平成26年版 防災白書|第1部 第1章 第4節 4-3 大規模土砂災害対策


4-3 大規模土砂災害対策

(1)大規模土砂災害対策の必要性

日本列島は国土の約7割が山地・丘陵地であり、急流河川が多く、地質的にも脆弱である。加えて、世界の約1割に当たる110の火山が分布しているほか、世界の約2割の地震が発生するなど、厳しい国土条件のため、全国の約9割の市町村が土砂災害の危険と隣合わせとなっている。また、台風や梅雨前線などによって豪雨が降りやすく、過去10年間(平成16年~25年)の土砂災害発生件数は年平均で約1,000件を上回っており、人命や家屋等に多大な被害が生じている。このため、特に対策の必要な重点箇所に対する砂防設備等の整備や、自助、共助、公助の適切な役割分担に基づく警戒避難体制の整備等、土砂災害による犠牲者を減らすための、ハード・ソフト一体となった効率的な土砂災害対策の推進が重要である。

大規模な土砂災害は「集中豪雨」「火山活動」「地震」等によって引き起こされる事が多い。

集中豪雨では、平成23年台風第12号による紀伊半島の豪雨で死者・行方不明者数62名、平成24年7月の九州北部豪雨で死者・行方不明者数23名、平成25年10月の台風第26号による豪雨で東京都大島町にて死者・行方不明者39名(平成25年12月31日時点)という甚大な被害が土砂災害により発生している。1時間降水量50ミリ以上及び80ミリ以上の短時間強雨や、日降水量200ミリ以上及び400ミリ以上の大雨の発生数の、長期的な変化傾向をみるといずれも増加傾向にあり、豪雨による土砂災害の発生の危険性は増加する傾向にあると言える。

平成23年台風第12号による豪雨では、紀伊半島を中心に甚大な土砂災害が発生し、多くの尊い人命が失われたほか、河道閉塞が同時多発的に発生する原因となった「深層崩壊」である。大規模土砂災害を引き起こす要因の1つである深層崩壊は、山地及び丘陵地の斜面の一部が表土層(風化の進んだ層)だけでなく、その下の基盤まで崩壊する現象である。深層崩壊は大雨、地震、融雪等をきっかけとして発生し、深層崩壊で生じた移動土塊が、そのまま土石流となって流れ下る場合や河道閉塞(天然ダム)を形成する場合などがある。深層崩壊で生じる土砂災害は、平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震や平成23年台風第12号に伴う大雨による紀伊半島における河道閉塞に見られるように、大きな被害を引き起こすことが多い。その一方で、深層崩壊の発生機構や要因は未だ解明されていない部分が多く、更なる調査研究や防災対策を進める必要がある。

平成25年10月の台風第26号により東京都大島町で発生した土砂災害では、24時間降水量800mmを上回る降雨により大量の土砂が流域界を越えて流下するなど既存計画の対象としていなかった現象や、大量の流木による被害が拡大するなど、今後の土砂災害対策に反映するための対応方針を検討するうえで、多くの教訓が残った。また、警戒避難に関しても、これまで各都道府県により土砂災害警戒区域等の指定が促進され、市町村においては情報伝達等の警戒避難体制を地域防災計画で定めてきているが、土砂災害が発生するおそれがある土地に住む住民がより適切な避難行動をとれるよう、土砂災害から住民の生命を守るための警戒避難体制の強化方法を検討していく必要がある。

火山活動では、平成12年3月の有珠山の噴火により16,000人が避難、家屋が771棟が被災し、平成12年7月の三宅島の噴火では、全島避難指示が出されるなど、大きな被害となっている。近年では、平成23年に活動が活発化した霧島山(新燃岳)において、大量の降灰による土石流発生のおそれが高まったため、既設砂防設備の除石等を緊急的に実施し、併せて砂防設備等の整備も実施中である。火山活動は火山泥流や土石流等の広域的かつ大規模な土砂災害をもたらすほか、その活動も降雨に比べ長期化する場合が多い。東日本大震災以降、火山活動の活発化の可能性が指摘されており、火山地域における大規模土砂災害の発生が懸念されていることもあり、対応策の検討が必要である。

