防災の動き

地方公共団体のための災害時受援体制に関するガイドライン

1.はじめに

平成28年4月に発生した熊本地震により熊本県では、14日21時26分に発生した地震と、その28時間後の16日1時25分に発生した地震により、益城町では2度にわたり震度7の揺れに見舞われた。2度目の地震時は、西原村で震度7、南阿蘇村、菊池市、宇土市、大津町、嘉島町、宇城市、合志市、熊本市で震度6強、阿蘇市、八代市、玉名市、菊陽町、御船町、美里町、山都町、氷川町、和水町、上天草市、天草市で震度6弱を観測し、この2度の大きな揺れの後も多くの余震が続いた。死者は、平成29年3月14日現在で、208名にのぼり、住宅は全壊・半壊が4万棟を超える甚大な被害となった。そして、855箇所で開設された避難所への避難者数は、最大で18万人に及んだ。

「平成28年熊本地震」の対応においては、被災地外の地方公共団体や防災関係機関をはじめ企業、ボランティア団体等により、様々な種類の応援が行われた。熊本県及び県内の被災市町村に対する都道府県からの短期職員派遣状況を見ても、平成28年10月31日現在、延べ46,827人、また、各都道府県調整による民間団体等からの短期派遣は14,405人に及び、災害対応に果たした役割は大きい。

一方で、広域的な応援・受援に具体的な運用方法・役割分担が未だ確立していなかったこと、応援の受け入れにあたり県と市町村の役割分担が明確でなかったことなど、被災地方公共団体における受援体制が十分に整備されていなかったことから、多くの混乱が見られた。

平成28年12月に取りまとめられた「熊本地震を踏まえた応急対策・生活支援策の在り方について(報告書)」では、今後の広域災害の対応における「受援を想定した体制整備」について、検討を進めるべきこととして提言され、内閣府において「地方公共団体の受援体制に関する検討会」を設置し議論を進め、この3月に「地方公共団体のための災害時受援体制に関するガイドライン」(以下、「本ガイドライン」という)を発出したところである。

以下、本ガイドラインを発出するまでの背景やその主なポイントなどを紹介させていただく。

2.応援・受援に関するこれまでの経緯

大規模災害により被災した地方公共団体に対して、他の地方公共団体などが支援を行う応援・受援の考え方については、阪神・淡路大震災を契機に、地方公共団体相互の協力や相互応援の必要性が認識された。その後、東日本大震災では、その被災範囲が広域に及ぶとともに被災地の自治体が壊滅した状態に陥り、応援・受援の重要性が認識されたところである。こうしたことを背景に、災害対策基本法の改正、そして、防災基本計画の修正によって、応援・受援に関する規定が盛り込まれてきたところである。

熊本地震では、地方公共団体自らが被災し、対応にあたる職員が不足する中で、膨大な災害対応業務を被災自治体が単独で実施することの困難さが浮き彫りになった。被災した庁舎の代替機能先の確保が遅れたり、全国からの支援物資が円滑に被災者へ届かなかったりと被災現場では大きな混乱が生じた。このため、地方公共団体は平常時から国、地方公共団体、民間企業、ボランティア団体からの人的・物的支援をいかに円滑に受け入れ、災害対応に有効活用していくのか検討するとともに、各自治体で受援体制を整備していくことの必要性が改めて認識されたところである。

災害対策基本法の改正と防災基本計画の修正

3.熊本地震時における応援・受援に関する主な課題

① 応援職員と被災市町村のニーズの不整合

被災経験のある地方公共団体から派遣された災害対応を熟知している応援職員が、その知見や経験を被災地で生かすことなく、避難所の駐車場警備やトイレ清掃など一般作業を担った。この応援・受援のミスマッチにより当初期待されていた機能が発揮できなかった。

② 応援職員と被災市町村職員の役割が不明確

受け入れ側市町村から、応援職員に対して、業務マニュアルの提示や応援業務自体の提示がなされないなど、応援側・受援側の双方の連携や調整が不十分であったことから被災現場において災害対応業務の遂行に支障が生じた。

