住宅再建委員会 報告書

被災者の住宅再建支援の在り方に関する検討委員会
報告書

平成12年12月4日

被災者の住宅再建支援の在り方に関する検討委員会は、被災者生活再建支援法附則第2条の規定に基づき、自然災害により住宅が全半壊した世帯に対する住宅再建支援の在り方について総合的な見地から検討を行うため、平成11年1月、国土庁に設置され、以後17回にわたり検討を行ってまいりました。
平成12年12月4日、委員会から国土庁に対して報告がありましたので、以下にその全文を掲載いたしました。


【被災者の住宅再建支援の在り方に関する検討委員会名簿】


神戸大学法学部教授女優横浜国立大学工学部教授一橋大学経済学部教授関西大学社会学部教授神戸大学都市安全研究センター教授
委員長廣井 脩(ひろい おさむ)東京大学社会情報研究所教授
委員阿部 泰隆(あべ やすたか)
石川 嘉延(いしかわ よしのぶ)静岡県知事
岸  ユキ(きし ゆき)
小林 重敬(こばやし しげのり)
田近 栄治(たぢか えいじ)
西谷 剛(にしたに つよし)横浜国立大学大学院国際経済法学研究科教授
藤吉 洋一郎(ふじよし よういちろう)日本放送協会解説委員
松原 一郎(まつばら いちろう)
 室崎 益輝(むろさき よしてる)

(アイウエオ順)


【目 次】

1 はじめに

 「被災者の住宅再建支援の在り方に関する検討委員会」は、平成10年5月に成立した被災者生活再建支援法の附則第2条の「自然災害により住宅が全半壊した世帯に対する住宅再建支援の在り方については、総合的な見地から検討を行うものとし、そのために必要な措置が講ぜられるものとする。」という規定を踏まえ、自然災害によって住宅が全半壊した場合に、その再建・確保に対する支援のあり方を総合的な見地から検討を行うため、平成11年1月8日に国土庁に設置された。
 近年生じた大災害である雲仙普賢岳噴火災害、北海道南西沖地震、阪神・淡路大震災等においては、住宅の再建・確保が、被災者の生活の再建、ひいては地域の復興にとって大きな課題であった。特に、阪神・淡路大震災は未曾有の都市型大災害であり、おびただしい数の個人住宅が倒壊した。国や地方公共団体においては、賃貸住宅居住者への対策と平行して、住宅所有者に対しても数々の対策を実施したにも関わらず、住宅の再建は期待どおりには進捗せず、生活再建や地域社会の復興の遅延につながったところである。
 このような状況を背景に、本委員会においては、大規模災害により多数の住宅が滅失した場合に、住民が速やかに従前の生活に復帰し、それにより地域社会の速やかな復興を推進するための住宅再建支援は如何にあるべきかについて、基本的な考え方や理念を中心に検討を重ねてきた。
 本報告は、これまでの計17回に及ぶ委員会の議論の集約としてとりまとめたものである。

