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平成27年版 防災白書|特集 第1章 第3節 3-2 2005年以降に生じた防災の課題


3-2 2005年以降に生じた防災の課題

前述のように、HFAに基づき、各国の防災対策の進展が見られたが、国連ISDRの評価によると、優先行動4「潜在的なリスク要因を削減する」の取組が比較的遅れているとされている。この背景として、世界全体で災害リスクは増加傾向にあることがあげられる。

自然災害のリスクとは、ハザード(Hazard)、脆弱性(Vulnerability)、暴露(Exposure)の3要素が相互に作用して決定されるという考え方がある。伝統的な災害対策とは、脆弱性を減少させる対策、すなわち、耐震化や防災教育など災害発生前にハード及びソフト面の備えを充実させる、災害発生後に救援活動を行うなどである。こうした脆弱性を減少させる取組は、HFAの下、進んでいるはずであるが、それよりも暴露、すなわちハザードに晒される人口が都市化の進展により増大したり、グローバル化の進展とサプライチェーンの広域化により、ある国や地域で起こった災害が他の国の経済活動に影響を及ぼしたりするといった状況が生じている。また、ハザード、すなわち自然現象による外力についても、気候変動の影響により、長期的には、熱帯低気圧の強度が高まったり、海面上昇が進展したりすることにより、例えば、破壊力のある高潮の発生頻度が高まり、ハザードそのものが増加するという懸念もある。

以下、これら災害リスクの高まりの要因を、最近発生している災害事例を取り上げながら考察してみたい。

(1)都市化の進展

国連人口局が平成26年(2014年)に公表した「世界都市化予測2014」によると、世界的に、都市部の人口が農村部に比べて増加している。世界人口のうち都市部に居住している人の割合は、1950年には30%であったのが、2014年には54%、そして2050年には66%まで増加すると予測されている。

開発途上国における都市化については、都市内にスラム地区が形成されるなど、新たに増加した人口が災害に脆弱な地区や状態で生活することを余儀なくされる場合もある。また、特に首都において大規模な災害が発生し、首都機能に影響が及んだ場合には、災害応急対策や復旧事業にも支障が出るため、その被害は甚大となるおそれがある。

こうした状況が端緒に現れたのが、2010年にハイチで発生した地震である。同年1月12日午後4時53分(現地時間)に、首都ポルトープランス西南西約15kmでマグニチュード7.0の地震が発生した。被害範囲は首都ポルトープランスに加え、首都近郊のレオガン(西へ約30km)やジャクメル(南へ約120km)のほか、カルフールなどの主要な地方都市にも広がった。死者は約31万6千人、負傷者は約31万人、倒壊家屋は10万5千棟、損壊家屋は20万8千棟に達した。首都ポルトープランスでは、電気、水道、電話などの主要インフラや、大統領府をはじめとした政府機関の建物にも重大な被害が発生し、災害初期対応を含め、行政機能や経済活動が麻痺した。さらに、都市のスプロール化によって急峻な丘陵地まで無秩序に拡大した住宅や、郊外に都市基盤が整っていない広大なスラムが形成されており、このような状況が地震被害の拡大要因ともなった。

(2)グローバル化の進展

世界的に工業生産の国際分業が進む中で、ある国で起きた災害がサプライチェーンを分断し、その他の国の経済活動に影響を及ぼす事態が起きている。特に、東南アジアを含む東アジアでは、日系製造業をはじめとする企業の海外展開とこれに伴う活発な販売・調達活動を背景とした国際的な生産分業が展開されており、域内で中間財、域外に対して最終財を輸出する貿易構造が形成されている。こうした中、2011年にタイで発生した洪水は、我が国をはじめとした周辺国・地域の通商環境等に大きな影響を与えた。

