防災の動き

ベトナムを支える日本の防災知見

1 ベトナムの災害

筆者がJICA専門家としてベトナム・ハノイに派遣されてから2年近くが過ぎようとしています。 ハノイでは、暑い時期になると、 しばしば急な豪雨に見舞われます。ポツポツと振り出したと思ったら、見る見る間に日本では経験したことがないような土砂降りになり、少し油断すると全身びしょぬれになります。また、排水の悪い場所では、道路や家屋がしばしば浸水します。

このような経験をするたび、ベトナムはつくづく風水害の多い国だと実感します。毎年、台風や熱帯低気圧による強風、洪水氾濫 や高潮、土砂災害が頻発し、大きな被害を及ぼしています。

図-1は、主要な災害種に関する2007年から2017年の災害被害の地域分布を示したものです。 南北に1,650kmと長く、海岸沿いの低平地から、北部やラオス国境の山岳地帯、北部の紅河および南部のメコン川の広大なデルタまで地形変化に富んだ国土は、 地域によって異なる様相で災害被害をもたらしています。

図-1 災害被害の地域分布(MARDの統計データに基づきJICA業務で作成)

図-1 災害被害の地域分布(MARDの統計データに基づきJICA業務で作成)


2 防災に関する体制整備

ベトナムの防災は、現在の農業農村開発省(MARD)の農業水利部門を担当する水資源総局が担ってきました。これは、風水害の被害が大きいことから、農業水利の整備と合わせ、堤防整備や洪水調節機能も有するダム (貯水池)整備等が進められてきた経緯によるものです。

近年のベトナム国内外での防災の重要性の認識の高まりを受け、2013年に防災法が制定されました。同法に基づき、全ての災害種を対象に、予防から緊急対応、復旧のフェーズまで一連で対処するための制度構築が進められています。さらに、2017年8月には、MARDに水資源総局から分離独立する形で防災総局 (VNDMA)が設立され、中央から地方の組織体制の整備等に力が注がれています。

しかしながら、中央の防災の司令塔である中央災害対策委員会は、一ライン省庁であるMARD大臣が委員長を務めており、様々な関係セクターを含めた国全体での「防災の主流化」は途上にあるといえます。

写真-1 2017年11月のHue市近郊の浸水状況

写真-1 2017年11月のHue市近郊の浸水状況(筆者撮影)

写真-2 2017年8月に発生したSon La省の大規模土石流の現場

写真-2 2017年8月に発生したSon La省の大規模土石流の現場(筆者撮影)


3 防災計画の策定と実施

仙台防災枠組2015-2030の7つのグローバルターゲットの一つが、国家・地方の防災戦略の策 定です。ベトナムでも、防災法により、中央から各レベルの地方における防災計画の策定が規定されており、策定が急務となっています(今年7月2日時点で、日本の都道府県に当たる省のレベルでは、43/63省で策定済み)。しかしながら、各地方では、十分な予算や人員もないなかで、手探りで計画づくりを進めている状況であり、その質的な向上も重要です。

具体的には、気象・水文観測 データや過去の災害の被害に係るデータの蓄積や整理が十分ではないため、起こりうる災害の発 生頻度、規模や被災形態の想定や、災害対策により目指す目標(どのように、どこまで被害を軽減するのか)の設定が十分でないことが課題といえます。


4 ハード(構造物)、ソフト(非構造物)がバランスした対策

紅河デルタを含む北部の河川では、過去から堤防の整備が進められてきました。一方、台風常襲地帯の中部では、多くが無堤であり、洪水期には広範囲が長期にわたり浸水します。今後の 急速な経済発展を念頭に置くと、 堤防等のハード対策により、どのレベルまで洪水のハザードを軽減すべきか真剣に議論し、そのうえで総合的な対策を実施すべき時期が来ていると感じています。

また、気象・水文観測体制の整備と、予警報等へのデータ活用も十分とはいえません。現在、JICA は、無償資金協力「水に関連する災害管理情報システムを用いた緊急のダムの運用及び効果的な洪水管理計画」により、気象・水文観 測の強化と、情報システムの導入によるダム操作の改善等を支援しています。このプロジェクトが、災害情報の活用強化のさらなる展開 につながることが期待されます。

近年、ベトナム北部の山岳地帯では、土石流や地すべり等の土砂災害が頻発しています。実用性の高いリスクマップの整備、早期警報の導入や家屋移転等の対策の総合的な実施が必要とされています。


5 「ベトナム防災優先 プログラム」の策定

今年6月、MARD 防災総局 は、JICAの支援を受け、ベトナムの災害の現状と仙台防災枠組2015-2030を踏まえた6つの優先プログラムを特定した「ベトナム防災優先プログラム」(時点版)を作成しました。


優先プログラム

  1. 実践的な災害情報マネジメント の確立
  2. より良い調整のための体制整備
  3. 全てのレベルにおける防災計画 策定と計画に基づく優先投資
  4. 暴風雨、洪水及び干ばつに関連する総合防災対策の実施
  5. 地すべり及び土石流対策の実施
  6. 気候変動に適応した持続的なメコンデルタ開発のための 生産・生計手段の再構築

今後、この優先プログラムに基づくベトナム独自の取組、国際的な支援の強化が期待されます。



〈JICA専門家(ベトナム農業農村開発省 水資源防災管理アドバイザー) 舘健一郎〉

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