特集 津波について知ろう

2月28日、チリ中部沿岸を震源とする地震により、日本では太平洋岸を中心に広い範囲で津波が観測された。幸い、この津波による人的被害はなかったものの、避難指示・勧告が発令された地域の住民の避難率が4割弱であったことが明らかになった。
教訓として、津波の危険性の周知、知識の普及啓発はもとより、予想される津波の高さに応じて市町村が適切に避難指示等を発令できるよう2段階などの避難対象地域を示した津波ハザードマップの作成・公表が必要であることが認識された。
津波とは何か、津波はなぜ恐ろしいのかを理解し、避難の大切さをあらためて考える。

2月チリ中部沿岸地震発生後の街の様子1
2月チリ中部沿岸地震発生後の街の様子2

2月にチリ中部沿岸で発生した地震による津波で、チリ沿岸の町は甚大な被害を受けた。(ロイター/アフロ)

津波とは何か

天気予報を見ると毎日、波(波浪)の高さが予想されている。天候がさほど悪くなくても、2m や3m の高さは珍しくなく、その波の高さで海岸付近に住む人々が避難することはない。しかし、2月にチリで発生した地震による津波では、津波の高さが3m と予想された海岸をもつ36市町村全てにおいて、避難指示・勧告が発令された。同じ波でありながら、波浪と津波とでは何が違うのであろうか。

まず、波浪と津波では発生の仕組みが大きく異なる。 波浪は、風の力によって発生する波。一方、津波は、大規模な地震によって震源に近い海底に上下方向のずれ(断層)が現れ、それによって生じる海水面の盛り上がりや落ち込みによって起こる波だ。浴槽の水で例えるなら、水面に息を吹きかけて起こる「波」が波浪、浴槽の底から手のひらを水面に向けて押し上げて起こる「波」が津波である。

発生の仕組みが異なることで、波浪と津波にはその力にも大きな違いが生じる。波浪では海面付近の海水だけが動く。しかし、津波は海底から海面までの全ての海水が動くのである。しかも、波長(波の山から次の山までの長さ)も波浪は数m から数百m程度だが、津波は数㎞から数百㎞にも及ぶ。つまり、同じ高さであっても、1回で沿岸に押し寄せる海水の量が、津波は波浪よりも桁違いに多く、それだけ力も大きい。

波浪は一つ一つの大きさも力も小さいので、沿岸で砕けてしまうのに対し、津波は、大量の海水が巨大な塊となって押し寄せるので、沿岸でもその力が衰えず、周囲の物を破壊しながら陸上の奥深くへと一気に進む。さらに、津波は引く時にも強い力を保っているので、破壊した物を一気に海中へ引きずり込む。津波の地面からの高さが1m を超えると木造家屋に被害が出始め、地面からの高さ50㎝ の津波でも、車が流されるほどの力を持っている。

また、波長の長い津波ほど、そのエネルギーは衰えにくく、遠くまで伝わりやすいという性質がある。そのため、巨大地震に伴う波長の長い津波によって、震源から遠く離れた場所が津波に襲われることがある。このような津波は、遠地津波と呼ばれている。2月にチリで発生した地震による津波はその典型的な例だ。

津波の速さと高さ

今回、津波が日本に到達したのは、チリで地震が発生してから約22時間後。チリと日本は約1万7000㎞離れているので、津波の速度を平均すると時速770㎞とジェット機並みの速さだ。

津波は海が深いほど速く伝わり、水深が浅くなるにつれて速度は遅くなる。

しかし、海岸近くでもオリンピックの短距離選手並の速さで迫ってくるので、普通の人が走って逃げ切ることは難しい。つまり、津波がやってくるのを見てから避難を始めたのでは遅いのだ。

さらに、津波が陸地に近づき速度が遅くなると、後ろの波が前の波に追いつき高い津波とり、反射を繰り返すことで津波が何回も押し寄せたりすることがある。そのため、第1波の津波が一番高いとは限らない。実際、2月の津波でも、数多くの観測点で第2波以降に最大波を記録している。例えば、福島県いわき市小名浜では、高さ0・4m の第1波から約5時間半後に0・8m の最大波が到達、北海道の浜中町では0・2m の第1波から約6時間後に0・8m の最大波が記録されている。

また、津波の高さは海岸付近の地形によって大きく変化する。気象庁が津波情報で発表する「予想される津波の高さ」とは、海岸線において、津波がない場合の潮位から、津波によって海面が上昇した高さの差のことを言う。津波は陸上を、海岸線での津波高の2倍の標高まで駆け上ることもあり、さらに岬の先端やV字型の湾の奥など津波の力が集中しやすい場所では、最大で4倍程度の標高まで駆け上ることもある。例えば、海岸線で2mの高さの津波は、最大で標高8mの高さまで駆け上る可能性があるのだ。

