防災リーダーと地域の輪 第20回

紙芝居で災害伝承

長野県の飯田市赤十字奉仕団は農家の主婦が中心となり、地元を襲った大火災や大雨などの災害を、紙芝居を使って伝承する取り組みを行っている。

昭和36(1961)年6月、長野県南部を集中豪雨が襲い、飯田市など各地で川の氾濫、土石流、深層崩壊が発生し、死者・行方不明者は136名、家屋の全壊・流出・半壊は1500戸に及んだ。この「三六災害」をテーマにした紙芝居「恐怖の集中豪雨」を制作したのが、飯田市赤十字奉仕団の紙芝居班だ。

飯田市赤十字奉仕団の紙芝居班は平成12(2000)年から紙芝居の制作、上演を行っている。現在のメンバーは70歳代の農家の主婦7名。家事や農作業の合間をぬって、メンバー自ら取材、脚本執筆、描画作業を行う。上演の時も、メンバー全員でナレーション、音響などの作業を分担する。

当初は、赤十字の歴史や地元の民話を題材にしていたが、平成23(2011)年に「三六災害」から50年という節目に合わせて、災害伝承のための作品を制作することを決めた。2012年度防災教育チャレンジプランの入門枠に応募し採択され、その一環として制作されたのが「恐怖の集中豪雨」だ。

「『三六災害』の経験者が少なくなっており、この先は、経験者本人から直接話を聞くことが難しくなると思ったのです。また、節目の年なので、市民の関心も高まるのではと考えました」と飯田市危機管理室防災係長の後藤武志さんは言う。

飯田市では危機管理室が飯田市赤十字奉仕団の事務局を兼ねており、紙芝居の作成を含め赤十字奉仕団の様々な活動を支えている。

「恐怖の集中豪雨」が高い評価を得たことから、翌年、再びチャレンジプランに応募し、一般枠で採択された。そして制作された紙芝居が「飯田大火とりんご並木」だ。飯田大火は、昭和22(1947)年4月、飯田市の中心地73 haが焼失、市の人口の半分以上の17800名が罹災した。現在においても、その焼失面積は第二次世界大戦後に発生した事例として日本最大である。

りんご並木は、飯田大火後、飯田東中学生の生徒が「自分たちの手で美しい街を作ろう」という思いから構想された。数回に及ぶ市との交渉の末、昭和28(1953)年に防火帯道路である並木通りにりんごの木を生徒たちが植え、その後も同校の生徒が代々管理を続けている。現在、400mにわたるりんご並木は飯田市のシンボルとなっている。

「飯田大火とりんご並木」は28枚の絵で構成さており、上演時間約25分。防災だけではなく、自らの街を自らで作るという自治精神の大切さ伝える内容にもなっている。紙芝居はDVD化もされ、その音声の録音には、紙芝居班のメンバーに加え、飯田東中学校の生徒も参加した。

紙芝居班のメンバーは飯田東中学校で最初の上演会を行った後、東日本大震災の被災地である福島県の会津若松市と南相馬市の仮設住宅、南相馬市立太田小学校を訪れ、上演している。上演後には「絵が迫力ある」、「方言を使った語りが良い」、「道徳の授業にも活用できる」などの感想が寄せられた。

「恐怖の集中豪雨」と「飯田大火とりんご並木」のDVDは、市内全ての小中学校や図書館に配布されている他、動画共有サービス「YouTube」でも公開している。二つの紙芝居の絵本も間もなく出版される予定だ。

飯田市赤十字奉仕団は、「飯田大火とりんご並木」の活動が高く評価され、2013年度防災教育チャレンジプラン「防災教育優秀賞」を受賞している。

「賞を頂けるとは予想もしていなかったので、メンバーはとても喜んでいます。紙芝居制作はメンバーにとって大変な作業ですが、全国のいろいろな所から上演依頼を頂いており、それが次の作品を作る意欲へとつながっています。今後も行政として、災害伝承紙芝居の活動をサポートしていきたいと考えています」と後藤さんは言う。

(写真提供 飯田市危機管理室)

「飯田大火とりんご並木」の一場面。飯田大火で焼失した飯田市の様子(上段右)
描画作業をする飯田市赤十字奉仕団の紙芝居班のメンバー(上段左)
2013年10月、飯田東中学校での上演会(下段左)
当時の経験者に話を聞く紙芝居班のメンバー(下段右)

防災リーダーの一言

飯田市は山々に囲まれ、大雨や地震による土砂崩れや土石流などの災害が発生しやすい地域も少なくありません。そのため、市民の防災に対する関心は高いです。飯田市は公民館活動などの地域活動が盛んで、「自分たちの地域のことは自らの手で行う」という自治意識が強く根づいています。この市民の高い自治意識を、防災における「自助・共助」へとつなげることが行政の役割と考えています。その意味で、飯田市赤十字奉仕団の紙芝居を通した災害伝承は、市民と行政がうまくコラボレーションできた例と言えます。
災害伝承は過去の災害教訓を、世代を越えて共有することです。それは、今に生きる人の命を救うだけではなく、災害で失われた尊い命にも報いることになるのではないでしょうか。

後藤武志
ごとう・たけし
飯田市危機管理室防災係長

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内閣府政策統括官(防災担当)

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