平成8年版防災白書

?阪神・淡路大震災等を踏まえた新たな災害対策の推進?


平成8年6月
国土庁防災局

<災害の状況と対策の概要>

1.阪神・淡路大震災の概要と復旧・復興状況(第1章)

(1) 震災の概要
阪神・淡路大震災は、我が国における社会経済的な諸機能が高度に集積する都市を直撃した初めての直下型地震(規模 マグニチュード7.2 )である。
この大震災により、人的被害は死者 6,308名、負傷者43、177名という戦後最悪の状況となった。
また、住宅被害は、全壊が約10万棟、半壊が約10万 9千棟にのぼり、道路、鉄道、港湾、上下水道等の施設も大きな被害を受けた。
(2) 復旧・復興への取組み
政府は、地方公共団体との連絡を密にしながら、被災者の救出をはじめとする応急対策、各施設の復旧対策を実施するとともに、被災地の復興に向けての取組みを推進している。
  1. 復興推進体制の整備
    震災の約1ヵ月後に「阪神・淡路復興対策本部」及び「阪神・淡路復興委員会」を設置した。阪神・淡路復興委員会は、復興に向けて緊急に検討すべき課題等について提言をおこなった。阪神・淡路復興対策本部は、委員会の意見を踏まえ、平成7年7月28日には「阪神・淡路地域の復興に向けての取組方針」を決定するなど、復興のための施策に関する総合調整を行っている。
  2. 予算面の措置
    平成6年度第2次補正予算、平成7年度第1次、第2次補正予算等を合わせて、事業規模約8兆円、国費で約3兆4千億円に及ぶ阪神・淡路大震災関係経費を計上した。
(3) 復旧・復興の状況
  1. 住宅
    兵庫県は、平成7年8月の時点で必要戸数48,300戸の応急仮設住宅の建設を完了した。
    恒久住宅については、平成7?9年度の3ヵ年に、12万5,000 戸の建設を予定している。
    このうち77,000戸を公的供給住宅として供給する計画である。
  2. 経済・産業
    地域の経済は全体としては回復しつつあるが、やや頭打ちの様相を呈している。
  • 企業の生産水準は全体としては回復
  • 神戸港については、概ね順調に回復しており、平成8年度末までには、全て復旧できる見通し
  • サービス業の復興は遅れ気味
  • 公共事業の伸びは高い
(4) 今後の取組み
阪神・淡路地域の本格的な復興に向けて、新たに政府と地元地方公共団体との定期的な連絡・協議の場を設け、住宅対策等の重要課題について検討を進めているところである。

2.我が国の新たな災害対策の推進(第2章)

政府は、阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、各般にわたる新たな災害対策を総合的に推進しているところである。
(1) 災害対策基本法の改正
平成7年に二度にわたる改正を行った。それぞれの主要な改正点は以下のとおりである。
○ 平成7年6月改正
  • 災害時における緊急通行車両の通行の確保のための規定を追加
○ 平成7年12月改正
  • 緊急災害対策本部について設置要件の緩和及び組織の強化
  • 緊急災害対策本部長の権限の強化
  • 現地対策本部の設置
  • 災害派遣を命ぜられた部隊等の自衛官への所要の権限の付与
  • 市町村長による都道府県知事に対する自衛隊の災害派遣要請の要求等
  • 新たな防災上の課題への対応
  • 地方公共団体相互の応援
(2) 防災基本計画の改訂
新しい防災基本計画は、具体的かつ実践的な内容であり、旧計画の15倍の分量となっている。その特徴は以下のとおりである。
  1. 災害種類別に体系構成
  2. 対応の時間的順序を考慮して各編を編成
  3. できるだけ具体的に対策を記述
  4. 国、地方公共団体のみならず国民の防災活動も明記
  5. 防災をめぐる社会構造の変化を踏まえた対応
海上災害対策等の事故災害対策についても追加することとし、現在、検討を行っているところである。
(3) 災害発生時の情報収集体制と情報連絡体制の強化
政府では災害発生時の情報収集・連絡体制の整備を次のように進めてきた。
  • 大規模災害発生時の第1次情報収集体制の強化と内閣総理大臣等への情報連絡体制の整備に関する当面の措置について閣議決定(平成7年2月)
  • 防災基本計画の改訂により被害規模の早期把握のための活動や被害の第1次情報等の収集・連絡等の対応を明確化
  • 災害対策基本法を改正し、被害の規模の把握に意を用いて情報収集を行うことや市町村からの情報伝達体制の強化について規定
また、各防災関係機関にいては、各種情報収集・伝達システムの整備・充実を推進している。
(4) 地震防災情報システム(DIS)の整備
国土庁では、地形、地盤状況、人口、建築物、防災施設等の情報をコンピューター上のデジタル地図と関連づけて管理する地理情報システム(GIS)として「地震防災情報システム(DIS)」の整備を推進してきた。
DISは、地盤、地形、道路、行政機関、防災施設などに関する情報を必要に応じあらかじめデータベースとして登録し、この防災情報データベースを基礎として、震災対策に求められる各種の分析や発災後の被害情報の管理を行おうとするものである。
DISのうち、地震発生直後の被害のおおまかな規模を把握するための「地震被害早期評価システム」については、平成7年度第1次補正予算において同システムの整備を含め10億 3,977万円が認められ、平成8年4月から稼働したところである。
(5) 災害時の初動対応
平成7年2月、閣議決定により関係省庁の幹部による緊急参集チームが情報集約を行う等の体制が整備された。また、平成7年7月の防災基本計画の改訂により、関係機関の活動体制の確立や広域的な応援体制、非常災害対策本部等の設置等の対応が明確にされた。
平成8年2月には、首都直下型大規模地震発生時における内閣の初動対応について閣僚懇談会で申合せを行った。
(6) 大規模かつ実践的防災訓練
政府は、9月1日の「防災の日」を中心に、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、大規模かつ実践的な防災訓練を実施した。
平成7年度の総合防災訓練は、震災後整備された、政府の災害発生時の即応体制および改訂後の防災基本計画等を考慮し、総理官邸を中心とした政府本部運営訓練等の充実を図り実施した。
また、全国のそれぞれの地域においては、総合防災訓練を参考とし、被害想定に基づく訓練、非常参集訓練、広域応援訓練等地域の実情に即した特色のある訓練を実施した。
(7) 防災科学技術の研究の推進及び災害観測体制の強化
地震防災対策特別措置法に基づき、地震調査研究推進本部を設置し、関係機関の密接な連携の下に推進することになった。
(8) 地域等における防災体制整備の進展
地方公共団体においては、地域防災計画の改訂、広域応援協定の締結等を推進している。
また、警察の広域緊急援助隊、消防の緊急消防援助隊が創設された。

