特集 事業の継続

事業継続計画(BCP)
 現在、災害など、さまざまな面での危機管理の必要性が唱えられており、多くの企業で、「事業継続計画」(BCP)の策定・検討がされ始めている。これは、災害時などに事業を継続するための計画を事前に用意しておくもので、すでにそのためのガイドラインが規模や分野別に策定・公表されている。
 平成7年の阪神・淡路大震災の時点では、BCPはほとんど知られていなかったが、平成13年の9.11テロのときに米国の企業が大打撃を受けたことをきっかけに、テロ対策、安全管理とともに広まってきたといわれている。
 しかしながら、企業での策定の割合は決して高くはなく、大企業でも、平成20年1月現在で、わずか18.9%の企業で策定されているにすぎない(内閣府)。
 中越地震の際、新潟の電子部品会社(前述)では、思ったより迅速な対応のため、わずか1カ月強で復旧を達成したが、その間に離れた取引先は戻ってこなかった。仮に事前にBCPを策定していれば、復旧計画を顧客に示し、顧客の生産計画に反映することができた可能性もある。

以前から行われていた
 「事業継続計画」「BCP」というと、わかりにくく、面倒なもののように考えられがちであるが、しかし歴史のある企業では、これまですでに同じ趣旨の対応を自主的に行ってきている。具体的には、「顧客に迷惑をかけないようにする」ということ。当たり前のようだが、社訓などで、「お客のために」を第一に掲げ、「お客に迷惑をかけないために、日ごろから準備する」精神が企業を支えてきた。
 小さな商店でも大企業でも、災害や事故、材料や原料の仕入元などのトラブルで商品や生産物やサービスなどを供給できなくなる危険性は常にある。その中で、あらかじめ仕入元を分散する、災害時の施設の復旧対策を講じるなどのトラブル対策を立てて対応してきた企業が、顧客の信頼を得て生き残ってきたといえる。そしてこれこそが、現在でいうBCPの考えに近いものなのである。

BCPの策定状況

出典:「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」平成20 年1 月、内閣府 複数回答、n = 123、対象:BCP を策定する予定はない大企業

BCP策定が困難な理由

出典:「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」平成20 年1 月、内閣府調査から一部改変(上位5 位まで)

中越沖地震によりJR 柏崎駅で倒れた電車(撮影:吉嶺充俊)

長田のケミカルシューズ産業

未曾有の阪神・淡路大震災
町工場はがんばった

 神戸市では、長田区などを中心として、震災前からケミカルシューズ産業が発展していた。「ケミカルシューズ」とは、合成皮革による靴のことである。この地域では、明治42年の神戸ダンロップゴムの設立を機にゴム生産が始まり、大正時代にはゴム履物業が発達、さらに昭和27年には塩化ビニール製のケミカルシューズが誕生し、この地域に多くの生産者が集まることになった。最盛期には長田区・須磨区で働く人々の3分の1から2分の1がこの産業に従事し、関連会社は最盛期には1600社に及んでいたといわれる。
 そして、平成7 年の阪神・淡路大震災は、ケミカルシューズ産業に壊滅的な打撃を与えた。日本ケミカルシューズ工業組合加盟192 社のうち158 社、関連会社の約80%の工場が全半壊・全半焼し、被害は総額3000億円となり再起はきわめて困難と思われた。
 しかし、経営者・社員らが一丸となっての努力により、まず仮設工場を建設、1カ月後には多くが製造を再開した。さらに、「ケミカルシューズ産業復興研究会」が設立され、平成12年には「シューズプラザ」の建設、さらに東京でのアピールのため「神戸ブランドプラザ」が表参道に建設されるなど、「くつのまち:ながた」としての復興・活性化の取組が進められた。
 このような驚異的な復興活動によって、1年後には震災以前の50%近く、5年後には70%の生産量を回復することになった。この復興は、もともと地域のメーカー同士が組合(日本ケミカルシューズ工業組合)を結成し、強い協力関係が築かれていたうえに、被災後はどう生き延びるか、必死で助け合ったことが実を結んだ。
 この業種は近年、景気衰退と海外企業の進出により厳しい状況に直面している。しかし、震災当時は多くの企業が工場を閉鎖・廃業するという状況の中で、ケミカルシューズ産業は見事に再生した。
 このように、同じ業種の企業が結束して助け合い復興するという地道な活動が事業継続にはまず欠かせない。現在、周辺の道路は広がり、緊急連絡網など、少しずつ災害に備える取組が広がっている。

ケミカルシューズ企業がたくさん入ったシューズタウンビル

阪神・淡路大震災により焼け落ちた長田地区商店街のアーケード(写真提供:阪神大震災を記録しつづける会、撮影:桜井義信)

ケミカルシューズ関連のゴム会社のビル倒壊(写真提供:メック・ラボ、撮影:矢内秀和)

神戸市長田区のシューズプラザ

神戸市長田区のシューズプラザ

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.