首都圏広域防災拠点整備協議会

都市再生本部 首都圏広域防災拠点整備協議会

東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点に関する整備基本方針


平成13年12月26日


1. 目的・必要性

(1) 首都圏全体の防災性向上


首都圏は、人口や諸機能が高度に集積し、都県境を越えて稠密な市街地が同心円状に連担している。特に、東京都心部、横浜市、川崎市及び千葉市等東京湾臨海部の後背地には、人口・諸機能が高度に集積し、日中は郊外部から多くの人が通勤するなど、非常に多くの昼間人口を抱えている。また、一部には、老朽木造住宅が密集した防災上危険な市街地や地盤に問題を抱える地域もあり、重要な都市基盤の整備の遅れやオープンスペースの不足など、都市構造上の脆弱性も指摘されている。


このため、ひとたび大規模地震が発生すると、複数の都県市にまたがり、非常に広範囲にわたって多数の構造物等が倒壊し、延焼火災が多発する可能性が高く、人的・物的に広域的かつ甚大な被害が生ずることが、阪神・淡路大震災の被災状況からも推定されている。


このような被災時には、被災都県市それぞれにおける応急復旧活動(地域的オペレーション)に加え、それぞれの活動に付随して生ずる被災地域外から被災地域内への人員・物資の流れを適切に処理するとともに、これらの活動が円滑かつ効率的に行われるよう、応急復旧活動の広域的な作業計画の策定、被災地外からの救援物資、自衛隊・広域緊急援助隊(警察)・緊急消防援助隊等及び各施設の復旧活動要員等(以下、「広域支援部隊」という。)の受入れ、配分調整等を行うこと(広域的オペレーション)が必要となる。


大都市圏の複数都県市が同時に被災するような未曾有の大震災に対し、基幹的広域防災拠点の整備と実践的な広域防災体制の整備等の備えを進めることは、首都圏全体の防災性の向上に大きく寄与する。


(2) 国家的危機への対応


首都・東京の都心部は、我が国の政治・経済等を担う重要な施設が多数立地する我が国の中枢であり、大規模地震の発生により我が国全体の政治・経済活動の麻痺につながる可能性が非常に高い。我が国が国際的に重要な立場を占める今日、我が国の政治・経済等の中枢の被災は、我が国の政治・経済のみならず、世界のパワーバランスや世界経済に多大な影響を及ぼしかねない。


また、こうした大規模な震災だけではなく、2001年9月11日にアメリカ合衆国において発生した同時多発テロの例にも見られるとおり、テロ等による大規模な被災においても、救助隊やボランティアなど救助・救急活動等の拠点が必要である。


(3) 東京湾臨海部の優位性


[1]海運・水運の活用


東京湾臨海部は、東京港、横浜港、川崎港及び千葉港等の主要港湾、横浜海上防災基地が位置し、海からのアクセスによる大量輸送が可能であるほか、荒川・江戸川等主要河川を遡上し、河川舟運の利用による内陸部への人員・物資の輸送が可能である。


直下型地震が発生した場合、主要道路網及び鉄道網の寸断や避難車両、滞留旅客の帰宅等に伴う交通の集中により陸上交通が一時的に混乱することが想定されるため、その間、陸上交通ネットワークによる人員・物資の搬送は期待できない恐れがある。


このため、全国及び海外からの緊急物資等や滞留旅客の輸送、人員派遣に際し、主要港湾が集中し主要河川とリンクする東京湾臨海部に耐震強化岸壁等を備えた拠点を置き、海運・水運を活用することにより、これらの混乱を避け、効率的な物資配送・人員派遣等を行う必要がある。


[2] 空からのアクセス


都市内道路網の被災と交通の集中が相まって交通規制が困難な場合には、阪神・淡路大震災時のように、発災当初はヘリコプターを中心とする航空輸送を活用する必要がある。


東京湾臨海部は、上記の海運・水運の活用に加え、既存の東京国際空港、東京ヘリポート、横浜ヘリポートの活用も含めヘリポートの確保が期待できる等、道路の被災に伴う交通ネットワークのリダンダンシーの確保が可能である。


