特集 いまこそ災害に強いまちづくりを

まちとは、わたしたちそれぞれの関わりで変わる。だから、まちづくりはできるし、必要なのです。
大地動乱、地球温暖化が危惧される21世紀。わたしたちの生活を守るため、自分の住むまちを、災害に強いまち、いざというときにも安心して暮らせるまちにしたいと考える人も多いと思いますが、災害に強いまちづくりとはどういうものでしょうか。
首都大学東京の中林一樹先生とともに考えていきたいと思います。

防災まちづくりとは
 近年、地震やゲリラ豪雨と呼ばれる局地的な大雨や台風による災害が多発し、多くの被害者が出ています。地震や豪雨が災害ではなく、それによって財産や人の命が失われることが災害なのです。自分や家庭を守る取組として、災害に強いまちをつくる、防災まちづくりの取組が挙げられます。
 1923年9月1日に関東大震災が発生し、東京や横浜に壊滅的な被害をもたらしました。これを記念して9月1日は「防災の日」と定められ、学校や自治会では防災訓練を実施してきました。それに参加し、自分を守る方法を学び、実践することも防災まちづくりの1つですが、それ以外にもさまざまな取組が各地で展開されています。
 とくに、平成7(1995)年の阪神・淡路大震災は、全国に地震災害の脅威を感じさせ、危機感を高めたことから、全国各地でさまざまな防災の取組が始められる大きなきっかけとなりました。自主防災組織も各地で結成され、積極的に活動するようになり、さまざまな市民がボランティアとして災害対応に関わったことから、全国にさまざまな市民団体が結成され、防災の取組を始めていきました。それらのなかには全国的なネットワークを形成して被災地支援を展開していくような動きも出てきました。そして、1月17日は「防災とボランティアの日」と定められています。
 こうした人間の活動によって、発生した災害に対応し、被害の拡大を防ぐ取組が多様化してきましたが、1980年代頃から、災害に対して脆弱な市街地である木造密集地域では災害時の被害の発生を軽減し、安全な市街地に整備修復していく防災まちづくりの取組も進められていました。
 関西では大阪・豊中のまちづくり、関東では東京・世田谷区の太子堂のまちづくりや墨田区の京島のまちづくりなどが有名です。このまちづくりは、地域の人によって街づくり協議会を組織し、防災訓練などのさまざまな活動とともに、路地を拡幅したり、ブロック塀を生け垣にしたり、路地の奥の宅地を広場に作り替えたりして災害発生時に消火、救出救助、避難などの活動がしやすくなるような街にしていく取組です。こうしたさまざまな防災まちづくりの取組を推進していくためにはどうしたらよいでしょうか。
 阪神・淡路大震災から14年。これまでに、防災まちづくりを考えるためのアイデアや事例が色々とでてきています。そのいくつかを紹介しながら考えていきたいと思います。

中越地震で破壊された家(写真提供:(株)アイジーコンサルティング)

中越地震で破壊された家(写真提供:ネットワーク『地球村』)

視覚障がい者による防災訓練(写真提供:社会福祉法人岐阜アソシア

子育てネットワークによる防災ゲーム(防災フェア2009 in はままつ)

地域の防災活動の変化と新たな動き
 阪神・淡路大震災以前では、多くの地域で防災活動といえば、自治会を中心とし、自主防災会や防災団、消防クラブなどが行っていた防災訓練でした。豊中や太子堂のような防災まちづくりは珍しい取組で、広まってはいませんでした。
 しかし、阪神・淡路大震災やそれ以降の災害の経験を通じて、市民グループが自由な発想でさまざまな新しい防災の取組を始めてきました。それまでのお仕着せ的な「成功する防災訓練」ではなく、災害時のイメージを持つことができるように地図を使って自分の街で災害を想定して対応を考えてみる「図上訓練(DIG)」とか、失敗する防災訓練として、事前に訓練内容を知らせないで進める「発災対応型防災訓練」、さらに避難所を疑似体験する訓練など、防災活動の幅が大きく広がってきています。
 また、阪神・淡路大震災では災害弱者(災害時要援護者)の被害が顕著であったことから、日本語の障がいや地震の経験がないために、要援護者になる可能性のある外国人が多く住んでいる地域では、外国人と密に交流し、一緒に防災活動に取組んだり、また、高齢者や障がい者への配慮が根ざしている地域では、お年寄りや障がい者、子どもたちを意識的に巻込んだ防災活動に取組んだりする動きも広がっています。また、街中の公園などは災害時の活動拠点としても重要であることを実体験し、地域と行政が協働して、さまざまな防災設備を設置した「防災公園」を整備する取組も各地で進められています。
 このように、災害がきっかけでうまれた活動や取組は、多様な発展をしながら、さまざまな場面で活動の幅を広げてきています。