2 被災者の住宅再建を検討する意義

 阪神・淡路大震災が我々に残した教訓の一つは、大都市における大規模災害に対しては、現行制度の枠内での対応には明らかに限界があるということであろう。本委員会においては、再び阪神・淡路大震災の徹を踏まないためには、従来の枠組みに捕われず、発想を転換して新たな事態に備えることが必要であるとの問題意識を持ち、次のような検討を行った。
 先ず、住宅は単体としては個人資産であるが、阪神・淡路大震災のように大量な住宅が広域にわたって倒壊した場合には、地域社会の復興と深く結びついているため、地域にとってはある種の公共性を有しているものと考えられる。実際、被災者の住宅や生活の再建が速やかに行われれば、地域の経済活動が活性化し、その復興を促進することになる。
 地域社会の中核を形成する住宅所有者については、住民の生活の安定と地域コミュニティの維持、さらに地域社会の復興に資するという観点からその住宅再建に向けた努力が報われる支援を行うことが必要である。これまで、被災者の住宅再建は自助努力、公的支援、義援金によって行われてきた。しかしながら、阪神・淡路大震災においては多額の義援金が寄せられたにもかかわらず、被災者数が多く住宅再建資金としては十分ではなかった。また、高齢化社会における多数の高齢者の存在、大規模災害と地域経済力の低下に伴う長期失業者の存在、地域経済の崩壊に伴う世帯収入の減少等の要因により、被災者の自力再建(自助)には限界があり、さらに、公的支援にも一定の制限があることを考慮すると、共助の理念に基づく相互支援策を拡充することについて検討する必要があるものと考えられる。
 住民の早期の生活の安定と地域社会の復興を促進するためには、被災者が早い時期に住宅再建に取り組むことができるよう多様な支援のメニューを提示するとともに既存の住宅ストックの活用を図ることが有効であり、そのことが同時に、それ以前の過程、即ち、避難所等の避難生活の段階、応急仮設住宅等の仮住まいの段階をできるだけ短縮化することにつながる。
また、これらの住宅再建支援については、迅速、公平且つ効率的に推進するとともに、被災地や被災者の状況に応じたきめ細かな配慮が必要である。
 さらに、大規模災害による住宅被害を減少させ、地域社会の崩壊を防ぐという観点からは、事前に災害に強いまちづくり、住宅づくりを行っておくことが必要である。 従って、本委員会においては、大規模災害における住宅再建は恒久的な住宅を確保することを最終的な目標としつつも、支援の在り方を検討するに当たっては、これらの諸点を念頭におきつつ、平時、避難生活の段階、仮住まいの段階及び恒久的住宅を確保する段階にわたって総合的に検討したところである。

3 現行制度の課題

 阪神・淡路大震災等の教訓を踏まえて、我が国の住宅再建に関する諸制度について検討したところ、大都市における大規模災害に対して現行制度の枠内で対応することには、次のような課題があると考えられる。
先ず、応急仮設住宅の大量建設については、用地や資材の確保が難しく、時間と多額の費用を要する一方で、ストックとしては全く残らないという問題を抱えている。また、災害公営住宅については、阪神・淡路大震災において建設にほぼ4年の歳月を要した。
阪神・淡路大震災においては、被災地周辺に相当数の民間賃貸住宅が残されており、既存のストックの活用が十分ではないとの指摘がある。さらに、地震保険についてはその加入率が伸び悩んでおり、平時からの耐震性の強化を促す諸制度もまだ十分には普及していない。
これらの経験からは、都市型の大規模災害においては、従来の「避難所→応急仮設住宅→災害公営住宅」といった単線的な支援のみによるものではなく、迅速で多様な複線型の復興の手段を用意していかなければならないことが認識されたところである。
具体的には次の点について検討する必要がある。

① 住宅再建支援策の体系化

 阪神・淡路大震災は、既存の災害関係諸制度の想定を超えた事態をもたらしたため、実質的にはかってない規模で支援策を講じたにもかかわらず、事前に施策が明らかでなく、また、施策が散発的・後追い的になったため、被災者が主体的に住宅再建のシナリオを描くことを困難にし、また、被災者にとってその効果を十分に感じさせないものとなったのではないかと考えられる。
 また、復興基金による支援策は、民間借家の家賃補助や個人住宅の大規模補修への利子補給を始めとして、被災地の状況に応じて弾力的に追加、拡充できる長所がある一方で、新たな制度を被災者が理解するまでに時間を要し、結果的に所期の成果が十分挙げられなかったという側面がある。
 被災者が早い時期に支援の全体像を理解し、自主的に住宅の再建に取り組むことができるよう体系的な支援のメニューを提示し、これを被災者に十分に周知することが重要である。

② 持家再建支援の促進

 個人住宅の再建に関しては、住宅ローンの利子補給等が措置されているものの、被災者の中には喪失した住宅のローンに加え再建した住宅のローンの二重の負担に堪えなければならない者も多く、種々の理由でローンを組めない者も少なくない。また、地震等の損害に備える個人住宅の所有者の自助努力の手段としての地震保険については、加入率が低く、十分に普及しているとは云い難い状況にある。
 これらを踏まえると、今後、持家再建のために必要な支援を促進していくことが肝要である。

③ 「共助」の精神に基づく相互支援

 大規模災害における住宅再建については様々な公的支援が実施されているが、それは住宅が基本的には個人財産であるとともに、住生活の安定が社会的に重要な意義を有するためである。しかし、大規模災害のように広域な地域が一度に被災する場合においては、個人の自助努力やこのような公的支援のみでは対応できないのも事実である。
 雲仙岳噴火災害や北海道南西沖地震においては、全国から多くの助け合いの義援金が集まり、住宅の再建支援に大きく寄与したところであり、このように災害が国民共通のリスクであるとの認識に立って、国民が相互に助け合うという「共助」の精神に立脚した相互支援の充実を図ることが重要である。