③ 派遣された応援職員の勤務環境整備が不十分

応援職員の配置に際して、宿泊場所や執務環境が確保されず、派遣が躊躇されたり、応援職員の行動が制約されたりと応援業務に支障が生じた。被災市町村に長期派遣された職員の肉体的又は精神的なケアが十分なされなかった。また、その一方で、被災自治体に過度な負担をかけないよう応援側においても自ら行うべき準備が不足していることも否めなかった。

4.本ガイドラインの主なポイント

① 「応援・受援の被災地での現状を知ること」

大規模災害発生直後から、被災自治体には、国をはじめ、被災地外の地方公共団体など多方面から人的応援が実施される。また、国や全国知事会からプッシュ型の物的支援も実施される。これらにより、被災自治体には膨大な人的支援や物的支援が押し寄せる状況になる。

② 「応援・受援の役割を組織(体制)に位置付けること」

被災地に集中するこれらの人的支援・物的支援を受け入れる被災自治体は、有事の混乱の中で、被災地における応援要請のニーズを把握するとともに、押し寄せる人的支援・物的支援の全体像を把握し、時々刻々と変化する状況下で、応援・受援のミスマッチがないよう応援と受援の調整を図り、円滑に応急業務を実施する必要がある。このため、被災自治体内に、受援班(又は受援担当)を設け、これらの業務を担わせる必要がある。

③ 「応援・受援の基礎知識を知ること」

受援体制の整備を進める上で、応援・受援の基礎知識を知る必要がある。

●災害の局面を意識すること。

災害の種類や特徴に応じて、被災地で必要となる応援の内容は異なることになるが、発災後における「初動期」「応急期」「復旧・復興」の局面(フェーズ)ごとに何が最優先なのか判断し、現場対応する必要がある。

●必要資源を把握すること。

災害対応を実施する上で必要となる資源は、「人的資源」「物的支援」はもとより、災害活動の拠点となる「施設」「燃料」などの資源もある。このため、必要となる資源をリストアップし、見積もりや調達手順を確認するとともに、資源運用計画表により資源を管理する。

●人的・物的資源の流れを知ること。

これら資源の流れの全体像を応援・受援双方の組織で共有する必要がある。この流れを8つのステップで説明すると、物資の場合には、「ニーズ把握」「調達」「輸送」「追跡」「追加」「撤収」「実費・弁償」「追跡・把握」となり、各ステップにおける役割分担を整理しておく必要がある。

●資源の管理に必要な情報項目を整理すること。

応援・受援の人的資源・物的資源を管理するため、必要な情報を記載した帳票を作成し、応援・受援双方で共有する。このように一元管理しておくと、のちのち精算業務や各種報告に活用できるなど業務の効率化を図ることができる。

●応援対象となる業務を整理すること。

応援を受けて実施する業務をあらかじめ特定し、その業務の内容を整理し、応援側に依頼する範囲を明らかにしておくことで応援の実効性を高めることができる。なお、地震対応では、「地方都市等における地震対応のガイドライン」において主な災害対応業務が記載されているので参考にしていただきたい。

5.終わりに

熊本地震では、被災市町村の中には壊滅的な被害を受け庁舎や指定避難所が使用できなかった事例や避難所に押し掛けた多数の避難者へ十分な対応ができなかった事例が見られた。また、支援物資が避難者に円滑に届けられなかった事例も見られた。これらに鑑み、平時から大規模災害時には、自治体自身も被災することを想定した上で、災害対応に備えなければならない。特に、受援体制の整備は、多方面からの手厚い支援を円滑に被災者へ届ける大前提であることを改めて認識していただきたいところである。また、受援体制を整備した後も、研修や図上訓練等を繰り返し実施して、その実効性を高めていく必要がある。

最後に、本ガイドラインが、大規模災害に備える市町村をはじめとした地方公共団体の受援体制の整備並びに実効性の確保の一助となり、地方公共団体の防災力の向上につながることを期待する。


〈内閣府(防災担当)防災計画担当〉

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内閣府政策統括官(防災担当)

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