津波の速さと高さ

2010 年2月のチリの地震と1960年チリ地震による津波の主な観測点の観測値と第 1波と最大波の到達時間の差

2010 年2月のチリの地震と1960年チリ地震による津波の主な観測点の観測値と第 1波と最大波の到達時間の差

地震の監視と津波の予測・警報

津波警報等の種類

津波による被害を減らすためには、津波の一刻も早い予測が極めて重要だ。そのために気象庁は「津波予報データベース」を構築している。このデータベースは、震源の位置や規模によって、どこに、どのくらいの高さの津波が、どのくらいの時間で到達するかを10万通りにシミュレーションした結果を蓄積している。気象庁は、地震観測データを24時間リアルタイムで監視しており、地震が起こると直ぐに、震源の位置や地震の規模を推定し、その結果をデータベースで検索する。すると、津波の影響を受ける場所、津波の高さ、到達時間の予想が分かるのだ。

気象庁はその予測をもとに、全国の沿岸を66に分けた津波予報区ごとに、津波警報・注意報を地震発生後最速2分で発表する。これらは、直ちに防災関係機関や報道機関に提供され、テレビ、ラジオ、防災無線などを通して、住民や船舶に伝達されるようになっている。

津波警報・注意報には、3m程度以上の津波が予想される「大津波」の津波警報(以下「大津波警報」)、1~2m程度の「津波」の津波警報、0.5m程度の津波注意報の3種類がある。これらの判定は、津波予報区内にある複数地点における津波の高さの予測値の中で、一番高い値に基づいて行われる。

気象庁では津波警報を発表した後も地震の分析を続け、詳細が分かった時点で津波の予測に反映している。津波の規模は主に地震の規模(マグニチュード)によって決まっているが、同じ震源、同じマグニチュードでも、断層が上下にずれると大きな津波が発生し、横にずれた場合は、津波は発生しにくい傾向がある。

現在では、地震発生から10分程度で断層の詳細が分かるようになった。断層が横ずれと判定され、最初の津波警報・注意報よりも津波が小さい、あるいは発生しない可能性が高いと確認できれば、気象庁は津波警報・注意報の切り替えや解除を行う。
近年、気象庁は津波予測の精度向上や津波情報の充実のために、シミュレーションで用いる計算方法の改良、津波観測地点の増加、衛星を用いて海上での波の変化を計測するGPS波浪計のデータの活用といった対策も行っている。

政府・自治体・地域の津波対策

気象庁による津波予測に加え、政府は地方自治体と協力し、様々な津波対策を行っている。例えば、津波ハザードマップの整備(作成・公表)だ。津波ハザードマップとは、津波による被害が想定される区域とその程度を地図に示し、避難場所や避難経路などの防災情報を加えたものである。平成22年3月現在、沿岸の653市町村のうち349市町村で作成・公表されている。

また、津波避難ビルの指定や新設も進めている。津波避難ビルは、津波の浸水が予想される地区で、住民が高台や避難場所まで逃げることが困難な場合に、避難のために緊急的・一時的に利用する、中・高層の建物だ。各自治体は、所有者の協力が得られ、耐震性や階数など一定基準を満たした施設を指定している。これまでに指定されているものには、鉄筋コンクリートのマンション、魚市場の屋上、ホテルなどがある。

その他、津波の被害を減らすための、様々なインフラも建設されている。例えば、静岡県の沼津市には、沼津港の内港と外港を結ぶ航路に高さ30m、幅40mの水門「びゅうお」が建設された。この水門は、震度6弱以上を検知すると、水門扉が自動的に閉まるようになっている。また、和歌山県や三重県の沿岸には、毛布や非常食などが備蓄された高さ5〜8mの津波避難タワーの設置が進んでいる。

さらに、住民が主体となった津波避難の取り組みも行われている。例えば、岩手県釜石市では、今年から「こども津波ひなんの家」が設置された。登下校中などに津波避難が必要になった場合、子どもたちに「ひなんの家」へ駆け込んでもらい、その家の住民が子どもを避難場所へと誘導するのだ。「ひなんの家」を引き受けた家には、玄 関などに掲示する表示ステッカーを配布している。

また、三重県尾鷲市のある自主防災会では、住民の一人に鉄筋3階建ての住宅を津波避難ビルとして利用することを依頼、緊急時に備え、ビルの向かいの住宅の住人が合い鍵を預かっている。そして、その町会では、緊急時には集合場所に集まり、逃げ遅れた人を確認、全員が集まった時点で、近くの小学校へ避難、時間的余裕がない場合は、津波避難ビルへ避難するという独自の避難ルールを設定している。