④ 平時の自助努力の促進

 平時における住宅所有者の災害に対する備えは必ずしも十分とはいえない。例えば、事前に耐震性の補強がなされていれば、阪神・淡路大震災の場合でも、これだけ多くの住宅の倒壊を生じさせることもなく、事後的に多額の支援経費がかかることもなかったのではないかと考えられる。また、震災後には、耐震性の強化を目指す諸制度が整備されたが、耐震改修については、平時における住宅の機能の向上につながらないこともあり、その実効は期待どおりには上がっていないように思われる。
 また、もう一つの事前対策である地震保険制度についても、個々の建物の有しているリスクが必ずしも保険料に反映されておらず、所有者の自助努力が反映される仕組みとなっていないなどの問題がある。阪神・淡路大震災後においては、一時的に加入率が向上したが、その後、伸び悩んでいるのが現状である。
 これらの平時からの災害に備える自助努力について、その支援方策を検討することが必要である。

⑤ 賃貸住宅入居被災者に対する支援

 阪神・淡路大震災においては、前述のとおり、応急仮設住宅や災害公営住宅への入居者と比較して民間賃貸住宅への入居者への支援が相対的に薄かった。特に、低所得の被災者を対象とした災害公営住宅への入居者の場合は、所得等に応じて家賃が減額されているが、民間賃貸住宅入居者は支援が少ないとの指摘もある。
 民間賃貸住宅も住居を確保する上で重要な役割を果たすものと認識し、そのあり方について検討することが必要である。

4 住宅再建の基本的考え方

(1) 被災後から新たな住居の再建・確保に至るまでの段階区分

 自然災害によって住居を失った被災者は、恒久的な住宅の再建を一挙に成し遂げられるものではない。これを時系列的に見ると、大別して、
  • ・ 第Ⅰ: 避難所への入居等の避難生活の段階
  • ・ 第Ⅱ: 仮設住宅への入居等の仮住まいの段階
  • ・ 第Ⅲ: 恒久的な住宅の確保の段階
の三つの段階に概ね区分できる。なお、これらの段階については、被災者の多様な住宅再建のパターンに対応するため一律に時間で区切るのは必ずしも適当ではない。第Ⅰ及び 第Ⅱ段階は、恒久的な住宅の確保に至る前のやむなく経過せざるを得ない段階であるという観点からは、できる限りその期間を短くすることに努める必要がある。なお、被災者の中には、避難所や応急仮設住宅等の応急住宅に入居しない者、本格的な恒久的な住宅にたどり着いて住宅復興を完了することができない者等がいることについても十分に留意しなければならない。
各段階の基本的な考え方については、以下のとおりである。

① 第Ⅰ: 避難所への入居等の避難生活の段階

 災害直後の避難生活の段階においては、被災者が当面生きていくための手段を緊急に確保することが重要であり、居住の場所、食糧や水、必要な医療等の提供が必要である。その際、所得や資産の多寡に関係なく、被災者全員を平等に支援することを基本とすべきであるが、避難者の内、病人、高齢者、障害者等の要援護者等に対しては、その状況に応じた特別な対応を行うべきである。なお、被災者の安定した生活を確保する観点からは、できるだけ速やかに第Ⅱ、さらに第Ⅲ段階に移行することが必要である。

② 第Ⅱ: 応急仮設住宅への入居等の仮住まいの段階

 この段階における仮住まいの形態としては、応急仮設住宅、公営住宅空家への一時入居、親戚の家、民間賃貸住宅等への入居、あるいは、屋根、トイレ等自宅の応急修理をして自宅や自宅の敷地内で当座の生活を送るものなど様々であろう。
 この段階においては、第Ⅰ段階における平等な取り扱いと比較すると、被災者の置かれた状況やニーズを反映した支援を行うことが必要である。また、この第Ⅱ段階は、恒久的な住宅の確保に至る前のやむなく経過せざるを得ない段階であるという観点から、できる限りその期間を短くすることに努める必要がある。

