平成26年版 防災白書|第1部 第1章 第4節 4-4 火山災害対策


4-4 火山災害対策

(1)火山災害対策の必要性

火山は、平穏なときは極めて美しい姿を見せ人々を魅了するが、ひとたび噴火すると甚大な被害を及ぼすことがある。我が国は、環太平洋火山帯の一部に位置し、世界の約7%に当たる110の活火山(火山噴火予知連絡会で「おおむね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義)を有する火山国であり(図表1-1-64)、有史以来繰り返し甚大な火山災害に見舞われてきた。

図表1-1-64 我が国の活火山の分布

図表1-1-64 我が国の活火山の分布

平成元年以降でも、平成2年~平成7年の雲仙岳、平成12年の有珠山や三宅島、平成23年の霧島山(新燃岳)のように大きな被害をもたらした噴火が発生している。また、平成21年以降、桜島では爆発的噴火が毎日のように発生しており、平成23年は観測史上最多となる年間996回、平成24年は年間885回、平成25年は年間835回の爆発的噴火を記録するなど、依然として活発な火山活動が継続しており、周辺地域へ降灰による農業被害等をもたらしている。

噴出物の総量が10億m3を超える大規模噴火は、我が国では大正3年の桜島の大正噴火以降発生していないが、過去の噴火の歴史を振り返れば、いつの日か再び住民の生活や経済活動に広域、長期にわたり影響を及ぼす大規模噴火が発生することは避けることができないと考えられることから、いつでも火山災害が起こり得ることを想定し、万全の備えをしておく必要がある。

(2)火山災害の特徴と対策

噴火等の火山活動により発生し得る現象は、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流(積雪期の噴火時に火砕流等の高温の噴出物が火口付近の積雪を融解することで発生)、溶岩流、小さな噴石・火山灰、土石流(降灰後の降雨等により発生)、山体崩壊、火山性地震、地殻変動、火山ガス等多様である。中でも、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流、土石流、山体崩壊は、発生後に短時間で居住地域に深刻な影響が及ぶ可能性があり、生命に対する危険性が高い。同一火山においても発生する現象やその規模は噴火毎に異なり、さらには一連の噴火の中でも時間の経過とともに変化する。また、噴火が継続する時間の予測も難しい。加えて、火山災害は一部火山を除き発生頻度が低いため、ほとんどの人はその一生において火山災害を経験することが無いことから、火山の専門家ではない住民や市町村行政担当者が適切な災害イメージを持つことが難しく、ひいては自発的な対応の難しさに繋がっている。

他方で火山災害は、観測により火山性地震や山体の膨張等の前兆現象を捉えることで、ある程度の精度で噴火予知が可能であり、危険な火山現象の発生前に深刻な影響が及ぶ地域への入山規制や当該地域からの避難等の対応を行うことで、人的被害を避けることが可能である。

そのためには、気象庁が発表する噴火警報や噴火警戒レベル、国土交通省が発表する土砂災害緊急情報を踏まえて、市町村長が住民等に対して的確に避難勧告や避難指示を発令し、さらに、避難勧告や避難指示を受けた住民等が迅速かつ円滑に避難することができる火山防災体制を平常時において構築しておくことが必要である。火山災害は市町村のみで的確な防災対応を判断、実施することは極めて困難であることから、市町村と都道府県、火山現象や火山災害の知見を有する気象台や砂防担当事務所等の国の機関や専門家、その他関係機関が連携し、防災基本計画に基づき、火山防災協議会を設置して、組織を越えて協力して火山防災体制を構築することが必要である。

具体的には、平常時に火山防災協議会において、噴火シナリオ(噴火時に想定される火山現象及びその規模、影響が及ぶ範囲の推移を時系列として示したもの)の作成、火山ハザードマップ(火山現象が到達する可能性がある危険区域を表記したもの)の作成、噴火警戒レベル(火山防災協議会で合意された避難開始時期と避難対象地域の設定に基づき、火山活動に応じた「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標)の設定、具体的で実践的な避難計画(避難開始時期、避難対象地域、避難先、避難経路、避難手段を定めた計画)、火山防災マップ(火山ハザードマップに、噴火警報等の解説や避難経路や避難手段等、防災上必要な情報を付加したもの)等を作成することが必要である。

これら平常時に構築した体制に基づき、噴火時には、噴火警戒レベルの発表、降灰状況の緊急調査と土砂災害緊急情報の発表、避難計画に基づく入山規制、避難誘導の対応等を関係機関が協力して行うことが必要である。なお、噴火時に、事前に火山ハザードマップで想定した状況と全く同一の現象が発生することは無いため、噴火時には最新の観測情報に基づきリアルタイムハザードマップを作成し、対応を検討することも有効である。

また、火山の監視観測体制の充実や調査研究の推進や、砂防えん堤や避難路等の施設整備も火山災害対策として重要である。

(3)火山災害対策の取組

現在、全国の110の活火山について、火山噴火予知連絡会の調整の下、大学、気象庁、文部科学省(防災科学技術研究所)、国土地理院、経済産業省(産業技術総合研究所)、海上保安庁等が観測を行っている。火山噴火予知連絡会が「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として選定した47火山については、気象庁が、地震計、傾斜計、空振計、GNSS観測装置、遠望カメラ等の火山観測施設を整備し、関係機関からのデータ提供も受け、24時間体制で監視を行い、噴火の前兆等の把握に努めている。

現在、内閣府、消防庁、国土交通省、気象庁等は、平成23年から平成26年に修正された防災基本計画(火山災害対策編)や、平成20年3月に「火山情報等に対応した火山防災対策検討会」が取りまとめた「噴火時等の避難に係る火山防災体制の指針」等に基づいて、各火山の火山防災体制の構築を推進している。

