事例詳細

大岩2丁目自主防災会

1. モデル地区の概要

・ 静岡県静岡市大岩二丁目は、昭和30年代後半から急速に宅地化が進んだ地域であり、
閑静な住宅地となっている。
・ 840世帯、人口3,000人を越える、静岡市安東学区の中でも最も大きな町内会である。転入者はほぼ全員町会に加わるが、単身赴任者は住民票を移さない者も多く、町会には加入していない。
・ 自主防災会へ防災委員558名が参加する、防災活動の活発な自主防災組織である。


岩二丁目自主防災会の位置

2. 防災まちづくり活動の経緯

・行政に手が廻らない活動を住民がやる主旨で昭和56年5月1日に、『大岩2丁目自主防災会』を設立した。
・防災訓練を核に、普段の町会活動との連携を図っていった。
・840世帯あまりが在住し、世帯を持っている住人はほとんどが町会に加入している。
・初期の頃、子供会活動を活発に行っていったメンバーが中心に、防災訓練、福祉活動が拡がっていった。規約(別紙1:大岩二丁目自主防災会規約参照)を作り、それに沿った訓練を行い、集合訓練を中心に活動を開始した。


毛布と物干し竿で担架を作る訓練風景

消火器を正しく使うための訓練風景

3.大岩二丁目自主防災会の取り組み

(1)班毎に防災まちづくり活動を任せ、防災まちづくりに主体的に参加できる環境づくり

・ 多人数が参加する集合訓練は一般住民が一部の人の訓練を見ている、見学者的な態度になりがちである。阪神・淡路大震災を契機として参加型訓練とするために、班別防災会を作り班毎に独立した訓練を行う方向で活動を行い、それまで参加者が8百人規模であったものを1,200人規模まで増やすことができた。
・ 各班内では自主防災会での役割(救出、救護など)を担うメンバーが相互に協力して防災訓練を実施している。
・ 班別訓練は、距離的に身近な場所で訓練が行われるため近隣住民の出席率が上昇し、マンションのような非定住型の若年住民の多い場所でも、近くの駐車場で訓練を実施することで多人数の参加者に訓練に参加することができた。


(2)『自主防災台帳』の作成

・ 防災まちづくり活動を進める上で、地域にどの程度災害時要援護者が居るかを把握することは大変に重要であり、行政からの要請を受けて、自主防災台帳の作成を行った。
・ 初年度は、プライバシー保護の観点から、自主防災台帳の作成に反対する人は居た。反対する人は参加しなくても良いというスタンスでできるところから自主防災台帳の作成を進めていった。
・ 結果的に、地域内に様々な人材が居ることがわかり、緊急時に救護、医療など、専門的な技能を必要とする活動の担い手が見えた。
・ その後、毎年自主防災台帳の記入票を配り、記入、提出してもらうい、台帳のメンテナンスを行っている。


大岩2丁目自主防災会が配布した自主防災台帳

(3)災害弱者の救出、避難計画の作成

・ 防災台帳作成の結果、災害時に援護を必要するお年寄りや障碍者が把握されたことから、向こう三軒両隣の助けあいを行う、住民のリスト化を行うとともに、隣組でどう助け合うかを相談することを行っている。


「向こう三軒両隣援護活動」の記入表

(4)地域安全の会(自警団)の結成

・ 災害時における初期火災の発見、連絡、消火、または盗難防止など、住民の力で行うため「大岩2丁目地域安全の会」を結成し、①地震対策のグループ、②防犯対策のグループ、③防火対策のグループに分かれて、活動を実施している。
①地震対策の活動内容
・市防災課との連絡、防災用具のアンケート、使用できる家庭井戸の調査、家具転倒防止のアンケート、消火器の有無と設置場所の調査
 ②防犯対策の活動内容
  ・安東交番との連絡、痴漢、悪質な訪問販売などの連絡、自転車の盗難防止、不法駐輪、放置自転車の連絡
 ③防火対策
  ・消防署との連絡、消火栓の調査、防災週間における子どもの作文・図画、町内巡回、火の用心