③ 第Ⅲ: 恒久的な住宅の確保の段階

 この段階は、被災者がそれぞれの判断により、恒久的な住宅を確保する段階である。被災者の住居に関する意向、所得等経済的能力、被害の程度等によって、持家の再建、修理、新規購入、民間賃貸住宅や公営住宅等への入居といった恒久的な居住の形態が異なってくるとともに、第Ⅲ段階に移行できる時期についても被災者間でかなりの差が生じるものであるため、これに十分に留意して支援を行うことが必要である。

④ 平時

 以上に述べた災害後の対応に加えて、平時における個人の自助努力に対する支援のあり方も、災害予防の観点から極めて重要である。平時におけるこのような努力によって、災害時における支援の必要の程度が大きく異なってくる。このため、住宅の所有者においては、その耐震性や耐火性の向上措置の実施による被害の回避、軽減等を進め、また、行政においても、このような自助努力を積極的に評価し、推進していくことが重要である。

(2) 住宅再建・確保支援に当たって配慮すべき事項

① 支援の多様性の確保

 第Ⅱ段階以降においては、被災者は、その所得等の経済的能力、住居スタイルに関する個人的な意向等により、多様な住宅の再建・確保の手段の中から、様々な形で選択を行い、その意向を実現すべく努力する。被災者の置かれた状況は多様であり、且つ、個別性に富んでいる。このため、避難所から応急仮設住宅さらには災害公営住宅といった画一的あるいは単線的な支援策に留まることなく、被災者が状況に応じて適切な選択ができるよう、その選択の幅を広げることが必要である。

② 支援の程度についてのバランスの確保

 被災直後の段階を除けば、自らの住居の確保については、個人個人の受けた被災の程度と住居スタイルに関する意向、それに経済的な再建能力等に応じて、支援の程度、態様等について適切妥当な差が生じることはやむを得ないところがある。
 それぞれの被災者が新たな住まいの確保のために負担しなければならないもののうちどれほどを実質的に軽減すれば、円滑に恒久的な住宅への移行が可能になるかも考慮に入れた上で、それぞれの被災者に対する支援は相対的にバランスのとれた合理的なものとしなければならない。
 支援の基本は、支援が必要な者に対して合理的な範囲で行うというものであり、例えば、自力で持家の再建が可能な者に対しては、それがより迅速に実現できるような支援を、公的な借家や民間賃貸住宅を必要とする者に対しては、被災に伴う支援を講ずる期間と自助努力に期待する範囲を明確にした上での支援を、それぞれバランスの取れた形で実施すべきものと考える。

③ 被災による支援と社会福祉上の支援との区別

 災害により住まいに打撃を受けた被災者が、それぞれの置かれた状況に応じて新たな住居の確保に努力し、行政側がこの努力に対して必要な支援を行うということに関連しては、いつまでこのような支援を行うべきかという問題がある。例えば、災害に際して公営住宅の家賃に関し特別の家賃軽減措置が実施されることがあるが、特別の低家賃で公営住宅に入居した者が、被災者であることを理由に他の公営住宅の入居者とのバランスを失した形で支援を続けることには問題があろう。即ち、被災後一定期間経っても、自助努力で生活の再建が困難な者に対しては、被災に伴う支援に代えて、本来の社会福祉上の措置の対象として支援を行うべきものと考えられる。

④ 支援における公共性の確認

 被災に伴う住居の再建・確保のための公的支援の形態には、低利の融資、低家賃の公的賃貸住宅の供給、応急仮設住宅の提供等現在でも様々なものがあるが、いずれの場合も、その原資は国民の税に他ならず、国民がその個別の意思に関わりなく義務として納付したものである。
 しかしながら、大規模災害時の住宅再建の支援は、対象となる行為そのものに公共の利益が認められること、あるいはその状況を放置することにより社会の安定の維持に著しい支障を生じるなどの公益が明確に認められるため、その限りにおいて公的支援を行うことが妥当である。

⑤ ストックの活用

 住居に被災を受けた者にとっては、できる限り安定した住まいを確保できることが望ましい。また、仮の住まいを提供する側にとっても、できる限り、応急仮設住宅のような将来のストックとして活用することが難しい形での対応を少なくすることが妥当である。
 これらを踏まえて、今後の住宅再建・確保に至る過程においては、公的賃貸住宅の空き家の活用にとどまらず、民間賃貸住宅の空き家の活用方策の充実等既存ストックの活用を図る施策の展開が必要と考える。