防災まちづくり活動の2つの類型
地域型防災まちづくりとテーマ型防災まちづくり

 防災まちづくりの活動は、自主防災会や自治会などをベースに居住地である地域を災害に強い街にしていく「地域型防災まちづくり」と、特定のテーマやコンセプトに基づく防災活動を展開し、さまざまな地域の活動と交流し、広く防災学習や意識啓発活動を展開する「テーマ型防災まちづくり」に分類することができます。
 さらに、防災の取組も、住宅の耐いまこそ災害に強震化や防災公園の整備、細街路の拡幅、耐震水槽や防災井戸の設置といった、設備や空間の整備によって被害の軽減を図る「ものづくり」に主眼をおいたハード型防災まちづくりと、災害時対応活動の工夫やそのための準備、その前提となす防災意識の形成や向上などを目指す「人づくり」や「ことづくり」に主眼をおいたソフト型防災まちづくりがあります。このハード型防災まちづくりは地域型防災まちづくりとして行われることが多く、ソフト型防災まちづくりはテーマ型防災まちづくりとしての活動になっていることが多いといえます。
 自治会などの住民の居住エリアを単位とし、そのエリア内での防災力を高める地域型防災まちづくりは被害軽減を実現するうえで基本となる重要な取組です。阪神・淡路大震災以降、「公助」である行政力の限界に対して「自助」「共助」の重要性が指摘されているのですが、地域型の防災まちづくりは「自助」「共助」の取組が基本なのです。
 その一方で、ボランティア活動の活発化などとともに、テーマ型の活動が活性化してきています。
 テーマ型防災活動は「人づくり」「ことづくり」を通して、防災意識の向上や知識や技術の習得を目指す取組が多く、ゲームや落語など新しいツールを取入れるなど、平常時から防災に興味を持ってもらうために遊び心を投入したり、工夫された防災啓発活動が多様に展開されています。震災の経験を絵本や人形劇のシナリオに盛り込み、子どもたちに意識せずに教訓を伝える活動など、とても幅広く活動が展開されています。また、テーマ型では団体間でネットワークを作り、まだ防災のノウハウの少ない地域での活動を支援する、中間支援団体として活動しているケースも少なくありません。災害時にボランティアの送迎を行うボランティアバスを運営する活動など、専門的ともいえる活動まで奥行きも深まってきています。こうしたテーマ型の取組は現在の防災まちづくり活動を活性化させる役割も担っていると考えられます。
 情報や知恵、ノウハウを共有し、被災経験を生かし、新しいアイデア・工夫など、防災に関する優れた取組を各地で広めることは、今後の防災まちづくりに重要な取組といえます。
 一方、街路や公園・広場などの基盤施設が整備されているうえに、ボランティアを行う風土が根づいている欧米では、テーマ型の防災活動が多いともいえます。そのため、地域型の防災活動について、日本から学んでいる国も多いようです。米国では日本の自主防災会や市民消火隊などを参考に地域での防災活動の仕組みを工夫したり、トルコでも1999年のマルマラ地震をきっかけに、日本の自主防災組織を参考にして地域防災市民組織(MAG)が結成されてきました。海外では、むしろ日本の地域型防災まちづくり活動の意義を高く評価しているように思います。

ストローによる壊れやすい家の模型実験(写真提供:たかしま災害支援ボランティアネットワーク「なまず」)

ストローによる壊れやすい家の模型実験(写真提供:たかしま災害支援ボランティアネットワーク「なまず」)

外国人とともに行う防災訓練(写真提供:南御厨地区自治会)

外国人とともに行う防災訓練(写真提供:南御厨地区自治会)

重油流出事故支援のボランティアバス(写真提供:NPO 法人とちぎボランティアネットワーク)

重油流出事故支援のボランティアバス(写真提供:NPO 法人とちぎボランティアネットワーク)

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