特集 平成29年7月九州北部豪雨におけるNPOの活動

表題

7月5日に発生した九州北部豪雨水害では、数多くのNPO等の支援団体(以下、「NPO」)が現地に駆け付け、現在も様々な活動を展開している。

NPOによる災害対応の特徴は、迅速性、多様なニーズへ対応できる柔軟性が挙げられる。

迅速性という面では、発災翌日の7月6日からNPOが現地入りし始め、7月9日の時点では55団体が活動もしくは活動を予定している状況だった。
(JVOAD調べ)

NPOによる災害対応の活動は、避難所での支援、家屋や農地などの土砂・流木の撤去、在宅避難者(避難所外の被災者)への支援、応急仮設住宅への支援など多岐にわたり、食料や物資支援、子どもや高齢者の支援なども行われている。NPOの中には、過去の災害での支援実績が豊富で支援ノウハウを有しているところも多くあり、強みとなっている。

情報共有会議の開催

JVOADは、これらのNPO同士が連携し、行政、災害ボランティアセンターなどと協働して、効果的な支援が行われるよう、調整役を担ってきた。7月6日に現地入りし、7月9日より、支援関係者が集まる会議「平成29年7月九州北部豪雨・支援者情報共有会議」(以下、「情報共有会議」)を開催(8月31日までで、のべ約140団体が参加)。情報共有会議では、その日の支援団体の活動の情報に加えて、活動している地域の課題、行政から被災者支援制度などに関する情報提供などが行われている。

この情報共有会議が開催できたきっかけは、福岡県の「防災ボランティア連絡協議会」のメンバーだったNPO法人Angel Wingsという団体の仲介で、福岡県との打合せを持つことができ、情報共有会議の実施について協力を得ることができたことだった。その結果、福岡県NPOボランティアセンターにおいて、第一回の会議を開催。福岡県、内閣府、NPOが参加し、避難所の生活環境に関する課題などが共有された。これをきっかけに、第2回目以降は、朝倉市において、市の担当課も参加する会議となって、現在も継続されている。

情報共有会議で出された課題をもとに、行政とNPOで協議を持ち、課題解決の道を探る協議も行われ、その結果、さまざまな連携した取り組みが行われてきた。

本稿では、情報共有会議をきっかけに行われたNPOとの連携の取り組みを紹介していく。

避難所への支援

7月9日に行われた第一回の情報共有会議において、避難所へ物資支援を行ったNPOや調査を行ったNPOから、避難所の生活環境や子どもの居場所に関する課題、運営に関する課題などが数多く出された。このことから、7月11日に避難所を管理する朝倉市とNPOで避難所に関する会議を持ち、市とNPOから避難所の現状に関する課題を共有し、市からNPOに対して避難所運営に関する協力の依頼があった。その後、JVOADの調整の結果、避難所4か所に、NPOによる運営サポートの支援が入ることになった。また、NPOの看護師による常駐支援も行われた。

避難所 団体名
朝倉地域生涯学習センター プロジェクト九州(運営支援)
らくゆう館 プロジェクト九州(運営支援)
杷木中学校
ピースウインズジャパン(運営支援)
九州キリスト災害支援センター(看護師派遣)
プロジェクト九州(子ども支援)
サンライズ杷木 難民を助ける会(運営支援、要配慮者支援、子ども支援)

避難所にNPO等の支援団体が入ることにより、下記のような活動も行われた。これ らの活動は、単に避難生活を支えるだけでなく、その後の応急仮設住宅や自宅で の生活に移る際に支障がおきないような工夫も行われている。

  • 行政や被災者を含めた避難所内の関係者間の情報共有ミーティングの催

  • 地域包括支援センターとの連携

  • 食事環境の改善(食事スペース、自主的な炊き出しの促進、弁当数の調)

  • 寝床の改善(布団、マット、段ボールベッド等の活用、 衛生環境の改善

  • 避難所内の居住スペースの集約

  • 子どもの遊び場づくり(プレーパーク)などの実施

  • 行政に来る医療福祉ボランティア、マッサージ支援などをNPOにマッチング

  • シャワー、着替え場所などの設置

  • 地元のボランティア団体(ボランティア連絡協議会)との支援の調整

  • 避難所でのダンボールベッド設置(朝倉市)(写真提供:JVOAD)
    避難所でのダンボールベッド設置(朝倉市)(写真提供:JVOAD)
  • 避難所支援を行う支援団体等による会議の様子(7月)(写真提供:JVOAD)
    避難所支援を行う支援団体等による会議の様子(7月)(写真提供:JVOAD)

