過去の災害に学ぶ 38

1948年6月 福井地震 その2

都市直下型地震であった福井地震は、耐震建築、地震火災、復興対策など、地震防災を考える上で現在でも学ぶべき点が多い。
今号では、福井地震の教訓を紹介する。

中林一樹(明治大学大学院政治経済学研究科(危機管理研究センター)特任教授)

福井地震から学ぶこれからの教訓


福井地震(1948年、M7・1)がきっかけで創設された「震度7(激震)」が初めて適用された兵庫県南部地震(1995年、M7・3、阪神・淡路大震災)は、ともに都市直下地震であった。また、福井地震は、戦後のGHQ統治の下で発生し、昭和南海地震(1946年)後に制定された災害救助法(1947年)が初めて運用された災害でもある。そして、空襲で壊滅した福井市が戦災復興へと向かうさなかに被災したため、戦災復興計画が震災復興計画として引き継がれるなど、特徴ある地震災害であった。そこには、直下地震対策としても、都市災害対策としても、学ぶべき教訓がある。

焦土と化した福井市の中心地(1948年6月30日) 〈読売新聞社 提供〉

(1)M7クラスの内陸直下の地震はどこにでも発生する
阪神大震災以降に被害をもたらした地震では、海溝型地震が十勝沖地震(2003年、M8・0)と東北地方太平洋沖地震(2011年、M9・0、東日本大震災)の二つであるのに対して、M7クラスの内陸直下の地震は、新潟県中越地震(2004年、M6・8)を始め、鳥取県西部、芸予、福岡県西部、宮城県北部、能登半島、新潟県中越沖、岩手・宮城内陸地震など、毎年のように全国で発生し、震度6強の強い揺れとなった地震も多い。活断層は全国で、活動度の高いA級約100、B級約800、C級約400が発見されているが、未発見の活断層も多く、M7クラスの内陸直下の地震はどこにでも発生することを忘れてはならない。

(2)つねに不意打ちとなる地震には事前の取り組みが基本
「地震は必ず予告なしに起きる」のである。直下地震では、地震発生直後に伝えられる緊急地震速報も、強く揺れる震源直上の地域では間に合わず、不意打ちとなるであろう。地震から家族、住宅や財産を守るには、事前の災害予防と不断の災害対応の備えによる防災と減災の取り組みしかない。耐震化や不燃化、家具固定、狭い道路の拡幅などのハード面と、地域の自主防災組織の体制づくりや防災訓練などのソフト面での取り組みを事前に進めておくことだけが被害を軽減し、不意打ちの地震災害にも対応して被害の拡大を防ぐ減災を可能とする。

(3)建造物の耐震改修は地震防災の基礎
福井地震を踏まえ1950年建築基準法が制定された。耐震設計基準はその後も1962年、1971年、1981年に強化されたが、阪神・淡路大震災では現代都市の脆弱性を見せつけられた。阪神・淡路大震災では、直接死5502人の約90%が建物倒壊や家具転倒による圧死で、火災跡での遺体の大部分も火災前に圧死していたと推察される。福井地震でも、焼失した映画館で亡くなった約50人は、劇場の倒壊が原因で避難できずに犠牲になったのである。
現在でも、新耐震基準(1981年)以前に築造され、耐震性が不足している建物は多く、特に高齢者はそうした老朽住宅に居住している割合が高いと考えられる。新耐震基準を満たしていない既存不適格建築物や都市基盤施設は耐震診断と補強を早急に進め、必要なら建て替えなど更新することが地震対策の基本である。

(4)木造建物が密集する都市では地震火災の防御が重要
建物が倒壊すると火災が同時多発し、被害が拡大する。福井地震では微風であったが市街地大火となった。初期消火には住民などによる地域消防力が重要で、福井地震でも住民による初期消火が功を奏して市街地大火を免れた地区があった。
しかし、福井平野の町や集落はもちろん、戦災復興の土地区画整理事業中であった福井市でも、強い地震動で家屋倒壊が多発し、被災地の道路は閉塞され、消火活動も避難も困難となった。応援に駆けつけた消防隊も手の出しようがなく引き揚げたという。道路閉塞を起こさない耐震化と細街路の拡幅などの基盤整備は、初期消火のみならず延焼火災に対する消火活動空間を確保する、火災防御のまちづくりなのである。

(5)復興対策も事前に準備し取り組んでおく「事前復興」が重要
戦災都市であった福井市では、戦災からの3年間に戦災復興計画を策定し事業を進めていた。戦災復興の基本である土地区画整理事業については、最終的に事業内容を確定する「換地計画」が福井地震の2日前に決定されていた。震災復興計画は、戦災復興計画を一部拡充して策定され、継続的に事業に取り組んだ。それは、震災復興計画が事前に策定されていたのみならず、全市民が震災によって「安全な都市空間」の重要性を確信することとなり、戦災から7年後、震災から4年後に復興博覧会を開催するほどの迅速な取り組みとなった。偶然だが、戦災復興の取り組みが、震災復興の「事前復興」となったのである。
今日では「被害想定」として被害状況を設定し、それをもとに行政も地域住民も「復興」を考え、計画立案や復興の進め方を事前に準備することが、迅速な復旧復興を可能にするであろう。それを防災まちづくりとして実行しておく「事前復興対策」の有効性と可能性を、福井地震は示している。


福井市の最終的な復興土地区画整理図。戦災復興として計画された土地区画整理事業が、震災復興として引き継がれた。〈「災害教訓の継承に関する調査会報告書」から〉

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