1-4 津波防災に係る取組
津波に対しては、迅速かつ適切な行動をとることで人命に対する被害を相当程度軽減することができる。11月5日の「津波防災の日」「世界津波の日」には、内閣府や関係省庁、地方公共団体、民間企業等において、同日に関連した防災意識向上に資する取組を各地で行った。
(1)津波避難訓練
平成30年度は、「津波防災の日(11月5日)」の前後の期間において、全国各地で、国(12府省庁)、地方公共団体(180団体)、民間企業等(74団体)の主催する地震・津波防災訓練が実施され、約90万人が参加した。
そのうち、内閣府では、地方公共団体と連携し、住民参加型の訓練を全国10ヶ所(北海道稚内市、福井県高浜町、静岡県伊豆市、和歌山県湯浅町、山口県柳井市、愛媛県松前町、高知県四万十市、熊本県上天草市、宮崎県延岡市及び沖縄県那覇市)で開催した。これらの訓練には、計約1万3千人の市民が参加し、地震発生時に我が身を守る訓練(シェイクアウト訓練)及び揺れが収まった後に最寄りの避難場所等へ避難する訓練(避難訓練)を行った。また、地域ごとの防災計画等に応じて、避難所開設、災害対策本部設置、炊き出し、応急救護といった各種訓練等が併せて実施された。
(2)内閣府等の普及啓発活動
<1>津波防災の普及啓発の実施
津波に対する適切な避難行動の認識が広がるよう、平成30年度は、全国の企業、地方公共団体等における啓発ポスターの掲示、大手コンビニエンスストア・スーパーのお客様向けレジ・ディスプレイにおける表示など、様々な媒体を活用して普及啓発を行った。
<2>平成30年度「津波防災の日」啓発イベントの実施
毎年11月5日「津波防災の日」には、内閣府、防災推進国民会議及び防災推進協議会の主催により、津波防災の普及啓発イベントを開催している。平成30年度は、神奈川県川崎市の川崎商工会議所KCCIホールで、「津波防災の日スペシャルイベント『最新科学×津波×地域防災』」として開催し、企業、行政機関、自主防災組織などが参加した。
本イベントでは、「地域で津波に備える」をテーマに、津波の最新科学や全国の地区防災計画の取組を紹介する特別セミナーと、学校や地域で活用できる「津波防災教育ツールミニ体験会」を開催した。開会にあたり、舞立内閣府大臣政務官と福田川崎市長が挨拶を行い、舞立内閣府大臣政務官は、「日本の総合的な防災力の向上には自助・共助を支える地区防災計画の取組が大いに有効であり、最新の科学技術を地区防災計画と掛け合わせることで津波に備える効果的な対策を探求していきたい」と述べた。
特別セミナーでは、平成30年9月28日にインドネシアのスラウェシ島で発生した地震・津波の被害を現地調査した東北大学災害科学国際研究所所長の今村文彦氏から、被害の大きかった島中部の都市パルには、地震からわずか6分で津波が到達していること、土砂崩れ、地盤沈下、液状化も発生していることなどが発表され、日本は地域開発を含めた復興支援を進める必要があると報告された。
また、地区防災計画策定に取り組む各地区から、平成30年度の具体的な活動の中間報告が行われた。和歌山県田辺市文里(もり)地区からは、避難行動要支援者への啓発のあり方を含めた避難ルールの見直し、愛媛県松山市中島地区からは、避難シミュレータを通じた津波避難場所・経路の検討などの事例が紹介された。パネルディスカッションでは「津波防災に関して地域社会で意見が対立する場合があるため、地域を構成する様々な立場の人が本音で話せる場を設けること、連携を深めることが大事」など、それぞれの経験を踏まえた意見の交換がなされた。最後に、「今回のイベントを通じて得られた『気づき』を、各地域や企業の中で行動へ移していくことが重要」と締めくくられた。
イベント開催後の参加者へのアンケート(有効回答数203)によると、「イベントを通じて学びたかったこと」(複数回答)として最も多かった回答は「地区防災計画」(117)であり、続いて「自治体の津波対策」(100)であった。「イベントを踏まえて今後実践したいこと」(複数回答)では、「地区防災計画について学習」(105)、「地元で行われている地区防災計画の取組に参加」(61)が上位となっており、参加者の地区防災計画への関心の高さが伺える結果となった。
「インドネシアで発生した大津波」
平成30年に海外で最大の被害をもたらした自然災害は、インドネシア共和国で発生した「津波」によるものであった。9月28日にインドネシア・スラウェシ島で発生した地震(M7.5)により、死者は2,000名以上(平成30年10月現在)にもなり、被害が特に大きかった島中部パル湾内では、沿岸の9地点が地震による液状化で崩落し、この9地点において津波が発生した。この地すべりは「液状化重力流」と呼ばれる現象で、到達時間が極めて速い津波を引き起こす。
独立行政法人国際協力機構(JICA)は、専門家チームによる現地調査の結果、津波は河口付近など地盤の緩い沿岸部で起きた「液状化」に由来していたと結論付けた。地震により海底で地すべりが発生し、海面が一時的に下がった反動で津波が発生したと推察している。内陸部でも液状化が発生し、泥流でも多数の死者を発生させた。
また、同年12月22日にはインドネシア西部のスンダ海峡で津波が発生し、死者は400名を超えている。東京大学地震研究所の解析結果により、地震が原因ではなく、スンダ海峡の火山島アナク・クラカタウの噴火による山体崩壊で東京ドーム約200杯分に相当する土砂が海に流れ落ち、大津波を発生させたことがわかった。国土地理院の衛星画像解析によれば、島の半分近くが消失したと報告されている。
日本においても、1792年に島原市(長崎県)雲仙岳の眉山(まゆやま)が山体崩壊し、大量の土砂が有明海に流れこんだことにより、対岸の天草(熊本県)へ向けて大津波が発生し、約1万5千人が死亡したとされる「島原大変肥後迷惑(しまばらたいへんひごめいわく)」が伝承されている。山体崩壊など地震以外による「津波」は海外特有のものではなく、日本においても発生可能性があることに留意する必要がある。