2月のチリの地震による津波避難について3月に行われたアンケートの結果

津波から身を守る

このように津波対策として、政府、自治体、地域において様々な取り組みが行われている。しかし、津波から自らの身を守る基本は、他の災害と同様、やはり自助努力だ。それでは、津波(とくに近地津波)から自らの命を守るためには一人一人、どのように行動すべきであろうか。

東南海・南海地震が同時発生した場合、4mから9mの津波の来襲が予想されている和歌山県串本町では、「津波の心得5か条」を掲げている。

第一に、「地震が起きたら、まず避難」。第二は、「津波は繰り返し来襲します」。第三は、「情報を待っていては、逃げ遅れます」。第四は、「家族で話し合っておきましょう」。第五は、「津波は引き潮から始まるとは限りません」。

この串本町の「津波の心得5か条」は、海岸に面したどの地域でも当てはまる心得と言えるだろう。

日本では地震発生直後に津波が押し寄せることがある。平成5年に発生した北海道南西沖地震の場合、奥尻島には、地震発生後まもなく津波が来襲したため、多くの人が犠牲となった。強い地震が起きた時は、直ぐに海岸から離れ、高台などの安全な場所に避難することだ。しかし、比較的小さな揺れでも、長時間ゆっくりとした揺れの地震は「津波地震」と呼ばれ、大津波が発生する場合があるので避難が必要である。いずれにせよ、地震が起きたら直ぐに海岸から離れ浸水予想地域の外まで避難するのが大原則だ(内陸の人は避難不要である)。

また、既に述べているように、津波は必ずしも第1波が最も高いという訳ではない。また、津波が川を遡る、あるいは、排水溝を逆流し、マンホールや側溝から溢れ出るという例も報告されている。海岸線から離れていても、必ず安全というわけではない。津波警報が解除されるまでは、避難場所を離れてはならない。なお、津波注意報が発表された場合は、陸上への浸水の心配はないため居住地からの避難は不要だが、海水浴客などは陸上へ退避する必要がある。

日頃から家族で避難場所、避難経路、非常時の連絡方法などを決めておくことも重要だ。自分が住む市町村が津波ハザードマップを公表していれば、そうした家族の約束を決める際に役立つ。

そして、津波が引き潮から始まると誤解し、津波が来るかどうかを確認するために海岸に向かうことは非常に危険だ。北海道南西沖地震、平成15年の十勝沖地震、海外では平成16年のスマトラ沖地震でも、スリランカやインドでは直前に潮が引くことなく津波が押し寄せている。

2月のチリの地震に伴う津波避難の教訓

津波の心得 5か条 第一、「地震が起きたら、まず避難」第二、「津波は繰り返し来襲します」第三、「情報を待っていては、逃げ遅れます」第四、「家族で話し合っておきましょう」第五、「津波は引き潮から始まるとは限りません」

チリ中部沿岸を震源とする地震による津波避難について、内閣府と総務省消防庁が、大津波警報が発表された青森県、岩手県、宮城県の36市町村の避難指示または避難勧告が発令された地域の住民に対して、3月に行ったアンケート調査(回収数2007票)によれば、回答者のうち避難した人は4割弱であった。避難しなかった理由について、半数以上が、「高台など、津波に浸水するおそれのない地域にいると思った」と回答している。これは、津波ハザードマップを作成している市町村では、明治三陸地震津波など過去最大級の津波(高さ10m など)を想定した浸水予想地域を設定しており、これを基にした避難指示等の発令は、今回の高さ3mの大津波警報に対しては対象地域が広すぎたためと考えられる。さらに、回答の3割以上が「自宅は津波ハザードマップで示される浸水予想地域の外である」にもかかわらず避難指示・勧告を発令されていること、また、約6割が「1960 年チリ地震津波を体験」していることなどから、津波の恐ろしさの認識不足だけが原因で避難しなかったとは考えにくい。住民は、今回の警報で予想された高さ3mの津波に対して自宅からの避難の要否を自分で判断していたと考えられる。予想される津波高からどのような範囲に被害のおそれがあるかが津波ハザードマップで公表されていれば、住民は津波の危険性や避難の必要性についてより正しく判断することができるだろう。

今回の津波の教訓としては、津波の危険性の周知、知識の普及啓発が非常に重要であるということはもとより、予想される津波の高さに応じて市町村が適切に避難指示等を発令することができるよう、2段階などの避難対象地域を示した津波ハザードマップの作成、住民への周知の徹底等の取組に向けた検討が必要であるということが認識された。これについて、内閣府では有識者を交えた検討を行うこととしている。

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