平成29年版 防災白書|特集 第2章 2-5 企業の事業継続の取組


2-5 企業の事業継続の取組

震災からの復旧・復興のためには、被災者の早期の生活再建を図るとともに、企業活動が早期に正常化する必要がある。そのためには、被害の最小化、被害を受けていた場合の早期の復旧や代替措置の実施などを図る事業継続のための企業の取組が重要となる。内閣府では、企業の事業継続の取組を明らかにし、知見と教訓を得るため、平成29年3月に熊本県の被災企業を主な対象として被災状況に関するアンケート及びヒアリング(「企業の事業継続に関する熊本地震の影響調査(平成29年6月)」、以下「企業調査」という。)を行った。この企業調査等に基づき、企業の状況を概観する。

(1)概況

<1>企業の概況

熊本県の「被災地域」(図表2-5-4)に本社を置く企業等は、平成26年経済センサス-基礎調査によると47,916社(個人企業、会社企業、会社以外の法人の合計)である(図表2-5-1)。企業調査にあたっては、「民間調査」(定義はP.41<「企業調査」に関する定義>を参照。)を活用した。

この民間調査によると、「被災地域の企業」(定義はP.41参照。)(16,509社)(図表2-5-2)と取引のある被災地域以外の企業(「取引のある企業」(定義はP.41参照。))は、全国に少なくとも15,845社ある。地域別の分布は、図表2-5-3の通り。

図表2-5-1 企業等の本社所在地(公的統計)
図表2-5-1 企業等の本社所在地(公的統計)
図表2-5-2 企業の本社所在地(民間調査)
図表2-5-2 企業の本社所在地(民間調査)
図表2-5-3 「取引のある企業」の本社所在地
図表2-5-3 「取引のある企業」の本社所在地
図表2-5-4 被災状況に関する企業アンケート等で焦点を当てた地域(「被災地域」)
図表2-5-4 被災状況に関する企業アンケート等で焦点を当てた地域(「被災地域」)

<2>経済の概況

熊本県の個人消費の状況を概観するものとして、百貨店・スーパー販売額の全店ベースの対前年同月との比較推移を見ると、熊本地震のあった平成28年4月に対前年同月比で3割以上落ち込んだが、6月以降は対前年同月比-1.6%から5.8%の間で推移している(図表2-5-5)。

また、熊本県の有効求人倍率を見ると、平成28年8月までは全国を下回っているが、9月以降は全国を上回っている(図表2-5-6)。

図表2-5-5 百貨店・スーパー販売額の対前年同月比の推移
図表2-5-5 百貨店・スーパー販売額の対前年同月比の推移
図表2-5-6 有効求人倍率の推移
図表2-5-6 有効求人倍率の推移
(2)企業の被災状況

企業調査に基づく被災状況は、「被災地域の企業」のうち、「何らかの被害」(定義はP.41参照。)を受けた企業は約80%、「取引のある企業」で、「何らかの被害」を受けた企業は約46%であった(図表2-5-7)。

図表2-5-7 被害の状況
図表2-5-7 被害の状況

「被災地域の企業」のうち、何らかの被害を受けた企業に地震後の営業再開時期を聞いたところ、約8割の企業が「営業を停止していない」か、「地震後1週間以内に営業を再開している」と答えている。一方で、「深刻な被害を受けており、現在も営業を再開できていない」と回答する企業もあった(図表2-5-8)。

図表2-5-8 「被災地域の企業」のうち、「何らかの被害」を受けた企業の営業再開時期(N=1002)
図表2-5-8 「被災地域の企業」のうち、「何らかの被害」を受けた企業の営業再開時期(N=1002)

売上高について聞いたところ、「被災地域の企業」の平成28年4月~6月(第1四半期)の売上高は、何らかの被害を受けた企業の6割以上が対前年比で減少したと答えており、3割近くの企業が20%超の減少となっている。一方、被害がなかった企業は、7割以上が対前年比10%以内の増減の幅以内となっている(図表2-5-9)。

また、「取引のある企業」の平成28年4月~6月の売上高は、何らかの被害を受けた企業の約4割が、売上高の減少があったと答えている。

図表2-5-9 「被災地域の企業」と「取引のある企業」の平成28年4月~6月の売上高について
図表2-5-9 「被災地域の企業」と「取引のある企業」の平成28年4月~6月の売上高について

