平成29年版 防災白書|第1部 第1章 第1節 1-4 住民主体の取組


1-4 住民主体の取組

(1)地区防災計画制度の普及・啓発

<1>平成28年度モデル事業の実施

災害時に自助・共助が公助と連携して有効に機能するためには、平常時から住民が居住地域の地域特性やリスクを把握し、近隣の人々との信頼関係を構築しておくことが必要である。このためには平時から住民が自発的に行動計画を策定し、予め近隣住民の間で共有しておくことは有用と考えられる。こうした経緯から、内閣府は災害対策基本法改正を行い、平成26年4月より「地区防災計画制度」を市町村地域防災計画の下に位置付けた。平成28年度までの3年度に渡り計44地区を対象として「モデル事業」を実施し、住民による計画策定の取組を促進してきた(図表1-1-4)。

同事業のうち、平成26、27年度については公募(自薦)方式により、計画策定に意欲的な計37地区を選定し、大学教授等の有識者(アドバイザー)を派遣し、各地区が取り組み状況に応じた策定支援を行った。結果として、要配慮者への支援体制に重点をおいた取組や、県境を越えた避難計画の策定、地元企業との連携やマンション管理組合による居住者の安否確認や一時避難者の受入れといった様々な形態による取組が実施された。

平成28年度については、モデル地区の選定が行われていない府県(市町村)や、地理的・地域的な特性のバランスを考慮して、モデル地区を選定する方針とした。本事業を実施するため、内閣府において「地区防災計画制度の普及促進の在り方に関する有識者懇談会」を開催し、上記方針に基づき有識者や各市町村から推薦された候補地区の中から計7地区を選出した。各地区において複数回ワークショップを開催し、有識者懇談会の各委員をアドバイザーとして派遣し、策定支援を行った。結果として、観光地の周辺地区の地域振興策としての検証や被災直後の熊本における学校区を中核とした取組等が行われた。

図表1-1-4 内閣府が行った地区防災計画モデル事業の対象地区について
図表1-1-4 内閣府が行った地区防災計画モデル事業の対象地区について

3カ年度のモデル事業により、44地区のうち23地区が地区防災計画(素案)を策定し、うち6地区の計画については市町村地域防災計画の改訂に至り、反映されることとなった。

有識者懇談会においてこれまで得た成果や課題等について検証し、平成28年度末に「地区防災計画モデル事業報告」としてこれまでの取組について報告をとりまとめた。

同報告の中で、モデル事業への参加を通じ、災害について普段話すことがない住民間で防災意識や共助精神が芽生え、地域活性化のきっかけづくりとなった、住民が自らの意思で居住地域に想定されるリスクや避難すべき場所を確認し、災害時の役割分担を考えるなど「具体的な心構え」や災害イメージを平常時から持つ契機となった等、地区防災計画を通じた効果が指摘された。

また、行政担当者と地区住民との適度な距離感や信頼関係を構築することが必要であること、計画策定後の取組の継続性の困難さや世代交代の必要性がある等の課題も得た。今後は、計画に基づく訓練等を実施することにより、計画の実効性や改良点を検証し、その内容を周辺の地区住民に広めていくことが必要である旨提言があった。

<2>「地区防災計画フォーラム」の開催

平成29年3月25日、愛知県名古屋市(名古屋国際センター)において、モデル事業のこれまでの成果と今後の課題について紹介し、取組を全国に普及・啓発するために「地区防災計画フォーラム」を開催した。同フォーラムは内閣府がこれまで行ってきたモデル事業について振り返り、各地区の取り組みを紹介しながら、継続のためのマネジメントや「地区防災計画の未来」等をテーマに3年間のモデル事業の集大成として得られた知見を共有した。

モデル事業により開催されたワークショップの様子
モデル事業により開催されたワークショップの様子
地区防災計画フォーラムの様子
地区防災計画フォーラムの様子

今後は、これまでのモデル事業を参考に、各地区が自ら自発的に計画策定に着手することが望まれる。各市町村はこれら地区の後方支援を行い、セミナー等の開催を通じて情報を地区内外へ水平展開することで、減災・予防意識が伝播的に醸成されていくと考えられる。内閣府としても、今後も本制度について周知徹底を図るべく、引き続き普及啓発に努めることとしている。

(2)防災住民協議会

国や各地方自治体は、防災(減災)に対する住民の意識を向上させるため、様々な啓発政策を行ってきている。その一つとして市町村が主催する住民参加型のセミナー等があるが、防災に関心がある住民の参加が多い。よって、より広い範囲の住民も参加できるよう工夫を行い、「どのように防災意識の向上が図られるか」について実証(検証)を行うこととした。