[3]オープンスペース確保の容易性


基幹的広域防災拠点に必要なオープンスペースの確保に際し、東京湾臨海部は、産業構造の転換が進んでおり、稠密な市街地が立錐の余地もなく広がる内陸部と比較して、オープンスペースの確保が比較的容易である。


(4) まとめ


以上のことから、都県市単独では対応不可能な、地震・テロ等による広域あるいは甚大な被害に対し、国及び都県市が協力して、的確に迅速かつ円滑で効果的な応急復旧活動を展開し、人的・物的被害を可能な限り軽減するとともに、我が国の政治・経済等諸機能の回復を早急に図るため、東京湾臨海部において、災害対策活動の核となる現地対策本部機能を有し、海上輸送等と連携した基幹的広域防災拠点を緊急に整備し、もって首都圏全体の防災性向上を図る。


基幹的広域防災拠点は、被災時に国及び都県市の協力の下、広域的な防災活動拠点として機能するだけでなく、平常時には人々が憩う魅力的な空間として有効に利活用されるものである。

2. 施設整備の方針等


(1) 確保する機能


緊急に整備する東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点において確保する機能は、以下のとおりとする。


[1] 本部機能の確保


被災地の情報収集・集約、被災都県市・関係各機関との連絡調整、応急復旧活動の指揮等を行うことのできる本部機能(関係行政機関、被災都県市、指定公共機関及び広域支援部隊の現地責任者等による合同現地対策本部)を確保する。


[2] 被災地上空の安全確保


ヘリコプター等救援機等による混雑が予想される被災地上空の安全を確保するため、適切な情報提供等を行う機能を確保する。


[3] 海外救援物資・人員の受入れ


海外救援物資・人員の受入れを効率的に行うため、税関や検疫、入国の手続について、アクセスポイントの設置、情報の集約等の機能を確保する。


[4] 緊急輸送物資の中継地点


被災地域外から被災地域内への医薬品・食糧・応急復旧資機材等の救援物資の集積、荷さばき、分配等を行う中継機能を確保する。


[5]水・食糧等の備蓄


活動要員用又は周辺被災者向けの水・食糧・医薬品・応急復旧資機材等の備蓄機能を確保する。


[6] 活動要員のベースキャンプ


広域支援部隊の指揮命令を行うコア部隊及び防災ボランティアの登録・分配を行うボランティア活動の中心的市民団体をはじめとし、可能な限り、広域支援部隊、防災ボランティア等のベースキャンプ機能を確保する。


[7] 医療体制の支援


救助活動と医療活動の適切な連携のための情報共有化、トリアージ(治療の優先順位による患者の振分け)の実施のための資機材・設備の提供等、災害時医療体制の支援機能を確保する。


(2) 必要な条件整備


緊急に整備する東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点において、国及び都県市が協力して、的確に迅速かつ円滑で効果的な応急復旧活動を展開するため、以下の条件整備を行う。


[1] 交通手段の確保


人員・物資の緊急輸送手段のため、複数の交通ネットワーク(陸路・海路・水路・空路)を確保する。特に、臨海部の特性に鑑み、海上輸送・河川舟運との連携を図る。

[2]通信手段等の確保


国及び都県市及び広域支援部隊等の円滑かつ効率的な活動の基盤となる通信手段、電気・水等を確保する。


[3]一般利用の制限


応急対策活動等を円滑に行うため、被災時には一般利用の一部制限を行う。


[4] 平常時利用


住民等の憩いの場としての利用や訓練・研修の実施、研究開発、ボランティア情報の集約、海外の災害への支援等、平常時における有効利用について十分に配慮する。


(3) 施設整備の方針


緊急に整備する東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点において、以上の機能を確保するとともに必要な条件整備を行い、以下の施設を整備する。


