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1.防災まちづくり活動の経緯

(1)宮城県建築士会と当委員会

・社団法人宮城県建築士会は宮城県内の一級建築士・二級建築士・木造建築士の有資格者(有志)による職能団体で、1952(昭和27)年5月に設立され、現在会員数は約1,760名(平成17年現在)である。「世代継続する地震に強いまちづくり委員会」は当建築士会にある各種委員会のひとつで、2005(平成17)年度に設立された。現在約20名で活動をしている。
・建築士会は従来から耐震診断や応急危険度判定などハード的な事業を手がけているが、いずれも必要とされるときに出向く「対応型」の事業である。当委員会は耐震診断をバックアップしながら、誰もが一過性でなく常に耐震意識を持つようになるためのソフト事業を展開するものである。まず、県下松島町で試験的な試みを実施し(次項2に紹介)、この成果をもとに当委員会を立ち上げ、全県への展開を進めるものとした。

(2)メインテーマ「世代継続」と建築士としての取り組み方について

・この事業のメインテーマはあくまでも「世代継続」だ。大人から子供へ、子供から孫へ、お年寄りも中学生も誰もが共通の話題による防災意識を持ち、それを伝承することが、防災意識を高める1つと考えた。「世代継続」の方法論としては、建築の専門家である我々は「まず若者と大人を会話させること」「話題は木造住宅の耐震診断」とした。大人は経験と知識と情報をたくさん持っている。しかし年が増すにつれ、これらをオープンにする機会は減り、閉鎖的になってくる。子どもは経験や情報量は乏しいが、行動力や発想力は豊富で限りがない。世代の違うものが1つのテーマで話合えればすばらしい会話が成り立つのではないか。
・これからは学校や地域社会で防災教育や耐震化の促進を図り、これが防災意識の異なる世代の共通の話題となるよう環境を整えることで、地域全体の防災力向上を支援していきたい。
・私たちは建築士なので「耐震診断」で世代継続に取り組もうとしているが、常日頃世代を超えて防災を話題にし、若者も参加する自主防災組織ができることが理想と考えている。

(3)第1回全国防災まちづくりフォーラムでの発表

・なお、2005(平成17)年9月仙台市で開催された「第1回全国防災まちづくりフォーラム」において、この取組みを発表。県内外22の防災まちづくり組織がそれぞれ先駆的な活動内容を発表する中で、審査の結果、当委員会は「応用賞」(活動目的、手法等、他地域で応用可能な利点を有している活動に授与)と「最多得票賞」(審査員の累積得票数が最も多い活動に授与)のダブル受賞を果した。

2.取組み内容

(1)松島町での取り組み

・「世代継続」の具体的取り組みは、次図の3ステップで行なった。


〔ステップ1〕木造住宅耐震診断(中学校授業、自主防災組織講習会実施)
①若者へ:中学校での授業実施 
若者へは松島中学校で耐震診断の授業を行なった。1クラスに建築士会会員が3名付き、2年生4クラスに3時間授業した。
②大人へ:自主防災組織への講習会実施
町の自主防災組織で大人への講習会を行なった。


〔ステップ2〕若者と大人の会話
・松島町の地区集会所で若者参加型の合同講習会を実施。
大人は基礎や筋交いなどは経験上知っており、若者はそうした知識はないが耐震診断の基礎となる面積計算は得意、ということで大人に教える光景をよく見た。共通のテーマのもと、世代ごとに持つ知識・能力を出し合い、協力して成果を出した。


〔ステップ3〕世代間を越え世代継続する地震に強いまちづくりに取り組む
・子供達は自ら耐震診断の実践に臨み、大人はそれに協力するようになった。

・今年の夏休みには耐震診断とともに、通学路のブロック塀・看板の危険性チェック、及びそれらを含めた防災マップを作った。

(2)その後の取り組みについて

・上記松島町での実践を県内各地で展開するために、平成17年当委員会を立ち上げた。同年9月、仙台で初めて開催されることになった「全国防災まちづくりフォーラム」で活動を発表、高い評価を得て今後の活動に弾みがついた。目下普及活動をはじめとする取り組みを進めている。

3.宮城県建築士会「世代継続する地震に強いまちづくり委員会」の活動から学ぶ点

(1)建築専門家・建築士会が直接取り組む防災まちづくり

・これまで建築専門家は防災に関しては、建築設計・施工監理、耐震診断・補強、あるいは耐震建築等の研究活動など、特にハード面の対策について仕事として扱ってはきたものの、防災まちづくり活動については、行政による専門家派遣制度の登録メンバーになるなど側面支援が主であった。
・当活動は建築士自らが発案、自身の専門知識をもって、市民にダイレクトに相対して行なうソフト事業として、従来にない画期的な取り組みである。中間にいろいろな人や組織が介在しないため、活動を行なう建築士自身の負担と責任は大きいが、市民の関心を掘り起こし、ニーズに直接関わる活動として、より具体的なさまざまな成果が期待できる。
・建築士会は全国組織として各地でさまざまな活動を行なっており、「担い手(建築士・建築士会)」自身のネットワークを通した全国への広がりも期待でき、この意味でも今後の活動展開が期待されるところである。

(2)「世代継続」を掲げた息の長い活動内容

・防災まちづくり活動は大災害直後は活発になるが、復興が進むと人々の関心は急速に失われる。また大災害は多くの人や地域にとってはめったに遭遇しないものであるため、災害の教訓の伝承性が低いという指摘もある。
・当活動はこうした災害対策の“弱点”に真っ向から取り組むものであるが、近年動きの出てきた学校教育の場面だけでなく、長期的視野に立ち「世代継続」をメインテーマに掲げ、大人と子どもの教育をセットとした活動内容として、活動の視点・内容ともに従来にない新しい取り組みである。

(3)耐震補強普及をはじめ、さまざまな成果が期待できること

・建物の耐震補強は目下わが国の震災対策で最も力を入れていかなければならない分野といわれているが、対象となる建築物が多く、また建物所有者の負担が伴うこと、耐震補強方法とその効果が分りにくいこと、業者等の信頼性の問題などから、なかなか対策が進まない状況がある。各地で耐震補強をテーマとした防災まちづくり活動が行なわれているが、当活動は建築専門家自らが活動主体であること、子どもと大人に直接行なう息の長い活動内容であること、また地元建築士会の行なう活動として信頼性が高いことなど、これまでにない取り組みで、耐震補強の啓蒙普及への成果が期待される。
・また、副次的な効果として、今日の大きな社会的課題である世代断絶の解消をはじめ、学校と地域社会との交流、さらに建築士や建築活動という一般市民にはなかなか分りにくい職能分野への理解促進や社会的信頼の確立など、防災まちづくりだけでなく、多くの分野にわたる具体的な成果が期待できる活動である。

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内閣府政策統括官(防災担当)

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