地震では、平成16年10月の新潟県中越地震では、芋川流域において1,419箇所もの斜面崩壊が発生し、河道閉塞も55箇所発生したほか、平成20年6月の岩手宮城内陸地震では、土砂災害が48件発生し、河道閉塞が15箇所発生、平成23年3月11日の東日本大震災においては、141件の土砂災害が発生し、78名の尊い命が失われるなど、甚大な被害が発生している。地震は、斜面崩壊等を引き起こすだけでなく、地盤の状態の変化により、その後の降雨による土砂災害発生の危険性が増すなど二次災害発生の可能性も高くなる。南海トラフ地震や首都直下地震等による被害の発生及び拡大、長期化による我が国の国民生活や経済活動への甚大な影響の発生などに備えては、地震により崩壊する危険性が高く、防災拠点、重要交通網、避難路等への影響、孤立集落発生の要因等が想定される土砂災害危険箇所について、土砂災害防止施設の整備、維持管理・更新等を戦略的に推進する必要がある。

(2)大規模土砂災害対策の現状等

国土交通省では深層崩壊に関しては、平成22年8月に過去の深層崩壊発生箇所と地形・地質条件との関連を統計的に分析した「深層崩壊推定頻度マップ」を公表した。さらに、深層崩壊に関する調査の第二段階として空中写真判読等による深層崩壊の渓流(小流域)レベルの調査を進め、平成24年9月、深層崩壊の推定頻度が特に高い地域を中心に、地質条件等が同質の一定区域内における深層崩壊の相対的な危険度を示した「深層崩壊渓流レベル評価マップ」を公表した。

また、火山噴火に伴う土砂災害による被害の軽減に当たっては、砂防堰堤等の基幹的施設整備や緊急対策用資材の製作・備蓄、火山噴火時に機動的な対応を行うための訓練など、「火山噴火に備えた平常時の対策」と「火山噴火時の緊急的な減災対策」を実施している。

(3)現在の取組

国土交通省では、深層崩壊に対する今後の取組として、深層崩壊推定頻度マップにおいて深層崩壊の発生推定頻度が特に高いと評価された地域を中心に、深層崩壊の警戒避難体制の強化に向け、

  • 広域的な降雨状況を把握する雨量レーダー
  • 土砂移動により発生する振動から崩壊発生位置や規模を推測する大規模土砂移動検知システム
  • 崩壊位置の確認や規模の計測を行う衛星画像解析
等の技術を活用し、土砂災害の要因となる深層崩壊等を早期に把握し、関係機関への情報配信を行う大規模崩壊監視警戒システムの整備を推進している。

これまでも研究機関等において深層崩壊に関する様々な調査研究を実施してきたが、深層崩壊の規模や影響範囲等を事前に特定するまでに至っておらず、深層崩壊対策を検討する上での課題となっている。このため、深層崩壊対策を検討するモデル地区を設定し、深層崩壊発生時の影響範囲推定手法の研究、関係自治体と連携した警戒避難対策の検討、砂防設備の効果検証や補強手法の検討等、深層崩壊のハード対策及びソフト対策に関する検討に取り組んでいく。

既存計画の対象としていなかった現象や大量の流木に対処するためのハード対策、及び土砂災害から住民の生命を守るための警戒避難対策等のソフト対策の強化について検討するため、平成25年12月に「土砂災害対策の強化に向けた検討会」を設置し、土砂災害対策の強化に向けてハード、ソフト対策について総合的な検討をすすめる。

また、火山噴火に伴う大規模な火山泥流や降灰を原因とする土石流等の被害に対しては、危険情報の把握及び周知など、土砂災害に備えた緊急的な減災のための危機管理対応力を強化する。また、火山体内部の脆弱な地質の分布、地下水の集中状況を物理探査等により調査し、大規模土砂災害発生の可能性やその規模の推定等を進めていく。

(4)避難勧告ガイドライン(再掲)

内閣府では、平成17年に策定された「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」について、新たな防災情報が発表されるようになったことやこれまでの災害の教訓を踏まえて、学識経験者や地方公共団体、国の関係機関の意見を聞きながら検討を進め、改定作業を行い、全面的な見直しを完了させ、平成26年4月、「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン(案)」として都道府県を通じて市町村に通知し、避難勧告等の判断基準等について見直し又は設定を行うよう依頼した。また、都道府県、国の関係機関にも、市町村の見直し等に際して積極的な助言をしていただくよう、依頼した(図表1-1-63)。

このガイドライン(案)では、避難勧告等の判断基準を具体的な雨量や水位を基準として設定することでわかりやすくするとともに、市町村が発令する避難勧告等は空振りをおそれず早めに出すこととしている。今後は、ガイドライン(案)の主旨を市町村にしっかりと認識していただくよう、周知・徹底を図り、発令基準の見直しや策定が進むよう、関係機関が一体となって支援していくこととしている。

図表1-1-63 避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン(案)の概要図表1-1-63 避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン(案)の概要

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.