第2節 災害時における安否不明者の氏名等の公表
災害発生時には救助活動の効率化・円滑化に資するため、地方公共団体において安否不明者の氏名等の公表(以下「氏名等公表」という。)を行い、安否情報を広く求めることにより、救助対象者の絞り込みを図る場合がある。氏名等は個人情報であることから、各地方公共団体はそれぞれの個人情報保護条例を踏まえつつ、災害の状況や被災者の事情等に応じて氏名等公表の可否を判断している。
令和3年7月3日に静岡県熱海市伊豆山地区において大規模な土石流が発生した。当初、被害状況の正確な把握が困難であったことから、熱海市は地図や現地確認により被災棟数130棟を特定するとともに、住民基本台帳との突合により被災エリアの住民128世帯217人を特定し、安否確認に着手した。その結果をもとに、5日夜に静岡県災害対策本部が安否不明者64人の氏名等を公表し、広く安否不明者に関する情報を募ったところ、安否不明者本人やその知人からの連絡があり、翌6日朝には安否不明者は25人となった。その後も逐次、特定した安否不明者の住所地を地図上にプロットし、救助・捜索の活動エリアを重点化した。
この事例を踏まえて、令和3年9月16日に内閣府は消防庁と連名で、通知「災害時における安否不明者の氏名等の公表について」を各都道府県防災主管部長に対して発出し、地方公共団体が氏名等公表を行うに当たっての留意事項を周知した。その主な内容は、以下のとおりである。
- 災害が発生した際、人命の救助活動の効率化・円滑化に氏名等公表が資する場合があることや、発災当初の72時間が極めて重要な時間帯であることを踏まえ、氏名等公表に係る一連の手続き等について、市町村や関係機関等と連携の上、平時から検討しておくこと。
- 都道府県が氏名等公表を行うことが基本となるが、市町村が行うことが安否情報の収集等に資すると考えられる場合においては、事前調整に基づき、市町村が行うことも考えられること。
- 氏名等公表を行うことにより、救助活動を効率化することが重要な場合においては、人の生命又は身体の保護のため緊急の必要がある時の個人情報の提供と考えられることから、個人情報保護条例に定める個人情報の利用及び提供制限の例外規定の適用を検討すべきこと。
- 配偶者からの暴力やストーカー行為の被害者等の所在情報を秘匿する必要がある者が不利益を被らないよう、公表に当たってはあらかじめ関係市町村に確認すること。
令和3年12月1日時点では、都道府県のうち30団体が氏名等公表に係る方針等を定めている。
なお、災害対応や平時の準備において地方公共団体が個人情報を取り扱う際の活用範囲や留意点等をまとめた防災分野における個人情報の取扱いに関する指針を令和4年度中に策定するため、令和4年3月から専門家による検討会を実施しており(特集第3章第4節4-1(2)②参照)、同検討会において氏名等公表についても議論している。