「被災地域の企業」の平成28年10月~12月(第3四半期)の売上高は、何らかの被害を受けた企業のうち20%超減少していると答える企業は8%程度となっており、10%超の減少と答える企業とあわせても2割弱程度となっている(図表2-5-10)。

グラフの幅に違いはあるものの、4~6月(第1四半期)に比べて被害有無による売上高の減少幅は「被災地域の企業」と「取引のある企業」間で縮小していることがわかる。

図表2-5-10 「被災地域の企業」と「取引のある企業」の平成28年10月~12月の売上高について
図表2-5-10 「被災地域の企業」と「取引のある企業」の平成28年10月~12月の売上高について
(3)事業継続の取組

<1>企業調査の結果

(調査した企業について)

今回の企業調査におけるアンケートの回収数は図表2-5-11のとおりである。なお、企業調査の数値を見る場合は、この企業規模の分布状況に留意する必要がある。

図表2-5-11 企業調査のアンケート回収状況
図表2-5-11 企業調査のアンケート回収状況

(BCP策定状況)

企業調査によるBCPの策定状況は図表2-5-12のとおりである。

図表2-5-12 企業規模別のBCPの策定状況について
図表2-5-12 企業規模別のBCPの策定状況について

何らかの被害を受けた企業に対し、熊本地震の際に有効であった取組について聞いたところ、「備蓄品(水、食料、災害用品)の購入等」、「災害担当責任者の決定等」、「安否確認や相互連絡のための電子システム導入」、「火災・地震保険等への加入」、「避難訓練の開始・見直し」については、回答のあった企業のうち3割以上が「有効であった」と答えている(図表2-5-13)。

図表2-5-13 地震の際に有効であった取組について(N=554)
図表2-5-13 地震の際に有効であった取組について(N=554)

また、同様に何らかの被害を受けた企業に、「行いたいが実施できていないもの(今後取り組みたいこと)」について聞いたところ、回答のあった企業については、多くの項目について「今後行いたい」と答えているが、特に「BCPの見直し」、「代替要員の事前育成」、「国土強靱化貢献団体認証の取得」、「ISO等のBCP認定取得」など、企業内における態勢の見直しに関する項目を答える企業が多かった(図表2-5-14)。

図表2-5-14 今後取り組みたいこと(N=1294)
図表2-5-14 今後取り組みたいこと(N=1294)

<2>企業ヒアリング結果

企業調査では、製造業、流通業を中心に10社に対してヒアリングを行った。BCPの策定や建物を建設する際の工夫等が事前の備えとして役に立ったという意見、発災後の従業員とその家族の安否確認や情報伝達・共有の重要性を訴える等の意見があった。このヒアリングの概要は以下のとおりである。

(発災時に役立った事前の備え)

