾つかの地域が地震活動期に入り,大規模地震が発生する事は否めない。

 我が国で発生する地震の場合,プレートのもぐり込みにより発生する海溝型巨大地震(発生間隔:数百年程度),海洋プレートの内部で発生する地震,内陸の活断層を震源とする地震(発生間隔:数千年から数万年程度)に大きく分類されている。特に駿河トラフ沿いで発生する大規模な海溝型地震(東海地震)は発生が懸念されており,海洋プレート内及び境界付近で発生するとされる南関東地域直下は,ある程度の切迫性を有しているとされている。

 さらに,( 表1-4-1 )に示すとおり大規模地震はある程度周期的に発生するとの研究があり,この報告に基づけば,平均繰返時間間隔から考えて21世紀中の発災が懸念される大規模地震が幾つか存在していることになる。また,南海トラフ沿いの巨大地震の前後に,内陸の大地震が集中して発生していることなどから,阪神・淡路大震災以降,西日本が地震の活動期に入ったという学説もある。

  (表1-4-1) 地震域別の平均繰返時間間隔

 このような地震発生の長期的動向に的確に対応するためにも,耐震化の促進や避難地・避難路の確保など全国的に地震防災対策に取り組むことが肝要である。

 一方,火山活動については,20世紀中にインドネシア,フィリピン等で繰り返し噴火災害が発生している。我が国の場合も,桜島,十勝岳,浅間山,阿蘇山,有珠山,三宅島,伊豆大島,雲仙岳等が噴火して犠牲者が出ており,特に昨年は有珠山,三宅島で大きな災害を伴う噴火が発生したほか,北海道駒ヶ岳,岩手山,磐梯山,浅間山,桜島で噴火または火山活動の異常が観測され臨時火山情報が発表された。

 重点的に観測研究が進められている13火山の噴火履歴を見ると,全国的に活発な火山活動が続いていることが分かる( 表1-4-2 )。有珠山や三宅島のように噴火の周期性が明らかとなっており,噴火の短期的な予測が可能なものもあるが,実際は噴火の周期性が明らかになっていない火山が多い。過去の噴火実績の定量的把握,マグマ供給システムと噴火との関連等を調べることにより火山噴火を長期的に予測することが期待される。21世紀中にも幾つかの火山が噴火するものと想定されることから,今後も観測研究体制や災害に強いまちづくりなど火山対策の充実に努める必要がある。

  (表1-4-2) 13火山の噴火履歴

 なお,富士山については,2000年10月以降,低周波地震のやや多い状況が続いていたが,2001年1月に入って減少しており,地殼変動等にも変化は見られず,直ちに大きな噴火に結びつくとは考えられていない。富士山は過去2000年間に10回程度の噴火が確認されているが(いずれも山腹噴火),ここ300年間は静穏期が続いている。政府としては,[1]火山噴火予知連における富士山を専門に検討する部会の設置の検討,[2]観測・監視体制の強化,[3]地域と協力した火山ハザードマップの整備等を行い,今後の火山活動を注視するとともに,富士山に係る防災体制を強化することとしている。

(3) 経済社会の変化に伴う災害

[1] 都市化と災害

 世界全域の都市人口割合は1950年の29.7%から2000年には47.4%へと増加し,2030年には61.1%になると推計されている(United Nations World Population Prospects:1996年)。都市化した人口は,発展途上国を中心として災害に脆弱な大都市のスラム地域へ集中する傾向にあり,21世紀中には地球の温暖化と相まった大規模な水害やその他の災害の発生が懸念される。

 我が国の場合には,20世紀を通じて人口はほぼ3倍に増加し,それらの人口の多くは都市部において増加した。2000年(平成12年)時点において,全国人口の約3/4が市部に居住するに至っている。都市に集中する人口の圧力が極めて大きかったことから,十分な都市基盤が整備されていない地域や河川氾濫区域及び山地に近接した地域等,災害に対し脆弱な地域においても市街地が形成された。また20世紀後半,農地の宅地化が急速に進み( 図1-4-1 ),降雨の河川への流出速度がかなり速まり,都市河川への負担が大きく水害を発生させやすい状況にもなっている。

  (図1-4-1) 名古屋市の宅地・農地の変化(昭和27年〜平成10年)

 しかしながら,21世紀初頭に日本の人口はピークを打って減少し始めるものと予測されており,都市部においても,今世紀半ばまでには人口減少が始まるものと考えられる。従って,前世紀と異なり,量的な都市化圧力に対応して都市を拡大していくことよりも,コンパクトな都市への要請が高まるものと想定される(OECD対日都市政策勧告:2000年11月)。災害に対して脆弱な土地における市街地の再編成等により,災害に強い都市づくりの可能性も広がるものと期待される。

[2] 過疎化と災害

 20世紀は,上述したように都市化が進行する一方で,山林地域や農業地域から人口が流出し,耕作放棄地や無人化した地域が拡大した。ラテンアメリカ,北部アメリカ,ヨーロッパ等で顕著である。拡大した耕作放棄地や無人化地域においては,適切に自然を管理していくことが難しい面もあり,所によっては土砂流出の発生など災害につながっている。