[1] 本部施設等コア施設


本部施設については、合同現地対策本部の設置のため、国及び都県市が連携し必要な施設を合築する等により、それぞれの本部員や実働部隊の現地責任者等が一同に会する会議室、司令室・通信統制室その他機器・機材室、事務室(被災地上空の安全確保や海外からの救援物資・人員の受入れのための事務室を含む)、仮眠室のほか、物資の備蓄倉庫等を整備する。


この他、被災時に全国から集まる防災ボランティアの活動を支援する防災ボランティア・ネットワークの拠点、官邸・中央省庁等のミラーサーバなど被災時にも政治・経済等の諸活動が円滑・安定的に行われるための各種情報のデータ・バックアップセンターとしての活用についても整備手法を含め今後検討する。


また、輸送中継に係る救援物資・人員及び輸送車両の滞留、物資の荷さばき、空路活用のためのヘリポート及び海路活用のための耐震強化岸壁等を整備する。特に、基幹的広域防災拠点の基盤施設である港湾機能の充実については早急に詳細検討する。


輸送に関連する施設の整備に当たっては、輸送車両の取りまわしのため、前面道路幅員を十分に確保するほか、周辺環境への影響も十分考慮する必要がある。


さらに、悪天候時の機能確保のため、屋根付きの大規模空間や宿泊可能な建築物が併せて利用できるよう、そのあり方、協定の締結等による周辺施設利用の可能性も含め今後検討する。


以上の本部施設等コア施設については、被害想定により試算すると、全体としておおむね25〜50haの用地確保、本部施設としておおむね10,000〜15,000?程度の建物面積が必要となる。


この他、特に、広域的オペレーションの展開上合同現地対策本部と緊密に情報共有・連携等を図る必要のある、広域支援部隊のコア部隊のベースキャンプについては、必要な面積を確保する必要がある。


[2]活動要員のベースキャンプ


応急復旧活動要員の迅速な対応を可能とするため、コア部隊以外の広域支援部隊のベースキャンプ等のためのオープンスペースについても可能な限り確保することとする。


なお、被害想定に基づく試算によると、全ての活動要員のベースキャンプとして機能するには、約400〜900haの用地確保が必要となる。このような非常に大規模なオープンスペースの確保は困難であることから、近接する他のオープンスペース等の活用を積極的に行うものとする。


[3] 関連施設等


この他、医療施設等との連携を図るとともに、周辺状況等に応じ、液状化対策等を行うものとする。


[4] 平常時の有効利用


本部施設については、平常時の管理施設等として使用するとともに、広域支援部隊のための訓練施設や防災ボランティア等の研修施設、防災に関する研究施設等として、オープンスペースについては、住民等の憩いの場として利用するとともに、広域支援部隊の訓練場等としての利用についてその必要性も含め検討するなど、平常時の有効利用に十分配慮する。


3. 整備箇所


東京湾臨海部の中でも、扇状に広がる首都圏の人口集中地区の「扇の要」に当たり、政治や金融・経済の中心であり数多くの枢要な施設が集中する東京都心部に近接するエリアについては、応急需要が非常に高く、危機管理等国家戦略上も特に重要である。


したがって、東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点は、東京都心部近傍で稠密な市街地を効率的にカバーすることが可能な位置に整備する必要があるが、東京都心部近傍の現状をみれば、これらの機能を一箇所で発揮することのできる、まとまった用地の確保は困難な状況にある。


また、特に稠密な東京都心部や横浜市・川崎市等の市街地至近に必要であるとともに、テロ対策も含めた国家的危機管理の観点から政治・経済の中枢である首都東京の都心の早期回復が非常に重要である。


さらに、東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点は、国内外からの救援物資等の受入れ、水上・海上輸送との連携が重要な機能の一つであり、既存の港湾施設等の充実も考慮する必要がある。


したがって、緊急に必要な東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点は、東京都臨海部及び川崎市臨海部において、適切な機能分担を行い相互に補完することにより、全体として一つの基幹的広域防災拠点の機能を発揮できるよう整備することとする。


