平成29年版 防災白書|特集 第3章 3-2 地方公共団体の支援


3-2 地方公共団体の支援

(1)市町村において応援を活用できる防災体制(受援体制)の促進

大規模災害が発生した場合、被災した市町村が、膨大な災害対応業務を単独で実施することは困難な状況となる。このため、地方公共団体は平時から国、地方公共団体、民間企業、ボランティア団体等からの人的・物的支援をいかに円滑に受け入れて、災害対応に有効活用していくのか検討しておくとともに、受援体制を整備しておくことは非常に重要である。

一方、地方公共団体における受援計画の策定状況については、都道府県で約4割、市町村で1割強に留まっている状況であり、近年の大規模な地震や風水害、そして南海トラフ地震や首都直下地震の発生が懸念されている状況において、早期に受援体制を構築することが必要不可欠となっている(図表3-2-1、図表3-2-2)。

図表3-2-1 受援計画の策定状況について
図表3-2-1 受援計画の策定状況について
図表3-2-2 地方公共団体における相互応援協定について
図表3-2-2 地方公共団体における相互応援協定について

そのため、各地方公共団体が早期に受援対策の構築が行えるよう、内閣府においては、「地方公共団体の受援体制に関する検討会」を開催し、ガイドライン策定のための審議を行った。熊本地震での教訓等も踏まえ、「地方公共団体のための災害時受援体制に関するガイドライン」を平成29年3月に策定した(図表3-2-3、図表3-2-4)。

図表3-2-3 地方公共団体のための災害時受援体制に関するガイドラインについて
図表3-2-3 地方公共団体のための災害時受援体制に関するガイドラインについて
図表3-2-4 地方公共団体における応援受援の全体イメージ
図表3-2-4 地方公共団体における応援受援の全体イメージ
(2)地方公共団体の首長、職員に対する研修内容の充実

迅速かつ的確な災害対応は、それを行う防災担当職員の知識と経験に依るところが大きい。このため、内閣府においては、「危機事態に迅速・的確に対応できる人」や「国・地方のネットワークを形成できる人」を育成するために、平成25年度より国や地方公共団体の職員を対象とする「防災スペシャリスト養成研修」に取り組んでいる。

このうち「有明の丘基幹的広域防災拠点施設における研修」では、関係省庁と連携した講義として、『避難所運営の実際』や『応急活動政策』等の講義を行い、上記報告の趣旨を踏まえ研修内容の充実を図っている。

また、全国の市長を対象とする「全国防災・危機管理トップセミナー」を消防庁と共催で実施し、災害対応の陣頭指揮をとる市町村長の迅速かつ的確な判断能力の向上を支援している。平成28年度の同セミナーにおいては、群馬大学大学院の片田教授が『市長村長の初動対応について』、災害を経験した市長として新潟県三条市長が『豪雨災害と三条市長の防災対策について』をテーマに講演した。

更に内閣官房・消防庁との共催により、自治大学校において関係省庁、都道府県、政令指定都市の防災・危機管理責任者を対象とした「防災・危機管理特別研修」を平成29年4月に実施した。

今後とも、研修内容の充実を図り、防災力の向上・災害対応能力の向上を図る必要がある。

平成28年度「有明の丘基幹的広域防災拠点施設における研修」の講義状況の様子
平成28年度「有明の丘基幹的広域防災拠点施設における研修」の講義状況の様子
平成28年度「全国防災・危機管理トップセミナー」の講演状況の様子
平成28年度「全国防災・危機管理トップセミナー」の講演状況の様子
コラム:「災害時にトップがなすべきこと」について

大水害を経験された首長の集まりである「水害サミット」で、水害時にトップが最低限知っておくべきことを心得的にとりまとめられていた「災害時にトップがなすべきこと」に、東日本大震災や熊本地震などの大地震を経験された首長の意見を新たに加え、風水害、地震・津波全般にわたっての心得としてとりまとめられた。今後の大災害の時に、トップの意思決定の一助となり、被害の軽減につながることが期待される。

「災害時にトップがなすべきこと」(抜粋版)

策定主体「災害時にトップがなすべきこと協働策定会議」

岩手県陸前高田市長、岩手県釜石市長、宮城県石巻市長、宮城県南三陸町長、茨城県稲敷市長、千葉県香取市長、新潟県三条市長、新潟県見附市長、長野県白馬村長、兵庫県豊岡市長、熊本県熊本市長、熊本県嘉島町長、熊本県甲佐町長、熊本県益城町長、熊本県西原村長