 我が国においても,前世紀には,極めて急激な都市化と同時に,都市の利便性を享受しづらい地域を中心に人口減少が生じ,特に国土の多くを占める中山間地域等において過疎化が進行した。この傾向は21世紀中も継続し,国土の49%を占める過疎地域の人口は,1995年の797万人から2015年には602万人へ減少すると予測されている。現在,国土の60%が無人化しているが,このような地域はさらに拡大していくこととなろう。この結果,国土管理上重要な農地や森林等の管理が行き届かないことから,国土構造の脆弱性が拡大し災害の発生に結びつく可能性がある。

[3] 高齢化と災害

 世界人口の高齢化は急速に進んでおり,高齢者比率(65歳以上人口/世界の総人口)は2000年の6.9%から2050年には16.4%へ上昇する。先進国の高齢化はさらに速く,高齢者比率は2000年の14.4%から2050年の25.9%へと増加する(United Nations, The Sex and Age Distribution of the World Population:1998)。高齢者は一般的に災害弱者である場合が多く,社会の高齢化が進むと災害時の弱者対策の重要性が増すものと考えられる。

 我が国の場合も,21世紀中に人口構成が急速に高齢化し,高齢者比率は2000年の17.2%から2025年の27.4%へ,さらに2050年には32.3%へと急増すると予測されている。1995年の阪神淡路大震災の場合,犠牲者の約44.5%が65歳以上の高齢者であったと報告されており(阪神・淡路大震災調査報告:土木学会等;1999年6月),災害時における高齢者対策の重要性を強く示唆している。特に今後,高齢者のみの世帯(高齢者単身世帯及び世帯主が65歳以上である夫婦のみの世帯)が1995年から2020年までに600万世帯増加し,2020年には1,120万世帯に達することから,高齢者の所在を把握するとともに,災害時における家族,コミュニティの支援体制等を整備しておくことが重要である。

 一方,年齢が高い人ほど,大地震に備えて消火器や三角バケツ等の防災用品の準備等を行っており,総じて高齢者は災害に対する意識が高いものと考えられる( 表1-4-3 )。コミュニティの互助精神の強化など防災意識の高揚に対する高齢者の貢献が期待される。

  (表1-4-3) 大地震に備えてとっている対策(複数回答,単位%)

[4] ネットワーク化と災害

 高度情報システム等によって,世界的に経済社会の人,物,金等の諸要素が分かちがたくネットワーク化されるにつれ,個々の独立性が低下し,災害等によってネットワークの一部が破壊されただけで,ネットワーク全体の機能が停止するといった脆弱性が増加する傾向にある。

 我が国においては,例えば,1984年の世田谷ケーブル火災において,管内の加入電話,公衆電話が不通になったばかりでなく,区役所,警察,消防など公共機関,さらには金融機関などのオンラインが停止し,広域的に多大な影響を及ぼした(参考:http://xing.mri.co.jp/research/reseach/bousai)。さらに,1998年の大阪における専用回線事故でも同様の混乱が発生し,この場合には航空管制業務にまで影響し,大きな事故災害につながる可能性もあった。

 また,経済的な観点から見ると,一部の地域の災害が国境を越えて多方面に影響を及ぼす可能性が高まりつつある。例えば,G7諸国の国際資本移動の規模(直接投資及び証券投資の合計値の対名目GDP比率)は,最近では10%を越える水準にまで上昇している。大規模な災害等によりこれらの資金の流通が停止するような事態になれば,被災国のみならず世界経済に大きな影響を与えると考えられる。

  

 以上述べてきたように,21世紀中にも人類が新たな災害の脅威にさらされることは明らかであり,犠牲者と被害の軽減を図るため十分に備える必要があることは言うまでもない。

 世界的には,国連が1990年代を「国際防災の10年」と定め,国際防災の10年事務局を中心として,特に途上国における自然災害による人的損失,物的損害及び社会的・経済的混乱を,国際協調活動を通じて軽減するための活動を行ってきた。本活動を終了するに当たり,コフィ・アナン事務総長は,1999年9月に開催された第54回国連総会の事務総長報告の中で,現在,国際社会が自然災害の人的,資金的コストの急増に直面しており,犠牲者に対する救援能力を強化しつつ,その発生を防止するための効果的な戦略を考えなければならない旨指摘した。まさに「Prevention is better than cure(予防は治癒に勝る)」の思想である。

 同総会において「国際防災の10年」期間中に実施された先駆的な取組みを今後とも継続するために,2000年より「国際防災戦略(International Strategy for Disaster Reduction:ISDR)」活動を開始することを決議し,現在,国連・国際機関と連携しつつ災害対応力の強いコミュニティの形成と災害リスクの管理を目指して,防災に関する意識啓発活動等に努めている。21世紀の新たな災害の態様に的確に対応していくためにも,このような国連を中心とした防災活動に積極的に参加していく必要がある( 第4章2 参照)。

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.