・195901:1959年(昭和34年) 伊勢湾台風
【概要】
(1)被害の概要
1959(昭和34)年9月26日午後6時過ぎに潮岬に上陸した台風15号は、全国的に大きな被害をもたらした。伊勢湾周辺地域、とりわけ湾奥部の名古屋市を中心とする臨海低平地に未曽有の大災害を引き起こし、後に伊勢湾台風と命名されることになった。
この台風は、1930(昭和5)年の室戸台風(上陸時最低気圧911.8hPa)及び1945(昭和20)年の枕崎台風(916.6hPa)とともに昭和の三大台風(犠牲者数が3,000名以上の台風)の一つに数えられる。上陸時の中心気圧も我が国観測史上3番目(929.6hPa)に位置づけられている。
この台風による災害の最大の特色は、人的被害の大きさにある。台風による犠牲者の数は明治以降最大であり、地震・津波以外の災害としては最多の犠牲者を出した台風である。また、この災害が契機となって、そのほぼ2年後の1961(昭和36)年11月15日に災害対策基本法が制定された点でも災害史上特筆される台風である。
①愛知県概要(昭和34年9月1日現在)
・人口 406.97万人
・面積 5,058km2
・可住面積 2,465km2 (県土面積 約49%)
②被害概要
表1 人的被害(昭和34年12月31日現在) [単位:人]
死者 | 行方不明 | 重傷者 | 軽傷者 | 計 | |
名古屋 | 1,851 | 58 | 1,619 | 38,909 | 42,437 |
尾張 | 1,129 | 27 | 1,107 | 11,244 | 13,507 |
西三河 | 162 | 3 | 300 | 4,981 | 5,446 |
東三河 | 26 | 4 | 64 | 821 | 915 |
計 | 3,168 | 92 | 3,090 | 55,955 | 62,305 |
表2 住家被害(昭和34年12月31日現在) [単位:戸]
全壊 | 流出 | 半壊 | 床上浸水 | 床下浸水 | 住家合計 | 非住家被害 | |
名古屋 | 6,166 | 1,557 | 43,249 | 34,883 | 32,469 | 118,324 | 6,503 |
尾張 | 9,359 | 1,409 | 26,341 | 13,479 | 22,275 | 72,899 | 44,701 |
西三河 | 5,811 | 155 | 21,167 | 2,654 | 5,161 | 34,948 | 46,215 |
東三河 | 1,962 | 73 | 6,292 | 2,544 | 2,926 13,797 | 18,181 | |
計 | 23,334 | 3,194 | 97,049 | 53,560 | 62,831 | 239,968 | 115,600 |
写真1 甚水化した市街地(名古屋市南区)
(2)災害後の主な経過
表3 伊勢湾台風の動きと災害後の経過
【参考文献】
1)愛知県『伊勢湾台風災害復興計画書』昭和35年8月。
2)中央防災会議災害教訓の継承に関する専門調査会『1959伊勢湾台風報告書』平成20年3月。
3)内閣府「読み切りシリーズ:過去の災害に学ぶ第21回 まずはココから!1959年(昭和34年)伊勢湾台風」、広報『ぼうさい』No.48 p30-31』2008年11月号。
・政府は9月28日に中央災害救助対策協議会(会長=内閣総理大臣)を開催して、被害と応急対策の状況について報告を受け、今後の対策についての検討などを行った。また、翌29日の閣議了解で内閣に災害復旧対策協議会(会長=内閣官房長官)を設置し、現地には中部日本災害対策本部(本部長=国務大臣〔副総理〕)を30日、愛知県庁内に設置した。
・中部日本災害対策本部を設置し、救助復旧対策を一元化するとともに政府機関の業務の大半を現地で処理して、迅速かつ円滑な応急措置を講ずる体制をとった。ここには、本部長・本部長代理の両国務大臣の下に大半の省庁の次官が副本部長、それらの省庁の部局長クラスが本部員として派遣され、これに愛知・三重・岐阜の各県、名古屋市、名古屋港管理組合、日本国有鉄道、日本電信電話公社、中部電力の職員が加わった。
・災害対策本部内には「締切排水連絡小委員会」(10月5日)、「災害救助連絡小委員会」、「住宅対策連絡小委員会」(以上、10月7日)が設置され災害救助、災害復旧、被災地復興のための多岐にわたる対策・施策が併行して進められた。活動は12月9日まで行われた。
・愛知県は、昭和34年末「愛知県災害復興計画委員会」の設置を決定し、中央及び地元の各界の権威者及び関係行政機関の参加を得て、昭和35年1月11日第一回委員会が開催された。
・愛知県災害復興計画委員会は、委員30名、専門委員38名、幹事58名の構成により、第一回委員会において基本事項を決定の後、県土・水政交通・商工・農林農地・文教厚生・財政金融の六部会を構成し、各部会においてそれぞれの専門事項を審議することとした。
○復興計画案づくりの流れ