5 各段階における住宅再建支援策

(1) 避難所への入居等の避難生活の段階

① 避難所の多様化

 学校、公民館等の公的施設を避難所とすることは、被災者が多い場合、災害が長期化した場合等に被災者のプライバシーの確保、生活環境を維持・確保する観点から限界が指摘されており、企業の研修施設、保養施設等も含め一層の多様化を図っていくことが必要である。

② 被災者に関する情報の一元的把握

 被災者の生活及び住宅の再建を迅速に進めるためには、個々の被災者の置かれている状況と住宅再建に関する意向をできる限り正確に把握することが不可欠である。そのため、被災者に対して、被災者から提供される情報がその後実施される支援策の充実、多様化につながるものであることを周知することなどにより、被災者の住宅再建に関する意向の把握に努めるべきである。
 また、避難所を利用していない被災者や地域外に避難した被災者の状況をどう把握するかも課題であり、そのためにはテレビ、新聞等マスコミを通じて関連情報を提供するとともに、所在場所等の連絡を呼びかけることが必要である。

(2)  応急仮設住宅への入居等の仮住まいの段階

① 応急仮設住宅の 改善

 阪神・淡路大震災においては、応急仮設住宅や災害公営住宅の建設に長時間を要し、被災者は避難所や仮設住宅での生活を長期にわたって余儀なくされた。避難所生活はプライバシーの確保も十分でない不自由なものであり、応急仮設住宅はもとより恒久的な住宅に及ぶものではない。仮住まいの期間は短ければ短いほど良いが、大規模災害が発生し大量の住宅が滅失した場合、仮設住宅の供給なしに済ますことも想定しにくい。
 仮設住宅については迅速な供給を確保するとともに、住環境の改善に努め、可能な限り仮設住宅の提供に代替する手段を準備する必要がある。このため、①住宅の補修に対する支援方法を充実・弾力化して仮設住宅の需要を抑制する、②社宅、民間賃貸住宅の活用を推進して多様化を図る、③用地問題の解決策として自宅跡地への建設を進める、④家族数に応じて仮設住宅のタイプの多様化を図る、などの提案があった。

② 既存の空き住宅ストックの活用

 これまで全壊世帯に対する仮住まいの確保に関しては、応急仮設住宅の建設を中心に対応されてきた。しかしながら、既に述べたように、用地確保等の点で迅速かつ大量供給が難しい場合もあること、利用後は社会的ストックとして残らないことなどの課題も指摘されているところである。
 被災者のニーズも多様化していることを踏まえれば、今後は、応急仮設住宅を必要最小限に抑えつつ、状況に応じて公営住宅、民間賃貸住宅等既存のストックの活用を図ることが必要である。
 特に、住宅を失った被災者の立ち上がりを支援することを目的として、被災後の一定期間、家賃負担を軽減することについて検討する必要がある。

③  住宅の応急修理制度の拡充

 災害救助法に基づき地方公共団体が行う応急修理は、日常生活を営むために必要な台所、トイレ等に対象を限定して、その必要最小限の機能回復を応急的に行うものである。
 阪神・淡路大震災などにおいて実施されているものの、実施世帯数、1戸あたりの実施単価はかなり小規模である。これは、施工能力の不足や応急修理の施策があまり知られていなかったことに加えて、自治体が施工業者を決定し、直接実施する形をとっていることに起因していると考えられる。
 今後は、施工業者の選択等については、被災者の選択に委ねるなどの弾力化について検討する必要がある。

