2-9 気候変動リスクを踏まえた防災・減災対策
(1)緩和策と適応策は気候変動対策の車の両輪
近年の平均気温の上昇や大雨の頻度の増加など、気候変動及びその影響が世界各地で現れており、気候変動問題は人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」とも言われている。個々の気象現象と地球温暖化との関係を明確にすることは容易ではないが、今後、地球温暖化の進行に伴い、このような猛暑や大雨のリスクはさらに高まることが予測されている。
我が国では、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けることとしている。しかしながら、2050年カーボンニュートラル実現に向けて気候変動対策を着実に推進し、気温上昇を1.5℃程度に抑えられたとしても、極端な高温現象や大雨等の発生リスクは増加すると予測されていることから、現在生じている、又は将来予測される被害を回避・軽減するため、適応の取組が必要となる(図表2-9-1)。
(2)気候変動適応計画の推進
気候変動適応の法的位置づけを明確化し、一層強力に推進していくため、平成30年6月13日に「気候変動適応法」(平成30年法律第50号)(以下「適応法」という。)が公布され、同年12月1日に施行された。適応法施行前の同年11月には適応法の規定に基づき、「気候変動適応計画」(以下「適応計画」という。)が策定された。
令和2年12月には、気候変動及び多様な分野における気候変動影響の観測、監視、予測及び評価に関する最新の科学的知見を踏まえ、「気候変動影響評価報告書」を公表し、令和3年10月には、同報告書を踏まえ、適応計画の改定を行った。
また、関係府省庁により構成される「気候変動適応推進会議」において、適応計画に基づく施策の短期的な進捗管理方法について確認した。その方法に基づき、分野別・基盤別施策に関する取組状況やKPI(政府の適応に関する取組の短期的な進展を確認することを目的とし、目標や効果につながる施策の達成度合いを、可能な限り定量的に測定するための重点的な指標)の実績値を把握し、適応計画のフォローアップ報告書として令和4年11月に公表した。
(参照:http://www.env.go.jp/earth/tekiou.html)
(3)「気候変動×防災」「適応復興」の取組
環境省及び内閣府は、令和2年6月に気候変動対策と防災・減災対策を効果的に連携して取り組む戦略である「気候危機時代の『気候変動×防災』戦略」を公表した(図表2-9-2)。
環境省では、各分野の政策において気候変動対策と防災・減災対策を包括的に講じていく「気候変動×防災」を組み込み、政策の主流にしていくため、令和3年10月に改定した適応計画でも考え方等を盛り込むとともに、原形復旧にとらわれず土地利用のコントロールを含めた気候変動への適応を進める「適応復興」の取組を促進するための地方公共団体向けマニュアルについて令和5年度末の公表に向け検討を進めるなど、気候変動対策と防災・減災対策を効果的に連携させた取組を促進している。
(4)災害時の避難生活や片付け作業における熱中症対策
夏季に自然災害が発生した場合、被災直後のインフラ障害や物資の不足等により、避難生活や片付け作業において熱中症のリスクが高まることが考えられる。このため、環境省・内閣府・消防庁・厚生労働省・気象庁が連携し、災害時の避難生活や片付け作業における熱中症対策に関するリーフレットを令和3年3月に作成した(令和4年6月改訂)。令和4年度においても、夏季を迎えるに当たって、6月に地方公共団体への周知等を行った(図表2-9-3)。
災害障害見舞金
自然災害による人的な被害は死亡と負傷に大別されるが、負傷した方の中には、その負傷が治ったとき(症状が固定した場合を含む。)に相当程度の障害が残る場合もある。
阪神・淡路大震災においては、復興フォローアップ委員会(兵庫県が設置)から出された「震災障害者、震災遺児の実態把握や将来の災害に備えとなる教訓の抽出を図るべき」との提言(平成22年3月)を踏まえ、兵庫県、神戸市が合同調査を行い、障害等級の分布や身体障害者手帳の取得時期、現在の健康状態と生活、被災時の状況などの項目について、アンケートや面接による調査を実施しており、取りまとめた調査結果を公表している。
(参考)兵庫県ホームページ 震災障害者・震災遺児実態調査報告書
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk41/wd34_000000177.html
また、阪神・淡路大震災で被災した高齢者などの支援を行ってきた「よろず相談室」(代表:牧秀一氏)は、平成19年から阪神・淡路大震災で障害を負った方の支援を開始し、東日本大震災以降は、高齢者や障害者の支援を広げるため、関係機関への働きかけを行っている。(同相談室ホームページから要点抜粋)
一般に、障害を負った方については、障害者福祉行政において、障害の原因にかかわらず、障害者手帳の交付や障害福祉サービスの提供等の必要な支援が行われている。
また、これとは別に、災害で負った障害が特に重度である方に対して、市町村は、「災害弔慰金の支給等に関する法律」(昭和48年法律第82号)に基づき、その条例の定めるところにより災害障害見舞金を支給することができることとされている。これは、災害により重度の障害を受け、社会経済活動に復帰することが難しい方については、死亡に匹敵するような厳しい環境におかれているということに鑑み、例外的に公費で見舞金を支給するとしたものであり、支給対象となる障害は、両眼失明、両上肢の喪失、常時介護など特に重度の障害である。災害障害見舞金の支給は、市町村の固有事務(自治事務)とされているが、その費用は、国が2分の1を、都道府県及び市町村がそれぞれ4分の1を負担することとなっている。
内閣府においては、令和4年12月に、災害障害見舞金の支給件数をホームページに公表している。
(参考:https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/pdf/shikyukensu.pdf)