特集 防災教育

 「防災教育」といっても、「これまで学校などで防災教育を受けたことがあるか」の質問には、多くの人が「避難訓練をやった程度」としか答えない。もちろん、学校や地域、職場などで熱心に取組んでいるところ、家庭によってはかなりの備えをしているところもあり、一概にはいえないが、他の教科の「教育」に比べて明らかに少ないだろう。
 首都直下地震、東海地震、東南海地震、南海地震の危険性が指摘されながら、いまだ遅々として根本的な防災対策が市民レベルで講じられていないことをみると、その改善に大きな役割を有すると思われる防災教育を検証する必要があるのではないか。今回は防災教育の現状と課題について、名古屋大学の福和伸夫教授とともに考える。

防災教育とは

防災教育は、究極的には命を守ることを学ぶことであるが、そのためには、災害発生の理屈を知ること、社会と地域の実態を知ること、備え方を学ぶこと、災害発生時の対処の仕方を学ぶこと、そして、それを実践に移すことが必要となる。
 文部科学省では、学校における防災教育のねらいを、一つ目は「災害時における危険を認識し、日常的な備えを行うとともに、状況に応じて、的確な判断の下に、自らの安全を確保するための行動ができるようにする」、二つ目は「災害発生時及び事後に、進んで他の人々や集団、地域の安全に役立つことができるようにする」、三つ目は「自然災害の発生メカニズムをはじめとして、地域の自然環境、災害や防災についての基礎的・基本的事項を理解できるようにする」としている。

厳しい現実

周知の通り、阪神・淡路大震災では、家屋の中で亡くなられた方は死者の約9割にのぼり、倒壊家屋などに閉じ込められた住民のおよそ8割が、近隣の住民によって救助されたといわれている。このため震災後は、防災対策における「自助」「共助」に、特に強く注目が集まることになった。災害時のみならず、平時から、それぞれが自らの住まいの耐震性を高めたり家具の固定をするとともに、防災訓練へ参加して近隣住民との協力関係を築くことなどが求められている。
 しかしながら、実態は厳しいものがある。平成19年の内閣府特別世論調査では、家具固定をしている人は全体の4人に1人程度、家の耐震化をしている人に至っては、10人に1人程度だ。
 もちろん、この状況の原因をすべて防災教育に帰することはできない。耐震化には相当の経済的負担とともに、かなりの手間もかかるものであり、容易ではない。意識が高くても、さまざまな事情により「行動」に移せないという面もある。しかし、一方で家具固定はどうだろうか。家具固定も、間柱への固定など技術上の面倒さや、賃貸住宅の場合、原状回復義務との関係で困難になるなど、一定の支障は生じるが、それでも、費用・手間の面では、耐震化工事よりは圧倒的に容易であり、対策を行うか否かはもっぱらその住民の意思次第であるともいえる。
 この家具固定率も、都道府県によりかなり異なるが、上記内閣府の調査では、静岡県では60%を超えている。平成21年8月に発生した駿河湾を中心とする地震(最大震度6弱)では、地震の規模に比して被害が相対的に小さかったといわれる。これは、子どもの頃からの防災教育により、静岡県の住民が普段から適切な備えを行っていたことと、けっして無関係ではないと考えられる。やはり、いかに個々人の意識を高め、そして具体的な対策を住民にとってもらうか、そのために有用な防災教育とは何かを真剣に考えるときである。

防災教育の現状

【学校現場】
 まず、学校現場における防災教育をみてみよう。もちろん、他の教科と同じく、学習指導要領の枠内で行われているが、「防災教育」という特定の教科があるのではなく、さまざまな教科の中で、防災の狙いに沿った要素を入れて防災教育が進められている。たとえば、地域の安全に役立てるための1つの知識として消防署や消防施設のあり方などを社会科で、自然災害の発生メカニズムを理科などで、また、安全な行動を身に付けさせるため、どういったときにけがをしやすいのか、そのためにどんなことに気を付けたらいいかなどを体育や特別活動・安全指導の時間に教えている。
 このような学習のため、文部科学省からは防災教育についての教材が各学校に配布されている(小学校・防災教育教材パネル『考えようわたしたちのいのちと安全』『たった一つのいのちを守るために』、中学校・高等学校・防災教育教材パンフレット『防災は自分自身の手で』『防災について考えよう』、小学生用・中学生用・防災教育教材(CD‐ROM、DVD)『災害から命を守るために』、小学校教職員用・学校安全資料(DVD)『子どもを事件・事故災害から守るためにできることは』)。
 学校現場では、平成10年に「総合的な学習の時間」を設け、それにより理科や社会という既存の教科ではない形で防災教育を取り上げることも可能になったが、総合的な学習の時間は、ほかにも消費者教育、金融教育、法教育、環境教育など、さまざまな分野から大きな期待・要請を受けている。

【さまざまな場における防災教育】
 一方で、いうまでもなく、防災教育は学校教育に限ったものではない。対象も子どもたちに限っているものでもない。むしろ、学校現場以外の、家庭、地域、職場などでも、多くの取組が行われている。
 災害時の行動は、まさに命を左右するものとなるから、家庭では、緊急地震速報への対応、避難所の確認、災害時の連絡方法の確認(とりわけ「災害用伝言ダイヤル(171)」の利用方法の確認)、非常用食料などの備蓄が行われているのが常であり、その過程で家族間でのコミュニケーションが図られる。また地域では、ほぼ例外なく防災訓練が町内会・自治会などの主導で実施されているほか、防災用品の配布、小規模の勉強会・講演会も地域により実施されている。また職場でも、避難訓練の実施や、企業によっては従業員に帰宅支援マップや防災用品の配布、災害時の連絡・参集方法の確認を徹底しているところもある。
 また、防災ポスターコンクール(内閣府、防災推進協議会)、防災教育チャレンジプラン(防災教育チャレンジプラン実行委員会)、ぼうさい甲子園(兵庫県、毎日新聞社、財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構)、小学生の防災探検隊マップコンクール(日本損害保険協会、朝日新聞社、ユネスコ、日本災害救援ボランティアネットワーク)など、児童・生徒を対象とした多くのコンクール形式の行事も実施され、高い教育効果を上げている(九頁参照)。

(写真提供:三重県教育委員会)

四日市中部西小学校での防災マップ発表

(写真提供:三重県教育委員会)

防災訓練で机の下に避難する県立聾学校の子どもたち

(単位:%、平成19年特別世論調査)

大地震に備えた対策(平成17年、平成19年)

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内閣府政策統括官(防災担当)

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