特集1 関東大震災と日本の災害対策
令和5年(2023年)は、大正12年(1923年)に発生した関東大震災から100年の節目の年に当たる。関東大震災は、近代日本の首都圏に未曾有の被害をもたらした、我が国の災害史において特筆すべき災害である。その発生日である9月1日は、閣議了解により「防災の日」と定められ、当日及びその前後の「防災週間」(8月30日から9月5日)の期間を中心に、政府の総合防災訓練を始めとする防災訓練や各種啓発行事等が毎年各地で行われる。このように関東大震災は、我が国の災害対策の出発点とも言える存在となっている。
一方で、100年前の大震災がもたらした当時の被害の様相や、その後の応急対策、復興の取組等が、広く現代の国民に知られているとは言い難い。この災害では、東京府(当時。以下同じ。)において火災による人的被害が大きかった一方で、震源の相模湾に近い神奈川県等を中心に、強震、津波、土砂崩れ、火災、液状化などによる被害が各地に及び、複雑な様相を呈した。また、災害救護に当たっては、現代で言うところのボランティアとも言うべき住民同士の助け合いや、海外を含む遠隔地からの支援が大きな役割を果たした。さらに、帝都復興計画に基づく復興事業の成果は、現代の東京や横浜の中心部を形作っている。様々な大規模災害のリスクに直面する現代の我々にとっても、当時の取組から学ぶことは多いと考えられる。
また、現在の我が国の災害対策の出発点となった関東大震災から100年の節目に、この間の災害対策の充実・強化の経緯や、我が国を取り巻く様々な環境の変化を俯瞰することは、今後の災害対策の大きな方向性を考える上で有意義であると考えられる。
このため、令和5年版防災白書では、「特集1」として、「関東大震災と日本の災害対策」をテーマに取り上げる。まず、第1章では、関東大震災の被害及びその後の対応を検証するとともに、関東大震災を出発点として、その後の大規模災害等を契機として充実・強化されてきた災害対策の経緯を振り返る。次に、第2章では、この100年間に生じた我が国を取り巻く様々な環境の変化を分析し、今後の災害対策を推進する上での課題を整理する。その上で、第3章では、関東大震災から得られる教訓及びその後の環境変化を踏まえた今後の災害対策の方向性を示すことにする。
併せて、「特集2」として、令和4年度に発生した主な災害について、その被害状況やそれらに対する政府による対応等を振り返る。