(5)「自主防災会」とボランティア活動を組み合わせた組織づくり

・ ボランティア活動を通じて、人と人とのつながりを持ち、災害時にはボランティア活動を担う組織がそのまま自主防災会に移行できるよう、自主防災会及び、大岩2丁目福祉協力会の組織の見直しを行った。
・ 自主防災会は表3に示すように、自主防災台帳の作成で把握された、町内の人材活用を前提に、情報班、救出班、救護班、医療班、輸送班、物資班、消火班の7つの班に分けた。
・ 福祉活動と連携した取り組みを整理すると、以下のようである。
①温泉の会=消火班
   手足の不自由なお年寄りのいるお宅に梅ヶ島金山温泉よりトラック2台で、約3.5トンの源泉を運び、各家庭のお風呂に直接給湯している。
   町内にたまたま梅ヶ島金山温泉の関係者が居たことから、温泉の無料提供を受け、福祉活動を実施している。偶数月の第一日曜日午前8時半から午後4時半までをかけて運搬、給湯を行っている。休日に多くの時間を割く温泉宅配活動は無償のボランティアでは長続きしないことから、有償で活動を行ってもらっており、その費用は町会費の中から出す形となっている。
②車で送る会=輸送班
   足腰の悪いお年寄りの方々が朝病院に行く時に、車で送るボランティア活動を行っている。
③福祉会=炊き出し班
 70才以上の一人暮らし老人と80才以上2人暮らし老人に毎月第3木曜日に給食サービスを行っている。材料費の実費は町会費から負担する形になっている。
④こそくり会=救出班
お年寄りのお宅で、「戸が動きにくい」、「棚を作りたい」、「タンスが倒れないように止めて欲しい」といった要望を受けて、簡単な修理を行うなどの活動を行っている。

(6)防災訓練参加を促すため、参加して楽しくなるような工夫を

・ 防災訓練は決まりきったことを繰り返すことで、訓練参加者が飽きてしまうことも多い。このため、参加者を飽きさせない、参加して楽しくなる工夫も必要である。
・ 具体的には、救助犬協会から救助犬を呼んだところ非常に評判が良かった。
・ また、中学校で行った防災訓練では県警のレスキュー隊を呼び、バイクが障害物を越えてジャンプする実演を行った。更に、4階からの避難訓練の際、救助袋の使用も児童には人気の的であった。


防災訓練で倒壊した家屋から救助する救助犬

小中学生を対象にした三角巾の講習会

(7)多様な防災施設の整備、防災グッズ等の備蓄

・ 木造家屋が多いこともあり、災害としては火災への対応を重視しており、各家庭に消火器の購入を要請している。また、130本の消火器を町内に設置しており、2〜3軒に一本消火器が置いてある。これらの消火器は、5年間で2本盗まれ、1本にいたずらされただけである。
・ また、町会には2台可搬ポンプがあり、(1台は所有、1台は貸借)、災害用の井戸が3箇所、いずれも水量は豊富である。また一般家庭の井戸で災害用に使用できる井戸は22箇所ある。
・ 避難所生活で、要介護者のプライバシーの保護を図るため、ダンボールによる間仕切りをする装置を20組分購入し準備している。
・ 更に、町内の住民全員に炊き出しが可能なように、炊き出し用の釜の確保を図るとともに、町内会として非常時の食糧供出について町内の米屋・スーパーと協定を結んでいる。


大岩2丁目町内での消火栓等配置図

(8)今後、防災まちづくりを進めていく上での課題

①家庭の自助努力強化
・今後、更に充実されるべきことは各家庭の防災対応力である。ガラス飛散防止フィルム、耐震診断、耐震補修、最低3日分水と食料の備蓄などの自助努力が必要であり、アンケート調査などを通じて、意識啓発に努めている。
・なお、耐震診断は無償の一方で、耐震補修にあたって県から30万円の助成制度注)があるが、かなりレベルの高い補修を行うことが要件となっており、改修費用が大きくなり、実態として助成制度を活用することが困難な状況である。