2011年5月以降、例年以上に長期間に渡って多量の降雨が継続し、タイの首都バンコクをも流れるチャオプラヤ川が氾濫し、首都バンコクからタイ北部にかけての広大な範囲で長期間に渡り浸水被害が発生した。これにより、同年10月以降に、アユタヤ周辺の日系企業も多数入居している7つの工業団地が浸水したことにより、自動車やエレクトロニクス産業等において、タイ国内外の広範なサプライチェーンが大きな影響を受け、我が国をはじめ周辺国・地域の経済活動にも直接・間接に大きな影響が波及した。自動車生産を例に取ると、タイは他のASEAN諸国等への自動車部品の供給網のハブの役割を果たしており、浸水被害によりタイにおけるこれら中間財の生産が急減した影響を受け、周辺国・地域における自動車生産(組立てなど)が下押しされるとともに、我が国の自動車生産台数の水準も低くなった。

(3)気象災害の変容

長期的な気候システムの変化がもたらす将来の災害リスクとその影響に関する検討が進むにつれて、特にその影響を最も受けると考えられる島嶼諸国を中心として、気象災害のリスクに対する関心が高まっている。2014年にまとめられた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovenmental Panel on Climate Change)第5次評価報告書統合報告書」によると、1950年以降、多くの極端な気象および気候現象の変化が観測されており、陸域での強い降水現象の回数の増加、地域規模での洪水リスクの増大、高潮の時に経験するような極端に高い潮位の増加などの可能性があり、多くの人間システムが、現在の気候の変動性に対して深刻な脆弱性を持ち、暴露されていると指摘している。

こうした長期的な気候システムの変化が実際の気象災害にどのように影響しているかについては必ずしも明らかになっていないが、近年発生した大規模な気象災害を振り返ることにより、気象災害のリスクについて概観したい。

*ハリケーン・サンディ(米国、2012年)

2012年10月末に発生したハリケーン・サンディは、米国に、広範囲に渡って強風による被害をもたらすとともに、ニューヨーク市を含む北東部沿岸地域に、深刻な高潮被害をもたらした。サンディは米国上陸時には、ハリケーン強度(最高が5)が1であったが、ちょうど大潮の時期と重なったために、ニューヨーク市では、4mを超える高潮が発生し、建物被害、地下鉄トンネルや駅、変電施設などの浸水により、交通・水道・電気のライフラインが停止し、燃料不足も発生するなど、五月雨式に被害が拡大した。米国では、2005年に発生し、大規模な被害をもたらしたハリケーン・カトリーナ(上陸時のハリケーン強度は3)の教訓を踏まえ、ハリケーン上陸前から、関係自治体からの要請を待たずに、連邦政府の災害対応職員の派遣のための調整や、水・食糧・毛布等の支援物資を配備するなど懸命の対策を実施したが、大規模な高潮の発生そのものは防ぐことはできなかった。このサンディの教訓を踏まえ、ニューヨーク市では、翌年2013年の6月に、長期的な災害対策計画であるPlaNYCを策定し、公表した。同計画では、2050年代までのNY市の海面上昇と、それに伴う高潮発生の頻度の増大や、発生した場合の被害地域や被害額の拡大を予測し、その対策として、沿岸部の防護、建物の浸水対策、保険の活用など、同市全体に渡る防災対策と施設整備の方針を明らかにした。

*台風ハイエン(フィリピン、2013年)

2013年11月に発生した台風ハイエンは、フィリピン中部に上陸し、レイテ島の中心都市であるタクロバン市などにおいて、強風と5~6mにも達する高潮の発生により、6千人を超える死者が発生するなど深刻な被害が発生した。台風ハイエンは、フィリピンに向かって成長を続け、上陸直前には中心気圧895hPa(1959年に我が国で発生した伊勢湾台風と同レベル)に発達し、大規模な高潮の発生をもたらした。フィリピン防災部局は、高潮発生に備えて住民の避難を促したが、住民の中には、津波は知っていても、高潮という言葉の持つ意味を知らなかったために、避難が遅れたケースがあったことが報告されている。フィリピン政府は、ハイエンの教訓として、総合的な土地利用計画の厳格な実施や、事前の避難措置の徹底等を掲げている。


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