防災リーダーと地域の輪 第16回

家具の転倒防止で地域の安全を守る

愛知県半田市の一般社団法人「わがやネット」は「かぐてんぼう隊」を結成し、地域に根ざした、家具固定の普及活動に取り組んでいる。

愛知県半田市の一般社団法人「わがやネット」は、建築士で福祉住環境コーディネーターの児玉道子さんが1999年に活動開始。高齢者や障がい者が安心して住み続けることが出来る住環境整備の支援を目的とした、福祉、医療、建築の専門家が集まるネットワーク組織だ。
児玉さんが家具固定の活動を始めたきっかけは、「わがやネット」の支援でバリアフリー住宅へのリフォームを行った家に住む高齢者の言葉だった。リフォームは無事に完了したものの、その高齢者は「わしらは大地震が起きたとき、家具の下敷きになって死ぬのか……」と、部屋に置かれた家具への不安を漏らしたのだ。
「外で長い時間を過ごす生活をしていたので、災害時の家具の危険性をあまり考えていませんでした。一日の大半を家で過ごす人は、そうした不安を抱えているのかと気付かされました」と児玉さんは言う。
そこで、児玉さんは、建築士、ケアマネージャーなどの「わがやネット」のメンバーや大学生とともに、「家具の転倒を防止」する「かぐてんぼう隊」を2004年に結成した。
「かぐてんぼう隊」の活動は主に、隊員の養成、家具固定の施工、普及啓発だ。大学生や地域住民などのボランティアを対象に実施される隊員養成の研修では、建物や家具の構造の知識、電動工具の扱い方、訪問先でのマナーなどの講義に加え、家具固定の金具を留める壁下地の探し方、電動工具を使った穴開けやビスの打ち込み方、ガラス飛散防止フィルムの貼り方などの実習が行われる。
家具固定の施工は、社会福祉協議会などを通じて依頼があった高齢者宅で、数名の隊員によって実施される。トラブルの発生を避けるために、依頼者のみならず、民生委員、町内会など地元関係者との連携のうえ、施工を進めている。
これまで「かぐてんぼう隊」は、延べ100人以上のボランティアの隊員の参加によって、150軒以上の家具を固定している。さらに、研修を受けたメンバーが所属する7つの防災グループが名古屋市内で家具固定の施工や普及啓発を行うなど、地域での広がりもみせている。
「家具固定のために高齢者の家を訪れることは、防災だけではなく、高齢者の生活を把握するきっかけにもなります。家具固定の活動は、孤独死が社会問題になっている今、高齢者の見守りにもつながると考えています」と児玉さんは言う。

高齢者の家で家具固定の作業をする「かぐてんぼう隊」(左上)

防災教育チャレンジプラン「進め!かぐてんぼう隊」の活動:放課後児童クラブでは、児童がボードパネルを使って、固定金具を取り付けるのに最適な下地探しを体験(右上)、高校では、ガラスサッシに飛散防止フィルムを貼った場合のガラスの割れ方を実験(右下)、安全な家具配置を検討するために、高校生が描いた自分の寝室の平面図(左下)

楽しみながら学ぶ
「わがやネット」は、若い世代の防災への関心を高めるため、2011年度の防災チャレンジプランに「すすめ!かぐてんぼう隊」というプランタイトルで応募して採択され、放課後児童クラブ、小学校、高校の3箇所で、出前授業を実施している。授業は、家具固定の重要性を伝える講義に加え、クイズと映像の利用や実習によって、楽しみながら学べるように工夫をした。例えば、実習では「かぐてんぼう隊」が独自に開発した衝立式のボードパネルや小型のガラスサッシを活用、児童や生徒は、ボードパネルに家具固定用のL字金具を電動ドライバーで取り付ける、あるいは、ガラスサッシにガラス飛散防止フィルムを貼るといった体験をした。また、高校の授業では、生徒たちが事前に描いた自分の寝室の平面図をもとに、寝室の安全対策、家具の配置の見直しなどを議論している。
高校での授業の後に配られたアンケートには、「家に帰って親に話そうと思いました」、「おばあちゃんの家のガラスにはフィルムが貼られていないので、教えてあげたい」、「家具の選び方や配置を見直したい」といった感想が寄せられた。
こうした「わがやネット」の取り組みは高く評価され、「すすめ!かぐてんぼう隊」は、2012年2月に防災チャレンジプラン「特別賞」を受賞した。また、今年は、中学校での出前講座も実施している。
「子どもたちは自分の身は自分で守ること、家族や近所の住民を守ることを素直に理解してくれました。子どもたちを通じて、家族や近所に家具固定が広がることを期待しています」と児玉さんは言う。

防災リーダーの一言

家具固定は減災につながるにもかかわらず、まだ十分に広がっているとは言えません。家具固定を社会に根付かせるためには、地域のリーダーを通じ住民に広げる「面の展開」とともに、高校生が中学生に、あるいは、中学生が小学生に家具固定の大切さを伝える「縦の継承」が鍵となります。家具固定を一過性のイベントで終わらせず、地域で継続させるために、町内会、防災グループ、生徒会などのリーダーの役割が重要なのです。そうしたリーダーのお手伝いも今後、続けていきたいと考えています。

児玉道子
こだま・みちこ
わがやネット 代表

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.