このため、内閣府では、平成28年度に対象地区として、津波や河川氾濫による洪水等、複数の災害リスクが想定される地域である「静岡県浜松市中区」を実証地区に選定し、「浜松市防災住民協議会」を開催することとした。

同協議会において、災害に対する意識や関心度が相違する住民を一同に参加させ、討議を行った場合に意識の醸成がどの様に行われるかについて検証を行った。浜松市役所の協力を得て、住民基本台帳から「無作為抽出」で選出した住民に対し、浜松市自体が募集を行う方式を採用した。この募集方法により、地元の高校生を始めとして、様々な意識や関心を持つ10代~70代の住民(男女計78名)の参加を得た。

同協議会では、各グループに分かれ、自らの災害に対する危機意識を他の住民と共有しながら、災害時に対する対応等をテーマにディスカッション形式の討議を実施した。全5回のうち、事前(第1回)と事後(第5回)にアンケート調査を行ったところ、同協議会の参加を通じて「災害への備え」に着手する住民が開催当初時より増えていることがわかった(図表1-1-5)。

図表1-1-5 住民協議会における事前事後アンケートの調査結果
図表1-1-5 住民協議会における事前事後アンケートの調査結果

内閣府では、この協議会で得られた実証成果と類似事例をとりまとめ、市町村向けに「無作為抽出を活用した住民の防災意識向上のための取組に関する手引き」を作成し、平成28年3月に公表した。この手引きを活用し、住民の防災意識の向上に向けた取組が進むことを期待している。

浜松市防災住民協議会の様子
浜松市防災住民協議会の様子
各グループでの議論の様子
各グループでの議論の様子
コラム:災害想定ゲーム

災害の対応力を高めるための様々な災害想定ゲームを行うことを通じて、災害について、楽しみながら、他人の多くの意見を聞き、考えることができる。ここでは、多く使われている災害想定ゲームをいくつか紹介する。

<クロスロード>

任意に出題された問題(「(例)避難所に配られた食料は足りていないが、皆お腹をすかしている。配布の優先順位を決めて配布するか、それとも次の補充があるまで配布しないか」等)の2択問題に対し、各人は自分だったらどうするかを決め、「はいYes」「いいえNo」のどちらかのカードを一斉に出す。結果、多数意見を知ることが出来るが、多数派意見が良い行動ということではない。重要なのは、なぜそうすべきなのかについての自分の考えを他人と共有することにあり、大人数よりも5、6名程度の少人数グループに分かれて行うと、互いの意見に対し時間をかけて話し合うことができる。

クロスロード
クロスロード

<DIG:Disaster Imagination Game>

居住する地域のマップ(平面図)の上に、避難所や公衆電話、危険場所、要援護者の所在等の地域情報を書き込みし、災害発生時を想定して避難場所・避難所までの避難経路や事前対策等を検討する災害図上訓練ゲーム。

<EVAG:Evacuation Activity Game>

避難行動訓練を行うロールプレイングゲーム。まず各人1枚ずつ「属性カード」を引き、豪雨災害が発生することを想定した街で、引いた属性カードの人物になったつもりで、どのタイミングで避難所まで逃げるかを考察する。カードは性別・年齢別・国籍等別に数十種類用意され、カードの条件により、行動手段に制約を受ける。若者が高齢者の立場になって、高齢者の思考を想像したり、健常者が要配慮者側の立場になって考えることができる。

EVAG:Evacuation Activity Game
EVAG:Evacuation Activity Game

<HUG:Hinanjyo Unei Game>

静岡県が東海地震に備えて考案した避難所運営ゲームであり、避難所や体育館等の敷地図(平面図)を使用する。避難者の年齢や性別、国籍やそれぞれが抱える事情が書かれた「避難者カード」を実際の避難者に必要とされるスペース(一人あたり3平方メートル)に見立て、平面図にどれだけ適切にカードを配置できるか、避難所で起こる様々な出来事(トラブル)にどう対応するか等、実際に起きるであろう避難所での課題を模擬検討する。

大規模災害に備え、文部科学省は平成29年1月に学校における避難所運営の協力に関する留意事項について通知を出している。これを受け、東京都台東区内の小学校ではHUGを活用しながら教職員が訓練を行った。

<LODE>

Little people(子ども)、Old people(高齢者)、Disabled people(障害者)、Evacuation(避難)の頭文字を取って名付けられた。災害弱者や中高層住宅地域の課題に対応したもので、マンションの簡易立面図等を使用し、各部屋の住民情報を色別のシールで把握していく。他の災害図上訓練とくらべ、災害時要援護者の避難誘導に焦点が当てられている。


所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.