防災の動き

防災に関わる学術界と府省庁の 新たな連絡会の発足

避けられない自然の猛威

大地震や火山の爆発は地中のマントルの対流を原動力とした地 殻の動きが起こします。これは地球の営みであり止めることはできません。干ばつ、豪雨、豪雪、強風は大気の動きと海から蒸発する水蒸気の動きによって起こります。地球温暖化の影響はこれらの気候変動を激しくしていますが、気象を穏やかにすることは簡単ではありません。自然災害を減じるためには、自然の猛威を受ける側の人間社会を強くする方法しかありません。

危険の少ない適地の選択

日本のように山地が多く、平地の少ないところでは難しいことですが、住宅、村やまち、都市を できる限り自然の猛威の影響を受けにくいところに作るべきです。 東日本大震災(2011)の大津波による大災害、西日本豪雨災害 (2018)などは、適地でないところに人々の生活と活動の場を広げた失敗です。ただ、人々には日々の生活や社会の経済活動があり、人には各種の悩みもあり、災害を減じることだけを目的として生きているわけではないので、危険性のある地に村やまちが広がってしまいます。この動きを止めることも容易ではなく、自然の猛威は 人々の活動・生活の場に襲ってきて、自然災害が起きます。

構造物の強さと破壊

次に重要なことは、丈夫で長持ちするインフラと建築により、村やまち、そして都市を強く構築することです。地域ごとに自然の猛威を想定して、これに耐えうるように構造物は建設されます。資金の制約や技術の限界もあり、絶対に壊れない構造物を作ることはできません。知りえない自然現象、設定を超える自然の猛威、技術の未熟と過信も原因となり構造物は壊れてしまいます。

濃尾地震(1891)の橋梁の破壊から西日本豪雨(2018)の堤防決壊まで、約130年の間に、構造物の破壊による自然災害は止まりません。この中で東日本大震災の原子力発電所の爆発には、特に反省すべきことが多いと思います。

防災と減災

残念ですが、自然災害は将来にも起こると考えねばなりません。東日本大震災のあとに政府が明言しましたが、数十年に一度の自然の猛威には「災害が起きない」 ことを目指す「防災」、数百年に一度の自然の猛威には「災害は受けるが人命を守る」ことを目指す「減災」の二段階の考え方が取り入れられました。

この考え方は、95年前の関東 大震災以降、日本の建築物の耐 震設計で使われています。建築基準法は、日本国憲法第29条の「財産権を侵してはならない」 に基づき制定された最低基準で、数百年に一度しか起こらない大地震に対して「絶対に壊れない建築物を作れ」と市民に強要していません。命を守るために建築物の倒壊は防ぎますが、傾いてしまい地震後に使えなくなることを許容した「減災」の考え方です。

振り返ると、徹底した防災は求めておらず、社会は減災しか求めていません。結果として、次の自然災害は日本のどこかで必ず起こります。

災害後の救助・緊急医療と 復旧・復興

熊本地震(2016)では関連死 も含めて約250名以上の人々が 亡くなり、西日本豪雨災害(2018)では死者・行方不明の方は200名を超えています。21世紀の今 「減災」ですら満たされていないことは残念です。地震の予知は不可能ですが、気象の予測精度 は日々高まっています。風水害の発生する前の避難を確実に行い、人命を守ることに努力しなければなりません。

災害発生後には、救助・救命 緊急医療の活動が重要です。全てを述べることはできませんが、住宅の破壊、道路や鉄道の不通、 生活品、食料、水や電気の供給不能などにより、平常では便利な社会が一変して不便な社会に変わります。下水設備の破壊、多くの災害廃棄物など、普段にはない大きな問題も発生します。発生直後に各地の建設会社の活動が始まり、消防団、警察や自衛隊の活動によって社会は少しずつ安定に向かいます。

日本では、復旧・復興は国の予算で補うことが多いのですが、 西欧では保険制度が補っています。中国では多くの大きな都市が互いに保険制度をつくり、市の復旧・復興を保険金で補うことが検討されています。

人口・産業・経済の過度の 集中と甚大な災害

最も注目すべきことは、東京・大阪・名古屋などの大きな都市に人口や産業、行政が集中していることです。南海トラフの地震が迫っているなかで、太平洋ベルト地域に産業が集まっていることも大問題です。自然災害は集積都市に起きるほど大きくなります。 経済重視の過度の都市集中を抑制し、日本の国土全体の有効利用を目指すべきです。さらに、災害で失うものの多い大都市では、公的な構造物から私的な住宅まで、現行の最低基準を超えてさらに丈夫に作るべきです。都市の大災害が公共に与える損害の拡大を抑える意味で、日本国憲法の財産権の侵害にはあたらないと思います。

分野を超えた学術連携の 必要性

自然の猛威に関する理学分野、地理から地質と地盤を扱う分野、人々の暮らし、産業の場所を考えるまち作りや都市計画の分野、防波堤・防潮堤、ダムや河川、橋梁、高速道路網、鉄道網を扱う土木分野、住宅から多くの建築物を設計し建設する建築分野、エネルギー分野、災害発生後の人々の活動を扱う分野、緊急医療と看護の分野、被災地の人々の 心の問題、まちや都市の復旧復興、これらを総合的に考える法制上の問題、経済問題、政治・ 行政などの分野、防災減災とより良い災害復興には多くの分野が関わっています。

一人の人間の「からだ」は全体でネットワークを構成しています。西洋医学では、肺、心臓、肝臓のように臓器ごとにその健全性や機能を分析し、病気を治そうとします。東洋医学では、すべての臓器は互いに関係し合っていることを前提に、病気を治そうとします。防災減災とより良い災害復興のためには学問がバラバラに活動していたのでは対処できません。東洋医学のように、すべての学問が互いを知り、垣根を取り払って連携して活動する必要があります。

防災学術連携体の活動

東日本大震災(2011)を受け 地震津波災害に関わる学術連携 を進め、2016年1月には自然災害全般への防災減災・災害復興を対象に、より広い分野の学会の参画を得ながら、研究成果を災害軽減に役立てるため「防災学術連携体」を創設しました。

「防災学術連携体」には現在56の学会が参加し、日本学術会議には「防災減災学術連携委員会」が設立され、両者の協力により意義ある連携活動が進められています。内閣府に設けられた防災推進国民会議には学術分野からの代表としてこの2つの組織が参加し、山極壽一(日本 学術会議会長)と米田雅子(日本学術会議会員・防災学術連携体代表幹事)が議員を務め、防災推進国民大会でも大きな市民向けの催しを開いています。

学術界と府省庁の新たな 連絡会の発足

防災減災は個人の力では完結できず、行政の役割が大きいことは間違いありません。学術分野 の研究成果が国や地域の防災・減災対策に反映されるように、また地域の防災現場のニーズが研究に反映されるように、学術と 行政組織との連携が必要です。防災学術連携体の次の活動として、学術界と府省庁の新たな定例の連絡会を2018年6月5日にスタートしました。自然災害の発生を皆無にすることは難しい のですが、多くの学術分野、そして行政との連携を進めることにより、災害を軽減する努力を惜しみなく続けたいと考えています。

防 災 学 術 連 携 体

防災学術連携体
Japan Academic Network for Disaster Reduction

●防災減災・災害復興に関する学会ネットワーク
●日本学術会議 防災減災学術連携委員会とともに活動
●防災関連の学術総合ポータルサイト https://janet-dr.com/





〈防災学術連携体運営幹事、東京工業大学名誉教授 和田章〉

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

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