平成28年版 防災白書|第1部 第2章 第2節 火山災害対策


第2節 火山災害対策

平成26年9月に発生した御嶽山の噴火では、水蒸気噴火が突如発生し、火口周辺の多くの登山者が被災した。この御嶽山の噴火では、様々な火山防災対策に関する課題が改めて認識された。これを受け、政府においては、中央防災会議の下に「火山防災対策推進ワーキンググループ」を設置し、火山噴火予知連絡会などの関係検討会での議論も踏まえつつ,有識者や関係省庁による議論を経て,平成27年3月に「御嶽山噴火を踏まえた今後の火山防災対策の推進について(報告)」を取りまとめた。

この報告の提言のうち、法制化すべき点を措置すべく、同年5月29日に、「活動火山対策特別措置法の一部を改正する法律案」を閣議決定し、第189回国会に提出した。同法案は同年7月1日に成立、同月8日に公布され、同年12月10日から施行した(図表1-2-5)。

図表1-2-5 活動火山対策特別措置法の一部を改正する法律(平成27年12月10日施行)図表1-2-5 活動火山対策特別措置法の一部を改正する法律(平成27年12月10日施行)

この改正により、内閣総理大臣は、活動火山対策の総合的な推進に関する基本的な指針(以下「基本指針」という。)を策定するとともに、噴火の可能性が高く、噴火時には人的災害の発生が想定される特に警戒避難体制を整備すべき地域を、火山災害警戒地域として指定することとされた。また、当該地域に指定された都道府県及び市町村は、警戒避難体制の整備に関する協議を行うため、気象台や火山専門家等、火山地域の関係者が一堂に会する火山防災協議会を組織するとともに、当該協議会の意見聴取を経た上で、警戒避難体制の整備に関する事項を地域防災計画に位置付けることとされた。これを受け、平成28年2月22日に、内閣総理大臣は、中央防災会議からの答申等を踏まえ、基本指針を策定するとともに、火山災害警戒地域(23都道県、140市町村)を指定した(図表1-2-6)。この他、当該改正により、登山者等が集まる集客施設や要配慮者利用施設の所有者等は、利用者の円滑かつ迅速な避難の確保を図るために必要な措置に関する計画(避難確保計画)を作成することとする等の規定が追加された。

図表1-2-6 火山災害警戒地域一覧図表1-2-6 火山災害警戒地域一覧

集客施設等の所有者等が避難確保計画を作成するにあたり、参考とすべき点について、「噴火時等の避難計画の手引き作成委員会」を平成27年12月から開催し検討を進め、平成28年3月に「集客施設等における噴火時等の避難確保計画作成の手引き」として取りまとめ、公表した。本委員会では、引き続き本手引きの充実や、「噴火時等の具体的で実践的な避難計画策定の手引」(平成24年3月)の改訂に向けた作業を検討している。

火山防災対策を更に推進させていくため、複数の関係機関同士の連携強化を図り、より一体的に火山防災対策を推進するための「火山防災対策推進検討会議」(第2回会議より名称を「火山防災対策会議」に変更)を開催し、引き続き報告での提言についてフォローアップを行う。

報告内の提言として取り上げられた、火山監視観測体制の構築については、火山観測・監視体制の強化として、気象庁が、水蒸気噴火の先行現象を検知するための火口付近への観測施設の増強等を進めているほか、国土地理院では、火山周辺の電子基準点の電源強化や、地殻変動を詳細に観測するために自律・可搬型の地殻変動観測装置の整備を行った。

火山防災情報の伝達については、火山防災情報をわかりやすく提供するため、気象庁が、臨時の発表であることを明記した「火山の状況に関する解説情報」や噴火の発生事実を迅速に伝える「噴火速報」の発表開始、噴火予報及び噴火警戒レベル1のキーワード「平常」を「活火山であることに留意」に変更する等の火山情報の改善を進めた。

この他に、退避壕・退避舎等の避難施設の整備のあり方については、平成27年5月より「活火山における退避壕の整備等に関する検討ワーキンググループ」を計9回開催し、検討を行った。同年12月には「活火山における退避壕等の充実に向けた手引き」を作成し、公表した。

コラム:活火山における退避壕の充実

平成26年9月27日に御嶽山で発生した噴火では、火口周辺で多数の死者・負傷者が出るなど甚大な被害が発生した。しかし、近傍の山小屋まで退避した方々の多くが、難を逃れることができた旨の報告もあり、突発的な噴火に際して噴石等から逃れるには退避壕が一定の有効性を持つことが確認され、その充実を図る必要性が認識された。

そこで、内閣府(防災担当)では、火山有識者や衝撃耐力の専門家からなる退避壕の整備に関する検討ワーキンググループを設置し、従来の鉄筋コンクリート製の退避壕のみならず、御嶽山のような建設用資機材の搬入が困難な標高の高い場所等において、既存の山小屋等を活用しながら登山者等の安全を確保するための方策について検討を行った。

検討にあたっては、防衛大学校の衝突実験施設を用いて防弾チョッキ等に用いられる高機能繊維(アラミド繊維)で補強された木造の屋根の衝突耐力の模擬実験等をもとに、必要とされる仕様を整理し、平成27年12月に「活火山における退避壕等の充実に向けた手引き」をとりまとめた。

今後とも、関係自治体や関係機関、火口周辺の施設管理者・所有者等が地域と一体となって既存施設の補強や新たな退避壕の設置等について検討を進めることにより、活火山における着実な防災対策の推進が期待される。

図1 防衛大学校 衝撃実験施図1 防衛大学校 衝撃実験施
図2 アラミド繊維による補強の効果 「こぶし大」程度の噴石の衝突を高機能繊維により補強された屋根で衝撃吸収図2 アラミド繊維による補強の効果 「こぶし大」程度の噴石の衝突を高機能繊維により補強された屋根で衝撃吸収
図3 山小屋の屋根の補強イメージ図3 山小屋の屋根の補強イメージ
図4 アラミド繊維による補強改修工事の例(環境省:えびのエコミュージアムセンター)図4 アラミド繊維による補強改修工事の例(環境省:えびのエコミュージアムセンター)

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