(3) 恒久的な住宅の確保の段階

① 持家再建の促進

 持家の再建は、地域の復興にとっては極めて重要な要因であり、社会全体として関心を持つべき重要事項である。このため、地方自治体においては地域独自の特例措置として、利率、返済期間、据置期間の特例措置、借入利子についての利子補給等を行っており、また、国においても住宅金融公庫の災害復興住宅資金貸付等により持家の再建に対する支援を講じているところである。
 二重ローンの問題に関しては、負担が大きいため支援すべきであるという考え方がある一方、既往債務を有していても新規ローンが組めるだけの資力があるという意味で、二重ローンを抱えていることのみに着目した特別な支援は不要であるとする考え方がある。既往債務の返済免除及び公共主体による肩代わりや元本に対する補助は困難であるが、新規ローンの返済や家賃の支出といった新たな住居費負担と合わせた場合に経済的に困窮するケースもあり、住宅金融公庫による既往債務にかかる返済の据置、金利引き下げなどの措置を引き続き講じていくことが必要である。
 高齢により住宅融資を受けることが困難な被災者に対する支援策としては、リバースモゲージに係る提案がある。このような提案については、土地を担保に融資を受け、返済については借受人死亡時に担保不動産を処分して清算する清算型リバースモゲージ及び清算なしで譲渡する非清算型リバースモゲージがある。前者は、阪神・淡路大震災の場合に実例があるものの、後者は依然として提案段階のものである。このようなリバースモゲージは、基本的には平時の施策として先ず検討されるべきものであるが、大災害時における施策という観点からの必要性も指摘されている。このような制度については、地価が下落した場合に担保割れリスクがあることや法制上の問題などの課題が指摘されており、さらに検討を要する。
 また、特に高齢者等の住宅の再建について、個別の再建プラン作りを支援するための専門家を養成していくことも必要であろう。

② 共助の精神に基づく住宅再建支援

 大規模災害によって、住宅という生活基盤を突然奪われた被災者が自力と小額の義援金で立ち直ることは極めて困難である。むしろ大規模災害は、個人の能力を超え、自助努力だけでは到底対処できないリスクであり、それは、災害が頻発する我が国では住宅所有者共通のリスクでもある。
 しかし、住宅は基本的には個人資産であり、公的支援には一定の限界があるため、国民がお互いに助け合う共助の精神に基づく全住宅所有者の加入を義務付ける新たな住宅再建支援制度の創設についての提案があった。この提案は、大規模災害が国民共通のリスクであるとの考え及び住宅再建は被災地域全体の早期復興に資するという公共性があり、国民的な連帯意識の下、「共助」の精神に基づく相互支援制度を創設し、国がこれを支援する方策が現実的であるとする考えである。このような支援制度によって蓄積された資金は、同世代の共助であるとともに世代間の共助ともなる。このような全住宅所有者の相互扶助による住宅再建支援制度は、生活を営む上での一定限度のものを確保するためのものであり、その上の部分、即ち、標準世帯が目標とするような規模までは地震保険、さらにその上には融資制度という3階層を想定したものであるとされている。
 このような提案については、加入を強制することに国民の理解が得られるか、大規模災害の場合の対応をどのように行うか、徴収事務等を誰が負担するかなどの課題があるとの指摘があるところであるが、今後この提案について検討する必要がある。

③ 地震保険制度の拡充

 地震保険制度は、昭和39年の新潟地震を契機として地震の危険を担保する保険への要望が高まったのを受けて、国による再保険制度の下に昭和41年に発足した。それ以来、補償内容を半損や一部損まで拡大すること、火災保険契約に原則付帯とし、付帯しない場合は契約者の意思表示を必要とすること、引受限度額の拡大、一回の地震で支払う総支払限度額の引き上げ等の改正が実施されてきたところである。
 保険料の料率体系は、現在、地震危険度に応じて、都道府県単位で地域を4区分、建物構造で木造・非木造の2区分となっている。地震保険普及率(全世帯数に対する保険契約件数の割合。この全世帯数には、地震保険に加入できない世帯も含まれる。)は、平成10年度末で全国平均約15%であり、火災保険への地震保険付帯率は約3割に達しているものの個人財産保全の自衛手段として十分に普及するまでには至っていない。地震保険は「ノーロス・ノープロフィット」の考え方をもとに料率が設定されているが、地震災害が交通事故や疾病等他の保険事故に比べ必ずしも自分の生きている間に遭遇しない可能性が高いなどの特殊性があることから、地震リスクを感じない人達にとっては保険料の割高感を生んでいる(平成10年度末の普及率は、最も保険料が高い東京都で24%強、最も保険料が低域の一つの佐賀県で4%強という状況である)。また、木造・非木造の2区分のため、例えば、近年建てられた住宅は耐震性能が大幅に向上しているにもかかわらず、古くて耐震性能が低い住宅と同一の保険料となっているなど住宅の耐震性能が保険料に反映されていない面は否定できず、これが地震保険の普及の妨げとなっているとの指摘もある。
 したがって、建物構造による被災リスク評価を保険料に反映すべく、現行の保険料率体系を見直し、リスクをより的確に反映したものとすることが必要である。
 地域区分については、被災リスクに応じた詳細な料率設定や、市町村が防災性の向上のための諸施策を実施している場合に、市町村申請による保険料の割引を行うこと等について提案があった。この場合、保険料率の格差がさらに拡大することについてどう考えるか、また、自治体の施策による被害軽減の客観的基準をどのように設定するかなどの観点から検討する必要がある。いずれにしても、住宅の耐震性能の向上や防災意識を高めるための環境作り、さらに国民への啓蒙、普及活動を積極的に行うことが重要である。
 なお、現在は火災保険の保険料等を合計した上で損害保険料控除が認められているところであるが、保険の普及促進を図る観点から、地震保険について別枠で保険料控除制度を設けることについても検討を行うべきである。