②地域間相互交流による防災まちづくりの知恵の共有
・静岡県下に現在6000余りの町会があるが、その三分の二は訓練をやってはいない。また、静岡市内でも自主防災組織が無い町内会もある。
・今後、訓練活動を普及するためには個人表彰や団体表彰を受けた人々を集め、組織化し訓練を進めていくが必要であると感じている。
・その上で、交流会で得た他の地域のアイデアをすぐに実行することが、活動の活性化に必要であり、大岩2丁目自主防災会での活動は他の地域の知恵を借りて行ったところも多い。

③小中学校における防災対応施設の充実化
・避難所としては、学校施設を活用することになる。避難所運営も考慮に入れ、例えば、防災備品としてバケツを50個準備し、避難所生活者がトイレなどを活用する時の雑用水運搬に活用できるように準備している。
・避難所運営は、食料と水とトイレがあればできる。例えば、中学校に非常時に炊き出しを行うスペースを確保しておくことなどを通じて、小中学校と地域と結びつきの中で、防災対応力を強くしていくことも考えてみてはどうか。

注)静岡県ではプロジェクト「TOUKAI(東海・倒壊)−0」事業の一環として、個人木造住宅耐震性強化ための支援事業を実施している。
①1981年以前に建てられた個人用木造住宅の無料耐震診断 
②耐震診断で補修が必要になった場合、一棟当たり上限三十万円の助成
③建て替えに対する融資

4.大岩町2丁目自主防災会の活動から学ぶ点

(1)班(百世帯規模)ベースで防災訓練が行われ、地区レベルにリーダーの活動ノウハウが継承されている。

・防災訓練は、自主防災会全体として大枠を決めるだけで、訓練の実質的な展開は、各班に任されている。
・従来の大規模な防災訓練では、見学するだけで実際に役立つ防災の体験にはなっていないことが多い。このため、百世帯規模の班レベルまで防災訓練の規模を小さくして、各斑独自の防災訓練を行っている。
・その結果、各班の創意工夫が自由に行われ、(例えば、炊き出しの時に、熾した火を使った焼き芋を作るなど)、結果的に、町会長にリーダーシップに依存するのではなく、地区レベルで防災まちづくり活動の担い手が育っており、防災を担う人づくりに成功している。

(2) 平常時のボランティア活動と防災活動の連携化

・大工等、建築関係の技能を持つ住民が、高齢者住宅の一部補修を行う、医者などの参加する医療班が町内在住の高齢者の健康診断を行う、消火班が温泉の宅配サービスを行うというように、平常時のボランティア活動と防災活動を連携化させることで、自主防災会への参加者が、町内住民の20%近くにまで達する、町内ぐるみの防災活動となっている。
・平常時のボランティア活動を、防災活動と連携化はさせていく取り組みに注目すべきである。

(3) 町会予算の中に自主防災組織の予算が組まれている。

・大岩2丁目自主防災会の場合、自治会の予算枠として、防災活動の予算枠が確保されており、その中から温泉宅配サービスの活動費や、炊き出し用の材料費などが手当てされている。
・経年的に防災まちづくり活動を行うためには、一定の活動費用を確保できるための仕組みが不可欠であり、防災活動が町会活動の一環として位置づけられ、町会において手当ての支給や実費を負担する仕掛けが組み込まれていることに注目すべきである。

(4) 自治会の人事と並行して防災担当役職が決められている。

・自治会の人事とは別個に並行して、自主防災会の役職が決められており、防災活動の積み重ねを踏まえ、リーダーシップをとれる人材が、各班で選ばれる仕組みとなっている。
・このため、自治会人事と切り離して、各班ごとに、顔の見える人間関係の中で、防災まちづくりの担い手に参加してもらうことが可能となっている。





所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.