東京都臨海部は、我が国の政治・経済の中枢であり諸機能が高度に集積する東京都心の至近であり、一般及び高速交通網が充実しているとともに、大規模なスポーツ施設やコンベンションセンター等が位置し、既に電気、ガス、上下水道等都市基盤が相当程度整備されている。


また、川崎市臨海部は、貨物ヤードやバース、小型船舶用の船だまりが整備されているなど港湾機能が充実しており、食品・生活物資等の流通センターが位置している。


東京都臨海部及び川崎市臨海部それぞれの機能分担については、こうした特性を十分に踏まえる必要がある。


4. 整備・維持管理の考え方


東京都臨海部及び川崎市臨海部に一体として整備する基幹的広域防災拠点の重要性・緊急性に鑑み、その整備に当たっては、国としても、関係各機関が連携して主導的な役割を果たすこととする。


基幹的広域防災拠点の整備・維持管理手法については、既存の枠組みにとらわれず、その施設に最も適切な事業手法等を選定することとする。


全体としては、平常時における広域的な有効利用、被災時における防災活動拠点と、大きく切替えが必要であることや都市再生等の観点にも考慮しつつ、本部施設の整備にあわせオープンスペース等を適切に確保するため、公園・港湾緑地等の整備手法及び維持管理手法の活用が想定される。


また、本部施設等については、もっぱら防災体制の確保のための防災施設として整備するとともに、訓練・研修、研究開発等その他必要となるそれぞれの機能については、具体的な仕様等を想定し、必要な施設ごとに適切に整備手法及び維持管理手法を選定するものとする。


ただし、東京都臨海部及び川崎市臨海部に一体として整備する基幹的広域防災拠点による便益を考慮し、国・関係都県市が応分の適正な負担を行うものとする。


なお、基幹的広域防災拠点そのものが震災により機能しない事態が生じないよう、万全の対策を講じるものとする。


5. 運用の考え方


東京都臨海部及び川崎市臨海部に一体として整備する基幹的広域防災拠点の実効ある運用のため、今後、関係行政機関、関係都県市、指定行政機関及び被災時に活用が見込まれる民間施設管理者等が連携、協力し、運用協定を締結した上で、運用マニュアルを整備する。


同時に、平常時利用との関係、被災時の一般利用の制限方策についても明確化を図る。

6. 具体的整備に向けた今後の進め方


(1) 今後の進め方


平成15年度概算要求までの早い段階までに、本協議会において、以下について検討整理した上で、具体的な整備地を含め整備基本計画として決定する。


[1]東京都臨海部及び川崎市臨海部における基幹的広域防災拠点が一体として必要な機能を発揮するための国及び都県市が連携した全体整備計画、全体整備スケジュール等の検討


[2] 広域的オペレーションの展開上必要な、国及び都県市が連携した本部施設のレイアウト、通信基盤・備蓄倉庫等の施設整備計画、事業費の概算、整備スケジュール等の検討


[3] 東京湾臨海部における防災拠点の形成に資する防災公園に関する検討


[4] 東京湾臨海部における基盤施設としての耐震バースや港湾緑地のレイアウト、事業費の概算、整備スケジュール等の検討


特に、基幹的広域防災拠点として早急に確保すべき海外からの救援物資の受入れを含めた海からのアクセス機能を持つ川崎市臨海部については、港湾機能や物流倉庫群の現状、国の果たすべき役割を踏まえ、現行の港湾緑地の計画との整合を図りつつ早急に詳細検討


(2) 基幹的広域防災拠点整備基本計画策定委員会(仮称)の設置


(1)のうち、具体的な施設整備の内容等については、早期に有識者等からなる基幹的広域防災拠点整備基本計画策定委員会(仮称)を設置し、平成14年6月を目途に結論を得、整備基本計画に反映するものとする。


(3) その他関連する調査検討の実施


この他、平成14年度政府予算案の決定等を受け、上記検討と綿密に連携しつつ、整備の具体化に向け、関係各機関・都県市において関連する調査検討を実施する。



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