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家具の転倒防止活動がつくる地域防災—かぐてんぼう隊地震

地震によるけがの70%は家具の転倒や落下によるもの。そんな事故からお年寄りを守りたいという気持ちが、地域防災で最も心強い“地域のつながり”や“助け合いの気持ち”を育てました。地域の人々の心を固く結んだ家具の固定活動を紹介します。

 地震による家具の転倒からお年寄りを守ろうと、名古屋市で住民ボランティアが活躍しています。児玉道子さんが代表を務める「かぐてんぼう隊」です。
 学生や住民によるボランティアを養成し、お年寄りの家を回り、災害時の避難のさまたげとなりそうな家具を移動したり、転倒の恐れがある家具を金具などで固定します。「かぐてんぼう隊」とは、家具の転倒を防止する人をつくろうと名付けられました。
 これまでに、延べ150名以上のボランティアが参加し、200件以上のお年寄りの家の家具を固定しています。

地震による家具の転倒を防止する「かぐてんぼう隊」。住民ボランティアによる活動は人と人とのつながりも強めています。
地震による家具の転倒を防止する「かぐてんぼう隊」。住民ボランティアによる活動は人と人とのつながりも強めています。

わしは家具の下敷きになって死ぬのか……

 きっかけはお年寄りのそんなひと言でした。当時、代表の児玉さんは任意団体わがやネットで建築士・福祉環境コーディネーターとして、家庭内の事故を防ぐために高齢者世帯のリフォームを行っていました。
 そのお年寄りは脳梗塞で麻痺が残ってしまい、妻が介護をしていました。リフォームが完了し、これでバリアフリーは安心だが、もしも地震がきたら逃げることもできず、家具の下敷きになるかもしれないと不安になったといいます。
 調べてみると、十勝沖、宮城県北部、新潟中越地震で家具類の転倒・落下による負傷被害が70%近くに上っていました。地震が起きれば、家具が凶器となります。防災の備えとして家具類の固定が不可欠だとい うことを知りました。

家具を固定する人たちを養成したい

 お年寄りの家を回り、家具を固定する人たちを養成できないか……。当時、名城大学大学院修士課程で地域福祉と防災のまちづくりの研究を行っていた児玉さんは、大学生を中心に養成することを考えました。
 平成16年12月、建築学科の卒業生を講師に、耐震診断や家具を固定する知識を学ぶ講座を開催、大学生を中心とした「かぐてんぼう隊」が誕生しました。
 平成17年1月、活動が始まりました。阪神・淡路大震災10周年にあわせた第1回キャンペーンでは、29件のお年寄りの家を回りました。この活動を新聞やテレビなどがとりあげてくれ、100件近い問い合わせの電話が鳴り響く夜もありました。「必要としている人がいる。」それを実感した瞬間でした。
 その後、活動は次第に広がりを見せていきました。愛知県の「持続的防災まちづくり企画提案事業」に採用され、地域住民を対象とした社会人部隊の養成研修を行うことができるようになったのです。
 研修は丸一日。午前中は、家具や建物の下地に関する講義や電動工具の取り扱い説明と注意事項、さらに施工隊員の安全の管理など。午後は実習で木材にビスを打ち込む練習やガラスの飛散防止フィルムの張り方、実際の家庭での作業を学びます。

施工キャンペーンでタンスを固定する隊員たち。
施工キャンペーンでタンスを固定する隊員たち。

家具の固定が地域のつながりを強めた

 「かぐてんぼう隊」の活動は、隊員となる学生や地域住民に加え、プロの職人による技術指導や各地の社会福祉協議会などによる普及啓発など、多くのボランティアに支えられています。また、高齢者の住宅に入ることから、民生委員による説明会やマンションの防災委員会と連携をとるなどの工夫も成功の鍵を握っています。
 近所の家の家具の転倒防止の活動は、地域のつながりや助け合いの気持ちも生み出しています。利用者の感謝の言葉が活動のやりがいや喜びとなり、活動がなければ話をすることもなかったお年寄りが、いつも気になる存在となりました。
 これらの活動が評価されて、平成18年2月には愛知県「人にやさしい街づくり賞」を受賞しました。さらに、同年8月には内閣府「第2回全国防災まちづくりフォーラム」で最優秀賞を受賞しました。

養成講座では座学だけでなく、ガラス飛散フィルムの張り方や家具の固定の方法を実技を通して学びます。

進化する「かぐてんぼう隊」を目指して

 平成19年には新しい試みも始めました。かぐてんぼう隊と同行し、家具の固定作業をしている間、利用者に災害時の備えに関する情報提供を行ったり、てんぼう隊に道具や材料を渡すなどの作業を行います。その名も「おしゃべり隊」。 家具固定の作業時間も短くなり、隊員と利用者との交流も生まれています。
「家具の固定が第一の目的だったのですが、それが地域防災活動のきっかけとなり、地域の見守り体制づくりにも役立つことがわかりました。「展望」が広がる「かぐてんぼう隊」となりたい」と児玉さん。
 かぐてんぼう隊の活動は、全国にも広がりはじめ、徳島や三重、和歌山などで養成講座が行われています。

利用者に防災情報を提供する「おしゃべり隊」の活動も地域防災に重要な役割を担います。

かぐてんぼう隊代表児玉道子さん

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

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