Disaster Report 災害報告

2010 ハイチ大地震

本年1月12 日に発生したハイチ大地震は、 22 万以上の犠牲者や年間GDP の1.2倍におよぶ被害をもたらしました。
内閣府ではアジア防災センターと連携して、ハイチ大地震の被害状況や復旧・復興のための諸課題を把握するため、3月4日から 12 日にかけて現地調査を実施しましたので、その一端を紹介します

1.今回の地震の特徴

(1) 諸機能の集中する首都を直撃、行政機能・経済活動が麻痺
 首都ポルトープランス( 圏域人口約250 万人、総人口の約4分の1)では、大統領宮殿、国会、中央省庁等の国家の中枢機関のほとんどの建物が倒壊しており、多くの職員も犠牲にあったとのことです。政府機能の一刻も早い立て直しは最重要課題です。経済インフラ、オフィスビル等の多くが倒壊しており、経済活動の著しい低下を引き起こしています。加えて、学校や病院等の公共施設、教会等の人々の生活を支える施設の多くが被害を受けており、長期的な影響は確実です。首都機能が大きく被害を受けたため、地震の影響は被災地だけには止まりません。復旧・復興は国全体の再建とほぼ同義であるということが、ハイチ大地震の特徴の一つです。

倒壊した大統領宮殿(2階部分は完全に潰れている。)

(2) 貧困、無秩序な都市化、高い人口密度、地震への備えの欠如等が被害の拡大要因
 災害は自然現象に加えて社会現象という側面があります。ハイチは「西半球で最も貧しい国」と言われます。長く混乱が続き、経済も疲弊し、大多数の国民は貧困状態にあります。ポルトープランスには総人口の約4分の1が集中しており、都市基盤が未整備な状態で急傾斜地など居住に適さない地区にまで広がっており、高密度で災害の危険性が高い都市がもともと形成されていました。また、ハイチでは地震に対する備えは全くありませんでした。ハイチを含むイスパニョーラ島はプレートの境界に近接しているにも関わらず、過去200年以上ほとんど地震がなかったということは不思議です。地震の危険性も指摘されていましたが、そこまで手が回らなかったというのが実情です。このような無秩序な都市化、都市基盤の未整備、貧困、災害への備えの欠如などは今回の地震の被害を拡大した要因と言えます。

2.今後の課題など

(1) 瓦礫処理、安心・安全な居住の確保
 震災からほぼ2ヶ月が経過しても、倒壊建物は放置され、路上には瓦礫が積まれており、それらの処理のほとんどは人力に頼っています。地震で居住の場を失った約130万人がテント生活を強いられていますが、計画的に提供されたテント村はごく一部であり、大多数は広場や道路脇などのわずかな空間に身を寄せ合って生活しています。4月からの雨季、6月からのハリケーンシーズンを控え、安全な仮設住宅の提供が急務ですが、まだ緒についたばかりであり、必要な量を確保するのは相当長期化しそうです。

(2) 国土整備の観点からの復興
 地震後、約60万人が住居や食料を求めて地方へ移住しました。ハイチ政府は、これを機に地方の拠点都市を育成整備し、就業や就学の機会も提供することにより、首都に過度に人口の集中しない国土形成を目指していますが、その実現は非常に困難と言わざるを得ません。一旦復旧・復興が始まれば都市に人々が引き寄せられることは確実でしょう。かなり強引な政策手段(流入や建築の規制等)が導入されない限り、震災前以上に危険な都市が再生産されていくことが危惧されます。
 ハイチの復興は長期化することは確実ですが、国際社会からの息の長い支援は不可欠です。アジア防災センターでは、IRP(国際復興フォーラム)などを活用して復興への支援を図っていくとともに、今回のハイチ大地震の経験を他のアジア諸国とも共有していくこととしています。

ポルトープランス郊外にある傾斜地の倒壊した住居群

是澤 優さん

アジア防災センター所長
是澤 優
これさわ・あつし
昭和63年国土庁入庁、国土交通省大臣官房総務課企画官、同国土計画局広域地方整備政策課大都市圏制度企画室長等を経て昨年7月より現職。

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

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