防災リーダーと地域の輪 第18回‐内閣府防災情報のページ

小さな小学校が作る防災マップの大きな成果

愛媛県の宇和島市立蒋淵小学校は、地域に即したテーマの防災マップを作成し、高い評価を受けている。

愛媛県宇和島市は、宇和海に面した沿岸部が、入り江と半島が複雑に入り組んだリアス式海岸となっており、それぞれの入り江には、真珠や鯛の養殖を営む漁業集落が点在する。そうした集落の一つ、蒋淵(人口約380名)にある宇和島市立蒋淵(こもぶち)小学校は、全校児童10名という学校だ。しかし、その小さな小学校が、2010年度以来、4年連続で「小学生のぼうさい探検隊マップコンクール」入選という快挙を成し遂げている

「小さい地域なので、児童は地域のことをよく知っています。地域に即したテーマを選び、じっくりと観察を行った上で、防災マップを作成していることが、評価につながっている理由ではないでしょうか」と蒋淵小学校教諭の三谷裕子さんは言う

宇和島市は年間を通じて温暖で、自然災害の比較的少ない地域である。しかし、海と山に囲まれた自然豊かな地域は、津波、高潮、土砂崩れといった災害で大きな被害を受ける危険性も高い。蒋淵小学校も目の前が海、背後には山が迫っている。防災マップの作成は、児童の防災意識を高めることが大きな目的だ

2013年度に「防災担当大臣賞」を受賞した「矢が浜 津波土砂災害危険お知らせマップ」は、学校から車で10分ほど離れた矢が浜という集落の防災マップだ。写真や図をふんだんに使い、どこに、どのような危険があるかが一目で分かるように工夫されている。防災マップを作成したのは6年生2名、5年生2名の「矢が浜守り隊」である。この中で、6年生の児童の一人は、矢が浜に住む唯一の小学生だ。その児童は毎日集合場所まで、両親の車で通っているが、その道路は海と崖に挟まれ、細く曲がりくねっている。児童が、大雨による道路の冠水や道路への倒木のため、学校に遅れた経験が何度かあったことが、土砂災害を防災マップのテーマとして選んだ理由の一つだ。また、宇和島市は南海地震が発生した場合、最大4メートルの津波が押し寄せると予想されていることもあり、津波もテーマとして選ばれた

第10回「小学生のぼうさい探検隊マップコンクール」(2013年度)で防災担当大臣賞を受賞した
「矢が浜 津波土砂災害危険お知らせマップ」(一般社団法人 日本損害保険協会 提供)

防災マップを作成するために、児童たちは矢が浜を訪れ、防波堤、避難所、道路沿いの崖など防災上、注意すべき場所を実際の目で確かめ、数多くの写真を撮影した。次に、撮影した写真の中から、防災マップに掲載する写真を選択していく

「写真を選ぶときに、テーマからずれないようにとアドバイスしました。そこで彼らは、それぞれの写真に付箋を付けて、写真を選んだ理由などのコメントを書き込むようにしたのです」と三谷さんは言う

多くのコメントがあった写真は、それだけ重要な意味があることになる。そうした作業を通じて絞り込んだ写真に、台紙を付けて防災マップの該当する位置に貼っていく。台紙の色は、海に関連する写真は青、山に関連する写真は茶色といったように色別にするといった工夫をしている。また、台紙に添えるコメントも、「低い防波堤!!」、「避難場所の階段が急!」など、実際に現場を見たならではの、説得力あるものとなっている

その他、防災マップには、高齢者が集まる公民館で行った「防災意識アンケート」の結果や、地域住民も参加して行われた「砂防学習会」の紹介なども盛り込まれている。また、矢が浜は約20戸の住居があるが、高齢者の一人暮しも多い。防災マップでは、そうした一人暮らしの家が一目で分かるように色分けされている。さらに、「矢が浜守り隊」の4人がそれぞれ、防災マップ作成を通じて学んだことや、防災のための提案をまとめた文章も掲載している

「矢が浜に住んでいない児童も、自分のこととして熱心に防災マップの作成に取り組んでいました。防災マップは、自分の家の近くにもある危険箇所に目を向けるきっかけとなったと思います」と三谷さんは言う

(写真提供 宇和島市立蒋淵小学校)

宇和島市立蒋淵小学校の「矢が浜守り隊」の活動
港の防波堤の高さを測る (上段左)、避難路を歩いて問題点を探す(上段右)、
高齢者に防災意識アンケートを行う(下段左)、地元住民と砂防学習会に参加 (下段右)

防災リーダーの一言

小学校高学年の児童は、災害が発生した時に、自分が何をすべきなのかということは理解しています。防災学習で大切なのは、児童にそうした行動が本当にできるかを考えさせることではないでしょうか。その意味で、防災マップの作成は、児童が災害に対する当事者意識を持つきっかけになったと思います。
防災マップは学校の学芸会などを通じて、地域の方々にも発表しています。毎年、防災マップを紹介することで、防災に対する関心も高まり、避難グッズを揃える人も増えています。防災マップは、地域の方々の防災意識の向上にも貢献していると思っています。

三谷裕子
みたに・ゆうこ
宇和島市立蒋淵小学校教諭

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.