防災基本計画の修正を契機に、各火山地域における火山防災協議会の設置が進められており、平成25年9月には八甲田山(青森県)の「八甲田山火山防災協議会」が、平成26年1月には秋田駒ヶ岳(秋田県・岩手県)及び秋田焼山(秋田県)の「秋田駒ヶ岳・秋田焼山火山防災協議会」が、平成26年2月には鶴見岳・伽藍岳(大分県)の「鶴見岳・伽藍岳火山防災協議会」が、平成26年3月には日光白根山(栃木県・群馬県)の「日光白根山火山防災協議会」がそれぞれ発足した。また、富士山(山梨県、静岡県、神奈川県)の「富士山火山防災対策協議会」では、平成26年2月に富士山火山広域避難計画が作成され、この計画に基づく具体的な対策に関する検討が始められている。さらに、新潟焼山(新潟県・長野県)の「新潟焼山火山防災協議会」では、同じく平成26年2月に、新潟焼山の火山活動が活発化した場合の避難計画が策定されるなど、各火山地域における取組が進められている。しかしながら、監視・観測体制の充実等が必要な47火山において、火山防災協議会が設置されている火山は33火山、火山ハザードマップが作成されている火山は37火山、噴火警戒レベルが運用されている火山は30火山に留まり、具体的な避難計画が策定されているのは、15の火山地域の20市町村に留まっており(平成26年3月末現在)、火山防災協議会の設置、噴火警戒レベルの設定、具体的な避難計画の策定等を引き続き推進していくことが必要である。

内閣府では、平成21年度から火山防災対応の実務経験者を派遣し、地方公共団体の火山防災体制の構築等の支援に当たる火山防災エキスパート制度を運用し、平成25年度は7回の派遣を行った。また、平成23年1月に、「噴火時等の避難に係る火山防災体制の指針」を踏まえた火山防災体制の構築に向けたさらなる推進策を検討するために「火山防災対策の推進に係る検討会」を設置し、検討会の成果として、「噴火時等の具体的で実践的な避難計画策定の手引」を作成(平成24年3月)、さらに、内閣府、消防庁、国土交通省、気象庁が共同で「火山防災マップ作成指針」を作成した(平成25年3月)。また、平成24年12月及び平成25年8月には、同じく内閣府、消防庁、国土交通省、気象庁が共同で、火山防災協議会設置の促進や運営の活性化を図ることを目的に、火山地域の地方公共団体と関係機関の火山防災担当者及び火山専門家を対象に「火山防災協議会等連絡・連携会議」を開催した。

国土交通省及び都道府県の砂防部局は、火山噴火に伴う土砂災害による被害を軽減するため、火山活動が活発で火山活動による社会的影響の大きい29火山を対象に、緊急支援資機材の備蓄等の平常時からの準備事項と、遊砂地、導流堤等の緊急ハード対策施設の施工、火山監視機器の緊急整備、リアルタイムハザードマップの整備等の緊急時の実施事項を定めた「火山噴火緊急減災対策砂防計画」の策定を進めており、平成26年3月までに18火山で初版が策定済みである。

気象庁は、各地の火山防災協議会において避難計画の検討や見直しと一体的に噴火警戒レベルの設定・改善を進めている(平成26年3月現在、噴火警戒レベル運用火山は30火山)。また、避難などの具体的な防災対応を促すため、地元の火山防災協議会において合意が得られた火山に対しては、噴火警報文に「避難」や「入山規制」等の用語を記載して発表することとした(平成26年3月現在、噴火警戒レベル運用30火山のうち23火山が対象)。

(4)大規模火山災害対策への提言

平成24年度に開催された有識者による「広域的な火山防災対策に係る検討会」(内閣府、消防庁、国土交通省、気象庁の共同事務局)は、大規模火山災害への備えの現状を明らかにし、大規模火山災害に備えて、今後、国及び地方公共団体が取り組むべき事項をまとめた「大規模火山災害対策への提言」を公表した(平成25年5月)。提言では、大規模な溶岩流、火砕流、融雪型火山泥流対策として避難時期と避難対象地域を段階的に設定した避難計画の策定、大規模な降灰の影響評価と対策を進めるための調査研究の推進、大規模火山災害時の国・都道府県・市町村の連携と火山専門家の協力の在り方、さらに火山の監視観測・調査研究体制の強化とそれを支える人材の育成や、組織横断的な火山専門家の連携体制の構築等の重要性が指摘された。

(5)火山災害における応急対策の方針

「大規模火山災害対策への提言」を受け、平成26年3月には、火山災害の要因となる現象(火砕流、溶岩流、融雪型火山泥流、噴石、降灰、降灰後の降雨に伴う土石流等)とその規模が多様であること等を考慮し、噴火その他の火山現象により著しい被害を受け、又は受けるおそれがある段階から、政府が実施する災害応急対策活動を示すとともに、国その他の関係機関の役割について明確にした応急対策の方針を取りまとめた(図表1-1-65)。

この方針には、噴火等の警戒段階からの政府の体制を記載するとともに(図表1-1-66)、大規模な火山災害時には、国、関係地方公共団体、火山専門家等の関係者で構成される合同会議において、火山活動に関する情報を共有し、警戒が必要な範囲の拡大、縮小、解除や住民避難の誘導その他の災害応急対策にあたり関係機関で調整が必要な事項について合意形成を図ること、また、市町村長が発する避難勧告等に関する国の支援についても記載している。

図表1-1-65 火山災害における応急対策の方針の概要

図表1-1-65 火山災害における応急対策の方針の概要

図表1-1-66 噴火警報に伴う政府の体制

図表1-1-66 噴火警報に伴う政府の体制

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.