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NPO法人メディアージ 代表 大矢中子さん

東日本大震災発生直後から、被災地の「今」の情報を発信し続けてきた「被災地をメディアでつなぐプロジェクト・笑顔311」。
ライブストリーミングという手法で、被災地復興を後押ししています。

被災地の今を伝える「笑顔311」プロジェクト

今年6月30日、岩手県大槌町で「おおつちありがとうロックフェスティバル(通称「ありフェス」)」が開催されました。大槌町は、いまだ痛々しい震災の跡が残っていますが、町の人々は力強く動き出そうとしています。

「被災地をメディアでつなぐプロジェクト・笑顔311」を発起した大矢中子さんは、「ありフェス」実行委員の方たちの「全国の、世界中の人たちに、ロックフェスティバルを通じて、支援を『ありがとう』と伝えたい」という言葉を受け、その思いを届けるために、インターネット上でリアルタイムに放送するライブストリーミングで当日の様子を配信することを即座に申し出ました。

「『ありフェス』は、地元の人たちがゼロから立ち上げたものです。フェスティバルの最後にあがった300発の花火も大槌の人たち自らカンパをして資金を集めた。彼らの強い思いをのせた『ありフェス』を、全国に伝えたいと思いました」と大矢さん。この配信は、これまで約2万回も再生されています。

現地からの情報発信が必要

大矢さんが被災地からライブストリーミングを使った情報発信を始めようとしたのは、震災から約1週間後。被災地の方々の生の声を拾い上げて、適切な支援につなげたいと仲間に呼びかけました。しかし「まだ被災地にカメラを持って入る状況ではないのではないか」という意見もあり、まずは東京で「+Starters」という番組を始めます。どこでボランティアを受け付けているのか、また、どこに行けばボランティアバスを用意しているのかといった細かな情報を、「被災地のために何かをしたい」と思う人たちに向けて発信。そして大矢さん自身は、宮城県石巻市のボランティア支援ベースで働き、現地の状況をつぶさに見ていきました。

その後4月に入り、大矢さんは仙台に赴いて「復興を考えるソーシャル学生ネットワーク『IF I AM(イフアイアム)』」を立ち上げます。被災地の人が、欲しい情報を入手しづらいということを現地で再認識し、これを打破するには、やはり被災地からの情報発信が必要だと考えたためです。「IF I AM」は「他人事ではなく自分事へ」をテーマに、被災地の今の状況を、大学生が自分たちの言葉で伝え、問題点を考える番組。週1回放送を続け、今年4月には、配信1周年と50回目の放送を迎えました。現在は、まちの復興の様子、今後のまちづくりについての議論などを活発に発信し続けています。

「いまでは制作全般を学生たち自らができるようになっています」と彼らの頼もしい成長ぶりを話す大矢さん。今後も長く続くであろう復興をみんなで考えるため、「IF I AM」が大学のサークル活動のように先輩から後輩に受け継がれていってほしいと期待を寄せています。

まちづくりに向けて始動

今夏、大矢さんはNPO法人メディアージを発足させました。「笑顔311」の活動を通じて、ライブストリーミングという手法は、もっと、コミュニティー形成やまちづくりに役立つはずという思いが生まれたからです。

「ライブストリーミングって一番簡単な情報発信方法だと、私は思っています。インターネットのブログなどは、キーボードを打たなくてはいけませんが、ライブストリーミングなら、自分の思いを話すだけでいい。これなら小さい子どもでも高齢の方でもできます。しかも双方向メディアなので、放送を見た人からコメントももらえる。リアルな声のやり取りができるので、伝わる力が強いです。これを被災地で定着させ、復興に向けたまちづくりをする中で、行政や地権者だけではなく、それ以外の人もまちづくりに参加できるようにしたいです」

メディアージの取り組み第1弾は既に石巻で始まっています。「まちの人たちが“お茶っこ”をしながら、ライブストリーミングで、まちのあり方を議論するイメージ」と彼女がいうように、そんな様子が近々、被災地の各地で見られるようになるのかもしれません。

取材・文 柳澤 美帆

宮城県石巻市でボランティア活動中の大矢中子さん
(撮影 鈴木有人)

Profile おおや・なかこ
NPO 法人メディアージ代表。短大卒業後に一般企業勤務を経て、2001年にインターネット動画配信会社の株式会社コンディションイエロー取締役に就任。2011年3月、復興支援のため、秋葉原と仙台で震災復興情報番組をUSTREAMで配信開始。同時に、宮城県石巻市を活動拠点にしたボランティア団体で事務局を担当するなどした後、2012年8月、復興街づくりメディアの育成等を行うNPO 法人メディアージ設立。現在、東京と被災地を行き来しながら復興支援活動を続けている。

2012年6月30日に岩手県大槌町で開催された「おおつちありがとうロックフェスティバル」(「ありフェス」)の準備を行う地元の実行委員の方々と大矢さん(左端)
(NPO法人メディアージ 提供)

NPO法人メディアージの「被災地をメディアでつなぐプロジェクト:笑顔311」が配信しているライブストリーミング番組
(NPO法人メディアージ 提供)

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