・部会10回、打合会・幹事会21回を開き、各部門計画案が作成された。この計画案は、3月28日の第二回委員会において承認された。
○応急対策
・災害発生直後から国会・政府その他関係各方面の支援・協力を得て、災害応急対策に全力を傾注した。
・応急対策中緊急の要務とされた仮締切工事及び排水作業は、関係機関・団体等の強力な応援を得て、感潮河川堤防は10月13日までに仮締切を終り、海岸堤防は11月21日までに鍋田干拓地を除き仮締切を完了した。
○被災者の生活再建
①住宅対策
・災害救助法によって建設される応急仮設住宅は、従来は滅失戸数の30%までであった建設戸数の比率を40%に引き上げ、1戸当たりの単価も5坪8万円を10万円として約1万4,000戸が建設され、そのうちの80%以上が愛知・三重・岐阜の3県で建設された。
②生活対策
・被災者に対する税等の減免、生活資金・生業資金の貸付け、手数料・料金等の減免及び猶予、預貯金払い出しの特例措置などの対策は様々な面において行われた。
・中部日本災害対策本部では、これらの対策や住宅・交通対策などについてまとめたパンフレット「罹災者のための応急措置の手引」を作成し、県及び市町村を通じて配布した。
・被災者の就労については職業安定所がその対策にあたり、堤防の復旧工事や大阪方面での就労のあっせんを行った。
・災害救助法に基づく生業資金については、貸付け時期を災害発生から1か月以内と規定しているが、湛水期間が長期化して救助期間も延びたために資金需要もある程度ずれて発生し、実際には11月以後に貸付けが行われた。
・また、災害関係世帯更生資金の貸付け(厚生省の特例措置)を行った。(翌年度を含めて1,111件(名古屋市)の利用、平均貸付金額:生業資金約5万4,000円・家屋補修費:約2万9,000円・生活費:約2万4,000円)
・商工業者に対しては、長期金融、短期金融、中小企業向け融資などで特例的取り扱いがなされた。災害復旧資金や運転資金などの融資以外にも、例えば名古屋銀行協会及び東海相互銀行協会は、①手形決済期日の延期、②手形の不渡り停止処分の猶予、③定期預金の期限前払戻し、④通帳等流失の場合の特例措置を行い、下請け工場は、親企業や取引関係先の商社から手形の引受け現金払い、製品代金の前渡し、原料・資材購入代金の支払いの延期等で資金繰りの援助を受けた。
○地方公共団体への支援
・被災地の地方公共団体は、救助活動や応急復旧工事のために多額の経費を必要としたため、政府としても緊急に財政支援措置を講ずることが求められた。
・普通交付税は通常4月・6月・9月・11月の4期に分けて交付されたが、9月中に発生した災害の被害額が大きかった12府県と16府県下の市町村に対して、11月交付予定の交付税のうち約46億円が10月2日に繰り上げて交付された。また、災害復旧事業の国庫負担金・補助金を引当とした短期融通(いわゆる「つなぎ融資」)も1960年1月末で約58億円が融通されたほか、災害応急資金として簡易保険資金約60億円が愛知・三重等6府県及び12府県下の市町村に短期融通された。
○高潮対策
・施設の機能面から考えると海岸堤防、干拓堤防、河口部の河川堤防、港湾・漁港施設等多岐にわたり、それらを所管する省庁も農林省、水産庁、運輸省、建設省に分かれていたため、各種施設の整合性を確保した整備が重要との認識から、「伊勢湾等高潮対策協議会」が設置された。この協議会は総理府、経済企画庁、科学技術庁、大蔵省、農林省(水産庁)、運輸省、建設省によって構成され、必要に応じて学識経験者の意見を聞くこととされた。
・第1回協議会(11月26日開催)から第3回協議会(翌年10月25日開催)を経て、名古屋港高潮防波堤計画策定の基本方針が決定された。全体事業は、対象となる海岸等延長約679kmで事業費約825億円と決定され、建設省関係の直轄事業は1962年、補助事業も翌1963年に完成し、名古屋港高潮防波堤も1964年に完成した。
【参考文献】
1)愛知県『伊勢湾台風災害復興計画書』昭和35年8月。
2)中央防災会議災害教訓の継承に関する専門調査会『1959 伊勢湾台風報告書』平成20年3月。
○内容
・危険区域を第1種から第5種にわけ、それぞれの段階に応じて建築物の敷地・構造に関する制限を規定した。
・高潮防波堤等防災設備が整備されたことにより、平成2年条例改正を行い、4種に再編した。
・第一種区域内における居住室を有する建築物等の禁止
・建築物の1階の床の高さを規定
・公共建築物の床の高さ、構造の規定等を規定している
・水道整備計画:配水池の増強・新設を行う。
・街路防災計画:南部の幹線街路の内、2本を嵩上げし、水害時の道路輸送の確保を図る。
・公共建築物の不燃高層化:区役所、消防署、土木出張所、水道業務所、下水道管理事務所、清掃事務所、保健所等の公共建物の不燃高層化とその集中化を図る。
(1)1本の主要幹線路線を中央高架構造
(2)別の1本をN.P.(+)2.0m
○新設する都市計画道路は、N.P(+)2.0mで整備を図る。