  • 過去の被災経験も踏まえたBCPを策定していたので、発災後すぐに動けた。
  • 熊本以外の事業所での被災経験から得た教訓や、日奈久断層等の存在から予想される地震に備え、設計段階から建物の耐震性の強化を行っていたので、被害を抑えられた。
  • 4月14日の地震時に生産を止めていた効果もあり、4月16日の地震でも致命的な設備の破損はなかった。
  • 情報伝達・指示命令系統について、平常時から通信設備等を設置し、そこで途切れることなく本社等との連絡を行っていた。
  • 24時間営業の全国の店舗の稼働状況をリアルタイムで把握できるシステムを構築しており、事態の深刻さを発災直後に知ることができた。
  • 情報システムをシンクライアントにしており、事務所が立入禁止になっても通常業務が行えた。(発災時の対応)
  • どの企業も、最初の段階で従業員の安否確認に注力していた。
  • 従業員に対する経営層のメッセージの発信や生活再建支援等を行っている企業が多い。
  • 自らも被災者である地元採用職員の事業所復旧にかける熱意や自主性に頭が下がった。
  • 派遣技術者による迅速な建物診断による発災直後の建物使用可否の判明、支援物資・復旧資機材の手配等、本社の指揮のもとグループ企業全体による支援が早期の復旧につながった。
  • グループ内の支援態勢としては、熊本経験者・東日本大震災経験者を集めた。
  • グループ内の従業員による、休暇取得促進等の交代態勢の整備により、従業員の目立った体調不良はなかった。
  • 被害が大きく、早急に供給が必要な製品のためには、代替拠点の活用が必須だった。
  • あらゆる同業他社に、すぐに購入等入手できない設備部品を貸してもらうよう依頼した。
  • 流通事業者では、グループ内の物資調達のプロが活躍し、自治体からの発注を受けて物資の供給を行えた。その際、グループ内の被災経験のある事業所から、供給物資の伝票や明細の作成・保存等の支援を受け、平常業務に戻ってからの精算を円滑に行えた。
  • 弁当等の納入を、熊本に近いA工場での製品を熊本へ、熊本へ送ったことによるA工場の通常営業の不足分を隣の地域のB工場が補うというバックアップ態勢ができていた。
  • 食料・日用品の販売を一日でも早く始めることが被災者支援につながるが、店舗の被害によって屋外仮設営業、一部店舗再開等の営業形式が異なるためケース・バイ・ケースでレジ精算の方法を変えた。
  • 通行可能な道路情報について、従業員が通ることのできた道路を社内で情報共有した。
  • 電源が早期に復旧したことやスマホの通話が可能だったことが早期復旧につながった。
  • 下請けは零細企業が多く、取引先が資金ショートにならないよう経営を管理した。
  • 地域住民へ備蓄物資を提供した。

(今後の取組)

  • 従業員に大きな被害がなかったことが早期復旧につながったため、人命第一に据えたBCP等の計画の見直し。
  • 熊本地震の被災事例集の作成・周知。
  • 地震の振動による設備の移動に備えて、壁からの離隔距離をとるなど、設備のレイアウトの見直し。
  • 建物の屋内や設備の被害を立ち入らずに把握できるように、センサー類の設置。
  • 被災時の営業形式のバリエーションに即応できるシステム改修。
  • 事務所に立入ができない場合に備え、顧客の設備の保守ツール等の分散保管。
  • 自社の他地域の拠点の拡充や同業他社との協力関係の密接化。
  • 建物を地域の避難所として開放するなど、より一層の地域との連携。
  • 地域で貢献している従業員が設立したボランティア団体への支援。

<3>まとめ

企業調査により、被災地外でも間接被害により影響があることが明らかとなるとともに、ヒアリングにより、備えていないことには対応できないことが再確認された。また、被害のあった企業の多くが態勢の見直しに着手しようとしており、企業の事業継続には優先事項の洗い出し、被害想定の見直し、代替戦略の導入等が必要である。

<「企業調査」に関する定義>

■「被災地域」の定義

最大震度7を観測した2回の地震のうち、震度6弱以上を記録した地域(ただし郡部においては、複数の町村が震度6弱以上を記録した郡部を主に選定)。具体的には、熊本市(中央区、東区、西区、南区、北区)、八代市、玉名市、菊池市、宇土市、上天草市、宇城市、阿蘇市、天草市、合志市、下益城郡美里町、菊池郡(大津町、菊陽町)阿蘇郡(南小国町、小国町、産山村、高森町、西原村、南阿蘇村)上益城郡(御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、山都町)。なお、企業調査のデータ上の制約から、熊本県のみの被災地域を対象として調査を行っている。

■「被災地域の企業」の定義

被災地域内に本社のある企業

■「取引のある企業」の定義

民間調査会社の調査結果に基づき、熊本県の被災地域に本社を置く企業が「商品・サービス」を提供している、または「商品・サービス」の提供を受けている「被災地域以外の企業」

■民間調査

株式会社 東京商工リサーチの平成29年2月時点までの調査結果

■企業規模

企業規模
企業規模

■地域区分

北海道・東北:北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、新潟県

関東:茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県

中部:富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県

近畿:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県

中国・四国:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県

九州・沖縄:福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

■被害

直接被害:店舗、工場、設備の損壊等による物的損害等

間接被害:物的損害以外の地震の影響による営業停止、売上高減少、従業員が出勤できない等

何らかの被害(被害あり):直接又は間接被害、もしくはその両方


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