2-2 地方公共団体の首長、職員に対する研修内容の充実
迅速かつ的確な災害対応は、地方公共団体の首長や防災担当職員の知識と経験によるところが大きい。このため、内閣府においては「危機事態に迅速・的確に対応できる人」や「国・地方のネットワークを形成できる人」を目指すべき人物像とした人材育成を図るために、平成25年度より地方公共団体の職員等を対象とする「防災スペシャリスト養成研修」を企画・運営している。
令和4年度は、法令制度等の防災基礎から指揮統制等の防災マネジメントに至る防災業務全般の知識・技術を習得する「有明の丘研修」を、9~10月期と1~3月期に実施した。また、地域の実情やニーズに合わせたカリキュラムを都道府県が検討して開催する「地域研修」を全国7ヶ所で実施した。さらに、有明の丘研修の修了者を対象とした「フォローアップ研修」を3月に実施し、更なるスキルアップと人的ネットワークの強化を図った。
加えて、災害対応の現場で防災業務を行う応援職員等が、短時間に担当業務の基礎的な知識を習得するための災害対応eラーニングについて、新たに「要配慮者への支援」、「災害廃棄物処理」、「防疫・遺体処理」の3テーマを作成するとともに、引き続き、「避難所開設・運営」、「住家被害認定調査/罹災証明発行」、「避難情報の判断・伝達」の3テーマの運用を図った。
なお、これら研修の企画・運営に当たっては、防災関連の有識者からなる「防災スペシャリスト養成」企画検討会を設置し、社会情勢・ニーズ等を踏まえた助言を勘案しながら研修内容等の見直しと拡充を図った。
大規模な災害発生時においては、地方公共団体の首長や危機管理・防災責任者等が国や他の地方公共団体等と密接に連携しながら迅速かつ的確な災害対応を図る必要がある。このため、全国の市区長・町村長を対象とした「全国防災・危機管理トップセミナー」を内閣府及び消防庁の共催で実施し、災害発生時に十分なリーダーシップを発揮し、災害危機管理における対応力の向上に資する支援を行うとともに、都道府県の部局長・危機管理監等を対象とした「防災・危機管理特別研修」や市町村の危機管理・防災責任者を対象とした「自治体危機管理・防災責任者研修」を内閣官房、内閣府及び消防庁の共催により実施し、初動対応や災害対応の各フェーズで必要となる知識・技術を深め、平時から「顔の見える関係」の構築を図った。
災害廃棄物処理支援員制度(人材バンク)の本格運用
大規模災害が発生した際には、平時の数年分に及ぶ膨大な量の災害廃棄物が一度に発生し、被災した地方公共団体において廃棄物関連業務に従事する職員に大きな負担が生じることがある。環境省では、被災地方公共団体の災害廃棄物処理の方針決定や事務手続への支援のため、災害廃棄物処理を経験し、知見を有する地方公共団体職員から構成される災害廃棄物処理支援員制度(人材バンク)の運用を令和3年8月に開始した。
本格運用が開始された令和4年度においては、令和4年8月の大雨による災害では、5市町から延べ20人日の災害廃棄物処理支援員が被災地方公共団体(5市町村)に派遣され、仮置場の運用についての助言や、災害等廃棄物処理事業費補助金の申請に必要な災害報告書の作成支援などを行った。また、令和4年台風第15号による災害では、1市から延べ8人日の災害廃棄物処理支援員が被災地方公共団体(1町)に派遣され、損壊家屋の撤去事業や災害廃棄物の処分に関する助言などの支援を行った。実際に支援を受けた被災地方公共団体からは、同じ地方公共団体職員という目線で親身になって対応していただいて大変感謝している、という言葉を頂いた。また、現地入りした支援員からも、今後も関係を継続し様々な場面で支援していきたい、という声を頂いている。
災害廃棄物処理支援員の制度はまだ運用が開始されたばかりであり、今後も制度を改善・拡充させていく必要がある。環境省として、対応可能分野や経験に応じた新規支援員の登録や、支援員の能力向上を図る研修の機会などを設け、今後も被災地方公共団体に寄り添った制度となるよう改善に取り組んでいく。
環境省ホームページ 災害廃棄物処理支援員制度
(参考:http://kouikishori.env.go.jp/action/jinzai_bank/index.html)
大規模災害時に備えた「誰一人取り残さない」栄養・食生活支援に向けた部局連携による取組
新潟県五泉市では、防災担当課と、健康福祉課、こども課及び学校教育課の管理栄養士の職員が連携して大規模災害時の栄養・食生活支援のあり方について検討し、備蓄食品の効率的な管理・活用の取組を進めている。
取組当初は、備蓄食品の栄養バランスの改善と、乳児や食物アレルギーがある住民など要配慮者への対応が課題であった。この課題解決に向け、防災担当課が作成した備蓄食品リストから、管理栄養士の職員が既存の備蓄食品の内容や原材料等を確認し、備蓄食品の現状把握に取り組んでいた。
こうした中、令和2年4月に、厚生労働省から「大規模災害時に備えた栄養に配慮した食料備蓄量の算出のための簡易シミュレーター」が公開された。同シミュレーターは、大規模災害時に、健康・栄養面や要配慮者も考慮した栄養・食生活支援を行うための食料備蓄の推進を目的に作成され、各自治体の基本情報を基に必要な食品の備蓄量を概算できるものである。これにより、五泉市は、大規模災害時における市民の栄養必要量を推計し、栄養価の過不足などをデータ化することができた。大規模災害発生時に栄養価の過不足が生じやすいことは、国内におけるこれまでの被災経験からも明らかになっている。五泉市は、地域の誰一人取り残さない栄養・食生活支援に備え、現在も同シミュレーターを活用しながら、栄養価を改善するための備蓄食品の検討を防災担当課と管理栄養士の職員が連携して行っている。
また、五泉市では、賞味期限が切れる前の備蓄食品を防災教育の指導教材として活用している。小学校の社会科や中学校の家庭科、地域における健康教室や高齢者の通いの場、さらに、子育て支援センターや保育所等での親子クッキングにおいて、備蓄食品の試食や活用方法などを紹介している。備蓄食品の入れ替えに当たっては、防災教育の場における地域住民の方々の声を防災担当課と共有し、備蓄食品の改善につなげている。
五泉市では、データに基づいた備蓄食品の管理と、防災教育等への備蓄食品の活用は、限られた予算の中で最大限の健康危機管理を行うための礎であると考えている。今後も防災担当課と管理栄養士の職員との緊密な連携の下、大規模災害時に備えた栄養・食生活支援に向けた取組を引き続き推進していくこととしている。