家屋や農地などの土砂・流木の撤去

被災した地域では、大量の土砂・流木が流れ込んでおり、その撤去には、災害ボランティアセンターをはじめ、多くのNPOも協力して活動を行っている。NPOの中には、まとまったマンパワーを提供できる団体、重機などを使った作業が行える団体、床下などの作業を実施できる技術を持った団体などの特徴を活かした活動が行われている。(8月時点で、朝倉市16団体、東峰村6団体、日田市4団体が活動)

被災した地域の生活の再建には、一刻も早く居住空間を取り戻すことが最初のステップになる。ボランティアやNPOによる家屋への支援活動は、被災した地域の生活再建に大きく貢献している。一方で、今回の災害では、多くの田畑にも被害をもたらした。居住空間の確保とともに、生活の糧である農地を回復することも喫緊の課題である。NPOによる農地復旧の活動も行われている。

土砂や流木の撤去については、行政の制度を理解することが重要なポイントとなる。家屋の修理や解体の制度、行政による土砂などの回収の仕組み、農地の復旧に関する制度などを理解したうえで、住民と対応を協議することが必要なってくる。国や県、市町村で実施する支援制度を理解し、制度とNPOの活動がうまく組み合わせられるよう、行政との調整も行われている。

そのほかにも、行政で受け付けている重機などの特殊なボランティア等の支援の申し出をNPOにマッチングしたり、作業中の熱中症対策として、看護師派遣の調整も行われている。

  • 重機を使った活動(写真提供:OPEN JAPAN)
    重機を使った活動(写真提供:OPEN JAPAN)
  • 床下からの土砂出し(日田市)(写真提供:愛知人)
    床下からの土砂出し(日田市)(写真提供:愛知人)

在宅避難者に関する支援

在宅など指定避難所以外で生活している状況は、把握することが難しく、熊本地震など過去の災害でも大きな課題となってきた。情報共有会議においても、在宅避難者の状況把握が課題に挙げられ、市と協議するに至った。その後の調整の結果、朝倉市とNPOと連携して、被災したと思われる地域に対して全戸訪問し、家屋の状況や生活状況を把握する調査が実施されている。

調査後に見つけられた個別課題については、その日のうちに市の関係部署と情報共有され、対応が協議されている。例えば、行政の支援制度の情報が届いていない地域が判明すると、翌日には周知の手続きが行われたり、新たな対策が講じられたりしている。

応急仮設住宅への物資

8月中旬に建設型仮設住宅が設置され、新たな住まいへの入居が始まっている。また、公営住宅や民間賃貸住宅を活用した「借上型仮設住宅」で仮の住まいでの生活も続いている。これらの仮の住まいでの生活を支えていくため、生活に不可欠な家電等の支援をNPOで行っている。東峰村では、建設型仮設住宅と借上型仮設住宅へ家電と生活物資をNPOが提供、朝倉市では、建設型仮設住宅は行政で、借上型仮設住宅はNPOで役割分担するような調整が行われた。

報道などでも建設型仮設住宅が注目されやすいため、支援の格差がでないよう、借上型仮設住宅への支援に配慮した取り組みが必要になっている。NPOの過去の災害での支援経験を活かしながら、地元の商工会の協力を得ながら設置を進めている。

  • 日田市災害VCでの看護師派遣と熱中症対策(写真提供:JVOAD)
    日田市災害VCでの看護師派遣と熱中症対策(写真提供:JVOAD)
  • 第一回情報共有会議の開催(7月9日、福岡県NPO・ボランティアセンター会議室にて)(写真提供:JVOAD)
    第一回情報共有会議の開催(7月9日、福岡県NPO・ボランティアセンター会議室にて)(写真提供:JVOAD)

今後の課題

NPOによる様々な支援活動が行われているが、今後の課題も多い。例えば、

  • 避難所の被災者の次の住まい・生活が確保され、避難所が集約・閉所されていく道筋をどうつけていくか
    (避難所の被災者で取り残される人が出ないよう、対策を検討する)

  • 膨大な土砂・流木などへどう対応していくか
    (マンパワー、重機などの投入と、土砂などの回収の仕組みを効率的に組み立てられるか)

  • 農地については、継続希望する農地の一刻も早い回復と、離農を食い止める策を立てられるか

  • 在宅については、応急仮設住宅に入れない世帯で、家屋の修復も困難な世帯への対応をどうするか

  • 建設型仮設住宅、借上型仮設住宅については、新たなコミュニティづくり、「見守り」などの支援体制の構築をどうするか
    (「仮の住まい」から恒久の住まいに移るまで、取り残される人を出さないようにするための体制づくり)

今後の復興にあたり、行政、被災者とNPOとが連携して、知恵を出し合いながら、これらの課題に対応していくことが必要になってくる。


〈全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD) 事務局長 明城 徹也 〉

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