特集 阪神・淡路大震災から25年
~震災を風化させず、今後の災害に備える~



高齢者や障害者の円滑な避難支援に向けて
~防災と福祉の連携促進モデル事業~
〈兵庫県防災企画課〉

阪神・淡路大震災では、県内死者の約半数が65歳以上の高齢者でした。また、東日本大震災では、地域により差はあるものの、宮城県では障害者の死亡率が全体の約2倍強に達したと言われています。平成30年7月豪雨や令和元年東日本台風の災害においても、犠牲の多くは高齢者に集中していました。在宅医療・介護や障害者支援施設等からの地域移行が進む中、地域で暮らす高齢者や障害者の数は今後も増えていくと予想されます。これら避難行動要支援者の避難対策は、喫緊の課題です。

1 個別支援計画(個別計画)の重要性

災害対策基本法の規定により、各市町村には避難行動要支援者名簿の作成と自主防災組織等への提供を求められていますが、それだけでは災害時の安否確認にしか利用できません。法定事項ではありませんが、名簿を基に、要支援者一人ひとりについて、あらかじめ避難のための個別支援計画(以下「計画」という。)を作成し、いざという時に備え、地域で避難支援の方法等を決めておくことが重要です。本県では「ひょうご防災減災推進条例」(平成29年3月施行)において、計画作成を自主防災組織等の責務と位置付けて取組みを促しているものの、作成率はまだ1割に過ぎません(令和元年6月1日時点)。

その理由として、福祉に対する地域の理解が必ずしも十分でないことが挙げられます。そもそも認知症高齢者や障害者に接した経験がないというケースも多く、地域だけでは計画作成を進めることが難しいという状況です。加えて、仙台防災枠組で高齢者や障害者のエンパワメントの重要性が指摘されたように、計画を実効性のあるものにするには、要支援者の自助力(居住地の災害リスクの理解、災害対応能力、平常時の備え等)をアセスメントし、自身で対応できること・配慮を要することを把握した上で、適切な避難支援のあり方を検討し、計画に落とし込むことが必要です。

2 防災と福祉の連携促進モデル事業

そこで、平成30年度より開始した取組みが「防災と福祉の連携促進モデル事業」です(図1・図2)。これは、要支援者の心身状況や生活環境等を熟知した介護支援専門員(ケアマネジャー)や相談支援専門員等の福祉専門職が、自主防災組織等とともに計画作成を行う事業で、ケアプランやサービス等利用計画を作成する際に自主防災組織等も加わり、併せて計画も仕上げることにより、平常時の福祉サービスの延長上で災害時の避難支援も考えるというものです。これまで、平常時と災害時の支援は分断されていましたが、本来は互いに切り離すことができないものです。介護保険と障害者自立(総合)支援サービスの成立により「介護の社会化」が実現したものの、その一方で、地域コミュニティで要支援者を見守る機会が減少したことにより、災害時の接し方どころか、その存在すら知らないという現象が生じているのではないでしょうか。

図1 防災と福祉の連携促進モデル事業のイメージ

図1 防災と福祉の連携促進モデル事業のイメージ

図2 モデル事業の流れ

図2 モデル事業の流れ


これらを踏まえ、立木茂雄教授(同志社大学)の助言を得て、県内41市町のうち、平成30年度は丹波篠山市と播磨町の2市町で、令和元年度は県内36市町でモデル事業を展開しています。この事業では、国立障害者リハビリテーションセンターが開発した「自分でつくる安心防災帳」(図3)を用いてアセスメントを行った後、要支援者本人、家族、自主防災組織、福祉関係者等によるケース(調整)会議(図4)において、避難方法や経路、必要な配慮等を検討して計画を作成し(図5)、防災訓練でその検証を行います(図6)。事前準備として、兵庫県社会福祉士会及び人と防災未来センターによる協力の下、福祉専門職に対する防災対応力向上研修(計画作成能力等の習得)、市町職員に対する実務研修(関係者を繋ぐコーディネート能力等の習得)、自主防災組織等に対する福祉理解研修(障害特性等の理解)を実施しています。

  • 図3 自分でつくる安心防災

    図3 自分でつくる安心防災

  • 図4 ケース(調整)会議

    図4 ケース(調整)会議

図5 計画作成までの作業の分担

図5 計画作成までの作業の分担

図6 計画に基づく防災訓練

図6 計画に基づく防災訓練


計画作成には相応の時間を要しますが、その過程で住民の結束力が高まり、平常時の見守り強化にも繋がったという地域の声や、気掛かりだった災害時の対応を近隣住民と共有できて良かったという福祉専門職の声も寄せられ、モデル事業の成果には手応えを感じています。

もちろん課題もあります。計画作成が福祉専門職の本来職務でない中、どこまで協力を求めることができるのか。モデル事業では計画1件あたり7,000円の報酬を支払っていますが、平常時・災害時の支援を連続化するという観点から、将来的には全国的な制度として、介護保険や障害福祉サービスの中で対応していく方法が望ましいのではないかと考えています。加えて、計画作成そのものを災害対策基本法上の法定事項にすることも必要だと認識しています。また、要支援者自身の防災意識を高めていくことも欠かせません。

3 最後に

本県では2年間のモデル事業を総括し(図7)、令和2年度は県内全市町を対象とする一般施策として拡充していく予定です。特に、浸水想定区域に居住する要介護度の高い独居高齢者や医療的ケアを要する重度障害者等、ハイリスクな層の計画作成に重点的に取り組む必要があります。

図7 市町との進捗状況確認会議

図7 市町との進捗状況確認会議


地域コミュニティの希薄化や高齢化が進む中、要支援者対策には分野横断的な取組みが求められています。高齢者の医療・介護連携だけが着目されがちですが、地域包括ケアシステムを、災害対応を含めたものとして発展させる必要があります。全ての者が「我が事・丸ごと」(厚生労働省)の意識を持ち、地域共生社会を創り上げていくことが、要支援者の命を守ることに繋がると考えています。




●防災と福祉の連携促進モデル事業(令和元年度)

▶https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk37/dpw_r01.html QRコード



所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.