④ 公営住宅等 の提供

 兵庫県が震災後約1年経過した時点で実施した「応急仮設住宅入居者調査」によると、応急仮設住宅入居者のうち、震災前は、民間賃貸住宅居住が約半数、公的借家が約1割となっており、入居家賃については、月4万円以下の比較的低家賃のものが回答者の7割を超える結果となっている。一方、同調査によると、震災後の恒久住宅として約7割の者が公的借家を希望し、民営借家を希望しているのは3%にも満たない結果となっている。これは、比較的低家賃の民営借家が滅失し、その後民営借家は再建されたものの家賃水準が高く入居できないと考えた被災者が、恒久住宅として公的借家を希望したためであると考えられる。
 以上のような状況を勘案すると、従前に民営借家に居住していた被災者が資力等の理由で被災後民営借家に居住できない場合、従前から低所得で公営住宅等に居住していた被災者の場合には、被災者支援及び住宅困窮者の居住の安定を図るという観点から、これまでのように公的借家を必要に応じて提供していくことが必要である。その際、公的借家の効率的整備、民間活力の活用、既存住宅ストックの活用の観点から、新規の建設だけでなく、引き続き買い取りや民間賃貸住宅の借り上げ方式による提供などを柔軟に組み合わせていくことが必要である。

⑤ 民間賃貸住宅の活用

 民間賃貸住宅が被災者の住宅確保の選択肢として一層活用されるためには、被災者向けの民間賃貸住宅の供給を促すため事業者に対する支援を実施すること、民間賃貸住宅入居者への家賃負担の軽減を図ることなどを検討した。
 民間賃貸住宅を建設する事業者に対しては、被災地域において被災者向けの賃貸住宅を建設する場合、住宅金融公庫等の公的な低利融資を引き続き講じておくことが必要である。

(4) 平時における対応

住宅の耐震化の促進

 大規模地震によって被害を受けた個人住宅の再建支援と並んで重要なのは、住宅の耐震性の強化であり、これが徹底していれば、地震による住宅被害のみならず、何より大切な人命の損失を防ぐことが可能になる。個人住宅の耐震診断を行い、その結果に基づき必要な耐震改修を実施することは、住宅の被害を未然に防いだり被害を最小限に抑えるうえで重要な対策であり、そのコストも再建に比べれば少なく、個人財産である住宅を災害から守る自衛手段として、なお一層活用されることが期待されるところである。
 平成7年12月には「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が施行され、建築物の耐震改修促進のための措置が講じられることとなり、また、地方公共団体においては、独自に耐震改修等に関する助成制度を設けているところもある。しかしながら、利用実績をみると個人住宅に関する耐震補強対策が進んでいるとは言い難い。その理由として、耐震診断や耐震改修に関する助成制度を独自に設けている横浜市や兵庫県の調査によれば、耐震改修に要する費用負担の問題とともに大地震の発生とそれに伴う住宅の損壊に対する危機意識が低いことなどが挙げられ、さらには、耐震改修工事に伴い、居住空間や開口部の減少など建物の利便性、快適性が低下するといったマイナスの効果を指摘する意見もある。
 しかし、住宅を所有する者は、その意思によって持家を選択した以上、災害によってそれを失うリスクを可能な限り自助努力により回避するという意識を持つべきである。また、行政においては、耐震補強対策が住宅を災害から守る自衛手段として活用されるよう、例えば、専門家派遣や、標準的な工事の種類、内容とその概算費用、利用可能な融資制度等の情報提供を充実するなど、積極的な誘導策を継続的に実施する必要がある。同時に、充分な耐震性を有する住宅に対する住宅性能評価への反映や地震保険料への反映を通じて、耐震改修による住宅の価値の向上が市場で評価されるシステムを構築するなど、住宅所有者にとってのインセンティブを喚起するための措置の拡充が必要である。

