令和元年版 防災白書|第1部 第1章 第1節 1-7 事業継続体制の構築


1-7 事業継続体制の構築

(1)中央省庁の業務継続体制の構築

国の行政機関である中央省庁においては、平成26年3月に「政府業務継続計画(首都直下地震対策)」が閣議決定されたことを受け、本計画に基づき、省庁業務継続計画について適宜見直しを行っている。内閣府においては、本計画に基づき、省庁業務継続計画について有識者等による評価を毎年度行っている。さらに、平成30年12月に「立川広域防災基地周辺における中央省庁の災害対策本部設置準備訓練」を行った。このような取組を通じて、首都直下地震発生時においても政府として業務を円滑に継続することができるよう、業務継続体制を構築していくこととしている。

(2)地方公共団体の業務継続体制の構築

地方公共団体は、災害発生時においても行政機能を確保し業務を継続しなければならない。このため、地方公共団体において業務継続計画を策定し、業務継続体制を構築しておくことは極めて重要である。地方公共団体における同計画の策定状況は、都道府県で平成28年度に100%に達し、市町村(特別区を含む。)では平成30年6月時点で前年比17%増となる81%となっている(図表1-7-1)。

図表1-7-1 地方公共団体における業務継続計画の策定率
図表1-7-1 地方公共団体における業務継続計画の策定率

内閣府では、市町村(特別区を含む。)に対して業務継続計画の策定を支援するため、小規模な市町村であっても同計画を容易に策定できるよう、「市町村のための業務継続計画作成ガイド」を平成27年度に策定したほか、過去の災害事例等を踏まえて、「地震発災時における地方公共団体の業務継続の手引きとその解説」を平成28年2月「大規模災害発生時における地方公共団体の業務継続の手引き」として改訂し、地方公共団体に通知している。

また、大規模災害が発生した場合、被災した市町村が膨大な災害対応業務に単独で対応することは困難な状況となる。業務継続体制を構築する上で、地方公共団体においては、業務継続計画とともに、国、地方公共団体、民間企業、ボランティア団体等からの支援を円滑かつ効果的に受け入れるための受援体制を整備する必要があることから、内閣府では、平成28年度に「地方公共団体のための災害時受援体制に関するガイドライン」を策定した。

さらに、地方公共団体における業務継続体制の構築を支援するため、内閣府・消防庁共催で、市町村の担当職員を対象とした研修会を平成27年度から毎年開催している。

内閣府は、これらの取組を通じて、業務継続計画の策定のほか、策定した業務継続計画における「重要6要素」の充実や受援体制の整備など、引き続き、総務省・消防庁とも連携し、地方公共団体における業務継続体制の構築を支援していく。

注)「重要6要素」とは、<1>首長不在時の明確な代行順位及び職員の参集体制、<2>本庁舎が使用できなくなった場合の代替庁舎の特定、<3>(職員が業務を遂行するための)電気・水・食料等の確保、<4>災害時にもつながりやすい多様な通信手段の確保、<5>重要な行政データのバックアップ、<6>非常時優先業務の整理(参照:内閣府「大規模災害発生時における地方公共団体の業務継続の手引き」https://www.bousai.go.jp/taisaku/chihogyoumukeizoku/index.html
(3)民間企業の事業継続体制の構築状況

平成23年に東日本大震災が発生し、平常時の経営戦略に組み込まれる事業継続マネジメント(Business Continuity Management、以下「BCM」という。)の重要性が明らかとなった。このため、内閣府は、平成25年にBCMの考え方を盛り込んだ改訂版としての「事業継続ガイドライン第三版-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」を公表し、本ガイドラインに沿った事業継続体制の構築を推奨している。

また、具体的な政府目標として、「国土強靱化アクションプラン2018」において平成32年までに事業継続計画(Business Continuity Plan、以下「BCP」という。)を策定している大企業の割合をほぼ100%(全国)、中堅企業の割合は50%(全国)を目指すこととしている。このため、内閣府では、BCPの策定割合を始めとした民間企業の取組に関する実態調査を隔年度で継続調査している。平成30年3月に実施した「平成29年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の調査結果は、BCPを策定した企業は大企業64.0%(前回調査は60.4%)、中堅企業31.8%(前回調査は29.9%)とともに増加しており、策定中を含めると大企業は約8割、中堅企業は5割弱が取り組んでいる(図表1-7-2)。

図表1-7-2 大企業と中堅企業のBCP策定状況(回収数:計1,985社)
図表1-7-2 大企業と中堅企業のBCP策定状況(回収数:計1,985社)

また、内閣府は、平成30年度に発生した主な自然災害により大きな被害を受けた被災地に所在する企業等を対象として、BCP策定の状況や事前及び事後対策の実施・検討状況等を調査するため「平成30年度に発生した自然災害に対する企業等の取組に関する実態調査」を平成31年3月に実施した(図表1-7-3)。

図表1-7-3 企業調査(平成30年度)のアンケートの回収状況(回収数:計1,613社)
図表1-7-3 企業調査(平成30年度)のアンケートの回収状況(回収数:計1,613社)

調査の結果、「平成29年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」と同様、従業員規模が大きい企業の方が、BCP策定率が高い傾向がみられた。直接受けた被害としては、被災地である北海道と西日本地域(愛媛県、岡山県、広島県)の双方とも、「従業員が出勤できなくなる」が最も多い回答であった。このため、策定されたBCPにおいても、従業員が出勤できないというケースを想定して策定されているか、再度見直すことが重要であると考えられる(図表1-7-4)。

図表1-7-4 平成30年度に発生した自然災害で直接受けた被害(複数回答可)
図表1-7-4 平成30年度に発生した自然災害で直接受けた被害(複数回答可)

また、間接的に受けた被害で最も多い回答は、「災害により物流が停止し、入荷や出荷ができなかった」であり、仕入先・販売先等の被災により影響を受けたという回答も多かった(図表1-7-5)。このため、自社の事業に直接被害がない場合の対応(間接的影響による被害の回避策等)についても、BCPに記載する等、あらかじめ念頭に置いておく必要があると考えられる。

図表1-7-5 平成30年度に発生した自然災害で間接的に受けた被害(複数回答可)
図表1-7-5 平成30年度に発生した自然災害で間接的に受けた被害(複数回答可)

このように、自社の事業のみを考慮したBCPでは、災害発生時での直接・間接被害に十分対応できないと考えられることから、BCPを策定している企業に、企業間連携(BCPの一部又は全部を企業間で共有している又は異なる企業同士が共同して行う対応について規定している等)について質問したところ、回答があった企業のうち309社が、企業グループや取引先等の複数社で連携したBCPを策定していることがわかった。このうち、グループ企業内でBCPを策定している企業数は290社であった。なお、連携している企業数は「2、3社での連携」が最も多く、中には数百社以上で連携していると回答した企業も複数社あった。

内閣府においては、今回の調査結果を参考にしながら、企業のBCP策定及びBCM推進に向け、今後ともBCP策定率向上のための普及啓発に取り組んでいく。


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