平成28年版 防災白書|第1部 第2章 第3節 水害対策


第3節 水害対策

我が国は、河川氾濫により形成された沖積平野に多くの人口が居住するという地形条件と、台風等による豪雨が高い頻度で発生するという気象条件のため、水害が発生しやすい特徴を有しているが、近年では、短時間強雨の年間発生回数が明瞭な増加傾向にあり、大河川の氾濫も相次いでいる。

平成27年9月関東・東北豪雨(以下「関東・東北豪雨」という。)による災害では鬼怒川の堤防の決壊等により、茨城県常総市で死者2名が発生したことに加え、氾濫流は決壊地点から10km以上も流下し、常総市役所や多くの住宅地を含む市域の広範囲が長期間にわたり浸水した。宅地等の浸水が概ね解消したのは決壊から約10日後という近年例を見ない被害が生じ、警察、消防、海上保安庁、自衛隊等により救助された住民は、茨城県下で4,200名以上にも及んだ。また、常総市以外においても、関東・東北豪雨により関東地方から東北地方にわたり広域で水害が発生した。

茨城県常総市における浸水状況(平成27年9月10日 国土交通省撮影)茨城県常総市における浸水状況(平成27年9月10日 国土交通省撮影)
茨城県常総市における鬼怒川破堤箇所の状況(平成27年9月10日無人航空機(UAV)により撮影 国土地理院)茨城県常総市における鬼怒川破堤箇所の状況(平成27年9月10日無人航空機(UAV)により撮影 国土地理院)

このような事態を踏まえ、政府は、鬼怒川の氾濫をはじめとする関東・東北豪雨による被害を教訓として、災害に対して強くしなやかな国土・地域・経済社会の構築に資するよう、今後の水害における避難や応急対策の在り方について、政府一体となった水害対策を検討するため、中央防災会議の防災対策実行会議の下に、「水害時の避難・応急対策検討ワーキンググループ」を設置した。

本ワーキンググループでは、全5回にわたる検討を経て本報告を作成し、近年増加傾向にある水害における避難対策に加え、初動から普及に至るまでの応急対策全般にわたって、今後の改善策等を提言しているが、そのなかで、関東・東北豪雨による災害から得られた実務的な課題を以下の6つに集約している。

(1)自助・共助の備えが十分ではなかった

大きな被害を受けた常総市においては、ハザードマップを認知している住民の割合が非常に低く、また避難判断の基となる河川水位の意味を知っている人の割合も低かった。

(2)避難勧告等の発令タイミングや区域、病院等の要配慮者利用施設の避難確保計画を事前に定めていなかった

関東・東北豪雨の被災市町において、避難勧告等の発令タイミングや発令対象区域、避難先が事前に十分な検討がなされていない等の課題が見受けられ、避難勧告等の発令が遅れたり、対象区域に漏れが生じていたりした。病院等の要配慮者利用施設において避難確保計画等の策定がなされておらず、浸水で孤立し救出に時間を要したケースもあった。

(3)避難行動を促すために細やかに状況を伝達する等、情報提供に工夫の余地がある

雨量や河川水位等の情報や避難勧告等の情報が確実に伝達されておらず、伝達された情報が住民等の適切な避難行動に結びついていなかった。

(4)発災時の混乱を未然に防いだり、生活再建の手続き早期化を図ったりするための準備・体制が十分でなかった

関東・東北豪雨の被災市町では経験やノウハウが十分には蓄積されておらず、災害対応に混乱を来たした。また、一定規模以上の災害では他の市町村等から応援派遣がなされるが、あまりにも混乱していると派遣された応援者を現場のニーズにあわせて適切に割り振る「受援」の余裕もなく、応援を活用しきれていないことも多かった。

(5)避難所をはじめ被災後の生活環境が確保されていなかった

避難所の運営体制の確保や要配慮者への支援体制の確保等について、必ずしも十分な対応がとられていなかったと思われる例もみられた。

(6)ボランティアと行政とが連携する仕組みはさらに発展させる余地がある

関東・東北豪雨による災害においても、多数のボランティアが各地から駆けつけ、生活再建に不可欠な存在として、被災地の様々な局面で大きな役割を果たしたが、行政とボランティアとが十分に情報共有できていないという実態が見受けられた。

このように、関東・東北豪雨の被災市町においては災害対応で混乱し、十分な対応ができなかったという課題を重視し、いかに市町村の災害対応力を上げるか、そして国や都道府県、ボランティア等がいかにそれを支援できるかということに力点を置いて、実践的で具体的な対策について提言がなされている(図表1-2-7)。

本報告の内容の実効性を確保し、災害時に的確に対応するためには、住民と行政(国、都道府県、市町村等)、ボランティア、関連団体(医療機関、社会福祉協議会等)、報道機関等のあらゆる主体が、平時から地道に繰り返して自発的に防災への取組を進めていくことが必要であり、実践的な訓練を定期的に実施することが非常に重要である。また、今後、国は、被災経験のない市町村であっても迅速かつ的確な災害対応を実施できるよう、平時の備えから災害対応の初動、応急対策、復旧に至るまでの間、市町村がとるべき災害対応のポイント等を示した「市町村のための水害対応の手引き(仮称)」を作成する予定である。

図表1-2-7 水害時における避難・応急対策の今後のあり方について図表1-2-7 水害時における避難・応急対策の今後のあり方について

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