6 おわりに

 本委員会においては、住宅が全半壊した場合に、その再建・確保に対する支援の在り方を総合的な見地から検討を行ってきた。このため、検討項目は非常に多岐にわたり、また、各支援策の在り方についても様々な意見が提出された。
 検討された施策の内、その一部については、委員の間で合意が得られたが、委員の間でさえ考え方が異なるものも多くあり、本問題の奥深さと困難さを如実に物語る結果となった。
 本報告に含まれた各種提案の中で、既にその実行のための環境が整備されているものについては、これを速やかに実行に移していくことが必要であり、このため、関係機関等の今後の取組みに期待するところである。他方、実行のための環境が十分に醸成されていないものについては、今後、各般の議論を踏まえつつ、なお検討を加えていくべきである。

(参考1) 被災者の住宅再建支援の在り方に関する検討委員会の設置について

平成11年 1月 8日

  • 1.被災者生活再建支援法附則第2条の規定に基づき、自然災害により住宅が全半壊した世帯に対する住宅再建支援の在り方について総合的な見地から総合的な見地から検討を行うため、被災者の住宅再建支援の在り方に関する検討委員会を設置する。
  • 2.委員会の委員は、被災者の住宅再建支援の在り方について専門的な知識を有する者若干名に委嘱する。
  • 3.委員会の長は、委員の互選による。
  • 4.委員の任期は、平成12年度末までとする。
  • 5.委員会の庶務は、国土庁防災局において処理する。
  • 6.委員会は、必要に応じ、大蔵省、厚生省、建設省の職員その他の関係者の出席を求めることができる。
  • 7.前各項に定めるもののほか、委員会の運営に関する事項その他必要な事項は、委員会の長が定める。

(参考2) 検討経緯

委員会設置 平成11年1月8日
・ 被災者の住宅再建支援の在り方に関する検討委員会の設置について(国土庁決定)
第1回委員会 平成11年2月18日
・ 被災者の住宅再建支援に関するこれまでの経緯、検討課題等
第2回委員会 平成11年4月23日
・ 阪神・淡路大震災について被災地方公共団体からヒアリング
第3回委員会 平成11年5月18日
・ 雲仙岳噴火災害、北海道南西沖地震災害について被災地方公共団体からヒアリング
第4回委員会 平成11年6月4日
・ 地震保険制度について
第5回委員会 平成11年8月3日
・ 災害応急対策(応急仮設住宅、応急修理等)について
第6回委員会 平成11年9月17日
・ 統計から見た被災地における住宅再建の状況について
・ 災害応急対策について
第7回委員会 平成11年10月22日
・ 災害公営住宅の供給、民間賃貸住宅の活用、被災マンションの建設建替え等について
第8回委員会 平成11年11月2日
・ 被災者の自助努力への支援、耐震改修について
第9回委員会 平成11年12月3日
・ 被災者の自助努力と支援のあり方等住宅再建支援に関する基本的な考え方について(その1)
第10回委員会 平成12年2月22日
・ 被災者の自助努力と支援のあり方等住宅再建支援に関する基本的な考え方について(その2)
第11回委員会 平成12年3月8日
・ 被災者の自助努力と支援のあり方等住宅再建支援に関する基本的な考え方について(その3)
第12回委員会 平成12年5月11日
・ 有珠山噴火災害に係る応急仮設住宅の供給等の住宅対策の現況
第13回委員会 平成12年6月2日
・ 住宅再建支援の在り方についての議論のとりまとめ方向について
第14回委員会 平成12年6月23日
・ 住宅再建支援の在り方についての議論のとりまとめ方向について
第15回委員会 平成12年8月8日
・ 共済制度について
第16回委員会 平成12年10月13日
・ 住宅再建支援の在り方についての議論のとりまとめ方向について
第17回委員会 平成12年11月29日
・ 委員会の報告案について

委員会の国土庁への報告 平成12年12月4日

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