3.震災に強い都市構造の形成と施設の整備(第3章)

震災に強い都市構造を形成するため都市の骨格的な基盤整備や市街地の面的な整備を推進している。各種ライフラインの特性を勘案した整備を推進することが必要である。
防災関連施設の整備については、立川広域防災基地(国土庁)の整備を進めているほか、「地震防災特別措置法」に基づく地方公共団体による防災施設の整備等を推進している。
地震発生時の建築物の倒壊や交通手段の寸断を防ぐため、必要に応じて既存施設の耐震改修を実施している。さらに、既設建築物の耐震改修のための法制度を創設した。
また、各種施設における耐震基準等の見直しを実施しているところである。

4.国民の防災意識と災害時のボランティア活動(第4章)

(1) 国民の防災意識の変化
総理府の世論調査によれば阪神・淡路大震災により、国民の防災に関する意識は大きく変化している。
例えば、今後10年間に大地震が起きると思う人の割合がH3の22.9%からH7には38.1%へと大幅に増加した。
大地震への備えをしている割合もH3の60.2%からH7には73.7%へと増加した。
防災センター等での擬似的災害体験や、防災訓練への参加の推進が必要と考えられる。
(2) 災害時におけるボランティア活動
阪神・淡路大震災においては、地震発生後13カ月の間に活動した一般ボランティアはおよそ 140万人と推計される。
地方公共団体へのアンケートによれば、阪神・淡路大震災におけるボランティア活動を地方公共団体の9割以上が「役に立った」と肯定的に評価している。
政府、地方公共団体等関係諸機関を始め、広く国民が、災害時におけるボランティア活動及び自主的な防災活動について認識を深めるとともに、災害への備えの充実強化を図ることを目的として、毎年1月17日を「防災とボランティアの日」、1月15日?21日を「防災とボランティア週間」とすることが閣議了解された。
これらの状況を踏まえ、国及び地方公共団体等において、災害時におけるボランティアの活動環境の整備を促進している。

5.その他の主要災害の状況(第5章・第6章)

(1) 平成7年度に発生した主要な災害の状況
  1. 平成7年4月1日12時49分、新潟県北部を震源とするマグニチュード5.5の地震が発生した。この地震により、重傷者6名、軽傷者76名、住家の全・半壊及び一部破損1,612 棟の被害が発生した。
  2. 平成7年6月から7月にかけての梅雨前線による豪雨のため、死者・行方不明者5名、床上浸水 2,195棟、床下浸水16,013棟の被害が発生した。政府は、激甚災害の指定を行ない、所要の措置を講じた。
(2) 近年発生した災害の復興状況
  1. 雲仙岳噴火災害
    「平成3年雲仙岳噴火非常災害対策本部」の決定等に基づき、各般の被災者等救済対策を実施している。
    北海道南西沖地震災害
    「平成5年北海道南西沖地震非常災害対策本部」を設置し、応急対策を推進するとともに、復旧・復興対策を進めてきたところである。
    これらが順調に進捗していることから、平成8年3月31日非常災害対策本部を廃止した。

6.防災分野における国際協力(第7章)

我が国は、1990年に始まった国連の「国際防災の10年(IDNDR)」の提案国として、防災に関する各般の国際協力を推進している。
その一環として、平成7年12月、アジア地域28か国の防災担当閣僚等による「アジア防災政策会議」を神戸で開催した。会議では、参加各国から自国の防災対策や国際防災協力の現状・課題等について報告が行われ、意見交換を行うとともに、アジア地域における防災協力の推進のための参加国の共通の認識・見解を取りまとめた「神戸防災宣言」を採択した。
我が国は主催国として、「アジア地域における防災センター機能を有するシステムの創設」を提案し、同提案は「神戸防災宣言」に盛り込まれたところである。平成8年度には、「神戸防災宣言」の諸課題について関係国とともに具体的な検討を進めるため、専門家レベルの会合を開催する予定である。

問合せ先:国土庁防災局防災調整課 課長補佐:金子、係長:森
(電話)03-3501-6996 (FAX)03-3501-5199


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