【I 平時の備え】

  1. 迫りくる自然災害の危機に対処し、被災後は人々の暮らしの復旧・復興にあたる責任は、法的にも実態的にも、第一義的に市区町村長に負わされている。非難も、市区町村長に集中する。トップは、その覚悟を持ち、自らを磨かなければならない。
  2. 自然の脅威が目前に迫ったときには、勝負の大半がついている。大規模災害発生時の意思決定の困難さは、想像を絶する。平時の訓練と備えがなければ、危機への対処はほとんど失敗する。
  3. 市区町村長の責任は重いが、危機への対処能力は限られている。他方で、市区町村長の意思決定を体系的・専門的に支援する仕組みは、整っていない。
    せめて自衛隊、国土交通省テックフォース、気象台等、他の機関がどのような支援能力を持っているか、事前に調べておくこと。連携の訓練等を通じて、遠慮なく「助けてほしい」と言える関係を築いておくこと。
  4. 日頃から住民と対話し、危機に際して行なう意思決定について、あらかじめ伝え、理解を得ておくこと。このプロセスがあると、いざというときの躊躇が和らぐ。
  5. 行政にも限界があることを日頃から率直に住民に伝え、自らの命は自らの判断で自ら守る覚悟を求めておくこと。
  6. 災害でトップが命を失うこともありうる。トップ不在は、機能不全に陥る。必ず代行順位を決めておくこと。
  7. 日頃、積極的な被災地支援を行うこと。派遣職員の被災地での経験は、災害対応のノウハウにつながる。

【II 直面する危機への対応】

  1. 判断の遅れは命取りになる。特に、初動の遅れは決定的である。何よりもまず、トップとして判断を早くすること。
  2. 「命を守る」ということを最優先し、避難勧告等を躊躇してはならない。
  3. 人は逃げないものであることを知っておくこと。人間には、自分に迫りくる危険を過小に評価して心の平穏を保とうとする、「正常化の偏見」と呼ばれる強い心の働きがある。災害の実態においても、心理学の実験においても、人は逃げ遅れている。
    避難勧告のタイミングはもちろん重要だが、危険情報を随時流し、緊迫感をもった言葉で語る等、逃げない傾向を持つ人を逃げる気にさせる技を身につけることはもっと重要である。
  4. 住民やマスコミからの電話が殺到する。コールセンター等を設け対応すること。
  5. とにかく記録を残すこと。

【III 救援・復旧・復興への対応】

  1. トップはマスコミ等を通じてできる限り住民の前に姿を見せ、「市役所(区役所・町村役場)も全力をあげている」ことを伝え、被災者を励ますこと。住民は、トップを見ている。発する言葉や立ち居振る舞いについて、十分意識すること。
  2. ボランティアセンターをすぐに立ち上げること。ボランティアは単なる労働力ではない。ボランティアが入ってくることで、被災者も勇気づけられ、被災地が明るくなる。ボランティアセンターと行政をつなぐ職員を配置すること。(ただし、地震の場合で余震が危惧される時は、二次災害の防止に配慮して開設すること。)
  3. 職員には、職員しかできないことを優先させること。
  4. 住民の苦しみや悲しみを理解し、トップはよく理解していることを伝えること。苦しみと悲しみの共有は被災者の心を慰めるとともに、連帯感を強め、復旧・復興のばねになる。
  5. 記者会見を毎日定時に行い、情報を出し続けること。「逃げるな、隠すな、嘘つくな」が危機管理の鉄則。マスコミは時として厄介であるし、仕事の邪魔になることもあるが、その向こうに市民や心配している人々がいる。明るいニュースは、住民を勇気づける。
  6. 大量のがれき、ごみが出てくる。広い仮置き場をすぐに手配すること。畳、家電製品、タイヤ等、市民に極力分別を求めること。事後の処理が早く済む。
  7. 庁舎内に「ワンストップ窓口」を設け、被災者の負担を軽減すること。
  8. 住民を救うために必要なことは、迷わず、果敢に実行すべきである。とりわけ災害発生直後は、大混乱の中で時間との勝負である。職員に対して「お金のことは心配するな。市長(区町村長)が何とかする」、「やるべきことはすべてやれ。責任は自分がとる」と見えを切ることも必要。
  9. 忙しくても視察を嫌がらずに受け入れること。現場を見た人たちは、必ず味方になってくれる。
  10. 応援・救援に来てくれた人々へ感謝の言葉を伝え続けること。職員も被災者である。職員とその家族への感謝も伝えること。
  11. 職員を意識的に休ませること。
  12. 災害の態様は千差万別であり、実態に合わない制度や運用に山ほどぶつかる。他の被災地トップと連携し、視察に来る政府高官や政治家に訴え、マスコミを通じて世論に訴えて、強い意志で制度・運用の変更や新制度の創設を促すこと。

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