平成25年版 防災白書|第1部 第3章 3 3-3 大規模土砂災害対策


3-3 大規模土砂災害対策

(1)大規模土砂災害対策の必要性

日本列島は国土の約7割が山地・丘陵地であり,急流河川が多く,地質的にも脆弱である。加えて,世界の約1割にあたる110の火山が分布しているほか,世界の約2割の地震が発生するなど,厳しい国土条件のため,全国の約9割の市町村が土砂災害の危険と隣合わせとなっている。また,降水量も多いことから土砂災害が発生しやすく,過去10年間(平成14年~24年)の土砂災害発生件数は年平均で約1,000件以上であり,自然災害による犠牲者のうち,土砂災害によるものが大きな割合を占め,多大な被害を生じている。このため,特に対策の必要な重点箇所に対する砂防設備等の整備や,自助,共助,公助の適切な役割分担に基づく警戒避難体制の整備等,土砂災害による犠牲者を減らすための,ハード・ソフト一体となった効率的な土砂災害対策の推進が重要である。

土砂災害の発生要因は大きく分けて,「集中豪雨」「火山」「地震」の3つに分けられる。

集中豪雨で記憶に新しいのは,平成24年7月の九州北部豪雨であり,268件の土砂災害が発生し,死者・行方不明者数は23名という甚大な被害が生じた。1時間降水量50ミリ以上及び80ミリ以上の短時間強雨や,日降水量200ミリ以上及び400ミリ以上の大雨の発生数の,長期的な変化傾向をみるといずれも増加傾向にあり,豪雨による土砂災害の発生の危険性は増加する傾向にあると言える。

火山では,平成23年に活動が活発化した霧島山(新燃岳)において,大量の降灰による土石流発生のおそれが高まったため,既設砂防設備の除石等を緊急的に実施し,併せて砂防設備等の整備も実施中である。火山活動は火山泥流や土石流等の広域的かつ大規模な土砂災害をもたらすほか,その活動も降雨に比べ長期化する場合が多いことが特筆すべき点である。

地震については,平成16年10月の新潟県中越地震では,芋川流域において1,419箇所もの斜面崩壊が発生し,河道閉塞も55箇所発生したほか,平成23年3月11日の東日本大震災においては,141件の土砂災害が発生し,78名の尊い命が失われている。地震は,斜面崩壊等を引き起こすだけでなく,地盤の状態の変化により,その後の降雨による土砂災害発生の危険性が増すなど二次災害発生の可能性も高くなる。

上記のうち,注目すべきは平成23年台風第12号による豪雨により,紀伊半島を中心に甚大な土砂災害が発生し,多くの尊い人命が失われたほか,河道閉塞が同時多発的に発生する原因となった「深層崩壊」である。大規模土砂災害を引き起こす要因の1つである深層崩壊は,山地及び丘陵地の斜面の一部が表土層(風化の進んだ層)だけでなく,その下の基盤まで崩壊する現象である。深層崩壊は大雨,地震,融雪等をきっかけとして発生し,深層崩壊で生じた移動土塊が,そのまま土石流となって流れ下る場合や河道閉塞(天然ダム)を形成する場合などがある(図表1-3-44,1-3-45)。

深層崩壊で生じる土砂災害は,土砂災害の中でも発生頻度は低いものの,平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震や平成23年台風第12号に伴う大雨による紀伊半島における河道閉塞等,大きな被害を引き起こすことが多い。その一方で,深層崩壊の発生機構や要因は未だ解明されていない部分が多く,更なる調査研究や防災対策を進める必要がある。

図表1-3-44 表層崩壊と深層崩壊の模式図 図表1-3-44 表層崩壊と深層崩壊の模式図の図表
図表1-3-45 深層崩壊に起因する土砂災害の類型 図表1-3-45 深層崩壊に起因する土砂災害の類型の図表
(2)大規模土砂災害対策の現状等

国土交通省では深層崩壊に関する調査を進め,平成22年8月に過去の深層崩壊発生箇所と地形・地質条件との関連を統計的に分析した「深層崩壊推定頻度マップ」を公表した。さらに,深層崩壊に関する調査の第二段階として空中写真判読等による深層崩壊の渓流(小流域)レベルの調査を進め,平成24年9月,深層崩壊の推定頻度が特に高い地域を中心に,地質条件等が同質の一定区域内における深層崩壊の相対的な危険度を示した「深層崩壊渓流レベル評価マップ」を公表した(図表1-3-46)。

図表1-3-46 深層崩壊推定頻度マップ及び深層崩壊渓流レベル評価マップ 図表1-3-46 深層崩壊推定頻度マップ及び深層崩壊渓流レベル評価マップの図表
(3)現在の取組

国土交通省では,深層崩壊に対する今後の取組として,深層崩壊推定頻度マップにおいて深層崩壊の発生推定頻度が特に高いと評価された地域を中心に,深層崩壊の警戒避難体制の強化に向け,

  • 広域的な降雨状況を把握する雨量レーダー
  • 土砂移動により発生する振動から崩壊発生位置や規模を推測する大規模土砂移動検知システム
  • 崩壊位置の確認や規模の計測を行う衛星画像解析

等の技術を活用し,土砂災害の要因となる深層崩壊等を早期に把握し,関係機関への情報配信を行う大規模崩壊監視警戒システムの整備を推進している(図表1-3-47)。

図表1-3-47 大規模崩壊監視警戒システム 図表1-3-47 大規模崩壊監視警戒システムの図表

また,これまでも研究機関等において深層崩壊に関する様々な調査研究を実施してきたが,深層崩壊の規模や影響範囲等を事前に特定するまでに至っておらず,深層崩壊対策を検討する上での課題となっている。

このため,深層崩壊対策を検討するモデル地区を設定し,深層崩壊発生時の影響範囲推定手法の研究,関係自治体と連携した警戒避難対策の検討,砂防設備の効果検証や補強手法の検討等,深層崩壊のハード対策及びソフト対策に関する検討に取り組んでいく。


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